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Bank of JapanPress conferenceNov 19, 2015Haruhiko Kuroda, Governor

総裁定例記者会見(2015年11月19日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

本日の金融政策決定会合の内容について、ポイントのご説明をお願いします。

§2Haruhiko Kuroda

本日の決定会合では、「マネタリーベースが、年間約 80 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」という金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。資産買入れに関しても、長期国債、ETF、J-REITなどの資産について、これまでの買入れ方針を継続することを賛成多数で決定しました。わが国の景気についてですが、輸出と鉱工業生産は、新興国経済の減速の影響などから、このところ横ばい圏内の動きとなっています。一方、国内需要の面では、企業部門において、収益が過去最高水準まで増加していることなどを背景に、前向きな投資スタンスが維持されています。家計部門では、雇用・所得環境の着実な改善が続く中、個人消費が底堅く推移し、住宅投資も持ち直しています。このように、企業部門・家計部門ともに、所得から支出への前向きな循環メカニズムは、しっかりと作用し続けていると考えています。従って、景気の総括判断としては、「輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、緩やかな回復を続けている」としました。項目別にやや詳しく申し上げると、海外経済については、新興国経済は減速していますが、先進国を中心とした緩やかな成長が続いています。先行きは、先進国を中心とした成長が続き、その好影響が波及することなどを背景として、新興国経済は減速した状態から脱していくと考えられます。

§3Haruhiko Kuroda

そうしたもとで、輸出は、当面横ばい圏内の動きを続けた後、既往の円安による下支え効果もあって、緩やかに増加していくと考えられます。鉱工業生産も、当面横ばい圏内の動きを続けた後、輸出の増加や、一部の業種でみられている在庫調整の進捗などを背景として、緩やかに増加していくと考えられます。また、設備投資については、一部に弱めの指標もみられますが、企業収益の状況や各種の設備投資計画などを踏まえると、緩やかな増加基調が続いていると判断しています。雇用・所得環境をみると、労働需給は着実な改善を続けており、雇用者所得も緩やかに増加しています。個人消費は、底堅く推移しており、住宅投資も持ち直しています。この間、公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じています。わが国の金融環境は、緩和した状態にあります。企業の資金調達コストは低水準で推移し、企業からみた金融機関の貸出態度は改善傾向が続いています。銀行貸出残高は、中小企業向けも含め緩やかに増加しています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、 0%程度となっています。予想物価上昇率は、このところ弱めの指標もみられていますが、やや長い目でみれば、全体として上昇していると判断されます。わが国経済の先行きについては、緩やかな回復を続けていくと考えられます。

§4Haruhiko Kuroda

物価面では、消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面 0%程度で推移するとみられますが、物価の基調が着実に高まり、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、「物価安定の目標」である 2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。2%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されますが、その価格が現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016年度後半頃になると予想されます。リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられます。金融政策運営については、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、今後とも、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続します。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行っていくという方針に変わりはありません。

§5Question

月曜日に発表された 7~9月期のGDPは 2 期連続のマイナス成長という結果が出ました。企業が投資を先送りする姿勢が強く出ていまして、景気の停滞感が強まっているという見方もあります。以前、総裁は生産等の低迷は一時的で、7~9月期はプラス成長になるとの見通しをおっしゃっていたかと思いますが、今回の結果を踏まえて、国内の景気認識と今後の回復の道筋について、改めてご所見をお願いします。

