原田審議委員記者会見(2016年10月12日)要旨
Full text
§1Question
本日の金融経済懇談会でどのようなことが話し合われたのか、お聞かせ下さい。
§2Yutaka Harada
懇談会では、当地の経済界や金融界を代表する方々から、地域経済が直面する課題や、日本銀行の金融政策運営に対する貴重なご意見を賜りました。大変有益かつ示唆に富む意見交換ができたことについて、懇談会にご出席頂いた方々に改めて感謝申し上げたいと思います。全てを網羅できませんが、席上聞かれた話を整理して申し上げます。当地の景気については、総じてみれば「まだら模様」とのご意見が多く聞かれました。インバウンド客をはじめ県内観光需要が好調である、コンベンション誘致の経済効果がみられている、といった明るい話題が聞かれました。一方で新興国経済の減速や円高を受けて製造業の収益改善のペースが鈍化しているといった話や、家計の支出抑制スタンスの強まりを訴える声も聞かれました。こうした中で、大企業と中小企業との経済格差が大きい、また中小企業の中でも格差が拡大している、同じ業種でも格差が大きく一括りにできない、といった話を異口同音にお伺いしたのは大変印象的でした。特に、当地には大企業の下請けの中小・零細企業が多く、円安の際にはなかなか恩恵が受けられない一方、少しでも円高になれば値下げ要請を受け、苦境に陥っているとのお話を伺いました。こうした皆様からは、為替水準の安定をお願いしたいとの要望を頂きました。
§3Yutaka Harada
金融界からは、マイナス金利政策について、マイナス金利による利鞘の縮小が金融機関の収益にマイナスの影響を与えているほか、個人や企業にも将来不安を抱かせているとのご意見を伺いました。私どもとしては、中央銀行の立場から物価安定のもとでの経済の持続的成長を実現していくことにより、金利も上昇し、金融機関の利鞘も回復して、その経営も安定するものと考えております。
§4Question
長野県の経済についてどう見ていらっしゃるのか、率直な見方をお聞かせ下さい。
§5Yutaka Harada
長野県経済は、基調として緩やかに回復しているとみております。日本銀行松本支店が 9月に公表した短観の業況判断D.I.をみますと、製造業が持ち直していることから、企業の景況感は 2 期連続で改善しています。すなわち、製造業では、昨年後半から、当地主力の電気機械などで中国など新興国経済の減速の影響を受けてきましたが、足許、スマートフォン向けの電子部品や、国内、北米向けの自動車部品の生産が上向いています。企業業績は円高の影響などから弱含んでいますが、設備投資は製造業を中心に増加しています。非製造業では、インバウンド客の増加や大河ドラマ「真田丸」の放映などもあって観光が堅調であるほか、雇用・所得環境が改善していることから、個人消費は底堅く推移しています。住宅投資も低金利環境を踏まえ持ち直しています。以上を踏まえると、長野県経済は、家計・企業部門において、所得から支出への前向きな循環メカニズムが引き続き着実に働いているものと思われます。
§6Question
前回の金融政策決定会合では、新しい枠組みとしての政策目標がお金の量から金利へと転換しました。委員はこれまで量を重視されてきたと思いますが、今回の決定をどう評価され、支持されたのでしょうか。また、大規模緩和による国債の金利低下で、政府の財政規律が緩みつつあるといった懸念の声もありますが、どうお考えでしょうか。
§7Yutaka Harada
まず、私が量を主体に考えているにも拘らず、今回の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」になぜ賛成したのか、というご質問についてです。この政策は 3 つの内容からなっており、1 番目が長短金利操作、2 番目が「オーバーシュート型コミットメント」、3 番目が今後の金融緩和の手段を明記したことです。まず、1 番目の長短金利操作ですが、私としては、イールドカーブが異常に寝てしまっていたことについて、必ずしも市場が正しい情報を伝えておらず、ある程度スティープ化することは良いことだと考えています。20年物金利が一時的に0.1%になったことは少しおかしいと思いましたし、イールドカーブが少しスティープ化するようにコントロールするということは良いことだと考えましたので、賛成しました。それから「オーバーシュート型コミットメント」についても、2%の「物価安定の目標」を安定的に達成することが目標ですから、2%を超えるのは当たり前ではないかというご意見もあります。一方で 2%を少しでも超えたら止めてしまうという解釈もあるため、2%を明確に超えて、安定的に2%になるまで量を増やすということは、量に対する強いコミットメントであると考えております。3 番目に、今後の追加緩和の手段を明記しました。市場関係者を中心に金融緩和の限界についての意見がありました。
§8Yutaka Harada
限界があるという考え自体が緩和効果を阻害することになりますので、それを明確に否定する必要があります。その点、長短金利をそれぞれさらに下げることが可能だということ、資産買い入れの「質」の拡大も可能であるということ、それからもちろんマネタリーベースの目標をさらに増やすことも可能だということ、これらを明記することが緩和の限界論に対する明確な反論になっていると考え、以上を総合的に評価して賛成しました。財政規律については、政府のお考えになることで、私がどうこう言うことではありません。金利が下がっているのは、まさに金融緩和の結果です。その結果として、確かに政府が借り易くなっている面はあります。ただ、増税してお金が入ってくるとか、景気が良くなってお金が入ってくるといった時にも、財政規律が緩むと心配するのと同じことです。景気が良くなれば2%の達成も早まるということで金融政策をやっているのですから、財政規律を緩めるから良くないというのはおかしいと思います。財政規律については、政府、議会で決定されることで、きちんとやって頂けると思います。
