櫻井審議委員記者会見(2018年10月11日)要旨
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§1Question
本日の金融経済懇談会でどのような意見が交わされたのか教えてください。
§2Makoto Sakurai
本日は、地元の官民両方の代表の皆様から、当地の経済について大変貴重なご意見を伺いました。まず、全体的に大変前向きな話を、複数の方から伺いました。産業基盤をさらに強くしていくための取組みとして、機械関連、航空機産業、そして ICT のお話を伺いましたほか、クリーンエネルギーに関する積極的な事業展開のお話などが非常に印象的でした。それから、人口が減ってきていること、そして労働力不足の問題に関して、これからどのように対応していくかといったお話がありました。様々な試みをされていることがよく分かりまして、官民両方で方向性が合っているという印象を受けました。ただ、これらは構造的な問題ですから、成果が上がるのに時間が掛かることでもあるという印象を持ったところです。
§3Question
秋田県の経済の現状をどのようにご覧になっているか、また、この先どのような可能性があるのか、有望な産業分野も含めてお話頂ければと思います。
§4Makoto Sakurai
全体的な印象としては、現時点では緩やかな拡大、成長が着実に続いていると感じました。また、全体として、機械やハイテク分野も含めて、産業基盤が想像していた以上に集積されていると感じました。一方、先程申し上げたとおり、最大のネックは人口問題で、もし労働力や人口の問題がある程度緩和されれば、かなり強い産業基盤ができるかもしれない、との印象を受けました。それから、今後の可能性としては、クリーンエネルギーも含め、新しい産業においてビジネスモデルを作ろうという取組みがなされつつあるということで、全体としては、あまり暗い感じは持っておりません。
§5Question
経済の発展のために人口問題がネックになってくるというお話ですけれども、それに関する具体的な対策など、本日の懇談会で印象的だった点を教えて下さい。
§6Makoto Sakurai
本日は、かなり具体的なお話を幾つか伺いました。例えば経済界で、非常に地道な活動だとは思いますが、企業の従業員や経営者も含めてもっと健康に気を付けようといったキャンペーンを随分やっているとのことで、定年を長くしていくことを通じて労働参加率の向上にもつながる話と理解しました。また、労働力不足への対応だけでなく、高い能力や技術を伴う人材をどのように確保するかというようなお話が随分あり、非常に興味深く伺いました。これらは教育訓練に関連するものでしたが、全体として皆様が非常に前向きに取り組んでおられるという印象を持ちました。
§7Question
県内の景気の現状について、本日の意見交換を通じて、印象が変わった点を教えて下さい。
§8Makoto Sakurai
印象が変わった点を率直に申し上げると、まず当地に来て実際に見学をさせて頂いたり、お話を伺ったときに、想像以上に産業基盤が強いと感じたことです。それから、予想していたよりも人口問題、労働力の問題がかなり深刻だと感じたことです。私どもは金融経済懇談会で日本の各地に行ってお話を伺う機会があるのですが、特に当地ではこれらの問題が決定的に大きいとの印象を持ちました。
§9Question
本日の懇談会の講演の中で、物価安定目標のみを重視して過大な需要超過を政策的に作り出すことは、金融システム上の不安定性を高める可能性があるというご指摘をされていると思います。これは、2%の物価目標の達成前でも、現在の極めて低い金利水準を引き上げるなり、緩和度合いを調整するべきだというお考えを示したという理解でよいでしょうか。
§10Makoto Sakurai
現段階では、今回の講演でも述べさせて頂きましたが、7月の展望レポートでこれまでの物価動向を分析した結果、需給ギャップ以外の様々な構造的な要因や、履歴効果がかなり効いており、物価上昇に遅れが出ているのだろうと私は理解しています。2%の物価安定の目標の達成には、多少時間が掛かるということが確かなことになってきたわけです。早くに達成できればそれに越したことはないですが、想定していたよりは時間が掛かっています。このため、現在の需給ギャップがプラスになっている状況をなるべく維持して、その効果を待つということではないかと思います。時間が掛かるということをもって調整を早めるとか、そういう段階ではまだないと思います。今後、実体経済の動きや物価の動向をじっくりとみていくことが必要な状況なのではないかと考えています。
§11Question
講演の最後の方で、不確実性の下での金融政策は慎重に実行することが適当との指摘について、大変示唆に富むと語っていらっしゃいます。これは物価の伸び難い国内環境を考えれば、緩和政策はもう少し抑制的にやっていった方が良いのではないかということなのでしょうか。
