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Bank of JapanPress conferenceJan 31, 2017Haruhiko Kuroda, Governor

総裁定例記者会見(2017年1月31日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

本日の決定会合の決定内容とその理由、また展望レポートの内容についてご説明をお願いします。

§2Haruhiko Kuroda

本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆる「イールドカーブ・コントロール」のもとで、これまでの金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利について、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行います。買入れ額については、概ね現状程度の買入れペース、すなわち、保有残高の増加額年間約 80 兆円をめどとしつつ、金利操作方針を実現するよう運営することとします。また、長期国債以外の資産買入れに関しては、これまでの買入れ方針を継続することを賛成多数で決定しました。本日は、展望レポートを決定・公表しましたので、これに沿って、先行きの経済・物価見通しと金融政策運営の基本的な考え方について説明します。まず、わが国の景気は、緩やかな回復基調を続けています。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、新興国の一部に弱さが残るものの、緩やかな成長が続いています。そうしたもとで、輸出は持ち直しています。国内需要の面では、企業収益が高水準で推移し、業況感も幾分改善するなかで、設備投資は緩やかな増加基調にあります。また、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直しを続けています。

§3Haruhiko Kuroda

この間、公共投資は横ばい圏内の動きとなっています。以上の内外需要の緩やかな増加に加え、在庫調整の進捗を反映して、鉱工業生産は持ち直しています。また、金融環境については、極めて緩和した状態にあります。先行きについては、わが国経済は、緩やかな拡大に転じていくとみられます。極めて緩和的な金融環境や政府の大型経済対策による財政支出などを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、国内需要は増加基調を辿ると考えられます。この間、海外経済については、先進国の着実な成長が続き、その好影響の波及や各国の政策効果によって、新興国経済の回復も次第にしっかりとしたものになっていくと考えられます。このため、海外経済全体としても、緩やかに成長率が高まり、わが国の輸出は、基調として緩やかに増加するとみられます。以上のもとで、わが国経済は、2018年度までの見通し期間を通じて、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられます。実質GDP成長率の見通しを、従来の見通しと比べますと、GDP統計の基準改定に伴うGDPの上方修正に加え、海外経済の上振れや為替相場の円安方向への動きを背景に、幾分上振れています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、 0%程度となっています。予想物価上昇率は、弱含みの局面が続いています。

§4Haruhiko Kuroda

先行きについては、消費者物価の前年比は、エネルギー価格の動きを反映して 0%程度から小幅のプラスに転じたあと、マクロ的な需給バランスが改善し、中長期的な予想物価上昇率も高まるにつれて、 2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。今回の物価見通しを、従来の見通しと比べますと、概ね不変です。なお、2%程度に達する時期は、見通し期間の終盤である 2018年度頃になる可能性が高いと考えられます。リスクバランスについては、経済・物価ともに下振れリスクの方が大きいとみています。2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されていますが、なお力強さに欠け、引き続き注意深く点検していく必要があります。なお、展望レポートについては、佐藤委員、木内委員から、消費者物価が見通し期間中には 2%程度に達しないことを前提とする記述の案が提出され、否決されました。日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。また、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に 2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続します。今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行います。

§5Haruhiko Kuroda

また、今回の決定会合では、「貸出増加を支援するための資金供給」、「成長基盤強化を支援するための資金供給」、東日本大震災および熊本地震にかかる「被災地金融機関を支援するための資金供給オペレーション」等の措置について、受付期間を 1年間延長することを決定しました。

§6Question

米国の新しい大統領にトランプ氏が就任したことに関連してお尋ねします。11月の当選決定以降、トランプ氏の経済政策への期待感などから市場では「トランプ相場」と呼ばれるような円安株高が続いてきました。このところ保護主義的な姿勢も目立って、市場に変化の兆しもみえていますが、トランプ氏の大統領就任で、米国や世界経済、もしくは金融市場にどのような影響を与えるかについてお尋ねします。

§7Haruhiko Kuroda

新政権のもとで、減税やインフラ投資等の積極的な財政運営によって米国の経済成長率や物価上昇率が高まるとの期待から、確かに米国の金融市場においては、長期金利が上昇し、株価は史上最高値圏で堅調に推移しています。現時点では、新政権の経済政策の具体的な内容は明らかとなっていませんが、米国の政策運営は、米国経済だけでなく世界経済や国際金融市場に大きな影響を及ぼすため、新政権の政策運営の方向性やその影響についてはよく注意してみていきたいと思っています。

