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Bank of JapanPress conferenceMar 22, 2017Yukitoshi Funo, Board Member

布野審議委員記者会見(2017年3月22日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

2 点お聞きしたいと思います。1 点目は今日の懇談会の内容と、特に地元からの行政および金融・経済団体のトップの 7 人の方々からどのようなお話があったのか、教えて下さい。2 点目は、県内経済の足許の状況について――挨拶文を頂いていますが――、懇談会の内容を踏まえてどのようなご見解をお持ちかお聞かせ下さい。

§2Yukitoshi Funo

まず、本日の金融経済懇談会での、当地の行政および経済界の方々とのお話の件について、当地経済の現状や課題、あるいは日本銀行の政策運営に関するご意見を頂き、非常に有意義な会合ができたと思います。懇談会では、多岐にわたるご発言を頂きましたが、個別に入ると、時間が足りませんので、私が得た印象を中心にコメントします。まず、静岡県全体としては、「緩やかに回復が進んでいる」ということでした。一方、特に、中小・零細企業におかれましては、「景気は厳しい状態である」といった声も聞かれました。また、人口流出が続いていることにより、「継承の問題であるとか、人手不足の問題が深刻化しつつある情勢にもある」といったご指摘も頂きました。こうした中、当地におきましては、経済の活性化に向けて、多方面の方々が多岐にわたる取組みを進めていらっしゃる内容についてもご披露頂きました。例えば、医療・健康や、食品の分野であるとか、光ないしは電子技術の分野について、様々な取組みを進めている、という力強いお話を頂きました。私も非常に安心というか、ほっとしたような印象を持った次第です。当然のことながら、日頃お世話になっている静岡支店についてのお礼も皆様に申し上げたところですが、今後とも静岡県経済の発展に向けて、日本銀行としても様々なご支援をさせて頂きたいと思っている次第です。

§3Yukitoshi Funo

2 点目の足許の経済情勢について、2015年の年央以降、国際金融市場の動揺といったことがきっかけになったと思いますが、低迷が厳しさを増していた状況にありました。しかし昨年の後半以降、多少明るさを取り戻せるという状況になってきているのではないかとみています。物価指数をみても、下落傾向に多少下げ止まりの傾向があり、反転の気配を感じるという意味において、私としては、今後については、楽観的と言うと言い過ぎですけれども、少し明るい気持ちで考えたらいいのではないかと思っています。

§4Question

1 点目は、金融政策について、2%の「物価安定の目標」の達成はまだ道半ばであるため、長期金利操作目標の引上げを検討しているという市場の見方はちょっと違う、という趣旨で講演されていると思います。この点、どのような条件が揃った場合に長期金利操作目標の引上げが検討され得るのか、ご見解をお願いします。2 点目ですが、今朝公表された 2月の貿易統計において、対米貿易黒字が増加して、全体の黒字も 2010年以来の高水準となりました。財界ご出身の布野審議委員にぜひ伺いたいのですが、トランプ大統領が対米黒字の大きい国を批判している中、4月には日米経済対話も控えています。そうした中、米国の政権の保護主義的な姿勢が、日本企業の海外での経済活動にどういう影響を及ぼし得るのか、それがどれくらい日本経済にとってリスクになり得るのか、お考えをお願いします。

§5Yukitoshi Funo

最初のご質問ですが、今おっしゃったように、日本銀行の掲げる 2%の「物価安定の目標」に照らして消費者物価で安定的に達成することを考えますと、現状では非常に発射台が低いです。先程少し前向きに考えられると申しましたが、発射台が低いという意味において、金融政策を転換する、例えば、長期金利を調整するといった状況にはないと考えています。そのうえで、転換の条件については非常に難しい質問ですし、満たすべき必要条件は考えられても、必要十分な条件を満たしているかについては、やはり金融政策決定会合の都度判断していく余地が必ず残ります。例えば、一定の条件を外部とシェアして、それを機械的にやるということであれば会合を開く必要もないので、そういう意味では、事前に条件を示すことはなかなか難しいと思います。ただ、私の観点から 1 つ申しますと、「物価安定の目標」が実体経済に関わる目標ですので、実体経済の動きを伝える様々な指標に注目して、金融政策の転換を私なりに整理しながら、その都度の金融政策決定会合に臨みたいと考えています。

§6Yukitoshi Funo

2 点目のグローバルな通商貿易の動き、米国の新政権との関係ですが、これは言うまでもないことですけれども、世界経済を巡る様々な各国間の政策論争とは、かねてより自由貿易主義と保護主義的な両方の考え方が絡みながら、様々な交渉、折衝がなされており、最近、特にそういった大きな枠組みが変わったというようにはみていません。そういう意味では、それぞれの交渉、折衝を担当する方々が、双方の自由主義的な考え方、保護主義的な考え方を、どういう形で自国のため、ないしは世界に対する経済の貢献であるとか、様々な分野から考えつつ交渉されるということだろうと思っています。ただ一言申しますと、昨今の世界経済の情勢は、「人」・「物」・「金」、全ての面で、グローバルな産業連関の繋がりが非常に濃密に絡んでおり、一方的に自由主義や保護主義を徹底することには現実的に無理な面もあります。議論を尽くして折衝が行われれば、あまり変なことにはならないだろうと比較的楽観しているところです。

