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Bank of JapanPress conferenceJul 26, 2017Hiroshi Nakaso, Deputy Governor

中曽副総裁記者会見(2017年7月26日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

本日の金融経済懇談会ではどのような話題が出たのか、特に地元からの意見、要望はどのようなものがあり、それをどのように受け止められたのかお聞かせ下さい。

§2Hiroshi Nakaso

広島県の経済についてお話しする前に、一言だけ申し上げます。昨日、広島に到着して、真っ先に旧日本銀行広島支店と広島平和記念資料館を訪問させて頂きました。展示を拝見して、原爆の悲惨さと平和の尊さを改めて認識したほか、被爆のわずか2日後に営業を再開した日本銀行広島支店をはじめ、電気や路面電車等のインフラの速やかな復旧など、広島の復興に向けて懸命に取り組んだ先人たちの使命感あふれる姿に非常に胸が熱くなりました。今日の広島経済の礎は、原爆投下の直後そして戦後の様々な方々の復興に向けた懸命な努力、そのうえに築かれたということを、我々は忘れてはいけないと思いました。ご質問の本日の金融経済懇談会ですが、広島県の経済界を代表する方々から、広島県経済の現状そして課題のほか、日本銀行の金融政策の運営についても様々なご意見を頂き、大変有意義な意見交換ができたと思います。まずは、この場をお借りして、ご出席頂いた方々や、関係者の皆様に深く御礼を申し上げたいと思います。広島県経済の現状については、主力の自動車産業では、新型車の販売好調等を背景に操業度は高水準を維持しているほか、次世代の技術開発に向けた設備投資も動き始めているというお話を伺いました。また、労働需給が非常にひっ迫しているというお話も伺いました。

§3Hiroshi Nakaso

当地では、首都圏の大企業が地方での採用を増やしているために、新卒採用が例年になく厳しくなっているというお話や、大型商業施設の開業もあってパート等の採用が一段と難しくなっているなど、人手不足が深刻化しているとの話が数多く聞かれました。こうしたなか、企業サイドでは、人手不足に対応するため、省人化や効率化に取り組んでおり、そうした設備資金に対するニーズも増えているとのお話も伺いました。一方で、広島県内の景気は、全体として改善していますが、景況感には地域差があることや、海外経済の不透明感や先行きの為替動向に関する懸念も聞かれました。金融政策運営については、緩和的な金融環境が設備投資や住宅投資の押し上げに寄与しているというご意見を頂いた一方、金融機関の方々からは、低金利環境の長期化による収益面への影響を懸念しているとのご意見も頂きました。この点、当地の金融機関については、資本基盤は安定していると思いますし、収益力の強化に向けて様々な取り組みを行っていると認識していますが、引き続き金融機関収益への影響は我々としても注視してまいりたいと思います。日本銀行としては、広島支店を通じて、引き続き情報収集と分析を丹念に行い、地元の皆様方との様々な意見交換の場を通じて、広島県経済の更なる発展に貢献をしてまいりたいと思います。

§4Question

午前の講演で、足許の物価上昇が鈍い背景には労働生産性の向上があり、これは日本経済全体にとってプラスであること、また、そうしたプラスの動きが物価上昇にも今後つながるはずであるという発言をされました。労働生産性の向上が物価上昇につながるメカニズムについて、それを阻害する要因は何かということも含めて、改めてご説明下さい。また、ご指摘のようなメカニズムが働いて、実際に賃金や物価が上昇してくるタイミングについて、副総裁はいつごろとお考えなのか、ご所見をお聞かせ下さい。

