← Back
Bank of JapanPress conferenceAug 7, 2015Haruhiko Kuroda, Governor

総裁定例記者会見(2015年8月7日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

本日の会合における決定事項を、改めてご説明下さい。

§2Haruhiko Kuroda

本日の決定会合では、「マネタリーベースが、年間約 80 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」という金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。資産買入れに関しても、長期国債、ETF、J-REITなどの資産について、これまでの買入れ方針を継続することを賛成多数で決定しました。わが国の景気についてですが、企業部門では、収益が過去最高水準まで増加していることなどを背景に、前向きな投資スタンスが維持されています。家計部門については、雇用・所得環境の着実な改善が続く中、個人消費が底堅く推移し、住宅投資も持ち直しています。このように、企業部門・家計部門ともに、所得から支出への前向きな循環メカニズムは、しっかりと作用し続けていると考えています。従って、景気の総括判断としては、「緩やかな回復を続けている」としました。項目別にやや詳しく申し上げますと、海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復しています。輸出と鉱工業生産は、鈍さがみられていますが、これは引き続き一時的なものと考えています。

§3Haruhiko Kuroda

すなわち、輸出は、1~3月期における米国経済の一時的な減速がラグを伴って影響するとともに、アジア経済のもたつきも影響しているとみられますが、先行きについては、海外経済の回復や既往の円安による下支え効果などを背景として、振れを伴いつつも、緩やかに増加していくとみています。生産も、輸出が増加し、一部の業種でみられている在庫調整の動きが進捗するに伴って、振れを伴いつつも、緩やかに増加していくと考えられます。また、企業収益が改善する中で、設備投資は、緩やかな増加基調にあります。雇用・所得環境をみると、労働需給は着実な改善を続けており、雇用者所得も緩やかに増加しています。そうしたもとで、家計のマインド面の改善傾向も続いています。個人消費は、天候要因等による一時的なもたつきもみられますが、底堅く推移しており、住宅投資も持ち直しています。この間、公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じています。わが国の金融環境は、緩和した状態にあります。企業の資金調達コストは低水準で推移し、企業からみた金融機関の貸出態度は改善傾向が続いています。銀行貸出残高は、中小企業向けも含め緩やかに増加しています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、 0%程度となっています。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇していると判断されます。

§4Haruhiko Kuroda

わが国経済の先行きについては、緩やかな回復を続けていくと考えられます。物価面では、消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面 0%程度で推移するとみられますが、物価の基調が着実に高まり、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、「物価安定の目標」である 2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。2%程度に達する時期は、原油価格が現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016年度前半頃になると予想されます。リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられます。金融政策運営については、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、今後とも、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続します。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行っていくという方針に変わりはありません。

§5Question

生産や輸出、個人消費が振るわない中、4~6月のGDPはマイナス成長になるとの見方が強まっています。先程、生産等の低迷は一時的とのご説明でしたが、中国経済の減速など、海外経済に不透明感が漂う中、景気の落ち込みが長期化するリスクがないのでしょうか。また、そういったことによって、物価への影響等は懸念されないのでしょうか。

§6Haruhiko Kuroda

海外経済については、先程も申し上げた通り、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復していると考えています。米国経済は、家計支出に支えられて回復しており、最近出た 4~6月のGDPも成長軌道に復帰していることを示しています。またユーロ圏経済も、好調な輸出や堅調な個人消費に支えられて、緩やかな回復を続けています。この間、中国経済については、成長モメンタムが鈍化していることは確かであり、その他の新興国経済も、このところやや弱含んでいるわけですが、先進国経済が堅調な回復を続け、その好影響が新興国にも徐々に波及するとみられる中で、海外経済は緩やかな回復を続けると考えています。こうした海外経済の見通しのもとで、輸出と生産にみられるこのところの鈍い動きは、一時的なものと考えています。先行き、輸出は、海外経済の回復あるいは既往の円安による下支え効果などを背景として、ある程度振れは伴いつつも、緩やかに増加していくと考えています。また、生産も、こうした輸出の増加、あるいは一部業種にみられる在庫調整の進捗に伴って、振れを伴いつつも、緩やかに増加していくとみています。6月短観でも、企業の業況感が総じて良好な水準で推移していましたし、生産の予測指数が先行きの増加を示しているといったことも、こうした見方に沿うものではないかと思っています。

