総裁定例記者会見(2016年11月1日)要旨
Full text
§1Question
今回の決定会合の結果と展望レポートの内容についてご説明下さい。
§2Haruhiko Kuroda
本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆる「イールドカーブ・コントロール」のもとで、これまでの金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利について、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行います。買入れ額については、概ね現状程度の買入れペース、すなわち、保有残高の増加額年間約 80 兆円をめどとしつつ、金利操作方針を実現するよう運営することとします。また、長期国債以外の資産買入れに関しては、これまでの買入れ方針を継続することを賛成多数で決定しました。本日は、展望レポートを決定・公表しましたので、これに沿って、先行きの経済・物価見通しと金融政策運営の基本的な考え方について説明します。まず、わが国の景気ですが、新興国経済の減速の影響などから輸出・生産面に鈍さがみられるものの、基調としては緩やかな回復を続けています。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、緩やかな成長が続いていますが、新興国を中心に幾分減速しています。そうしたもとで、輸出は横ばい圏内の動きとなっています。国内需要の面では、設備投資は、企業収益が高水準で推移するなかで、緩やかな増加基調にあります。
§3Haruhiko Kuroda
個人消費は、一部に弱めの動きがみられますが、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、底堅く推移しています。住宅投資は持ち直しを続けており、公共投資は下げ止まっています。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は横ばい圏内の動きを続けています。9月短観の結果をみますと、企業の業況感は、総じて良好な水準を維持しています。また、金融環境については、極めて緩和した状態にあります。先行きのわが国経済は、暫くの間、輸出・生産面に鈍さが残るものの、その後は緩やかに拡大していくと考えられます。国内需要は、極めて緩和的な金融環境や政府の大型経済対策による財政支出などを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが維持されるもとで、増加基調を辿ると考えられます。この間、海外経済は、幾分減速した状態が暫く続いたのち、徐々に成長率を高めていくと考えられます。このため、輸出は、緩やかな増加に転じるとみられます。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、小幅のマイナスとなっています。予想物価上昇率は、弱含みの局面が続いています。
§4Haruhiko Kuroda
先行きについては、消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面小幅のマイナスないし 0%程度で推移するとみられますが、マクロ的な需給バランスが改善し、中長期的な予想物価上昇率も高まるにつれて、見通し期間の後半には2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。なお、2%程度に達する時期は見通し期間の終盤である 2018年度頃になる可能性が高いと考えられます。こうした中心的な見通しに対するリスク要因をみると、海外経済の動向など、経済・物価ともに下振れリスクの方が大きいとみています。物価面では、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されているとみられるものの、前回見通しに比べると幾分弱まっており、今後、注意深く点検していく必要があります。なお、展望レポートについては、佐藤委員、木内委員から、消費者物価の前年比が見通し期間中には 2%程度に達しないことを前提とする記述の案が提出され、否決されました。日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。また、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に 2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続します。
§5Haruhiko Kuroda
今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行います。