§5Hiroshi Nakaso

ご回答にあたり、現在の人手不足、あるいはそれに対する企業の取り組みが持つマクロ経済的な意味合いについて、もう一度念のため整理をさせて頂いたうえでお答えしたいと思います。本日の講演の繰り返しになってしまう部分もありますが、今の人手不足への企業の取り組みは、1 つ目は省力化・効率化投資、2 つ目が労働節約的なビジネス・プロセスの見直し、そして3 つ目が既存の人的資源の有効活用です。これらは、マクロ的にみると、いわゆる資本装備率、および全要素生産性(TFP<Total Factor Productivity>)の上昇を通じて労働生産性が上昇することを意味します。また、7月の私どもの支店長会議における支店長報告でも、このところ労働需給が非常にタイト化するなかで企業の開廃業も増えているという話がありました。実際、国内のM&A件数も増加基調にあり、新陳代謝も進んでいるのではないかと思います。そうしたプロセスを通じて、雇用者がより生産性の高いセクターに移ることによって、経済全体の労働生産性は高まっていきます。そして、労働生産性が上昇すると、日本経済の潜在成長率も押し上げられることになります。

§6Hiroshi Nakaso

もともと潜在成長率の引き上げはアベノミクスの 3 本目の矢である成長戦略で目指していたわけであり、私たちもデフレを脱却して日本経済を持続的な成長経路に戻すうえで潜在成長率の引き上げが必要であるということをかねてより訴えてきたところですが、講演の中でも申し上げました通り、現在の人手不足が日本経済の構造改革を強力に促すことになると思います。そのうえで労働生産性の上昇が物価上昇に向かうメカニズムについては、いくつかあると思います。第1 には、企業の省力化・効率化投資、ビジネス・プロセスの見直し、既存の人的資源の有効活用、こうした人手不足への取り組みが追求され尽くされてきた段階で、企業の賃金・価格設定スタンスが積極化してくる、そして物価上昇圧力が強まってくると考えられます。次にもう少し、長い時間軸の話になると思いますが、第 2 には、潜在成長率が引き上げられることに伴って企業の成長期待が上昇する、あるいは恒常所得が増加することを通じて、設備投資や個人消費が活発化して需要を押し上げる効果もあると思います。第 3 に、労働生産性の上昇に伴ってベースアップの伸び率が高まり、雇用者所得が増加する効果があると思います。これも消費活動を活発化すると思います。第4 に、潜在成長率の上昇に伴って、いわゆる自然利子率も上昇すると考えられますので、金融緩和効果がその分高まると思います。

§7Hiroshi Nakaso

以上のチャネルを通じた効果が複合的に作用して物価を押し上げると考えています。こうしたメカニズムがうまく発揮され、労働生産性を全体として引き上げていくためには、人手が足りない企業や成長性の高い産業に必要な人材が円滑に移動できるという意味での労働市場の流動性が十分に高いことが必要だと思います。わが国の労働市場の流動性は、改善余地が大きいと思われるだけに、政府による「働き方改革」を含めた労働市場改革が鍵を握ると思います。自分としても、この労働市場の流動性の問題は、もう少し掘り下げて考えてみたいと思っているテーマです。そのうえで、物価上昇の時期ですが、今申し上げたような政府による構造政策と金融政策がしっかりとかみ合うことが前提ですが、自分自身としては、労働生産性の伸びをやや高めに想定しています。それを通じた物価上昇圧力が目に見えて現われてくるタイミングというのは、なかなか正確に予測することは困難ですが、私自身は展望レポートの見通し期間の後半には、こうした力が強まってくるのではないかと思っています。

§8Question

2 点お伺いします。1 点目は、物価がいつ上がってくるか不確実性があるとのことですが、モメンタムが維持されているのであれば、多少物価が上がり始める時期が遅れても追加緩和は不要であり、現状の政策をこれまで通り続けるという理解でよろしいでしょうか。2 点目は、ETFについてですが、最近、大きな額で日銀が買っているということで、色々な副作用が指摘されていると思います。中曽副総裁はETFに関して賛成されてきたということで、ベネフィットが副作用を上回っていると考えておられるということは理解していますが、そのうえで、副作用についてどのようにご認識されているのか、お聞かせ下さい。