§7Haruhiko Kuroda

従って、物価についても、エネルギー価格の下落の影響から 0%程度で当面推移すると思いますが、その影響がだんだんと減少していくにつれて、基調としての物価上昇が顕在化してきて、年度の後半から物価上昇率は次第に加速して、2%の「物価安定の目標」に向けて動いていくと思います。2%が達成される時期については、前から申し上げているように、原油価格の動向にも左右されますが、原油価格が緩やかに上昇していくという前提に立つと、来年度の前半頃には 2%程度に達する可能性が高いとみています。

§8Question

雇用・所得環境が改善しているにもかかわらず、個人消費の戻りが鈍いのは、天候要因だけではなく、例えば、年金生活者が節約志向を高めているのでは、との指摘も出ています。年々増加する年金生活者の存在が、日銀が説明する所得から支出への前向きなメカニズムを阻害したり、または物価上昇ペースを鈍らせたりするようなことにはなり得ないのでしょうか。ご見解を教えて下さい。

§9Haruhiko Kuroda

個人消費については、各種の販売統計などをみても、天候要因などによって、一部でもたつきがみられたのは事実ですが、底堅く推移していることには変わりはないと思います。その背景としては、雇用・所得環境が着実な改善を続けている、ということがありますし、また消費者マインドが改善傾向にあることも指摘できるのではないかと思います。従って、先行きについては、ベースアップの広がり、あるいは夏季賞与の増加の効果から、所得環境が一段と改善するもとで、消費の底堅さは、よりはっきりしていくものと考えています。ご指摘の年金生活者を含め、消費行動には主体毎にバラつきがあることは事実ですが、わが国経済全体をみると、今申し上げたような、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は底堅く推移していると判断しています。また、物価については、新年度に入った後、価格改定の動きが広まりつつあるなど、その基調は着実に改善していると思います。従って、賃金の上昇を伴いながら緩やかに物価上昇率が高まっていく、というメカニズムは働いていると考えています。

§10Question

個人消費の件でお伺い致します。先程お話がありましたように、4~6月の個人消費は天候要因もあって弱かったとされていますが、このところの猛暑がどこまで消費を押し上げるのか、猛暑の経済効果について、総裁のご所見をお伺いできますでしょうか。

§11Haruhiko Kuroda

確かに4~6月の消費のもたつきには、4月初めの頃の天候や6月になってからの長雨といったことが影響していたということは、小売店等からのヒアリングでも明らかなわけですが、ご指摘のように、7月に入って、特に、後半から大変な猛暑が続いており、そうしたことで、例えば 4~6月には売れ行きが不調だったエアコン等が売れているといった話は聞いています。7月のいくつかの指標も、消費が回復することを示すことになるのではないかと思っていますが、まだ7月の具体的なハードデータとしては出てきていません。今のところは、ヒアリング等のソフトデータとして、7月に、この暑い夏の中で消費が回復している、あるいは雇用・所得環境の改善のもとで、色々なものの売上も伸びているという話もちらほらとは聞いていますが、もう少しハードデータが出てくるのをよくみていきたいと思います。基本的には、先程申し上げたように、消費は底堅く推移していますし、今後さらに底堅さがはっきりしてくると思っています。

§12Question

物価の基調について、改めてお伺いしたいと思います。7月の金融経済月報で新たに生鮮食品とエネルギーを除いたCPIの数字を出されていると思うのですが、総裁としてはこの原油価格の影響を除いて、日用品や食料品、そうしたものがしっかり値上がりしているという指数というのが、先の物価をみていく上で大事な指数、指標であるとご認識なのでしょうか。つまり、これが上昇していくような状況であれば、いわゆるコアCPIがゼロ近辺で続いていても、追加的な措置をする必要があまりないということが言えるのかどうか、その点についてお伺いします。また、先程の質問で、年金生活者の消費の話があったと思うのですが、先程は、主体によって色々違うわけで全体としてみれば、というお答えだったので、今の段階では、年金生活者がどんどん増えていっても、全体の足を引っ張るくらい消費を下押しするまでのリスクとして顕在化するようなものではないということでよいのか、そこだけ確認させて下さい。