§8Question

マイナス金利政策の導入決定から 1年を迎えました。その後、日銀の金融政策の枠組みも変わっていますが、現時点でマイナス金利政策の効果や影響などについて、総裁はどのようにお考えになっていますか。また、反省点などがもしあれば教えて頂きたいと思います。

§9Haruhiko Kuroda

ご案内の通り、日本銀行は、昨年1月の金融政策決定会合において、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導入しました。その後の金利動向をみますと、国債金利はイールドカーブ全体にわたって大きく低下し、これが貸出金利や社債金利の低下にしっかりとつながりました。ただ、昨年の前半は、世界経済が減速し、様々なリスクが顕在化したもとで、国際金融市場が不安定化するなど、わが国経済は逆風に見舞われました。こうした中で、マイナス金利のもとでの極めて緩和的な金融環境は、企業や家計の経済活動をサポートしたと考えています。この間、金融機関の貸出態度は引き続き積極的であり、金融仲介機能の悪化のような状況は窺われていませんが、金融機関の利鞘は縮小しています。また、超長期金利などが過度に低下すれば、保険・年金などの運用に影響が出て、マインド面などを通じて経済活動に悪影響を及ぼす可能性があります。こうした点を念頭において、昨年9月には、「総括的な検証」を行い、それまでの政策の枠組みを強化する形で、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入しました。現在の枠組みでは、経済・物価・金融情勢を踏まえて、2%の「物価安定の目標」の実現のために最も適切と考えられるイールドカーブの形成を促していくことにしています。

§10Haruhiko Kuroda

その後、世界経済の成長のモメンタムが高まり、グローバルに長期金利が上昇するもとでも、わが国の長期金利は、操作目標である「ゼロ%程度」で安定的に推移しています。「イールドカーブ・コントロール」は、世界経済がいわば追い風に変わる中で、それを増幅し、強力な緩和効果を発揮しているとみています。このように、マイナス金利導入以降の金融政策運営は、 2%の「物価安定の目標」の実現に向けて必要かつ適切な政策であると考えています。

§11Question

2 点お伺いします。展望レポートでも、下振れリスクの方が上振れリスクよりも大きいと思いますが、この中でも特に、現在、保護主義的な色合いを強めている米国の政策が、どのように下振れリスクにつながっていくとみているのか、もう少し具体的にご説明下さい。もう1 点は、そうした先行きの不透明感が、展望レポートにもある通り、今後の春闘における企業の賃上げ姿勢にも影響すると思います。その辺りについて、どのようにご覧になっているかお聞かせ下さい。

§12Haruhiko Kuroda

展望レポートの最後にあるグラフで、各政策委員の経済・物価見通しの中央値を示すと同時に、上振れリスク・下振れリスクが大きいと考えているかどうかもマークで示しておりまして、確かに下振れリスクの方が大きいというのが多数の政策委員の見方であることはその通りです。その下振れリスクの内容については様々なことが示されています。米国経済の動向も 1 つですし、欧州経済の動向や新興国経済等々、ジオポリティカル(地政学的)な問題まで含めて、様々なリスクがあり得ることは示されている通りです。このうち、米国の新政権の経済政策については、先程申し上げた通り、まだ政権が発足して間もないので具体的な政策が明らかになっていませんが、基本的に減税やインフラ投資などの積極的な財政運営によって米国の経済成長率あるいは物価成長率が高まるという期待から、すでに市場では長期金利が上がり株価が堅調に推移しています。それがどの位の下振れリスクあるいは上振れリスクになり得るかについては、それぞれ各委員が様々な考えを持っていると思います。

§13Haruhiko Kuroda

米国のファンダメンタルズをよくみますと、雇用・所得環境の着実な改善を背景として、家計支出を中心にしっかりした回復が続いており、積極的な財政政策の効果もあって、国内民需を中心にしっかりとした成長が続くというのが市場の主要な見方だと思いますし、そうした米国経済動向自体については、委員の多くも意見を共有していると思いますが、具体的にどの部分がどの位の下振れリスクになっているかは、それぞれの委員のご意見であろうと思います。春闘については、展望レポートの中でも具体的に示されていますが、従来から申し上げている通り、日本銀行は、単に物価が上がればよいのではなく、企業収益の増加、雇用の増加、賃金の上昇を伴いながら、物価が緩やかに上がるという好循環を目指しています。この点、展望レポートにもある通り、企業収益は過去最高に近い水準で推移していますし、今朝公表された労働力調査や一般職業紹介状況をみても失業率は 3%程度まで低下し、有効求人倍率はさらに上がり、労働需給がタイトな状況が続いています。

