← Back
Bank of JapanPress conferenceFeb 25, 2016Takahide Kiuchi, Board Member

木内審議委員記者会見(2016年2月25日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

2 点質問させて頂きます。1 点は、本日の金融経済懇談会の中で、鹿児島の経済界や行政の方とどのような意見交換があって、またそれを踏まえて鹿児島の経済状況をどのように捉えられたかという点をお聞かせ下さい。あと1 点は、今回のマイナス金利政策が鹿児島など地方の金融機関と地方の経済にどのような影響を与えると考えておられるか、お願い致します。

§2Takahide Kiuchi

本日の金融経済懇談会では、地元経済界、金融界を代表される方々にご出席を賜りまして、地域経済の現状や金融政策に関する貴重なお話や示唆に富むご意見を数多く頂きました。まず、その点につきまして、皆様方に感謝を申し上げたいと思います。懇談の場での議論を私なりに整理して申し上げたいと思います。まず地域経済の現状については、九州新幹線の開業効果などもありまして、中心市街地は比較的健闘しているというお話を伺いました。もっとも、県全体でみますと、高齢化、人口流出に伴って人口減少が進む中、人手不足の問題や、先行きの成長期待の低さ、経営環境の不確実性などに直面しており、設備投資を増やすという判断はなかなか難しいとのお話を伺いました。このように、当地の経済が様々な問題を抱えている中でも、人口減少への対応や地域経済活性化に向けて、鹿児島県の特産品のアンテナショップ事業や、海外向けのブランド育成・販売促進への取り組みといった様々な工夫によって長期的に成長していこうという前向きな動きがあることを確認することができました。日本銀行の金融政策運営については、政策の内容などについての分かりやすい情報発信や、これまでの政策への評価と共に、先行き慎重な政策運営を求める声も聞かれました。

§3Takahide Kiuchi

私どもとしては、中央銀行の立場から、当地経済の持続的成長の実現や金融システムの安定性の確保を図りながら、鹿児島県経済を支える関係者のご努力が大きな成果へとさらに繋がっていくようサポートして参りたいと考えています。この議論も踏まえて当地の経済金融情勢をどのようにみているかということでありますが、鹿児島支店が既に発表している通り「緩やかに回復しつつある」ということが鹿児島県の経済情勢に対する判断です。企業部門の景況感は良好な状態を維持しており、設備投資は良好な収益環境のもとで前向きなスタンスが維持されています。また、人手不足感が強まる中で雇用環境は着実に改善しています。そうしたもとで、家計部門では、個人消費が底堅く推移しているほか、住宅投資も基調としては持ち直しています。さらに、海外からの観光客が増加を続けています。先行きについても、こうした流れが続くだろうとみています。もっとも、人口減少や先行きの地域経済への不透明感が強いのも事実です。当地は「観光資源の宝庫」であると挨拶の中で申しあげましたが、その様々な魅力が国内外に広く認識されていけば、国内外からの観光客がさらに増加し、当地経済がますます発展していくことが期待されると思っています。

§4Takahide Kiuchi

2 つ目のマイナス金利の政策については、金融政策というのは特定の地域の経済金融情勢に影響を与えるという政策ではございませんので当地だけに特有の影響ということではないと思いますが、挨拶の中でも申し上げた通り、政策効果についてももちろん吟味する一方で、副作用の中では金融機関の収益性の問題はやはり重要です。当地についてもそういう点をこれからしっかりと見極めていくというのは重要ではないかと思っています。特に、地方に行きますと金融機関の収益性の厳しさというのは、大都市あるいは東京と比べてより厳しいものがあります。その中でマイナス金利の政策が金融機関の収益性をさらに圧迫するということになりますと、例えば貸出がより慎重になってしまうとか、あるいは何かショックが起こった時に金融資産を処分するという形で流動性を確保しようといった動きが出てくるとか、こういう事態によって、経済活動にとってマイナスの面が出てきます。つまり、貸出が伸びなくなる、あるいは金融市場が不安定になるということ自体が実体経済にマイナスの面もありますので、こういったマイナスの面がないかどうかも当地におきましても支店を通じてしっかりとモニターしていく必要があるのではないかと思っています。

