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Bank of JapanPress conferenceNov 6, 2017Haruhiko Kuroda, Governor

総裁記者会見(2017年11月6日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

本日の懇談会の感想をお願いできますでしょうか。

§2Haruhiko Kuroda

先程懇談会を行い、色々な議論を行いました。今回も、前回同様、当地の経済界、金融界を代表する方々から地域経済の現状に関する大変貴重なお話や金融政策運営に関する率直なご意見・ご要望を頂き、大変有意義な意見交換ができました。この場を借りて、改めて御礼を申し上げたいと思います。懇談会では、輸出や生産が好調に推移しており、そうしたもとで積極的な設備投資が継続している、そして、雇用・所得環境の改善が続き、個人消費も回復しているといった、大変心強いお話をお伺いしました。先月公表した「さくらレポート」でも、東海地域は全国で唯一「拡大している」という評価となったわけですが、皆さんのお話からも、内外需がバランスよく当地経済を牽引している状況が確認できたと思います。また、次世代自動車や製造現場のIoT化・AI化に向けて、革新と発展を続けていこうという非常に強い姿勢も印象に残りました。更に、リニア中央新幹線の開業を控えて、商業施設やホテルの建設が相次ぐなど、名古屋は今後大きく姿を変えていくという話も伺いました。こうした中長期的な視点・視野に立った取組みが着実に実行されていることが、やはり当地経済の力強さの背景にあるのではないかと思います。

§3Haruhiko Kuroda

東海経済を金融面から支えている金融機関の方々からは、企業の資金需要が堅調に推移しており、中小企業からも、事業承継に対する相談や設備投資案件が寄せられているというお話を伺い、心強く感じた次第です。また、懇談会では、海外経済の動向などを踏まえた金融政策運営や為替相場の安定など様々なご意見・ご要望を頂きました。全体としては、わが国経済の回復とデフレ克服をより確実にするため、現在の金融緩和を堅持してほしいというご意見であったと思います。日本銀行としては、こうしたご意見を踏まえつつ、引き続き適切な金融政策運営に努めてまいりたいと思います。

§4Question

「東海地域の景気は拡大している」とのことですが、一方で、有効求人倍率は非常に高い水準で推移しており、企業からは優秀な人材が足りずに設備投資を積極的に行えないという声も聞かれます。拡大する東海経済で懸念するところがあるとすればどこでしょうか。

§5Haruhiko Kuroda

先程申し上げた通り、東海経済は全国 9 地域で唯一「拡大している」と判断しておりまして、いわば全国の先頭を走っていると認識しています。その背景としては、まず、当地は、わが国最大の製造業の集積地であることから、世界経済の回復や為替相場の安定の好影響をより強く受けていることが挙げられると思います。ただ、それに加えて、次世代自動車やリニア関連など長期的、戦略的な視野に立った投資活動が行われていることも、当地経済の強さにつながっていると感じています。こうしたもとで、先行きについても、拡大が続くと考えていますが、ご指摘のあった人手不足の問題については、懇談会でも様々な意見が出されました。当然、個々の企業にとっては、生産活動の制約になりうる問題です。既に当地は失業率が2.4%となるなど、他地域よりも労働市場がタイトであり、特に非製造業では人手の確保が難しい事例もあると伺っています。一方で、このタイトな労働市場というものは、雇用の増加やパート賃金の上昇など、雇用・所得面では好循環の起点となっているということも事実だと思います。経済全体としてみた場合には、人手不足というのは、人口が減少しているわが国において、限りある労働力をフルに活用していることを意味しておりまして、特に人手不足の強まりをきっかけに、女性や高齢者の活躍が更に進み、省力化投資や過剰なサービスの見直しなども行われています。

§6Haruhiko Kuroda

こうした動きは、個々の企業の生産性を高め、日本経済が持続的に発展し続けるために必要なプロセスであると考えています。ただ、他方で、ご指摘のように特に非製造業、中小・中堅企業において、人手不足がビジネスチャンスを活かすことを難しくしているという困難さも指摘されており、色々な形で労働力を確保していく、人手を確保していくことが、この地域のみならず日本全体としての課題になっていると思いました。

