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Bank of JapanPress conferenceJun 16, 2017Haruhiko Kuroda, Governor

総裁定例記者会見(2017年6月16日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

本日の金融政策決定会合の内容について、ご説明をお願いします。

§2Haruhiko Kuroda

本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆる「イールドカーブ・コントロール」のもとで、これまでの金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利について、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行います。買入れ額については、概ね現状程度の約 80 兆円をめどとしつつ、金利操作方針を実現するよう運営することとします。また、長期国債以外の資産買入れに関しては、これまでの買入れ方針を継続することを賛成多数で決定しました。わが国の景気の現状については、「緩やかな拡大に転じつつある」と判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、総じてみれば緩やかな成長が続いています。そうしたもとで、輸出は増加基調にあります。国内需要の面では、設備投資は、企業収益が改善するなかで、緩やかな増加基調にあります。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、底堅さを増しています。この間、住宅投資と公共投資は、横ばい圏内の動きとなっています。以上の内外需要の増加を反映して、鉱工業生産は増加基調にあり、労働需給は着実な引き締まりを続けています。また、金融環境については、極めて緩和した状態にあります。先行きについては、わが国経済は、緩やかな拡大を続けるとみられます。

§3Haruhiko Kuroda

国内需要は、極めて緩和的な金融環境や政府の大型経済対策による財政支出などを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調を辿ると考えられます。輸出も、海外経済の改善を背景として、基調として緩やかな増加を続けるとみられます。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、 0%程度となっています。予想物価上昇率は、弱含みの局面が続いています。先行きについては、消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、プラス幅の拡大基調を続け、 2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。リスク要因としては、米国の経済政策運営やそれが国際金融市場に及ぼす影響、新興国・資源国経済の動向、英国のEU離脱交渉の展開やその影響、金融セクターを含む欧州債務問題の展開、地政学的リスクなどが挙げられます。日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。また、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に 2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続します。今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行います。

§4Question

物価情勢について伺います。新年度入りの 4月も企業の価格改定が非常に小規模であったという感触を受けています。経済が高水準で成長しているにもかかわらず物価が弱いという状況については、これまでもいろいろご説明はあったかと思いますが、日本に限らず、米国を含め先進国でも同じような状況が今、起きているかと思います。こうした事態が先進国で共通して起きている理由について、どうお考えでしょうか。

§5Haruhiko Kuroda

まず、わが国において、潜在成長率を上回る経済成長が続き、需給ギャップが改善している割には、物価上昇率がなかなか高まらないことはご指摘の通りです。こうした傾向は、他の先進国でも多かれ少なかれ共通してみられる現象です。その背景について、学界などでいくつかの仮説が指摘されていますが、現時点でコンセンサスは得られていないと思います。この点、特に、わが国については、デフレが長期間にわたって続いたため、デフレマインドの転換に時間がかかっていることがあると思います。すなわち、賃金や物価が上がらないことを前提とした考え方あるいは慣行が根強く残っていると言えるのではないかと思います。もっとも、このところ、有効求人倍率がバブル期のピークを超え、失業率が 2%台後半まで低下するなど、労働需給の引き締まりが一段と明確になるもとで、賃金上昇圧力は着実に高まっています。例えば、多くの企業において 4年連続でベースアップが実現した模様であるほか、労働需給に感応的なパートの時間当たり賃金は、このところ前年比 2%台後半のしっかりとした伸びとなっています。こうした賃金の上昇は、次第に販売価格やサービス価格の上昇につながっていくものと考えています。以上のような点を踏まえると、わが国の物価上昇率は、先行き、緩やかに高まっていくと考えています。

§6Question

長期国債の買入れについてお伺いします。長期国債の保有残高の年間増加額については 80 兆円をめどとされていますが、一方で日銀は、債券市場における日銀のシェアが拡大すればするほど、買取り量あたりの緩和効果が大きくなると説明されています。中長期的にみると、日銀が企図した金融政策全体の緩和効果が一定だとすると、長期国債の買入れのペースは徐々に鈍くなっていくとも考えられますが、この点についてお考えをお聞かせ下さい。