§5Question

本日の懇談会の中で一番印象に残っている意見交換の内容がありましたらお願いします。

§6Takahide Kiuchi

一番というのは難しいのですが、当地以外にも色々な地域を訪問させて頂きまして、共通する問題点として、人口減少があります。人口減少によって需要が落ちるということもありますが、一方、供給側で言いますと、人手不足になり、需要があってもなかなか供給が追い付かないということが経済の成長の制約になっていることであったり、足もと人口が落ちているだけで先行きの成長期待が落ちてしまうということが設備投資をより慎重にさせてしまうことが、地域の大きな問題として皆様が意識されているということを確認しました。それからもう 1 つは、金融政策に関連する色々なご意見を頂きましたが、今の話と関連して、金利低下が設備投資にダイレクトに影響しにくい環境なのかなという印象を持ちました。つまり、個別の企業の方が設備投資をするかしないかというのは、僅かな金利の低下ではなく、個別の計画に基づいて決定していくものであり、さらに先行き成長を期待できるのかということがより重要な要素であるということからしますと、当地においては設備投資の金利に対する感応度が低いのではないかと、議論する中でそういった印象を持ちました。

§7Question

本日の挨拶要旨の 16 ページでも言及されていますが、以前から、急激な危機的状況では、資産買入れの拡大ではなく、一時的な流動性の供給を主張されていたと思います。仮に、一時的なマーケットのタービュランス(動揺)ではなく、日本銀行公表の金融システムレポートのリスクシナリオにあるようなアジア経済のゼロ成長シフトみたいな長期に亘る危機的状況になる場合でも、木内委員としては、一時的な時限的措置で十分で、さらにテーパリングを主張されるということなのでしょうか。それとも、そのような時期にはそれなりの新たな質なり量の対応を腹案としてお持ちなのか、お願い致します。

§8Takahide Kiuchi

もちろんどういう政策対応をするかは、どういった状況が起きるのかということで決まりますので、今の時点で、決め打ちでこうした政策がいいと明言するわけにはいきません。挨拶の中で申しましたが、金融政策としては相当なことをやってきたという思いがあります。一方で、「量的・質的金融緩和」の効果としては、一番重要な政策効果の源泉は実質金利の低下にありますが、実質の長期金利については 2014年あたりから下げ止まってきているということで、つまり、政策を続けても追加的な効果は出にくいということであります。一方で、今までの政策、あるいは今回のマイナス金利政策も通じて、やはり副作用の 1 つとして、潜在的には金融仲介機能を弱めている面がないだろうかという問題意識を持っています。金融機関の収益を圧迫する、あるいは市場の流動性をかなり下げてしまっています。国債市場については、国債の買入れによってそういうことが起こっていますし、例えば銀行間のコール市場、レポ市場などは、今回のマイナス金利の導入を受けて、金融機関がそこでの運用を絞り込むということが起こっています。ということで、金融システムの安定の観点から言いますと、収益性の低下と市場の流動性の低下ということが大きな問題としてあるかと思います。これは、今おっしゃられたような大きな経済のショックが仮に起こった時に、実体経済へかなりマイナスの影響が出てくると思います。

§9Takahide Kiuchi

私どもの発表しているFSR(金融システムレポート)などでもご覧頂きましたように、日本の金融システムは全体としては確かに安定しているわけですが、収益性が非常に低い中、そういった大きなショックが起こって、例えば資本が毀損されるという時に、金融機関の方がそれに対して敏感に過度にリスクを減らすような行動に出てくる可能性はあると思います。貸出を急に慎重化させたり、あるいは手持ちの資産を売却することによって流動性を確保するといった時に、市場の流動性がすごく落ちていますと市場が混乱するようなことが起こってくるという点からすると、私は、政策の重点というのは、物価安定、つまりマクロ金融政策よりも、金融システムの安定の方に徐々に軸足を動かした方がいいのではないかと思っています。こういう考えに基づきますと、今のご質問でありますが、何かショックが起こった時に、流動性を供給するという仕組みがまず必要であると思います。それは円貨についてもそうですし、外貨、特にドルについても、各国と協調しながら、今の枠組みを強化するという議論を進めていくという必要があると思っています。一方で、実体経済が悪くなりますと、そういう一時的な対応だけでなくて継続的な対応もしなくてはならないということでありますが、これについてはこう考えています。

