政井審議委員記者会見(2018年7月5日)要旨
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§1Question
2 点お伺いします。本日の懇談会でどのようなことが話し合われたのかという点と、長野県の経済をどのようにみていらっしゃるのかという点をお聞かせ下さい。
§2Takako Masai
懇談会では、当地の経済界を代表する皆様から、地域経済が直面する課題や、日本銀行の金融政策運営に対する色々な貴重なご意見を頂きました。大変有益で、かつ示唆に富む意見交換ができたことについて、懇談会にご出席頂いた方々に改めて感謝を申し上げたいと思います。充実した会でしたので、全てをお話しすることができないのですが、席上で聞かれました話をいくつか整理して申し上げたいと思います。当地の景気については、総じてみれば「改善している」というご意見が多かったと思います。国内外での需要の増加を受けて、半導体関連や設備投資関連を中心に生産が好調であるという声を頂きました。企業の設備投資は、好調な生産を受けて、省人化・省力化投資だけではなく、工場の拡張などの能力増強投資も増えてきていたり、インバウンド客が昨年を大幅に上回るペースで急激に増加しているなど、県内の観光需要は底堅く推移しているといった、明るい話を色々お伺いできました。一方で、好調な生産などを受けた人手不足や設備・部材の調達難、原油価格の上昇が、生産のボトルネックや収益の下押し要因になっている、との話や、米国の通商政策が良好な国内景気に水を差すことをリスクと捉えている、との話を伺いました。また、経営者の高齢化が進む中で事業承継が円滑に進むかどうかを懸念している、との話もありました。
§3Takako Masai
景気の改善度合いについては、県内の中でも地域や企業規模によって相応のばらつきがあるとの話も伺いました。また、金融界の皆様からは、現在の金融政策が金融機関の収益にマイナスの影響を与えていることや、低金利環境が家計にも将来の不安を抱かせかねないとのご意見を頂戴しました。さらに、2%の「物価安定の目標」の実現によって、国民の生活がどのような姿になることが想定されるのか、丁寧な説明を心掛けてほしいとの要望も頂きました。私どもとしましては、中央銀行の立場から、物価安定のもとで金融システムの安定性を確保するということを通じて、当地関係者のご努力がより大きな実りへとつながっていくようサポートさせて頂きたいと考えております。次に、長野県の経済に関しては、一言では、緩やかに拡大していると申し上げてよいと思います。松本支店が公表した 6月の短観をみると、全産業の業況判断 DI は前回調査の 19 から 14 と、2 期振りの悪化にはなりましたが、先ほどの懇談の話などを総合しますと、企業の業況感は、引き続き良好な水準を維持していると判断してよいのではないかと思います。製造業では、世界的な半導体需要の拡大を背景に、半導体関連・電子部品の生産が増加しています。
§4Takako Masai
また、国内外からの半導体製造装置や産業用ロボットなどの受注が増加する中、機械関連の生産は高水準で推移しているなど、長野県における生産は高水準を維持しており、一部の企業からは、生産が追いつかずに受注残が随分あるとか、受注に応えられないといった話も聞かれています。こうしたもとで、企業収益は改善傾向にあるほか、設備投資は、省人化・省力化投資に加え、工場の拡張などの能力増強投資が拡がりつつあるなど、増加していると判断しています。非製造業では、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資は、低水準の住宅ローン金利も下支えとなって増加しています。この間、観光は、インバウンド客が昨年を大幅に上回るペースで急激に増加しているほか、松本市内で毎週末開催されている各種イベントなどに、県内外から多数の観光客が訪れているなど、県内の観光需要は底堅く推移しているとみています。以上のことを踏まえますと、長野県経済は、家計・企業部門において、所得から支出への前向きな循環メカニズムが引き続き着実に働いているものと考えています。
§5Question
2 点お伺いします。1 点目は、これまでも政井委員は、経済・物価・金融情勢についてきめ細かに検討していく必要性をずっとご指摘されていました。今回の講演で「持続可能な形での金融緩和」という言葉を使われていますが、この「持続可能なもの」とはどういったものをイメージされているか、お聞かせ下さい。もう 1 点は、松本市に来られて視察もあると思いますが、先ほど半導体メーカーの話などもあり、どの辺りの業種に関心を持っているか、また、どの辺りを見たいと思っているか、お聞かせ下さい。