§6Question
今回の展望レポートでは、2%の物価目標の達成時期について、2018年度頃へ先送りをして、現在の総裁任期中に物価目標を達成することが難しいと、日銀自らが認めたわけですが、これについて総裁はどう思われますか。
§7Haruhiko Kuroda
今回の展望レポートでは、先程申し上げたように、物価上昇率が 2%程度に達する時期について 2018年度頃になる可能性が高いとしました。この後ずれは、中長期的な予想物価上昇率の弱含みの局面が続いていることなどを反映したものです。ご案内の通り、中長期的な予想物価上昇率は、中央銀行の物価安定目標に収斂していく「フォワードルッキングな期待形成」と、現実の物価上昇率の影響を受ける「適合的な期待形成」の2 つの要素によって形成されます。先般の「総括的な検証」で示したように、このところ、中長期的な予想物価上昇率は、現実の物価上昇率が 0%程度ないし小幅のマイナスで推移する中で、「適合的な期待形成」の要素が強く作用し、2015年夏場以降の弱含みの局面が続いています。今回の見通しの修正は、こうした動きを踏まえたものです。
§8Question
米国大統領選挙は、大詰めを迎えていますが、現在、トランプ候補が追い上げていると伝えられています。大統領選挙の結果が、世界経済あるいは金融市場に及ぼす影響やリスクについて、総裁はどのようにお考えでしょうか。
§9Haruhiko Kuroda
米国で、11月8日に大統領選挙が行われる予定であることはよく存じています。米国の大統領選挙の結果は、もちろん、米国経済にも影響を与えるでしょうし、世界最大の米国経済ですので、ひいては世界経済にとっても重要な意味を持つということで、国際金融市場でも非常に注目されています。日本銀行としても、その影響を含め、引き続き国際金融市場や世界経済の動向を注意深くみていきたいと思っています。
§10Question
物価上昇率の見通しに関して、2%程度に達する時期が 2018年度頃という「頃」の範囲について、どうお考えなのかをまずお聞かせ下さい。2 点目は、物価見通しについて、2016、17年度ともに下方修正されていますが、それにもかかわらず追加緩和を見送りということになっているわけですが、その理由についてお聞かせ下さい。
§11Haruhiko Kuroda
2018年度頃というのは正にその通りでして、別にどういう幅とか、そういうことは特別な議論はしていません。展望レポートで示した通りです。今回、物価の見通しが後ずれしましたけれども、追加緩和は行いませんでした。過去をみても、展望レポートで 2%に達する時期の予想が後ずれしたからといって必ず追加緩和したというわけではありません。後ずれしなくても追加緩和したこともありますし、両者はぴったり合っているわけでは元々ないと思います。金融政策運営については、あくまでも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行うという方針であり、これは前回の公表文にも、また今回の展望レポートにも示されている通りです。今回の展望レポートの中心的な見通しでは、消費者物価の前年比は、当面小幅のマイナスないし 0%程度で推移するものの、マクロ的な需給バランスが改善し、中長期的な予想物価上昇率も高まるにつれて、見通し期間の後半には、2%に向けて上昇率を高めていくと考えています。すなわち、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されていると判断したわけです。
§12Haruhiko Kuroda
もとより、こうした中心的な見通しについては、経済・物価ともに下振れリスクがありますので、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが、前回見通しに比べると幾分弱まっているということも踏まえて、今後、十分注意深く点検していく必要があると考えています。
§13Question
2%の「物価安定の目標」が総裁任期中達成できないということで、端的にその責任についてどう考えていらっしゃいますか。責任という意味は、もっとやりようがあったということなのか、あるいはベストは尽くしてきたが外部環境的にという話なのか、どういう分析をされているのかというのが1 点目の質問です。2 点目は、総裁が日銀に入られた時に、それまでの日銀は物価安定の責務をきちんと果たしてこなかったという、かなり厳しいこともおっしゃられていたと思うのですが、ご自身もこの5年の任期でその責任を完全に果たすのを見届けることなく、もしかしたら去られるかもしれないということで、それについてどのようにお考えでしょうか。
§14Haruhiko Kuroda