§10Takahide Kiuchi

つまり、「量的・質的金融緩和」によって、限界的な効果はだいぶ逓減していると思っていますが、今までの累積的な効果はかなり残っていると思っています。具体的に言いますと、日本銀行が国債を大量に買って持っているということ自体が金利を下げている、実質金利を下げている、タームプレミアムを下げている、この効果は残っているわけです。私は買入れの減額を提案していますが、基本的には残高が落ちなければこの効果は消えない、というのがベースにある考えです。そういう意味で言いますと、もし長期に亘る経済の低迷が起こった時、一番重要なのは金融システムの安定を確保すること、これが崩れますともっと事態が悪くなってしまいます。2 番目としては、国債の買入れの残高を維持するということによって累積的な政策効果を維持していく。これがやはり重要な私どもの貢献となってくると思います。ただ、もちろんそれだけでは十分ではないという可能性がありますので、その時には経済政策全体で対応していくということであって、その中でも、もし無理に金融政策で追加的な対応していくということになりますと──効果を上回る副作用のある選択肢しか、もし残っていないということでありますと──、余計事態を悪くしてしまいますので、何が何でも金融政策だけで追加的に対応していこうというのが必要だというわけではないのではないかと思います。

§11Question

マイナス金利、付利の引き下げについては、今年1月にマイナス金利にするまでは 1 度も決定会合で議論されたことがないと思います。黒田総裁は1月29日の会合の1週間程前に事務方に選択肢を検討せよと指示してスイスに行かれ、スイスから戻られてそういう選択肢を実際にご覧になったのでしょうが、木内委員はいつの時点でこのマイナス金利を検討するということをお知りになったのでしょうか。そして反対されていらっしゃるわけですが、賛成した人を含め、ここまで社会に幅広く──いい影響、悪い影響を含めて──大きな影響を与えているこのマイナス金利のプロコンについて、しっかり議論がされ、その結果決まったという印象をお持ちなのかどうか、決定会合で十分な議論が――ここまで色々な影響が及ぶということも含めて――議論がされたとお感じになっているかどうか教えて下さい。また、挨拶要旨 16 ページに、危機の時に「一時的に潤沢な円資金・外貨資金を供給し」ということをおっしゃっていますが、危機には往々にして為替が円高になるということが過去起こってきたわけですが、今回のマイナス金利も円高対策という受け止め方を多くの人がしています。より為替相場に働きかける方法として日銀による外貨の購入というのは選択肢として考えられるのかどうか、これらをお聞かせ下さい。

§12Takahide Kiuchi

1 点目の決定会合の内容につきましては、特定の定められた方式によって皆様方に情報を開示していくということに照らしますと、発表をしていないことを申し上げるわけにはいかないと思っていますが、マイナス金利の検討につきましては、今ご指摘の通り、総裁が事前に事務方に指示していろんな選択肢を検討するようにという指示をしたと記者会見の場でも総裁から申し上げている通りであります。私どもとしては、決定会合の場で議論し、審議し、最終的に採決して、5 対 4 で採用したといった経緯がございます。金融政策については基本的には決定会合の場で議論するというのが法律の要求するところであります。ただマイナス金利については、欧州においても 2014年から実施されているわけでありますし、私もマイナス金利の功罪については随分前から考えてきています。その考え方につきましては挨拶要旨に書いている通りですが、「量的・質的金融緩和」で国債を買い続けてもなかなか実質金利が下がらなくなってきているという中で、少なくとも一時的に実質金利を下げる効果があるというのはマイナス金利、付利の引き下げというものであって、選択肢としては考えられるものだと思って参りました。しかし、大きな問題・副作用があります。