§7Question

春闘についてお伺いします。今回の春闘は、まだ途中ではありますが、ベアが前年を下回る結果になりそうということで、その辺りをどのように受け止めているのかお聞かせ下さい。また、これを好循環に変えていくために必要なことは何か、金融政策だけでは足りないのではないかとも考えますが、政府の政策も含め、どういったところが必要かという点を教えて下さい。

§8Yukitoshi Funo

何々産業の調子が良いとか、この産業は不況業種であるとか、一律の議論ができないように、各産業における個別企業で様々なパフォーマンスが出ていますので、ベア等賃上げのそれぞれの会社の決定も、幅があるだろうと思っています。そうした幅をもって物事が決まっていくことは、わが国経済や企業行動の成熟度を示しているものと前向きに考えています。そのうえで、春闘については全体を纏めた数字が出てくることも事実ですので、これについては4年連続のベアアップということで前向きに捉えて良いのでないかと思っています。このベアアップを所得から消費への良い循環に繋げていくためにはどうしたら良いのかということですが、前年と比べれば少し下がる可能性もありますが、全てのことについて良いところもあれば、不満足なところもあるわけです。その中で、是非皆様にこの場を借りてお願いしたいのは、やはりポジティブな面にもフォーカスして情報を広めて頂き、消費者及び企業家の皆様が、それぞれ自らの意思決定――消費の意思決定であったり、投資の意思決定であったり――をなさるときに、日本の経済は大丈夫だと思って、前向きに消費・投資に取り組んで頂くようなお力添えを是非頂きたいということです。

§9Question

昨年のマイナス金利、それから 9月のイールドカーブ政策の導入、ともに布野審議委員は賛成していらっしゃいます。確かに先程から言われている2%の「物価安定の目標」は分かりますが、これだけの政策をやってきて、結局、残ったのは日本銀行のバランスシートにおける国債の積上げとか、金融機関の問題とか、様々なことを言われていますが、現状の政策を継続することによる副作用、マイナスのところを、どのように今みていらっしゃるのか、お伺いしたいと思います。

§10Yukitoshi Funo

私は、ご指摘のとおり、マイナス金利の導入の際も、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に移った際も、賛成しています。その結果を申しますと、金利水準は明らかに下がり、それを多として、前向きの消費や投資に繋げて頂いた消費者や企業家がおられますので、ポジティブな結果が出てきていると思っています。また、お金の流れという意味では、銀行等の金融機関を通じた流れもありますし、社債等を通じて、企業が直接資金調達をすることもあります。全体をみますと、それぞれがプラスにきいていると思います。銀行経由のものがあまり増えていないのではないかとおっしゃる方もいますが、細かくみれば、これもプラスにきているのは事実でありますので、私は結果として、良い面が出てきていると思っています。そのうえで、副作用があるのかないのかということについては、これは私の信念ですが、「全ての良き薬には副作用もある」ということで、副作用は常に念頭に置かなくてはいけないと思っています。具体的に申しますと、色々な面が考えられますが、おっしゃられているように、金融機関の収益に圧力がかかるという副作用については、注視しなければならないと認識しています。

§11Yukitoshi Funo

先の「総括的な検証」において、それまで金融政策は、経済と物価をみて運営すると言っていましたが、それに加えて金融の情勢、すなわち金融のプロセスがきっちりと経済において機能しているかどうかも含めて、金融政策を決定していくという形で――それまでもやっていましたが――、明示的に昨年後半以来、考えています。今後についても、同様の姿勢を貫徹して、その都度の金融政策決定会合での意思決定に臨みたいと、私個人としても思っていますし、他の委員も同様の考え方であると考えています。

§12Question

黒田総裁が就任してから丸 4年経ちまして、任期が残り 1年になりました。同じ政策委員会のメンバーとして、黒田総裁の残り 1年の最大の政策課題は、どういったものになるとお考えでしょうか。また、今日の講演で、2%の「物価安定の目標」の達成は 2018年度になる可能性が高いというご発言があったかと思いますが、これは、黒田総裁の任期中に、2%の「物価安定の目標」を達成するのは難しいとみているという理解でよろしいのでしょうか。