§7Haruhiko Kuroda

ご指摘の点については、将来、買入対象となる国債が品薄になり、需給が逼迫する状況になれば、他の条件を一定とした場合、より少額の国債の買入れで、同じ金利水準を実現することが可能になるという一般論を申し上げているわけです。日本銀行は、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、国債の買入れを行っています。その際の国債の買入れ額については、保有残高の増加額年間約 80 兆円をめどとしていますが、実際の買入れ額は、金融市場の状況に応じて、ある程度の幅をもって変動してきています。従って、実際の国債買入れ額はあくまでも、適切な金利誘導という方針に基づいて国債買入れを運営している結果であるとご理解頂きたいと思っています。先行きについても、長期金利の操作目標を実現するために国債買入れを適切に運営していく方針であり、予め、国債買入れ額について、このようにペースを変えていくとか決めていくといったことは考えていません。あくまでも「イールドカーブ・コントロール」という形で、特に 10年物国債金利の操作目標を実現するように、長期国債の買入れを行っていくということに尽きると思います。

§8Question

5月の衆議院財務金融委員会での民進党の前原議員との質疑において、出口局面での日銀の財務について、総裁は、影響を含めて分かりやすく説明することは重要だと、検討していくと表明されていますが、今後の試算の公表等について見通しをお聞かせ下さい。また、前原議員は日銀が赤字になるとの試算を公表されていますが、それに対しても、一定の条件のもとでは矛盾のない試算だという認識を示されています。赤字になる可能性はあるとの認識でよいのか、また日銀が赤字になった場合、通貨の信認の低下や日銀業務への支障を懸念する声もありますが、こういった点に問題はないのでしょうか。

§9Haruhiko Kuroda

金融政策運営の考え方について、日銀の財務面への影響も含めて理解を得ていくということは、非常に重要だと思いますし、これまで同様、しっかりと説明してまいりたいと思っています。ただ、ご案内のとおり、 2%の「物価安定の目標」に向けての道は、まだかなりあります。今から具体的に出口がどのようになるのか、そのもとで日銀の収益がどうなるかということは、まだ道半ばの状況で、将来の経済・物価、あるいは金利などに加えて、そのもとで日銀がどういう手段をどのような順序でやるかということによって当然変わってきますので、現時点で具体的なシミュレーションを示すことは、却って混乱を招くおそれがあるために難しいし、また、あまり適当ではないと考えています。いずれにしても、あくまでも 2%の「物価安定の目標」が達成され、安定的に推移する状況のもとで出口というものがあるわけですので、今の時点で具体的に出口の手法とか順序を示すのは、なかなか難しいし、またそのもとでの収益の状況等について具体的なシミュレーションを示すのは、却って混乱を招くおそれがあるのではないかと思っています。従って、2 番目にご指摘の点につきましても、色々な前提を置けば色々な結果が出てくるということでありまして、今の時点で、このような財務状況になるとか、収益状況になるということを具体的な数字等でお示しするのは適当ではないと思っています。

§10Question

先程の質問に関連して 2 点お願いします。1 点は昨日、全銀協の平野会長が同様に出口戦略について話しておられまして、市場との対話が重要だということを日銀に求めました。その点についてご意見をお願いします。もう1 点は、ETFの買入れについてです。昨年増額をしたときの理屈は、リスクプレミアムを下げるということでしたが、現状では、株価は2 万円のところまで来ていまして、当時の増額のときの目的、意義は達成できたようにも思います。この点についてのご見解をお聞かせ下さい。

§11Haruhiko Kuroda

金融機関の経営者の方の個別の発言について、私から具体的にコメントするのは差し控えたいと思います。そのうえで一般論として申し上げると、金融政策は、金融市場あるいは金融機関を通じて、実体経済に効果が波及していくものですので、政策に関する考え方やその前提となる経済・物価情勢についての判断を、できるだけ分かりやすく説明して、理解を得ていくことは大変重要だと思っています。日本銀行は、昨年公表した「総括的な検証」等を含め説明に努めてきているほか、市場参加者との間で、金融市場調節や市場取引全般に関して密接な対話を行っています。引き続き丁寧な説明を行ってまいりたいと思っています。それから、ETFの件については、ご指摘のとおり、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みの1 つの要素として、株式市場におけるリスクプレミアムに働きかける観点から行っているものであって、特定の株価水準を念頭において、そうした水準を実現するために実施しているわけではありません。ETFの買入れは、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために必要な政策であると考えておりまして、先行きについては、やはり、あくまでも経済・物価・金融情勢を踏まえて、毎回の金融政策決定会合で適切に判断していくものであると考えています。

