総裁定例記者会見(2015年10月7日)要旨
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§1Question
今回の金融政策決定会合の決定内容と、その背景になった景気認識に関して、先に発表された 9月の日銀短観の評価と併せてお聞かせ下さい。
§2Haruhiko Kuroda
本日の決定会合では、「マネタリーベースが、年間約 80 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」という金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。資産買入れに関しても、長期国債、ETF、J-REITなどの資産について、これまでの買入れ方針を継続することを賛成多数で決定しました。わが国の景気についてですが、輸出と鉱工業生産は、新興国経済の減速の影響などから、このところ横ばい圏内の動きとなっています。一方、国内需要の面では、企業部門において、収益が過去最高水準まで増加していることなどを背景に、前向きな投資スタンスが維持されています。先日公表した9月短観の結果をみますと、収益計画について、業種・企業規模を問わず上方修正され、全体では前年度をさらに上回る水準が見込まれています。また、企業の業況感は、一部にやや慎重な動きもみられますが、総じて良好な水準を維持しています。そうしたもとで、設備投資計画については、多くの業種・企業規模で上方修正されており、全体として、設備投資をしっかりと増加させていく姿がより明確になっています。また、家計部門では、雇用・所得環境の着実な改善が続く中、個人消費が底堅く推移し、住宅投資も持ち直しています。このように、企業部門・家計部門ともに、所得から支出への前向きな循環メカニズムは、しっかりと作用し続けていると考えています。
§3Haruhiko Kuroda
従って、景気の総括判断としては、「輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、緩やかな回復を続けている」としました。項目別にやや詳しく申し上げますと、海外経済については、新興国経済は減速していますが、先進国を中心とした緩やかな成長が続いています。先行きは、先進国を中心とした成長が続き、その好影響が波及することなどを背景として、新興国経済は減速した状態から脱していくと考えられます。そうしたもとで、輸出は、当面横ばい圏内の動きを続けた後、既往の円安による下支え効果もあって、緩やかに増加していくと考えられます。鉱工業生産も、当面横ばい圏内の動きを続けた後、輸出の増加や、一部の業種でみられている在庫調整の進捗などを背景として、緩やかに増加していくと考えられます。また、企業収益が明確な改善を続ける中で、設備投資は、緩やかな増加基調にあります。雇用・所得環境をみると、労働需給は着実な改善を続けており、雇用者所得も緩やかに増加しています。個人消費は、底堅く推移しており、住宅投資も持ち直しています。この間、公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じています。わが国の金融環境は、緩和した状態にあります。企業の資金調達コストは低水準で推移し、企業からみた金融機関の貸出態度は改善傾向が続いています。銀行貸出残高は、中小企業向けも含め緩やかに増加しています。
§4Haruhiko Kuroda
物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、 0%程度となっています。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇していると判断されます。わが国経済の先行きについては、緩やかな回復を続けていくと考えられます。物価面では、消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面 0%程度で推移するとみられますが、物価の基調が着実に高まり、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、「物価安定の目標」である 2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。2%程度に達する時期は、2016年度前半頃になると予想していますが、原油価格の動向によって多少前後する可能性はあります。リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられます。金融政策運営については、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、今後とも、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続します。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行っていくという方針に変わりはありません。
