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Bank of JapanPress conferenceNov 30, 2015Haruhiko Kuroda, Governor

総裁記者会見(2015年11月30日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

本日、午前中に開催されました名古屋の経済団体との懇談会の感想について教えて下さい。

§2Haruhiko Kuroda

毎年こちらにお伺いして経済界、金融界の代表の方々から地域の経済に関するお話を伺っているわけですけれども、今回も、地域経済の現状に関する、特に現場の貴重なお話とか、金融政策に関する率直なご意見・ご要望をたくさん頂きまして、大変有意義な意見交換ができたと思います。この場をお借りして、改めて御礼を申し上げたいと思います。席上で頂いたご意見・ご要望について、特に強く印象付けられた 2 つの点をまとめて申し上げますと、まず第 1 に、この東海経済は着実に回復が続いているというご意見が多く聞かれたと思います。輸出については、中国をはじめとする新興国経済に不透明感があるわけですが、北米経済が好調であり、全体としては、堅調に推移しているとのお話を伺いました。また、良好な企業収益を背景に、民間投資が増加しているというお話もありまして、所得から支出への好循環が働いているというご意見を伺いました。第 2 に、中長期的な成長力の強化、あるいは経済の活性化につながる取り組みについてのお話がまた多く聞かれました。具体的には、先日、国産初のジェット旅客機MRJの初試験飛行に成功した航空機産業など、いわゆる次世代産業の育成、それから来年の伊勢志摩サミットを機とした官民一体での観光振興、さらにはリニア中央新幹線の開業に向けた街づくりということに関連するお話も伺いました。

§3Haruhiko Kuroda

また、金融機関の方々から、企業の海外進出やM&A、ビジネスマッチング、事業承継などに対する支援など、企業の様々なニーズに積極的に対応していくというお話を伺いました。一方で、持続的な成長に向けて人手不足への対応、あるいはイノベーションの推進などが課題であるといったご意見、さらには、為替相場の安定、中小企業の経営状況、あるいは海外経済の動向などに関するご意見・ご要望も頂きました。日本銀行としては、こうしたご意見等も踏まえつつ、2%の「物価安定の目標」の実現に向けて、引き続き適切な金融政策運営に努めていく所存であるということを申し上げました。いずれに致しましても、最初に申し上げた通り、この地域の経済は着実に回復を続けており、日本経済をけん引しているという印象を受けました。

§4Question

東海地域は全国の中でも景気の回復の足取りがしっかりした地域です。今後も着実に回復を続け、さらに中長期的に当地経済が成長していくためには、何が必要とお考えか、教えて下さい。

§5Haruhiko Kuroda

先程申し上げたように、この東海 3 県の景気については、名古屋支店の判断でも示されているように、「着実に回復を続けている」とみています。輸出や生産に新興国経済の減速の影響などが見受けられるものの、好調な企業収益のもとで設備投資が大幅な増加を続けているほか、雇用者所得も着実に改善しております。その中で、個人消費、住宅投資も持ち直しており、先程申し上げた通り、本日の懇談会の出席者の方々も、当地の景気の現状について、概ね同様の認識を示しておられたと思います。その上で、今後とも東海 3 県の景気が着実に回復を続けるためには、いくつかの重要なポイントがあると思いますが、まず第 1 には、所得から支出への前向きな循環をより確かなものにすることが必要だと思います。その際の最も重要なポイントは、企業が史上最高水準にある収益を活用して、設備投資や人材の確保など将来を見据えた前向きの支出を積極的に行うことだと思います。既に当地の企業はベースアップなどを通じて、賃金の引き上げを行っているところが多いわけですが、さらに設備投資スタンスも極めて積極的になっており、大変心強く思っています。

