若田部副総裁記者会見(2018年12月5日)要旨
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§1Question
本日の懇談会では、どのような意見交換がされたのか、その内容を教えてください。
§2Masazumi Wakatabe
本日の懇談会は、私が日本銀行副総裁を拝命して初めての金融経済懇談会でしたが、行政や経済、金融面で新潟県を代表する方々から新潟県経済の現状に関する貴重なお話を伺うとともに、金融政策運営に関するご意見を頂きました。全てを網羅して紹介することは難しいので、席上で聞かれた話題を整理してお話ししたいと思います。県内の景気については、一頃は全国各地で発生した自然災害の影響がみられたものの、このところは、企業マインドが改善するとともに、設備投資も増加しているなど、総じてみると回復しているとの声が聞かれました。こうしたもとで、全国平均を上回る有効求人倍率に表れているように、雇用・所得環境にも改善がみられているとのお話を伺いました。一方で、人口減少に加え、事業承継の難しさから廃業率が高い一方、若い世代による起業を含めた開業率が低いことなどが大きな課題であるとのお話も伺いました。もっとも、こうした中長期的な課題に対しても、官民において様々な具体的な取り組み――例えば、事業承継に関する専門家からのサポート、起業にチャレンジしようとする若者が起業経験者に悩みを相談できる場の整備など――が着実に行われている、という頼もしい動きをご紹介頂きました。また、地域の中小企業においても、異業種への積極的な参入や自動化された新工場の建設など、新たな取り組みにチャレンジする動きがみられていることをご紹介頂きました。
§3Masazumi Wakatabe
日本銀行の金融政策に関しては、現在の金融政策を長く続けることのいわゆる副作用――例えば、趨勢的な収益力の低下が中長期的にもたらし得る影響など――に対する懸念の声を聞かせて頂くなど、忌憚のない意見交換をさせて頂きました。
§4Question
新潟県の景気、経済動向の状況についての見解と、今後の先行きの見通しを教えてください。
§5Masazumi Wakatabe
新潟県の景気動向は、挨拶でも触れましたが、「着実に回復を続けている」とみています。好調な海外需要などを背景に、輸出と生産が高めの水準で推移しており、高水準の企業収益のもとで、能力増強や省力化を目的とした設備投資が増加しています。また、労働需給が引き締まる中で、雇用者所得は緩やかに増加しており、個人消費も緩やかに回復しています。本日の懇談会の出席者の方々も、全体的な景気動向の認識は概ね同様であったと思います。先行きについては、米中間の貿易摩擦の問題の帰趨などはリスク要因として認識していますが、日本経済が緩やかな拡大を続けるもとで、新潟県経済も回復基調を続けていくと考えています。もっとも、新潟県経済を長い目でみれば、先ほどの話にもありましたが、人口の減少や人手不足、県内最終需要の伸び悩みといった構造的な課題を抱えていることは事実であり、それを克服する必要があるということです。この点、当地では、金属、機械、食料品、素材、建設などの幅広い分野で高い技術力を有する産業の集積がみられます。また、当地には県外や海外の観光客を惹きつけるであろう多様な文化や歴史、豊かな自然、美味しい食が存在します。加えて、成長セクターである北東アジアに近いという立地面でのポテンシャルも有しています。本日の懇談では、こうした強みを活かした新潟県経済の発展に向けた取り組みの紹介や関連するご意見を数多く頂きました。
§6Masazumi Wakatabe
今後、当地関係者の幅広い取り組みが功を奏し、人口減少などの課題に対応しながら、新潟県経済が一層の発展を遂げることを期待したいと考えます。
§7Question
新潟県では、第四銀行と北越銀行が経営統合して第四北越FGが発足しました。地銀の経営統合が各地で進んでいますが、それについての見解と、今後の地域金融機関の経営にどのような取り組みを期待されているのかを教えてください。
§8Masazumi Wakatabe
第四銀行と北越銀行が経営統合をして第四北越FG となり、それが2018年10月1日から発足したことは私も承知しています。そのFGの個別の動向についてコメントすることは私の立場からは差し控えさせて頂きますが、一般論として申し上げれば、地域の金融機関に求められている課題は、まずは地域に密着した金融サービスを提供する中で、地域の様々なニーズをすくい上げて、それを金融機関として如何に付加価値を付けて提供することができるか、ということだと思います。その過程で必要なのは、様々な経営の合理化や効率化、組織体制の見直しなど、大きな意味での経営の努力でしょうし、あるいは各地域のニーズを掘り起こしていくにあたっての目利きの力だろうと考えています。
§9Question