§7Question

東海地方の企業へ期待するところは特にどこでしょうか。

§8Haruhiko Kuroda

懇談会でも申し上げましたが、東海地区では、モノづくりの技術と知見が蓄積されており、しかもそれを活かす工夫がしっかり行われていると思います。そして、多くの企業経営者の皆さんが、こうした現状を踏まえて色々なことを行っているだけでなく、常に将来に目を向けて投資活動──物的な投資やR&D投資、人材投資というのもあると思いますが──を行っておられるということが非常に印象的だと思いました。典型的には、製造業の場合は、自動化・無人化技術やロボットの活用、最近ではIoTの活用といったことが焦点になっており、将来の日本における製造現場を先取りするような形で取組みが進んでいると思いました。また、3年以上前に既に失業率が 3%を切り、現在は 2.4%と、全国に先駆けて極めてタイトな労働市場が生じており、省力化投資や業務の見直し、ビジネスモデルの改善といったことも先行して行われています。こうした企業の取組みは、わが国企業や日本経済全体として、この先色々な課題に挑戦していくうえで、大変参考になる事例であると思いました。従って、現時点で日本経済全体を引っ張っているという意味でも重要ですが、引き続き日本経済全体の将来に向けた重要な牽引役として、東海地区の企業に活躍して頂きたいということが、私としては一番大きな期待です。

§9Question

2 点お願いします。1 つ目は、貿易について伺います。トランプ米大統領が来日し、本日の日米財界人との会合で、日本市場が開かれていないなどと貿易不均衡を指摘しています。こうした米国の貿易をめぐる動きをどのようにみていらっしゃるか、お考え、ご見解をお聞かせ下さい。もう1 つは課税逃れ問題についてです。タックスヘイブンに関する新しいパラダイス文書で、新たな課税逃れ疑惑が指摘されていますが、総裁は主税局におられたこともあるので、こうした根深い税逃れ問題について、どのようにお考えになっていらっしゃるのか、この 2 点お願いします。

§10Haruhiko Kuroda

前段の貿易不均衡や米国の貿易政策については、トランプ大統領のご発言の内容も承知しておりませんし、貿易問題について、中央銀行総裁が何か申し上げるというのも僭越ですので、コメントを差し控えさせて頂きたいと思います。課税逃れ、タックスヘイブンの問題については、G20の財務大臣・中央銀行総裁会議において、 BEPS(Base Erosion and Profit Shifting)と言いますが、租税回避や脱税のために所得をタックスヘイブン等に移すことや、取引の形態を課税しにくい形に変えるといったことが広く行われていることに対して、この数年間取り組んできました。OECDという、国際課税問題について殆ど唯一の専門的な知識と経験のある国際機関が直接に関与して、 G20の20 か国だけではなく、その他の様々な先進国、新興国、更にはタックスヘイブンと言われている国も含めて、こうした問題に適切に対応していこうという合意ができて、実際に動き出しているところです。この点で非常に複雑なのは、脱税している、法律に違反しているというケースもあるかもしれませんが、法律には反していない、いわゆる租税回避という形もあることです。いずれも、適切な税制・税務の執行によって、そうしたことを回避しようという、画期的な国際的な合意であり、それが動き出しているということです。

§11Haruhiko Kuroda

これは、G20財務大臣・中央銀行総裁会議で合意されたことであり、今後ともしっかりと進めていかなくてはならないと思っています。ちなみに、先月のワシントンのG20ではコミュニケという形では出しておりませんが、議論の中で合意されたことは、このBEPS対策を推進するとともに、いわゆるe コマースなどITを使った様々なビジネスは、通常のビジネスとの間で税負担の格差が生じており、結果的に租税回避に使われているのではないかという点について、 OECDに報告書を書いてもらい、それをベースにG20でそうしたものを防止するための合意を作っていこうということです。これはBEPSの場合と同じように数年かかると思いますが、そうしたことも行われています。経済の国際化が進む中で国際的な形での租税回避というものが非常に大きな問題になっていますので、それに対しては、 OECDならびにG20財務大臣・中央銀行総裁会議が基盤になって、しっかりとした対応がされていくものと考えています。