先程申し上げた通り、今回の展望レポートでは、物価上昇率が 2%程度に達する時期については、2018年度頃になる可能性が高いとしています。後ずれの理由についても、先程申し上げた通りです。2013年4月にいわゆる「量的・質的金融緩和」を導入して以降の物価の動きについては、前回の金融政策決定会合で公表した「総括的な検証」にかなり詳しく書いてありまして、その事情によって、現在のような物価の動向になっているということであろうと思います。元々、わが国の成長率あるいは物価上昇率が先行きどうなるかということと私自身の任期の間には、特別な関係はないわけであり、日本銀行としては当然のことながら、2013年1月に決定し、政府との共同声明ではっきり約束した通り、政策委員会において、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために適切な政策を決定し、実行していくということに尽きるのではないかと思います。なお、物価の見通しが後ずれしてきている状況については、欧米の中央銀行の場合も全く同じであり、その背景には、もちろん非常に大きな原油価格の下落であるとか、あるいは新興国経済の減速であるとか、その他、世界的な共通の事象が影響していると思います。
§15Haruhiko Kuroda
2%という「物価安定の目標」というのは、欧米の殆どの中央銀行が採用していますが、その 2%に達する時期の予想についても、やはりずっと後ずれしてきており、現時点では、みな 2018年度ないしそれ以降というような見通しを立てているようです。
§16Question
2 点お伺いします。物価上昇率が2%程度に達する時期が 2018年度頃に後ずれし、総裁の任期中に 2%を見られないのは残念なことですが、もし求められれば総裁再任のお考えがあるかお教え下さい。もう1 点は、前回の会合で、適切なイールドカーブにしていくということで、概ね維持されていると思いますが、生保業界等からは、今の 20年以上の期間の超長期金利は低過ぎる、1%を超えないと投資対象にならないという声も出ています。この点についてどう受け止められているかお教え下さい。
§17Haruhiko Kuroda
前段につきまして、日本銀行総裁の任期は 5年と決まっており、2018年4月に任期が終わります。総裁の任免については、国会両院の同意を得て、内閣で決めることであり、私がどうこうするものでは全くありませんので、その点についてはお答えは差し控えさせて頂きたいと思います。もう 1 つの点は、いわゆる超長期債の金利ですが、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を決めた時のイールドカーブと、現時点のイールドカーブは変わらないと言ってよいと思いますけれども、そういったものを実現していく上で一番短いところの日銀当座預金に対する政策金利と、10年債金利の操作目標という 2 点を金融政策決定会合で決めることによって、全体として適切なイールドカーブの形成を促していくということです。具体的に、政策委員会で決めているのは、一番短いところの-0.1%と、10年物国債金利のゼロ%程度であって、その前後の全体としてのイールドカーブは概ね前回の会合通りであり、特に違和感はありません。今後の動向については、当然毎回の金融政策決定会合で議論していくことになると思います。
§18Haruhiko Kuroda
なお、超長期の金利については、今申し上げた2 つの点を操作目標として示し、マーケットでイールドカーブが全体として整合的で、適正な形になると想定しておりまして、先行きの経済・物価に対する見方などを反映して、上下に変動しつつも、金融市場調節方針と整合的な形で市場において形成されていくものであろうと認識しています。
§19Question
2%程度に達する時期に関して、「オーバーシュート型コミットメント」の物価上昇率の実績値が安定的に2%を超える時期は、今回の2018年度までの見通し期間を超える可能性もあるという理解でよいでしょうか。
§20Haruhiko Kuroda
「オーバーシュート型コミットメント」については、 2%を超えて安定的に推移して、2%の上からソフトランディングする状況を想定しています。このため、物価上昇率が2%に達するのが 2018年度頃であっても、それよりもう尐し先まで「オーバーシュート型コミットメント」が続く可能性は十分あると思います。「オーバーシュート型コミットメント」の期間が 2018年度を越えるのかどうかは、「2018年度頃」の2%に達する時期がいつかによっても前後すると思います。必ず 2019年度中まで「オーバーシュート型コミットメント」が続くとは言えないと思いますが、2018年度頃に 2%に達した後でも「オーバーシュート型コミットメント」は続きますので、そのような可能性はあると思います。
§21Question
