総裁記者会見(2018年11月5日)要旨
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§1Question
午前中に地元の経済界との懇談会がありました。緩和政策の出口戦略の話ですとか、日米物品貿易協定の懸念などもあったかと思います。そうしたやりとりを踏まえて、午前中の感想をお聞かせください。
§2Haruhiko Kuroda
先程、懇談会を開きまして、色々な議論を行いました。今回も、当地の経済界、金融界を代表する方々から、地域経済の現状に関する大変貴重なお話や金融政策運営に関する率直なご意見・ご要望を頂き、極めて有意義な意見交換ができました。この場をお借りして改めて御礼を申し上げたいと思います。懇談会では、貿易摩擦の影響が懸念される中でも、生産と輸出が拡大していること、企業収益の改善を背景に設備投資が増加していること、雇用・所得環境の改善を背景に個人消費が増加していることなど、大変心強いお話を伺いました。先月公表したさくらレポートでは、東海地方の経済は過去 1年にわたって「拡大している」と判断していますが、当地の皆さまのお話からも、内外需がしっかりと増加している状況が確認できたと思います。また、10年先、20年先を見据えて改革と発展を続けていこうという前向きな姿勢も大変印象に残りました。IoTやAIなどのデジタル革命、自動車業界における「100年に一度の大変革」、名古屋・東京間のリニア新幹線の開業・開通など、中長期的な視点に立った取組みが着実に実行されていることが、当地経済の力強さにつながっているのではないかと思いました。
§3Haruhiko Kuroda
東海地方の経済を金融面から支えている金融機関の方々からは、設備資金のほか、大企業の事業再編資金、中小企業の事業承継関連資金など、幅広い資金ニーズが増加しているというお話を伺って、これも心強く感じました。懇談会では、海外経済や金融市場の動向を踏まえた金融政策運営、あるいは安定した金融システムの維持など様々なご意見・ご要望を頂きました。日本銀行としては、こうしたご意見も参考にしながら、引き続き適切な金融政策運営を行ってまいりたいと思っております。
§4Question
そうしたご意見・ご要望が出た中で、当地の景気の先行きについてですが、総裁のお話にもあったように、貿易摩擦が当地では大変関心が高く、また、金融経済環境に変調の兆しが出ている中で、これからの東海経済のリスク、あるいは警戒すべき点は、どのようなことがあるとお考えでしょうか。
§5Haruhiko Kuroda
東海経済は「拡大している」との判断を続けており、いわば全国の先頭を走っていると認識しています。今後の注目点、あるいはリスクについては、懇談会の席上でも様々なご意見が示されました。なかでも、製造業の集積地である当地にとっては、貿易摩擦の影響が最大の懸念材料だと伺いました。当地では、グローバルな生産計画を抜本的に見直したという企業はないようですが、やはりこの保護主義的な動きには、それぞれの企業が警戒をしているようですし、私どもとしても、今後、注意深くみてまいりたいと思っています。また、懇談会でも、人材の確保というのが非常に重要であり、かつ苦労しているとのお話も伺いました。特に当地は失業率が1.7%になり、更には有効求人倍率も非常に高いなど、他の地域よりも労働市場がタイトであり、人材を確保するために県外まで求人を出す事例もあると伺っています。内外の旺盛な需要に応え続けるためには、設備だけでなく、雇用もタイムリーに確保し、企業の生産能力を増強していくことが欠かせないと思います。人材確保というのは、日本全体としても重要な課題になっていますが、特に当地では、非常に大きな課題になっていると感じました。
§6Question
今、景気の拡大、全国の先頭を走っている東海経済というお話がありましたけれども、様々なリスクを乗り越えて、今後、東海経済、東海企業が日本経済において、どのような役割を果たしていくことが期待されているかを改めて教えてください。
§7Haruhiko Kuroda
懇談会でも申し上げましたが、着実な成長を持続的に続けていくためには、様々な内外のリスクに目配りをして、いわば先回りして対応していくことが必要であると思います。この点、当地の多くの企業は、リーマンショック以降、世界レベルで生産拠点の最適化を促進してきたと思います。こうした長期的な取組みが、今や大きなリスクとなりつつある保護主義的な動きへの対抗策としても有効に機能していくと思われます。また、ここ数年取り組まれてきた「サプライチェーンの見える化」によって、この夏の台風や地震の際にも、その影響は比較的短期間で収束したと伺っています。このような当地の企業による先進的な取組みは、わが国の企業や経済全体が、この先様々な課題に挑戦していくうえで、非常に重要な示唆を与えていると思います。東海地区の企業には、今後とも日本経済を牽引していく役割を果たして頂きたいと思いますし、それが可能であると考えています。
§8Question