§12Question

質問は 2 つあります。1 つは先日、総裁はオックスフォード大学で講演をされて、そのときにもデフレマインドの転換が非常に難しいといったお話をなさっていたかと思うのですが、企業の方のお話等を伺うと、中でもやはり国内市場については人口減という大きな課題があって、その中で、なかなか値上げだ、賃上げだという前向きなところに向かうのは難しいという声が結構根強いと思います。一方で、それは悲観的過ぎるという声もあるのですが、企業のデフレマインドを転換することは、やはりオックスフォードでおっしゃったように、かなり難しいことだと考えていらっしゃるのか、その辺りを改めてお伺いしたいと思います。2 つ目は、国債買入れのペースですが、80 兆円と今回も変えませんでした。ただ、足許では確か 55 兆円でかなり、だんだんちょっと離れてきているかなと思います。これは今後どのように、ずっと 80 兆円のままにしておくのであればもうこれはめどですらないような気もしますし、かといって数字を示すこと自体を止めるのか、その辺りについて、今後の見通しを含めて教えて下さい。

§13Haruhiko Kuroda

1 つ目に関しては、昨年の「総括的な検証」でも述べましたように、1998年から 2013年まで 15年デフレが続いたということで、デフレマインドがかなり強く染みついているという面がありますし、そうしたもとで、予想物価上昇率がいわゆるアダプティブ ―― フォワードルッキングではなくバックワードルッキングな傾向が強い――ということも指摘されています。こうしたデフレマインドの転換には時間がかかるということではないかと思います。デフレマインドの転換ができないということではなくて、時間がかかるということであって、今その途上にあるということだと思います。今回の公表文の中でも、予想物価上昇率については弱含みの局面が続いていると指摘しています。これはその通りだと思いますが、他方で色々なデータを見ますと、一部に予想物価上昇率が下げ止まっているだけではなく、上昇を示す指標も現れてきております。まだ予想物価上昇率が上方に転じたというほどではないので、弱含みの局面が続いていると申し上げているわけですが、いずれ実際の物価も上昇し、予想物価上昇率も上がっていくことは間違いないだろうと思います。ただ、それには時間がかかるということだと思います。

§14Haruhiko Kuroda

そうした中で、ご指摘の人口減ということが、潜在成長率の上昇を低いものにし、そうした予想のもとで、売上その他について、比較的慎重な見方をすることを通じて、賃金や物価の引上げについても慎重になる傾向があるのではないかということは、よく言われています。そういう面がないとは言えないと思いますが、あくまでも物価は名目値の話ですし、他方で人口減によって影響される実質成長率は実質の話です。実質成長率が人口減等によって下がると、必ず賃金上昇率も下がるということでもないと思います。それから、人口減について、最近は女性や高齢者も含めて就業率が上がっています。それから、もっと根本的に言えば、労働生産性が上昇していけば、実は人口減のもとでも実質成長率はある程度の水準に維持できます。これらは成長戦略とか構造改革とか、そういうことで色々一括りにされていますが、そうしたことの影響も十分考えられると思います。人口減ならば即賃上げが進まない、ということではないのではないかと思っています。2 番目のご質問は、先程もお答えしましたが、80 兆円というのはあくまでもめどでして、金融市場調節方針は「イールドカーブ・コントロール」という形で政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用すると同時に、長期金利について、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するように国債の買入れを進めるということです。

§15Haruhiko Kuroda

国債の買入れ額は、一応のめどはありますが、そのもとで、めどを上回ったり下回ったりすることは、ある程度の幅をもって考えていくべきものだと思っています。あくまでもこれは、「イールドカーブ・コントロール」という形で金利をターゲットにしてやっています。購入額はいわば内生変数として出てくるわけですので、様々な状況によって上下に変動するものです。ただ、これまでの「量的・質的金融緩和」の経験、あるいは「イールドカーブ・コントロール」のもとでの「量的・質的金融緩和」の経験のもとでも、やはりこの程度の国債買入れは必要であったのは事実ですので、めどはめどとして十分機能しているのではないかと思います。ただ、それをターゲットにしていませんので、当然、その上にいったり下にいったり、特に毎月の買入れ額はある程度変動するということだと思います。