金融政策と財政政策の関係でお伺いします。総裁はかねてより、財政が出ても金融政策で金利を低く抑えることによってクラウディングアウトが生じずに相乗効果が発揮されるとご発言されていると思います。逆に言うと、財政が出ることによって金融緩和の強化につながるという面があるのでしょうか。
§22Haruhiko Kuroda
そういう面はあると思います。財政政策によって経済を刺激すれば、経済活動がより活発になって需給ギャップも縮小し、失業率もさらに低下していくことを通じて、物価安定目標に近付く時期がより早くなるという形で、金融政策を財政政策が相乗効果で強めていく面があります。他方で、ご指摘のように、クラウディングアウトを起こさないで緩和的な金融環境を続けることによって、財政政策の効果がより大きくなる、まさにそういう意味で相乗効果があるということだと思います。
§23Question
企業の価格設定の動向をみますと、一時期値上げに動いていた企業も、最近は値下げに動いていますし、小売大手の経営トップからも、デフレは悪い面ばかりではないという発言が決算会見の場で聞かれたりもしました。消費者にも企業にも染み付いてしまっているデフレマインドに、中央銀行としてどう働きかけていくのでしょうか。
§24Haruhiko Kuroda
まず、足許の物価上昇率が 0%ないし小幅のマイナスで推移していますので、企業の価格設定行動がそういうもとで消極的になるという可能性は十分あり、現にそういったことも言われています。そうした意味で、デフレマインドがそう簡単に払拭できないということも事実だと思います。ただ、デフレが経済にとって好ましいとか、デフレが家計にとって好ましいということではありません。一時的な原油価格の影響によって物価上昇率が上下することはあっても、基本的には賃金と物価は平仄が合って、足並みを揃えて上がっていくものです。もちろん労働生産性の上昇があれば、賃金の方がより上がっていくわけですが、いずれにしても、物価が上がるときには賃金が上がる、賃金が上がるときには物価が上がるということです。デフレになったらよいかというと、そういう時は賃金も上がらない、さらに、経済活動全体が委縮して、むしろ実質賃金が下がる可能性もあるわけで、デフレがよいということでは全くないと思います。ただ、15年間続いたデフレのもとで、デフレマインドは非常に強く、それを払拭するのに相当な時間を要しているのは事実だと思います。ただ、そのもとでも、原油価格の影響を除いた、物価の基調はずっとプラスにはなっています。「量的・質的金融緩和」を導入する前はマイナスだったわけですので、それが変わってきていることは事実だと思います。
§25Haruhiko Kuroda
ただ、まだ十分変わり切っていないのが、予想物価上昇率がどうしても足許の物価上昇率に引きずられるという「適合的な期待形成」が非常に強いという点です。これは「総括的な検証」の中でも詳しく述べていますが、欧米と比べても足許の物価上昇率に引きずられる度合いが非常に強いということです。それは変わっていないので、より「フォワードルッキング」な形になるように、「オーバーシュート型コミットメント」も導入しました。足許でも潜在成長率を上回る成長が続いていますし、来年度は更に成長率が加速する見通しも持っていますので、徐々にそういったデフレマインドは払拭されていくのではないかと思います。物価上昇期待が適合的であることは、15年続いたデフレのもとでのデフレマインドがそう簡単に払拭できないことの表れなのではないかと思っています。
§26Question
2013年に 2年で2%の物価上昇を達成すると宣言されて就任された黒田総裁が、今回の展望レポートでは任期中にそれが果たせない見通しになったということについて、物価と総裁任期の間に特別な関係がないということは分かりますが、総裁個人としてどう受け止めてらっしゃるのか、端的にいえば残念だとかそういったお気持ちがないのか、その点をお聞かせ下さい。
§27Haruhiko Kuroda
これは「総括的な検証」にも相当詳しく書いています。2013年4月に導入した「量的・質的金融緩和」は予想した効果を十分あげました。ただその後、消費税増税後の個人消費の弱めの動き、原油価格がピークからみると70%以上も下落した影響、そして昨年の夏以降の新興国経済の減速とそれが国際金融市場にもたらした大きな波乱、そういった中で物価上昇率が現在の水準に至っているということです。2年で実現できなかったことは残念ではありますが、それは「総括的な検証」で述べられたような事象の中で起こっていることです。先程申し上げたように、欧米の中央銀行も全く同じ状況であり、2013年頃を見通していたのがどんどん後ずれしてきています。原油価格の動向はなかなか予測が難しく、新興国経済の減速と国際金融市場の大きな変動も予測し難いことであったということで、まさに「総括的な検証」が示したようなことであろうと思っています。