講演では、講演録の8 頁ですが、経済がこの 5年間で「はっきりと改善」して、物価も「デフレに苦しんでいた 5年前に比べれば、着実に改善している」とおっしゃったうえで、「かつてのように、デフレ克服のため、大規模な政策を思い切って実施することが最適な政策運営と判断された経済・物価情勢ではなくなって」いるとおっしゃっています。とはいっても、5年前の異次元緩和を始めた時と比べて、国債の買入れ額は、一時よりは減らしているとはいえ、年間増加額 50 兆円前後とあまり変わらない水準が続いています。長期金利の水準も、当時と比べてかなり低い状況にありますし、短期金利、政策金利もマイナスというように、5年前当時ではなかったような状況です。 ETFについても、何倍もの額で買入れを続けていらっしゃいます。大規模な政策を思い切って実施することが最適な状況ではなくなってきているとおっしゃっているにもかかわらず、5年前におやりになった異次元緩和をまだ続けているというのは、論理的には理解しがたいところもあるのですが、どのようにお考えでしょうか。
§9Haruhiko Kuroda
2013年4月に「量的・質的金融緩和」を導入した際は、15年続きのデフレでした。消費者物価上昇率は-0.5%のデフレであったわけですし、失業も多く、経済は沈滞していました。そうしたもとで、資産買入れを拡大する、マネタリーベースを拡大するといったことで、非常に明確に、これまでの金融政策とは大きく変わった政策を「量的・質的金融緩和」として打ち出したわけです。その後、原油価格の下落その他を踏まえて、更に「量的・質的金融緩和」を拡大し、また、マイナス金利の導入などをやってきて、現在のようにデフレではなくなった状況、経済も 1%台半ばで持続的な成長を続けている状況となりました。そうした中では、2013年4月の時のように、それまでと大きく変わった政策を打ち出すという意味のものは必要ではないとは思いますが、まさにご指摘のように、依然として大幅な金融緩和を粘り強く続けて、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に達成しようとしていることには全く変わりはないということです。
§10Question
総裁は講演で、金融機関に対する副作用を指摘されました。基本は先般の金融システムレポートで分析されたものに沿ったものと思われますし、一義的には、プルーデンス政策で対応するものと思いますが、その中でも、金融政策の運営の観点からも注視していく必要があると述べていらっしゃいますし、質疑応答の中でも、副作用を最小化することは続けていきたいとおっしゃいました。ただ、今の金融政策の枠組みを維持したまま、現実的に何ができるのか、ちょっと疑念があるとは思うのですが、その中で何ができるのか、意見を伺うことができたらと思います。
§11Haruhiko Kuroda
7月の金融政策決定会合では、長短金利に関するフォワードガイダンスを非常にクリアに示し、引き続き大幅な金融緩和を粘り強く続けることを示しつつ、そうしたことが持続可能なように、10年物国債金利の操作目標ゼロ%程度について、それまでのような±0.1%といった非常に狭い幅での変動ではなく、その倍くらいの変動も、経済・物価・金融情勢に応じて生じるのは当然であるし、それ自体、むしろ国債市場の機能を改善することになると申し上げました。その後、3 か月強経って、実際に国債取引は現物でも先物でも増えていますし、価格の変動幅も大きくなっており、市場の機能度は改善していると思います。イールドカーブ・コントロールや、こうした低い金利を当分の間続けるというフォワードガイダンスのもとでは、国債市場への圧力がある程度続くということ自体は変わらないと思いますが、そのもとでも、機能度を高める工夫は色々あり得ると思います。国債の買入れ自体も、イールドカーブ・コントロールをちょうど実現できるような形で行っています。今のところ、従来よりも国債の買入れ自体は少なくなっていますが、そのもとで、しっかりとイールドカーブ・コントロールができているということです。
§12Haruhiko Kuroda
国債市場の機能にしても、金融仲介機能にしても、そういうものが十全に発揮できず、それによって金融政策の効果が阻害されるという状況は好ましくありませんので、そういった点には十分配意しつつ、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために必要な大幅な金融緩和は粘り強く続けていく、むしろ、続けられるように、そうしたことに十分配慮していくということだと思います。
§13Question
今、国債市場について言って頂きましたけれども、金融機関の収益の悪化という副作用に対してのご見解はいかがでしょうか。
§14Haruhiko Kuroda