§12Makoto Sakurai
先程申し上げた通り、物価が2%に向かっていくという、例えば5年前から考えていたことでみると、そのときには考えられなかった不確実性、すなわち構造要因だとか、ヒステリシスの要因だとかが出てきて、物価上昇が遅れてきています。すなわち、金融政策と物価の関係にかなり不確実性が入ってきていると思います。不確実性が高くなってきている部分について考えてみると、金融政策と物価との関係には特に不確実性が出てきている一方で、例えば金融政策と需給ギャップとの関係には、それほど高い不確実性はないだろうと考えています。従って、政策効果に不確実性が高いものに関してあまり大胆な政策をとる必要はないだろうということです。現在でも実はかなり強い金融緩和政策を採っておりますので、これ以上強くする必要はなく、暫くは現在の緩和をしっかりと維持することによって、その動向を見守ることが大事だろうという趣旨です。
§13Question
今言われた「大胆な政策をとる必要がない」というのは、今の時点で追加緩和をやる必要がないと、そういう理解でよろしいでしょうか。
§14Makoto Sakurai
現時点では、もちろん先行きの不確実性は抱えているのですが、実体経済は比較的順調に回復をしてきているということだと思いますので、これ以上に強い緩和をする必要があるかというと、現段階ではないだろうというのが今の考え方です。
§15Question
講演の中で、やみくもに物価安定の目標を目指しても不均衡を高めるということを踏まえ、足もとでは需給ギャップのプラスを維持していく、と述べられています。この点について、例えば不均衡が高まったと判断できそうな状況――その判断も難しいとは思うのですけれども――において、金利とか量とか色々ある中で具体的に何をすべきだとお考えでしょうか。
§16Makoto Sakurai
不均衡の判断自体、大変難しいと思いますが、現在の需給ギャップはもちろん不均衡ではなく、かなり均衡状態に近いだろうと思っています。すなわち、需給ギャップ自体が推定値、計算値であり、多少の誤差はあるだろうと思っておりますので、ほぼプラスになっているといっても、大きなプラスとは考えていません。従って、今後不均衡が拡大するかということは、需給ギャップがそれ以上に大きく、過大になっていくことを懸念するかどうかということになります。現在はもちろんそういう状況にはないので、今後はその点を慎重にウォッチしていくということだろうと思います。不均衡が高まったときにどうするかといいますと、不均衡には2種類ありまして、上振れリスク――需給ギャップがかなり過大になっていく場合――もあれば、逆に下振れリスク――需給ギャップが小さくなってマイナスになる場合――もあるので、そのときの状況に応じて、政策の方向を考えていくということだと思います。そのときには、考え得る色々な手段の組み合わせを考えていけば良いと思っています。
§17Question
米国を中心とした保護主義の台頭、とりわけ米中貿易戦争の懸念が増していて、本日も日経平均株価、昨日も米国株が大きく下げました。こうした問題が日本経済や金融市場に与える影響についてどうご覧になっているのでしょうか。
§18Makoto Sakurai
貿易政策に関しては色々な動きがあり、具体的な言及は避けたいと思いますが、一般論としてお話したいと思います。まず、過去 20年あるいは 30年近くの間、世界経済の発展は、国際貿易と海外投資によって支えられてきたということは間違いないと思いますし、それによってサプライチェーンもグローバルに出来上がりつつあるか、ほぼ出来ているかもしれません。こうした中、貿易が様々なかたちで自由に進まないということになると、そうしたサプライチェーンが上手く機能しなくなる可能性もありますので、そこは少し懸念材料だろうと思います。ただ、影響の大きさを予測できるかというと、それは当然できませんので、その点は慎重に点検をしていくということに尽きるだろうと思います。中長期的には、きちんと、自由貿易なり国際的な資本移動の自由を目指した国際協力の再構築の方向を探っていくべきだと思います。
§19Question
持続性のある緩和ということですが、委員が想定される2%の物価目標の達成時期の見通しが現時点でありましたら、教えて頂けますでしょうか。
§20Makoto Sakurai