金融緩和の副作用に関してですが、本日の講演では、政策の効果だけではなく、金融市場、金融システムへの影響も間断なく点検することが必要だとおっしゃいました。3月に就任されたときの記者会見では、副作用が、金融政策がこれまでもたらしてきた効果を覆すに至るようなものであるならば、やはり点検すべきだと言っておられましたが、3月と現在とで緩和の副作用を巡る状況はどのように変わったとご認識されていますでしょうか。
§10Masazumi Wakatabe
3月に申し上げた通りでありまして、現状で金融政策がもたらしてきた効果を覆すような副作用が顕現化しているとは考えていません。もちろん、これについては様々な議論があり、また、3月から今までの間で金融環境も変化していることは承知していますが、現在行われている大規模な金融緩和政策をやめるに至るような、いわゆる副作用は顕現化していないと認識しています。
§11Question
追加緩和の余地に関してです。講演でも貿易戦争の影響に触れられていました。国際的にも景気下振れリスクへの警戒が強まっていると思われますが、これまで副総裁は、必要があれば躊躇なく追加緩和をすると主張されてきました。副作用への警戒が強まっている中で、仮に景気後退ですとか、物価上昇率がゼロ%程度あるいはマイナスに陥った場合、追加緩和は必要だと考えられますか。あるいはその余地はあるとお考えでしょうか。
§12Masazumi Wakatabe
必要があれば躊躇なく追加緩和をすべきだという考え方は変わっていません。現状では、先ほど申し上げたようないわゆる副作用は、金融政策の効果を覆すほど顕現化していないと考えています。ただ、もちろん今後、追加緩和をすべきかどうかというのは、景気後退であるとか、物価上昇率がゼロに陥る可能性やその持続性──その後の見通しとして、2%の「物価安定の目標」への道が非常に遠のいてしまうことが懸念される状態であるか──も踏まえて、判断すべきだと思います。余地については、巷間では追加緩和の余地はないのではないかという議論がありますが、私自身は、追加緩和を行う必要があるならばその余地はあると考えています。ただ、その具体的な内容を明らかにすることは適切ではないと思いますので、この段階ではコメントを差し控えさせて頂きます。
§13Question
午前中の講演でお話になった内容の確認です。副総裁は、未来への投資を促進する環境を整備したり、財政の信認を確保しながら教育や科学技術振興等の有益な支出を政府が行ったりすれば、期待成長率が高まり、期待成長率が高まれば 2%への道筋もより確たるものになるとおっしゃったと思いますが、これは 2%目標の達成に向けて、より積極的な財政支出が必要だというお考えと理解してよろしいでしょうか。もう1 点も関連しますが、その場合に、財政健全化との兼ね合いをどのように考えていらっしゃいますでしょうか。
§14Masazumi Wakatabe
先ほどの挨拶の中で私が申し上げたのは、政府はそうした未来への投資を促進する環境を整備しようとしていますが、これには数々の規制改革や制度改革が含まれると思いますし、また、財政の信認を確保しながら教育や科学技術振興等の有益な支出を行ったりすれば、ということです。2 番目の質問へのお答えとしては、財政の信認を十分に意識しながら、そういう支出を行うことが望ましいと述べました。ただ、これらは全体として期待成長率を如何に上げるかという文脈での話であり、短期的な支出というよりは、中長期的な成長力を上げるような支出が望ましいということです。それがなければ 2%を達成できないということではなく、期待成長率を上げるような形で財政が適切に支出され、そして各種の制度改革が行われるならば、2%への道のりはより確たるものになるだろうということです。財政の健全化を巡っては、様々な方法論や議論があることは私も承知しておりますが、財政の信認が確保されるような経済政策がとられていくことが重要であるという点に関しては、大方の合意があるところではないかと考えます。
§15Question
本日はアメリカの債券市場で逆イールドが近づくなど、海外経済の不透明感が非常に強まっている状況かと思うのですが、副総裁はまだ 2%の目標の達成が現状の政策で可能だとお考えでしょうか。また、そのように国会でおっしゃった際に、情勢の変化を踏まえて政策が適切でないならば政策変更も考える、という発言もあったかと思うのですが、この情勢の変化というのはどのような状況を想定していらっしゃるのでしょうか。
§16Masazumi Wakatabe
