布野審議委員記者会見(2018年6月21日)要旨
Full text
§1Question
今日の金融経済懇談会でどのような議論がなされたのか教えて下さい。
§2Yukitoshi Funo
本日の懇談会では、行政、金融、経済界の代表者の方々から県内の復興に向けた取組みや、最近の当地経済の話題についてお伺いしました。また、事前に宮城県に入りまして、被災地を含めて県内を視察したほか、地元企業の経営者の方々から、最近の業況に加え、直面する課題等について伺いました。本日の席上では、インバウンド客など観光客の増加に向けた取組みや、最先端の研究施設の誘致をテコに地域活性化に取り組んでいるご様子やご意見を頂きまして、様々な話をさせて頂きました。また、中小企業を含めた幅広い方々から、独自技術を活かした商品やサービスを武器に新市場の開拓に取り組んでいらっしゃる様子等を伺いました。そうしたことで、当地の復興が着実に進んでいることを認識するとともに、少子高齢化や人口減少といった課題の克服に向けて、関係者の皆様が前向きに取り組んでいらっしゃる様子を沢山聞かせて頂きまして、その熱心な様子に感銘を受けたところです。
§3Question
宮城県の金融経済情勢について、現状や今後の課題への認識をお聞かせ下さい。
§4Yukitoshi Funo
当地の経済は、全体としては緩やかな回復を続けているとみています。鉱工業生産については、世界的なIT関連需要の高まりもあって、緩やかに増加していますし、設備投資も増加しています。個人消費については、雇用・所得環境の改善を背景に底堅く推移しているとみています。一方で、震災の復旧・復興関連工事がピークを過ぎつつあることから、公共投資や住宅投資は高水準ではありますが徐々に減少している傾向にあるとみています。先行きにつきましては、緩やかな回復を続けていくと想定していますが、復興需要の減少といった当地特有の動きに加えて、人口減少や少子高齢化といった社会構造の変化がもたらす当地経済への影響につきましては、今後とも注意深くみていく必要があると思います。
§5Question
物価についてですが、先程の懇談の中でも、物価の先行きについて、下振れリスクが大きく、注意が必要だということをお話になっていたと思います。改めて、伸びが鈍化している物価の現状についての認識と先行きの見通しをお願いします。
§6Yukitoshi Funo
物価については、ご承知のとおり、ここにきてやや伸びが鈍化しているという認識にあります。4月の全国の消費者物価は、除く生鮮食品・エネルギーでみますと+0.4%になっています。このようにやや鈍化しているわけですけれども、先行きにつきましては、様々な業界における値上げのニュース等も聞かれていますので、値下げする部分もある反面、値上げの動きもあり、やや揉み合いの状況ながら、やや長い目でみれば上昇傾向を強めていくだろうとみています。
§7Question
米国の通商政策ですけれども、トランプ政権の保護主義的なスタンスで、貿易摩擦、貿易戦争といった様相を呈しつつあるかと思いますが、こういったものが、世界経済、そして日本経済にどういう影響を与えるのか、お考えを聞かせて下さい。
§8Yukitoshi Funo
まず、全般論としましては、このような保護主義の高まりは、世界経済、具体的には世界貿易量の動き等々に影響を与えかねないリスクですので、憂慮していると言えます。心配しながら注視しているというのが私の今の気持ちです。日本につきましては、わが国は海外との貿易に立脚している経済ですので、保護主義によって世界経済に鈍化等の影響が出てくれば、日本経済への影響はやはりあると想定しておくべきではないかと、1つのリスクと認識して注視を続けていかなければならないと思っています。
§9Question
先行きの物価の下振れリスクが大きいと述べられたのですが、これは今回、見方を変えられたということなのでしょうか。それに関して、企業や家計に価格を上げ難い慣行が残っていることであるとか、価格競争環境の厳しさがあると述べられましたが、これは足許で物価が弱含んでいることを説明するものとして理解してよいのでしょうか。もう 1 点あります。講演の中で、構造改革や成長戦略の取組みは全国一律ではないと、繁忙度が日本全体で増す中で歪みが出ていないか、細かく目を配っていくというように述べられていますが、ここでいう歪みとは具体的に何か想定されているようなことがあるのでしょうか。例えば、人手不足による生産性向上への投資が一巡すれば、日本銀行としては、賃金・物価が上がっていくと整理されていますが、一方で人手不足倒産といった話もよく聞きますので、そういったことを念頭に置いているのか、教えて下さい。