§28Question
新しい政策の枠組みを導入して 1 か月が経ちますが、どのように評価されていますでしょうか。
§29Haruhiko Kuroda
この点については、政策委員の間でも色々な議論をしましたが、基本的には、マーケットに非常に円滑に受け入れられているということではないかと思います。と申しますのは、前回の金融政策決定会合において、「総括的な検証」を行い、それを踏まえて新しい枠組みとして、「イールドカーブ・コントロール」と「オーバーシュート型コミットメント」の組み合わせでやってきたわけですが、市場はそれを円滑に受け入れて、イールドカーブもほぼ前回の金融政策決定会合時と変わらない形になっています。その間、もちろん世界経済やその他色々な動きがありましたが、比較的順調に来ているのではないかと考えています。特に「イールドカーブ・コントロール」は、ある意味では、世界で初めての試みでもありますので、市場の動向は随分注視してきましたが、これまでのところ非常に円滑に受け入れられて、適切なイールドカーブが実現しており、これが日本経済にとってプラスに働き、 2%の「物価安定の目標」に向けて効果を発揮していくと思っています。ただ、新しい試みでもありますので、市場の状況、それから日本経済を取り巻く世界経済の状況等については、十分注視していくということではないかと思います。
§30Question
今まで黒田総裁がよく使ってきた言葉の中で、最近全く使われていない表現があります。それは、2%の物価目標をできるだけ早期に実現するために「できることは何でもやる」です。これは、2013年4月に「量的・質的金融緩和」を導入して以降の、異次元緩和を象徴する言葉だったと思いますが、日銀のウェブサイトを検索してみると、今年の 4月28日の会見で使われたのが最後のようです。これは、「総括的な検証」を経て、もはや方針は転換したので使えないNGワードになってしまったということでしょうか。もし、姿勢が変わらないということであれば、今回1年物価目標達成時期を先送りしたのは――おそらく丸々1年というのは初めてではないかと思うのですが――、それくらい長く先になってしまうにもかかわらず、追加緩和をしないということは、何でもやるという姿勢とは随分距離がある、矛盾しているのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
§31Haruhiko Kuroda
そのようには全く考えておりません。まさに、 2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するということは、日本銀行として決定し、政府との共同声明でも明らかにしたコミットメントでありますので、これはあらゆる手段を動員して、実現しなければならないと思っており、この点は全く変わっていません。従いまして、まさに 2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために、必要なことは何でもやるということであります。「総括的な検証」のもとで明らかになったことは、「量的・質的金融緩和」の効果と、マイナス金利を導入したことの効果ですが、マイナス金利の導入によって、イールドカーブ全体が下がるというだけではなくて、非常にフラット化して、超長期までもが非常に低下したわけです。しかし、「総括的な検証」でも述べている通り、あるいは新しい枠組みを導入した前回の公表文でも述べている通り、フラット化が行き過ぎるということは、経済にとって必ずしもプラスではないということです。そこで「イールドカーブ・コントロール」という形で、あらゆる手段を動員して、適切なイールドカーブを実現することを通じて、経済により大きなプラスをもたらす柔軟かつ持続性のある金融緩和を可能とすることによって、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するというコミットメントに引き続き沿った形で、金融緩和政策を続けているということです。
§32Question
今回、会合前に衆参の両委員会で、追加緩和の可能性、あるいは物価目標の達成時期についてやや踏み込んだ発言があったように感じたのですが、この辺りは、やはり市場との対話を意識された結果と考えてよろしいでしょうか。
§33Haruhiko Kuroda
金融政策は、あくまでも金融政策決定会合において、9 人のメンバーの議論とその合議体としての決定ということで決まっていきますので、総裁といえども、先行きを具体的に申し上げるということは適切でないと思います。ただ、経済の動向であるとか、金融市場の動向であるとか、そういったことについては、それぞれの政策委員のメンバーの方も発言をしておられますし、私自身も私の見方ということで、経済の動きや金融市場の動向についてはお話をしています。金融政策そのものについて、何か具体的に方向性を云々することは、仮にそうしたとしても合議体で決まることであり、私も1 票しかないわけですので、何か特別な意味があるということにはならないと思っています。