§6Haruhiko Kuroda

ご指摘の通り、7~9月の実質GDP成長率の 1 次速報値は、前期比マイナス 0.2%、年率マイナス 0.8%と、小幅ながら 2 期連続のマイナス成長となりました。内訳をみますと、マイナス成長の主因は在庫投資であり、個人消費は底堅く推移しているほか、輸出も増加に転じるなど、最終需要は全体として増加しています。こうした内容は、わが国の景気が緩やかな回復を続けているとの評価に沿ったものと考えられます。先行きについては、先程申し上げたように、企業収益が過去最高水準まで増加していることなどを背景に、設備投資が緩やかに増加すると考えられるほか、個人消費も、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、引き続き底堅く推移すると考えられます。輸出や鉱工業生産は、当面横ばい圏内の動きを続けた後、緩やかに増加に転じていくと考えています。従って、わが国の景気は、企業部門・家計部門ともに、所得から支出への前向きな循環メカニズムが持続して、緩やかな回復を続けていくと考えています。最初に申し上げた通り、マイナス成長の大きな原因は在庫投資のかなり大きなマイナスですので、在庫調整が進んでいることを示していると思われますし、在庫投資を除く内需と輸出を加えた最終需要は、全体としてかなり増加していると思います。

§7Question

パリで発生した同時テロを受けて、欧州では人や物の移動を制限するなど、厳戒態勢がとられ、人々の不安も強まっている状態です。一連の今回の事件が――現在進行形ですけれども――、世界経済に与える影響、また日本経済に与える影響について、総裁のお考えをお願いします。

§8Haruhiko Kuroda

先週末のパリにおける同時多発テロ事件は、大変痛ましい事件でありまして、犠牲になられた方々に対して、日本銀行としても、心から哀悼の意を表したいと思っています。その上で、ご指摘の世界経済あるいは日本経済に対する影響ですが、少なくとも現時点では、限定的であると判断しています。ただ、マインド面や金融資本市場に対する影響などを通じて、世界経済ひいては日本経済に下方リスクをもたらすおそれがないかどうか、今後とも注視していきたいと思っています。現在のところでは、影響は限られているように思われます。

§9Question

今日の公表文の中で、予想物価上昇率について、「このところ弱めの指標もみられている」と書かれていますが、予想物価上昇率は、足許悪化しているというご認識なのかどうかを確認させて頂きたいのと、そうであれば、予想物価上昇率は非常に重視されている指標なわけですから、必要な措置を検討しなければならない局面が近づいているのではないかと想像されるのですが、この点についてのお考えをお聞かせください。

§10Haruhiko Kuroda

今回の公表文の中では、予想物価上昇率について、「このところ弱めの指標もみられているが、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。」としています。「このところ弱めの指標もみられているが」と付け加えたのは、各種のアンケート調査あるいは物価連動国債を用いたBEIなど、様々な指標の中で、原油価格下落の影響などもあったかもしれませんが、いくつか弱含んだ動きがあることを率直に認めたものです。ただ、こうした指標だけでなく、企業の価格設定スタンスや家計の支出行動も、予想物価上昇率の動きを反映したものです。ご承知の通り、消費者物価を構成する品目のうち、上昇した品目数から下落した品目数を差し引いた指標は、はっきりと上昇しています。それから、食品や日用品などについての日次あるいは週次の物価指数も、4月以降、プラス幅の拡大傾向が続いています。こうしたことは、本年度入り後、企業の価格改定の動きがかなり進んでいるほか、家計でも、雇用や所得環境の改善を受けて、以前よりも値上げを受容するようになっていることを示していると思われます。従って、「やや長い目でみれば、全体として上昇している」という評価を変える必要はないと考えています。

§11Question

今の点についての確認ですが、指標はいくつか悪化しているけれども、心配するほどではない、判断を変えるほどではない、と理解してよいのでしょうか。

§12Haruhiko Kuroda

はい。

§13Question

設備投資についてお伺いします。先程の話でも前向きな投資スタンスという表現を維持されていますし、企業の収益が過去最高の水準まで上がっているということで、緩やかに回復するだろうという見立てでしたが、9月短観で出ているような設備投資計画に比べると、先日出たGDPの数値は非常に悪くて、かなりギャップがあると思います。企業収益は上がっていますが、人口減少であったり、マーケット・シュリンクという中で、将来展望がなかなか開けないということであれば、いくら儲かっても投資をしないというのが、今の企業のスタンスではないかと思います。総裁がおっしゃる通り、緩やかにでも設備投資が回復していくためには何が必要なのか、そこがなかなか増えないというようなご懸念が今のところないのかどうか、その点についてお願いします。

