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Bank of JapanPress conferenceJun 19, 2015Haruhiko Kuroda, Governor

総裁定例記者会見(2015年6月19日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

今回の決定会合の決定内容について、背景も含めてご説明下さい。

§2Haruhiko Kuroda

本日の決定会合では、「マネタリーベースが、年間約 80 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」という金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。資産買入れに関しても、長期国債、ETF、J-REITなどの資産について、これまでの買入れ方針を継続することを賛成多数で決定しました。わが国の景気についてですが、企業部門では、収益が過去最高水準まで増加していることなどを背景に、前向きな投資スタンスが維持されています。家計部門については、雇用・所得環境の着実な改善が続き、マインド面の改善も明確になる中、個人消費が底堅く推移し、住宅投資も持ち直しつつあります。このように、企業部門・家計部門ともに、所得から支出への前向きな循環メカニズムは、しっかりと作用し続けていると考えています。従って、景気の総括判断としては、「緩やかな回復を続けている」としました。項目別にやや詳しく申し上げると、海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復しています。輸出は持ち直しており、先行きも、海外経済の回復や円安による下支え効果などを背景として、振れを伴いつつも、緩やかに増加していくとみられます。設備投資は、企業収益が改善する中で、緩やかな増加基調にあります。雇用・所得環境をみると、労働需給は着実な改善を続けており、雇用者所得も緩やかに増加しています。

§3Haruhiko Kuroda

そうしたもとで、個人消費は、底堅く推移しており、住宅投資も持ち直しつつあります。この間、公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じています。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は持ち直しており、先行きは、振れを伴いつつも、緩やかに増加していくと考えられます。わが国の金融環境は、緩和した状態にあります。企業の資金調達コストは低水準で推移し、企業からみた金融機関の貸出態度は改善傾向が続いています。銀行貸出残高は、中小企業向けも含め緩やかに増加しています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、 0%程度となっています。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇していると判断されます。わが国経済の先行きについては、緩やかな回復を続けていくと考えられます。物価面では、消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面 0%程度で推移するとみられますが、物価の基調が着実に高まり、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、「物価安定の目標」である 2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。2%程度に達する時期は、原油価格が現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016年度前半頃になると予想されます。

§4Haruhiko Kuroda

リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられます。金融政策運営については、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、今後とも、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続します。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行っていくという方針に変わりはありません。また、本日の金融政策決定会合では、金融政策に関する審議と情報発信の一層の充実を図るため、金融政策決定会合の運営について、以下の見直しを行うこととしました。これらの見直しについては、関連政令の改正を条件に、2016年1月から実施します。第1 に、四半期ベースの経済・物価見通しに基づいて政策決定を行うため、展望レポートの公表をこれまでの年2 回から年4 回に増やします。また、政策委員の経済・物価見通しに関する情報をより充実したものとするため、全ての委員についてそれぞれの見通しとリスク評価を公表します。第2 に、早期の情報発信の一環として、決定会合における「主な意見」を作成し、会合終了後 1 週間を目途に公表します。

§5Haruhiko Kuroda

第3 に、年4 回の展望レポートの公表と、その間の情勢変化を踏まえて経済・物価情勢を議論する必要性から、金融政策決定会合を年8 回開催することとします。なお、金融経済情勢が急激に変化した場合には、これまでと同様に、臨時の金融政策決定会合を開催して機動的に対応します。これらの見直しによって、政策決定の基礎となる経済・物価見通しを、より高い頻度でより詳しく示すとともに、会合後速やかに会合における「主な意見」を公表することとします。このように、四半期毎に、経済・物価見通しを公表した上で、その中間の会合を含めて、金融政策を決定する会合を年8 回開催し、会合終了後は速やかに情報発信を行うという枠組みは、近年、主要中央銀行で主流となってきているものです。

§6Question

今おっしゃった後段の運営の見直しについてお聞きします。グローバル・スタンダードとのことですが、これまでのやり方に具体的に何か問題があったのか、例えば、議論の形骸化が起こっていたとか、マーケットの誤解を招くことがあったとか、あるいは職員の負担の問題なのか、具体的な不都合として、どういうものがあったのかお伺いします。併せて、日銀の独立性というのは、政策決定の透明性や説明責任と裏腹なものだと思いますが、今回、会合を減らして、総裁の会見の回数も減ることで、そういったものが脅かされることはないのかどうか、ご認識をお伺いします。