§14Haruhiko Kuroda

従って、ご指摘のような世界経済における下振れリスクはもちろんあり得るとは思いますが、メインシナリオは、2016年度、2017年度、2018年度と成長率が上振れする状況であり、先程申し上げた通り、企業収益あるいは雇用情勢等をみると、ベースアップあるいはボーナスなどの形で賃金が上昇する環境は十分整っているのではないかと思います。

§15Question

トランプ大統領は日本を名指しして貿易赤字に不満等を表明していますが、トランプ政権の政権運営そのものがリスク要因となり得るのかという点について、まずお聞かせ下さい。2 点目に、展望レポートでは、このところ「為替相場の円安方向の動きが、価格上昇圧力を高める方向に作用する」と指摘されています。マイナス金利の導入を決めてから 1年が経ちますが、長期金利の誘導目標も含めて、現在の金融政策が日米金利差拡大の背景になっているのは間違いないと思います。金融政策が為替市場をターゲットとしているものではないということは理解していますが、こうした動きは現在の政策の効果と考えておられるか、ご所見をお聞かせ下さい。

§16Haruhiko Kuroda

先程来申し上げている通り、トランプ政権の政策については、新政権が発足したばかりですので、今後ともよくみていく必要があると思いますが、一般論として申し上げますと、減税あるいはインフラ投資などのマクロ経済政策面では、経済成長を押し上げる方向に効くだろうとみられます。他方で、様々な保護主義的な政策が採られれば、世界貿易を縮小させたり、世界経済の成長を減速させたりするおそれや懸念があるということではないかと思います。後者の点については、前から申し上げている通り、 G7、 G20あるいはWTO、IMF等などで自由貿易の重要性は国際的に広く認識されていますので、世界的に保護主義が非常に大きく強い形で拡がる可能性は低いだろうと思います。そういった意味で、これからのトランプ政権の政策の展開は十分注視していかなければならないと思っていますが、現時点では、先程申し上げたような見方でよいのではないかと思っています。それから、日本の金融政策はあくまでも物価の安定、具体的には 2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために運営されており、為替レートの水準や為替レートの安定は目標にしていません。

§17Haruhiko Kuroda

為替につきましては、ご指摘のように、他の事情が一定であれば、金利差が一定の影響を与えるということは理論的に示されているわけですが、為替市場を巡る要因には様々なものがありますので、日米の金利差だけで何か為替レートが決まってくるということでは必ずしもないと思います。いずれにしても、為替政策は、財務省が所管されていますので、私どもとしては、従来から国際的に合意されている通り、ファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましい、と認識しています。

§18Question

トランプ大統領に関連する質問です。入国禁止の大統領令、これは米国内外で大混乱を招いているわけですが、総裁はかつて米国で生活されていたご経験もあります。自由の国の米国でこういうことが起きているということについて、どのように思われますでしょうか。それから、この大統領令による混乱が世界経済にどのような影響を及ぼすとお考えでしょうか。

§19Haruhiko Kuroda

個人的なことですが、1975年から1978年までIMFに勤務しており、ワシントンDCに住んでおりました。ただ、国際機関の職員としておりましたので、大使館の経験や民間の企業、銀行の職員としての経験とは違うと思っています。いずれにしましても、ご指摘のような入国管理の問題というのは、あくまでも各国の政策の問題であり、特に日本銀行のような金融政策を担当する組織が関与すべき問題ではありませんので、特別なことを申し上げるのは避けたいと思います。米国は基本的には非常に自由な国である、それから移民がたくさんいる国であるということは今でも変わらないと思っています。それから、大統領令云々の話ですが、米国の法制の中でどの部分を議会が決定し、どの部分を大統領令その他、行政府が決定できるかということは、その国の憲法体系、法律制度の中で成り立っていますので、そのことについて私から何か特別なコメントを申し上げるのは差し控えたいと思います。