§10Yukitoshi Funo
まず、物価の下振れ等については、毎月新しく出てくる物価の指標をみていますので、直近で出てきた物価の指標に注目すると、やや減速と言いますか、少し滞っていると思っています。それ以上のものではないのですが、次の質問の答えとも関係して、経済の需給ギャップにみられるように、経済の右肩上がりの動きは失われていないので、物価も、このひと月の指標をみて然程悲観する必要もないだろうとみています。歪みについて、私が何を言及したかったかと言いますと、例えば、数年前は経済全体にスラックが多く、無駄が多かったと言えます。それが今では、総需要が高まり様々な内外の需要に支えられ、需要が引っ張っていくという循環がモメンタムを持って動いてきているので、スラックが徐々になくなってきているとみています。端的には、人手について、特に現場に近いところで労働需給が逼迫していることに表れているとみています。歪みとは何かと言いますと、逼迫してきた分野ないしは職種、産業において、例えば長時間労働であったり、様々なストレスがかかり過ぎることであり、需給の逼迫感が増すことによる予期せぬ歪みのようなものが出てくる可能性があると考えられますので、そこについてはよくみていかなくてはならないという趣旨で申し上げました。
§11Question
2点、お聞きします。宮城県内で復興工事のピークが過ぎつつあって、人口減少が進んでいるという中で、今後どのような取組みですとか、どういう動きが重要になってくるのでしょうか。また、宮城県内の期待できる点について、お聞きしたいです。
§12Yukitoshi Funo
期待できる点からお答えしますと、こちらに来て感じたのですが、非常に良いところですので、目下のところ、色々な意味で逼迫している人手等に対して、当地は住むのに良いという意味で、産業立地や、人材誘引において、強みを持っている土地柄ではないかとみています。最初の質問ですが、人口減少ないし人手不足に対し、どのような取組みがあるのかにつきましては、幾つか考えられると思います。今から申し上げることが進展していることはグッドニュースなのですが、まずは女性の雇用、もう1つは高齢者の雇用、それから外国人の雇用、最後にロボットとか省力化の努力によって人手不足を補うこと、そのような取組みを、「女性なのか、高齢者なのか」だとか、「女性、高齢者よりも外国人なのではないか、外国人ではないのではないか」など、「or」の議論が多いのですが、目下のところ、この地に限らず、わが国の経済全体において、このような「or」の議論をしている余裕はない状況になりつつあります。すなわち、そのような手段を、総合的に採用して、全面的に展開していかないとなかなか解決していかない問題であるとみています。
§13Question
講演の中で物価上昇率の高まりが遅れるリスクがあるということを言われていたと思うのですが、既に足許の物価だけではなくて、今年に入って短期の方は若干上がっていますけれども、日本銀行が注目している中長期の予想物価上昇率はずっと横ばいで、なかなか上がってきていないと思います。見方によってはもうリスクが顕在化しているとも言えると思うのですけれども、その辺のことと、ではもし仮に現状はそういう判断ではなくて、リスクが顕現化した場合に、日本銀行の対応というか、お考えをお伺いしたいです。
§14Yukitoshi Funo
今のご指摘の、物価上昇率がなかなか上がらない、予想物価上昇率も滞っているのではないかといったことも含めて、毎回の政策決定会合で点検しながら、私自身、先入観を持たずに、政策決定会合に参画しております。政策決定会合は、情勢判断はもちろん議論しながら、必要な調整を行っていくのが、政策決定会合の趣旨でありますので、そのような形の取組みになると考えております。従って、今の政策については、7月末に次の政策決定会合が予定されておりますので、それに向けて、修正する、しないも含めて先入観を持たずに臨むというように考えています。6月の政策決定会合後の公表文でも、今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う、という一文が入っておりますので、文字通り、それ以上でも以下でもないと私は考えております。
§15Question
