白井審議委員記者会見(2015年6月3日)要旨
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§1Question
本日の懇談会を終えて、参加者の皆さんの発言も踏まえて、三重県の景気の現状と先行きの見通しについて、ご見解をお伺いします。
§2Sayuri Shirai
今回、当地の経済界、金融界を代表する方々から、地域経済の現状に関する貴重なお話や、金融政策運営に関する率直なご意見を数多く頂き、極めて有意義な意見交換ができました。こうした機会を頂き、ご出席頂いた方々や関係者の皆様に御礼を申し上げます。そうした意見交換も踏まえて、当地の景気動向について申し上げますと、足許の三重県をはじめとする東海3県の景気動向は、私どもの名古屋支店が判断している通り、「着実に回復を続けている」とみています。すなわち、輸出・生産が緩やかに増加する中、企業部門では、好調な企業収益のもとで、設備投資が増加を続けているほか、家計部門でも、雇用者所得の改善を背景に、個人消費が持ち直しています。このように、企業・家計の両部門で所得から支出への前向きの循環メカニズムが働いています。循環メカニズムは、全国と同様ですが、当地においてはよりしっかりと働いているように思います。本日の懇談会に出席頂いた方々も、景気全体については、概ね同様の認識でありました。その上で、景気回復の実感という点では、業種や企業規模などによるばらつきがみられるとのご意見も聞かれたところです。また、人手不足の問題や円安に伴う仕入価格の上昇などが、当面の経営上の課題であるとのお話もありました。
§3Sayuri Shirai
その上で、今後の東海3県の景気の見通しについては、所得から支出への好循環が持続するもとで、着実に回復が続いていくものとみています。その際、当地の場合、自動車や電子部品デバイスなど輸出関連企業が数多く集積している地域であるだけに、海外経済の情勢等について注視していく必要があると思います。なお、本日の懇談では、世界最先端の技術力を有する製造業や、魅力に富んだ様々な名所・旧跡や豊かな自然を擁する観光産業、人口減少への対応のあり方なども話題となりました。お話を伺う中で、当地の産業の多様性やポテンシャルの高さを改めて認識した次第です。また、こうした強みを活かした地域経済の活性化に向けた様々な取り組みを伺い、非常に心強く感じています。さらに、地域金融機関の方々からは、ビジネスマッチングによる取引先の販路拡大や事業承継・M&A支援などの施策に取り組んでいるとの話をお伺いしました。こうした金融機関の取り組みとも相俟って、当地の経済が今後、一段と活性化していくことを期待しています。私どもとしましては、名古屋支店を通じて、引き続ききめ細かくご意見などを伺いながら、当地関係者による三重県経済の発展に向けた取り組みを、中央銀行の立場から、しっかりとサポートしてまいりたいと思います。
§4Question
三重県では、一昨年に伊勢神宮において、式年遷宮という大行事を終えたばかりであり、観光業をはじめとして、あらゆる場面において、ポスト遷宮が今後の課題になっています。そこで、観光業の振興なども踏まえまして、三重県経済の活性化に今後必要な方策について、もしご見解があればお伺いしたいと思います。
§5Sayuri Shirai
三重県では、高齢化が進展する中で、全国を上回るスピードで人口減少が進行しています。こうした状況を踏まえますと、働き盛り・子育て層の人口流入を促していくためにも、企業と行政・金融機関等が連携を深めながら、地域の産業の高付加価値化を図るなど、踏み込んだ施策の実行が求められていると思います。実際、当地ではこうした課題を踏まえ、様々な取り組みが行われていることを今回の訪問で改めて認識しました。本日の懇談でも、人口減少への対応策の検討のほか、魅力に富んだ様々な名所・旧跡や自然を活かした観光産業の育成、産業構造の多様化・強靭化に向けた航空宇宙産業の振興などに取り組まれているとのお話をお伺いしました。日本銀行としては、現在の緩和的な金融環境のもとで、観光を含む幅広い分野で日本銀行が提供している成長基盤の強化を後押しするための仕組みが有効に活用されることによって、地域経済の活性化が進むことを期待しています。
§6Question