§13Haruhiko Kuroda

第 1 のご質問については、最近、いわゆる生鮮食品を除く指数だけでなく、生鮮食品に加えてエネルギー関連項目を差し引いた指数を示していることは事実です。ただ、物価安定の目標自体は、ご承知のように、家計が消費する財貨サービスを包括的にカバーする消費者物価指数の総合で考えています。総合の動きを判断する際に、生鮮食品というのは非常に大きく振れますので、生鮮食品を除いた、いわゆるコア指数というものを重要な指標としてみてきているわけであり、展望レポートでも物価の見通しという時には、生鮮食品を除く指数をみているわけです。ただ、昨年の夏以降、原油価格が大幅に急速に下落したことから、展望レポートでも原油価格の前提をそろえて見通しを作って、さらにはエネルギー価格の寄与度の試算も先行きの推移と合わせて示しています。今、ご指摘の生鮮食品とエネルギー品目を除いた指標というのも、1 つの参考指標になると思いますし、それから俗にコアコアと言われている食料品とエネルギーを全て除いたものであるとか、その他諸々の指標を従来から参照しています。当然、物価情勢の判断に際しては様々な指標を点検するということが重要ですので、その一環としてそういったものを参照してきているということであり、何もこの生鮮食品とエネルギー品目を除いた指数だけで物価の動向を判断する、それを主要な指数として判断するということになったわけではありません。

§14Haruhiko Kuroda

そういう意味では、単に 1 つの指標に過ぎないということだと思います。それから、年金生活者の話について、年金生活者の方というのは現在相当多数に上っていることは事実ですが、短期の数か月先、1年先の消費の動向をみるときに、年金生活者が一挙に増える、短期的に増えるということではありません。年金生活者の増加が長い目でみた場合に影響が大きくなることは事実だと思いますが、短期的に影響がより大きくなっていくということはないと思います。いずれにせよ、先程申し上げたように、年金生活者の方も含めて、消費者、家計には様々な方々がおられますので、その方々の消費行動は、それぞれの状況によって異なる面もあると思いますが、消費全体をみた場合にどうかというときには、やはり消費全体を支える雇用・所得動向というのが非常に重要であるという点には変わりはないし、雇用・所得動向が引き続き改善しているトレンドには変化はないと思っています。

§15Question

物価に関連して、足許で原油価格の下げがかなり目立っています。この原因をどのように分析されていて、一時的とみているのか、あるいは長引くとみていらっしゃるのか、お考えをお聞かせ下さい。今の日銀の 2%の達成時期である 2016年度前半頃というのは、緩やかな原油価格の上昇が前提だと思うのですが、この前提が多少崩れた場合には、2016年度前半頃という時期が前後しても、それは致し方ないというか、問題ないと考えていらっしゃるのかどうか、お考えをお願いします。

§16Haruhiko Kuroda

原油価格が昨年の夏以来大幅に下落し、このところ若干戻してきていたのですが、それがまたごく最近になって下落しています。原油価格の動向については、需要要因と供給要因の両方あり得るとは思います。新興国の成長のモメンタム──新興国は比較的エネルギー多消費型の経済なのですが──が若干弱まっているのではないか、という需要面の要因が影響している可能性があると同時に、他方で、ご承知のようにシェールオイルその他、色々な供給面の要因というものもあったのだろうと、IMFも含めて、多くのエコノミストが思っています。そのどちらがどのくらいのウエイトがあったのかというのは、IMF自体も若干見方を変えたりしていますので、かなり難しい判断になると思いますが、いずれにせよ両面あったということは事実だと思います。日本の場合は、100%原油を輸入していますので、特に供給面の要因から原油価格が下がってくるということであれば、全く問題ないというかプラスばかりなわけですが、新興国の成長のモメンタムの弱まりというようなことが 1 つの原因であるとすると、特にアジアの新興国は日本の輸出市場として非常に大きなものですので、そちらの影響も考えなければならないことにはなると思います。ただ、これまでのところ、原油価格の下落は、日本経済にとっては、全体として、かなりのプラスだっただろうと思っています。