§6Takako Masai
まず「持続可能な形」についてですが、2016年9月の金融政策決定会合において総括的検証というものを行い、金融政策については、操作目標を国債の保有残高の増加ペースから、金利へと変更して今の政策の持続性を高めました。講演の中でも申し上げましたが、デフレマインドの払拭に、非常に時間がかかっているという状況のもとで、2%の「物価安定の目標」を実現するには時間がかかりそうだという中で、さらに効果をみていくために、今の政策であるQQEの導入から 5年も過ぎているということもあり、累積的な効果とその副作用について、従来以上にみていく必要があると考えています。そのうえで、毎回の金融政策決定会合において、2%に向けたモメンタムを維持するという観点から、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、総合的に判断して、最適と考えられる政策を判断していくということです。2 点目について、いくつかの事業所にこの懇談会に合わせてお邪魔をさせていただきましたが、その道すがら、結構多くのぶどう畑がありました。話を伺いますと、気候がかなりぶどうの栽培に適してきているということで、県下で 34 か所のぶどうの醸造農家が既にあると伺いました。さらに、お酒の酒蔵も 80 か所あり、全国 1 位の山梨県であるとか、お酒であると新潟といった地域に引けを取らない規模になっていると伺いました。
§7Takako Masai
残念ながら、事業所の訪問の時にはぶどうの農家にはお邪魔しておりませんが、長野県も先ほど申し上げたとおり、インバウンドの消費が大変伸びていると伺っていますので、インバウンド観光に欠かせないコト・モノ消費の中のひとつとして、今後伸びていく姿を大変楽しみにみていきたいと思っています。
§8Question
2 点お伺いします。4月の展望レポートで、物価目標の達成時期の記述が削除されましたが、この場合、「できるだけ早期に」というのは、政井委員の中でどれくらいの時間を指すのか、期限はあるのか、どういったお考えを持っていらっしゃるのかをお聞かせ下さい。もう 1 点は、本日の講演の中で、「オーバーシュート型コミットメント」について、2%目標の手前で緩和を止めることはないという決意の表れだとおっしゃっていますが、息の長い緩和を続けるために、緩和度合いを調整するということはあり得るのか、ゼロ%にするとしている長期金利の操作目標を修正することは想定されるのか、ということをお聞かせ下さい。
§9Takako Masai
4月の展望レポートの時に、2%の達成時期の記述の削除については、先月発表した議事要旨において、「大方の委員は、2%程度に達する時期が具体的な達成期限ではないことを明確にするため、今回の展望レポートから、そうした時期に関する記述をとりやめることが適当であるとの見解を示した」とある通りだと思います。加えて、私自身は、2%の実現の可能性やその可否に人々や市場の関心が過度に集中する結果、どうしても俯瞰的な議論になりにくいという感想を持っており、日本銀行のコミュニケーションにとってプラスではないと感じていたため、これに賛成したということです。2%の「物価安定の目標」の実現するタイミングについては、その時々の経済状況・金融情勢などによって変わってくるため、一概にこうだと申し上げるというのは極めて困難だと考えています。なお、今月の金融政策決定会合は、展望レポートを取りまとめるという月、会合でもありますので、先行きの経済・物価見通しとその背後にあるメカニズム、リスクの評価などを詳しく議論して、政策委員の見通しを今月末にお示しすることになろうかと思います。
§10Takako Masai
2 点目については、本日の講演でも申し上げたとおり、経済情勢ひとつとっても、例えば貿易の保護主義的な動きの見通しについて、アメリカでもベージュ・ブックの中で一部の企業から懸念の声が上がっているとか、本邦でも、まだハードデータとしてはなかなか確認がしにくいものの、――今日の会合でも現場の声として、見通しがしづらいとか不確定要素が高まったという声もあり、私自身もそのように考えていますが――実際に企業の皆様からもそういう懸念の声が上がっています。経済ひとつとっても、非常に先行きの見通しがしづらい中において、将来の政策について、こういう状況になればこうであろうといった話をするのは極めて難しいというのが、正直なところだと思います。そのうえで、経済状況、金融情勢、市場の状況といったものも含めて総合的にその時々で判断をしていくということに尽きるのではないか、と考えております。