本日の懇談会についてお聞きします。日本語の挨拶要旨では 11 ページに、金融政策運営について以下のような発言があります。「物価の基調が大きく弱まるような下振れリスクが顕在化する場合には、金融政策による対応を検討する余地があると思いますが、現時点ではそのような蓋然性は低いと、私は考えています」と。これが、同時に公表された英語版の方では、「金融政策による対応を検討する余地がある」という部分が、「I would not hesitate to consider some monetary policy actions」となっています。「not hesitate to consider」ということなので、検討することを躊躇しない、躊躇せず検討する、ということだと思います。この日本語の表現は、追加緩和に対してやや受け身な印象を、これを英語で言えばパッシブな印象を与えると思うのですが、英語の方の「not hesitate to consider」というのは、より能動的な印象、英語で言えばプロアクティブな印象を与える表現になっています。日本の大学の入試で、この文章を日本語から英語に、あるいは英語から日本語に直せ、という問題が出たとしたら、これは不合格になるんじゃないのかと思います。
§7Question
白井先生が採点したら、もしかしたら合格になるのかもしれませんが、この金融政策運営の非常に重要なメッセージで、日本語と英語がこれほど大きく異なる背景についてちょっとお聞かせ頂けますでしょうか。
§8Sayuri Shirai
私は、これまで海外でも講演をたくさん行っていますが、私が常に重視しているのは、同じ意味・同じことを伝えるのですが、英語あるいは日本語の持っている言葉の流れを重視して、読み手にとって読みやすい書き方にするようにしています。ですから、私の講演原稿は、これまでのものも見て頂ければお分かりのように、逐語訳はしておりません。その上で、今おっしゃった日本語の表現と英語の表現について、ご質問されている方は、日本語の方が受け身に取れるという印象をお持ちになったということですが、私はそのような違いがあるとは全く思っておりません。ですので、もしそのような表現の違いというような誤解があるのであれば、この場をもって、全くそういう違いは一切ありませんということを明確にお伝え致します。
§9Question
そうすると、要は、日本語の方が正しいのか、それとも英語の方が正しいのでしょうか。違いがないという割には、随分表現が違いますし、私だけではなく、市場の人たちも、これは明らかに意味が違うと言っております。そういう意味では、どちらがよりおっしゃりたいことに近いのかということを、英語でも結構ですし、日本語でも結構ですし、お伝え頂けますでしょうか。
§10Sayuri Shirai
私は違いがあるとは思っていません。私は、必要があれば、何らかの金融政策対応は考え得るということを言っており、「しない」という否定は一切しておりません。そういうことが必要な時期には──そういう判断がなされるのであれば──、何らかの対応を考えるという点では全く違いがありません。ただ、現時点ではそのような蓋然性が低いと言っているところも、英語も日本語も全く同じです。
§11Question
三重県をはじめ東海経済に対する円安の影響についてお伺いしたい。最近円安が一時的に急激に進んでいるかと思うのですが、それに対して、製造業が盛んな三重県はじめ東海地方にとって、円安のメリット・デメリットとして、どのようなものがあるとお考えかというのと、製造業以外――例えば消費者家計について――で円安がどのように影響が出るとみられていますでしょうか。さらに、もし可能なら、今後、この円安傾向がこの先どうなるとお考えでしょうか。よろしくお願いします。
§12Sayuri Shirai
まず最初に申し上げたいことは、私たちが金融政策を行うときに、私たちのマンデートであり、私たちが目標としているのは、2%の「物価安定の目標」と持続可能な成長を伴いながら2%という緩やかなインフレ社会を実現するということです。為替をターゲットにはしておりませんので、私たちがあるターゲット水準を目指しているというわけでもございません。従って、為替の方向性を言うのは誤解を与えますので、差し控えたいと思います。ただ、企業の方々からは、やはり急激な為替の変動については困る、というような意見を何人かの方から伺ったことは事実ですし、その点は注視していきたいと思います。
§13Question
先程のお話の中で、他の都道府県に比べて、東海3県の方は、非常によく働いていらっしゃるように感じられましたと、おっしゃいましたけれども、どんなことをご覧になって、そのようにお感じになったのでしょうか。よろしくお願いします。
§14Sayuri Shirai