§7Haruhiko Kuroda

先程申し上げました通り、今回の運営の見直しは、金融政策に関する審議と情報発信の一層の充実を図るために実施するものです。まず第1 に、展望レポートを年4 回公表するということ、そして、全ての政策委員の個別見通し・リスク評価の公表によって、政策決定の基礎となる経済・物価見通しを、より高い頻度でより詳しく示すということになります。第2 に、これまで同様に議事要旨を公表することに加えて、会合における「主な意見」を1 週間後を目途に公表するということによって、会合における議論の内容を早期に情報発信するということになります。先程申し上げたように、四半期毎に、経済・物価見通しを公表した上で、その中間の会合を含めて、金融政策を決定する会合を年8 回開催して、会合終了後は速やかに情報発信を行うという枠組みは、近年、主要中央銀行で主流になってきているものです。この見直しによって、年8 回の決定会合のもとで、金融経済情勢の変化に対応しながら、経済・物価見通しをベースに充実した議論が行われると考えています。主要中央銀行において、年8 回、金融政策決定会合を実施するのが、一種のグローバル・スタンダードとなってきているのも、こうした認識が前提となっていると思います。金融政策決定会合の回数とその内容については、適切な回数というのが一番望ましいと思います。

§8Haruhiko Kuroda

回数が多ければ多いほどいいというわけでもないし、少なければ少ないほどいい、というわけでもありません。適切な経済情報に基づいて、委員の方々が経済見通しを議論し、またこれを公表するということを踏まえて、金融政策についての掘り下げた議論・決定を行うということかと思います。これまで何か重大な問題があったということではないと思いますけれども、今申し上げたような改善をすることによって、より情報発信が積極化し、金融政策に関する審議も一層深まったものになると考えています。従って、説明責任という意味では、一層高度なものになると考えています。なお、先程も申し上げましたが、金融経済情勢が急激に変化した場合には、これまでと同様に、臨時の金融政策決定会合を開催して機動的に対応するということになると思います。これは諸外国の場合も同じです。

§9Question

先日国会で実質実効レートについて、「さらに円安になることはありそうにない」と発言されて、マーケットがかなり大きく動く場面がありましたが、その真意について今一度お聞きしたいと思います。また、その発言をなさった時に、「どんどん円安が進めば経済にプラスになるわけでもない」という趣旨のこともおっしゃっていたと思います。円安が日本経済に与える影響、働きかけるメカニズムのようなものが、過度な円高の修正局面と足許の局面とで、何か変化してきているのか。その辺りについてお伺いできればと思います。

§10Haruhiko Kuroda

先日の国会質疑では、実質実効為替レートについて質問がありました。それに対して私からは、実質実効為替レートは、確かに 1980年代半ばと同程度の水準になっているとの事実を申し上げました。このところの名目為替レートの水準や先行きについて何か申し上げたものではなく、そういった趣旨は、国会答弁でも明確にしたところです。為替レートが円安に振れた場合の影響については、経済のセクターや企業規模、その他の色々な状況によってプラスの影響を受ける部分と、マイナスの影響を受ける部分と色々あるわけですが、何よりも重要なことは、為替レートが、経済のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましいということであり、そうであれば、経済に全体として悪い影響を及ぼすことはない、そうした考え方に変わりはありません。現状の為替の水準や、これがどちらに向くか、あるいは円安に向いた時の効果等について、具体的に申し上げることは差し控えたいと思いますが、基本的に為替レートについては従来から申し上げている通りです。実質実効為替レートの議論はこれまであまり出たことがなかったのですが、国会でご質問がありましたのでお答えしました。

§11Haruhiko Kuroda

ご承知のように、実質実効為替レートというのは 2 国間の名目為替レートの動きと、多国間の貿易関係、さらには物価上昇率の差を勘案した非常に複雑な概念であり、複雑な計算に基づく数字でありますので、その解釈は必ずしも容易でありませんし、何よりも、これによって名目為替レートの今後の動きを占うことはできないと思います。