§17Haruhiko Kuroda

次に、最近、原油価格がまた若干下がっているということを受けて、2016年度前半頃という2%程度に達する時期についての判断が変わるかということですが、何度も申し上げていますように、原油価格については、私どもが独自の見通しを立てているわけではなく、市場における先物価格等を参考にして、見通しの前提として置いているわけです。従って、市場における先物価格等が変わっていけば、その前提は変わっていくことになると思いますが、今のところ、原油価格が現状程度の水準から緩やかに上昇していくという先物価格の状況を前提にして考えますと、2%の目標の達成時期というのは 2016年度前半頃になるとみています。ただ、今後、原油価格の動向、特に先物価格が変わってきますと、達成時期が若干前後することはあり得ると思います。金融政策の運営上重要なことは、物価の基調的な動きですので、原油価格の動きについても、それが予想物価上昇率等に影響して、物価の基調的な動きに影響するということになれば、それは政策の調整ということを検討することになると思います。今のところそういったことにはなっていませんので、引き続き原油価格の動向を注視し、物価の基調的な動きにどのような影響を与えるかを、よくみていくということに尽きると思います。

§18Question

今晩、米国の雇用統計が発表され、FOMCが利上げをするかどうかの重要な 1 つの判断基準になると思うのですが、利上げはやはり米国経済の回復ということで、日本経済にもプラスという側面があるかと思うのですが、一方で巨額のマネーが引き揚げるということで金融市場に何らかの動揺が走るリスクはあるのか、今の金融市場、商品市況の下落も含めて、利上げは大体織り込まれつつあって、あまり心配する必要はないのか、総裁はその点どのようにお考えでしょうか。もう 1 点、利上げは、今 9月であるとか 12月であるとか様々な憶測が出てはいますが、早まることのリスクと、後ずれしてしまうことのリスク、これはどちらが大きいと総裁はお考えでしょうか。特に日本経済、金融市場への影響についてお聞かせ下さい。

§19Haruhiko Kuroda

いずれもなかなか微妙な難しいご質問で完全なお答えにならないかもしれません。まず、米国が利上げをするということになれば、それはFRBの方々が言っているように、あくまでも米国経済の動向をみて判断する、決定するということです。従って、米国が利上げをするというのは、米国経済自体がよりしっかりしていくことと裏腹な関係があるわけですから、ご指摘のように、それ自体としては、問題はないというか、大変結構なことだと思います。他方で、米国が利上げした場合に、特に新興国、途上国などから資金が出ていくということになって、新興国、途上国の経済や金融市場に大きな影響が出るかどうかという点につきましては、なかなか難しい判断を要すると思います。私自身は、今ご質問の中にあったように、米国の金利の引き上げというのは、ある程度織り込まれてきていると思いますので、2年程前、いわゆるテーパー・タントラムという形でかなり大きな影響を新興国、途上国の金融市場等に与えたようなことになるとは、考えておりません。2 番目の金利の引き上げというか、いわゆる正常化が早すぎた時のリスクと遅すぎた時のリスクというのは、これは非常に微妙な難しい判断だと思います。

§20Haruhiko Kuroda

FRBは基本的にデータ・ディペンデント(データ次第)だと言っており、経済の実態をよくみて、その動向を判断して決めるということですので、私自身は適切な判断がなされるであろうと思っています。抽象的な意味で早まった時のリスクと、後ずれした時のリスクという点については、FRBの色々な方が、物価上昇率が 2%という目標を下回っている状況のもとでは、後ずれすることによるリスクというよりも、早く上げすぎた時のリスクの方が大きいのではないかと言っていますので、それはそういうことではないかと思います。わが国に対する影響というのは、かなり間接的な話ですが、基本的に米国経済にとってプラスのことは、日本にとってもプラスだと思います。早すぎる場合のリスクと、遅すぎる場合のリスクの、米国内におけるそういった評価というか考え方というのは、概ね日本にとっても同じようなことであろうと思いますが、これは間接的な話ですので、私からとやかく申し上げるのは少し僭越かなと思っています。