§11Question
きめ細かにみていくとか、副作用をよくみていくという話があった中で、本日の講演では、金融システムの部分について、低金利が 90年代から始まっていることや、フィンテックなど、金融機関が抱えている構造的な問題を指摘されておられます。緩和の副作用で経営が悪化、というのはよく紋切型で聞きますが、指摘にあるところを具体的にお聞かせください。もう 1 点、2%はグローバルスタンダードなので掲げるべき、というのはそうだと思いますが、一方で、欧米、特にECBは 2%達成前に正常化に舵を切っており、2%を掲げることと本当に目指すことというのは、表と裏というか、乖離しているようなところも海外をみればあるかと思うのですが、そういったところについてお考えをお聞かせ下さい。
§12Takako Masai
本日の講演で申し上げた点として、いわゆる金融緩和の長期化に伴う累積的な副作用のリスクとそれを点検するということと、先ほどから申し上げているような、90年代から自然利子率の低下とともに金利水準そのものが全体的に下がっていく中での、金融機関がもともと抱えていた問題や地方においての人口減少に伴う問題といった構造的な問題とは、ひとつずつ切り離して考えていくべきという指摘をさせて頂いています。その上で、もう少し具体的に説明すれば、その区別するべき点については、もう少しビックピクチャーで、グランドデザインのもとでみていくべき問題と考えております。2 点目については、アメリカやヨーロッパとわが国で、物価というのは極めて複雑なものだとは思いますが、大きく違うのが人々の物価観です。欧米に関していえば、概ね 2%程度でアンカーされています。アンカーされているということは、一時的な物価の上下動にかかわらず、中長期的な見通しは、大体その程度ぐらい上がっていくものだろうとして安定していることになります。翻ってわが国では、そういった部分は全くまだアンカリングされていないという状況です。ECBにおいては、先ほどおっしゃったとおりで、インフレターゲットとECBは言ってはいないですが、ほぼ目途としている水準になる前に、ある程度の政策の変更をお話しされています。
§13Takako Masai
各国、わが国とは全く状況が違いますので、私どももそうなるのかという点については、それぞれの状況によって対応していくということに尽きると考えています。
§14Question
持続可能な形で強力な金融緩和を長く続けることが適当、ということに関してお聞きします。持続可能な形で、とおっしゃっているということは、今の形はそれほど持続可能ではない、あるいは持続可能ではなくなる可能性が近い将来あるとお考えなのかをお聞かせ下さい。また、今の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という枠組みに何か技術的な問題があるということをおっしゃっているのではなくて、副作用が累積的に大きくなってくる可能性があるので、そういった副作用に対応してより持続的な形で、ということをおっしゃっているのかどうかということをお聞かせ下さい。
§15Takako Masai
現在の政策に関しては、総括的な検証を経た上で、より強力な金融緩和を続けることを可能な形にしている、ということです。ただ、QQEを開始して 5年が経ったところであり、効果も累積的に出てきている反面、副作用の方も累積的な部分もあろうと思いますので、その 2 つを毎回の金融政策決定会合の場で、従来以上に仔細に検討をした上で、効果と副作用との総合的な判断で、その時その時の経済、物価、金融情勢に合わせて、最も適切である政策を判断していくということに尽きると思います。
§16Question
本日の講演の中では、4月にみられていた物価の想定よりも若干弱めだが、モメンタムはしっかりしているとされています。ここのところ皆さんは、モメンタムは維持されている、とずっと言われていますが、これだけ物価が下がってきていて、予想インフレ率が上がっていない中、モメンタムは平気、となることが理解できません。何をもってモメンタムは維持されているというのか、今のモメンタムが強まっているのか弱まっているのかも含めてお伺いさせて下さい。
§17Takako Masai