§14Haruhiko Kuroda

ご指摘の通り、今回のGDPの1 次速報値をみますと、7~9月に設備投資が若干減少したということは、その通りでして、先行指標である機械受注をみても、7~9月は前期比マイナスになっています。ただこの機械受注も、4四半期連続で増加した後ですので、均してみると、緩やかな改善の基調が続いていると言ってよいと思います。ご指摘の通り、9月の短観でも、多くの業種、企業規模で設備投資計画がむしろ上方修正されてかなり強いものになっています。それに比べると 7~9月期のGDPの 1 次速報における設備投資が小幅のマイナスになったのは、やや意外とまでは言えないかもしれませんが、強めの計画に比べると設備投資の出方がやや遅れているとの印象を持っています。短観その他のアンケートでの設備投資計画は、年度の初めは非常に高くて、後半にかけて少し下方修正されて着地する傾向があるのですが、そういった傾向を踏まえても、設備投資は年度全体ではかなり大きな伸びになる可能性があると思っていますが、今後設備投資がどのように出てくるのかを十分注視していく必要があると思っています。

§15Haruhiko Kuroda

中国をはじめとする新興国の経済の動向などのリスク要因があり得るわけですし、あるいは企業マインドなどの動向も十分注視していきたいと思っていますが、基本的には史上最高の企業収益のもとで、かなり強い設備投資計画となっていますので、若干遅れがあっても設備投資は出てくると思っています。ただ、今申し上げたようなリスク要因も今後とも十分みていきたいと思っています。

§16Question

2 点お願いします。今日のFOMCの議事要旨を拝見すると、かなり12月利上げに賛同する委員が多いのかなという印象を受けるのですが、利上げの可能性と日本の経済への影響についてお考えがありましたらお願いします。もう1 点が、先週末に発表された引当金制度の拡充の件ですが、 QQEが始まって 2年半経ってこのタイミングでなぜ、こういう制度拡充の検討を要請されたのか、出口戦略を見据えたものではないかという声も市場から出ていますが、この辺りについてのご見解を教えて下さい。

§17Haruhiko Kuroda

1 番目の質問については、FRBの政策運営について、私から具体的にコメントすることは差し控えたいと思いますが、一般論として、FRBが仮に今後利上げを開始するとすれば、その基本的な背景には、良好な雇用・所得環境、あるいは堅調な家計支出などを起点とした米国経済の回復の強さがあると考えられます。そうであれば当然、世界経済にとっても、日本経済にとっても好ましいことであると思っています。いずれにしても、今後の米国の金融政策運営や世界経済の動向については、注意深くみていく所存です。引当金の件については、基本的に「量的・質的金融緩和」を行っている間は、当然ですが、長期国債の買入れ等が大きく増えますので、利息収入が増加することで収益が大幅に増加するわけです。他方で、将来金利が上昇する局面になると、具体的な政策手段は色々あると思いますが、付利金利の引上げとか、資金吸収オペとかその他それぞれの対応によって、今度は収益が下振れる可能性があります。従って、収益の振れを均すという意味で、引当金制度を整備することが考えられるということです。なぜ2年半経って、ということですが、これは別に出口戦略と関係しているわけでは全くありません。

§18Haruhiko Kuroda

基本的には、収益の振れを均すという観点から、これまでも財務省と協議をしてきましたが、ちょうど日本銀行の上半期決算の作業を進める中で、引当金による対応が適当ではないかということで、財務大臣に対して具体的に検討をお願いしました。