§20Question

金融政策でデフレ脱却ができると主張してきた浜田宏一先生が、ここにきて、金融政策だけでは駄目だと、財政の拡大が必要とお話されています。総裁はどのように捉えていらっしゃるでしょうか。

§21Haruhiko Kuroda

浜田先生がどのようなご主張かは、浜田先生にお聞き頂くのがよいと思うので、私がとやかく申し上げるのは差し控えたいと思いますが、2 つ程言えると思います。第1 点は、やはり、物価に非常に大きく影響を与えるのが金融政策であるということは、一般的に、学界でも実務界でも理解されているところだと思います。第2 点として、経済政策の運営では、先程申し上げたように、物価がただ上がればよいわけではなく、企業収益が改善し、雇用が改善し、賃金が上がる中で、物価も上がっていくことが望ましいわけです。そうした観点からは、2013年1月に政府と日本銀行が合意した共同声明の中で謳われているように、日本銀行は 2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために金融政策を運営していく、他方、政府は財政政策について、短期的にはもちろん景気対策という観点も十分留意しつつ、中長期的には財政の健全性や持続可能性を高めていくと同時に、様々な規制緩和その他の構造政策、成長政策によって、持続的に潜在成長率を押し上げていくこととされています。こうした金融政策、財政政策、構造政策という3 つの政策を総合的に活用して、デフレから脱却して持続的、安定的な成長経路に日本経済を持っていくということです。そうした意味では、金融政策だけで全てが行われるのではないことは、政府と日本銀行の合意でも明らかです。

§22Haruhiko Kuroda

また、最近のG20やIMFが、スリー・プロングド・アプローチ(three-pronged approach)――金融政策、財政政策、構造政策を、それぞれの国の事情に合った形で活用して、バランスの取れた政策、物価の安定をもたらす ――と言っていることと整合的だと思います。私自身は、日本政府も日本銀行もそうした考え方でやっていますし、浜田先生自身も従来から、別に財政政策や構造政策を無視して、金融政策だけで何か全て問題が解決するとはおっしゃっていなかったのではないかと思いますが、これは浜田先生にお聞きになって頂いた方がよいのではないかと思います。

§23Question

本日の展望レポートでは、成長率見通しを全ての年度で上方修正されましたが、一方で物価見通しについては、2017年度、2018年度とも据え置きとなりました。普通に考えれば、成長が高まれば物価にも上昇圧力がかかると思います。今回のこうした物価見通しは慎重なようにもみえるのですが、成長と物価の違いにつきまして、どのような理由でこのような数字になったのかについて教えて下さい。

§24Haruhiko Kuroda

一般的に、成長率が上振れして需給ギャップが縮小したり、為替が安くなったりすることがあれば、先行きの物価上昇率を高める方向に働くということはその通りだと思います。一方で、現在までのところ消費者物価の実績値がかなり弱めに推移しておりまして、今回の見通しでも 2016年度の消費者物価の見通しは下振れています。そういったことを反映して、2017年度、2018年度の物価見通しが前回と概ね不変となったということではないかと思います。

§25Question

物価についてお伺いします。物価が上がる環境は徐々に整ってきていると思うのですが、先程もおっしゃったように予想物価上昇率は弱含みの局面が続いています。この理由は何でしょうか。また、物価が上がることに関して、今年の春闘での賃上げに期待する部分は大きいのでしょうか。

§26Haruhiko Kuroda

今回の展望レポートにも書いている通り、需給ギャップは縮小してきていますし、労働市場・雇用環境はさらにタイトになってきています。そうしたもとで、予想物価上昇率自体はやや弱めに推移していますが、予想物価上昇率の色々な指標の中には下げ止まっているものもありますし、上昇しているものもみられます。今後については、今回の見通しで示しているように、2017年度、2018年度と着実に物価上昇率が上昇していき、2018年度頃には 2%程度に達する、というものが大方の見通しになっています。ただし、繰り返しになりますが、予想物価上昇率は、今のところは弱めですが、日本において予想物価上昇率が、過去や足許の物価上昇率に相当程度影響される適合的な面があることを踏まえると、今後は、需給ギャップがタイトになり、原油価格のマイナスの影響が剥落していくことによって、実際の物価上昇率が上がっていけば、予想物価上昇率もそれに応じて上昇していくのではないかと期待しています。そういったことを踏まえて、このような 2017年度、2018年度の政策委員の物価見通しになっていると思います。賃金については、先程申し上げたように、賃金上昇の基盤は十分整っていると思います。