§9Question
2 問お伺いします。1 問目は、次回の金融政策決定会合では、また展望レポートについて議論することになると思いますが、前回の展望レポートの中では、2%の達成時期について、2017年度中としておりますけれど、足許の消費者物価指数をみても極めて低調な状況が続いておりますし、今日の講演でも委員がその点を指摘されています。これを後ろ倒しにせざるを得ないとの見方もありますが、その点についてどのようにお考えでしょうか。また、会合ごとに物価達成の目標が後ろ倒しになると、催促相場のようになって追加の緩和を求めるような声がすぐに出てきますが、これについてどのようにコミュニケーションを図っていくのか、お伺いします。
§10Yutaka Harada
まず 1 問目の、次回の展望レポートについてですが、次回の政策決定会合でどういう意見を述べるのかは、基本的にお答えできません。ただ、物価の見通しについては、上昇するとの見通しが現在のところ後ずれしているというのは事実ですから、そういう見通しになると思います。それから、2 問目の催促相場についてですが、まず、私は2%の「物価安定の目標」を達成するためのメカニズム、つまり、所得から支出へのプラスの循環メカニズムが崩れることがあれば、躊躇なく追加緩和が必要だと考えています。日銀の執行部も同じように説明していると思います。2%達成が危うくなるような状況について、それがどういう状況なのかは一概には申し上げられませんが、そういう状況になれば緩和するし、そういう状況でなければ緩和しないと言うことです。ですから催促相場でどうこうというふうにはならないと考えています。私としては、そういう方針を十分に説明しているつもりですが、市場関係者も色々な思惑があって発言したり、動くものだと思います。「私たちの方針はこうです」と説明して、それで納得して頂けるかは分かりませんが、私としては今述べたことを着実に説明していけば、ご理解頂けると考えております。
§11Question
日本の金融市場は今、非常に落ち着いていますが、緩やかに円安も進んでいます。ただ世界を見ますと、イギリスのポンドが急落していまして、これをどう見ておられるでしょうか。具体的には、日本経済への影響や、日本の為替・物価への影響があると心配すべきなのか、さほど心配しなくてよいのか、という点について回答をお願いします。
§12Yutaka Harada
ポンドの下落が日本経済にどのような影響を与えるかという質問ですが、実体経済を通じる影響を考えれば、ポンドの下落が日本経済に大きな影響を与えることは基本的にはありません。あるとすれば、ポンドが下落して安全通貨だから円が高くなるというメカニズムを通じて、日本経済に影響があるということです。しかし、ポンドが下落する理由は分かりますが、なぜ円が安全通貨だと評価されて円高になるのかという点はよく分かりません。何かマーケットの思惑のようなことで、そのように動いたことがありましたが、今はそうでもないと思います。市場関係者には、「日本は財政赤字が大変だから円は暴落する」といった反対の考えもありますので、私には理解が難しいところがあります。
§13Question
2 点お伺いします。1 点目は、委員から先程「オーバーシュート型コミットメントは量への強いコミットメントだ」というお話がありましたが、決定会合の文章などをみると、7月までは量についての項目を立て、かつ80 兆円に相当するペースで増加するように、ということでした。今回はめどという言葉が付いて、量に関してのコミットメントが弱まっているように感じますが、どのようにお考えですか。2 点目は、いわゆる「量」を重視するリフレ派といわれる委員、例えば原田委員は今回の決定会合の内容には反対すべきだったのではないかと指摘する方もいらっしゃいますが、そういった指摘についてどうお考えでしょうか。
§14Yutaka Harada
まず、「オーバーシュート型コミットメント」が量を重視していることは、先程申し上げた通りです。そのうえで、長短金利操作によって80 兆円が動くということが量の軽視ではないかとのご質問にお答えします。まず、ポジティブなショックがあった時に、例えば10年物金利について考えると、当然金利が上がるわけです。金利が上がるようなショックがあった時に金利をゼロに止めようとすることは、良いことがあった時にそれを更に拡大するような金融政策を行うことになりますので、これは金融緩和の強化です。次に、ネガティブなショックで金利が下がるケースを考えてみます。仮に日本の輸出を急減させるようなショックがあれば、何もしなければ金利は下がります。金利が下がる時にこれをゼロに止めようとすれば、買入額を減らすことになりますが、これは金融を引き締めることになります。そうではなく、ネガティブなショックがあった時には、技術的にちょうど 80 兆円のペースになるかは分かりませんが、80 兆円をめどに買入れを進め、その結果、金利が下がってもそのままにするということです。ここでの説明は、ポジティブなショックとネガティブなショックでは政策対応が非対称になることを含意しています。特にポジティブなショックがあった時には、緩和の強化であると考えております。
