← Back
Bank of JapanPress conferenceSep 28, 2015Haruhiko Kuroda, Governor

総裁記者会見(2015年9月28日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

今回のような関西経済界との懇談会は総裁が就任されて 3 回目になると思いますが、今日の率直なご感想をまずお聞かせ下さい。

§2Haruhiko Kuroda

本日の懇談会では、関西の経済界を代表する方々から、わが国や当地の経済・金融の現状と課題についてのお話、あるいは日本銀行の金融政策運営に関する率直なご意見・ご要望を数多く頂きまして、大変有意義な意見交換ができたと思いました。この場を借りて、改めて御礼申し上げたいと思います。席上で頂いたご意見・ご要望については、特に強く印象付けられた 2 つの点にまとめて申し上げたいと思います。まず第 1 に、関西経済は着実に回復してきているとのご意見が多く聞かれたことです。民間投資が増加傾向にあるとのご意見、あるいは所得から支出への前向きな循環が着実に作用しつつあるとのご認識を伺いました。また、成長力強化に向けた取組みとして、医薬品や医療機器の事業化に向けた産学連携支援を実施しているというお話も伺いました。当地では、ライフサイエンスや水素エネルギー等の成長が期待される分野で、中小企業、中堅企業も含めて新たな取組みがみられているとのことであり、日本経済全体の活性化のためにも今後の進展に期待しています。第 2 に、関西を訪れる外国人観光客が急激に増加しているとのご指摘が多く聞かれたことです。インバウンド需要による関西経済へのプラス効果が昨年以上に高まっているという印象を持ちました。この点、関西では、観光インフラの整備等を積極的に進めていると伺いました。

§3Haruhiko Kuroda

こうした取り組みが関西や日本全体の魅力向上につながり、訪日外国人観光客のさらなる増加やインバウンド需要の持続的な取り込みにつながることを期待しています。以上のように明るい話が聞かれる一方で、海外経済の先行きを懸念する声が多く聞かれたほか、中長期的な成長に向けて、人手不足の解消あるいはイノベーションによる産業の高付加価値化が必要というご意見、あるいは中小企業においてコスト上昇分の価格転嫁が難しいとのお話も伺いました。金融面では、成長産業の育成に必要な資金が中小企業も含めて十分に行き渡るように後押ししてほしいというご要望も頂きました。日本銀行としては、こうしたご意見等も踏まえつつ、引き続き適切な政策運営に努めていく方針であることを申し上げた次第です。

§4Question

関西経済の現状についてですが、特に大阪商工会議所会頭からは、個人消費については順調とは言い難いとの厳しい見方が示されましたけれども、これは全体の日本経済について、総裁が最近示された個人消費が底堅く推移しているという見方とは若干違うと思うのですけれども、その点についてはどう思われますか。

§5Haruhiko Kuroda

ご案内の通り、関西経済の景気は、以前は、全国、特に関東、中部の景気よりもやや遅れ気味だったわけですけれども、それを完全に克服して、現時点では全国平均よりも少し良いというような状況だと思います。従って、関西地域の景気は回復していると判断しています。輸出と生産は、中国をはじめとする新興国経済の減速の影響がみられているわけですが、そうした中でも、この関西地域では緩やかな増加傾向が続いております。また、国内需要の面では、企業部門で、やはり全国と同様に、あるいはそれ以上に収益が好調ということで、設備投資が増加しています。それから、家計部門については、何人かの方も言っておられたように、雇用の改善が続き、所得も改善する中で、四半期ごとの振れ等はありますけれども、やはり個人消費が堅調に推移しているということは全国と変わりないと思いますし、住宅投資も下げ止まっているということだと思います。このように、関西経済は回復しているわけですけれども、最近の動きについて特徴的な点を言うとすれば 2 つあると思います。まず第 1 は、企業収益が好調に推移する中で、関西の製造業の設備投資が非常に積極化しているということです。6月の短観をみますと、製造業では、大企業を中心に高い伸びが見込まれており、全ての業種でプラスとなる計画になっています。