§6Haruhiko Kuroda

先程来申し上げている通り、日本経済がデフレを脱却して2%の物価安定のもとでの持続的成長という新しいステージに入っていくということであれば、デフレマインドを転換して、今のうちに人材や設備への投資を進めることが企業としても重要だと思いますし、今後ともそういったことを進めて頂ければと思っています。2 つ目としては、やはり長い目でみた場合には、新しい産業、新しい製品、新しい企業といったものが出てくる必要があるわけですが、当地は新たな需要の開拓に向けて果敢に挑戦していくフロンティア精神にあふれているように思います。先程申し上げたMRJの話、あるいは次世代自動車といった新たなリーディング産業の育成とか、その他諸々のイノベーション、新製品、さらには新しい企業等が生まれつつあるわけです。私としては、是非こういった前向きな取り組みが続いていくことを期待しています。そうした上で、3 つ目にあえて申し上げますと、やはり、政府の新しい「3本の矢」でも示されている通り、順調な成長を続けていくためには、様々な規制緩和その他政府による成長力の引き上げの施策というものが必要になってくるわけです。

§7Haruhiko Kuroda

それを着実に、スピード感をもって実施して頂くということが、先に申し上げた 2 つの点を中長期的に支えていくものにもなると思いますので、当地の経済界の方も指摘されていましたが、そういった点も、今後とも引き続き長期的にこの地域の成長力を押し上げていくために必要であろうと思っています。

§8Question

講演の内容について質問させて頂きたいのですが、講演の中で、2%の目標の早期実現ということで、いくつかの力強い言葉が入っていたかと思います。例えば、動くのは日銀であるとか、早期実現のために必要と判断すれば躊躇なく対応するという姿勢を示されたわけですけれども、1 点教えて頂きたいのが、先の10月末の決定会合では、2%の物価安定目標の達成時期を半年後ずれさせたにもかかわらず、政策は据え置かれた。その行動と、今回ここでおっしゃっている早期実現のために必要と判断すれば躊躇なく対応するとおっしゃっていることとの関わりがちょっと分かりにくい部分があるので、どういう意図なのかを教えて頂きたい。16年度下期は必ず守るという、そういう表明なのかどうかも、併せてお聞きできればと思います。

§9Haruhiko Kuroda

10月末に新しい展望レポートを示して、従来申し上げていた、2016年度前半頃に 2%に達するという予測を半年後ずれさせて、2016年度後半頃に 2%に達するという予測を示したわけです。その際にも、物価の基調自体はかなりしっかりと着実に改善してきていると申し上げました。いわゆる生鮮食品とエネルギーを除く物価上昇率がずっとプラスであって、最近はそれが加速して+1.2%になっていることも一つありますが、それだけでなく、賃金について、例えば 2年続いてベースアップが 20年振りぐらいに実現して、賃金も上がってきています。物価についても、日用品の日次・週次物価指数をみますと、昨年の 4月は消費税の引き上げ分を除いた部分でも、一時的にはかなり上がっていたのですが、その後、消費が弱いといったこと等を反映して、どんどん下がっていったわけです。しかし今年度に入ってからの日用品等の物価は上昇が続いているということで、明らかに企業の価格設定行動も変わってきていますし、家計側がそれを受容するようにもなってきています。また、日銀は消費者物価指数の構成品目に占める上昇品目と下落品目の比率の差を公表していますが、それもどんどん拡大し、価格が上昇する品目が増えており、物価上昇について拡がりが生じています。

§10Haruhiko Kuroda

ですから、賃金とか、企業の価格設定行動、そして実際の消費者物価指数の中で上昇品目が非常に増えているといったことも含めて、物価の基調はかなりしっかりしてきています。そういう判断のもとで、現在の「量的・質的金融緩和」を継続していくことで、いわば累積的に緩和効果が効いてくるわけですが、それを着実に進めることによって、2%の「物価安定の目標」を早期に実現できるという確信を持ったことから、引き続き「量的・質的金融緩和」を遂行していくという決定に至ったということです。その時にも申し上げましたが、これでは早期に2%を達成するということはできないというように物価の基調が変わった場合には、躊躇なく、追加緩和であれ何であれ政策を調整します。今回の私からの挨拶では、この東海地方という、景気が着実に回復し、賃金も設備投資も伸びている地域での懇談ということも踏まえ、特に従来申し上げたことを繰り返し、かつ、強調しました。その際のポイントは、既往最高水準の利益をあげている東海地方の企業部門に対し、引き続き賃上げ、さらには設備投資に積極的に取り組んで頂きたいという希望を述べるとともに、日本銀行としては、2%の「物価安定の目標」を早期に実現するというコミットメントは不変であり、必要があればいつでも躊躇なく政策を調整するという強い姿勢をお示しした、ということです。