§15Yutaka Harada
それから、リフレ派は量を重視するのだから量を重視しないような政策には反対すべきだ、というご質問についてです。まず、リフレ派という言葉ですが、デフレから脱却して、日本経済を成長軌道に乗せるために、2%の「物価安定の目標」を設定し、その達成を目指すのがリフレ派であると私は考えています。その意味では日本銀行は皆リフレ派ですし、政府において経済政策に関係している方々も、全てリフレ派です。2%の「物価安定の目標」を達成する必要がないというご意見の方は、ごく少数であり、敢えて言えば、異端の経済政策を標榜している方々ではないかと思います。では、どうやって2%の「物価安定の目標」を達成するのか、どうしたら上手くいくのか、どうしたら出来る限り早期に達成できるか、ということについては、色々な議論があると思います。「量」・「質」・「金利」の三次元を上手く組み合わせて、2%の「物価安定の目標」の達成を目指すと日本銀行の全員が考えていると思います。政府の経済政策を担当する方々も、目標に賛同したうえで手段については日本銀行を信頼して下さっていると私は思っております。2%の「物価安定の目標」を達成するために、政府も日銀も一生懸命やるということですから、その意味で全員がリフレ派だと考えています。
§16Yutaka Harada
世界中というと言い過ぎですが、先進国の中央銀行、それから新興国の中央銀行の多くも、2%のインフレ目標を標榜しておりますので、敢えて言うなら、全世界がリフレ派だと考えております。
§17Question
午前中の懇談会で、「長野県の経済を総括するとまだら模様」という言葉がありましたが、日本経済の潜在成長率が低迷している中で、9月の政策枠組みの見直しが、中小企業の収益改善にどう寄与するのかという点をお答え頂きたいのですが、苦しんでいる中小企業の経営者の皆さんに向けたメッセージをお聞かせ下さい。
§18Yutaka Harada
日本全体の経済が良くなっているのに、賃金の上がり方が鈍いと言われますが、賃金自体も僅かに上がっていますし、賃金に雇用者数を掛けた雇用者所得は安定的に増えています。現在、所得が増えているにも拘わらず消費性向が下がって、消費がなかなか増えないという状況にありますが、所得の上昇が長く続けばやがて消費に向かっていきます。その消費が日本の全ての企業を潤すはずですので、やがて日本全体の中小企業の収益にもプラスになると考えています。雇用情勢をみれば、全ての県で有効求人倍率が 1 倍を超えていますので、景気回復の効果が全ての地域に少しずつ及んでいることは事実だと思います。こうした状況が続くことによって、中小企業の方々にも実感のある景気回復になると思います。
§19Question
国債の買入れについて、年間増加額80 兆円というのは、先程からの質問にもありますように、ターゲット(目標)から格下げされてめどとなっています。金利を目標にすることによって、このめどである 80 兆円は上下するということを黒田総裁も仰っています。これは、金利を今の水準に維持するために80 兆円が必要でなくなってきた場合、仮に70 兆円とか 60 兆円と 10 兆円単位となるとかなりの幅だと思うのですが、そういっためどが 10 兆円区切りで下がることについて、原田委員は許容されるのでしょうか。近い将来にそういったことがあるかどうかも含めてお聞きします。
§20Yutaka Harada
80 兆円というのは、短期金利が-0.1%で、長期金利がゼロ%程度という現在の状況に見合う国債の買入額が 80 兆円であると考えております。この80兆円から大きく動くのはどういう場合かといえば、何かネガティブなショックがあった時に、それでもゼロのままにしようとすれば、買入額が減ってしまいます。ネガティブなショックの時には基本的には買入額を減らさない、つまり景気が悪くなっているのだから、とりあえず80 兆円程度を買っておいて金利の低下を許容する、金融の引き締めにならないようにするということです。ネガティブなショックが非常に大きければ、追加緩和になると思いますが、ネガティブなショックが小さければ、そのままということだと思います。非常に大きくポジティブなことが起きている時ですが、基本的に長期金利がゼロ%程度に止めようとするので、買入額は 80 兆円よりも上に行くことになります。2%の「物価安定の目標」を達成している場合は、80 兆円より減っているでしょうが、それは当然のことだと思います。
§21Question
現在、日銀は 2%の物価目標の達成時期を 17年度中としていると思いますが、原田委員自身は17年度中というのは可能とお考えになっているのかということがまず 1 点。また、現時点で追加緩和の必要性を感じておられるのかどうかお聞かせ下さい。
§22Yutaka Harada
次回の金融政策決定会合での私自身の発言を予想できるような発言は差し控えたいと思います。まず、今回の講演でも、物価の見通しについては、事実として、従来予想していたパスを通っていない、見通しよりも下を通っていると話しました。ですから、今のところ見通しは下になると思います。もう 1 つは、現時点で追加緩和が必要かということですが、雇用情勢の改善がトレンドとして続いていますので、現時点では必要ないのかもしれません。何れにしろ、金融政策決定会合において、他の委員ともよく議論したうえで、決めたいと考えております。以上