原田審議委員記者会見(2017年6月1日)要旨
Full text
§1Question
午前中の懇談会でどういった内容の話があったのかを教えて下さい。
§2Yutaka Harada
本日の懇談会では、当地の経済界、金融界を代表する方々から地域経済の現状に関する貴重なお話を数多く頂きました。全てを網羅して紹介することは難しいので、席上で聞かれた話題等を整理してお話しします。景気の現状については、ウエイトの高い製造業を中心に明るめの動きがみられるとのお話を頂きました。一方で、多くの参加者から、人手不足の強まりについてのご指摘がありました。人手不足については、当地は有効求人倍率が全国的にみても高いほか、業種によるバラつきが大きいとのご指摘がありました。当地の企業をみると、中小企業を中心に一部で人手不足が事業の制約となる例はみられますが、一方で、省人化のための設備投資が本格化してきていることや、生産性向上のために事業のあり方を見直すといった前向きな動きに繋がっている面もあります。金融面では、創業・再生支援あるいは事業承継など地域経済の活性化に向けた各種の取組みをご紹介頂きました。また、金融政策運営に関しては、現在の金利情勢が長期間続くことに対する懸念の声や、丁寧なコミュニケーションに努めてほしいとの要望を頂きました。
§3Question
岐阜県の景気動向についての見解および先行きの見通しを教えて下さい。また、マイナス金利政策で県内企業にどういう影響が出ているのか、今後の見通しも含めて教えて下さい。
§4Yutaka Harada
岐阜県をはじめとする東海 3 県の景気動向は、名古屋支店が判断している通り、「緩やかに拡大している」とみています。すなわち、世界経済の回復を主因に生産が緩やかな増加基調にあるほか、将来の成長に資する積極的な設備投資や研究開発が続いています。この間、雇用者所得は、労働需給が引き締まる中で改善を続けており、このことが下支えとなるかたちで、個人消費は緩やかに持ち直しています。今後の見通しは、世界経済の回復が続くもとで、当地経済はしっかりとした足取りで前進していく可能性が高いとみています。今回当地を訪れて感じたのは、岐阜県は、刃物や窯業といった伝統的な地場産業で高い技術力を育むとともに、そうした技術力を活かして、新たな需要の開拓に向けて果敢にチャレンジしていくフロンティア精神に溢れる企業が数多く存在するということです。また、このような強い経済をさらに強くしていくための様々な取組みについてもお聞きしました。このような当地関係者の幅広い取組みが功を奏し、高齢化や人口減少といった課題に対応しつつ、岐阜県経済がより一層活性化していくことを期待したいと思います。次に、マイナス金利の影響についてですが、マイナス金利によって生じた貸出金利の低下は、資金を調達する企業・家計に対しては着実にプラスの影響を及ぼしています。
§5Yutaka Harada
例えば、企業は、積極的な設備投資、研究開発投資、M&A等を行っていますが、極めて緩和的な金融環境がこうした動きをサポートしていると考えています。また、当地の住宅投資は持ち直しが続いており、低水準の住宅ローン金利もその背景の一つにあります。岐阜県を含む東海地域は、もともと金融機関間の競争が厳しい地域であると理解していますが、そうした中で、マイナス金利が金融機関の収益力に与えている影響については十分に認識しています。もっとも、当地の金融機関は総じてしっかりとした財務基盤を備え、積極的な信用仲介活動を継続しており、当地の貸出も着実な増加が続いています。マイナス金利を含む現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は、日本経済をデフレから脱却させるために必要な政策です。金融機関の収益環境の改善という観点からも、デフレからの脱却は必須であると考えています。
§6Question
出口戦略についてお伺いします。午前中の講演でも触れていますが、改めて、出口における日本経済への悪影響を指摘する声に対して委員のご意見を伺います。
§7Yutaka Harada
出口戦略というのは、現在行っている金融緩和が成功し、物価が2%を達成するめどが得られたときに金融緩和の縮小を行うということです。それをどのような速度で行うのかは、物価上昇のモメンタムによりますので、一概にお答えすることはできませんが、基本的には、付利を引き上げる、あるいは、日本銀行が買っている量を減らす、ということを組み合わせて行うものと考えています。出口の副作用については、基本的に副作用はなく、景気が十分に良くなって金融緩和を止めるのですから、経済は良い状況が続いているわけです。心配する方は、金利を上げていく過程で、日本銀行は、一方では超過準備に付利している金利を引き上げ、また一方では既に持っている国債の金利は低いままですので、短期的に赤字になる可能性があることを心配されているのだと思います。ただ、それはあくまでも短期的なものであって、金利が上がるので、最終的には日本銀行が高い金利の国債を買って、そこから高い利息収入が得られるので、長期的に考えれば日本銀行の財務の健全性に悪影響を及ぼすことはないと考えています。
§8Question