§12Question

円安について 2 点お伺いします。総裁は常々、金融政策の目的というのは物価の安定であるとおっしゃっていますが、最近の円安の進行が金融政策の柔軟性を低めていることはないのか、総裁の国会でのご発言を受けて、追加緩和観測も市場で後退したりしておりますので、確認も含めて、その点についてお伺いしたいというのが 1 点です。もう1 点は、日銀では、実際の物価上昇率が高まることがインフレ期待を押し上げることにもつながると整理していると思うのですが、円安は、色々なコスト高で、消費やそういったものに影響があると思います。円安による物価上昇であっても、インフレ期待を高めることにつながっていくのか、この点をどう理解するのか教えて下さい。

§13Haruhiko Kuroda

そもそも、金融政策は、ご指摘のように物価の安定を目指したものであり、為替レートの水準や変動を目標にしているものではありませんし、そういったものを動かすために金融政策をやっているということは全くありません。その上で、金融政策の違いが為替レートに影響を与え得るということは事実ですが、他方で、為替レートの動きは様々な要因によって左右されますので、一概に言うことはなかなか難しく、為替の現状の評価や先行きの見通しを金融政策当局にお聞きになられても、私どもの目標でもありませんので、何とも申し上げかねます。その上で、ご指摘の2 つの質問についてですが、まず、これまで進んできた円安が、金融政策の柔軟性に何か障害を与えるとかそういうことはございません。金融政策はあくまでも物価の安定を目標としているものです。2 番目の、円安がインフレ期待に与える影響という点は、理論的にも実証的にも容易なことではありません。インフレ期待に対する期待形成がどのように行われるかということについては、適応的な期待形成であるとか、あるいはいわゆる合理的期待形成というか、様々な情報を全て踏まえて、期待は形成されるという考え方もあります。具体的には、バックワード・ルッキングかフォワード・ルッキングかという議論があり得るわけです。

§14Haruhiko Kuroda

その上で、実際に起こっている物価の動きが、原油価格の影響によるのか、為替レートの影響によるのか、あるいは需給ギャップやその他の影響によるのか、色々な要素があり得ると思いますが、何かそれらによって、特に、区別する必要があるかどうかというのは、議論のあるところだと思います。おそらく、エコノミストや経済学者は、一次産品の価格や為替の動きの影響は一時的なものであり、どこまでも原油価格が下がっていくとか、あるいは食料品の価格が上がっていくとか、そういうことは普通考えられないので、一次産品の価格や為替レートというのは、物価上昇率には影響を与えるものの恒常的な影響は与えず、だとすれば、期待物価上昇率にも大きな影響を与えないのではないか、という議論をすると思います。その理論、理屈も分かりますが、絶対にそうかと言われると、そこは、昨年10月31日に「量的・質的金融緩和」を拡大したのは、足許で消費が弱かったということに加えて、何よりも原油価格が大幅に下落し、当分下落が続く、それが消費者物価の上昇率をどんどん下げていく、それが期待物価上昇率に影響があるかもしれない、そうなると、せっかく進んできたデフレマインドの払拭に向けた動きが止まってしまう、あるいは逆流するかもしれないという懸念があったために、それが現実化しないように行ったわけです。

§15Haruhiko Kuroda

その結果として、その後の状況をみますと、幸い、現在、インフレ期待、予想物価上昇率は安定しており、消費者物価の上昇率は、昨年4月の 1.5%から、9月頃に 1%くらいになり、足許で 0%程度になっていますが、予想物価上昇率は下がっていません。これは、「量的・質的金融緩和」の拡大の効果もあった、と私どもは思っていますが、あるいは、石油価格の下落というものは一時的なものであると物価上昇期待を形成する方々が思ったのかもしれません。いずれにしても、これはそう一概に割りきって言えるものではないと思いますが、これまでの物価の動きに対して、円安であるとか原油安といったことが、物価上昇率を引き上げたり、引き下げたりする方向に影響していたということは事実だと思います。

§16Question

決定会合の運営の見直しについて伺います。そもそも、平成 10年に施行された新日銀法と施行令は、日銀の政策の透明性、もちろん独立性もですが、情報公開の徹底を図るという狙いがあったはずと思います。施行令に原則月2 回、決定会合を開くとあるのは、まさに情報公開の徹底という趣旨に沿ったものだと思います。14 回からいきなり8 回、特に総裁会見の回数が8 回になってしまうことは日銀の情報公開の姿勢が後退したと捉えられるのではないかと思うのですが、この点について総裁はどうお考えでしょうか。