まず、米国の長短金利の逆イールドが今話題にはなっていますが、このこと自体の解釈も注意しなければいけないと考えています。これは、基本的に米国の中央銀行であるFRBが行っている金融政策運営に関わりますので、具体的に現状の金利がどうであるということを私から申し上げるつもりはありませんが、一般的に言って、逆イールドであるから景気が後退するということは必ずしも正しくないということです。例えば、過去においては、物価が上がっていくもとで、その急激な上昇を抑え込むために短期金利を大きく上げていったところ、それによって逆イールド化が進んだということもあったわけですので、逆イールドになること自体が必ず景気後退をもたらすという関係はないのではないかと考えています。そのように申し上げたうえで、私の現状認識ですが、色々な意味で下方リスクが厚くなっているという感触は持っています。ただ、それを踏まえてわが国の金融政策をどうすべきかについては、金融政策のまさに判断に関わる部分ですので、コメントは差し控えさせて頂きます。また、どのようなときに先ほど申し上げたような追加緩和を考えるのかについてですが、現在の政策は、政府との「共同声明」でも謳われているように、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に達成するという枠組みの中で動いています。
§17Masazumi Wakatabe
現状においては、現在の政策で 2%を達成する、あるいはその近傍にいくと思われているわけですが、もし先行きをみても目標を達成できないと私の中で考える事態に至ったならば、やはり追加緩和ということも考慮の一端になければいけないと考えています。具体的な判断の基準となる数値をここでお示しできるものではないと思いますが、やはり、 2%の「物価安定の目標」を達成する経路が安定的に確保されているかどうかが大きな基準になると思います。もちろん、これは仮定の話でして、もしそのような事態になれば、という話であることは伝えさせて頂きます。
§18Question
講演の中で、2%への政策効果の発揮には効果的なコミュニケーションが求められるとご指摘されました。具体的なイメージとしてどういう方策をお考えなのか、例えばフォワードガイダンスのような金融政策の枠組みの中のものなのか、それとも単にそれをサポートするような日銀の情報発信の仕掛けのようなものなのか、どのようなものなのでしょうか。
§19Masazumi Wakatabe
コミュニケーションは、おそらく様々な形をとると思います。金融政策においては、最終的には家計や企業に効果が及んで、そこから物価が上がるという予想が醸成されていくことが大切です。今回の挨拶では、そのためのコミュニケーションが重要であるということを申し上げました。具体的な手段としてどういうものがあるかについては色々な議論があり、例えば、私どもが今採用しているフォワードガイダンスや、2%を安定的に超えるまでマネタリーベースを増やしていくというコミットメントもそういう手段でしょうし、他にも様々なものがあると思います。それについては不断に効果を点検しつつ、改善の努力を怠るべきではないと思います。ただ、挨拶の中では、むしろ日本銀行が今やろうとしていることのエッセンス、つまり 2%の「物価安定の目標」はやはり必要であって、それは単純に物価が上がればよいということではなく、物価が上がることが国民経済の健全な発展に資する効果があること、それを前提に日本銀行が行動しているということを、もう少し率直に国民の皆様に伝えるべきだという観点から申し上げました。これをフォワードガイダンスあるいは他のコミットメントで伝えることももちろん考えられますが、この挨拶で主に申し上げたのは、むしろ人々に対して、私どもの意図をもう少し頻繁に丁寧に説明していこうということです。
§20Question
先ほどの質問と被るのですが、副作用への対応と追加緩和というのが最近のテーマになっております。黒田総裁も講演の中でおっしゃっているように、景気悪化懸念も指摘される複雑な経済・物価情勢の中にあって、舵取りが日銀としても非常に難しくなっていると思うのですが、その中でどう舵取りを行っていくのか、お考えをお聞かせ願えますでしょうか。
§21Masazumi Wakatabe
舵取りがいつの時点と比較して難しいかはなかなかお答えするのが難しいですが、一般的に言って金融政策の運営が色々な課題を抱えていることは言うまでもないことだと思います。今、私どもは 2%を目標に金融政策を行っていますが、デフレではない状況には達したものの、2%には達していません。こうした中で、様々ないわゆる副作用の議論も出てきていますので、現状が非常に複雑にみえているというのはその通りだと思います。しかし、中央銀行は、法律にも書かれているように物価安定の責務を負っているわけですので、その責務を全力で果たすしかないと思います。具体的な手段や方策はその時々で適切に考え、この現状にチャレンジしていくしかないのではないかと考えています。
§22Question