金融システムレポートでも詳しく分析していますように、この5年間ということではなく、もっと長い期間にわたって低金利環境が続いていますし、特に地域金融機関にとっては、人口の減少、高齢化、あるいは企業数の減少というもとで、競争が激化し、利鞘が縮小しているという構造的な問題もあります。この5年間だけをみると、金融機関の収益はかなり良いレベルですが、それは先程の懇談会でも申し上げた通り、信用コストの減少と有価証券の売却益で業務純益の減少を補っていたということです。先行きを見通すと、その 2 つの要素はいつまでも続くものではありませんので、業務純益の減少がいずれ大きな課題になってくるということは私どもも認めているわけです。ただ、それはかなり長期の話で、足許は資本が十分ありますので、金融機関の金融仲介機能が損なわれることは当面ないと思っていますが、より長い目でみた場合に、そういうことも十分注意してみていかなければならないと思っています。
§15Haruhiko Kuroda
ただ、当面、金利を引き上げ、イールドカーブを立てて、金融機関の利鞘が高まるようなことをすると、今の状況では、むしろ景気が悪くなって、金融機関にとっても決して好ましい状況にならないと思いますので、あくまでも 2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するという観点から大幅な金融緩和を粘り強く続ける一方で、そういった長期の課題についても考えながら金融政策の運営を行っていくということだと思います。
§16Question
物価目標について伺います。これまでも物価 2%については、物価の統計上の上方バイアスであるとか、のり代、グローバルスタンダード、この3 つを、総裁が理由として挙げてきたと思うのですが、統計上の上方バイアスに関しては、総務省の方でも色々見直しを進めていますし、グローバルスタンダードという意味でも、2%というのをFRBは掲げているわけですが、 ECBは2%未満という表現を使ったり、BOEでも上下 1%の振れを認めていたりしています。長期の金融緩和が続く中で、リスクが顕在化してくる可能性が高まる今、この2%というものを、もう少し変動幅を容認する形で、金融政策を運営するというお考えはないでしょうか。
§17Haruhiko Kuroda
2%の「物価安定の目標」、英語でいうインフレターゲットというのは、まさにグローバルスタンダードになっています。常に2%をきっちり実現していくということではなく、一定の柔軟性があることは事実ですが、あくまでも 2%の「物価安定の目標」をできるだけ長く平均的に実現していくことは、やはり必要であると思います。1998年から 2013年まで 15年にわたってデフレが続き、2013年以降、この 5年間はデフレでない状況にはなっていますが、物価上昇率はまだ1%程度というところですので、やはり、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するということに強くコミットして、必要な大幅な金融緩和を粘り強く続けていくことに尽きると思います。それを変更することは必要でもないし、適当でもないと思っています。
§18Question
先程の懇談の後の質疑応答では、 FRBが利上げをするからといって日銀が利上げをする必要はないし、ファンダメンタルズに照らしても必要ない、ということだったのですが、米欧が正常化に向かうと、相対的に日銀の緩和が過度になってしまうということはないのでしょうか。そういう観点から、柔軟化や調整などが必要ということはないでしょうか。もう一つは、出口に関して質問された方が、そろそろ戻る道筋を示されるべきではないかとおっしゃったと思います。FRBが2015年12月に利上げしましたけれども、正常化の原則というのはかなり前の段階で、2011年とか 2014年で出していたと思います。そういうことは、日銀としても、すぐに正常化ではないけれども、原則として何か示すということは可能なのかどうか、伺わせてください。
§19Haruhiko Kuroda
ご指摘のようにFRBはかなり前に正常化のプロセスについての考え方を示したわけですが、そのときの考え方は、バランスシートの増加を止めて、最終的にバランスシートを縮小していくことと、短期政策金利を引き上げることの順序について、今現在やっていることとは逆に言っていました。実際にやったこととちょうど逆のことを言っていたことになりますので、早めに出口戦略のようなものを示すことは、あまり好ましいことではなかったのではないかと思います。また、日本は物価上昇率が1%程度の状況です。展望レポートでも、1%台半ばに来年度以降なっていくわけですが、まだ2%に到達する状況ではありませんので、大幅な金融緩和を続けていくことは当然必要であると思います。また、金融政策は、それぞれの国がそれぞれの経済・物価情勢に応じて行います。FRBの場合は、正常化のプロセスのかなり進んだところまできていますし、ECBの場合は、年末までにネットの資産買入れ額をゼロにして、バランスシートを安定させることは決めていますが、政策短期金利はまだ当分据え置いて、来年の後半以降に考えるということですので、正常化のプロセスも入口に差し掛かったところです。日本の場合は、先程来申し上げているような状況ですので、当然、大幅な金融緩和を粘り強く続けていきますし、それが日本経済にとって必要なことであると思っています。
§20Haruhiko Kuroda