§9Hiroshi Nakaso

まず、モメンタムとはどういうことかについて、もう一度整理させて頂きます。2 つありますが、1 番目はマクロ的な需給ギャップの動向であり、2番目が中長期的な予想物価上昇率です。マクロ的な需給ギャップにつきましては、本日ご説明した通り、展望レポートでは成長率が潜在成長率を上回る伸びが続くなかで、プラス幅を拡大していく見込みです。この点については、改善しているということです。もう1 つの中長期的な予想物価上昇率については、いくつかの指標は下げ止まっており、一部には上昇している指標もみられます。先行きも、実際に価格引き上げの動きが広がり、着実に上昇すると考えています。こうした点からみますと、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタム、勢いがしっかりと維持されているとみています。そのうえで、日本銀行が目指しているのは、単に物価だけが上がっていく、そういう経済を目指しているわけではありません。私どもとしては、潜在成長率が上昇するなかで、雇用の拡大や賃金の上昇を伴いながら、物価も安定的に上昇していく、そうしたバランスのとれた経済を目指しています。今申し上げたように、日本経済はそうした方向に向かう途上にあり、次第に勢いを増していく、つまり、こうしたメカニズムが維持されていると判断していますので、追加緩和は不要と考えています。

§10Hiroshi Nakaso

ETFについては、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みの1 つの要素であり、株式市場におけるリスク・プレミアムに働きかける観点から行っているものです。そうした役割に着目すると、現在の経済・物価・金融情勢を踏まえれば、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するためにもなお必要であると考えています。先行きについても、政策目標の達成状況の評価を踏まえて、毎回の金融政策決定会合で適切に判断をしていきたいと思います。副作用については、日本銀行のETFの保有額は、株式市場の時価総額の 3%程度であると思います。買入れにあたっては、個別銘柄の株価に偏った影響が生じないよう、工夫をしているところです。また、細かい話ではありますが、買入れにあたり、株式市場の代表的な指標であるTOPIX、日経225、JPX日経 400 に連動するETFを買い入れています。更に、昨年9月の決定会合においては、TOPIXに連動するETFの買入れウェイトを高めるなど、市場への影響について十分に点検しながら買入れを行っていますので、今のところ、政策のデメリットであるコストや副作用がベネフィットを上回っているということはないと思います。繰り返しになりますが、これは政策の達成状況や評価などをみながら、毎回の決定会合で判断をしていきたいと思います。

§11Question

2 点お伺いします。1 つは、前回の決定会合で、物価目標の達成時期が先延ばしされました。大規模緩和は黒田総裁のもとで始まりましたが、総裁が任期を終える 4月の決定会合までに、出口戦略の議論を決定会合で行うというのは難しいとお考えでしょうか。もう 1 点は、達成時期の先送りで、大規模緩和も長期化しますが、ETFやマイナス金利、国債の大量購入による副作用も懸念されています。その副作用もより大きくなる点については、どのようにお考えでしょうか。

§12Hiroshi Nakaso

まず1 点目の出口の話と任期の関係です。当然ながら、量的・質的金融緩和からの出口の進め方については、その時々の経済・物価・金融情勢の状況によって変わり得ますので、早い段階から具体的なイメージをもってお話することは、かえって市場の混乱を招きかねず、適当ではないと総裁自身も記者会見で説明しています。そのうえで、出口の話に限らず、金融政策について分かりやすく説明して理解を得ていくことは、総裁の任期とは別に常に重要であると考えていますので、日本銀行としては、これまで同様、しっかりと説明してまいりたいと思います。副作用の問題については、私自身、市場をみてきた仕事が長く、非常に関心の高い分野ですので、先程申し上げたETFのほかに、短期市場と国債市場、金融機関の仲介機能に分けて少しお話をしたいと思います。短期金融市場の核となるのは無担保コール市場です。マイナス金利政策を導入した直後は、残高が大きく落ち込みましたが、最近は回復してきており、ほぼ導入前の水準である 7 兆円強まで戻ってきています。これは、2001年から 2006年まで行った前回の量的金融緩和のもとでは、ほぼ市場取引がなくなったことと対照的と思っています。

