総裁記者会見(2017年9月25日)要旨
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§1Question
2 つお伺いします。懇談では経済界から様々な要望やお話が出ましたが、どのように受け止められましたでしょうか。また、2 点目として、関西経済の現状と先行きについてのお考えを聞かせて下さい。
§2Haruhiko Kuroda
本日の懇談会では、関西の経済界を代表する方々から、わが国あるいは関西の経済・金融の現状と課題についてのお話、あるいは日本銀行の金融政策運営に関する率直なご意見・ご要望を頂き、大変有意義な意見交換ができたと思います。この場をお借りして、改めて御礼を申し上げたいと思います。席上で伺ったお話、あるいはご意見・ご要望について、私なりに3 点に整理しながら、印象・感想を申し上げたいと思います。まず第 1 に、関西地域の景気については、緩やかに回復しているというご意見が多く聞かれました。輸出や生産が堅調に推移するとともに、特にインバウンド需要が百貨店やホテルを中心に好調であるというご認識を伺いました。一方、人手不足が事業活動の制約になっているとのお話も伺いました。また、国際金融市場の動きを注視しているというご意見も伺いました。本日伺ったご意見も踏まえながら、経済・物価・金融情勢をしっかりと点検していきたいと思います。第2 に、人口減少が進む中にあって、関西経済が持続的に成長していくうえでは、企業の生産性向上あるいは先端技術を活用した経済の活性化、多様な働き手の確保が重要であるというご意見が多く聞かれました。この点、当地では、企業の前向きな取組みへの支援や女性の活躍推進に向けた施策を積極的に進めているというお話も同時に伺いました。
§3Haruhiko Kuroda
こうした動きは、関西経済のみならず、日本経済全体の成長力の強化に繋がることでもあり、今後の進展に期待をしています。最後に、日本銀行の政策運営については、いわゆる「イールドカーブ・コントロール」のもとで、適切な金融政策の推進に引き続き期待しているとの声を伺いました。また、企業の生産性向上への取組みに必要な資金が、中小企業も含めて十分に行き渡るように後押しして欲しいとのご要望も頂きました。日本銀行としては、こうしたご意見も踏まえつつ、適切な政策運営を行っていく方針であることを申し上げた次第です。2 番目の関西地域の景気の現状と先行きについては、さくらレポートなどでも申し上げている通り、関西地域の景気は緩やかな拡大基調にあると判断しています。輸出は緩やかな増加を示していますし、設備投資は企業収益あるいは業況感の改善を背景に、増加基調にあります。個人消費は、雇用・所得環境が改善するもとで、総じてみれば緩やかに増加しています。この間、公共投資は減少し、住宅投資は横ばい圏内の動きとなっています。鉱工業生産は増加基調にあります。先行きについても、関西地域の景気は緩やかな拡大を続けるとみております。この点、最近の関西経済の特徴的な動きを 2 点挙げたいと思います。第1 は、世界的な製造業サイクルの好影響が、しっかりと波及しているということです。
§4Haruhiko Kuroda
上向きのITサイクルや自動車の電動化・電子化、新興国・資源国の投資増加といった最近の動きは、関西地域の関連企業に広く恩恵を及ぼしています。輸出や生産をみると、スマートフォン向けの部品、半導体製造装置、電気自動車向けの電池、建設機械などに牽引され、増加傾向が続いています。第2 に、インバウンド需要の存在感が一段と大きくなっていることです。関西を訪れる外国人観光客が増加を続ける中、百貨店免税売上が既往ピークを更新するなど、小売売上を押し上げています。宿泊需要も高水準で推移しています。そうしたもとで、関連業種では雇用が拡大しており、ホテルや店舗といった設備投資も増加しています。全国を上回るペースで人口減少が進んでいることも踏まえると、内需型産業を中心に、インバウンド需要の恩恵は非常に大きいと言えます。もとより、関西経済についても、日本経済全体と同様、海外経済あるいは国際金融市場を巡る不確実性といったリスク要因に注意していく必要があることは言うまでもありません。日本銀行としては、大阪、京都、神戸の各支店を通じて、関西経済の動向について、引き続き丹念に調査していきたいと考えています。