§13Takahide Kiuchi

1 つは、先程申しました金融仲介機能を損ねてしまう、これはひいては実体経済にもすごく悪い影響が及ぶ可能性もありますので大きな問題だと思いました。2 つ目は、やはり国債の買入れを難しくするという面があると思います。つまり、私どもの長期国債の買入れというのは、国債を買い取ってそのお金が当座預金に入るということであり、当座預金と国債の交換なわけです。従来は当座預金についている付利が+0.1%であったわけですが、これが部分的にはマイナスだということになりますと、より金利の低いものとの交換になりますので、金融機関としては、特にキャピタルゲインではなくインカムゲインを重視するような金融機関にとっては、従来よりも国債を売りたくないということになります。この面も含めまして、資産の買入れ策とマイナス金利というのは整合的ではないと思っています。

§14Takahide Kiuchi

ですから、もし採用するのであれば、国債の買入れの減額を行う、つまり、国債の買入れ政策については修正を行い、持続性を高めた上で行うというのが 1 つの選択肢であり、しかもそれが正当化されるのは経済金融情勢が非常に不安定にあるという危機時である、つまり、国債買入れの減額という国債買入れの持続性を高める施策をした上で、危機時の対応としてのみ検討されるというのが私個人の考えでありまして、今回については、この 2 つの条件とも満たしていないので反対ということだと思っております。こうしたマイナス金利の功罪について議論されたかというと当然決定会合では議論されました。それが果たして十分であったかどうかについては判定がつきにくいところもありますが、もちろん実際に導入した後で見えてきたマイナス面というのもあると思います。逆に言いますと、ある程度時間が経ってから出てくるプラスの面というのもありますので、導入発表からまだ1か月も経っていませんし、実際の導入から非常にまだ僅かな期間ですので、この時点で明確に功罪を、プラスとマイナスをはっきり判定するというのは時期として早いのではないかなと思っています。

§15Takahide Kiuchi

2 点目のご質問でございますが、やはりこの数年というのは、大手の金融機関は外貨建て資産を非常に増やしてきたわけでありますが、それに対して調達構造については、十分にそれにキャッチアップするほどの安定性はまだ確保できていない面もあり──全体としては安定していると思いますが──、まだ道半ばのところもありますので、今後世界的に経済金融情勢が不安定になった時にドルをしっかり確保していくというのは、日本の金融機関、特に大手の金融機関にとって重要な課題になってきます。こういう面でいうと、現在中央銀行間のスワップという形でドル供給の仕組みができておりますが、必要であればそれを強化していく──例えば貸出期間の長期化とかその頻度を見直していく──というのを考えてもいいのかなと思っております。それから、マイナス金利導入については円安政策ではないと私は思っていますし、外貨を購入するというのは私としては妥当な政策ではないと思います。まず為替についてはやはり安定していることが重要でありまして、今の水準からさらに円安にしていくことが経済にとってプラスかどうかは不明だと思います。

§16Takahide Kiuchi

さらに外貨、外債の購入などは、例えば米国財務省証券を購入しますと、その分米国の金利が下がるわけでありまして、それは米国の経済にとってはプラスかもしれませんが、私どもの経済にとってはプラスではないわけで、私どもの金融政策は日本の経済、日本の国民の利益ためにやるものでありますので、それにつきましてはなかなか有効な政策ではないのかなと思います。もちろん、為替が非常に不安定になる場合には、これは日本銀行のテリトリーではございませんが、政府の判断で為替介入ということも選択肢としてはあるわけでございますので、私どもが外債を購入して為替の水準を誘導しようとする政策を採ることはないと思いますし、それは妥当ではないと思っています。

§17Question

マイナス金利政策の副作用についてお伺いします。常々、国債の買入れの限界があるのではないかということで減額を提案されていると思いますが、マイナス金利政策の導入によって、さらにそのリスク――長期金利が急騰するなど――が高まったとお考えですか。また、効果として、黒田総裁は住宅ローンや貸出金利が非常に下がってきていて、それが預金金利の下げよりも大きいので、設備投資などにつながっていく、それでプラスの循環になっていくとおっしゃっています。木内委員は、むしろ預金金利の引き下げによって、逆に金融引き締めの効果につながるおそれもあるとおっしゃっています。そのおそれの方が大きいと思われる根拠というか、どの程度顕在化するおそれがあるのか教えて下さい。