§27Haruhiko Kuroda

企業収益も過去最高水準に近いところで推移していますし、雇用情勢もさらにタイトになってきていますので、そういった面では、春闘において、賃金が上昇していく基盤は整っていると思います。ただし、春闘について、具体的にどのくらいのことを期待していると言うのは、僭越だと思いますので、展望レポートにあるような形で、春闘において賃金がさらに上昇していくことを期待しているということです。

§28Question

日銀のバランスシートについてお聞きします。日銀の今回の物価見通しでは、2%に達するのは 2018年度頃とされています。今のペースで国債の買入れを続けた場合には、2018年度中には、長期国債は500 兆円を超えていきます。当座預金も 500 兆円が視野に入ってきます。岩田副総裁は、2015年8月の国会答弁において、出口の過程で金利を引き上げていくときに、当座預金に対して支払う金利が、日銀が保有している国債の利回りを上回って、逆鞘が生じる可能性があるとおっしゃっています。また、どれくらいの逆鞘が生じるか等というのを、内部でシミュレーションをして、検討しているとおっしゃっています。そこで、黒田総裁にまずお聞きしたいのは、日銀の将来の損失について、シミュレーションしている論文がいくつかあるのですが、ご存知でしょうか。今から挙げるのは2 つあるのですが、いずれも日銀のOBが作っています。1 つは、中央大学の藤木さんと早稲田大学の戸村さんの 2015年9月「『量的・質的金融緩和』からの出口における財政負担」という論文です。この中で、彼らは、2016年中に 2%に達する場合に、出口から 15年間、日銀の収支は赤字になり、最大6.2 兆円の赤字が発生するというシミュレーションをしています。

§29Question

もう1 つ、これは比較的最近、昨年の3月に慶應大学の深尾教授が「量的緩和、マイナス金利政策の財政コストと処理方法」という論文をお書きになっており、1 つの例なのですが、2018年末に 2%が達成されて、金利が仮に 2%上昇しているとき、その段階で日銀の保有国債のデュレーションが8年だとしたら、トータルで発生する損失が 80 兆円になるというシミュレーションの数字を出しています。まず、この2 つの論文について、黒田総裁は読んだことがおありかどうか、あるいは存在をご存知かどうかというのが 1 つ目の質問です。そして、2 つ目の質問は、こういった数字というのは、荒唐無稽なのかどうかという質問です。そして、3 つ目として、荒唐無稽か否かという意味での根拠は何かということです。つまり、岩田副総裁は内部でシミュレーションをしているとおっしゃっていて、国会でも、なぜ出さないのかと言われたときに、黒田総裁をはじめ皆さんは「時期尚早だ」とおっしゃっています。ただ、異次元緩和をやって 4年経つわけで、2%の達成はまだまだ先です。そういった中で、いずれ出口が来たときに、大きな損失が生じるかもしれないということを、知らぬ存ぜぬで突き通すのは、説明責任を果たすうえで如何なものかと思います。

§30Question

日銀では計算しているけど、世の中の人には教える必要がない、知らなくてもよいのだ、ということであれば、戦前戦中の軍部の「知らしむべからず、由らしむべし」という姿勢と二重写しになっているようにも思います。その結果がどうだったかということは、皆が知っている通りです。これら3 つの質問について、明確にお答え下さい。

§31Haruhiko Kuroda

この場は、記者会見で金融政策決定会合の結果をご説明して、それに対するご質問を受ける場であり、演説の会場ではありませんので、おっしゃった点については、特にお答えするつもりはありません。いずれにしても、私どもが常に申し上げているのは、あくまでも、最も重要なことは、 2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するということです。これは 2013年1月に日本銀行が自ら決定し、政府との共同声明でも謳っているところでありまして、それに向かって実際の経済・物価・金融情勢等を踏まえて、最適な経済政策を行っているということです。その際に、日本銀行の財務の状況については、もちろん十分配慮していますが、あくまでも最も重要な目標は、2%の「物価安定の目標」を達成することです。その上で、常に申し上げている通り、出口について今議論するのは時期尚早です。それは、そのときの経済・物価・金融情勢によって、出口に差し掛かったときの戦略も変わってくるためです。米国でも、実際に、かつて述べていた政策と逆のルートで出口戦略を行っています。軽々に時期尚早なことを言って、却ってマーケットに余計な混乱を及ぼすのは適切でないと考えています。いずれにしましても、まだ 2%に向けた途半ばの状況で、どのような出口戦略を採るかということについて、具体的な形で申し上げるのは適切ではないと考えています。