物価で確認させて頂きたいのですが、足許の弱さについて、これは足許の物価が弱いというのは一時的な要因というように、要素が大きいというように思っておられるのかどうか、というのが1点です。もう1点ですが、午前の講演の中で物価の先行きリスクとして、差別化の難しい財・サービスで一段と競争が激化すれば、需給ギャップのプラス幅が改善してもこれらの物価上昇率は高まらない可能性があるというようにおっしゃっているのですけれども、これは、いわゆるインターネット通販とか、そういう流通形態の変化のことを指しておられるのか、この影響は長期的に物価を抑制していく可能性があるかどうか、ということも含めてもう少し詳しく教えて頂ければと思います。
§16Yukitoshi Funo
それでは答えていないのではないかとおっしゃるかもしれませんけれども、両方ともイエスです。私は一時的だと思っています。物価が足許少しディップしたのは一時的で、これはリバウンドしてくるというようにみています。ただ、そのほかの部分でも弱いとみており、流れとして弱いことについては、今おっしゃったようなインターネットのテーマであるとか、それから、業界の業際的な競合――例えばドラッグストアとスーパーマーケットの競合――が進展していることであるとか、様々な構造的な問題と言いますか、そのような根の深い流れというものが、やはり物価に少なからず影響していることは否めないと思っていますので、冒頭に申しました通り、両方ともイエスであるというのが、私の見方です。
§17Question
物価の下振れリスクの話で、繰り返しになってしまうかもしれないのですが、先程は直近の物価の指標をみるとやや減速しているというところを根拠におっしゃっていたと思います。ただ今回のリスクの中で、中長期的な予想物価上昇率の下振れリスクが大きくなっているということと、直近の指標が少し下振れているというところの隔たりというか、直近の数字をもってこの下振れリスクが大きいという説明がやや分かりづらく、この下振れリスクが大きい理由はどういうところにあるとお考えなのでしょうか。
§18Yukitoshi Funo
構造的なものが下に引っ張っているわけです。ただ、物価の指標については、+0.5%程度まで上がってきている流れをみますと、一貫してずっと上がってきています。これがそのままスッといくということを、私自身は想定していなくて、少し振れながらいくという想定で、0.1%とか 0.2%程度の少しディップをしてこの傾向の中で流れていくということが、私自身の想定の中にあったシナリオです。ただ、それを下に押している力は何なのかというと、大きな流れが下に引っ張っているので、その大きな流れについては、今のような構造的な要因も想定すべきだろうということで申し上げています。
§19Question
低金利環境下で金融機関の金融安定化が不安定になるリスクがあるけれども、現時点ではそれは顕在化していないということが今日の午前中にも述べられていたと思います。逆に言えば、正常化の道筋の中でリスクが大きくならないと、何か出口の議論をするだとか、正常化の手を打たないということなのでしょうか。
§20Yukitoshi Funo
先程申しました通り、修正とか調整をする、しないを含めて、毎回の政策決定会合で議論していますので、その時の前提として金融情勢も観察、点検したうえで、判断するということです。その中に金融機関の収益性というのは当然入ってきますし、その収益性は、累積的な影響のある性格のものであると認識しています。6月の政策決定会合の時点では、そのような判断を踏まえたうえで調整をしなかったということです。ですから、9人の委員全員が7月末の政策決定会合に向けて、今言ったような項目について、私も含めてそれぞれ点検しているということです。
§21Question
金融政策関連の話で、東北でも地銀や信用金庫における本業で利益を稼ぐ力が低下しているかと思いますが、金融政策の影響を受けて、今後どのようなリスクが顕在化というか、状況になってくれば政策の変更を検討するのか、というところを具体的にお聞きしたいと思います。また、銀行や信用金庫も、本業で稼ぐのがなかなか難しいので企業の経営支援強化ですとか、手数料収入の拡充ですとか、新しいビジネスモデルを確立しなければやっていけないというようことを頭取が言われているところもあるかと思うのですが、こうした地域金融機関の動きや、地域金融機関の今後の在り方についてどう考えていらっしゃるか、お聞かせいただければと思います。
§22Yukitoshi Funo