§6Haruhiko Kuroda

内容をみましても、能力増強に加えて、ヘルスケアあるいはエネルギー等の戦略分野の開拓に向けた、前向きな投資が増えています。昨年度に設備投資が活発に行われた非製造業でも、物流関連の積極的な設備投資計画が示されています。それから第 2 に、先程も触れましたけれども、関西を訪れる外国人観光客が急増しており、その恩恵を受ける領域が広がってきているということです。本日の懇談会でも何人もの方が言われておりましたけれども、LCCの国際線旅行便数が全国トップという関空の恩恵もあって、全国平均よりもはるかに高い伸び率で関西への外国人観光客が急増しているわけです。こうした観光客の急増の恩恵というのは、消費だけではなくインバウンド関連財の生産増加をもたらしている、あるいはホテルや店舗の設備投資や雇用にも及んでおりまして、関西経済を下支えしているということかと思います。この点も、本日の懇談会で、何人もの方が指摘をしておられました。先行きにつきましては、関西経済は回復を続けていくとみておりますけれども、海外経済の動向というものは、関西経済のみならず、日本経済をみる上でも重要なポイントですので、引き続き注意深く点検して参りたいと考えています。

§7Question

2 つございます。このほど、安倍総理が新しい「新3 本の矢」というものを打ち出しておりまして、字面だけみますと、金融政策についてメンションがないようにみられるのですが、どう受け止めていらっしゃるのか。これは政策判断に影響があるのかないのかをお聞きします。2 つ目は物価ですが、コアコアが非常に順調に上昇している一方、コアはマイナスになっています。油の先物などをみますと、コアは暫く上がらないとの見方もあるようですが、それが期待インフレ率に影響する可能性を心配しておられるのかどうか。また、心配な場合、躊躇なく調整を入れることはあり得るのでしょうか。

§8Haruhiko Kuroda

まず第 1 の点ですが、「新3 本の矢」の第1 にはGDP600 兆円を達成するということが謳われておりますが、ご承知の通り内閣府の推計でも、デフレ脱却し成長戦略が実質GDPの成長率を引き上げるということに成功した場合には600 兆円が 2020年度に達成されるということです。デフレから脱却し、消費者物価の上昇率が 2%程度で安定的に推移するということが入って 600 兆円ということになっていますので、それを実現する上で、現在の金融政策の目的、あるいは目標というのは当然入っていると理解しています。2 番目の点については、ご指摘の通り、生鮮食品を除く消費者物価の前年比はこのところ0%程度で推移しており、直近でマイナス0.1%になっているわけですが、当面0%程度で推移するとみております。懇談会での冒頭の発言でも申し上げた通り、生鮮食品とエネルギーを除いた物価上昇率でみると――要は物価の 1つの基調を示すものですが――、それは引き続き上昇してきており、プラス1.1%まできています。

§9Haruhiko Kuroda

従いまして、物価の基調はしっかりと改善してきており、今後、原油価格がどんどん下がっていくことがあれば別ですが、原油価格がここで一定になっても、12 か月経てば完全にマイナスの影響は剥落しますし、先物の価格をみると、緩やかに上昇していくようになっていますので、基本的なメインシナリオでは、エネルギー価格の下押し圧力というのはいずれ剥落してなくなっていくわけです。このように物価の基調は改善していますので、今の時点で何か大きな問題があるということは思っていません。いずれにしても、予想物価上昇率というのは物価安定目標を安定的に達成するためには非常に重要な要素ですので、今のところ概ね安定的に維持されていますけれども、その動向については今後とも引き続きよく注視をしていきます。もとより、物価の基調に変化が生じて必要になれば、躊躇なく金融政策の調整を行うという姿勢に全く変わりありません。

§10Question

今の発言に関連して、確認ですけれども、物価の基調をみる上では、コアのCPIよりも最近出されている生鮮・エネルギーを除くCPIの方が、より基調を表しているというご判断でよろしいのでしょうか。また、それに関連して、2%の達成時期は来年度前半とされていますが、原油次第では前後するとおっしゃっていますが、仮にコアのCPIが少し後ろになってしまった場合でも、エネルギー・生鮮を除くCPIで 2%の安定が展望できるような状況であれば、それは2%の目標は達成されたと判断することになると考えてよろしいでしょうか。