§12Question

本日日銀が公表した 9月の金融政策決定会合の議事要旨ですけれども、一部、反対した委員の意見として、今のイールドカーブの水準が2%の達成のために十分に緩和的ではないと、更に需要を増やすために、もっと刺激すべきだという趣旨の意見が紹介されました。それに対する他の委員の反論も一部紹介されてはいるのですが、黒田総裁のその意見に対するお考えがどういうものか教えて下さい。

§13Haruhiko Kuroda

本日、この間の決定会合で承認された議事要旨が出ました。こちらには議事の流れが出ていますので、どういう流れで最終的な金融政策についての決定が行われたのかが、よく分かるようになっています。ご指摘のように、ある委員は、今の「イールドカーブ・コントロール」では、2019年度頃までに 2%に達するような展望レポートの見通しに沿った形にならないのではないか、従って、今の「イールドカーブ・コントロール」をより強化する必要がある、ということで、金融政策、調節方針に対する反対意見、つまり具体的に「イールドカーブ・コントロール」についてこのようにしてはどうかという提案ではなくて、意見を述べられました。それに対しては、他の委員の方が色々反論をされて、議事の流れの通りとなり、そして、その回の金融政策決定会合で決めた通り、政策を維持するということが決まったということで、そこに書いてある通りです。それについて何か特別に意見を述べる立場にはないのですが、私自身は、他の多くの委員と同じく、現在の「イールドカーブ・コントロール」で十分適切なイールドカーブが形成されており、これを粘り強く続けることによって、2%の「物価安定の目標」も達成されると考えていますので、ご指摘のような意見には賛成はしておりません。

§14Haruhiko Kuroda

そういう意味では、議長として提案したものに賛成、つまり現状の「イールドカーブ・コントロール」で適切であるという意見を持っています。

§15Question

総裁の午前中の挨拶では、物価を押し上げる力が徐々に強まっているというお話の中で、最近の変化として3 点をご指摘していらっしゃって、中でも、値上げに対する消費者の許容度が増してきているということと、投資家も前向きに評価しているということを、例として挙げていらっしゃいました。そのうえで、東海地方というのは景気拡大のフロントランナーであるということで、価格設定スタンスを積極化させる好環境が整っているということもご指摘されており、これは、総裁としても、やはり特に経済が好調な東海地方の企業の皆さんに、値上げというものに対してもうちょっと積極的になってほしいという要請というか、意識の変化をお求めになったのか、その辺の狙い、お考えを伺いたいと思います。

§16Haruhiko Kuroda

全国的に事業を展開している企業や幅広い地域で流通・販売される商品も多く存在しますので、地域間ではある程度裁定が働くと思います。そういう意味では、国内の特定地域における物価が他の地域に先行して上昇するとか、上昇しなければならないということは考えにくいと思います。ただ、全体として、ご指摘のように、東海地区は景気拡大が続き、労働市場が極めてタイトな状況にありますので、東海地区の企業では、賃金や価格の設定スタンスに変化が起こりやすい環境にあるとは考えられると思います。その意味では、特に注目されることだと思います。ただし、物価、価格が地方毎に違って動く、動くべきだと思っているわけではなく、むしろ、東海地区の景気拡大が全国の中で最も強く、全国の景気の状況を牽引している、その中で労働需給も極めてタイトですので、賃金や価格の設定スタンスの変化が起こりやすい環境にあると思っているということです。