§17Haruhiko Kuroda

私どもは、そのようには考えていません。ご指摘のように、現行の日銀法は 1998年に施行され、その際、一定期間毎の定例日に開催することが適当との考えのもとで、ブンデスバンク等当時の海外中央銀行の例を参考にしながら、開催頻度が定められたと理解しています。そのもとで、当初は年20 回程度の頻度で金融政策決定会合を開催しました。もっとも、年20 回程度となると、2~3 週間程度で 1 回になりますが、基本的には 2~3 週間程度で金融経済情勢に大きな変化が生じることは少ないですし、金融経済情勢の変化に適切に対応するとともに、毎回の会合を実質的な意思決定を伴う充実したものとする等の観点から、頻度をだんだんと減少させて、近年では年14 回となっています。この間も、金融経済情勢が大きく変化した場合には、臨時会合を開催して機動的に対応してきました。この点、ご指摘の日銀法施行令、政令では、月に2 回開催することを「常例としなければならない」と定められていますが、これは訓示的な規定であるため、こうした運営が問題だったとは考えていません。また、その趣旨についても、透明性あるいはアカウンタビリティ等の面で、むしろ充実してきたと思っています。

§18Haruhiko Kuroda

今回の金融政策決定会合の見直しについては、公表文でも書いている通り、年4 回の展望レポート、さらには各委員の色々な見方を公表すること、そして各委員の「主な意見」を決定会合後1 週間程度を目途に公表することにしました。従来は、議事要旨を次回の決定会合で承認して、その数日後に出していましたが、今後は、主要な意見を決定会合の後1 週間程度を目途にして出しますので、次回の決定会合の相当前に出てくるわけであり、あらゆる面で、透明性、情報の発信については充実したものになると考えています。

§19Question

その関連で、決定会合もそうですが、総裁会見について実は、旧日銀法下でも毎月、定例会見を行っていまして月に 1 回やっていました。多い時は年に15 回くらいやっていたそうですが、これが、総裁会見を14 回やっていたのがいきなり 8 回になってしまう。せめて、月に1 回開くというような議論はなかったのでしょうか。

§20Haruhiko Kuroda

総裁会見は、あくまでも金融政策決定会合における決定あるいは議論を踏まえて行われるものであり、個人の見解というよりも、政策委員会のコンセンサス、多数意見といったものを踏まえて行うものです。また、回数が多ければ多いほど良いということではなく、やはり内容の充実した金融政策決定会合を行い、それを踏まえて記者会見が行われることが重要なのではないかと思っています。他の国の例を言うつもりはあまりありませんが、米国のFRBはFOMCを年8 回開催し、 FRB議長は4 回記者会見されていると思います。

§21Question

運営の見直しについて 1 点、追加させて下さい。総裁が就任されて、こんなに回数をたくさんやるのか、わずらわしいと思ったことがあったのか、要するに、なぜこのタイミングでやらなければならないのか、そのトリガーは何なのかを教えて下さい。また、しつこくて恐縮ですが、為替の件で伺います。製造業の経営者の中でも、これ以上どんどん円安になって欲しいという声はだいぶ少なくなったのではないかと思います。先程の質問にもあったように、どんどん円安になればプラスなのだということではない、というお考えなのかどうかを確認させて下さい。

§22Haruhiko Kuroda

わずらわしいと思ったことは別にありません。従来のやり方も 1 つのやり方であり、それ自体、もちろん 1998年に新日銀法が通った直後のように年20 回やっていた時と比べると、14 回で 6 回くらい減っています。今回の見直しは、あくまでも金融政策決定会合における議論の充実、そして発信を充実させるということから、展望レポートを年4 回出し、その際の各委員の見方もオープンにし、そういったものを踏まえて8 回充実した金融政策決定会合を行うものです。もちろん、その後に記者会見は当然行います。従来よりFOMCが年8 回行われていましたが、ご案内の通り、昨年からECBが年に 8 回に、それから情報も出す形になってきていますし、 BOEも年8 回にすることを決めています。やはり、年4 回の経済・物価見通しを出すことも含めて、各国とも議論の充実、情報発信の充実に努めていまして、私どもも今回ご説明したような方向で、議論の充実と情報発信の充実に努めていくということです。為替については、どんどん円高になれば良いというわけでもない、どんどん円安になれば良いというわけでもなくて、おそらく、ある程度の幅の適切なところがあるとは思うのですが、それがどういうものなのか、あるいはそれがどのように動いていくのかというのは、これはなかなか難しい話です。