§34Question
繰り返しで恐縮なのですが、総裁の責任について今一度お伺いします。総裁がおっしゃるように、就任時に 2年で 2%を達成すると力強く約束したことで、人々の期待を高めた効果があったと思うのですが、同時に今回も含めて約束を実現できずに何度も先送りしたことで、期待を低めたというか、失望させたり、信用されなくなっている面もあるのではないかと思います。その点、先程のお話からすると、外部要因のせいだから総裁自身の責任はない、というように聞こえるのですが、この点について、今一度お聞かせ下さい。
§35Haruhiko Kuroda
何をもって責任とするかというのは色々と難しい問題ですが、先程来申し上げている通りです。2013年4月に「量的・質的金融緩和」を導入した際、単に「できるだけ早期に」と言うだけでは、どのくらいの緩和をすべきなのか、あるいはどのように長く続いたデフレから違ったフェーズに移るということを理解して頂けるか、という意味で適切でないということで、政策委員会の全会一致で「量的・質的金融緩和」の導入を決定し、その際、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に 2%の「物価安定の目標」を実現するために、必要にして十分なことをやろう、ということを考えたわけです。その結果、ご承知のように、翌年の夏までは非常に順調に行き、物価上昇率も 1.5%くらいになり、予想物価上昇率もそれに準じた形で順調に上昇しました。しかしながら、先程来申し上げているように、原油価格の大幅な下落が起こり、さらには新興国経済の減速があり、そうした中で足許の物価上昇率が低下していく過程で、予想物価上昇率も低下し、こういった事態になったということです。それを踏まえて、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入し、「イールドカーブ・コントロール」と「オーバーシュート型コミットメント」という組み合わせで、できるだけ早期に 2%の「物価安定の目標」を実現しようということで進めてきているわけです。
§36Question
今回、展望レポートで物価の見通しを引き下げていますが、それでも、例えば2017年度をみても、中央値で1.5%ということですから、日銀の見通し通りだと 1年間で 1.6%も上がるということになります。この辺りは、市場の見通しとも乖離していて、かなり強気だという見方もあると思いますが、この見通しの実現可能性をどのようにお考えになっていますか。もう 1 点、総裁がこれまでもずっと「できるだけ早期に 2%を達成する」とおっしゃっていて、今回日銀として「2018年度頃」になると後ずれさせたわけですが、これは総裁個人としても、2年間は達成できないということをお認めになっているということでよろしいでしょうか。
§37Haruhiko Kuroda
2017年の物価見通しの中央値が 1.5%であり、他方 2016年度の物価見通しの中央値が-0.1%ですので、そのギャップが1.6%あるわけです。先程申し上げたように「量的・質的金融緩和」を導入する前はずっとマイナスの物価上昇率だったものが、1年尐し経ったところで1.5%まで上がりましたので、別にこれ自体として非現実的ということではないと思います。先程申し上げたように、この背景には、成長率の見通しが中央値で言うと今年度が 1%で、来年度が 1.3%と加速していくということがあります。これは緩和的な金融環境のもとで、政府が大型の経済対策で財政支出を増やすということですので、相乗効果もあって、成長率が高まるということです。当然この裏側では、第1 に、需給ギャップがさらに縮小し、あるいはプラスになっていきますし、失業率もさらに低下して、賃金物価の上昇圧力が高まっていきます。第 2 に、原油価格がどんどん上がっていかなくても、下げ止まっただけでも原油価格のマイナスの寄与は消えていくわけですし、このところ原油価格は上昇気味ですので、来年度には、原油価格の下落によるマイナスの効果は完全に剥落しているはずです。第3 に、こうしたことを受けて、足許の物価上昇率が上がると、まだ「適合的な期待形成」が強いので、予想物価上昇率自体も上がっていくと考えられます。
§38Haruhiko Kuroda
こういった3 つの要素があり得るわけですので、物価の見通し自体は別に不思議なことでは全くないと思います。2 番目のご質問は、「政策委員の経済・物価見通しとリスク評価」でどの点が私のものかということになりますが、それは申し上げないことになっています。あくまでもこの展望レポートは、各政策委員の成長率や物価の見通しを踏まえた文章になっていますので、それに沿ってご説明するということに尽きると思います。
