原田審議委員記者会見(2019年3月6日)要旨
Full text
§1Question
山梨の印象と山梨県内の経済状況について、お伺いできればと思います。加えて、今後の山梨の経済の見方、見通しというものについてもお伺いできればと思います。最後に、今日の午前中の懇談会の中で、出席者の方からどのような意見、どのような要望が聞かれたのか、少しお伺いできればと思います。
§2Yutaka Harada
まず、山梨県経済に関する印象ですが、山梨県は、情報化社会の進展に伴い、今後も需要の拡大が期待される、高い技術力を持った企業が集積しています。また、日本一の生産量を誇るぶどうや桃に代表されるように農業も盛んな地域です。更に、首都圏に近接し、富士山をはじめとする豊かな自然で観光業も活発です。このように、強みを持つ各産業がしっかりとスクラムを組んで県内経済を押し上げているとの印象があります。県内経済の現状については、全体として緩やかな拡大を続けています。すなわち、製造業では、米中貿易摩擦の影響などから一部の先で受注が減少していますが、全体では高水準の生産を維持しています。こうした状況を背景に、幅広い業種で省人化投資や能力増強投資に踏み切る動きもみられています。県内経済の先行きについては、中部横断自動車道の山梨・静岡間の全面開通やリニア中央新幹線の開通といった大きなイベントを控え、海外経済が着実な成長を続けるもとでインバウンド需要の増加も期待されるなど、今後も緩やかな拡大を続けていくとみています。次に、午前中に開催された金融経済懇談会での出席者の方々からのご意見・ご要望ですが、山梨県の各界を代表する方々から、地域経済の現状や課題、日本銀行の金融政策運営に対する大変貴重なご意見を頂きました。大変有益かつ示唆に富む意見交換ができたことについて、改めて感謝を申し上げたいと思います。
§3Yutaka Harada
懇談会で話された内容については、多岐にわたって多くのお話を頂いたので、全てを網羅してご紹介することはできませんが、私なりに席上で聞かれた話を整理して申し上げたいと思います。まず、山梨県経済の景気については、製造業は依然高い生産水準であるほか、外国人観光客の増加を受ける宿泊業等のインバウンド関連企業でも好調が続いているという声を伺いました。一方で、海外からの旅行客の消費を十分に取り込めていない、特に一人あたりの消費額が低いとの声が聞かれたほか、建設関連では、公共事業の減少に伴って厳しい環境が続いているとの声も聞かれました。当県の地場産業である宝飾業等でも、経営環境の悪化を訴える声も聞かれました。ただし、宿泊施設の稼働率にはまだ伸び代があるほか、中部横断自動車道の開通やリニア中央新幹線の開通といったインフラ整備が、建設関連のみならず、インバウンド需要を一層拡大させる追い風になるとのご意見も頂きました。また、製造業や観光業において、海外対応ができる企業になる必要があるとの決意も伺いました。このように、出席者の皆さまから県内経済の更なる拡大を期待する前向きな声をお伺いしたのは、非常に印象的でした。本行の金融政策についても、低金利と、結果としての為替の安定が、観光業や地方の一部の中小企業にまで利益をもたらしているとの声も伺いました。
§4Yutaka Harada
また、人手不足を指摘する声が数多く聞かれましたが、一部の製造業では雇用調整の動きがある中、観光業では極度の人手不足であり、ミスマッチの問題が大きいと感じました。このほか、地域金融機関の経営動向について、当地では全国対比で預貸率が低い中で、金融緩和政策が継続していることもあって、預貸利鞘の悪化につながっているとのご指摘があり、今後の金融政策運営において、地域金融機関の収益状況にも配慮して頂きたいとのご意見もありました。私どもは、中央銀行の立場から物価安定のもとでの経済の持続的成長を実現していくことや、金融システムの安定性を確保することを通じて、当地関係者のご努力がより大きな成果へとつながっていくようサポートして参りたいと思っています。
§5Question
2点、お伺いします。1点目は、様々なリスクが顕現化した場合には、「遅滞なく追加的な金融緩和をする」必要があると挨拶要旨で述べられていますが、どういうリスクかによって、とり得る緩和の手段は変わるかもしれないのですが、とりわけ予想物価上昇率が停滞してしまい、物価上昇達成が遅れてしまった場合、そういうリスクの顕現化にはどのような追加緩和手段が有効なのかお聞かせください。2点目は、消費増税の影響については、注意が必要だということだと思うのですが、仮に消費増税の悪影響で景気が停滞してしまった場合、あるいは他のリスクで日銀が金融緩和をしなければいけなくなった場合、財政はどういう役割を果たせるとお考えでしょうか。
§6Yutaka Harada