§5Question
金融緩和による政府の財政健全化への影響についてお伺いします。政府が消費税増税の使い方の見直しなど、歳出拡大の流れが強まっているように思われます。その背景として、金利を低く抑え込む金融緩和により、借金のコストを考えにくくさせていることが歳出拡大に繋がっているのではないか、と指摘する声があります。政府は自ら財政規律を保つことは当然のことですが、そういった大規模緩和の影響が規律の緩みに繋がりかねないという点については、どのようにお考えでしょうか。
§6Haruhiko Kuroda
大前提として、財政政策、ご指摘のような歳出・歳入を含めた財政の姿というのは、デモクラシーのもとでは政府、国会が責任をもって決めるものです。そうした政策については、デモクラティックなコントロールが効いており、中央銀行の行動が、財政に関する政府、国会の決定や財政運営に影響を及ぼす、あるいは及ぼし得るため、それを勘案して金融政策を決めるといったことは全く考えられないと思います。デモクラシーのもとでは、あくまで政府、国会が財政運営を決めていくということだと思っています。
§7Question
10月に総選挙が行われる見通しになったことに関連して伺います。今回の選挙でアベノミクスに対する国民の総意が問われることになるかと思いますが、その関連で2%の物価目標について改めて伺います。先程の講演でも、アンケートでは国民の約8 割がどちらかというと物価上昇は困ったことだと述べていますが、2%の物価目標というのは国民の支持がなくともしっかり進めていくべきものなのか、支持を得られるようにしっかりと説明していくべきなのか、あるいは 2%を降ろさないまでも、ある程度国民や企業の考え方に沿って柔軟に進めていくべきものなのか、そのあたりについてお聞かせください。これから選挙のタイミングでもあるので、なるべく国民にも分り易い説明を頂ければ幸いです。
§8Haruhiko Kuroda
総選挙といった政治の課題、動向について直接的なコメントをすることは、中央銀行としては差し控えたいと思います。そのうえで、いわゆるアベノミクスについては、2013年の政府と日本銀行の共同声明に示されている通り、日本銀行は 2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために、金融政策を運営するということであり、これは共同声明の前に、日本銀行として政策委員会で決定したものです。2%の「物価安定の目標」については、先程の懇談会でも申し上げた通り、消費者物価指数は色々な理由から、実際の物価動向よりもやや高めにでる「くせ」があり、それを考慮する必要があります。また、景気には循環があり、それに対応して金融政策を機動的かつ効果的に運営する必要がありますので、いわゆる「のりしろ」、つまり金融政策の余地を確保する必要があります。3 番目には、2%の「物価安定の目標」を掲げて金融政策を運営することは、ほとんどの先進国でグローバル・スタンダードになっていますので、それに沿って運営することが色々な意味で望ましく、特に為替の安定にも効果的と思っています。
§9Haruhiko Kuroda
私どものアンケート調査で色々なご意見があることもよく知っていますが、日本銀行としては、物価だけ上がればいいということではなく、賃金・物価も上がり、国民生活も豊かになる中で、物価が安定的に 2%程度で推移するということが、色々な意味で望ましいということです。こうした考え方は、金融政策決定会合後の記者会見でも申し上げていますし、様々な機会に私どものスタッフも含めて、引き続きよく説明をしていきたいと思っています。あくまで、バランスのとれた好循環が続く形で物価が 2%程度上昇することを目的として、金融政策を運営するということです。
§10Question
2 つあります。先程のご講演で、2%を目指す理由の 1 つとして、政策対応余力のことがあるとのお話でした。リーマンの時と違ってマイナス金利というツールもあると思いますが、やはりマイナス領域では、欧米と同じ幅で下げるのは副作用が大きすぎるというご見解が裏にあるということでしょうか。2 つ目は、欧米の中央銀行が出口方向に大きく動き始めていますが、日本銀行としても、全力投球ではなく、少し省エネモードでしょうか。デフレ圧力は随分なくなっているようにもお見受けしますが、いかがでしょうか。