§23Haruhiko Kuroda

今の時点で、円安になったら日本経済に非常にマイナスであるとか、そのように言うこともできないと思います。ただ、為替の問題について最も重要なことは、経済のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましいということ。これはある意味で言うとG7のコンセンサスでもあるわけでして、それ以上に具体的に、為替の望ましいレベルやレンジ、あるいは変化のスピードについて何か申し上げるということは、中央銀行として為替の安定や為替についての責任を持っているわけではありませんので、しないということです。

§24Question

ギリシャ問題についてお伺いします。金融支援を巡る協議が難航しており、来週には首脳会合が開かれることが決まりました。現状のギリシャを巡る情勢をどのようにみているか、デフォルトあるいはユーロ離脱というような事態のリスクをどの程度現実味を持ってみているか、また、それが現実のものとなった場合、金融市場や日本経済に与える影響をどのようにみているか、について教えて頂けますでしょうか。

§25Haruhiko Kuroda

ご承知の通り、ギリシャは現行のプログラムによる支援を受けるのに必要な財政あるいは構造改革等を巡って、関係諸機関との間で交渉を継続しており、関係者の発言によれば、交渉に進展は見られつつも、両者の間には相違が残っていて、いまだ合意に達していないということです。今回のユーロ圏の財務大臣の会合でも、合意に達しなかったということです。そうした中で、ギリシャ政府の資金繰りがタイト化しているということもあり、市場では緊張度が高まっています。今後もギリシャ政府と関係機関との交渉の帰趨も含めて、ギリシャを巡る情勢あるいは、それが国際金融資本市場に与える影響、世界経済に与える影響といったものについて、引き続き注意深くみて参りたいと思います。交渉が最終段階に来ているようですので、私から、何か交渉がうまくいかなくてデフォルトとか何か起こったらどうなのかとかいうことについて、コメントするのは差し控えたいと思います。私どもから言えることは、ユーロ圏経済もそうですし、世界経済も緩やかな回復基調にあるので、そういったものに悪影響の出ないよう、この問題についての合意が得られることを期待している、希望しているということに尽きると思います。

§26Question

消費について、総裁の考えをお聞きしたいと思います。消費については、日銀では、底堅く推移しているとしています。私が取材していると、実際に数字も指標もそれなりに出ているというところもあるのですが、ただ現場の関係者を含めて、消費関連の業者、業界の方に聞くと、方向感としては、確かに数字は出ているけれども、決してこれが上昇基調にのっていくというような状況ではない、非常に安定はしていない、というようなことを話している方が多いと思います。総裁は、この消費の現状をどう捉えていらっしゃるのでしょうか。そしてやはり数字ではないところの話も色々聞いていらっしゃると思いますが、今後の見通し含めて考えを教えて下さい。

§27Haruhiko Kuroda

消費はGDPの中で 1 番大きな項目ですし、消費行動を決定しているのは、極めて数の多い日本の家計ですので、その動向を知るのは極めて重要であると同時に、そう簡単なことではないと思いますが、いくつかの指標をみる限り、消費は、やはり底堅く推移していると言っていいと思います。第1 に、先日出たGDPの2 次速報をみても、消費は3 四半期連続で前期比プラスになっていました。それから、各種の販売統計をみると、ややばらつきはあるのですが、百貨店の売上高などを中心に増加傾向が続いていると思います。3 つ目には、消費者態度指数とか、消費者のマインドについての色々なアンケート調査等があります。これらも昨年の秋にかけて悪化していたわけですが、昨年の暮れ頃から、かなりはっきりと改善してきています。高い水準にあるものの、足許ではやや足踏みというか、どんどん改善していくという感じには、まだなっていないというところもあります。ただ、消費者マインドも、先程申し上げたように、昨年の暮れ以降かなり改善したということは言えると思います。4 番目には、最も重要な要素として、家計にとって重要な雇用・所得環境が引き続き着実に改善しています。有効求人倍率もさらに上昇しましたし、失業率もさらに低下したという中で、今年の春闘が昨年を上回るベースアップになってきていることもあります。