ご指摘のように、欧米の金融政策が正常化していったときに、日本の金融緩和がより大きなものになり得るということは、その通りかもしれません。そもそも、物価上昇率が上がっていくことによって、予想物価上昇率も上がっていけば、名目金利は、例えば 10年物の国債金利をゼロ%程度にしているわけですから、実質金利はより下がっていくわけです。それは、2%の「物価安定の目標」に向けた動きを、より確実なものにするということであって、それが好ましくないということではないと思います。わが国の場合は、経済成長は 1%台半ばということで、潜在成長率を上回っているわけですが、物価上昇率がまだ 1%程度ですので、当分の間、長短金利の低い水準を維持し、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するように、大幅な金融緩和を粘り強く続けるということに変わりはないということだと思います。
§21Question
貿易摩擦についてお伺いします。現在の米中の貿易摩擦の状況ですが、1980年代の日米貿易摩擦の時と比較されるケースがあるかと思います。日米貿易摩擦の際には、プラザ合意がその後の日本経済にとって重要な局面を構成していると思うのですが、これらの過去の経験が、米中やその他の国にとってどのような経験を与えているのか、ご見解を聞かせてください。
§22Haruhiko Kuroda
1980年代から 1990年代にかけて続いた日米貿易摩擦というのがあり、様々な対応策を日本側としてとったわけですが、他方で米国側では貿易赤字を減らすような措置はあまりとられず、貿易摩擦が長く続いたわけです。ちなみに、プラザ合意やルーブル合意は、日米というよりも、G7、G5全体としてとった、日米欧の為替レートについての対応策だったと思っています。今の保護主義、貿易摩擦は、米韓あるいはNAFTAの再交渉はもう決着がついており、また、米EU、米日は引き続き交渉を続けるということですので、問題は米中のエスカレートする貿易摩擦、貿易紛争だと思います。ここでは、米国側も色々な点を問題にして、単に2 国間の貿易不均衡だけでなく、私的所有権であるとか、資本自由化であるとか、あるいは安全保障、その他諸々のことを問題にして議論しています。1980年代から 1990年代の日米貿易摩擦の次元を超えた問題のようにみえますので、あまりそれが参考になるとは思いません。
§23Question
地域金融機関の件で、追加でお伺いします。先程、黒田総裁は、当面の話として、金利を上げても逆に景気は悪くなって、金融機関にとって決して好ましい状況にならないとおっしゃったと思うのですが、今後、いよいよ地域金融機関のリスクが大きくなった場合に、日銀としてどういった政策対応がとれるのか、選択肢を伺えますでしょうか。また、これとほぼ関連している話ですが、講演の中で、必要に応じて金融機関に具体的な対応を促していく方針だとお話しされましたが、ここをもう少し詳しくお伺いできませんでしょうか。
§24Haruhiko Kuroda
先程来申し上げている通り、現時点では、地域金融機関も含めて、収益状況は決して悪くありません。ただ、この5年間だけをとってみても、もっと前からとってみてもそうですが、貸出に伴う業務純益はずっと減り続けており、それをこの 5年間は、信用コストの減少と有価証券の売却益でちょうど補って、収益が安定してきたわけです。信用コストがずっと下がり続けることは期待できませんし、有価証券の売却益もいつまでも続くものではありませんので、長期的にみれば、業務純益の減少傾向を抑えない限り、いずれ地域金融機関にとって大きな課題が持ち上がってくることは事実ですが、それはすぐに来る話ではなく、5年とか 10年とか 15年とか、そういうタームでの議論です。大幅な金融緩和は確かに5年続いているわけですが、先程申し上げたような長さで続くとは思いませんし、業務純益の低下傾向の相当部分は、実は先程申し上げたような構造的な問題です。人口減、企業数減の中で、地域金融機関の間の競争が激化して、なかなか利鞘が取れない状況にあるわけです。その構造的な問題は、すぐに大問題になるわけではありませんが、長期でみると、やはり構造問題ですので、まさに構造的な対応をしていかなければなりません。その中には当然、統合や合併のような話もあるでしょうし、あるいはITをもっと導入して効率化するといったこともあるかもしれません。
§25Haruhiko Kuroda
更には新しい顧客の開拓ですとか、新しいビジネスの開発ですとか、そういったことも必要になるかと思います。そうしたことも含めて、モニタリングや考査の時には、それぞれの金融機関と十分対話をしていきたいと思います。もちろん、法律的権限に基づく色々な対応策は、ミクロプルーデンスもマクロプルーデンスも日本の場合は金融庁が担当していますので、当然、金融庁の対応を待たなければならないと思いますが、日本銀行としても、地域金融機関との対話の中で、どういった対応によって長期的な業務純益の減少傾向を食い止め、あるいは増加させていくかということについては、十分対応していきたいと思っています。以上