§13Yukitoshi Funo

黒田総裁がどのように自らの課題をお考えになっているかついて、私はコメントする立場にありません。そのうえで、黒田総裁がそう考えておられるかどうかは別として、ご参考までに私がどう考えているかということで申し上げます。委員の任期は全員 5年ですが、任期の中で起承転結を図るというような考え方を、少なくとも私は持っていません。経済は生き物ですので、その都度の金融政策決定会合において、全知全能を傾けて、色々なことを勉強し、ベストの貢献ができるよう臨むことを考えております。黒田総裁がどうお考えになっているかは存じませんが、私が黒田総裁に「どういう起承転結ですか」という質問は、多分、私の頭の構造では出ないというか、しないということです。そのうえで 2 点目の質問ですが、厳密に言えば 2018年度「頃」で、「頃」には若干前も入ります。黒田総裁の任期が 2018年4月までとすると、全面的に可能性ゼロだとは言いませんが、2018年度頃、12 か月の幅の中でということですと、可能性としては、黒田総裁が任期を終わられた後に、2%に近付く、ないしは 2%程度にいくという可能性はあると思っています。

§14Question

今日の午前中の講演の中で、金融と財政とともに、構造改革を一層加速させる必要がある、というご指摘をされていましたが、構造改革と言った場合に、今必要とされている特に重要なものとしてどのようなものがあるとお考えでしょうか。

§15Yukitoshi Funo

今回の静岡県経済に関わる意見交換の場でも出てきましたし、その他のところでも色々と書かれていますが、わが国経済が直面している人口減少が経済の下押し圧力になっているというのは事実です。そういう意味では、全ての商品、サービスについて需要縮小のリスクを抱えているということです。従って、需要縮小であれば、当然のことながら供給力もそれに応じて調整されなければならないという経済原則が働きます。供給力の調整が遅きに失すれば、当然のことながら様々なひずみ、ゆがみが出てくるということですので、理想を言えば、時流の動き、傾向に先んじて供給力の調整をやらなくてはいけないというのが 1 つの動きです。もう 1 つの動きは、そういうダウンサイジングをすれば、当然それぞれの企業であり、例えば組合などもそうですが、様々な組織が縮小していくことになります。これを埋めるものとして、新しいビジネスのチャンスであるとか、新しい売上げのチャンス、新しい製品とサービスを作り出していくという動きが必要です。そのような意味では、構造改革と成長戦略は表裏一体のものです。わが国においては、全ての産業がそういうチャレンジに取り組まざるを得ない状況にあると思っています。日本がかつてそうであったような、ほとんど全ての産業で右肩上がりであるという情勢とは様変わりの状況にあります。

§16Yukitoshi Funo

これを私は強く感じていますので、構造改革と言った場合には、構造改革と成長戦略は表裏一体であると同時に、全ての実業に携わる者の役目としてこれに取り組まなければいけません。そのような意味では、私がかつて身を置いた自動車産業もそうですし、今は民間ではなくて日本銀行という立場ですが、金融業界もそうですし、このチャレンジから逃れることのできる産業は1つもないと言っていいと思います。

§17Question

先程の質問と関連するかもしれませんが、世界経済に少し明るい兆しがみえてきたということは、日本の輸出を考えた場合の外部環境も好転しているという理解でよろしいでしょうか。一方で、リスクについても、海外のリスクをいくつか指摘されていたので、その辺のリスクが顕現化する可能性についてどうみていますか。

§18Yukitoshi Funo

まずリスクについてお答えします。リスクは色々なところで取り上げられていますが、世界第 1 位の経済大国である米国の通商産業政策や財政政策がどのような展開になっていくのかが 1 つのリスクです。もう 1 つは、世界第2 位の経済大国である中国も、高度成長から安定成長へ向けて、中国政府のいう新常態(ニューノーマル)に軟着陸するという課題を抱えていまして、なかなか簡単に舵取りできるものではないという意味でこれも 1 つのリスクです。ヨーロッパも政治の問題を抱えています。では悲観すべき状況なのかについては、先程申しましたように、私は今、悲観する情勢にはないように思います。また昨年後半以降、ポジティブな動きが出ています。昨日、今日と株式相場は若干下落していますが、色々な意味で米国経済も縮小に向かうのではなくて、拡大の余地がまだあると私自身はみていまして、ここはポジティブだと思います。それから中国については、私はどちらかというと、楽観的にみる部類に入ると思います。中国経済はよく言われている過剰設備・在庫問題を抱えているのは事実ですが、過剰設備の整理・調整というのは時間が多少かかるにしても、過剰在庫の方は、相当調整が進んだのではないかと思っています。その結果、資源価格であるとか、輸入も現に中国は増えています。

§19Yukitoshi Funo

そういう意味で、あれだけの大きな経済の成長が低くなったとはいえ、1千兆円規模の経済が5%を超える世界的にはハイスピードで成長しているわけですので、在庫調整もある程度一段落して、多少ものを買い始めているというのは、わが国経済及び東アジア周辺のASEANなどの経済に対しても、ポジティブなインパクトが期待できるのではないかと思っています。ですから、リスクに目を配りつつも、少し前向きに考えられるのではないかなと思います。例えば、時計の軸を逆に戻して考えますと、1年とか 1年半前は、今よりも悲観度は高かったように思います。そういう意味で、今は多少良いとみています。以上