§18Takahide Kiuchi

先程申しましたが、付利金利の引き下げあるいはマイナス金利の導入と国債買入れ政策というのは整合的でない部分があります。当座預金についている金利が下がる、一部はマイナスになるということになりますと、それに対して国債と交換しようというインセンティブが基本的には金融機関は下がるのではないかと思います。もちろん、マイナス金利を導入して国債の金利もだいぶ下がりましたので、売ればキャピタルゲインを稼げる部分はあり、そういったことを積極的に行う金融機関も一部にはあると思いますが、やはり今国債を保有している金融機関のかなりの部分は安定したインカムゲインを稼ぎたいということだと思います。そうすると、10年国債まで金利がマイナスになると、今手元に持っている、わずかにプラスがついている国債というのはまさに宝物のように大事に償還まで持つということになりますので、従来よりも国債を売りにくくなる、つまり私どもにとっては買いにくくなるということが起こると思います。マイナス金利を導入した途端札割れが起こるということにはなっていないのですが、より潜在的には困難さは高まっているということなのではないかと思います。

§19Takahide Kiuchi

ちなみに、今年は長期国債の政府のグロスの発行額と私どものグロスの購入額がほぼ見合うという形になってまして、これは詳細は省きますが、私どもの国債の買入れが、段々と民間が持っている国債の償還額以上に買わなくてはならないということです。今までは金融機関が積極的に売らなくても償還の分だけ国債を減らすと、それに見合って私どもも国債を買えたことから、まだ比較的スムーズに買えたのですが、今年からそこは変わってきまして、さらに事態はより難しくなってきます。つまり、国債が償還分減るだけでは、私どもが購入するのに必要な分だけ民間の国債の残高が減らないということになってきます。そうすると、民間が償還前に売ってくれなくてはいけないのですが、まさにそのインセンティブを相当奪ってしまったというのがマイナス金利の導入だったのかなと思います。そういう意味で、潜在的には国債の買入れの安定性は下がったと思います。もし買入れが難しくなってきますと、いわゆる流動性がすごく下がる形になりますので、金利がすごくボラタイルになります。国債市場が不安定になりますと、それが株式市場とか、為替市場とか、色々な市場の安定を損ねる部分がありますので、そういったことが起こってしまいますと、実体経済にとってもマイナスであります。

§20Takahide Kiuchi

今の時点であまり問題が見えてないからいいということではなくて、早く手を打たなくてはいけないなということもございまして、私としては減額の提案を続けているということであります。政策の効果については、短期間ではまだ分からないという部分もあります。預金金利も下がって、貸出金利も下がって、両方とも下がってはいますが、すごく僅かな水準でしかない。例えば、ヨーロッパなどがマイナス金利を導入した時には、貸出金利も預金金利ももっと高いわけです。そういう意味では下がる余地もある、あるいは銀行の利鞘ももっと大きかったわけです。ある程度銀行が利鞘を縮小して、金融緩和の効果が銀行以外に染み出していく余地がありました。それに対して、日本は両方とも金利が低くて利鞘も限界まで小さくて、という中では、金利引き下げの効果が相対的には出にくいという面があるのではないかと思います。一方で、挨拶要旨の中で「金融引き締め」と表現しましたのは、金融機関のマージンがすごく減りますと、それを何とか確保する、確保するというのはそれを金融機関以外の家計とか企業に転嫁することになります。その時の手法としては、普通の預金金利はマイナスにならないとしますと、例えば手数料を課していく、口座の管理手数料を課していく、あるいは貸し出しについては、貸出の金利を上げる、こういう動きはヨーロッパでは実際一部に出ているわけです。

§21Takahide Kiuchi

普通ですと政策の金利を下げていくと金利全体が下がるわけですが、金融機関の収益がすごく悪化してそれを何とか確保して、その分コストを銀行以外に転嫁していこうとする手段の 1 つとして、貸出金利を上げるということが実際起きています。そうなりますと、それは金融緩和の効果ではなくて、引き締めの効果になってしまいます。今の時点ではもちろんそういうことは起こっていませんが、ヨーロッパでも導入してすぐ起こったわけでなくて、ある程度時間が経ってからそういったことが起こっていますので、そういったことが起こらないかどうか注視していく必要があると思っています。