§5Question
生産、輸出関連の統計で最近弱い動きがみられ、マーケットでは7~9月期のGDPがマイナスになるのではないかとの見方も引き続きあります。国内景気の足取りのもたつきが需給ギャップの改善を遅らせ、物価の基調に与える影響をどうお考えになりますか。また、16年度前半頃としている 2%の物価目標の達成時期が後ずれするリスクが高まっていないのか、ご見解をお聞かせ下さい。
§6Haruhiko Kuroda
先程申し上げたように、わが国経済は、確かに輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられていますが、先日の短観でも確認されたように、過去最高水準の収益を背景に、企業の前向きな投資スタンスは維持されています。また、雇用・所得環境が着実に改善する中で、個人消費は底堅く推移していますし、住宅投資も持ち直しており、景気は全体として緩やかな回復を続けているとみています。また、これも様々なデータ、さらには日銀短観でも確認されたことですが、企業の人手不足感がさらに強まるなど、労働需給の引き締まり傾向も続いており、マクロ的な需給バランスは、労働面を中心に、着実に改善傾向をたどっているとみています。こうしたもとで、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、エネルギー価格の下落に伴って 0%程度になっていますが、生鮮食品およびエネルギーを除く消費者物価の前年比は、既に 1%を上回る水準まで上昇していますし、その他様々な指標をみると、物価の基調は着実に高まってきているとみています。先行きの消費者物価の前年比は、物価の基調が着実に高まるもとで、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、「物価安定の目標」である 2%に向けて上昇率を高めていくと考えており、2%程度に達する時期は、2016年度前半頃になると予想していますが、原油価格の動向によっては多少前後する可能性はあると先程申し上げたところです。
§7Haruhiko Kuroda
いずれにしても、先行きの具体的な消費者物価上昇率の見通しについては、次回の決定会合で十分に議論して、「展望レポート」でお示しすることになります。
§8Question
安倍首相が先日、アベノミクスの新たな 3 本の矢として経済政策を打ち出しました。その中で、政府として名目GDP600 兆円の達成に向けて様々な政策を進めていくとしています。政府がこれから進めていくこうした政策に対して、日銀としてどのように政策連携を図っていくのか、どのようにデフレ脱却に向けて政策強化を進めていくのか、についてご見解をお聞かせ下さい。
§9Haruhiko Kuroda
今ご指摘されたように、先月24日に発表されたいわゆる「新 3 本の矢」では、第 1 の矢として「強い経済」、具体的には名目GDP600 兆円の達成ということが挙げられており、その中で雇用をさらに増やして、給料をさらに引き上げて、消費を拡大していく、そしてデフレから脱却し、力強い成長軌道に乗せるために「生産性革命」を大胆に進めていくということが述べられております。こうした「強い経済」の実現に向けて、政府の取組みが着実に実行されることを強く期待しています。日本銀行としても、政府と日本銀行の「共同声明」で明記されている通り、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために、「量的・質的金融緩和」を着実に推進していく方針です。この方針は、従来と全く変わりはありません。
§10Question
2 点伺います。1 点目は先程も言及があった短観ですが、販売価格判断DIや翌日発表になった企業の物価見通しをみると、かねがね価格設定行動が大事だと言われているその辺りが少し弱いのではないかという気がします。今回、物価の見通しについても判断は変えていないのですが、短観の結果を踏まえた上で、なぜ最終的に変化しなかったのかをもう少し細かく教えて下さい。もう1 点は、先般の大阪の講演でも、設備投資や賃金についてもっと企業が前向きにやって頂くのが大事だというお話があったと思います。その後、毎月勤労統計をみると、現金給与総額や所定内給与は前年同月対比で 0.5%増と、上昇トレンドにはあるかと思います。総裁からご覧になってこのぐらいの上昇トレンドではまだ物足りないのか、もうちょっと出して欲しいというのか、上がっていかないと円安に頼らないで物価が上がっていくことにはつながらないのか、そのためにはもう少し日銀が気合いを示す必要があるのか、その辺りについて教えて下さい。