§11Question

10月30日の決定について、このまま継続することで2%の物価目標を早期に実現できると確信していたから、現状維持でよしとしたということをおっしゃいました。同時に11月の会合後の会見などでは、やはり賃金が極めて重要であると、非常に強い関心をもってみておられるとおっしゃっておられました。その意味では、2年連続のベアは実現したのですが、3年目の来春の春闘では、今年並みの賃上げ・ベアで十分なのか、2016年度後半に 2%の物価目標を達成する上で、今年並みで十分なのかどうか、それをまず 1 つお聞きします。その上で、連合については、今年は2%以上の賃上げ・ベアを要求したわけですが、今度は2%程度と若干トーンダウンしています。もし来春の春闘のベアが、黒田総裁が目論んでいらっしゃるというか、期待していらっしゃるような水準に達しない場合には、やはりこれは物価が上がらなければ、賃金も上がらない、賃金も上がらなければ、物価も上がらないと、11月の会合の時におっしゃったように、やはり物価 2%目標というのは遠のくのは必至ではないかと思います。その場合には、それが明らかになるか、あるいはそれが明らかにそうなるであろうと見越された場合には、追加緩和というのは、これはもう避けられないのではないかと思いますが、如何でしょうか。

§12Haruhiko Kuroda

本日の懇談の中でも、資料の図表 9 で賃金上昇率と物価上昇率のグラフによって、賃金と物価は中長期的にみれば、賃金が上がる時は物価も上がり、物価が上がる時は賃金も上がる、物価が下がる時は賃金も下がり、賃金が下がる時は物価も下がるという意味で、いわば同調して動くということを、統計的な事実として示しました。他方で、賃金が物価と同じペースでは上がらないので、物価だけ上げても仕方がないから、賃金がもっと上がるのを待とう、というようなことは全く考えていません。日本銀行としての目標であり、最も強く働きかける対象というのは物価ですので、先程来申し上げている通り、物価が2%の目標に向けて着実に前進していくということが重要です。2%の「物価安定の目標」を早期に達成することが難しいということであれば、何回も申し上げますが、躊躇なく追加緩和であれ、何であれ、金融政策を調整するという姿勢に全く変わりはありません。そうしたもとで、物価と賃金は同調的に動くわけですから、当然、私どもとしても、そういう物価のパスを考えていく上では、賃金も上がっていくことを期待しているということです。

§13Haruhiko Kuroda

ただ、何度も申し上げますが、私どもは賃金をコントロールできるわけでもありませんし、賃金をターゲットにしているわけでもなく、あくまでも、2%という「物価安定の目標」をターゲットにして、金融政策を進めているということであり、従来通り、2%の「物価安定の目標」の早期達成のために必要であれば、躊躇なく政策を調整するという考えに全く変わりはありません。

§14Question

賃金に関連して 2 点お伺いします。今後の春闘に対して関心を持っていることを言及されていますが、2%の物価上昇を安定して持続していくということに立てば、賃金は一時金というよりは、所得の持続的な改善が見込めるベアを重視されているということでしょうか。もう 1 点、賃金も今後上がっていくということを期待しているということをおっしゃっていますが、実際にはその押し上げていく要因となっている、原油安を除いた物価が上がっていけば、それに見合った形で賃金は上がっていくということを考えていらっしゃるのでしょうか。