それはおそらく金融緩和の効果のことだと思いますけれども、三重県では、産業が北部を中心に製造業が集中しています。そこに対して、以前は、行き過ぎた円高が長く続きましたから、そういう意味で、金融政策の効果がしっかり「働いている」、つまり、私たちが言う家計と企業の好循環というのは、まず企業の収益が増えて、それがまた前向きな設備投資に向かうこと、家計の場合には、賃金の上昇となって、それがまた前向きな消費に向かうと、そのような効果がよりしっかり出ていると申し上げたのです。
§15Question
2 点お伺いいたします。1 点目は午前の懇談会ですが、ご自身の物価の見通しについて、2016年度末に2%に近付くとご紹介されており、一方、先の展望リポートの議論では、2%の達成時期について、「2016年度を中心とする期間」とのご提案を白井委員はされていますけれども、やはり 2016年度末に 2%に近付くということであれば、2%の達成時期というのは 2017年度になると思います。このご提案の内容と講演発言の整合性をどのように考えればよいのか教えて下さい。また、その関連で金融政策運営ですが、挨拶の内容を拝読しますと、金融政策については、今後、余程の下振れがない限り、追加緩和は不要との印象を受けたのですが、先程の質問との関連で 2017年度までの見通し期間中に 2%達成が展望できるような状況が確保されるのであれば、達成時期が現在よりも後ずれしても、追加緩和不要とお考えになるのか。また、仮に今後追加緩和不要となる場合、どういうケースをイメージしておられるのか。
§16Sayuri Shirai
私の見通しは、おっしゃったように 2016年度の末に 2%程度に近づいていくということで、2017年度にそれを少し下回る水準という見方です。私は、総意として、どういう表現が適切なのかということで提案しました。その理由は、挨拶要旨にも書いてありますが、「2016年度の前半頃」とするよりは、「2016年度を中心とする期間」の方が、総意としても、表現がよりフィットしているのではないか、ということです。それには、2 つ理由があり、物価の下振れリスクが高いと日本銀行の基本的見解として書いているわけですから、下振れリスクが高いのに半年程度の範囲で実現するという見通しとは合わないのではないか。下振れリスクが高いのであれば、より大きなタイムスパンを持った方が妥当ではないかというのが 1 つ。もう 1 つは、その非常に狭い半年程度の期間に2%程度が達成できるというような表現にしてしまうと、金融政策の柔軟性が削がれるのではないかと思いまして、総意として、より適切な表現は「2016年度を中心とする期間」ということで提案しました。なお、その表現の中で、私の見方ですが、今申し上げましたけれども、この見通し期間の間に2%の達成の可能性を完全に排除しているわけではないので、概ねこの表現の中に入ると考えております。
§17Sayuri Shirai
それから、追加緩和の可能性についてですが、追加緩和が必要かどうかというのは、やはり2%程度の達成に向けたその道筋がどうか、ということで判断するべきと思っています。昨年10月の場合には、明らかに需要が相当弱まっていて、家計、企業のマインドも悪化していて、そういう中でやはり追加緩和が必要だと判断しました。インフレ予想も下落するものも多かったので、そういたしました。現在は、昨年10月に行った追加緩和からまだ1年も経っておりませんので、その緩和効果が徐々に今出てきていると思いますから、それを見極める時期だと思います。それとともに、1月~3月のGDPが公表されて、日本銀行の推計では需給ギャップはプラスの方向で改善していると思います。それから、インフレ予想も下落していたものが概ね横ばいになってきていますし、これから物価の基調は名目賃金、実質賃金の上昇とともに高まっていきます。今もう既に家計のマインドも改善し、企業のマインドも改善し、設備投資も前向きな動きが出てきているわけですから、物価の基調は高まっていくと思います。従って、今は物価の基調が高まっていくことを確認する時だと思いますので、現在は現状維持でよいと思っています。その上で、追加緩和を絶対にしないのかと言えば、絶対にしないとは言っていません。
§18Sayuri Shirai