§16Question

それは半分以下ですとか、例えば 20 兆円、30 兆円でも、80 兆円のめどは変えないということでしょうか。

§17Haruhiko Kuroda

先程申し上げたように、月々、結構変動していますので、足許で 80兆円をかなり下回っていても、その翌月にはまた上の方に増えるかもしれませんし、そういうめどであるという意味でお示ししていることを理解して頂ければと思います。

§18Question

質問は 2 点あります。欧米の金融政策をみておりますと、米国は今週のFOMCで今年2 度目の利上げを行って、 ECBも先日の会合でこれ以上の利下げは当面行わない旨を決めました。いわば欧米はいずれも金融政策の緩和からの出口に向かいつつある、既に向かっているという状況で、日本は出口が非常に遠い、全くみえていないような状況にあります。そもそも、日銀が欧米に比べても大規模な緩和をしているにもかかわらず、これだけ欧米と違いが起きていることの理由をどうみていらっしゃるかということが 1 点です。2 点目は、そこで考えたときに、そもそも日本と欧米のおかれている経済の情勢はかなり違っていて、例えば先程おっしゃった人口減の問題であるとか、潜在成長率も違いますし、そういった経済情勢が違うのにもかかわらず、同じ物価の上昇目標を掲げているということ自体に無理があるのではないか、という気もするのですが、そういった考えについてどうお考えになりますでしょうか。

§19Haruhiko Kuroda

先程来申し上げていますように、あくまでも金融政策というのは物価安定、具体的には 2%の「物価安定の目標」を実現し、それを安定的に維持するために行っています。そうしたもとで、同様の目標を持っていますが、米国の物価上昇率は、まだ 2%になっているわけではありませんが、既に 2%にかなり近いところで動いていますし、FOMCの予測でも 2%に達するということが示されています。そういう意味では、米国の場合は経済・物価情勢がそのような状況なので、正常化のプロセスを始めているということだと思います。ECBは正常化のプロセスを始めていませんが、経済動向をみましても、物価はまだ 2%に達していませんが、かなりそれに近い水準に来ていますし、今後そういった状況で推移するという見通しを彼らは持っていまして、そういう意味では、更なる金利引下げの必要はないであろうということは、十分理解できるところです。それに対して、わが国の場合、実体経済は順調に成長していますが、物価がまだ足許 0%程度ということで、徐々に上昇していくとは思いますが、まだ 2%の「物価安定の目標」には道半ばというか、まだ遠いということですので、正常化や出口ということが議論される、議論すべき状況になっていないということです。

§20Haruhiko Kuroda

ただ、需給ギャップがかなり縮小してプラスの領域に入っていますし、今後も現在のような成長が続いていけば、更に需給ギャップが縮んでいきますので、これが賃金・物価の押上げ圧力になっていくことは間違いないと思います。そういったことが実際に起これば、更に予想物価上昇率にもプラスの影響を与えてくると思います。足許でまだ 2%の「物価安定の目標」がすぐに達成される状況でなく、今出口や正常化を議論する状況にないことは事実ですが、そのことが、2%の「物価安定の目標」が達成できない、適切でないということにはつながらないと思っています。先程来申し上げている通り、人口減と物価上昇率とがダイレクトにリンクしているというような理論的な根拠はありません。実際にも、欧州には人口が減っている国がありますし、アジアにもありますが、そういった国で日本のようにデフレになったわけでもありません。ユーロ圏の物価上昇率も 2%近いところになっていますし、アジアで人口が減っている国で物価上昇率は 2%に近いところにある国もありますので、人口減と物価上昇率をリンクするという考え方は、理論的に正しくないというだけでなくて、実際的にも正しくないと思います。2%の目標自体についてですが、従来から申し上げている通り、それを目指す理由の1 つには消費者物価指数が実態よりも高めに出ることが指摘できます。