§11Haruhiko Kuroda

物価安定目標自体は、ご承知のように、消費者物価の総合指数です。しかし、その消費者物価のトレンドを判断する上では、生鮮食品というのは天候その他によって大きく振れますので、それを除いたものがひとつの重要な指標であることには違いはありません。もっとも、このところの展望レポートでも示しております通り、原油価格が大幅に下落する中で、トレンドをみる上では原油価格、エネルギー価格の変動部分を考慮しないと物価の基調がみづらい面もありますので、それを除いたもの、あるいはいわゆるコアコアという食品とエネルギーを除いた部分など様々な指標をみていく必要があります。また、物価の基調という意味では、本日の懇談会の中でも申し上げた通り、企業や家計の物価観について、賃金の動向であるとか企業の価格設定行動もみていく必要があります。そういう面では、賃金はベースアップが 2年続きで実施され、今年のベースアップは去年よりも高くなっていますし、しかも産業、企業で拡がりをみせています。それから、企業の価格設定行動の 1 つの指標として、POSデータ等からみた東大あるいは一橋の価格指数の動向をみますと、昨年と違って今年は 4月以降かなり上昇してきています。

§12Haruhiko Kuroda

あるいは、600 品目ぐらいある消費者物価指数のそれぞれの品目の中で上昇している部分と、下落している部分との差をみたところでも、上昇しているものが下落しているものをさらに大きく上回ってきているようにみえます。このように、特定の指標だけで判断するというものではなく、やはりその時々の状況に応じて、様々な重要な指標をみていくということになると思います。

§13Question

2 点ございます。1 点目が本日の挨拶の最後に、企業経営者の方への呼び掛けととれるようなご発言もありましたけれども、これに込めた思いを改めて聞きたいのと、もう 1 点が、現在、消費税率 10%引き上げ時の負担緩和策のうち、増税分を後から給付するいわゆる財務省案について議論が活発に行われていますけれども、総裁としてどのようなご認識をお持ちでしょうか。これと併せて軽減税率の導入についても考えをお聞きしたいと思います。

§14Haruhiko Kuroda

まず、第 1 点は、これは統計データでもよく示されている点ではありますが、企業部門の収益状況というのは過去最高の水準にあって、しかもこういった高水準が維持される、あるいはさらに増えるかもしれません。そういう状況下、企業としてはそれを設備投資に充てるとか、あるいはベアを含む賃金の引上げ等に充てるという色々な対応があると思いますけれども、物価安定の目標が安定的に、持続的に達成されるためには、やはり景気が安定している中で賃金が上昇していくということが必要です。過去の例をみましても、持続的な形で物価が上がるときに賃金も上がり、賃金が上がるときに物価が上がっています。これだけの金融緩和のもとで、これだけの企業収益がある中で、人手不足が色々な産業で拡がっている中で、やはり人手の確保というものをタイムリーに行っていくためには、企業経営の観点からも、賃金の上昇が重要ではないかということを申し上げたわけです。消費税の軽減税率については、日本銀行の金融政策とは別次元の話ですので、私から何かコメントすることは差し控えたいと思います。

§15Question

先程の質問と重複するところはあるのですけれども、最後の重要なポイントのところで、マインドセットの転換に時間がかかっているとの指摘がありましたが、QQEは最終的にはマインドセットの転換を図ることを目的としていると思いますが、2年半続けていて今の政策を継続、コミットメントし続けることでその転換が実現できるというお考えでいらっしゃるのでしょうか。もう 1 点それに関連してですが、昨年10月に追加緩和をした時にはデフレマインドの転換が遅れるということを懸念されていたと思うのですが、実際にマインドセットが遅れている、転換が遅れているという懸念が今、顕在化した状況ではないかとも思えるのですが、その際に政策の判断などは必要ではないのでしょうか。