§13Hiroshi Nakaso

マイナス金利政策のもとで市場規模が回復しているのは、ややテクニカルになりますが、いわゆる政策金利残高を持っている市場参加者から、マクロ加算残高の余裕枠を持っている主体へと、裁定機会を求めて資金が流れていくことが背景にあると思います。短期金融市場の機能の維持は、当初から、当座預金を3 層階層構造とした狙いの 1 つだったわけですが、意図した通り、無担保コール市場では、ある程度市場規模や市場機能が保たれていると思います。次に国債市場です。国債市場の市場機能をどう定義するか、この定義を少しはっきりさせたほうが、話が分かりやすくなると思います。私自身はBIS(国際決済銀行)の定義が良く出来ていると思っています。BISでは、市場参加者が大口取引を価格面に大きな影響を与えることなく、速やかに執行できる市場が流動性ないしは市場機能が高い状態であると定義しています。こうした観点から、私自身が国債市場の機能度を評価する場合には、現物と先物の取引量、値幅出来高比率、板の厚さ、価格のインパクトつまり市場の頑健性、SLFの発動の頻度、SCとGCのスプレッド、少々テクニカルで申し訳ありませんが、こうした点を一生懸命みるようにしています。こうした指標をみる限りは、これまでのところ、国債市場の流動性や機能度がひどく低下したとはみていません。

§14Hiroshi Nakaso

これは、そもそも「イールドカーブ・コントロール」のもとで、価格が動きにくくなっていることも影響していると考えられますが、いずれにしても、引き続き我々が行っている国債市場のサーベイ結果を注視していくほか、市場参加者との密接な意見交換も行いながら、国債市場の流動性や機能度の動向について、よく点検していきたいと思っています。もう1 つは金融仲介機能です。金融機関の仲介機能については、現状、金融機関は全体として充実した資本基盤を持っており、人口減少のような構造問題や低金利環境を背景に収益力は下がっていますが、リスクテイクを継続する力は持っていると思います。実際、貸出は前年比+3%程度の伸びとなっています。企業や家計の資金調達は、本日の金融経済懇談会でも話が出ましたが、円滑に行われています。今後、金融機関のポートフォリオ・リバランスが経済・物価情勢の改善とうまく結びついていけば、基礎的な収益力の回復を通じて、金融機関の仲介機能の維持・向上につながると考えています。もっとも、収益力の低下が長引いた場合には、金融機関は収益維持のために過度なリスクテイクに向かい、金融システムの安定性が損なわれるリスクがあると思われます。また、収益力の低下が自己資本の蓄積に悪影響を及ぼすと、金融仲介機能が低下するという停滞方向のリスクもあります。

§15Hiroshi Nakaso

当然ながら、金融仲介機能は、金融政策の大切な伝播チャネルですので、しっかりと機能を維持していくことが必要だと思います。我々としては引き続き、考査やオフサイト・モニタリング、金融システムレポートを通じて、今申し上げた両面のリスクを引き続き注視していきたいと思っています。

§16Question

値上げや賃上げが進まない理由して、正社員の賃上げに対する消極性や省力化・効率化投資を挙げられました。労働生産性が向上して長期的な成長期待が高まれば、物価が上昇していく可能性があるとの話がありましたが、いわゆる将来不安もあるのではないかとよく言われます。社会保障制度や人口減少等への不安が残るなかでも、今後前向きになって、予想で示されたような賃上げや値上げが進むのか教えてください。また、物価見通しの先送りが、前回で 6 回目に数えられるわけですが、見通しが当たらないことが繰り返されていくなかで、日銀の言うことが信用されなくなっているような認識をお持ちでないか教えて下さい。

§17Hiroshi Nakaso

前者のご質問ですが、我々が目指しているのは、いわゆる好循環の経済です。消費者物価やサービス価格の安定的な上昇によって、企業の売上と収益が増加し、それに見合って賃金が上昇することによって、消費が活発化する、そうした好循環です。そこで、2%の「物価安定の目標」があるわけですが、私は、日本経済における労働生産性の引き上げ余地はまだ相応にあり、潜在成長率の伸び代もまだ随分残されていると思っています。つまり、日本経済の底力はこんなものではないはずだと思います。日本経済の底力をもってすれば、2%の「物価安定の目標」の達成は可能だと思っています。過去の経験ですが、予想物価上昇率が低位にとどまり、実質金利を押し下げることも出来なくなり、金融政策の効果を十分に発揮できないまま、結果として低いインフレ期待が定着してしまうという、セルフ・ディフィーティングな循環に陥り、デフレから脱却できなかった過去 15年の経験をいま一度想起するべきだと思います。申し上げたいことは、日本経済の底力はもっとある、まだ伸びるという見方を共有して、そのもとで、企業が企業家精神を発揮していくことが、成長期待が幅広い主体で共有されることにつながっていくということです。