§21Question

その利上げによって、何らかのリスクが顕在化した場合は、日銀としても何らかの行動を取ることがあり得るという理解でよろしいでしょうか。

§22Haruhiko Kuroda

米国の利上げで、何かリスクが非常に高まるというようには、そもそも考えておりません。いずれにしても、日本銀行として、従来から申し上げているように、2%の「物価安定の目標」へ向けて、物価の基調が影響を受けて、2%へ向かっていく道筋が影響を受けてしまうというような事態になれば、躊躇なく政策の調整を行いますという点には、変わりはありません。

§23Question

為替についてお伺いします。先程のお話にもありましたが、米国の利上げ観測等を受けて、一時ドル円が 125 円を超えるような展開もありました。125 円という水準は、以前総裁の国会でのご発言を受けて、市場では、黒田ラインとも言われている水準のようなのですが、改めて120 円を超えてくるような円安の日本経済の功罪とか全体としてプラスかどうかという点について、教えて頂きたいと思います。それから、市場で125 円が黒田ラインと意識されていること自体に、何かご感想があればお願いします。

§24Haruhiko Kuroda

為替のことについては、前からいつも申し上げているのですが、具体的な水準とか変化のスピードとか、そういうことについて何か申し上げるのは適切でないと思っています。その上で、一般論として、為替が円安になった時に、一方で、輸出している企業やグローバルに展開している企業にとってはプラスになることは間違いないでしょうし、株価の上昇をもたらすという面もあるかもしれません。他方で、輸入している企業、特に中小企業等と家計にとって、輸入品の価格が上がることが影響するというマイナスの面もあり、企業の業種、業態あるいは企業か家計かとか、色々な経済主体の状況によって異なる影響が出てくるということです。そうした中でも、G7で合意されているように、為替レートは、経済のファンダメンタルズを反映して安定的に推移するのが望ましい、と言われているわけです。まさにその通りで、為替の動きがそういうものであれば、経済にとってもプラスであると考えています。なお、これも何度も申し上げていますが、国会の答弁において申し上げたのは、特定の為替レートの話ではなく、全く抽象的な実質実効為替レートについての議論を紹介したわけであり、特定の為替レート、例えばドル円レートについて言ったものではありませんので、その点はご理解を頂きたいと思います。

§25Question

簡単な質問で恐縮なのですが、本日、来年の決定会合の日程が発表されました。改めて来年から8 回にするということの狙いと、具体的にこの日程はどういった点を考慮して決められたのか、ご説明頂けますでしょうか。

§26Haruhiko Kuroda

この方針を決めた金融政策決定会合後の記者会見でも申し上げましたが、1 つは、年2 回の展望レポートを年4 回にし、その 4 回の展望レポートの間に1 回ずつ挟んで年8 回という形で、経済見通しを踏まえた、より掘り下げた金融政策議論をじっくりと行うということです。もう 1 つは、そういったことを踏まえて、情報発信あるいは透明性という観点から、次の金融政策決定会合の前にできるだけ早く、「主な意見」という形で金融政策決定会合での議論を紹介する、市場に対して発信する、ということにしたわけであり、透明性をより高めるということも重要な要素だったと思います。ちなみにご承知のように、年8 回の金融政策決定会合というのは、米国でも欧州でもそのようになっており、いわばグローバルスタンダードになっているということもあろうかと思います。いずれにしても、経済見通しを踏まえて、金融政策決定会合においてより掘り下げた議論をするということと、透明性をより高めて情報発信をするといったことを考えて、今回のような決定にしたわけです。それを踏まえて、年8 回という具体的な日程を本日の決定会合で決めました。具体的な日程を決めるに当たっては、当然様々な統計などが、どういうスケジュールで発表されるかといったことも踏まえて決めたということです。なお、毎年、年央頃に、翌年の8 回の具体的な日程を決めて公表することにしています。

§27Question

来年の政策決定会合の日程についてです。スケジュールを拝見していると、FOMCの後にくるケースとか、ECBの後にくるケースが多いのですが、欧米の中銀の政策決定を踏まえた上で、やはり決定を決めたいというご判断があったのでしょうか。