§21Haruhiko Kuroda

逆に言うと、1998年から 2013年まで 15年続いたデフレの期間の年間平均の物価の下落率は-0.3%くらいでしたが、実感としてはもっと落ちていたように感じられたのではないかと思います。消費者物価指数がどうしても高めに出てしまうことを考えると、0%という数字が出たときは、マイナス、デフレになっている可能性がありますので、やはりプラスの物価上昇率を目指す必要があるということが第 1 点。第 2 点は、よく言われるぎりぎり 0%というのを目標にしていると、景気後退でデフレにすぐ陥って、通常の政策金利の引下げで対応できる余地が無くなってしまうことがあります。金融政策の糊代といいますか、金利の引下げ余地を残しておくことが必要だということから、主要先進国は皆 2%程度の物価安定目標を立てています。3 番目に、その結果としてですが、主要先進国が皆 2%の物価安定目標を立てて、そのもとで金融政策を運営していると、長期的にみますと、主要国の間の為替レートも安定的に推移する可能性が高いということもあると思っています。

§22Question

先程のETFの議論に一部関連しますが、2%の目標の達成や出口云々の議論に先立って、それとは別に例えばETFの買入れを減らす、緩和を縮小させるなどの方向に金融政策を調整することはあり得るのでしょうか。

§23Haruhiko Kuroda

理論的にはあり得ると思います。 ETFの買入れの拡大をしたときと、長期国債の買入れ額を拡大したり、「イールドカーブ・コントロール」を導入したときとは、必然的に結びついているわけではありません。ただ、ETFの買入れも、2%の「物価安定の目標」を実現するための「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の一環です。2%の「物価安定の目標」と離れて、こちらはずっと緩和しているがこちらはやめるといったことは普通考えられないと思いますが、ご指摘のような、国債の買入れによる「イールドカーブ・コントロール」と、リスクプレミアムを縮小するためのETFの買入れとが、完全にシンクロナイズして動く必要もないし、過去においてもそうなっていませんので、そこはそのようにお考え頂く必要はないと思います。これは毎回の金融政策決定会合で議論していくことですが、今申し上げたような全体の金融緩和の一環ですので、2%の「物価安定の目標」と離れて、これはこれで違うようにするという考えはないと思います。

§24Question

出口に関して 2 点お伺いします。出口の議論の中で、付利の引上げとかバランスシートの縮小とか、そういう議論がよくあるのですが、今の日銀は金融政策で長期金利目標をやっていまして、そういう意味では、出口の際のツールとして、長期金利目標を引き上げることは念頭にあるのでしょうか。長期金利目標は、2%達成前でも調整可能だと思うのですが、長期金利目標の引上げというのは出口の際にあり得るのかどうか、というのが 1 点目です。2 点目は、出口の局面で日銀の財務が赤字や債務超過等に陥った場合の話なのですが、信認という面も含めて、日銀の金融政策の遂行能力が低下することになるのかならないのか、この点について、明確にお話し頂ければと思います。

§25Haruhiko Kuroda

前段のご質問については、出口というものについて、いわば「量的・質的金融緩和」の緩和の程度を縮小していく場合に、色々な手段があるでしょう、ということはその通りだと思います。ただ、「イールドカーブ・コントロール」のもとでは、短期の政策金利を日銀が付利していますので、それを動かすことが日銀の政策ツールとしてあるわけです。他方で、長期金利は操作目標であって、操作目標を実現するために、長期国債の買入れを行っています。従いまして、「イールドカーブ・コントロール」のもとでご指摘のようなこともあり得ると思うのですが、上下両方に調整の可能性もあると思います。日銀が直に動かせるものとしては、付利金利と国債の買入れがあります。それを通じてターゲットとしての長期金利を上下に誘導するということはあると思います。議論としては、まさに付利をどうするかということと、バランスシートの規模をどうしていくかということが、議論の対象になるのは普通だと思います。ご指摘のようなことがあり得るのかと言えば、あり得ると思うのですが、非伝統的金融政策というか、量的金融緩和、そういうものの正常化プロセスを議論する場合には、通常、短期金利をどう操作していくかということと、バランスシートをどのように調整していくか、つまり国債の買入れとか、そういうことをどのように変えていくかということが焦点になるのではないかと思います。