まず、リスクの顕現化については、予想物価上昇率の低下をリスクの顕現化と挙げておられますが、私は予想物価上昇率を判断することは、明確な指標がなく、なかなか難しいため、むしろ、景気の悪化の顕現化、あるいは、物価上昇率の一時的でない低下をリスクの顕現化だと考えています。景気の悪化と物価のモメンタムをどう考えるのかについては、この指標だけで判断できるというものではありませんので、様々な指標を総合的にみて考えるということだと思います。それから、どういう手段があるのかということと、2点目の質問の消費増税による景気の悪化に対して、財政をどう考えるのかということとは重なるところがあると思います。これについては、あくまでも景気悪化、物価上昇が望めないということであれば、必要な政策手段をとるということだと思います。リスクの顕現化の種類と政策手段とは必ずしも結び付いているとは思いませんが、手段としてはこれまでもお話ししてきましたように、「質」・「量」・「金利」の3つの次元を十分に考えて行いたいと思います。消費増税による景気の悪化についても同じことです。それに対して財政がどう動くのかということについては、政府がお考えになることですので、私からコメントすることは差し控えたいと思います。
§7Question
様々なリスクが顕現化した場合について、最近、景気が後退局面に入ったのではないかというような観測も出回るぐらい指標が悪化しているという状況ですが、こうしたリスクが顕現化する可能性はさらに高まってきているとお考えでしょうか。
§8Yutaka Harada
直近のデータをみますと、確かに落ちていることがあるわけですが、その状況が今後とも続くのかというと、必ずしもそうは言えないと思います。例えば、中国のデータも──挨拶要旨で引用しているデータがありますが──非常に下がった後、また大きく上昇するような動きをしていまして、一進一退のデータの動きから判断することは難しいです。下方リスクが高まっていることは事実だろうと思いますが、今、景気後退になると考えているかというと、そうではありません。
§9Question
「遅滞なく追加的な金融緩和」というお話だったのですが、「遅滞なく」という言葉をつけたことにはどのような意味合いがあるのでしょうか。
§10Yutaka Harada
「遅滞なく」というのは、本当に景気が悪化して物価のモメンタムが失われるような状況があればすぐやります、いつまでもだらだらと待っているということではない、ということを言っているだけです。
§11Question
それは、追加緩和に消極的なお考えの他の委員がいらっしゃるということでしょうか。
§12Yutaka Harada
いや、それはなくて、どういう政策を打つかというのは、政策委員会で討議のうえ決めるわけですが、景気の悪化に対して金融政策で対応しなければいけないということについて、委員の意見の不一致があるとは考えておりません。
§13Question
当県の経済情勢についての質問となりますが、先週、駅前の老舗の百貨店が今年9月に閉店すると発表をしまして、立地から考えても県内経済への影響は大きいかなと懸念されている状況があるのですけれども、それに関して、もしご見解があれば教えて頂きたいのと、出席者の当県の代表者の皆さまからもそのような声があったかというところも教えて頂きたいと思います。
§14Yutaka Harada
私は山梨の個別の商業の状況をよく理解しておりませんので、百貨店の閉鎖について十分なことを言うことはできないのですが、一般的に言えば、地方の商圏が郊外に移り、駅前が衰退しているというのは多くの都市でみられることですので、そういうことかと思います。ただ、私の印象では、アーケードのついた商店街等は、まだ活力を持っているのではないかと感じました。個別の企業についての出席者からの発言は、あったとしても言わないことになっていますが、一般論として言いますと、当地の商業の状況についての発言は無かったと記憶しています。一般的に、生産、製造業の話と、観光業の話が多かったです。
§15Question
金融機関の経営についてお伺いしたいのですが、挨拶要旨の中で、金融機関が困っている根本的な原因は、借りる人がいないのにお金が集まっていることだと、つまり在庫にあたる預金が多すぎるのではないかというご指摘だと思うのですけど、これに対して金融機関は具体的にどういう対応をすれば良いか、預金の制限みたいなことがあり得るのか、ご見解をお聞かせください。
§16Yutaka Harada
これはマクロ的な問題を指摘したわけであり、個別の金融機関の経営について、私からどうこう言うというのは差し控えたいと思います。そのうえであえて申し上げますと、全体でそうなっているということは個々でもそうなっているということですから、それは個々の金融機関としてお考えになっていく、またお考えにならざるを得ないと思っています。
§17Question
消費増税の影響についての質問となります。景気後退になる可能性があるということですが、これは消費増税をいっそ止めてしまった方が良いということもお考えになっているのか、それとももっと政府が対策を行っていくべきとお考えなのか、お聞かせください。
§18Yutaka Harada