§32Haruhiko Kuroda

常に繰り返していますように、出口に際しては、バランスシートをどうするかということと、金利をどうするかということは、重要な2 つの要素になるということはどこの国でも同じですし、日本でも同じですが、それをどのような形で進めるかについては、あくまでもそのときの経済・物価・金融情勢によって決まってくるということです。

§33Question

本日の展望レポートの中で、景気見通し、成長率見通しを上方修正する理由として、為替の円安方向の動きを指摘されていると思います。そこでお伺いしたいのですが、米国のトランプ大統領がインタビューないしは経済界の首脳との懇談の中で「ドル高が望ましくない」という意向を合衆国の大統領としてはかなり鮮明に打ち出しておられると思います。個々の為替の動きについてお伺いするというよりは、むしろ、1995年にルービン財務長官が就任されて以降、振れがあるにしても強いドル政策をアメリカが採っていたと思います。トランプ大統領のこの発言は米国の為替政策の大きな変更を含意するものなのかが、1 つ目の質問です。2 番目に関連してお伺いしたいのは、通商と通貨は切り離して考えるというのが、このところの一般的な国際約束だったと思いますが、大統領自らがそれを明確にリンクさせる発言をしておられるし、政権としても閣僚の方でそういうことをおっしゃっている方が多いと思います。そのことが及ぼすマーケットへの影響のみならず、国際金融システム等に及ぼす影響について、総裁のご所見をお伺いできればと思います。

§34Haruhiko Kuroda

まず、為替の円安が成長率、物価等に影響を与えることはその通りだと思います。そのため為替については、それぞれの政策委員が一定の前提を置いているわけですが、その場合、どんどん円安が進むとか円高になるといった特定の見通しは持っておられず――これはIMFでもどこでもそうですが――、例えばこれまでの過去何か月かの平均値をそのまま延長する形で前提を置いています。従って、さらに円安あるいは円高になることによって当然見通しは変わってくると思いますが、為替についてはそうした一定の機械的な前提を置いていると思います。その上で、ご質問の 2 つの点ですが、いずれもトランプ政権の政策に関することで、特に通商政策も為替政策も、私どもの担当している金融政策とは別の次元の政策ですので、私から特に申し上げることはありません。ただ、かつて財務省において為替政策を担当していた時の経験から一言申し上げると、米国でもどこの国でもそうですが、その時の為替水準がその時の経済動向としっくりいかないという時には、もっと通貨が強くなった方がよいとか、逆に弱くなった方がよいということを考えられたり、主張されたりする傾向はあるわけです。

§35Haruhiko Kuroda

為替について、通貨が強くなればよいというものでもないですし、弱くなっていけばよいというものでもないので、あくまでも経済のファンダメンタルズに則した形で為替が変動していくことが望ましいことは、皆が合意しています。それ以上に何か、通貨高政策とか通貨安政策とか、そういうものはあまりないのではないかと思います。その時々の経済情勢と為替が、その国のファンダメンタルズに則していないとみる時に、様々な議論が行われることはあると思います。それから、通商政策と為替政策とは基本的にはリンクしていません。典型的には、国際機関では、通商政策の話はWTOの所管ですし、通貨政策・為替政策の話はIMFの所管であり、国際機関の中でもはっきりと役割分担ができています。また国内で言いますと、我が国の場合は、為替政策は財務省がやっていますし、通商政策は基本的に外務省ですけれども、具体的にはそれぞれの産業担当官庁である経済産業省であるとか国土交通省、そういうところが関連してくるわけです。国際機関においても、各国の制度においても、両者はリンクしていないことは確かなのですが、経済に及ぼす影響という面では、様々な形で相互に影響してくる可能性はあります。ただ、国際的にも国内的にも制度的な枠組みとしては、両者はリンクしていないのだろうと思います。