§39Question
先程、財政と金融の相乗効果についてお答え頂きましたが、米欧の中銀でも金融政策の限界感というか、財政をマクロ政策の主軸にしていこうという意見が増えているような気がします。日本の場合、財政状況を考えますと、ここから財政を積極的に出すことでよいのか、ある種特有の制約条件を考えて運営すべきなのか、ご所見をお願いします。
§40Haruhiko Kuroda
これは財政政策自体の話ですので、私から具体的に申し上げることは避けたいと思いますが、2013年1月の政府と日本銀行の共同声明の中でも、日本銀行は金融政策によって 2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現する、政府は短期的には機動的な財政運営で景気を刺激するとともに、中長期的に財政の持続可能性を高める、健全性を高めることにコミットされています。そのもとで、政府として、2020年度までにプライマリーバランスを黒字化するという目標を立てていて、その中間目標は達成されたわけですし、現在も様々な努力をされていると思います。内閣府の発表された数値によってもまだギャップが残っていますので、さらなる努力が必要であろうとは思いますが、これまでのところ財政再建、財政の健全化に向けた努力は政府として行っており、そのもとでまさに必要な経済対策をされていると理解しています。
§41Question
2%の「物価安定の目標」について伺います。2%については、グローバルスタンダード、CPIの上方バイアス、金融政策の糊代とか色々と言われていましたが、足許では、上方バイアスに関しては、CPIの品質調整によってなくなっているとの声も聞きます。糊代に関しても、金融政策運営として頭の中ではバイアスや糊代は必要でしょうが、既にマイナス金利を導入しています。欧米では、2%でアンカーされているとはいえ、現実に物価がまだ低い状況です。できるだけ早期を狙ってと言われていますが、先日の金融システムレポートや展望レポートの第 2 の柱の記述でも、低金利が長期間続くと銀行の収益が圧迫されるとし、金融システムへの影響等々を挙げられています。金融緩和をこれだけ続けてきて、さらに2%へいくには相当時間がかかるという中で、持続的成長と金融システムの安定に更にリスクが増している感じ――4月の金融システムレポートより更に強め――がします。そもそも 2%が必要かということと、現実の日本での今の状況を考えた場合に、早期に 2%を狙うことがよいことなのかどうか、その辺りをもう一度お伺いします。
§42Haruhiko Kuroda
消費者物価指数が過大に表示される傾向があることは広く言われており、その程度がどのくらいかについては色々な議論があるのですが―― 1%くらいだとか、もっと大きいとか、もっと小さいとか――、最近特にそのギャップが縮んだという話はないと思います。そのもとで、2%の「物価安定の目標」は、色々な意味で非常に合理的な目標だと思っています。今、欧米の一部で議論されているのは、むしろこれを引き上げろという議論のようですが、私どもは 2%の「物価安定の目標」は適切であると思っています。現時点でグローバルスタンダードであることも、その通りだと思います。そのもとで「オーバーショート型コミットメント」という形で、「フォワードルッキングな期待形成」をより強めていきたいと思っています。そうしたもとで、現在の見通しでは、2018年度頃に2%に達するのではないかというのが中心的な見通しになっています。金融機関の収益は、ご案内の通り、過去 3年極めて高い水準であり、地銀は昨年度は歴史的にみて最も高い利益を上げていたと思います。ただ、預金金利は非常に低いところに張り付いていますので、現時点での貸出金利の低下が金融機関の収益を圧迫する形で実現していることも事実です。
§43Haruhiko Kuroda
従って、その影響は十分考慮していく必要があると思っていますが、他方でデフレに戻ってしまいますと、経済自体が弱るというだけでなく金融機関も弱ってしまいますので、金融機関の資本、収益等の状況を十分考慮しながら、必要な金融緩和を続け、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現することが一番重要であると思っています。
§44Question
夏場にETFの買い増しを決められてから、日銀が色々な企業の事実上の筆頭株主になったとか、赤字の企業の株を大量に買っているとか、市場が歪められているという指摘が相次いでいるのですが、この点についてどう受け止められていますか。
§45Haruhiko Kuroda