§28Haruhiko Kuroda

そういう判断はありません。日程をご覧になってみると分かりますように、 ECBは米国のFOMCや日銀の金融政策決定会合よりも少し前の日取りになっています。それはECBの様々なスケジュール、特に統計とかその他を踏まえて、決定しておられると思います。FOMCはFOMCで、おそらく米国の状況を踏まえて決定しておられ、日銀は日銀として、日本の統計の発表の時期とかその他のスケジュールを踏まえて決めたわけです。その結果として、FOMCと日銀の金融政策決定会合とは、FOMCの方が先だったり、日銀の方が先だったり、少なくともどちらかが常に先というふうにはなっていないようです。ECBの日程は、どちらよりもいつも先にありますが、それは別にECBが何か先にしようとしてやったというよりも、おそらくユーロ圏における様々な統計その他のスケジュールを踏まえて、決定されたということだと思います。私どもも、統計その他のスケジュールを踏まえて日程を決めたということです。

§29Question

2 点お伺いします。1 点目は物価ですが、基調としては非常にしっかり上がっているようには、お見受けするのですが、いわゆる普通のコアは、ここから先は若干のマイナスはあるかもしれないという覚悟でいた方がいいのか、あまりそこは心配しなくてよくなったのか、お伺いします。2 点目は商品市況です。 CRB指数が12年振りの低い水準になっていて少し気味の悪さを感じるのですが、これは米国金融政策の出口によるリバランスとか、供給要因という割と明るい理屈なのか、それとも石油メジャーとかが設備投資を減らしておりまして、実体経済にとってもそれなりに悪い話なのか、現時点での見解をお願いします。

§30Haruhiko Kuroda

公表文でも申し上げている通り、当分の間は原油価格の下落の影響を受けて、コア指数の前年比は 0%程度で推移するとみていますので、その「程度」の中にはマイナスということもあるかもしれません。ただ、これは今のところ全く分かりません。2 点目ですが、原油のみならず、様々な鉱物資源などの商品市況が低いということは事実であり、その背景は原油の場合と同じように、今、需要の要因と供給の要因と両方考えてみる必要があるとは思います。需要要因としては、やはり大きいのは新興国、途上国などの成長が若干もたついているといったことであるとか、あるいは──中国経済の成長率は 7%で安定的に推移していますが──、中国経済自体の産業構造などが外需依存型から内需型に変わってきていますので、かつて程、原材料とか部品とかを大量に輸入するという体質でなくなってきている可能性もあります。いずれにせよ、需要要因があると同時に、それぞれの商品、1 次産品について、供給要因もあろうかと思います。

§31Haruhiko Kuroda

それから市場でよく言われていますのは、多くの商品についての価格がドル表示になっているわけですけれども、他通貨に対してドル高になると、ドル表示の商品価格が若干下がる傾向が従来からあるということで、そういう単なる表示上の話かもしれませんし、なかなか難しいとは思うのですが、基本的にはやはり需要側の要因と供給側の要因とが重なっているのであろうと思っています。

§32Question

ウィキリークスの件です。7月末にウィキリークスの方で、N S A(米国家安全保障局)が日銀も盗聴しているということを公表していましたが、日銀として、その事実確認の方は、されているのでしょうか。また、それに関して米政府の方に何か働きかけみたいなことをしたいということはあるのでしょうか。

§33Haruhiko Kuroda

いわゆる内部告発サイトによります個々の発表についてコメントするのは差し控えたいと思います。本件については、安倍総理から米国に対して、調査の上、結果を日本に説明するよう求めていると承知しています。いずれに致しましても、日本銀行としては、情報保全への対応について、引き続き万全を期して参りたいと思っています。