§22Question

先程、日本では貸出も預金金利も低いなか、金利を下げることの効果が出にくいということでしたが、先行してマイナス金利を導入した欧州諸国の中でも、金融政策は既に手段においても限界を迎えているのではないか、という声も聞かれるようですが、日本についてはどのようにお考えでしょうか。つまり、マイナス金利自体はまだ導入して間もないので、その効果ということを見極めるのは早いとしても、将来を見通した時に、金融政策が採れる手段やできることは限界に近づいているのでしょうか。

§23Takahide Kiuchi

日本の金融政策については、既に「量的・質的金融緩和」の導入後、かなりのことをやってきたと思いますし、私自身はそれなりの成果を発揮したと思っています。「量的・質的金融緩和」の導入前は、いわゆる経済の需給ギャップがかなり開いていましたし、物価もマイナス基調が続いていました。それに対して、「量的・質的金融緩和」というやや異例の政策が行われたということも貢献しまして、需給ギャップは比較的早期に解消されたということでありますし、その過程で物価の基調もマイナスからプラスになりました。そういう点で言うと、日本の金融政策、「量的・質的金融緩和」の効果は相応に発揮されたのではないかなと思います。ただ、この政策は長く続けていれば加速的に効果が出てくるというものではなくて、やはり初期段階に効果が出やすい政策手段だと思いますし、私もそう考えておりましたので、比較的短期の政策手段だという意識で、そういう条件で賛成したという経緯があります。そして、ある程度予想していたことではありますが、先程申しましたように、実質の長期金利などの動きをみますと、2014年あたりから下がらなくなってきた。

§24Takahide Kiuchi

これも繰り返しになりますが、それ以前にやってきた政策──特に国債の買入れ政策──によって実質金利が水準としては下がっていますので、それが日本の需要を押し上げているというところは残るわけでありますが、重要なのは、追加的な、限界的な効果ということでありまして、これについてはかなり逓減してきているということではないかなと思います。マイナス金利によって、さらに実質金利が多少下がったとは思いますが、下がった幅がやはり小さいということです。一方で、日本だけではありませんが、グローバルにややインフレ期待が下がっているということも実質金利を下げにくくしているという点からすると、非常に効果の高い政策を打ち出すのが段々難しくなってきているということではないかと思っております。もちろん、技術的に追加策が可能かということと、妥当な緩和策があるのかどうかということはまた別の話でありまして、技術的には金利をさらに下げるとか、短期的には国債をもっと買うということは可能かもしれませんが、それは少し長い目でみるとむしろ経済にマイナスの影響を与える可能性もある。そういう効果と副作用のバランスからしますと、十分副作用を上回る効果を期待できるような追加策を見つけるのが徐々に難しくなってきている、というのが日本の現状ではないかと思います。

§25Takahide Kiuchi

ただ一方で、繰り返しになりますが、私どものできることとしては、買った国債の残高を維持することによって日本経済をずっと支えていくという役割は負っていると思いますし、先程申しましたが、私どもの政策の使命としては、物価の安定と、信用秩序の維持──つまり金融システムの安定──という 2 つの使命がある、デュアル・マンデートなわけです。信用秩序の維持については比較的金融システムが安定しているのであまり注意を払ってこなかった面がありますが、逆に物価安定に注力してきた結果、信用秩序の安定を潜在的には少し損ねている部分があるのではないか、ということを考える必要が出てきているのではないかと思います。そういう意味では、信用秩序の維持という観点からは、ある意味まだ対応の余地はいっぱいあるということでして、その一環として、円貨・外貨の流動性を供給するようなスキームを拡充することが考えられます。もちろん金融機関が円貨・外貨の調達に一気に困るという事態は起こらないかもしれませんが、そういう手段を私どもがしっかりと確保していくということによって、何かショックが起こったときに金融機関が過度にリスク回避の行動を取っても、それによって実体経済が悪影響を受けるということがないような効果があると思います。

§26Takahide Kiuchi

ということで、直接的に物価安定の目標に寄与するような非常に有効な追加策についてはなかなか見つけるのが難しくなってきていると個人的には思っていますが、一方で、もう 1 つのマンデートである信用秩序の維持という観点からすると、まだまだできる余地があるというか、すべきであるということで、2 つのマンデートの間のバランスをむしろ正常化していくのがこれからの重要な役割になっていくのではないかと思っています。