§11Haruhiko Kuroda
ご指摘のように、短観で企業の販売価格の見通し、あるいは仕入価格の見通しも若干下がっていることは事実です。仕入価格の見通しの方がやや下がっており、その背景には石油その他輸入原材料の価格が低下していることが影響しているようにも思われます。販売価格の下がり方よりも仕入価格の下がり方が大きいので、企業収益はさらにそこから増えることになってくるわけです。将来の価格の動きをみるためには、足許の需給ギャップの動向、企業や家計その他の予想物価上昇率の動き、企業の価格設定行動、あるいは賃金の動向といった各種の指標をみながら考えていく必要があると思います。全体としてみると、先程申し上げた通り物価の基調が着実に高まっていることは事実ですので、そうしたことを踏まえて、今回の公表文にも示した通り、従来の考え方を踏襲したわけです。もとより、物価の動向、特に物価の基調については、引き続き十分注視していきたいと思っています。2 番目の点は、先程申し上げたように、企業の収益状況は過去最高水準に達しており、短観をみてもさらにそれが伸びていく見込みになっています。そうした中で、設備投資は非常に強い計画になっていますし、多くの企業で設備投資計画はむしろ上方修正されているように、設備投資が今後出てくることは各種の先行指標でも認められます。
§12Haruhiko Kuroda
賃金については、確かに上昇はしていますが、企業収益が史上最高の水準であること、あるいは人手不足がさらに拡がり、特定の産業だけでなく経済全般で完全雇用に近付いていることを勘案すると、賃金がベースアップを含めてさらに上昇していく、加速していく余地はある、そうした状況は整ってきているとは思います。今後、冬のボーナスであるとか、あるいは一番重要なのは、来年の春闘に向けてどういった賃金の上昇がみられるかということは、私どもも極めて注目しているところです。前から申し上げているように、物価だけが上がって賃金が上がらないとか、賃金だけが上がって物価が上がらないということはないわけでして、私どもが意図しているのは、企業収益も改善し、雇用も改善し、賃金も上がるという中で、緩やかに物価が上昇していって 2%の「物価安定の目標」に達するということを期待して、金融緩和を進めているわけです。従って、賃金のさらなる上昇は非常に重要な要素になると思いますし、それがどういう形で実現していくかは、私どもとしても関心を持って見守っているところです。
§13Question
先程も質問がありました、安倍政権が掲げるGDP600 兆円の目標についてですが、これですと毎年、名目で 3%の成長を達成する必要が出てきます。経済界からは、これはかなり難しいというか、否定的な意見も相次いでいます。そもそも総裁は、2020年頃までにこのGDP600 兆円が実現可能とみていますでしょうか。その場合の成長の原動力は公共事業なのか、企業が設備投資を増やしていくのか、個人消費が増えるのか、その辺はどのようにみていますか。関連してもう1 点ですが、その場合、消費増税の引き上げを見送るべきではないかという意見もでていますが、その点についてどうみていますか。
§14Haruhiko Kuroda
まず前段の 2020年に名目GDPが 600 兆円に達するというのは、内閣府が示しているように、日本経済がデフレを脱却し、規制緩和その他様々な成長戦略の実行によって、実質成長率が 2%程度になるという、デフレ脱却、経済の持続的な成長の加速化が達成された場合に 600 兆円になるということでして、そうしたことが達成されない場合には、もっと低くなると示されています。私自身は、600 兆円、あるいは名目GDPの成長率が 3%になるというその背後には、もちろんデフレから脱却して消費者物価の上昇率が 2%程度になり、実質GDPの成長率が 2%程度になるということが含まれているわけですが、それは可能であると思っています。ただ、英語で言えば、doable だけれども challenging である、ということはその通りだと思います。2 点目は、具体的な租税政策等について私から何か申し上げることは控えたいと思いますが、ご案内の通り、経済成長と財政健全化、経済再生と財政再建を両立させるのが、現在の政府の政策です。それがまさに、新しい3 本の矢の背景にも当然あることだと思いますので、経済成長と財政再建を両立させて600 兆円の名目GDPを実現する、強い経済を実現するということは必要でありかつ適切だと思っています。
§15Question