色々な場において、本業の収益が減っていることは、テーマとして色々と言われていますし、私も重要なポイントであると思っています。ただ、現時点――6月の政策決定会合がカバーする7月末の政策決定会合までの間――では、本業も含めた金融機関の収益力全体や、全体の金融機関の健全性というのは、十分に金融仲介機能を実施するだけの強さがあると判断をしています。その判断につきましては、毎回の政策決定会合で点検をしながら行っていくということです。具体的にというご質問ですが、例えば収益が全体でいくらになったらどうかとか、そういうことは必ずしも言えないことであり、総合的に判断をしていくべきものです。同じ収益レベルであっても、経済全体を取り巻く、例えば海外の情勢とか、色々なストレスのかかり方が刻々と変化していきますので、静態的にこのようになったらこうですという、例えば1つの指標として申し上げるのは必ずしも適切ではないと考えています。
§23Question
今回の金融経済懇談会に関して、被災地を視察されたということですが、具体的にどの辺の場所をみて、どのようなことをみて、どのように感じられたのか、感想でもいいのですが、お聞かせいただければと思います。
§24Yukitoshi Funo
主なところとしては、1つは名取市の閖上に行きまして、そこで地元の地震、津波を経験された方から、お話をお伺いしました。もう1つは、石巻方面に行きまして、魚市場が震災でどのようになったのかという説明を受け、今現在どういう形になっているのか、現にお邪魔をして、今立派にできているところを拝見し、そこでお話を伺いました。また、石巻の会社を訪問し、その会社の敷地にどのような形で津波が押し寄せてきたのかということも、写真も見せていただくと同時にお話を伺いました。感想としては、すごく大変だったと感じたのですが、やはり復興と言いますか、元に返れているかどうかについては、結構ばらつきがあると思いました。例えば、閖上でお聞きしたのは、家も建っているけれども、なかなか人が帰ってこないとか、人口が増えていないので、まだコンビニもないとか、そのような話も伺いしました。モノとして例えば家とかマンションとかがあっても、人が入っているかどうかや、人口がどうかまでみると、必ずしも満足のいく水準にはまだ至っていない、そのような意味では道半ばであるという地元の皆さんが持っておられる思いを、共有させて頂くことができました。
§25Question
日本銀行の方々、布野委員も含めて、物価2%目標へのモメンタムが維持されているというご判断なのですけれども、このモメンタムという言葉を使い始めたのが、2016年9月の「総括的な検証」からだったと思いますが、その当時と今とを、物価の基調を示す生鮮食品とエネルギーを除くCPIでみると、ほぼ変わっていません。0%台半ばです。それだけをとっても、モメンタムが維持されているというのは、かなり無理があるのではないかと思います。このモメンタムという言葉を辞書で引いてみても、「勢い」とか「弾み」とか「推進力」という意味に説明されていまして、どう考えても2年前と同じ0%台半ばの物価をもって、「勢い」があるというのは日本語の言葉上も殆ど説明不可能ではないかと思います。それについてどうお考えかということと、「総括的な検証」の時にいくつかの理由を挙げてらっしゃいました物価が上がらない理由について、オイルが下がっただとか、消費増税の後の需要が弱くなったとか、新興国経済の弱さとか、市場の不安定さとか、いずれも今は当てはまらない状況であると思います。物価もオイルもそこそこ高く、2014年の消費増税からずいぶん経ちました。そして市場も安定しています。
§26Question
そのようなこと考えたときに、2年前の「総括的な検証」で上がらないといった理由はもう殆ど今通用していないわけでして、だとすると、モメンタムが続いているといっても誰も納得しないと、つまり第二の検証というのか、これだけ政策をやっても物価が上がらない理由をもう少ししっかり説明すべきではないのかと思うのですが、いかがでしょうか。
§27Yukitoshi Funo
まず、おっしゃるように 2016年9月に物価が上がらない理由ということで、例えばオイルとかリストアップされたものは、その時点において、そこに至る状況を説明した性格のものであるので、今の状況で、現に原油はどんどん下がっている状況ではございませんので、例えば、それとは別の要因が働いている状況を映じて、今の価格の動きがあると認識しています。そのうえで、モメンタムについてですけれども、モメンタムというのは表現するのがなかなか難しいのですが、必ずしも物価に顕現化していない部分も含めて、物価を支える経済をみると、モメンタムは維持されていると私自身はみております。具体的に言うと、重要な要素である需給ギャップであるとか、そういう経済の流れを含めてみて、物価の上昇気流が折れているという状況にはないという意味で、モメンタムは維持できているとみております。以上