§26Haruhiko Kuroda

日銀の財務状況への影響については、前から申し上げている通り、「量的・質的金融緩和」を拡大する過程のもとで、収益が拡大し、それが「量的・質的金融緩和」の出口に差し掛かるもとで、今度は収益が減少する可能性があるということです。それに対する私どもの対応としては、収益の振幅を平準化するために、そして財務の健全性を確保する観点から、2015年度から長期国債に関する引当金である「債券取引損失引当金」を大幅に拡充していますので、収益の変動に対する対応としては、しっかりしていると思います。他方で、そうしたもとでも、収益が振れ、あるいはご指摘のように赤字になる可能性があるのではないか、と言われると、それは色々な前提の置き方次第ではそうなり得るわけですが、ただ、より一般的には、中央銀行は継続的に通貨発行益が発生する立場にあります。長い目でみれば、必ず収益が確保できる仕組みとなっていますので、短期的な収益の振れがあっても、そのことで中央銀行や通貨の信認が毀損されることはないと思います。通貨の信認が毀損されるということは、要するにハイパー・インフレーションになる場合ですが、私どもは物価安定目標を立てて、しっかり持続的・安定的に物価安定目標が維持されるように金融政策を運営してまいりますので、そういったご心配は必要ないと思います。

§27Haruhiko Kuroda

そういう意味では日本銀行の財務の状況が金融政策を制約したり、通貨の信認を毀損することにはならないと思います。

§28Question

最近長期国債の買入れが少し減っている背景として、米国発の長期金利の上昇圧力がやや後退しているから、という解説もあると思います。ということであれば、今後も長期金利の上昇圧力があまり高まらないというか弱まるのであれば、自然に必要な国債買入れ額も減らしていくことができると、そう考えてよろしいものでしょうか。

§29Haruhiko Kuroda

そう考えてよいと思いますが、そもそも米国の金利が上昇した場合に日本にどのような影響がでるかは、為替レートへの影響と、金利への影響とに分かれますし、その場合の金利への影響がどのようなものになるかは、米国の金利が上がると日本の金利を押し上げる、かなりの程度押し上げるように働くかどうかということ自体が、そう一概に決めつけられないものだと思います。仮に、将来にわたって米国の金利が上がった場合にどうなるかは、なかなか予想は難しいと思います。ただ、この半年位の傾向をみますと、確かに「イールドカーブ・コントロール」を導入した後、米国の金利が上がったときに、日本の金利も上昇する傾向がみられ、それを「イールドカーブ・コントロール」のもとでコントロールするために、国債の買入れを増やしたり、指値オペをしたことは事実ですし、その後、米国の金利が下がってきて日本の金利への上昇圧力が低下してきたことも事実です。過去にそういうことがあったのはその通りですが、将来にわたってそうなるかは、なかなか予測し難いということと、そもそも、米国の金利が将来上がらないと決めつけることもできません。米国の経済は比較的順調に成長していますし、FRBの量的金融緩和政策も、短期金利の引上げ、あるいは年内にバランスシートの調整も始めるかもしれないと言われていますので、そうしたもとで、あるいは金利が上がっていくのかもしれません。

§30Haruhiko Kuroda

金利が上がらないとか下がるとか決めつけることもできませんし、上がる可能性もあるということです。上がったとき、それが日本の金利にどの程度影響するかも一概に言えないと思います。ただ、何回も申し上げるように、この半年位の間、「イールドカーブ・コントロール」を実施しているもとで、米国の金利が上がったときに、国債の買入れを拡大したり、指値オペをしたことも事実ですし、その後、米国の金利が下がって、国債の買入れを増やす必要や指値オペをする必要もなかったことも事実ですので、おっしゃりたいことはよく分かりますし、否定する気もありませんが、決めつけることはなかなか難しいのではないかと思っています。

§31Question

出口への懸念や心配が強まってきた背景には、緩和の期間がだんだん長くなってきたことがあるのではないかと思います。長期化することのリスクやデメリットについて総裁がどのようにお考えか教えて下さい。また、それが物価目標達成のメリットを上回ることがないのかについてもお願いします。もう1 点ですが、先程から市場の混乱を理由にシミュレーションを示すことは難しいということでしたが、全銀協や生保協の会長もオープンな議論を、とおっしゃっていて、市場の方がむしろ示してほしいという声が多いように見受けられますが、そこはどう受け止めておられますか。