§11Haruhiko Kuroda
まず第 1 点については、懇談会で資料を示しつつお話しした通り、リーマンショック後、欧米の中央銀行は、政策金利を 4~5%──400~500 ベーシスポイント──ほど下げました。それによって、リーマンショックによる不況に対応することができたわけですが、日本銀行の場合は、政策金利が 0.5%程度だったので、その余地が非常に小さかったということです。ご指摘のマイナス金利については、欧州でも大きくマイナスにしている国はありません。マイナス金利の余地は、今や欧州でも我が国でも示されてはいますが、先程申し上げたような 4%、5%政策金利を下げるという意味では、それがマイナス領域にあるとは思えません。やはり 2%の「物価安定の目標」をバランスのとれた形で実現し、そのもとで短期金利がそれに即した水準──3%なのか、4%なのか、5%なのかは、色々な経済の状況にもよると思いますが──となることにより、政策金利の引下げの余地、金融政策の余地が十分あるように運営するというのが、グローバル・スタンダードとしての 2%の「物価安定の目標」だと思います。なお、出口の問題については、あくまでもそれぞれの国の金融政策ということです。
§12Haruhiko Kuroda
欧米の場合は、1 つにはまだ 2%に達していないとはいえ、1%台の半ばや1%台の後半という状況の中央銀行が多く、特にアメリカの場合は、2%にかなり近いわけですし、何よりも予想物価上昇率が2%の物価安定目標の辺りにアンカーされています。そうしたもとで今、米国がノーマライゼーションを図り、ECBはまだ始めていませんが、色々な議論が行われているところです。他方、日本の場合は、生鮮食品を除く消費者物価上昇率が 0.5%まできたわけですが、生鮮食品とエネルギー品目を除くとまだ 0%程度で、予想物価上昇率もやや弱めの状況が続いていますので、金融緩和を今見直すとか、出口の議論をするのは、あきらかに時期尚早です。海外の中央銀行はそれぞれの国の経済・物価状況を踏まえて金融政策を議論し、決定していますし、我々も、日本の経済・物価情勢を踏まえて金融政策を議論し、決定していますので、経済・物価情勢の違いによって金融政策に違いがあるというのは極めてノーマルなことではないかと思います。
§13Question
2 点お願いします。1 つ目は今の質問に関連して、確か 2006年の出口については、早すぎた、結果的に間違っていたと黒田総裁は以前に総括されたと思います。そうしますと、結果論で言って、出口はどういうふうにあったら良かったのか、政策金利が 0.5%では不十分だったということですが、どういう状況でリーマンを迎えるのが結果論から言えば一番望ましかったのか、教えて頂きたい。また、言いにくいのは承知のうえですが、先程安倍首相が、自民党の臨時役員会で、消費増税分の使途変更を表明され、これで基礎的財政収支を2020年度に黒字化するという目標がほぼ絶望的になったかと思います。これについてどういうお考えをお持ちか、考え方を含め、もう一度お願いします。
§14Haruhiko Kuroda
2006年については、それまで順調に金融緩和の効果が効き、経済が順調に拡大していましたが、物価はまだ、例えば日本銀行が現在目標としている2%といったところには遠かったということですし、その後、消費者物価指数も、見直し等により、プラスだと思っていたらマイナスだったということもあって、結果的にみて、出口として金利を引き上げていくには時期尚早だったと言えるかと思いますが、いずれにしても、あの時点の物価安定の目標と現在は違います。現在は、まさに3 つの理由から──消費者物価指数が過大にでてくる「くせ」、金融政策の余地を確保するということ、グローバル・スタンダードの 3 つの意味から──2%の「物価安定の目標」を掲げて金融政策をやっていますので、そのもとで出口を云々するというのは、まだ物価の動向からみても時期尚早であろうとみています。消費税の使途や、財政、税制の問題については、先程来申し上げている通り、デモクラシーのもとで、政府と国会が責任を持って決めることですので、私から何か具体的なことを申し上げるのは差し控えたいと思います。
§15Question