短期的に赤字に陥る可能性があるというお話ですが、その期間、赤字になっていることの悪影響については、どのようにお考えでしょうか。
§9Yutaka Harada
短期の期間がどのぐらいなのかは、物価上昇のモメンタムにもよりますので一概にはお答えできませんが、物価が上がる状況になれば当然金利も上がってきますので、ある段階から、日本銀行の保有している国債が高い金利のものに入れ替わるということが容易に予想できるようになります。仮に赤字になるとしても、それは短期的であって、将来的には日本銀行の収益がより改善すると予想できるようになりますので、問題が生じることはないと思います。
§10Question
今の質問に関連してですが、赤字になる可能性があり、その上で、低い金利の国債を持ちつつ景気の過熱を抑えるために銀行に対して高い金利を支払わなければならないという局面があるとおっしゃっているわけなので、短期的とはいえ赤字は数年続く可能性があるのではないかと思います。日銀の自己資本は前期で7.8 兆円と、兆円単位の赤字が数年続けば、これは、赤字が自己資本を上回り、債務超過になるということになります。その上で質問ですが、本日の講演での「赤字になる可能性があります」、「そもそも、中央銀行の損益が赤字かどうか気にしてお札を使う人がいるでしょうか」、「日銀が長期的に損失を負うことによる危険など存在しません」という3 つの文章において、赤字というのを債務超過と言い換えた時に、同じようなことが言えるのでしょうか。すなわち、「日銀が長期的に債務超過になることによる危険は存在しない」や、「中央銀行が債務超過かどうか気にしてお札を使う人がいるでしょうか」と、そういう意味で赤字を債務超過に言い換えた場合でも、同じことが通用するのかお聞かせ下さい。
§11Yutaka Harada
債務超過と言い換えても同じことです。本日の講演で申し上げたかったことは、2 つありまして、まず理論的になぜ気にする必要があるのかということです。つまり、それは日本銀行が普通の企業であるかのように誤解した議論であって、日本銀行は普通の企業ではありませんので、債務超過であるとか、あるいは赤字であるとかを気にする必要はないという理論的な面から申し上げています。もう1 つは、現実として日本銀行の損益計算書が、どのように動いていくかを述べた部分であり、金利が上がれば日本銀行が保有している国債からの金利収入は増えるため、最終的には利益が増えるということです。従って、理論的に考えても、現実的に考えても心配する必要はないと申し上げています。
§12Question
先日、国会で片岡剛士氏の審議委員就任が承認されました。片岡氏は国債の買入れ量を重視し、日銀が量から金利重視に転換したことに対して批判的です。片岡氏が今後国債の買入れ量拡大などを決定会合等で主張してきた場合、委員は賛同するようなお考えはあるのでしょうか。
§13Yutaka Harada
審議委員は自身の見識に基づいて自由に意見を述べるのですから、それについて、事前に、おそらくこういうことを言うだろうからその時に私はこう考えると申し上げるのは、如何なものかと思います。今後は政策委員の議論が活発でなくなると問題視している方がおられる中で、ご質問のように議論が活発になると言ってくださるマスコミの方がおられるのはありがたいことだと思っています。
§14Question
足許の物価が十分に上がっていないということで、国債の購入量を拡大することが物価を上げていくことだというのがリフレ派のそもそもの主張だったのではないかと受け止めていますが、これについてのお考えを改めてお伺いします。
§15Yutaka Harada
現在行っているイールドカーブ・コントロールによって、物価を上げていく効果を十分期待できるので、外的な環境が大きく変化しない限り、これを続けていくことが、現在なすべき政策としては必要で、これにより2%の「物価安定の目標」を達成することができると考えています。それはなぜかというと、まずはイールドカーブ・コントロールによって、イールドカーブが寝過ぎることでかえって誤った期待が生じてしまうということが改善されるということ、それから、景気にポジティブなショックがあった時に、景気の回復を増幅するように動くことが考えられます。また、80 兆円のめどがついていることによって、ネガティブなショックがあった時にも、そのネガティブなショックを弱める機能があります。その結果、雇用状況は改善していって、やがてフィリップス・カーブのL字の局面の方に近づき、2%に向けて物価は上昇していくと考えられ、今の政策を続けていくことで、2%の「物価安定の目標」を十分達成できると考えています。
§16Question
物価上昇と景気回復に向けて、財政出動を求める声も根強いのですが、これについての考えをお伺いします。
§17Yutaka Harada
財政政策は政府が決めることで、私どもはそれを前提に行動して、2%の「物価安定の目標」を達成すると理解しています。ただ、理論的に言えば、金融と財政の両方を緩和すれば、より効果があるだろうと考えています。
§18Question