§32Haruhiko Kuroda

まず、1 点目については、個人的な感想ですが、出口論がやや増えているのは、1 つには、先程のご質問にあったように、米国が出口の戦略を進めていますし、 ECBもこれ以上の緩和を当面する必要はないような状況になってきているという状況のもとで、欧米の出口論との関連で議論されていることです。もう1 つは、実際にこの 4年間の「量的・質的金融緩和」あるいは「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで景気が回復し、実体経済が大幅に改善していることです。そうしたことを踏まえて、そろそろ出口についても議論してはどうかという声が高まっているのではないかと思います。緩和が長期化することのデメリット・メリットについては色々な議論があるとは思いますが、何よりも重要なことはやはり、物価の安定を達成し維持していくことであり、緩和が続く期間の問題よりも、むしろデフレが続いたりデフレに戻る懸念があることを避けて、物価の安定をきっちり達成し維持することの方が、はるかに重要であると思っています。それから市場との対話は、先程来申し上げていますように、しっかり実施してきていますし、今後も実施していくつもりです。

§33Haruhiko Kuroda

ただ、何度も申し上げているように、色々な前提を置けば色々な財務への影響などは出てきますし、出口の色々なシナリオも描けるわけですが、それは出口に差し掛かっているときであれば意味があるのですが、まだそこまで行っていないところで、経済・物価、特に金融情勢がどうなっているかがまだ先の話で明確でないときに、色々な前提を置いて色々なシナリオを示して、却って混乱させることは望ましくないと思います。ご案内の通り、FRBも出口についてはかなり前に出口戦略を示したのですが、現在やっている出口はちょうどその逆で、先に短期金利を上げて、それからバランスシートを調整していこうということになっています。かつて示した出口戦略は、まずバランスシートを調整して、その後、短期金利を上げていくということを示していたわけです。ですから、そのときに前に示していた戦略を信じて市場の人が何かやっていたとしたら、まさに裏切られたというか、市場の人がその出口戦略を信じていたかどうかは分かりませんが、そういうものをプリマチュアに出すことは、市場にとっても適切でないと思います。ただ、色々な事柄について対話を深めたり、私どもの経済・物価の見通しや考え方を適切に示していくことは重要だと思っています。

§34Question

これまでの質問とは毛色が違う質問になってしまい恐縮ですが、今回、個人消費については、底堅さを増しているということですけれども、黒田総裁ご自身は最近何か買い物をなさいましたでしょうか。それがどういうものを買ったのかということと、その値付け、コストパフォーマンスについて、どうお感じになったかということ。それから普段はお立場上、 2%の物価目標の達成を言い続けなければならないと思うのですが、消費の現場に立ったときに、2%の達成が可能だと感じられたかどうか教えて頂けますでしょうか。

§35Haruhiko Kuroda

前者は、個人的な話ですので難しいですが、この時計は買いました。昨年ですが、最新のGPSで時差を自動的に調整してくれる時計です。後段の話は、私は、2%は達成できると思っています。いくつかの理由でまだ達成できていませんが、その根源的な理由は、もちろん長く続いたデフレのもとでのデフレマインドの払拭がそう容易でないということで時間がかかっている面があると思います。もう 1 つは、途中で原油価格がバレル当たり 110 ドル~120 ドルから、一時は 30 ドルを割って 70%以上も下がり、それが実際の物価上昇率にも、また予想物価上昇率にもマイナスの影響を与えたこともあると思います。根源的には、やはり予想物価上昇率の形成が、長いデフレのもとで非常にバックワードルッキングになっていることがあると思います。そういう意味では時間がかかっていることは事実ですが、 2%は達成できると思いますし、現に今、これだけ人手不足になり、需給ギャップが縮んでプラスになり、4年続きのベアが実現しているだけではなく、特に中小企業の賃上げがかなり昨年よりも大きくなっています。これは労働需給の逼迫が、中小企業により大きく効いてきているということだと思いますし、またパートの時給が 2%台後半で上昇しているなど、労働需給を反映しやすいところで起きていますので、全体として賃金に対する影響は強くなってきています。

§36Haruhiko Kuroda

現に、サービス産業などでもサービスの中身の見直しや価格の改定、それを通じて賃金を引き上げる動きも出てきていますので、私は 2%に向けて次第に上昇圧力は高まってきていると感じています。2%は達成可能だと思いますが、先程申し上げたような 2 つの大きな理由から、時間がかかって達成できていないということだと思っています。以上