どういう場合に追加緩和かと言えば、当然──繰り返しになりますが──、2%の達成に向けた道筋が明らかに逆方向に向いているという場合です。例えば、様々なあらゆる予想物価上昇率が低下している、企業では新しいよりイノベーティブな財・サービスを提供して適正価格で提供しようという前向きな行動が今出ていますが、それが逆行してしまって再び 2012年の時のようなディスカウント競争になってくる、家計もディスカウントに走る、そういう行動が明らかに出てくる、その背景には当然需要の減退、需給ギャップの悪化、賃金の低下があると思いますが、そういうものが出てきたら、金融政策として何ができるのかを検討するのは当たり前のことです。そういう状況があるのであれば、検討するべきだと思いますが、私の見通しでは、その蓋然性はかなり低いと、今はみているということです。
§19Question
2%の物価上昇目標の達成時期について改めて伺いたいのですが、日銀がこれまで言っているのが「2016年度前半頃」という言い方をされていて、今日の講演では改めて「2016年度末頃」という言い方をされていました。そこは、「前半頃」というところに含まれているのかもしれないですけど、敢えてその「2016年度末」という言い方をされているのは、やはり公式見解である「2016年度前半頃」というこの時期の達成が難しいというふうなお考えということなのでしょうか。また、その理由について、改めて聞かせて頂けますでしょうか。
§20Sayuri Shirai
私は 2013年に「量的・質的金融緩和」を始めたときから主張を変えていません。元々、2%に向けた物価上昇には時間がかかるという考え方を持っています。その理由は、15年のデフレが続きましたから、家計がマイルドなインフレに慣れていくのにやはり時間がかかります。それから、今回の挨拶要旨でも説明しているように、家計が物価上昇を前向きに捉える必要があるわけです。今は、どちらかというと、物価上昇が起きると、家計の予算がタイト化してしまうので、望ましくないと捉える傾向がありますが、そういう状況が変わっていくには、賃金が現在上昇するだけではなくて、今後も上昇していくという見通しが立つことが大事です。賃金というのは、これは企業が決定するものであって、日本銀行がそれほど影響を与えられるものではないですし、昨年は名目賃金は上がりましたけど、実質賃金はマイナスになり、今年ようやくプラスになる見込みです。従って、賃金が着実に上がっていくのは、やはり時間がかかるわけです。そうなれば、家計の物価の上昇を容認する姿勢も徐々に改善してきますし、家計の物価上昇を容認する姿勢が高まってくれば、企業も価格転嫁をしやすくなるというメカニズムが働いていくと思いますので、やはりそれは現実的にみて時間がかかるということを、私は 2013年から申しています。
§21Sayuri Shirai
ただ、その上で、私の 2%の達成時期について、若干、昨年10月に比べて後ずれしているは、消費税の引き上げの影響が予想以上に大きかったことと、挨拶要旨にも書いてありますが、それ以外の需要を下押しする逆風があったこと、それから原油価格の低下があったということですが、時間がかかるという理由は、2013年から変わっていません。その上で、日本銀行の基本的見解で、2%の達成時期を 2016年度前半としている中に私は含まれていません。私は 2016年度の末にかけて近付くという見方をしています。先程申しましたように、「2016年度を中心とする期間」というのは、総意を表す表現として、より適切ではないかということで、私個人の表現ということではなく、提案したということです。
§22Question
今のお話と絡むのですが、家計が物価上昇を容認するには時間がかかるということで、昨日発表された毎月勤労統計ですと 4月の実質賃金は+0.1%になりました。これは、結局物価が下がっているので、名目が下がらなければ実質が上がったということかと思います。その中で現在円安が進んでいて、製造業には確かにプラスなのでしょうけれども、円安から来る輸入物価上昇で、足許結構食料品が上がっていて、それによって家計の支出が削減されたり、マインドにも影響していると思うのですけど、現状の、というか先行きのさらなる円安のポジティブの影響とネガティブの影響をみたときに、どちらの方が勝ると現状でみていらっしゃるのでしょうか。円安が進むと家計にはマイナスの影響が大きいかと思うのですが、その辺をお伺いしたいです。
§23Sayuri Shirai