§36Question

ダボスでのテレビのインタビューを拝見したのですが、あの時は明るいお話をしておられて、差し引き米国経済がより上振れて、2%達成もちょっと簡単になるかもしれないとおっしゃっていたのですが、今回の展望レポートをみていますと、総裁が上振れておられるのか、それともその時と比べて少し慎重な材料があるということなのか、ご説明をお願いします。もう1 つはオペの話ですが、前回国債買入れを1 回スキップされたことで、債券市場ではテーパリング観測もやや高まっているのですが、これについては、買入れの回数、金額が減っても、適切なイールドカーブがコントロールされていれば政策は変わらないということなのか、ご説明をお願いします。

§37Haruhiko Kuroda

ダボス会議でグローバル・エコノミック・アウトルックというセッションに参加し、日本経済の話を基本的に説明したのですが、セッションの性格上、パネリストは世界経済の動向についても発言を求められました。私からは、ちょうどIMFがWEO(世界経済見通し)を発表したばかりでしたので、それをみますと、日本や米国の成長率は若干上方修正され、他方で新興国は中国を除いて若干下方修正され、全体としては 2017年、2018年ともに従来のIMFの見通しと変わらないという見通しであったため、日本についてIMFの見通しよりも高めの見通しを述べました。また、米国についても、市場が予想しているような大幅な減税およびインフラ投資というものが行われれば、米国経済の成長がIMFの見通しよりも上振れする可能性もあるのではないか、ということを指摘しました。ご承知の通り、IMFの見通しはかなり慎重な見方をしています。これは日本についても米国についても、世界経済全体についても慎重な見方をしています。また、オペについては、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、政策委員会で金融市場調節方針をきっちりと示して、具体的には短期政策金利と 10年物国債金利の操作目標を定めたうえで、これと整合的な形で適切なイールドカーブが形成されるように国債買入れを運営しているわけです。

§38Haruhiko Kuroda

従って、国債買入れオペの金額あるいはタイミング、回数などは国債の需給環境あるいは市場の動向などを踏まえて実務的に決定されるものです。日々の国債買入れオペの運営によって、先行きの政策スタンスを示すことはありません。あくまでも金融市場調節方針は、経済・物価・金融情勢を踏まえて、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するという観点から、毎回の金融政策決定会合において決定されるものであるということです。

§39Question

先程ありました春闘について 1 点お願いいたします。賃上げの環境は整っているというお話がありましたが、過去何年間も、企業収益が最高益となるなど環境が整っていた時期もあったと思うのですが、何分、労使の交渉の仕方は、実際には、物価の実績をみて、それで要求をするという形をとるため、結局物価が上がっていないのだから今年の賃金も上がらないという状況を繰り返してきたかと思います。その辺り、労使交渉のあり方を抜本的に変えてほしいとか、総裁個人の思いでも結構なのでそういうものがあれば伺えればと思います。

§40Haruhiko Kuroda

春闘における労使交渉は労使で決めるべきものであって、特に中央銀行がとやかくいうものではないと思います。もっとも、ご指摘のように、過去の実績をベースに労使の交渉が行われるということになると、原油価格の下落などによって実際の物価上昇率が下がり、それに応じて賃金、物価あるいは、特に重要なのが、将来の予想物価上昇率も下がっていくということになると、欧米のように予想物価上昇率が 2%の物価安定目標に比較的よくアンカーされているところと違って、日本では、その後、原油価格が元に戻っていく過程でも、賃金、物価の上昇率がなかなか思うように上がっていかなくなるのは、その通りです。おそらくそういうことも反映のうえだと思いますが、政労使の会議等で、政府は、今回の春闘においては将来の物価予想も勘案して、賃金決定交渉にあたられてはどうかということを言われています。これについては経済界も、経団連を中心に合意をされていると伺っていますので、少しずつそちらの方向に向かって変わっていく可能性はあると思っています。

§41Question

またトランプ大統領の話に戻って恐縮ですが、 2 点お伺いします。1つは、日本も含めて、2 国間の貿易収支の赤字を非常に問題視しているようです。こうした議論はおそらく総裁が財務官やADB総裁の頃もあったかと思うのですが、そもそも2 国間の貿易収支を均衡あるいは黒字化させるという政策が、政策のあり方として正しいのでしょうか。もう1 つは、為替操作の認定に関することですが、ご承知のように中国は、最近は人民元買い介入をしており、これは一般論でもよいのですが、自国通貨買い介入をしている国が為替操作国という認定があり得るのかどうか、この 2 点をお聞かせ下さい。