総合的にみれば、物価上昇に向けたモメンタムは引き続き維持されていると私自身も考えており、過度に悲観する必要はないと考えています。その理由としては、基本的に資本とか労働の稼働率を示すマクロ的な需給ギャップは改善方向を続けていますし、そのもとで現実の物価が弱めの動きとなっているのは、例えば成長期待であるとか、インフレ期待というのが恐らく十分に高まっていないということが背景にあると考えています。様々な現場の企業からの話を総合して考えると、成長期待は改善方向にあるとみてよいだろうと考えています。この数年、例えば企業にとっては、原材料コストや、宅配便などの貨物輸送コストといったものが揃って上昇しており、実際、企業物価指数や企業サービス価格指数などは、上昇トレンドにあるとみてよいと思います。この間、労働需給の引き締まりを背景に人件費も増加傾向を辿る中にあって、全体でみれば、過去最高水準の収益が企業として確保されているということは、企業がコストをその努力により吸収できているということでもあるので、日本経済にとってはポジティブなことと捉えています。このことは、わが国企業の労働生産性が上昇しているということなので、成長期待にもプラスに働くと判断しています。
§18Takako Masai
期待されている水準でのインフレ期待の安定化には、確かに時間がかかっていますが、日本銀行の金融政策のもとで、少なくとも下がる方向ではないと判断しています。人々のインフレ期待が、2%程度にアンカリングされているとみられているアメリカですら、2%のインフレ率の軌道に戻るのに相応に長い時間が掛かっており、それを考えてみれば、長きにわたるデフレを経験した日本で時間が掛かるというのは、仕方がない面もあるのではないかと思います。私自身は、物価のモメンタムを見定めるに当たっては、マクロの需給バランスは勿論ですが、これは一定の前提の下で算出される推計に頼らざるを得ないですし、リアルタイムでの把握も非常に困難というか、出来ないものですから、企業の生産性向上に向けた取り組みであるとか、企業の賃金や、価格の設定スタンス、川下へのコスト転嫁の進捗度合いであるとか、人々の物価観に変化がみられるかなどを、総合的に丹念に確認したその上で、モメンタムの判断をしていくということだと思います。
§19Takako Masai
いずれにしても、日本経済にとって必要なのは、インフレ期待が 2%程度でアンカリングされることだと考えており、そのためには、日本銀行の「物価安定の目標」の実現に向けたコミットメント、強力な金融緩和もあって需給ギャップが改善して現実の物価が上昇すること、官民の成長力の向上に向けた取り組みも奏功して成長期待が高まること、このいずれもが大変重要だと考えています。この観点からも、これからも経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、持続可能な形で、強力な金融緩和を息長く続けていくことが適当だと考えています。
§20Question
10年物の国債の業者間取引で、このところ取引が成立しない日が目立つようになっていると思いますが、金融緩和がマーケットに与える副作用についてはどのようにご覧になっているのかを教えて下さい。
§21Takako Masai
マーケットの日々の動きについて、何かコメントをするのはあまり適切ではないと考えていますが、全体的に取引量やボラティリティの低下した状態が続いていることは認識しています。もっとも、その背景としては、例えば、アメリカの長期国債のボラティリティもこのところ低下気味であることも考えると、どういった要因がどの程度働いているのかということは、単純にはなかなか測れないと思っています。私自身のキャリアにおいて、長らく市場に携わってきましたので、市場で取引を実際に肌で感じている方々の声の重要性は、強く認識しています。日本銀行が金融政策を行うに当たっても、マーケットインテリジェンスと言いますけれども、金融市場の参加者の皆さんの知見を活かして、市場に関する情報収集や分析が不可欠だと考えています。また特に、現行の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の推進に当たっては、大規模な国債の買い入れを実施していますので、市場の流動性への影響も含めて、国債市場の動きを今後も丹念にみていく必要があると考えています。実際、この間も、執行部の方で市場参加者と意見交換を行う機会を増やしたり、新たな分析手法を拡充したりと、努力してもらっているところです。
§22Takako Masai
最近では、ビッド・アスク・スプレッドなど、日本の国債市場についても、市場の流動性に関して改善方向を示す指標も一部ではある一方で、国債市場の機能度が低いというサーベイ結果もあり、国債市場の動向については、引き続き多面的な観点から点検をしていくことが肝要だと思います。現場では引き続き、そういった市場参加者との対話を行いながら、オペの運用面について必要な工夫を行ってもらうなど、市場の安定に努めることも重要なことだと考えています。以上