§34Question

本日の会見の中で、様々な方々から、エネルギー価格や商品価格についてのご質問が出ていて、それについてのお答えがエネルギー価格の最近の下落が示している世界経済全体に対するサインのようなものを少し軽く見過ぎておられるのではないかという気がしないでもないです。前回の会見でもエネルギー価格の下落についてはご質問させて頂いていますけど、需給両面があるのは当然ですけれども、足許の動きについて言えば、明らかにこれは新興国の需要減退に伴うものだということは誰の目からみても明らかだと思います。4~6月の日本のGDPについて、マイナス成長という見方が大勢になっていますけれども、この中身も、結局のところ、まあ消費も相当弱いのですけれども、春先のベアに失敗したのだと思うのですが、同時に外需の弱さも相当影響していると思います。そういう意味では、エネルギー価格の下落が示しているものは、日本経済そのものについても、相当弱い兆候であるとみるべきだと私は思います。けれども、今日の景況感については、そういったものを一切無視して現状維持しておられるということで、このこと自体が市場に対して日銀が楽観的過ぎるのではないかと誤ったサインを与える可能性が非常に高いと思います。

§35Question

政策委員会の中でそうした議論が本当にないのかどうかをもう少しご説明頂きたいのと、多分市場は景況感を変えてくると金融緩和をするのではないかと受け取られかねないとの邪心があってしているとの勘繰りを入れると思うのですけれども、そういう逆の懸念はないのか、誤ったサインを与えていないのかということについて、お答え下さい。

§36Haruhiko Kuroda

ご質問は非常に多岐にわたっていますので、1 つ 1 つお答えできないかもしれませんが、私どもは、常に客観的に経済の現状がどうなっているのか、先行きがどうなっていくのかということを議論し、その上で金融政策の決定を行っています。その結論は、この公表文で示していますし、議論の概要は、議事要旨で次回の金融政策決定会合での承認を得て、公表するという形になっていますので、それをご覧になって頂ければ分かると思います。なお、足許の原油価格の下落要因について、色々な議論があることは事実ですが、一方的に需要要因だけであるというように決めつけることもできないと思います。これは、先程申し上げたように、IMF調査局が原油価格の下落について、色々な考え方を示しています。確かに、初めは大半が供給要因であると言っていましたが、その後、需要要因もかなりあったと言っています。ただ、そうした中で、ここ数週間というか、何か月かの原油価格の下落について、IMFも含めて全て需要要因だというように言ってはいないと思います。従って、ご意見はご意見として伺いますが、それについて、私はそのように考えておりません。

§37Question

私がお伺いしたのは、この 2 週間ばかりのことなのですよ。

§38Haruhiko Kuroda

あなたのご意見を開陳されるのは結構ですが、私どもがどう考えているか、あるいは金融政策決定会合でどういう議論を行ったかということについては、公表文で出ている部分が基本的な金融政策の決定に至る経済の見方であり、議論の経緯は議事要旨でご覧になって頂きたいと言っているわけです。

§39Question

先程、もし原油価格の下落が物価の基調に影響をきたすようならば、政策の調整をするということをおっしゃいました。今後を考える上で、今これだけ原油価格が物価に下押し圧力を与えている状況であれば、物価指標を色々みていかれるとは思うのですが、日本でいうコアコアと、最近月報に載った生鮮食品とエネルギーを除いたものの 2 つというのは、基調を示している指標として、大きな 2 つだと思うのです。その 2 つがなかなか上がってこないとか、下がり出すというと、やはり物価の基調がおかしいということになり得るのでしょうか。

§40Haruhiko Kuroda

それはある意味でそうだとも言えますし、その 2 つだけで判断しているわけではありませんので、そういう意味ではそうだとは言えないと思います。というのは、これまで申し上げているように、ターゲットは総合指数ですし、総合指数の先行きの動きをみる上で、従来、一番重要なものと考えられてきていて、しかも現在でも展望レポートの見通しで示しているのは生鮮食品を除く指数です。ただ、その上で、昨年の夏以降の大幅な原油価格の下落という事態を踏まえて、原油価格の見通しについて、市場の先物価格の動きを勘案した一定の前提を共通にして、政策委員の見通しを作っています。原油価格の動きも相当足許の物価に影響しているわけですから、物価の基調をみるときには、足許のコアだけでなく、原油価格の動向を、特にそれがどれほどコア指数なり総合指数を引き下げているかということをよく踏まえて、みていく必要があるということです。新しくお示しするようになった生鮮食品とエネルギー品目を除いた指数も、今言ったような考え方の中で1 つの指標としてお示ししているということはその通りです。