先程、80 兆円のめどがあるので、ネガティブなショックを弱めると言われましたが、ここ何か月かで国債の買入れが 80 兆円から上がったり下がったりしています。市場では以前ほど 80 兆円のめどをなくしてもあまり気にするような声は聞かれないと思うのですが、委員は 80 兆円のめどを修正することに現状では必要性はあまり感じられていないのでしょうか。
§19Yutaka Harada
今はネガティブなショックがあるわけではないですが、長期金利をゼロ%程度にするということが目標です。大きいネガティブなショックがあれば自然と金利は下がってしまいます。金利が下がったときに、全く買わなくてもゼロ%程度になっているのだから構わないということになれば、景気が悪くなっているにもかかわらず何も反応しなくても構わないということになります。しかし、80 兆円のめどがついていれば、ネガティブなショックがあって、その結果、金利が下がっているのだから、何とかしないといけないと当然反応するわけで、80 兆円のめどがついていた方が安心であるという意味で重要だと考えています。
§20Question
昨年10月の松本市での記者会見で、委員は短期金利が-0.1%、長期金利がゼロ%程度という現在の状況に見合う国債の買入れ額が 80 兆円であるとおっしゃっていたかと思います。足許の国債の買入れペースは年間60 兆円程度だと思いますが、この点についてはどのように評価されているのでしょうか。
§21Yutaka Harada
今のイールドカーブに対応するのが 80 兆円程度であるというのは、それはあくまでも程度でありますので、場合によってはそれが80 兆円ではなくて 60 兆円かもしれません。ただ、概ねそういうレベルになっていると思います。では何故 80 兆円のめどが必要かというと、先程申し上げましたように、ネガティブなショックがあったときに、名目の金利がなぜゼロになっているのかを十分に認識させるために必要だということです。つまり名目金利について、景気が悪くなっているから下がっているのか、日本銀行が国債の買入れをしているから下がっているのか、それはなかなか認識することは難しいと思います。その時に、量のめどがついていれば、現在の低金利がどういうことで生じているのかということを認識せざるを得ないので、めどがついていることに意味があると思っています。
§22Question
黒田総裁は、今の物価状況についてもはやデフレではないという言い方をされています。政府はデフレ脱却宣言をしていないわけですが、委員は、今の物価の状況について黒田総裁と同じようなお考えなのでしょうか。
§23Yutaka Harada
「もはやデフレではない」という意味をどのように理解するかということに尽きると思います。物価が、「量的・質的金融緩和」を始める前のマイナスの領域からプラスの領域に移ったという意味では、デフレではないと思いますが、私どもはあくまでも 2%の「物価安定の目標」の達成を目指しているわけです。それについて、2%にはまだ距離があるという状況で、ここでデフレ脱却というと、もういいのかということになってしまうのではないかと個人的には思います。
§24Question
先程の出口局面において、金利を上げるか、日銀が買っている量を減らすことを組み合わせるということをおっしゃっていましたが、その場合の金利とはどういうものでしょうか。また、量を減らすというのは国債の量を減らすということでよろしいのでしょうか。
§25Yutaka Harada
金利と量を組み合わせると申し上げましたが、金利または量、あるいは両方という意味です。それをどのように行っていくのかは、今は何も決めていません。また、その金利は、日本銀行が銀行の超過準備に付けている付利を引き上げることになるだろうと思います。米国では、付利を上げて、その途中で国債の買入れ額を減らすことを考えているようで、私として非常に参考になると思っています。
§26Question
現在、3 段階の階層構造で付利を行っていると思いますが、付利というのは、どの部分のことを指しておられるのでしょうか。
§27Yutaka Harada
超過準備のところです。
§28Question
それは+0.1%の部分を一本にするということですか。
§29Yutaka Harada
そうです。
§30Question
旧日銀法では、日銀が債務超過になった場合などには、資本注入の条項がありましたが、新法ではなくなりました。この法の趣旨は、独立性を与える一方、日銀の収支、バランスシート、財務についてきちんとやって下さいよ、というのが趣旨ではないかと思います。赤字が続く可能性もあるし、債務超過になる可能性もあるということは、この法の趣旨に反するのではないかと思いますが如何でしょうか。
§31Yutaka Harada
日本銀行は、日本銀行の利益を最大化することを目的としている組織ではありませんので、日本銀行の利益を考えて金融政策を行うことはないわけです。財務の健全性という意味は、日本銀行自体が自らの経営について規律を持って行うことだと考えています。債務超過といっても、実際の過程では、一時的であるということが明らかになると思います。従って、特に問題もないですし、資本注入も必要ではないと考えています。以上