§19Question

2 点お伺いします。1 点目は原油安と物価の関係についてです。先般公表された展望レポートでは、原油の想定レートを引き下げられましたが、足許ではドバイが 40 ドル程度になっており、さらに現在の想定を大きく下回って推移しております。この背景には、中国経済、新興国経済の減速の影響もあると言われていますが、そうであれば需給ギャップという面を通じて、日本の物価の基調、先行きに対する一段の下押し圧力になるという要素も含むと思います。今の原油価格を念頭に置いた場合、 2%の達成時期がさらに遅れるリスクをどのように考えているのか、その場合、こういう状況の中で原油要因と言いきれるのか、総裁はどのようにお考えでしょうか。2 点目は、先程の質問とも重なりますが、米国の金融政策についてです。米国では潜在成長率が趨勢的に下がっていくのではないかという議論もあるわけですが、そうした中で米国の金融政策、利上げのペースは非常にゆっくりしたものにならざるを得ないと思います。この利上げペースについて、世界経済や市場への影響も含めて総裁はどのようにお考えか、他国の金融政策のことで恐縮ですが教えて下さい。

§20Haruhiko Kuroda

1 点目については、2 つ関連した質問をされているわけですが、1 つは、「ドバイ原油が 1 バレル50 ドル程度と言われていたものが 40 ドル程度になってきていることの原因として、例えば中国経済の減速というのが効いているのではないか、そうだとすれば、それ自体として、日本経済等に影響が出るのではないか」ということだと思います。今の時点で、40 ドルになっていることの原因を需要・供給で細かく分析するのはなかなか難しいと思いますが、中国の経済自体は、ご承知のように、 IMFも今年の成長率を6.8%とみていますし、中国政府も 7%程度の成長をするだろうと言っているわけですが、そうしたもとで、中国自体の原油の輸入量は依然として着実に伸びています。従って、中国が原油の輸入を大きく減らして、それが例えばドバイ等の市場に大きく影響しているという指摘は、あまり当っていないのではないかと思います。ただ、その他の新興国とか世界の経済の動向が影響しているかもしれません。一方で、イランその他からの石油の供給が増えるのではないかという見方もあり、供給面が原因かもしれないということで、必ずしも 40 ドルになったということが中国の減速が原因であるという指摘はあまり当っていないと思っています。

§21Haruhiko Kuroda

そうした上で、もう1 つの「50ドル程度から緩やかに上がっていくと想定していたのが、足許 40 ドル程度まで落ちているではないか」ということですが、想定はあくまでも一定の期間をとってみた場合であり、ドバイもWTIも、それからブレントも、日々あるいは週毎にもかなり振れていますので、もう少し長い目でみてどうなるかをその時点で考えればいいと思います。足許で短期的に振れているからといって、直ちに 2%の「物価安定の目標」の到達時期が後ずれすると今から決める必要は全くないと思います。元々展望レポートの前提には、原油の先物価格を使っていますので、今後もその市場の動向には十分注意していく必要があると思いますが、ごく短期の動きで何か直ちに変える必要はあるとは思っていません。2 点目は、より大きな、中長期的な話です。米国では、例の長期停滞論のような考え方で、潜在成長率が長期的にこれまでよりも低いところで推移するのではないかとの議論があるわけですが、一方で、むしろ 2008年以降の金融危機後の色々な影響があって成長が停滞しているのではないかという、もう少し短い中期的な議論をする方もおられ、必ずしもはっきりしません。多くの人が認めているのは、リーマン・ショック前にあったような高い成長が当面──それは長期でないにしても短期・中期には──戻ってくるようには思えないということです。

§22Haruhiko Kuroda

IMFの見通しでも、今年、来年と 2%台半ばの成長ということになっていまして、リーマン・ショック前の成長と比べて低めになっています。また、米国の場合、2%辺りに予想物価上昇率がアンカーされているという点は非常にしっかりしていますが、具体的に 2%程度に達する時期というのは、すぐというわけではなく、中期的だと言われています。そういった両方の面から、米国における金利の上昇は、相当ゆっくりしたものになるという議論がかなり広く言われています。FRB自体も、仮に利上げを始めても非常にゆっくりしたものになると言っておられます。その原因が長期停滞なのかは分かりませんが、色々な考慮から、金利の引上げが開始されても、その引上げのテンポは極めて緩やかなものになるというのは、当局者もそう言っておられますし、エコノミストの分析もそういうことを示しているようですので、私もそうなるのではないかと思っています。