§28Haruhiko Kuroda

名目賃金も上昇し、実質賃金も、消費税引き上げの影響が 4月にはまだ少し残っていますけれども、5月には完全になくなりますので、はっきりしたプラスになっていくと思います。何よりも雇用と賃金と両方合わせた雇用者所得という面、家計の所得という面では、かなり順調に伸びているということがあります。春闘のベースアップの影響が具体的に出てくるのは、6月頃からだと思いますが、いずれにせよ雇用・所得環境が着実に改善していっており、今後も改善していく見通しであるということは、やはり家計の消費を支えるもっとも大きな要素ではないでしょうか。先程申し上げた幾つかの指標、さらには雇用・所得環境の改善ということからいって、足許の消費は底堅いし、今後も消費は回復していく、伸びていくというようにみています。

§29Question

来年から、総裁とこうして会見でお会いできる回数が減るのは寂しく思うのですが、今まで 14 回の定例会見と、国会にも何度も呼ばれて話をさせられて、しかもその都度、市場がかなり反応する、そうした市場のノイズが生じると言いますか、総裁の意図せざる方向にマーケットが動いたり、ご自身の発言で動くことにお疲れとか、うんざりしてらっしゃったのでしょうか。今後、市場との対話について影響が及ぶことはないのでしょうか。特に、2016年より先の将来というのは、日銀は緩和の縮小とか出口戦略に向かって進み出す時でもあると思うのですが、その局面で市場との対話の回数が減るのはリスクにならないのか、それともむしろ、会話の回数が減るのでノイズも減って市場の過剰反応も減って良いことなのだともしかしてお考えなのか、率直なところを聞かせて下さい。

§30Haruhiko Kuroda

先程申し上げたように、何かうんざりしているとか、そういうことは全くありません。それから対話や情報発信が少なくなる、内容が薄くなるということも全くないと思っています。なお、欧州の中央銀行では、むしろご指摘のような―─ノイズとは言っていなかったと思いますが──、マーケットの期待というようなものに余計な影響を与える恐れもあることも挙げて 8 回にしているようですが、私どもは、そういう感じはあまり持っていません。むしろ純粋に、先程申し上げた通り、しっかりした経済・物価見通しを年に 4 回出し、それを踏まえて金融政策決定会合を年に 8 回行って、これまで以上に充実した金融政策決定に関する議論を行う、それをきちっと情報発信する、情報発信の中身も頻度も、従来のような「議事要旨」だけではなく、その前に、次回の決定会合の前に「主な意見」が外に出ていきますし、色々な意味で、金融政策決定会合の情報の発信は充実していくと思っています。2016年以降このような形で見直されることは、むしろ対話という面でも、政策決定会合の議論という面でもプラスになると考えています。

§31Question

2 点お伺いします。1 点目は、法人企業統計などをみると、設備投資が、非製造業を中心に非常に盛り上がっています。非製造業が景気の牽引役になり得る可能性をどうご覧になっているのか、お伺いします。2 点目は、逆の話ですが、輸出が非常に弱くなっており、中国の輸入などをみますと、今後、日本で輸出の調子が悪くなって、景気全体も下押しをされるようなリスクはないのか、ご所見をお願いします。

§32Haruhiko Kuroda

足許、特に5月の実質輸出がかなり弱かったことは、一時的な要因もかなり含まれているようですので、もう少しみないといけないと思いますが、その上で、輸出がどのように動くかということは、十分注視して参りたいと思います。IMFその他の見方でも、それから私どもの見方でも、世界経済は緩やかに回復していくというのが、ベースライン・シナリオだと思いますので、そういうことを踏まえると、輸出は、振れを伴いつつも、やはり緩やかに増加していくということであろうと思っています。そうしたもとで、非製造業と製造業の設備投資ですが、確かに、非製造業の設備投資が伸びてきているということは、内需主導の経済成長と平仄があっているとは思うのですが、他方で製造業の方も設備投資計画をみると、かなり強いものになっていますので、非製造業の設備投資は伸びるけれども、製造業の設備投資は伸びない、と決めつけることはできないのではないかと思っています。