2 点伺います。先程ご指摘のあった来年の春闘についてですが、賃上げのベースとして、よく企業側も組合側も、春から冬にかけてのCPIを参考にしている部分が多いと思いますが、生鮮を除く消費者物価がマイナスに転落する中で、賃上げをどのようにしていくかなかなか難しいと思います。そうした中で、物価の基調は保たれているとご説明されていますが、企業の方にやはり今年を上回るような賃上げ幅を期待されているかどうかについてご見解を教えて下さい。もう 1 点は、13日に全面稼動される新日銀ネットについてです。来年2月に当預系や国債系の稼動時間が午後 9 時まで延長されるとお聞きしています。海外で日本円や国債の利便性は高まってくると思われますし、総裁からも去年の講演会等で、日本円の国際化をサポートするものだとのご説明があったと思います。ただやはりドルの利便性は高いですし、SWIFTの資料などでも、今、人民元の決済比率は日本円を上回っている状況になっている中で、果たしてこうした新日銀ネットの動きが日本円の国際化にどこまで寄与するのかを、改めて教えて頂けますか。
§16Haruhiko Kuroda
まず第 1 点ですが、足許、原油価格の下落の影響で、生鮮食品を除く消費者物価の対前年比が 0%程度で推移しているのは事実ですが、物価の基調は着実に改善していますし、原油価格がさらにどんどん下がっていくということでもない限り、原油価格下落の影響はいずれ剥落しますので、消費者物価の上昇は次第に加速していくとみています。そうした中で、賃金の決定については様々な要素が入ってきますが、もちろん物価の基調についても労使双方で十分勘案されると思いますし、企業収益の状況や企業の価格設定行動の動きも当然勘案されてくると思います。ご承知のように、最近の日次あるいは週次の日用品の価格を示した物価指数の状況をみると、昨年の4月以降と異なってかなり着実に物価が上昇してきています。そうしたことも踏まえると、来年の春闘についても賃金の上昇が期待されるところです。ただ、今から、賃金の上昇率について、私から何か申し上げるのは差し控えたいと思います。2 点目の新日銀ネットに切り替えることについてです。一方で金融のグローバル化、他方でIT関係の各種の技術革新があり、新日銀ネットは最新の情報技術で構築されています。そのもとで、今後起こり得る色々な金融サービスの変化に柔軟に対応できるシステムになっていますし、国境を跨ぐ取引などにも対応できるようにアクセスの利便性も相当向上します。
§17Haruhiko Kuroda
こうした中で、ご指摘のように稼動時間の大幅な拡大が可能となっています。東京市場はいつも欧州や米国の市場よりも早く開くわけで、そうした意味でも稼動時間の拡大を、日本だけでなく欧米の市場参加者にも是非有効に活用して頂きたいと思っています。従って、円の国際化や、円がさらに広く使われることに貢献し得ると思っていますし、そうしたことを可能にする新しいシステムであることはその通りですが、具体的にどのくらい円が広く使われるかは様々な要因によって決まってきます。SWIFTで人民元の使用が増えていること、あるいはもっと言えば、ドルの圧倒的な地位があることはその通りですが、先程申し上げたような技術進歩を踏まえた新しい日銀ネットのもとで、金融サービスがより効率的、迅速に執り行われることを通じて、円がさらに広く使われることを期待しています。
§18Question
予想物価上昇率について、市場のBEIとか、今回の短観の企業の物価見通しなどのサーベイをみても、結構下がってきている指標が増えてきていると思うのですが、その中で今回も全体として上昇しているとみられるという判断をされた背景を教えて下さい。また、市場などでは、予想物価上昇率が下がってきているので、昨年同様 10月末に追加緩和をやるのではないかというような見方が増えています。総裁からみて、昨年の 10月と比べて何が違うのかまたは同じなのか見解を教えて下さい。
§19Haruhiko Kuroda
前段の点については、確かにBEI、ブレイクイーブン・インフレーション・レートは、若干下がってきている──これは実は欧米でも同じなのですが──、そういう状況があることは事実ですし、日銀の短観でも、それ程大きなものでないにしても、販売価格や仕入価格あるいは、CPIの見通しについて若干低下しているということは事実です。他方で家計の物価見通しというか、物価の予想は全く変わっていません。また、企業の見通しやエコノミストのフォーキャスト、その他の色々なものをみても、足許は若干下がっていますが、先行きだんだん上がっていくという見通しは変わっていないようです。さらには先程申し上げたように、企業の価格設定行動が、日次物価指数や週次物価指数などをみますと、昨年とかなり様変わりで、価格の引き上げが続いています。賃金についても、今年の春闘で昨年以上のベアその他が決定されたわけでして、そういったことを全体としてとらえると、予想物価上昇率も長い目でみれば全体として上昇しているという判断は変える必要はないと思っています。追加緩和云々ということにつきましては、従来から上下双方向のリスクを点検して、「物価安定の目標」の達成のために必要とあらば、躊躇なく政策の調整を行うと申し上げていまして、この考え方には全く変わりはありません。