§23Question

先程のフランスのパリのテロの影響について質問します。今、現に国境を越えた人や物の動き、企業活動に影響が出ていますし、クリスマス商戦を控えた今後の消費にも影響が出てくるのではないかと思います。それからヨーロッパを中心にした観光やイベント産業にとって、非常に大きな打撃になると思いますし、テロの影響が実体経済に非常に広範に及んだり、長期化するのではないか、という見方もありますが、先程総裁がおっしゃられた「影響は限定的だ」という根拠、理由について、もう少し詳しくお尋ねします。

§24Haruhiko Kuroda

現時点では影響は限定的であると判断していると申し上げましたが、理由は、幾つかあると思います。ご指摘のように、観光やクリスマス商戦への影響は、可能性として否定することはできないと思いますが、それは今後の状況をよくみないと分からないと思います。現時点で限定的であると判断している理由としては、事件後の欧州における市場の動向が先行きを占っているとすれば、あまり大きな影響を受けていないわけです。市場が完全にその影響を予見できるかどうかについては色々議論がありますが、将来を予見しているはずの欧州の金融資本市場において平静が保たれていることも、現時点では、影響は限定的であると判断してよい 1 つの理由になると思います。それから、G20サミットその他でも示された通り、欧州のみならず世界的にこういったテロを予防するために、協力していくということが謳われています。どのような可能性があるかについては、よく目を凝らしてみていく必要がありますが、現時点で世界経済、日本経済に及ぼす影響は限定的であると判断してよいのではないかと思います。ただ、今後の市場の動向であるとか、ご指摘のように欧州における観光や消費にどのような影響が出るかについては、よくみていく必要があると思います。ちなみに、ご承知のように、欧州の消費は、これまでのところ非常に順調に伸びていまして、経済の回復を支えていると言ってよいと思います。

§25Question

春闘関連で 2 問伺います。主要労組の現状の検討状況等を、報道ベースを含めてみていると、要求額が前年を下回るような動きも出ているようです。こういった弱めの春闘の動きが、今後の物価上昇を鈍らせるようなリスクはないのでしょうか。その春闘の要求額が弱めになる背景として、やはりCPIの弱めの動き、0%近傍で推移しているということが理由としてあるようです。そういう意味では、原油安という一時的な要因が理由だとしても、将来の予想物価上昇率に原油安も含めたCPIの弱さも影響してしまうのではないかと思うのですが、その点についてご見解を教えて下さい。

§26Haruhiko Kuroda

先程から申し上げている通り、企業部門は史上最高の収益を上げており、今後も高い収益が予想されるというもとで、当然のことながら雇用は改善が続き、賃金も上昇してきていますが、ご指摘のように、来年の春闘がかなり重要だということは、その通りだと思います。前々から申し上げていますが、短期的には賃金の上昇が先行するとか、物価の上昇が先行するといった動きは色々ありますが、長期的には賃金が上がっていかなければ物価も上がらないし、物価が上がらなければ賃金も上がらない、反対に賃金が上がっていけば物価も上がるし、物価が上がっていけば賃金も上がるということですので、来年の春闘でどのような賃上げが実現するかについては、大きな関心を持って見守っています。2 番目の点は、個々の家計や賃上げ交渉をされる方の考え方等にもよると思いますが、原油価格の下落は無限に続いていくわけではなく、あくまでも一時的なものですので、それが剥落すれば当然、それによって物価が上がるといったことも十分考えておられるとは思います。確かに足許で物価上昇率が0%程度で推移していることは、今後の物価あるいは賃金に対して、何らかの影響を与えている可能性はあり、幾つかの予想物価上昇率の指標は、このところ若干弱めになっていますが、企業の価格設定行動やその他をみていると、予想物価上昇率は長い目でみれば上昇していることに間違いはないように思います。

§27Haruhiko Kuroda

具体的に来年どのような春闘の結果が出るかは十分注目していきたいと思いますが、足許で原油価格の下落の影響で消費者物価の上昇率が 0%程度になっているということが、来年の春闘に決定的に効くとは考えていません。ただ、この辺りは十分よくみていきたいと思っています。