§16Haruhiko Kuroda

マインドセットには、狭い意味でのいわゆる物価上昇予想の話と、それを含めた企業の経営とか、あるいは賃上げの動向という広い意味での話など、色々な意味があると思います。去年10月31日に「量的・質的金融緩和」の拡大を決定した際には、原油価格はどんどん下がってきており、しかも当面それが続きそうだという中で、物価上昇率自体もどんどん下がっていくことが予想されました。それが予想物価上昇率にマイナスの影響を与えてしまい、デフレからの脱却が遅れてしまうということを懸念して、「量的・質的金融緩和」の拡大を決定したわけです。幸いに、その後の状況をみますと、予想物価上昇率自体は概ね維持されています。これは「量的・質的金融緩和」の拡大の効果があった面もあると思いますし、あるいは家計や企業の物価についての見方において、足許でエネルギー価格の下落を背景に物価上昇率が下がっていっても、物価の基調はそれほど変わっていないと考えられたのかもしれません。いずれにせよ、幸いに予想物価上昇率はそれほど下がらずに概ね維持されたということです。そうした中で、講演で申し上げたような企業や家計のマインドセットというのは、今後の賃金の動向、賃金の決定についての企業や家計の考え方、あるいは設備投資などを含めたもう少し広い意味です。

§17Haruhiko Kuroda

実際には企業収益は大きく改善し、雇用情勢も完全雇用に近い状態になっているにも関わらず、まだ必ずしもそれを反映したように賃金の上昇が起こっていない理由として、企業や家計のマインドセットの転換に時間がかかっている可能性もあると言っているわけです。裏を返せば、ある程度時間を経れば、そういった意味での企業や家計のマインドセットも自ずと変わっていくとは思いますけれども、色々な努力の中で ――これは企業側の努力もあるでしょうし、家計側の対応もあると思いますけれども――、そういったマインドセットがより早く転換してくれることは、マクロ的にもより望ましいと思いますし、それをここで申し上げているわけです。

§18Question

先日の定例会見で、7~9月のGDPについておそらくプラスになるのではないかとしていたと思います。GDPもそうなのですが、生産についても 7~9月はプラスに戻るとお考えなのかをまずお聞きします。もし、GDP、生産が 2 期連続でマイナスになると、これは普通、景気後退と世界的にはそういう評価を受けることになると思います。もともと物価の基調と言うときに予想インフレと需給ギャップが重要だと常々おっしゃっておられますが、2 期連続の減産、そしてGDPがマイナスということになると、これは明らかにGDPギャップということでいえば逆方向にいくわけです。2%の物価目標の16年度前半達成も、原油だけで後ずれするのであれば、それほど問題はないのかもしれませんが、需給ギャップという面でそういう一時的な停滞ではない若干長めの停滞ということになると、これは明らかに物価の基調は停滞していると言わざるを得ないのではないかと思います。そういったときに、やはり早期の物価目標実現のためにはできることは何でもやるとおっしゃっている黒田総裁ですので、これは何もしないというわけにはいかないのではないかと思うのですが如何でしょうか。

§19Haruhiko Kuroda

GDPの成長率が 2 期連続でマイナスになったときには、米国の定義ではリセッションというのだと思います。7~9月のGDPがどういう数字になるかは、まだ7~9月の月次のデータも揃っていませんので、これはまだよくみていかなければいけないと思っていますが、これまでのデータをみる限りでは、必ずしも7~9月のGDPがマイナスになると言うことも難しいと思っています。いずれにしましても、雇用状況や GDPギャップの数字をみても、ギャップ自体が非常に小さなものになっていることは事実です。4~6月のGDPはマイナスになっているわけですが、その場合に需給ギャップの改善が止まるということはメカニカルにはその通りだと思いますが、需給ギャップの水準が非常に小さいというかプラスの水準であるということであれば、あるいは雇用状況が完全雇用の状況にあるということであれば、物価や賃金は上がっていってもおかしくはないわけです。いずれにしても、私どもとしては常に景気の状況、さらには物価の基調、特に従来からいっているような需給ギャップ、予想物価上昇率、あるいは賃金、企業の価格設定行動といった様々な物価の基調を十分に点検し、必要があれば躊躇なく政策の調整を行うということには全く変わりはありません。以上