§20Question
経済・物価見通しは月末の展望レポートで示すとのことでしたが、これまでに発表された経済指標や原油価格を踏まえると、経済・物価の見通しについて、下振れリスクが高まっているように感じています。そこで、率直にお伺いしたいのですが、物価の基調が改善を続けているという判断が維持されているのであれば、見通し自体が下振れしても追加の政策対応には直結しないと考えてよいのでしょうか。また、本日の会合で追加的な政策対応が議論としてあったのかどうか、お話できる範囲でお願い致します。
§21Haruhiko Kuroda
先程、世界経済、国内経済、物価の動きについて現時点での見方を申し上げましたが、経済および物価についての政策委員の見通しというものは、展望レポートで半年に 1 回明らかにしており、次回の金融政策決定会合で議論が行われ、新しい展望レポートが示されます。そうした中で、今回の公表文にもある通り、輸出および生産が横ばい状態である、特に新興国の経済の減速の影響から、そういった状況になっていることは事実です。そうしたことも踏まえつつ、全体をみていく必要があると思いますが、展望レポートで示されるのは、ご承知のように、実質GDPの成長率と生鮮食品を除く消費者物価の上昇率です。物価の基調を総合判断するという場合には、その他様々な指標をみて判断するということになりますので、生鮮食品を除く消費者物価の上昇率だけで云々するということはできないと思います。この点は従来から同じです。昨年の夏以来、原油価格が大幅に下がったということの影響も、展望レポートで特に示してきたわけであり、おっしゃる通り、展望レポートの実質GDPの成長率および生鮮食品を除く消費者物価の対前年比というこの 2 つの指標だけで、物価の基調が云々されるということではないと思います。ただ、この2 つの指標は、いずれも重要な指標であることは事実です。
§22Question
デフレ脱却に関して教えて下さい。日銀関係の方に色々と話を聞いている中で、「デフレマインドはまだ払拭されていない」と言われます。総裁もそのような話をされていると思います。デフレマインドが払拭されないということは、まだデフレ脱却には時間がかかるのだろうなと考えてはいたのですが、先般、安倍総理が会見の中で「デフレ脱却は目の前だ」ということを話されました。デフレ脱却は目の前なのでしょうか。
§23Haruhiko Kuroda
デフレというのは「物価の持続的な下落」です。消費者物価あるいはその他の色々な物価指標でみても、90年代の後半から─―消費者物価等で言うと 1998年以来だと思いますが――、ずっと基調的にマイナスだったわけですが、この2年半くらいの「量的・質的金融緩和」のもとで、物価の基調がかなり変わってきていることは確かだと思います。ただ、足許では、原油価格の大幅な下落等の影響もあって、生鮮食品を除く消費者物価の対前年比は0%程度、生鮮食品とエネルギーを除いたところでみて 1%をちょっと超えたくらいですので、2%の「物価安定の目標」の達成およびそれを持続的に安定的に維持するという目標からみると、まだ道半ばだと思いますが、長きにわたって続いたデフレとデフレマインドは、この2年半くらいの間にかなり変わってきたと思います。ベースアップも長らくなかったわけですが、昨年、今年とこの2年間、ベースアップもありましたし、色々なデータからみていわゆるデフレ状況ではなくなったと思いますが、私どもの 2%の「物価安定の目標」との関係で言えば、まだ道半ばであるということだと思います。
§24Question
先日TPP交渉が大筋合意しました。発効は来年以降になると思うのですが、日本経済にとっての意義、影響を含めて、どのように受け止めていらっしゃるのか教えて下さい。
§25Haruhiko Kuroda
TPPの枠組みというのは、ご承知の通り、12 か国で世界のGDPの4 割位を占めるという、非常に大きな自由貿易地域ができるわけです。特に環太平洋地域というのは、全体として経済の拡大が著しい地域でもありますし、そこで貿易、投資の自由化、さらには知的財産権その他の各種のルールの設定ということが行われるということは、日本経済にとって基本的に大きなプラスであろうと思います。ただ、具体的にTPPの条約ができ、各国が批准をして発効するまでには、まだ時間がかかると思いますし、そのメリットを日本の企業が活かして、経済発展、さらなる成長につなげていくには、具体的なアクションが必要だと思います。従って、大筋合意ができたから大きなメリットが一時に実現するということはないと思いますが、企業によってはこうしたことを先取りして、様々な事業展開を考えていくと思いますので、持続的な成長に向けての大きなプラスの貢献になるのではないかと思っています。
§26Question