達成時期の予測は、今のところ大変難しいというのが本音だろうと思います。2%の目標をずっと掲げてやってきて、2%の物価上昇を目指すプロセスの中で、実際に起こってきたことを分析した結果が7月の展望レポートということです。需給ギャップ以外の構造要因とか、過去の履歴効果とかが随分効いており、これらが今後どういうかたちで消えていくのか、あるいは更に大きくなるのか、なかなか読み難いということがあります。そうした中で、既に需給ギャップがプラスに転じていて、ある程度均衡状態に近いところを保っていますので、今はむしろそこを保つことによって、じっくりと2%へのプロセスを辿ることを見守ればよいのではないかと思います。先程申し上げた通り、不確実性がかなり出てきていますので、その方が政策としてはベターなのではないかと思います。
§21Question
本日、日経平均株価が一時1,000 円安とかなり急落しました。委員は、講演でも下振れリスクについて触れられていますが、この株価急落をどのように受け止めているかということと、先行きの下振れリスクとしてどのようにお考えかという点を伺いたいと思います。
§22Makoto Sakurai
個別の株価の問題などについてコメントはできませんが、現時点で、実体経済のファンダメンタルズは、米国も日本もかなり健全ではないかと考えています。企業収益などを考えても、かなり好調ですし、何らかの指標が株価下落のきっかけになったのかもしれませんが、少しじっくりとみていくということではないかと思います。一般論としていえば、こうした株価の動きが他にどのように波及するのかしないのか、しっかりとみていくことが重要なのではないかと思います。先程申し上げましたとおり、足もと、ファンダメンタルズは、先進国全体としてもしっかりとしていると考えています。ただ、こうしたことが起こる、あるいは繰り返されるということになると、マインドなどにも影響するかもしれませんので、その点はしっかりと注視していきたいと思っています。
§23Question
7月に物価見通しを下方修正されましたが、今の段階の物価上昇の勢いをどのように認識されているのでしょうか。
§24Makoto Sakurai
現在も、特別に強くなっているということはないですし、意外と横ばいという感じではないかと思います。天候要因やエネルギー価格要因など、短期的には色々な影響を受けますので、その辺で少し短期的に色々な動きが出るかもしれませんが、特別に良くなるということでもないですし、また、特別に悪くなるということでもないと思います。毎月きっちりと点検していくということに尽きるだろうと思っています。
§25Question
本日の講演の中でも、今の金融緩和策の中での金融機関へのリスクに言及されていると思います。今の金融緩和のもとでも、金融機関が収益的に厳しくなっているというご認識はあると思いますが、その点、どこまでであれば耐えられるのか、どこまで長く続けられるとお考えですか。
§26Makoto Sakurai
現時点で、金融システムは、個別行の問題はともかくとして、一般論としていえば健全性は保たれていると基本的に思っています。もちろん、こうした金融情勢の下で、収益が上がりにくいのは事実でして、累積的な効果がたまってくるだろう、このままいけばそういう方向に進むと思います。しかし、現時点では自己資本や流動性は十分にあり、喫緊の対応の必要性は全くなく、その点では安定性は保たれていると考えています。ただ、やはり、長くこういう状況が続くことを考えれば、収益が急激に改善することはなかなか考え難いですし、収益確保のためにある程度のリスクも抱えつつあると思いますので、その点も含めて、慎重にウォッチをしていくということが一番重要だろうと思います。モニタリングをしっかりとやっていくということだと思います。
§27Question
講演の最後のところで、時間を掛けて金融緩和を継続していくことが適当であると述べていますが、その前のところで、金融緩和を続けると金融とか経済の不均衡が蓄積されると述べており、「時間を掛けて」ということになりますと、一層副作用が累積されると思います。2%の物価安定の目標の達成に時間が掛かるということになると、目標達成に向けて緩和を続ければ、そこから副作用が生じますので、この際、2%という物価目標について、早期にではなく、中長期的な目標としていくということに関して、委員はどのようにお考えですか。
§28Makoto Sakurai
2%の目標自体は、私は変える必要は全くないと今でも思っています。目標達成に時間が掛かるということになりますと、副作用が生じてくるという問題はそのとおりであり、副作用と時間のバランスをしっかりと点検していくということが、金融緩和政策を続ける上で必要だと思います。その点では、多少は今までと違う観点も入れながら、金融緩和を続けていくということだと思います。基本はやはり、金融緩和政策を続けながら、2%の目標達成に向けて進んでいくということですが、物価変動プロセスに不確実性があることを踏まえると、目標達成時期がどのようになるかという予測が、なかなか今出来にくいということだろうと思います。当面現在の金融緩和政策を続けながら、副作用への目配りもきちんとしていくことが必要だろうと考えています。以上