§18Hiroshi Nakaso

次に、2%の達成時期が何回も後ずれしており、信頼が失われているのではないかというご指摘ですが、2%の達成時期の先送りが 6 度目となったことは、政策当局として、批判を真摯に受け止めたいと思います。これまでQQE導入以来、物価の見通し作業を重ねるなかで、日本における物価形成メカニズムについて、従来は十分認識していなかった、分かっていなかった色々なことが分かってきました。例えば、これは何回も申し上げていることですが、予想物価上昇率が過去の実際の物価上昇率に引きずられて、適合的に決まる度合いが他国に比べて強いことや、企業の足許の慎重な価格設定行動には、デフレマインドのほかにも、例えばネット販売との競合といった側面もあると思います。そうしたことが分かってきたということです。物価見通しを策定するにあたっては、これまで分かってきたこと、これまで得られた知見や経験、その時点の最新の経済データやモデル分析など、全てを用いながら行っています。今回の展望レポートにおける物価の見通しについても、そのようにして得られた結果をお示ししたうえで、なお下振れリスクが大きいと率直に述べているつもりです。

§19Hiroshi Nakaso

2%の達成時期が繰り返し先延ばしされていることについては、先程申し上げました通り、真摯に受け止めなくてはなりませんが、自分達としては、最善の努力と誠意を尽くして毎回見通しを一生懸命策定するとともに、見通しとの乖離が生じた場合は、なぜそうなったかをしっかりと分析して、分かりやすく説明することも、説明責任の一環ではないかと思っています。

§20Question

ETFについて追加で質問します。ETFの買入れについては、日銀はリスク・プレミアムに働きかける観点から行っていると言っています。去年7月にBrexitにより株式市場が非常に不安定化し、不安心理が高まってリスク回避の動きが強まった状況では、買入れ額が年間3 兆円から 6 兆円に倍増されました。当時と比べても、同じようにリスク・プレミアムに働きかける必要があるのかどうかお聞かせ下さい。市場の状況によってリスク・プレミアムは大きく変わり得ると思いますが、非常に不安な時も6 兆円、今のような非常に安定というか堅調な時も 6 兆円というのは、どのような狙いがあるのかお聞かせ下さい。また、個別の銘柄に偏った影響が生じないように工夫しているとのことですが、現状、日経225 の最大の構成銘柄であるファーストリテイリングの浮動株については、既に日銀が間接的にとはいえ 6 割を保有しています。これが、今年度末には7 割、2020年3月末にはほぼ 100%買い切る勢いです。こういう状況にありながらも、偏った影響が生じてないと言えるのでしょうか。2020年3月までETFの買入れを続けるか分からないとおっしゃるかと思いますが、2%の物価目標は、度重なって先送りされている状況であり、2020年3月末に達成できるという保証も全くありません。ETFの買入れについても同様です。

§21Question

そうした状況において、今このような弊害、弊害とはお認めにならないとは思いますが、副作用が出ているとの指摘についてどのようにお考えになっているのかお聞かせ下さい。

§22Hiroshi Nakaso

先程申し上げたように、ETFの買入れにより高いリスク・プレミアムに働きかけていくことは、現在の経済・物価・金融情勢を踏まえれば、「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために引き続き必要であると考えています。ご指摘頂いた個別銘柄への影響を含めた、政策目的の達成状況等の評価については、毎回の金融政策決定会合で適切に判断していきたいと思っています。

§23Question

長短金利操作を柱とした現在の金融政策に反対していた木内委員と佐藤委員が退任し、新たに片岡委員と鈴木委員が就任しました。市場には反対する委員がいなくなることを懸念する声がありますが、政策委員会での議論への影響と新任された両委員に期待されることについてお聞かせ下さい。