§27Question

マイナス金利を導入すべきタイミングというのは、講演でもおっしゃっていた通り、金融経済情勢が著しく悪化するような危機的状況においてのみ有効であるとお話をされていると思うのですが、こうした状況においてマイナス金利政策が有効である理由というのは、ちょっとその部分を噛み砕いて教えて頂けますでしょうか。

§28Takahide Kiuchi

やはり中央銀行が何かアクションを起こさないと経済・金融の安定が著しく損なわれてしまうような時には、一時的な対策として何がしかのことを考える必要があるのではないかと思います。ただ、全く中身がないものであれば効果が出ないわけです。マイナス金利については先程も申しましたが、既に「量的・質的金融緩和」のもとで実質金利が下がらなくなってきている中で、イールドカーブの起点である金利を下げればおそらくイールドカーブ全体が下がる──もちろん一時的ですが──という意味である程度実効性のある政策であり、そういう政策を経済金融環境が著しく悪い時に打ち出すことによって、その大きな落ち込みを支える、跳ね返すような一時的な効果──決して持続的な政策だとは思っていませんので、一時的にそういった事態を改善させる効果──があるのではないかなと考えておりまして、今回はそういった危機的な状況でもないので賛成しなかったという経緯です。では、もしそういった事態が起こった時にもう1回金利を下げればそういう効果を発揮できるのかというと、効果としてはやはり初回の引き下げにあるのだと思います。

§29Takahide Kiuchi

ですから、何か起こった時に多くの人は違和感を持つかもしれませんが、マイナス金利を導入することで安定を確保するというのは選択肢としてはあったと一般的には思いますが、既にやってしまっているということを考えると、今後、事態がすごく悪化した時にさらなる金利引き下げが有効かどうかというと、ちょっと不確実性が高まったと個人的には思っています。

§30Question

長期金利が連日過去最低を更新していますけれども、このような状況で、今、市場がボラタイルになっているとお考えなのかどうか、ということをお聞かせ下さい。

§31Takahide Kiuchi

マイナス金利導入後の市場の動きは、多少不安定性が高まった面はあると思っています。それについては、マイナス金利の導入が、金融機関の収益性の悪化につながると株式市場で懸念された面があります。それから、日本銀行がマイナス金利を導入したことによって、世界的に同じような動きが強まらないかどうかというような見方が強まったというのもあります。3 つ目は、色々な金融取引の不確実性が高まった面があります。つまり、マイナス金利というのが果たして法的に可能なのかどうか、あるいは金融機関のシステム上対応できていないのではないか、そういう問題がいっぱいあるわけです。そういう不確実性がありますと、色々な金融取引が委縮してしまうのではないか、実際、懸念だけではではなくて、コール市場とかレポ市場とか──今後は段々と回復していく面はあるかもしれませんが──縮んでしまった。そういう事態は、やはり金融取引全体の活動を損なう面もあって、経済にもマイナスの面もありますし、何か起こった時に金融機関が流動性を確保するのが難しいという点で言うと、先程来申し上げております金融システムの安定という観点からも問題があります。それともう 1 つ申し上げたいのは、これとも関連しますが、イールドカーブの起点となる金利の水準――簡単に言いますとコールレートですが――がなかなか定まらない。

§32Takahide Kiuchi

私どもが限界的な当座預金残高の部分がマイナスになるように決めていくということになりますと、限界的な資金のやり取りで決まるコール市場もそれに近い水準になっていくと見通しを示してはおりますが、それに対してコール取引のシステム対応も整っていないということもあって、なかなかどの金利の水準に落ち着くのかというのが市場では見えない。イールドカーブの起点が定まらないとイールドカーブ全体が不安定になるのはある意味当たり前でありまして、現状においても債券市場全体としてはややボラタイルな状況にあります。今後落ち着いていくと期待はしておりますが、そういうことが起こっているのではないかなと思います。さらに債券市場のボラティリティの高まりというのが他の市場に、株式、為替市場などにも影響を与えている、という面がやはりあるだろうという風に思っています。以上