§28Question

2013年に大規模緩和を始めた当時、日銀の方も含めて「この政策は、4年も 5年も続けられるような政策ではない」という声を聞きましたし、現在もそのような認識の方がいらっしゃいます。一方で、2016年度の後半頃という物価上昇の達成、それ以降も安定的になるまで続けるということですので、そうするとやはり 4年、5年経ってくるだろうと思います。総裁は、この大規模な金融緩和を 4年、5年続けても問題ないという認識をお持ちだと思うのですが、その辺りのお考えを教えて下さい。

§29Haruhiko Kuroda

2013年の 4月に「量的・質的金融緩和」を導入して以来──昨年の10月にはこれを拡大していますが──2年半強です。今後、原油価格下落の影響が剥落するにつれて、物価上昇率が 2%に段々近づいていくと思っていますが、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、それを安定的に持続するために必要な時点まで「量的・質的金融緩和」を続けるという考え、つまり、元々、カレンダー・ベースで時間を限った政策ではなく、アウトカム・ベースといいますか、2%の「物価安定の目標」を実現することを期限にしているということです。どのくらい続くのかは事前には言えません。現在の見通しでは 2016年度の後半頃には 2%に達するのではないかとみていますので、今の「量的・質的金融緩和」を続けることに何ら問題が生じるとは思っていません。2%に達する時期がそれよりももう少し延びたら何か問題が生じるかというと、おそらく生じないと思います。「量的・質的金融緩和」を続けることの問題として、幾つか議論がされていると思いますが、1 つは国債の買入れ自体について限界が来るのではないかということです。最近、IMFのペーパーが出て以来、そうした議論が活発ですが、私どもはそうした限界に直面するとは全くみていません。

§30Haruhiko Kuroda

それから、日本銀行の財務に対する影響については、従来から繰り返し申し上げている通り、財務を考慮はしますが、それに影響があるからといって 2%の「物価安定の目標」を早期に達成するための金融緩和を続けないとか、やらないといったことは全くありません。しかも、そのうえで引当金の拡充という形で、市場の一部にある日銀の財務に対する懸念を払拭して、「量的・質的金融緩和」に対する信頼感を高めしっかりしたものにしようとしているわけですので、問題が生じるとは思っていません。さらに、金融システムに影響が出ないかということですが、これも、半年毎の「金融システムレポート」で詳しく分析して示していますが、これまで金融システムに何か問題が生じていることは全くありませんし、今後も現在の「量的・質的金融緩和」を続けることによって問題が生じることは予想していません。もちろん、金融システムの状況については、常に十分分析し把握して、問題があれば適切に対処していきたいと思っています。いずれにしても、現在の「量的・質的金融緩和」を続けることによって何か問題が生じる、あるいは限界が来るとは考えていません。

§31Question

企業経営者あるいは企業の経営の姿勢について、総裁のご所見をお伺いします。繰り返しになって恐縮ですが、7~9月期のGDP統計では設備投資のマイナスが少し懸念されています。先程もありましたが、賃金に関しては、なかなか私自身をかんがみても、そう上がっていくという感じが持てないなと思っています。総裁が繰り返しおっしゃる「前向きの循環メカニズム」は本当に働いているのか、あるいは働きかけていたものが、なかなか企業あるいは企業経営者のデフレ・マインドが払拭されないので、止まりかけているのではないか、そういうもどかしさのようなものをお感じになっていらっしゃらないでしょうか。

§32Haruhiko Kuroda

設備投資と賃金の関係については、両者とも企業の収益によって影響されると同時に、設備投資と賃金との間にも相互関連があります。設備投資については、先程申し上げたように、企業収益が大幅に増加し史上最高の水準にあり、今後も高い企業収益が予想されている一方で、所々で人手不足になっている、またリーマン・ショック後、日本企業はそれ程大きな投資をしてこなかったために資本のビンテージもだいぶ伸びてきているなどの様々な理由から、増えていくだろうと思っていますし、9月の日銀短観でも設備投資の計画は極めて強かったということです。足許、設備投資が十分出てきていないのはその通りだと思いますが、基本的には、設備投資は出てくると思っています。他方、賃金の方は、経営側と組合側の交渉事項でもありますし、企業側の色々な予想、期待だけでなく、組合側・従業員側の予想、期待も絡んで、複雑な交渉の結果出てくるものです。今のところ、企業収益が非常に良く、失業率も構造的失業率に近いところまで来ており、有効求人倍率も数十年振りの水準まで上がってきていることからみると、賃金の上昇率は──上昇はしていますが──、やや鈍いという感は否めないと思います。