§24Hiroshi Nakaso

昨日、新しい審議委員お2 人をお迎えしましたが、反対票がないからといって、政策委員会での議論の多様性がなくなるわけではないと思います。政策委員会では、金融政策だけを議論しているのではなく、金融システムの安定化策や組織運営にかかわる重要な事項について、審議、決定をしています。異なる経歴で様々な経験と見識を持っている審議委員がそれぞれの立場から意見を述べ、活発な議論が行われています。実際、私自身、政策委員会に参加するなかで、異なる意見に耳を傾けることの重要性をしっかりと認識しているつもりです。金融政策についても、政策判断に至る過程で最終的に反対票が投ぜられるかは別にして、様々な角度から活発な議論が行われています。新しい審議委員の方々も、これまでそれぞれの分野で豊富な経験をされています。政策委員会では、的確な政策判断を行うために、これまで通り多様で活発な意見交換、議論が行われると思います。

§25Question

先程から話に出ている、企業の省力化投資が物価に影響を与えるメカニズムについて、なぜ上がるのか、限度がくるのかという点も含めて教えて下さい。賃上げ圧力を小さくしているということだと思いますが、改めてお聞かせ下さい。

§26Hiroshi Nakaso

物価が上がりにくい理由は、携帯電話機や通信料の値下げといった特定品目の一時的な要因もありますが、より根本的には、人手不足がバブル期ピーク並みになり賃金がじわじわと上がるなかでも、企業が賃金上昇圧力を吸収していることが大きいということです。第1 は、省力化・効率化投資であり、セルフレジや物流施設の無人化、介護ロボット等です。第 2 は、過剰なサービスや無駄、非効率を削減するための労働節約的なビジネス・プロセスの見直しです。深夜営業の廃止や時間帯指定の配達サービスの縮小といったものが挙げられます。第3 に、既存の人的資源の有効活用など、隠れたスラックと言っていいと思いますが、その活用によって吸収しているということです。これは、繰り返しになりますが、マクロでみた資本装備率やTFPの上昇を通じて労働生産性が上昇することを意味します。物価への影響という意味では、目先はユニット・レーバー・コストや労働分配率の上昇が抑えられるために、物価上昇を抑制する方向に作用します。足許の物価上昇の弱さにはこうした要因が働いていると思います。限度があるという点については、労働節約型のビジネス・プロセスの見直しはどこまでもできるわけではないので、いずれ限界を迎えます。また、余剰スラックもやがて枯渇します。

§27Hiroshi Nakaso

私が申し上げたいのは、そうしたことが生じるぎりぎりまで賃金が上がらないということではなく、おそらく、そうした局面に入っていくと賃金も同時に上がっていくことになり、企業の賃金・価格設定スタンスも次第に積極化していくとみています。賃金に本格的な上昇圧力が働き始めると、ユニット・レーバー・コストの上昇を通じて、物価に上昇圧力を加えることになります。また、やや長い時間軸でみると、労働生産性の上昇は、潜在成長率を引き上げるので、成長期待や収益期待、恒常所得が上方修正されるなど、需要押し上げに寄与します。そして、更に今申し上げたようなチャネルで実際に物価上昇が起こり始めると、日本の特徴と申し上げましたが、適合的に予想物価上昇率がプラス方向に動き始めます。足許の物価が上がり始めると、中長期的な予想物価上昇率が押し上げられ、そのメカニズムが作動することにより、「物価安定の目標」に向けたモメンタム、勢いがついてきます。これにより、2%に向けて物価が上昇してくると考えています。

§28Question

広島県の観光に関する現状認識と課題についてお聞かせ下さい。先程の挨拶のなかでは、集客力、観光客は増えているが、なかなかそれを活かしきれていないという発言もありましたが、この点について改めてお聞かせ下さい。また、それに対する日銀の対応についてもお聞かせ下さい。