講演では、需給ギャップが改善しても賃金・物価がなかなか上昇しない可能性は否定できない、予想物価上昇率も高まらない可能性があるということですが、物価下落時における予想物価上昇率の感応度が物価上昇時と比べて大きいということからすると、現状はやはり相当シリアスに物価下落のリスクをみられている印象があります。先程、2%への道筋が揺るがされれば追加緩和というお話がありましたが、現状でも既に、物価がなかなか上がらない可能性を否定されていません。この点をもう少し詳しくお聞きしたいと思います。
§23Masazumi Wakatabe
現状において物価がなかなか上がらないということは、私だけの意見とは考えていません。むしろ、これは日本銀行の公式見解といいますか、一致した見解ではないかと思います。そのうえで、中心的なシナリオについても間断なく点検と注意をしていかなければいけませんが、私自身が下方リスクを特定の何かと比較して更に重くみている、深刻にみているということではありません。今回の挨拶の趣旨は、基本的には原点に立ち戻るということです。デフレではない状況にはなっているけれども、2%には遠い、そうするとどうしても下押し圧力があった時にデフレに戻ってしまう危険性があるということを再確認したということです。そのこと自体は、それほど合意から外れていることはないと思います。
§24Question
先ほど、講演でも記者会見でも、物価安定そのものではなく、国民経済の健全な発展こそが重要である、究極の目的であるとまさにおっしゃっています。一方で、2%の達成はできるだけ早くということで、2%の重要性も講演ではかなり触れているわけですが、副作用論のようなものがかなり高まってきている中で、果たしてこの 2%をどのように位置づけて、金融政策を判断されていくお考えなのか、両者をどのように両立させていくのかをお聞かせください。
§25Masazumi Wakatabe
まず、国民経済の健全な発展に資するために物価の安定が必要だということは、私自身は歴史的にも理論的にも明らかだと考えています。挨拶の中でもお示しした通り、15年、人によっては 20年という長期にわたって低成長とデフレが続きましたが、15年程度も続いたというのは世界的にみても極めて異例なわけです。その意味でいうと、日本銀行がやろうとしていることは、世界各国で標準的に行われている経済運営の姿に戻っていくことであり、広い意味でこれは日本経済が正常化していく姿だと考えています。金融政策は、日本経済を後押しして、こうした姿をできるだけ早く実現するように、2%を「物価安定の目標」として運営していくことで全く変わりません。そのもとで、いわゆる副作用の問題をどう考えるかですが、私自身は現状で金融政策が生み出している成果は様々あり、成果があるからこそ経済全体がよくなっているという確信を持っています。いわゆる副作用が急激に大きくなって、金融仲介機能が急激に機能不全に陥るということが起きると、確かに金融政策を伝達する経路に大きな支障が生じることはあり得ると思いますが、その可能性は現状においては極めて低いと考えています。金融機関をみても、いわゆるコアの収益は減少傾向にありますが、全体としては充実した自己資本を備えています。
§26Masazumi Wakatabe
いわゆる副作用については、間断なく点検するつもりですが、現時点においては、2%の達成における支障になっているとは考えていません。
§27Question
消費増税の影響についてお伺いします。日銀の試算は広く知れ渡っており、副総裁は今日の講演の中でもリスクの一つだとおっしゃっていたのですが、来年の消費増税がどのようなリスクを経済・物価に生じさせるのかをもう少し詳しく教えてください。また、もしリスクが顕現化した場合、やはり先ほどの話に戻りますが、追加緩和が必要になるのかどうか、今の時点でどのようにお考えでしょうか。
§28Masazumi Wakatabe
消費増税は、展望レポートでも経済・物価へのリスク要因として挙げていますので、私だけが強調しているわけではありません。実際に、2016年9月の「総括的な検証」でもお示ししたように、原油価格の下落や新興国経済の不調だけではなく、前回の消費増税の影響があったことは確かです。来年の消費増税は、税率の引き上げ幅が前回よりも小さいほか、軽減税率の導入等、増税の負の影響を緩和する措置が多々なされていることを勘案すると、ネットの家計への負担は小さくなるだろうという考え方はあると思います。ただ、人々の物価の予想に対する影響や金融市場におけるセンチメント、人々の支出意欲といった部分にどう影響していくかは、現状においてもやや不確実なところがありますので、この点は間断なく点検しなければならないと思います。追加緩和が仮にあり得るとすれば、これは先程来の話の繰り返しですが、できるだけ早期にという条件のもとで、2%の「物価安定の目標」が達成されていく見通しがどの程度揺らぐかによると思います。それが必ず揺らぐとも言えないし、揺るがないとも言えないというのが、現時点での私の判断です。以上