市場が非常に歪められているということではないと思います。ただ、前回の金融政策決定会合で決定したように、特定のETFにだけ集中しているとご指摘のようなことが起こり得ますので、前回、既にそれを変更して、東証1部全体を代表するようなETFを多く買うことにしました。これによってご指摘のような問題が起こる可能性はかなり低くなったと思っています。いずれにせよ、東証の時価総額自体は500 兆円を超えていて、そうしたもとでETFを年間6 兆円程度購入するということですので、全体に何か歪みが生じるということではないと思いますが、ご指摘のような懸念が起こらないように、前回既に対応したということです。
§46Question
2018年度頃に物価上昇率 2%を達成するということですが、安定的に2%に達するという「オーバーシュート型コミットメント」で約束した部分も後ずれしたと考えるのか、それともより強くオーバーシュートさせることでその時期は変えないという考えなのか、どちらでしょうか。
§47Haruhiko Kuroda
先程来申し上げている通り、2%程度に達する時期について 2018年度頃としたわけですが、「オーバーシュート型コミットメント」は 2%を超えて安定的にそういう状況が続いて、それで上から 2%にソフトランディングするということを考えていますので、その時期は元々 2%に達する時点よりも先になることは事実です。ただ、それがどのくらい先になるのかというのはその時の状況次第ですし、そもそも2%に達するのが 2018年度の初めの頃なのか、中頃なのか、後半なのかによってもその時期は変わってきますので一概には言えません。基本的には 2%に達しても緩和を続けますので、そのオーバーシュートの期間は、2%に達した後まで続くということは間違いありません。
§48Question
金融緩和の導入から 3年半が経ち、金融政策だけでは 2%の物価上昇というのは難しいということなのかという点と、金融緩和に加えて何が必要なのかということ、それは日銀の所管外のことも含めて、これから春闘もありますが、どのように考えておられますか。
§49Haruhiko Kuroda
基本的に物価を基調として決めるものが金融政策であるということは広く学界で認められているわけでして、そこが変わったとは思わないですが、ご指摘のように物価が単に上がるだけでなく、経済が持続的に適切な成長をするためには、金融政策だけでなく財政政策や構造改革が必要であるというのは、IMFやG20の累次のコミュニケでも示されている通りであり、それはその通りだと思います。例えば、金融政策と財政政策の相乗効果というのもありますし、構造改革や成長戦略を通じて潜在成長率を上げることによって自然利子率が上がりますので、同じ名目金利のもとでもより金融緩和効果が大きく出てくるということは間違いないわけでして、そういう意味で金融政策と財政政策、あるいは金融政策と構造改革には相乗効果があるということは事実だと思います。ただ、物価安定の責務はやはり基本的に中央銀行にあるということに変わりはないと思います。
§50Question
共同声明には「デフレからの早期脱却と物価安定の下での持続的な経済成長の実現に向け」と書いてあります。仮に 2018年度までに物価安定の目標が達成できなかったとすると、この「物価安定の下での持続的な経済成長」は実現できるのでしょうか。物価安定の目標も達成できていないし、持続的な成長もできていない、ということになると、共同声明自体が失敗したのではないか、ということになります。物価安定の目標は達成できなくても、持続的な成長になっていると言えるのでしょうか。それとも失敗なのであれば、責任はどこにあるのかという点についてどう思われますか。
§51Haruhiko Kuroda
共同声明の考え方は、金融政策、財政政策、成長戦略に表れている民間主導の成長を進めるような構造改革という 3 つの政策が、相乗作用を持ち、総合的に経済をデフレから脱却させて、持続的な成長経路に乗せるということにあります。他方で、役割分担もはっきりしており、「物価安定の目標」を達成するのは日本銀行の役割であり、一方で、財政政策には経済を短期的に刺激したり抑制したりする役割や、中長期的には財政を健全化するという責務もあるわけです。それから、構造改革、成長戦略については、政府は、基本的に中長期的な潜在成長率を引き上げていく――具体的には現在の 0.5%かそれ以下の中期的な潜在成長率を 2%に向けて引き上げていく――ことを目標にしてやっておられます。全体として3 つの政策が総合的に行われ、相乗効果があり得るということはその通りであり、 G20でもIMFCでもそのように言われています。それぞれの政策の役割分担も、やはりG20やIMFでも言われているわけであり、日本の共同声明もまさにそこをはっきりと示しているということだと思います。以上