§29Hiroshi Nakaso

まず、広島県経済の現状認識について、少し広い範囲で最初にお話しさせて頂き、次に観光に焦点をあててお話をさせて頂きます。広島県は、自動車や造船、鉄鋼等を中心とした製造業の生産拠点が集積する西日本有数の工業県でありながら、原爆ドームと厳島神社という2 つの世界文化遺産をはじめとする非常に豊富な観光資源を有しています。また、広島市は国際平和都市として世界的にも高い知名度を誇っており、他にはみられない多様な側面を有する地域であると思っています。足許の広島県の景気につきましては、2017年7月に緩やかに拡大しつつあると判断を引き上げたところであり、海外経済が総じてみれば緩やかに成長するなかで、生産・輸出は上向いています。特に、主力の自動車産業は、新型車の販売好調等から高操業が続いているほか、次世代の環境対応や安全技術の開発に向けた設備投資等の動きなど、色々な動きがあり、勢いがあります。また、個人消費も雇用・所得環境が着実な改善を続けて底堅さを増していると思います。そして、前年に過去最高の外国人観光客数を記録したインバウンドですが、今年に入ってからも好調を持続しており、広島市内のホテルは高稼働が続いているほか、主要観光施設の来客数も前年を上回っています。

§30Hiroshi Nakaso

6月短観では、企業の2017年度の事業計画は、売上高、経常利益、設備投資のいずれも前回調査よりもはっきりと上方修正されるなど、広島県の景気の力強さが改めて確認されたと思います。このように、広島県の景気が良い方向に向かっていることを示す判断材料が更に増えていると認識しています。ご指摘のありました観光業については、先程申し上げたように広島県は、原爆ドームと厳島神社という2 つの世界文化遺産を擁しているほか、昨年5月の米国大統領の訪問や広島東洋カープの 25年ぶりのリーグ制覇によって、文字通り、国内外での知名度は一段と向上しており、この結果、観光客数は大幅に増加しています。私自身、冒頭に申し上げたように、昨日、広島平和記念資料館を訪問させて頂きましたが、世界各国から訪れた多くの方々と一緒に展示内容を見学していると、本当に自然に平和を願う気持ちが湧いてまいりました。これも非常に人を引きつける大きな資源だと思います。次に、広島県の観光産業の課題としては、観光客1 人あたりの旅行消費単価が全国より低いという点が挙げられるのではないかと思います。こうしたなか、広島県は周遊促進と滞在期間の延長を通じた観光消費の底上げに向けて、産官金が積極的に連携を進めており、この点は頼もしさを感じています。

§31Hiroshi Nakaso

日本銀行としても、こうした動きをより促していくために、広島支店を通じて情報の収集や分析を丹念に行い、観光を含めた地域活性化に向けた取り組みに少しでも貢献できるよう努めていきたいと改めて思いました。

§32Question

労働生産性の向上により潜在成長率を上げ、いずれ物価を引き上げるということですが、物価上昇には時間がかかると言われています。そうするとしばらくの間、実体経済が順調に回復しても物価上昇までにはそれなりの時間がかかるということになりますが、実際に物価が上昇するような局面では、相当景気が過熱していたり、資産価格が歪んでいたりしている可能性もあります。その場合、結果として経済の振幅を大きくして、不安定化するようなことも考えられますが、その点について現状どのように考えているのかお聞かせ下さい。

§33Hiroshi Nakaso

この点も本日何回か申し上げましたが、日本銀行が目指しているのは物価だけが上がっていくという経済ではありません。潜在成長率が上昇するなかで、雇用拡大や賃金の上昇を伴いながら、物価も安定的に上昇していくというバランスのとれた経済を目指しています。現在、物価が上がりにくいのは、本日説明した要因があるわけですが、同じくご説明したようなメカニズムを通じて、物価の上昇圧力が次第に強まっていくと思います。現在の高めの成長と弱めの物価は、申し上げたバランスのとれた経済に移行していく過程の現象と理解できると思います。私自身は、バランスよく物価上昇圧力が働いていくのは見通し期間の後半と考えていますが、そのプロセスでは、物価だけが上がっていくのではない、バランスのとれた経済を目指していきたいと考えています。以上