2 点お伺いします。1 点目は、鉱工業生産は横ばいとのご認識かと思いますが、数字をみるとかなり下降トレンドにあるようにもみえます。マクロ的需給バランスという点で、人手不足なので生産下振れはさほど影響はないということでよろしいのでしょうか。2 点目は、短観で企業の為替の見通しがだんだん円安方向に動いて、ドル円は実勢に随分近い数字になっていると思います。これは、企業の収益面で上方修正の糊代が少し小さいという辺りをご心配にならないのか、ご認識をお願いします。
§27Haruhiko Kuroda
鉱工業生産指数は、4~6月が若干のマイナスで、7~9月はまだ分かりませんが、7月、8月をみる限りでは若干のマイナスで、全体としては横ばい状態だと思います。ご承知のようにGDPに占める鉱工業生産の影響、シェアは多分 2 割ぐらいだと思います。経済全体としての需給ギャップはやはり、全体の労働需給や企業の設備の稼働状況あるいは不足状況を勘案してみていく必要があろうと思います。鉱工業生産は重要ではありますが、それが大半を決めるという状況ではないと思います。為替云々につきましては、短観における企業の方々の為替見通しがまだ足許の為替レートよりは若干円高になっていますので、ご指摘の糊代はまだ残っていると思いますが、あまり糊代云々で安心したり懸念したりする必要はないと思っています。
§28Question
先程のTPPの大筋合意とも関連するのですが、TPPで通貨が大きな議論になった時期もあり、これを受けて日銀は金融緩和をして円安にし難くなったのではないかという見方が、マーケットの中で出ています。また、それとは別に、議員の中で日銀が円安にするのを今惧れているのではないか、円安によって物価が上がり家計が苦しむのを惧れているのではないか、という見方があります。この点について、総裁は、従来から為替のために金融政策をやっているわけではないとされていますが、改めてご所見をお願いします。
§29Haruhiko Kuroda
これは日本銀行だけではなくて、主要国の中央銀行も含めて、各国の金融政策は――G20の度重なる会議のコミュニケでも示されていますが――、国内政策目的、典型的には物価の安定のために行われているということです。日本銀行の場合も、為替をターゲットにして金融政策を行っているということでは全くありません。為替そのものについては、G20やG7で従来から言われていますが、基本的には市場に任せていくべきものです。そうした中で、経済・金融のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましいと言われておりまして、私どももその通りであると思っています。従って、それ以上に円安になってはならないとか、円高になってはならないとか、そうしたことは私どもとしては特に考えておりません。
§30Question
米国経済についてお伺いします。総裁は、米国のゼロ金利解除、利上げに関しまして、米国経済の好転を受ける形で利上げをするならばプラスであるというご認識をかねて示しておられたと思います。先週発表の米国の雇用統計をみると、9月の non-farm payroll(非農業部門就業者数)の伸びが市場予測を下回っただけでなく、7、8月と雇用が下方修正されていると思います。マーケットでは、利上げ観測がかなり大幅に後退していると思われます。それを踏まえて、米国の雇用のみならず経済全体の評価についてもう1 度お伺いしたいと思います。もう 1 点はショート・クエスチョンですが、先程 7~9月期のGDPはマイナスの可能性があるのではないかという質問が出ていたことに対して直接のお答えはなかったと思いますので、改めてそのお答えをお伺いしたいと思います。
§31Haruhiko Kuroda
1 点目につきましては、いくつかの点が指摘されると思いますが、米国の雇用が確実に改善していることは様々な指標で示されている通りであり、雇用に関するスラック(需給の緩み)がだんだんと縮んでいることは事実です。従って、スラックがなくなってくれば、雇用者の増加幅がだんだん小さくなってくるというのは当たり前の話でして、新規雇用の数字というものも非常に重要な数字ですが、やはり雇用全体の状況をみて、どの程度スラックがあるのかないのかということが重要だと思います。そうした点からいうと雇用が着実に改善してきているというのは様々な指標で明らかですし、米国経済は、家計の所得が改善して消費が非常に底堅く、明確に伸びてきているということも明らかです。投資も少しずつ伸びてきているということです。一方で輸出は、欧州以外は、日本も米国も──他の国も似ていますが──あまり伸びていないということは事実ですが、先程申し上げたように雇用の着実な改善、家計の所得の増加、そして消費が順調に伸びているというバックグラウンドから、米国経済は着実に回復していっていると思っています。
§32Haruhiko Kuroda