§42Haruhiko Kuroda

前者については、ほとんど全ての経済学者は、2 国間の(バイラテラルな)貿易収支は、経済学的にはあまり意味のある数字ではないと言うと思います。もっとも、それぞれの国のグローバルな貿易収支や国際収支については、貯蓄投資バランスやその他の色々な要因を挙げて、また、赤字国でどんどん対外債務が累積していくと新興国に時折みられるような国際収支危機が訪れたりしますので、様々な議論が行われ、政策的インプリケーションもあると言われています。それはそれとして、実際に様々な貿易交渉や通商交渉をする時になると、WTOのレベルではマルチな交渉ですが、そのレベルでも実際には様々なバイの話し合いの積み重ねのようなものになっています。そうしたバイの話になってくると、そのような話も出てくる可能性はあると思います。ただ、経済学的には、2 国間の貿易収支はそれほど意味のあるものではない――マルチや、グローバルにみた対世界との貿易収支には意味があるとしても――と言われるところだと思います。後者の「為替操作国の認定」は、米国のルール、米国の都合で行っていることで、日本やヨーロッパ、中国などの国では行っていませんので、何とも申し上げかねます。

§43Haruhiko Kuroda

IMFは時折、各国の通貨について過小評価されているとか過大評価されていると分析して公表していますが、その方式は、かつてIMFのあるエコノミストが開発した方式ですが、経常収支からではなくて、資本収支の方から趨勢的な資本収支を計算して見通しを作り、それに見合う経常収支になるような為替レートはどのくらいかを方程式で解いて、その解と現実の市場で成立している収支や為替レートとを比較して、いわば、その方程式を使って計算した一種の「均衡為替レート」と市場レートとのギャップをみて、市場レートが過大評価されているとか過小評価されていると言っています。私は、最近の分析結果はよくみていませんが、確かIMFは、人民元についてはこのところ過少評価されているとは言っていないと思います。ただ、それは先程申し上げたような、結構難しい理論と計算に基づいて、一種の「均衡為替レート」を計算し、市場レートとの比較で議論しているので、米国が言っている為替操作認定基準のようなものとはまた違います。IMFの計算方式は非常にソフィスティケート(洗練)されたものであり、経済学者の一部の方は支持していると思いますが、別の経済学者の方は、そういう形ではないアイディアを持っておられますので、なかなかこの点は、そう簡単に決められないと思います。ただ、いずれにせよ、米国がどのように認定をされるかについては、私は何も存じません。

§44Question

先程、財務省時代のお話で、為替に関してファンダメンタルズに則して動くという合意事項があって、それ以上に通貨安・通貨高政策というのはないのでは、というようにおっしゃいました。この、「ないのでは」の趣旨ですが、要するにファンダメンタルズに則して動くというのが本来の姿であって、例えば輸出を増やそうとか輸入を減らそうとか、そういうことで意図的に通貨を高くするとか低くするとか、そういうことはあってはならないのではないか、というご趣旨だったのでしょうか。

§45Haruhiko Kuroda

私が申し上げたのは、あるべき姿というよりも、過去のいろいろな為替政策とか通貨交渉をみてきた経験から言って、各国とも自分がみる経済のファンダメンタルズよりも、為替が高過ぎるのではないかと思う時は、もっと通貨を下げないといけないと主張されますし、逆に、典型的には物価が上昇してインフレになりそうな時などは、むしろ通貨が強くなったほうが好ましいということもあり得ますので、そういった主張をされる方がおられました。このように、常に通貨が弱いほうがよいとか、常に強いほうがよいと主張された国というのはあまりないので、その時その時の経済情勢のもとで、その国からみて適切と思われる通貨の水準より高いと高過ぎる、弱過ぎると上げないといけない、という主張をされていて、どうあるべきという話ではないのではないか、ということです。あるべきという話では、G20でもG7でも常に、為替はファンダメンタルズを反映して安定的に推移していくのが望ましいということです。ファンダメンタルズは、その定義により、急に変わるものではありませんので、為替レートはある程度ゆっくりと変動しないといけないのですが、実際の為替レートは大きく変動します。従って、為替レートはファンダメンタルズから離れて変動するのですが、基本的にはそのファンダメンタルズを反映して安定的に推移するのが望ましいということは、広く合意されていると思っています。以上