§33Question

今のご質問と絡む指摘なのですが、中国経済についてお伺いしたいと思います。具体的には、上海の株式市場が非常にボラタイルな動きになっていると思います。背景としては、個人投資家による信用取引のボリュームが質、量ともに非常に高い水準にあり、それで株価が下がるとその動きが逆回転するリスクも指摘されていると思います。上海を中心とする中国株についてのリスク評価、および中国経済についての総裁のご所見をお伺いしたいと思います。

§34Haruhiko Kuroda

これはやや込み入ったご質問なので、ある程度分けてお答えします。まず中国経済そのものについては、私は総じて安定した成長を維持していると思っています。もちろん、不動産を始めとする固定資産投資が減速しているとか、製造業で在庫調整が続いているとか、そういったこともあり、成長のモメンタムが鈍化してきていることは事実です。他方で、当局が、金融面、財政面の双方から、景気の下支えに向けた政策を相次いで講じています。従って、今年度あるいは来年度については、全体としてみると、総じて安定した成長を維持するとみています。これは私どもがみているというだけでなく、IMFその他の国際機関も基本的にそういった見方のようです。2 番目に、その上で、上海の株式市場がこのところやや急速に上昇し、あるいはややボラティリティが高まっていることは事実であり、その背景にどういったものがあるかというと、ご指摘のようなこともあるのかもしれません。

§35Haruhiko Kuroda

他方で、米国あるいは欧州、日本といった先進国の場合──米国の場合は一番幅広く株式が保有されているわけですが、日欧の場合も米国ほどではないにしても市場経済がずっと続いている国ですので、ある程度幅広く保有されています──、株価の動きが家計とか企業に影響を与えるということは、その通りだと思いますが、中国の場合は、このところ急速に取引が拡大し、あるいは株価が上昇しているということですので、その動きが中国の企業とか家計にどういった影響を及ぼしているかというのは、日米欧のような先進国経済と同様なものではないのかもしれません。中国の場合は、金融は銀行中心で回っていますので、家計の貯蓄も銀行預金が多いわけですし、企業の投資も銀行によるファイナンスが大きいわけです。ノンバンクというかシャドーバンキングと言われるような、色々な銀行外の部分が広がってきたことは事実ですが、先進国と比べるとはるかに小さいわけです。株式市場は、経済規模に比べてまだまだ小さいと思いますので、上海の株式市場がどうなのかとは何とも申し上げられませんが、基本的な中国経済を規定するものとしては、やはり先程申し上げたような固定資産投資の動きとか製造業の在庫調整の動き、そしてそれに対応して政府が金融の緩和、さらには財政面での梃入れを相次いで講じている、こういったことをみていくということが一番重要ではないかと思っています。

§36Question

10日の国会でのご発言について質問します。黒田総裁は、もちろん日銀総裁の立場であり、しかも財務官を何年もお務めになられたので、市場としても、為替についての発言というのは非常に注目が高くて、先日 10日のご発言も、まさか不用意というか不注意な発言ではなくて、何か深遠な意図があるのではないかという受け止めが随分あり、結果として、為替は大きく動きました。本日も、総裁会見があるということで、為替関係者が非常に緊張して、この会見を見守っているようで、若干円高気味に動いていますが、125 円というのが黒田ラインではないか、という見方も強くあるようです。こういった市場の見方というのは、曲解であり、誤解であり、いちいち黒田総裁の発言で大きく動くのは、あるいは動いたのは遺憾であるというようにお考えなのかどうか、お聞かせ下さい。

§37Haruhiko Kuroda

これもどのようにお答えしたらいいのか難しいご質問ですが、基本的に為替については、先程申し上げたような従来からの基本的な考え方というものは全く変わっていません。特定のレベルとか、あるいは変化のスピードとか、そういうものについて申し上げるつもりも、申し上げたつもりも全くありません。あくまでも、日本銀行としては、物価の安定という最大の目標に向かって、「量的・質的金融緩和」を着実に実施していくことに尽きます。為替については、ファンダメンタルズを反映して安定的に推移するのが望ましいというG7の従来からの共通の理解というものはその通りであると思いますし、私どもとして特に為替について具体的なことを申し上げるつもりはないということです。

§38Question

総裁もご存じのように、ECBのドラギ総裁は、為替は 1 つの金融政策の波及経路である、とおっしゃっていると思います。もちろん、日本銀行が為替をターゲットにしていないことは、総裁のお話を聞いて理解はできるのですが、総裁としては、為替は金融政策の波及経路としてどの程度重要なものとみていらっしゃるのでしょうか。