為替の円安の良い、悪いということは、私は申し上げる立場にはないので、それについてのコメントは避けたいと思います。重要な点は、例えば実質賃金は3月までずっと下落していましたが、家計マインドはもう 12月から改善し始めています。12月、1月、2月、3月と結構改善してきて、4月は横ばいになりましたけれども、家計のマインドは改善してきています。なぜ実質賃金がマイナスでも家計のマインドが改善したのかといえば、これは3 つ理由があると思っています。1 つは、雇用の改善が明確だということです。例えば年金の受給者の方は確かに物価が上がると、実質年金給付額が目減りするので苦しいということはあります。しかし、今は 65 歳以上の方でも、たくさんの人が労働市場に参加して働いています。これはあまり他の先進国ではないことです。まだ、欧州、米国では労働市場にスラックがあるからです。しかし、我が国は人手不足になっていますので、65 歳以上の人でも今ではかなり働けるような時代になってきています。ですから年金が少ないのであれば、働いてそれを補うこともできますし、もし家計で収入が少ないのであれば、今まで家事に従事されていた女性の方も、労働市場で喜んでみなさんが採用したい、そういう時代に入ってきているわけです。ですから、雇用の改善が家計のマインドに大きく影響してきていると思います。
§24Sayuri Shirai
それから、2 つ目は、株高と円安が――これは円安のプラスの効果になるかもしれませんが――あることによって、機関投資家だけではなくて、他の金融機関もそれから個人投資家も資産が増えたと思います。その結果、今、 NISAの開設口座もそうですし、回転率も上がっているように、多くの個人の投資家がより前向きに自分の資産運用を考えるようになっています。高齢の方達も余資がある人達は運用に積極的になっています。それが家計のマインドとか収入の補足にもなるわけでプラスに働いていると思います。もう 1 つは、15年間のデフレの後に、2013年からインフレになり、それに消費税の引き上げによる大きな物価上昇になって最初は物価ショックがあったと思います。けれども──もちろん、物価上昇の負担はありますし、人によって違いがあるとは思いますが──、その一方で前向きに受け止める行動も出てきているのではないでしょうか。例えば、今消費者の方は、よい物にはそれなりの価格を払ってもよいという人達が増えています。よい質の物にはそれだけのものを払おうと。企業もそれをみて、新しいサービスや財を提供して適正価格を提示するという前向きな行動が出てきているわけですから、物価が上がること自体、全部が悪いという感じではないと思います。そういうふうに今は段々と皆さんが慣れてきている過渡期にあるわけです。
§25Sayuri Shirai
円安によってプラスの効果とマイナスの効果があるのは、それはその通りですけれども、もっと全体をみたときに、2012年に比べて今の我が国経済はどうなのかと言えば、総じてみればよくなっていると思います。重要な点は、 QQEがもたらした効果というのは、私は2 つあると思います。1 つは、2012年までは非常に行き過ぎた円高で大変なデフレ圧力があったと思います。例えば、製造業では競争力を維持するために円建ての輸出価格をすごく下げようとして、下請けの方など多くの方が大変なコスト削減を必要としました。しかし、そういう形の無理なコスト削減はかなり減っていると聞いています。ですから、デフレ圧力は相当緩和されたということです。もう1 つは先程の繰り返しになりますが、健全なリスクテイクが少しずつ起こってきています。企業も株価が上がっていて、それに見合うだけの収益を上げようと思っていますし、ガバナンスを改善しようとみんなが取り組んでいます。QQEを始めてからもっと地方の創生、地方の活力を高めるために積極的に、地方銀行もメガバンクも取り組んでいます。そういう姿勢が 2012年にあったでしょうか。また、先程申し上げましたように、個人投資家も、少し資産運用に前向きになってきていますし、あらゆる人たちがより健全なリスクテイクをするようになってきていて、そういう前向きな姿勢があります。
§26Sayuri Shirai
これらの変化が重要なわけですから、もちろん、その過渡期にはより恩恵を受ける人と受けない人というのがありますけれど、やはり総じてみればプラスの効果が出ていると思いますので、そういったところをみながら、少しずつプラスの効果が日本経済に広がっていくのではないかと私はみています。
§27Question
重ねて恐縮ですが、今日の懇談会の中でおっしゃられた物価の達成時期についてお尋ねします。白井委員が「2016年度末に 2%程度に近づき」という表現でおっしゃられたと思うのですが、ちょっと穿った見方かもしれませんが、2016年度中に2%程度を達成しないということも許容していらっしゃるのか、物価の基調が変わらないのであれば、それでいいのかどうか、ということをお尋ねしたいと思います。