2 点お伺いします。1 つは中小企業の動きです。関西景気は緩やかな拡大基調であると仰っておられたと思いますが、一方で大阪商工会議所の尾崎会頭が、5年間で 40 万社、中小企業が減少したという話をされました。また、会場からも、中小企業の製造業では、景気回復の恩恵が届いていないという話がありました。中小企業に届くには何が必要なのか、また出来ればその時期、が 1 点目です。もう 1 つは賃金の話ですが、お話の中で、パートの給料は 2%台半ばに上がっているというお話がありました。パートは上がっていると思うのですが、正社員の給料はそれほどには上がっていない。特に、近畿はそういう傾向が強いと思うのですが、それをどのようにみておられるでしょうか。その正社員の給与が上がるのに何が必要で、どれくらいかかるのか。その2 点をお願いします。
§16Haruhiko Kuroda
中小企業の数が減っているというのは、確かに関西もそうですが、関東もそうだと思います。何がそれをもたらしているかは、色々な議論があると思います。1 つは、特に労働集約的な非製造業等に中小企業が非常に多いわけですが、いわゆる潜在成長率を上回る成長がこのところ続き、労働市場が非常にタイトになっており、人手不足が起こってきています。そうしたもとで、特に中小企業が大きなシェアを持つ非製造業でも、労働生産性の向上が必要になってきていますが、こうした労働集約的なサービス業において労働生産性を上げるのは、それほど簡単ではありません。先程の懇談会で申し上げた通り、非製造業において、特にIT関連の投資が大きく増加しており、労働生産性を引き上げようという動きが活発になっていますが、その場合でも、中小企業の場合には、もう 1 つのハードルとして、事業承継の問題があります。省力化投資を通じて人手不足に対応していく、あるいはビジネスモデルの見直しを通じて人手不足に対応していくにしても、事業承継の見通しが立たないと、そうした投資を行うことに慎重になることもあるでしょうし、そうした企業に対する融資についても、慎重になる可能性があると思います。景気が悪くて中小企業が困っているということではなく、今の景気は全般的に、製造業、非製造業、大企業、中小企業を通じて良くなっています。
§17Haruhiko Kuroda
ただ、そのもとで、人手不足が非常に広がっており、労働集約的な事業を行っている中小企業で、特に人手不足の対応の難しさを感じておられるのではないかと思います。また、それと絡んで、本日も沢山の方が言っておられた事業承継の困難さが、中小企業において難しいと思われているということだと思います。その中で、中小企業でも色々なネットワークを作るとか、他業種との人材の交流とか、新しいことを進めておられるようですし、IT関係の投資も実は、大企業だけではなく一部の中小企業も人手不足に対応して熱心にやっておられます。従って、私自身は悲観しているわけではありませんが、景気が中小企業にまで及んでいるわりには、人手不足から、あるいは事業承継の問題から、実感されていない面はあるのかな、と本日のお話で感じました。賃金については、パートの時間給は大体今 3%前後上昇しており、順調に伸びていますが、正規の所定内賃金は 0.5%前後しか伸びていません。従って、確かに正規と非正規の労働市場の分断というのは、明確にあるわけですが、他方で、ここでも少し新しい動きがでてきており、非正規の正規化がある程度進んできています。
§18Haruhiko Kuroda
正規の職員、正規の人材も企業として確保しなければならないということで、これがある程度進んでいますし、パートと正規の賃金の格差は依然として大きいのですが、パートの賃金はかなりの速度で上昇していますので、格差は縮みつつあります。ただ、それにしても、我が国の労働市場はやや正規と非正規に分断されているという問題がここに示されていると思います。この点については、政府も、同一労働・同一賃金ということで、正規と非正規の格差を縮める、あるいは格差をなくそうとして色々な努力をしておられるようですし、企業の側も色々な努力をしておられます。先程申し上げた通り、この人手不足の中で少しずつ、非正規の正規化、あるいは非正規、特にパートや契約社員の賃金がかなりのスピードで上昇していることで賃金格差も縮みつつあります。こうした動きからみると、少しずつ改善しつつありますが、依然として格差が大きいというのはその通りだと思います。以上