§33Haruhiko Kuroda

先程申し上げたように、経営側と従業員側の交渉の問題でもありますので一概に決めつけることはできないと思いますが、来年の春闘に向けてどのような交渉が行われ、また政労使ないし官民でどのような議論が行われ、具体的にどの程度の賃上げが実現するか、私どもとしても重大な関心を持って見守っているところです。

§34Question

2 つ前の方の質問と重なりますが、目標達成までの期間というかスケジュールについて、総裁のご発言は、「最初から state contingent(状況に依存)で、別に2年ということではない」と理解してよろしいでしょうか。それとも、ある程度成果が出てきたこと──日本人のデフレ・マインドからの脱却が成功したということ──で、「2013年から 2年」ということではなく、「毎回の会合から 2年程度」という、世界的な、普通のインフレ・ターゲットに少しずつシフトしてきたという理解でもよろしいのでしょうか。

§35Haruhiko Kuroda

そういうことではありません。あくまでも、2013年4月に「量的・質的金融緩和」を導入した際に申し上げた通り、「2%の『物価安定の目標』を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」ことにコミットして、それに沿って「量的・質的金融緩和」を続け、また拡大してきたわけです。それと共に、2013年4月に「量的・質的金融緩和」を導入した際にも明確に申し上げた通りに、元々きっちり2年という期間を限ってその間だけやるということではなく、あくまでも 2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで続けるという、アウトカム・ベースの「量的・質的金融緩和」であると申し上げているわけです。これは米国のQE3もそうですし、他の中央銀行、多くの中央銀行の量的緩和も同様だと思います。目標については、あくまでも2年程度の期間を念頭に置いてできるだけ早期に実現するというコミットメント──2013年4月のコミットメント──は変わっていません。一方で、いつまで続けるかについては、これも2013年4月に申し上げた通り、2%の目標の実現を目指し、それを安定的に持続するために必要な時点まで続けるということで変わっていません。

§36Question

総裁が就任される前の金融政策運営においても、GDPが 2 四半期マイナスだとかCPIがマイナスになることについて、やはり、人々の期待がアンカーされていないから、ということも言われていたと思います。今までのところ、金融政策は所期の効果を発揮しているということですが、金融政策の所期の効果と成果というのは違うような気がしていて、金融政策の所期の効果が発揮されているのであれば、様々な原油安や海外経済の減速等もありますが、2 四半期連続のGDPマイナスやCPIもマイナスという状況は避けられたのではないかと思います。所期の効果と成果は違うのかどうか、その辺をお伺いします。

§37Haruhiko Kuroda

「量的・質的金融緩和」について、考えていたところの所期の効果は発揮していると思っています。ただ、これはどこの中央銀行でも政府でも同じですが、日本銀行にとっても、例えば、原油価格が昨年の夏以来6 割程度下落するなど、予想していなかった状況が起こって、それが物価上昇率にかなり大きな下押し圧力になっているということは事実です。物価上昇予想、期待が2%程度の目標にアンカーされている米国でも、足許の物価上昇率はほとんど 0%ですし、欧州でも同じです。具体的な足許の物価上昇率は様々な要因によって影響されますので、金融政策の効果がないということでは全くないと思っています。それから、GDPの 1 次速報値が前期比マイナス 0.2%となり、2 期連続のマイナス成長であることは事実ですが、この 7~9月期は 4~6月期と違って、最終需要はかなり大きく伸びています。GDPのベースで小幅のマイナスになったのは、主として在庫投資がかなり大きなマイナスになったことによるものですので、4~6月期とはかなり様相が違っているのではないかと思っています。いずれにしても、物価安定を目標として、具体的にはほとんどの国で2%の物価上昇──これはどこの国でもそうですが、総合指標で物価が2%程度上昇するということ──を目標にして、金融政策を運営しています。そういう点についても、日本銀行と他の中央銀行との違いはないと思います。