§28Sayuri Shirai
私の説明としては、2%程度に近づく時期が 2016年度の末という見方をしております。それは後ずれをしているのは事実です。その理由は先程も申しましたように、原油価格の下落と、それから想定以上の消費税の影響と、それ以外の需要を下押しする要因が同時に起きたということが大きいのです。ただ、その上で、これから色々なことが起こりうるので、2%の達成を完全に排除するものではないと、やはり思っています。今はどちらかというと、追加緩和を昨年10月にやったので、その効果を見極める時期だと思っています。それと物価の基調がこれから強くなっていくと思っていますので、それをしっかり確認したいと思っています。そういった効果を見ながら、それも反映して、2016年の末に 2%程度に近づくとみていますけれど、絶対に達成ができないというような程のことではないと思います。そこはある程度の柔軟性を持ってみていきたいと思っています。
§29Question
先程、消費税の影響が大きかったという話があったのですが、また 2017年に 10%への引き上げが検討されていると思うのですが、これのインパクトをどのようにみてらっしゃるかというのが1点と、物価の見通しでは 2016年度末に 2%に近づいて、ただ、2017年度は 2%を幾分下回る水準だということなのですが、これも消費税の影響というものをかなり色々と見込んでこういった見通しになっているのかを伺いたいと思います。
§30Sayuri Shirai
2017年度の成長率は日本銀行の中央値で 0.2%ということで、物価の見通しも中央値でも 2%を下回るというのは、消費税の影響があるかと思います。ただ、2014年度の影響がそのまま 3 分の 2──3%から2%ですから──、そのままそっくり3 分の 2 の影響が 2017年度に起きるというふうに考えるべきなのかというと、私は必ずしもそうは思っておりません。確かに挨拶要旨では、2017年度の成長率は下振れの方向に大きいと、私自身の見解として書いていますけれども、先程も申し上げましたように、もしかしたら、消費税の引き上げの環境がかなり変わっている可能性があると思います。1 つは、それを見極めた方が良いと思います。なぜならば、元々は、消費税引き上げの影響が 2014年4月から出始めて 2015年3月に終わり、また 10月から出始めるということですと半年間しかないので、その時に物価の基調が本当に強くなっているかどうかは分かり難かったと思います。ところが今回は2年間空きますので、その間、基調が本当にしっかりしているかどうかを判断することができます。この間、実質賃金は、明らかに現金給与総額で出ていますように、4月にはプラスになっていますし、これから段々その効果も出てきて、もう少しプラスになってくると思います。
§31Sayuri Shirai
そうしますと、家計は、段々自分の収入が結構増えているなと実感する人たちも増えてくると思いますので、そういったものはマインドに反映されてきます。それから資産効果とかも考えますと、状況は、2017年度は、2014年度の時よりはもう少し違っている可能性があるかなと思います。先程申しました通り、雇用が改善しているし、株高と円安による資産効果があること、それから、価格ショックはありましたけども、段々価格が上がることによって、良い品質の財・サービスも提供されているので、そういうプラスの面もあるということを、消費者が感じるようになっており、まず消費者の行動が少し変わってきているということが第 1 点。第 2 点は、昨年10月に、追加緩和をしたわけです。その効果は出てきていると思いますので、それをしっかり見ていく必要があるということと、それから2017年度までには、政府も構造改革を進めていきますし、それから企業も今、収益力を高め、生産性を上げようという意欲が高まっていますから、そういう相乗効果があれば、2017年度は2014年度に比べれば、もう少し、消費税の引き上げに対して、前向きに対処できる環境が整っている可能性もあると思います。従って、同じような打撃にならない可能性はあると申し上げたいと思います。
§32Sayuri Shirai
今、私は物価も成長率も 2017年度は慎重にみていますが、それはやはりこれから物価の基調がどれくらい強くなっているかにもよりますので、私の予想が、妥当なのかどうかをこれからデータでしっかり見極めていきたいと思います。以上