§15Haruhiko Kuroda

まず前者については、これはマクロ的な話ですので、ベアとボーナスは当然入れるべきですが、定期昇給は含みません。定期昇給は、新しく入ってくる人と、労働市場からリタイアしていく人との関係を示すだけですので、マクロ的には、全体としての賃金を上げることになりません。一方、全体としての賃金を上げるという意味では、ベアであれ、ボーナスであれ、同じことですが、ベアという形になると、受け取る側の家計として、一種の恒常所得というか、安定的な所得としてみられるために、より消費につながり易いと思います。ボーナスで増えても所得は増えますが、来期はまた減るかもしれないというリスクがあるとすれば、ベアの方が消費にはよりプラスになり得るとは思います。しかし、それはそういうことであって、マクロ的には、賃金上昇というものはベアであり、それからボーナスも当然含んでいるということだと思います。それから、賃金上昇──ベアを含む賃金上昇──が、何によって決まってくるのかということは、色々な研究がありますが、マクロ的にいえば、需給ギャップがどんどん縮小し、プラスになっていくと、その過程で労働市場がどんどんタイトになっていきます。

§16Haruhiko Kuroda

現実に労働市場がタイトになっていることは、数十年来の高さになっている有効求人倍率とか、数十年来の低さになっている失業率をみても間違いないですから、その面から賃上げの圧力が効いてきていることはあると思います。もうひとつは企業側の収益、そして今後の製品価格の上昇のテンポそれ自体が、収益に影響してくるわけです。足許の収益や将来の収益見通しは、企業側からみればベアを含む賃上げの決定要因になっていると思われます。そのもう少し背後をみると、価格が今後どのくらい上がっていくであろうかということは、一方で、働いている人からみれば、当然それをコンペンセイトする(埋め合わせる)ような賃上げになって欲しい、という賃上げ要求になると同時に、企業側からみれば、価格が上がっていけば賃上げ分を吸収できる面もありますので、両方にとって、将来の物価上昇予想も影響してくると思われます。従って、足許の具体的な賃上げだけが価格に影響するとか、賃上げは価格だけで影響されるといったことではなく、マクロ的な、相互的な中で決まってくると思います。ベアを含む賃上げについては、やはり何といっても労働需給の状況と企業の収益の状況が具体的には効いてきますし、その背後にある物価上昇の予想も、当然寄与してくるだろうと思っています。

§17Question

11月24日の経済財政諮問会議で安倍首相が最低賃金を 1,000 円に引き上げるという方針を示されました。先程から繰り返されている通り、物価上昇と賃金上昇がパラレルということも考えますと、中小企業の賃金を上げるという意味でも最低賃金の上昇というのは、大事な要素なのかもしれませんが、一方で体力が弱い企業にとっては、厳しい面もあると思います。その最低賃金の引き上げということについて、黒田総裁はどのようにお考えでしょうか。

§18Haruhiko Kuroda

先程来申し上げています通り、中長期的にみると賃金の上昇と物価の上昇はシンクロナイズ(同調)しているわけですが、上昇率の水準については、労働生産性の上昇率分だけ賃金の上昇率の方が物価の上昇率より高くてもおかしくはないわけです。そういったことを前提として考えると、最低賃金を毎年3%目途に引き上げていくと、確か2020年頃までには 1,000 円の水準になります。この3%というのは、先程申し上げた、実質成長率2%、名目GDP成長率が3%程度であることと平仄が合っていると思います。まだ名目GDP成長率は3%になっていないとか、2%に実質成長率がなっていない、という議論があるかもしれませんが、そこは先程申し上げたように、中長期には、物価上昇率と賃上げ率は同調していますし、その差は労働生産性の上昇率になるわけですが、最低賃金が一部先行的に上がっていってもおかしくないと思います。実は米国などの研究でも、それがむしろ労働生産性の上昇を促すという面もあるという研究もあるようです。私自身は、3%を目途に最低賃金を上げて2020年に600 兆円のGDPが実現する頃に、最低賃金の水準を 1,000 円にするという政策自体は、極めて適正なものだと思っております。

§19Haruhiko Kuroda

そうした中で、中小企業等に厳しい問題があるというのは、ご指摘の通りであり、経済財政諮問会議で議論した際にも、中小企業の生産性を上げるための枠組みとか政府による支援とか、そういうことも必要ではないかということも、中小企業の関係者が指摘していました。政府の方も、そういったことを当然考えていくということをおっしゃっていましたので、私自身はこういう政策に違和感はありませんし、中小企業のことも十分考慮・配慮をしつつ、最低賃金を年間3%目途に引き上げていくということだろうと思っています。以上