§38Question

中国人民元のSDR入りについて、1 点お伺いします。先日、IMFのラガルド専務理事が人民元の主要通貨入りを支持するという声明を発表したことで、SDRに採用される見通しが高くなっていますけれども、一方で中国には多くの規制なども残っていまして、透明性などに問題も抱えています。この点も踏まえて総裁のご所見をお伺いしたいと思います。

§39Haruhiko Kuroda

この点は前にも申し上げた通り、5年毎に行われるSDRの通貨バスケットの見直しが現在行われています。具体的にはIMFの理事会で決定することになっていますが、まだ決定されたとは聞いていません。ラガルド専務理事も含めて、IMFのスタッフが、SDRの通貨バスケットに含めて良いという 2 つの基準――第 1 に、輸出が相当な規模で行われていること、第2 に、その国の通貨が広く使われる、いわゆる freely usable currency になっていること――を人民元が満たしているかという技術的な点をみた上で、理事会で判断することになっています。今、私は、その2 つの点について、具体的にどのような指標が示されて、どのような議論になっているかを承知していませんが、理事会で議論した結果、今言った2 つの点が満たされているということであれば、当然理事会は人民元をSDRの通貨バスケットに入れる決定をすることになると思いますし、そうでなければ先送りすることになると思います。どちらになるのか私自身存じませんし、理事会がそういう決定をすることになれば、今言った 2 つの条件が満たされているということだろうと思っています。

§40Question

2 点お伺い致します。1 つ目は、米国の利上げ観測が高まっているもとで、足許の金融市場でドルの調達コストは非常に上がっています。邦銀が円から外貨を調達した場合の調達コストは 2011年の欧州危機と同じぐらいの水準になっているのですが、この点について、年末も近づくということで、邦銀の外貨繰りに何か問題がないのか、その辺りをどうみていらっしゃるのか、教えて頂きたいと思います。もう 1 点は、それと関連してドルの調達コストが上がることで相対的に円を調達するのが有利になった海外投資家が日本の短期国債に非常に入ってきていて、それによって短期金利が非常に大きく下がってマイナスが深くなっています。この点について、イールドカーブが一部の年限だけ非常に下がるということについて、何か問題等をお考えになっていらっしゃるかどうか教えてください。

§41Haruhiko Kuroda

第1 点については、確かにスワップによるドル調達コスト――ドル転コスト――が上がっていることは事実であり、これは基本的に需給環境がタイト化しているということだと思います。しかしながら、足許で邦銀の外貨資金繰りに特段の問題がみられているわけではありません。邦銀全体としても、仮に一定期間、市場調達が困難化しても、十分資金不足をカバーできる流動性準備を確保しています。日本銀行としては、当然、ドル資金市場を含めた国際金融市場あるいは邦銀の外貨資金繰りの状況を十分注視していきますし、邦銀による外貨の安定的な調達基盤の確保、あるいはストレス時の対応力の強化に向けた取り組みを引き続きしっかりと促してまいりたいと思います。この点、「金融システムレポート」でも述べていますし、大手銀行との議論の中でも述べているわけです。なお、日本銀行を含む主要中銀は、為替スワップを通じた米ドル資金供給の枠組みを整えており、こうした枠組みは米ドル資金市場の緊張が大きく高まる場合には、金融市場の安定に十分寄与できると考えています。2 番目の短国の金利が一部マイナスになったことの原因については、ご指摘のことも含めて色々な指摘がありますが、短国の金利がマイナスになっているというのは、ある意味「量的・質的金融緩和」が相当効いているということでもありますので、現時点で特に何か問題があるとは考えていません。以上