§39Haruhiko Kuroda

少なくとも、為替レートの動きをターゲットにするとか、それに影響を与えて物価を云々ということは、全く考えていません。その上で一言申し上げると、どの国でもそうですが、わが国の「量的・質的金融緩和」の効果の 1つの表れ方として、ポートフォリオ・リバランスがあります。各国とも長期国債を大量に買い入れていますので、長期国債を持っていた投資家、金融機関が様々な形でリバランスしていく、ポートフォリオを、国債以外の債券あるいはリスク資産といったものにリバランスしていくことは、「量的・質的金融緩和」の効果の 1 つのチャネルであるとは思っています。

§40Question

長期金利が、このところやや大きめな動きをみせていると思いますが、その要因についてどのようにお考えかお聞かせ下さい。また、ECBのドラギ総裁が、緩和的な金融政策下の債券相場の急変動について、「慣れなくてはならない」といったような趣旨の発言をされたと思うのですが、黒田総裁はどのようにお考えなのかお聞かせ下さい。

§41Haruhiko Kuroda

最近の長期金利の変動、特にドイツなど欧州コア国の長期金利が、昨年から今年と特に量的緩和を導入する局面で大幅に低下し、ドイツでは長期金利が 0.1%を割る局面があったわけですが、これはやや行き過ぎた感があるということで、若干マーケットの方が巻き戻しにかかったという面もあったかと思います。それから、ECBの量的緩和の効果もあって、若干デフレ懸念が後退したと市場でみられたこともあったかと思います。色々なことから、非常に低いところまでいっていたものが、反転してかなり上昇したということです。その影響は、もちろん外国にも若干及んでおり、米国の長期金利もそうしたような変動をしていますが、欧州コア国の長期金利ほどの大きな変動はしていません。日本の長期金利もやや振れましたが、影響の幅は極めて小さく、低位で安定していることにあまり変わりはありませんでした。従いまして、私どもとしては「量的・質的金融緩和」を着実に実施していくことによって、長期金利を低位に保つということが必要であると思っています。これは、「量的・質的金融緩和」が 2%の「物価安定の目標」の実現を目指して、それを安定的に持続できるようになるまで継続する、というはっきりとしたコミットメントのもとに行っていますので、当然、そういうことになります。ドラギ総裁のコメントについてはよく承知しておりません。

§42Haruhiko Kuroda

どういうコンテクスト(文脈)でおっしゃったのか承知しておりませんが、私どもとしては、あくまでも、長期金利を低位に安定的にもっていくことが重要であると考えています。

§43Question

一般論として、今後、急速にさらに円安が進んだ場合、財務省が担当する為替の介入と、日銀の金融緩和というのは両立するのかどうか、ブレーキとアクセルを一緒に踏むような感じになってしまうと思いますが、そういうことはできるのかどうかお伺いします。先程為替レートは金融政策のフレキシビリティを阻害しないとおっしゃいましたが、仮に円安が進んだ場合に、金融政策で何か対応を打つという手段、ややテーパリング的な話ですが、そういったことはあり得るのかどうかお伺いしたいと思います。

§44Haruhiko Kuroda

前段の話は相当な仮定の話ですので、直接にはお答えできませんし、為替介入は財務省の責任と権限により行うものですので、なんとも申し上げられないわけでありますが、先程申し上げたように、私どもはあくまでも物価の安定を目標に金融政策を運営していますので、為替の安定のために金融政策をやるということはありません。あくまでも物価の安定のためということです。そうしたもとで、もちろん為替の動きというのは物価あるいは景気にも影響しますので、その動きは十分注視して、その影響等を考慮していくのは当然ですが、そのことは、為替レートの特定の水準とかスピードを考えて金融政策をするということでは全くありません。為替自体は様々な要素に影響されますので、為替レート自体の安定ということを財務省が考えて、必要があると思って介入するということは、過去にもありましたし、あり得ることだと思いますが、それと日本銀行の 2%の「物価安定の目標」の実現と、その安定的な持続を目指して行っている「量的・質的金融緩和」というのは全く別物です。私どもとしては──為替レートはどうであろうとも、と言うと、また何か色んな事を言われそうですが──、あくまでも物価の現状、先行きを考慮して金融政策を運営していくということに尽きると思います。以上