ただ、FRBがいつ金利を上げるかというのは、まさにFRBが米国経済の状況を判断して決定されることですが、FRB自体が常にデータ・ディペンデント(データ次第)であるということを言っておられますので、利上げがあるとすれば、それは米国経済が順調だということを表していると思います。それは米国経済にとってプラスなだけではなくて、世界経済にとってもプラスであろうと思っています。2 点目については、GDP統計の基礎になる様々な月次のデータもまだ揃っていませんので、具体的に何か申し上げることは避けたわけです。先程申し上げたように、企業、家計共に所得から支出へという前向きな循環メカニズムはかなりしっかりと働いています。その一方で、新興国の経済減速を反映して輸出および生産が──ここの生産というのはもちろん鉱工業生産の話ですが──横ばい状態であるということは事実ですが、先程申し上げたように、企業、家計の所得から支出への前向きな循環が続いており、内需はかなりしっかりしているとみています。
§33Question
総裁は、ご就任から2年半経ち、任期の折り返し地点が過ぎたということになると思いますが、これまで 2年半の率直なご感想、ご自身への評価、後半戦に向けた思いを伺わせて頂けたらと思います。
§34Haruhiko Kuroda
あまり個人的な感想を申し上げるのは避けたいと思いますが、2013年3月にマニラから東京に戻ってまいりまして、日本銀行の総裁を拝命しました。そのもとで、毎回の金融政策の決定会合において、各委員の方々の掘り下げた分析、あるいは議論をお聞きし、その中で金融政策の決定を行ってきました。「量的・質的金融緩和」というのは、所期の効果を発揮しているとは思っていますが、一方で、先程申し上げたような原油価格の──これは昨年の夏まで誰もあまり予想していなかったような──かなり急速かつ大幅な下落が起こったことや、最近では、新興国がやや減速している等、そういったこともありまして、2%の「物価安定の目標」の達成にはまだ道半ばですが、そこへ向けて物価の基調は着実に改善していると思っています。また、「物価安定の目標」の早期達成のために、必要になれば躊躇なく政策を調整するという考え方にも変わりありません。従来の政策、あるいは努力を引き続き、もちろん内外の上下双方向のリスクは毎回の会合で点検しつつ、「物価安定の目標」の早期達成に向けて、引き続き努力して参りたいと思っています。
§35Question
先程、SWIFTの統計の話題が出ましたが、8月は人民元が日本円を上回りました。総裁は、人民元の存在感が増しているということをどうお考えでしょうか。また、日本円の国際化を進めていく上で、日銀がこの先やれることとしてどのようなことがあるとお考えでしょうか。
§36Haruhiko Kuroda
人民元が従来よりも広く使われるようになってきていることは、ある意味で当然のことだと思います。いまや中国経済は世界第2 の経済規模になり、既に日本経済の規模をかなり上回っています。中国の輸出入は、非常に大きなものになっており、それに伴って、人民元のシェアが増えているということだと思います。さらに、中国は順次、資本取引についても、完全な自由化はできていませんが、自由化のプロセスを進めています。そのこと自体は当然のことであり、結構なことだと思っています。日本円については、前にこの記者会見の場でも申し上げましたが、政府として色々な規制の緩和は行っており、資本規制も為替管理もありませんし、金融市場も極めて自由になっているわけです。そうしたもとで、円の国際的な利用というのは、一定のレベルに達してはいますけれども、さらにそれが拡大していくためには、まだまだ色々な条件が整っていく必要があると思いますが、政府ができることという意味では、ほとんど全てやったということだと思います。そうした中で、新日銀ネットの全面稼動開始によって、取引の時間をさらに広げていくとか、その他諸々の資金や債券、有価証券の取引について、より便利、迅速になっていくということは、おそらく円のより広い利用にプラスになるし、それ自体として、日本経済あるいは世界経済にプラスになると思います。
§37Haruhiko Kuroda
先程申し上げたように、政府が行うべき様々な規制緩和や自由化という面では、欧米諸国と同じレベルに既に達していますので、政府がしなくてはならないことがたくさん残っているのではなく、決済システムやその他民間も含めて一層の努力が必要だろうと思っています。
§38Question
付利の引き下げについてお伺いします。総裁はかねて付利の引き下げについては検討されていないというふうに重ねて表明されていますが、そのお考えというのは現在でも変わっていないのか確認させて下さい。また、近い将来そうした考えが変わる可能性がないかどうかについても併せてお願いします。
§39Haruhiko Kuroda
付利の引き下げについては検討しておりませんし、おっしゃるように近い将来考えが変わる可能性もないと思っています。以上