§41Haruhiko Kuroda

ただ、何回も申し上げますが、特定の指標だけで先行きを判断することはできないわけでして、特に物価の基調を決定する需給ギャップであるとか、予想物価上昇率も引き続き重要ですし、賃金と物価というのは、基本的には賃金が上がる時には物価も上がる、物価が上がる時は賃金も上がるという関係にありますので、賃金の動向も重要な指標になります。従って、そういった各種の指標を総合的に勘案して物価の先行きの動向を判断するということになろうかと思っています。

§42Question

今の質問に関連する点が 1 つと、もう1 つ中国経済について、お聞きします。まず物価を巡る環境が去年10月辺りとは、どのように違うのかということについてです。声明にある通り、当面 0%程度で推移する、その中には原油の影響がすごく大きい、そして 4~6月はGDPマイナスという懸念があります。去年は、追加緩和に踏み切らざるを得ませんでした。今年は、年度後半に物価上昇が加速するとみていらっしゃるので、どの点が総裁からご覧になって違うのかというのが 1 点目です。もう 1 点、中国経済についてもお聞かせ下さい。この 3 週間、1 か月の間でも、世界の中で中国経済、あるいはマーケットに対する懸念がやや深まっているように思います。先程、成長モメンタムが鈍化しているということはお話になっていらっしゃいましたけれども、世界経済に与える中国経済の今のリスクをどのようにみてらっしゃるのか、ご所見をお聞きできればと思います。

§43Haruhiko Kuroda

第 1 の点については、昨年10月末に「量的・質的金融緩和」の拡大を決定したのは、原油価格が急速な勢いで下落していた時で、結果的には50%以上の下落になったわけです。そういった急速かつ大幅な原油価格の下落が予想物価上昇率に大きく影響すると、先程申し上げたように、需給ギャップと予想物価上昇率が物価の基調に大きく影響するので、そういったことが懸念され、「量的・質的金融緩和」の拡大を決定したわけです。その後の状況をみますと、確かに足許の物価上昇率は、コアでも総合でも、どんどん下がってきて、コアでみると足許で 0%程度になっているわけですが、物価上昇予想は比較的維持されています。それが、まず第 1 の昨年10月と今との違いです。もう1 つは、原油価格は確かに下がって、少し上がって、ここ数週間また若干下がっていますが、それでも昨年の夏から今年の初めにかけてのような、一方向の急速で大幅な下落は起こっていません。また市場の先物価格などを見ても、これからどんどん原油価格が下がっていくという見通しにはなっていません。従って、極端なことを言えば、原油価格が上がらず、ずっとそのままでいても、12 か月経つと物価指数を引き下げる効果はなくなるわけです。従って原油価格の動向も昨年10月の状況とは違っているということです。

§44Haruhiko Kuroda

さらに言えば、今年の春闘で2年続きのベアが実現し、雇用・所得環境の改善は続いているということで、需給ギャップも縮んできており、私どもの推計では一時的には若干プラスになりました。4~6月のGDP成長率はかなり 1~3月に比べると落ちる可能性がありますので、需給ギャップの動きは注目していく必要があると思いますが、いずれにせよ需給ギャップがほとんどなくなったような状況になっていることは変わりませんので、昨年10月の状況と比べると原油価格の動向も違うし、物価上昇期待の動向も違っていますし、それから需給ギャップの状況も違うと言ってよいと思います。中国については、色々な懸念を持つ向きもあります。私どもとしては、成長モメンタムが低下してきているということは事実ですが、他方で中国政府自体が様々な景気対策を打ってきており、また、そういうことを行う政策的余地も十分あるということを踏まえますと、 IMFその他も言っている通り、7%前後の成長が、今年、来年と続くことは、一応見通せるのではないかと思っています。

§45Haruhiko Kuroda

リスク要因としては、いくつかの産業での過剰設備であるとか──不動産市況は最近かなり改善してきていて、一部の都市では不動産価格も上昇に転じているようですけれども──、地方で不況が長引く懸念はないかとか、あるいは最近の株価の大幅な下落によって何か影響が出ないかとか、いくつかあると思いますが、政策当局の政策対応の余地が十分にありますし、現に対応してきていますので、安定的な成長を続けるとみるのが妥当ではないかと思っています。以上