§17Question

先月の経済財政諮問会議で、来年の春闘に関して、安倍総理が3%の賃上げを期待する発言をされました。先程から出ているお話の中で、好循環のメカニズムにとっても大変重要な話だと思いますが、総裁は来年の春闘をどのように見通していらっしゃいますか。また、この3%の賃上げという具体的な数字について、特に当地は自動車産業が活発ですし、春闘相場への影響が大きな企業もありますので、どのようにこの3%という数字の妥当性をお考えなのか、併せて教えて下さい。

§18Haruhiko Kuroda

私自身、安倍総理が来年の春闘での3%の賃上げに対する期待を述べられた経済財政諮問会議に出席しておりましたので、よくその発言を承知していますし、政府全体としても、賃上げの環境が整備されるように、様々な政策を進めるというご発言もあったと記憶しています。日本銀行としては、強力な金融緩和政策によって、企業収益の増加や賃金の上昇を伴いながら物価上昇率が緩やかに高まっていくという好循環を作り出していくことを目指しています。実際、企業収益は過去最高水準で推移し、失業率も2%台後半まで低下するなど労働需給が一段と引き締まっていますので、賃金上昇圧力が着実に高まっているとみています。ただ、具体的な賃金引上げ率などについて、中央銀行の立場でコメントするというのはやや僭越だと思います。日本銀行としては、現在のこうした経済環境を活かしながら、労使双方で好循環の実現に向けた前向きな取組みが行われることを期待しています。

§19Question

例えば、今年の春闘並みの結果で、2019年度に2%という目標は十分達成可能でしょうか。

§20Haruhiko Kuroda

色々な評価があると思いますが、今年の春闘の結果は、概ね昨年の春闘と近かったわけです。大企業の賃金上昇は昨年よりもやや低く、むしろ中小企業の方は全体として今年の方が良かったのではないかと思います。企業規模での広がりが出てきたことはプラスだったと思いますが、全体としては、昨年より今年が良かったというわけではありませんでした。ただ、その場合に一つ考慮すべきなのは、わが国の場合は、春闘の交渉を12 か月毎にやっていますので、どうしても、それまでの12 か月の物価上昇率にある程度引きずられる傾向があるということです。そこからみると、今年の春闘の前の12 か月の物価は実はマイナスでした。昨年の春闘の前の 12 か月の物価上昇と比べると、原油価格の下落その他により、良くありませんでした。にもかかわらず、今年の春闘は昨年とほぼ近いというところまできました。来年の春闘はどうかといわれると、先程申し上げたように、更に企業収益は改善していますし、労働需給は更にタイトになっている中で、足許、消費者物価の上昇率もプラスの領域で少しずつ上がってきています。そうした色々な状況を考えると、来年の春闘は今年の春闘よりも更に良くなる、賃上げ率が高まってもおかしくないと思いますが、それは私の期待であり、あくまでもその時点での労使の交渉で前向きな取組みがなされることを期待しています。

§21Question

先日、 FRB議長の後任について、パウエル氏が指名されるということになりました。先程の講演会の中でも、海外経済の動向、米国の動向に非常に留意が必要とのご説明がありましたので、そこから受ける影響について、総裁の見方をおっしゃって頂きたいと思います。

§22Haruhiko Kuroda

FRB議長が来年の 2月に交代されるということですが、そのもとでどういった金融政策になるかということを、私の方から申し上げるのは適切でないと思います。ただし、現在の議長も、その前の議長も、その前の前の議長も、それぞれの時の経済・物価動向を十分勘案して、米国の物価の安定に適切な金融政策を運営してきておられました。また、このところイエレン議長も、緩やかに正常化を進めていく際には、米国の経済・物価が中心ですが、米国の金融政策が国際的な金融市場に与える影響も十分注視しながら、注意深く進めていくということを言っておられます。歴代のFRB議長も基本的にそのような形でやってきておられます。パウエル理事も、ジャネット・イエレン議長のもとで、ともに金融政策の運営をしてこられた方ですので、引き続きFRBは世界経済のことも十分勘案しながら、米国経済の安定・雇用の極大化、そして、物価の安定に向けて適切な金融政策を運営されると思っています。以上