まず、消費増税によって景気後退になるとは考えておりません。前回の消費増税の際にも、順調に成長していた景気が一時的に悪化したことは事実ですが、私自身はそれを景気後退とは考えていませんし、政府の景気後退を認定する研究会においてもそのように認定していません。前回の消費増税に比べて、今回の消費増税の影響が小さいだろうというのは、数字的に事実だと思います。ただ、前回も非常に小さいと言っていたエコノミストは多かったのですが、小さくはなかったので、今回も、前よりは小さいだろうけれども、やはり大きな影響はあるかもしれないと述べたわけです。消費増税については、政府が、財政再建と、政府にとって必要な支出の財源を得るためになさっていることですので、私の立場からそれについてどうこう言うということはありません。
§19Question
金融緩和政策と銀行経営のチャプターのところで、日本経済全体に良いことが起きている中で、「それが金融機関にはやって来ないというのは妙なことだ」というふうにおっしゃっていますが、その原田委員の理論を敷衍していくと、銀行はみんなハッピーだということになるような気もするのですが、実際には、地銀協などが公の場で、いわゆる慢性的なストレス、いわゆる利鞘の問題のことを言われていて、何か少し食い違いがあるような気がするのですが、改めて副作用についての考え方を教えてください。
§20Yutaka Harada
全体で良くなっているわけですから、個々も良くなってもおかしくないのではないかということを申し上げたわけです。そのうえで、なぜそうなってないのかと言いますと、色々問題あるとは思いますが、貸出が増えているけども、預金がそれ以上に集まってしまっていることが問題だということになります。普通のビジネスであれば、売れないものは仕入れないと思うのですが、仕入れざるを得ないからこうなってしまうのだと思います。この点ついて、各金融機関の経営について私からどうこうと言うことはありません。普通の商店であれば、売れないものは仕入れないのだから、やはり何か工夫されることが必要なのではないかと申し上げたということです。
§21Question
そうすると、個々の経営に対してではなく、一般論で結構ですけど、そういう状況があって、預貸率が改善しないのであれば、銀行は預金を集めることをある程度絞るような対策を考えていく方が合理的ではないかとお考えでしょうか。
§22Yutaka Harada
一般論で言えば、その通りだと思います。
§23Question
やや長い先行きを展望すると、山梨県は全国を上回るテンポで人口減少が進むという文章が挨拶要旨に入ってくると思いますが、この長期的な展望の中で、今日の懇談会の中で、どういうところが人口減少を懸念として話されたのかということと、それを改めて乗り越えて経済成長するためにはどういうところが必要になってくるのかについてお聞かせください。
§24Yutaka Harada
本日の皆さま方のお話の中では、人口が減っているから人手不足なのですが、その中でどう成長していくのかは、やはり海外の成長を取り入れることが必要だと伺ったと思います。これは私の考えですが、今まではなぜ地方に人が行かないのかというと、地方に仕事が無いからだと言われてきたわけですが、今は、もちろんミスマッチはあるのですが、全体としては人手不足で仕事はあるのだから、あとはその仕事を求めて人が来ればよいということになるのではないかと思います。この点については、今朝の懇談会というわけではないのですが、非常に暮らしやすい地域であるので、暮らしやすさを更に高めるような方策をとれば、人は来て、仕事はあるのだから、そこで定住して人口が増えることは可能なのではないかと多くの山梨の方が言っておられました。
§25Question
消費増税が行われると、山梨県の観光に対するダメージというのは、他の県に比べて大きいのではないかという感じがします。また、米中貿易摩擦の電気機械とか生産用機械に対しての影響も、他県に比べて大きくなってしまうのではないか、それからインフラ網の整備、リニアとか中部横断道が整備されれば、逆にストロー現象によって人が減ってしまうのではないかという声も聞くことがあるのですが、それをどう考えるか、打開するには何か方策というのがあるのでしょうか、それをお聞かせください。
§26Yutaka Harada
私は、山梨県の固有の問題について、詳しくないわけですが、消費増税の影響が特に山梨県で大きいと悲観的にお考えになることはないのではないかと思います。キャッシュレスの支払いの方策について、山梨県は他の県よりも遅れていて、それが観光のネックにもなっていると伺ったのですが、消費増税に関連して色々と考えられているポイント還元は、キャッシュレス支払を導入する良いチャンスです。キャッシュレス支払が導入できれば、当地での観光客の支払い額も大きくなりますので、むしろキャッシュレス化を進める良いチャンスなのではないかと思います。それから、消費税が上がっても海外からの観光客は多くが免税になりますので、それがインバウンド観光を抑制する要因にはならないのではないかと思います。以上