Press conference by Board Member Sakurai (May 30, 2019)
櫻井審議委員記者会見(2019年5月30日)要旨
Full text
§1Question
本日の金融経済懇談会では、どのような議論がなされたのかということ、静岡県の金融経済情勢について、どのように認識されているか、以上2点についてお聞かせください。
§2Makoto Sakurai
本日は静岡県を代表する経済界・金融界の皆様、また川勝知事もご来席賜りまして意見交換をいたしました。本日の議論の中で印象的だったのは、大変前向きな話が多かったという点です。これはやはり、静岡県が日本の中でも生産拠点としてのベースが非常に強いということや、広い県内各地域において、産業にバラエティがある中で、各産業における新たな展開など、前向きな議論をすることができました。当地を訪問する前は、足もとの景気は深刻なのかなと思っていたのですが、むしろ中小企業でも景気は比較的横ばいとおっしゃられていたのが印象的でした。また、経済界・金融界の皆様からそれぞれご意見を伺いましたが、一番印象的だったのは、やはり人手不足が大きな問題であるという点です。ただ、人手不足に対しても、色々な対応策を前向きに考えており、時間をかけて、しっかり対応していきたいといったお話がありました。皆様からは、異口同音に生産性を上げていくことが重要、というお話があって、設備投資や、あるいはそれに対応する色々なITだとか、 IoTやAIの積極的な活用など、今後の方向性を探ろうとしておられました。この点、政府の支援策が有効に機能しているといった話もありました。そして、金融機関の方も、そういう取り組みに協力していきたいというお話、また、事業承継の話が何人かの方からご指摘がありました。
§3Makoto Sakurai
この辺も前向きに捉えて、色々な課題はあるものの、金融機関との協力など色々なことを模索しながら進めていきたいというお話でした。金融機関の皆様からは、金融環境は非常に緩和していているといった話はもちろんあるのですが、ここでも前向きな話の方が私の印象に残りました。設備投資目的の融資が過去5年近く伸びているというお話もありました。設備投資については、製造業はさすがに足もと幾分マイナスなのでしょうが、全体としては力強く伸びているという印象でした。静岡県は日本の中でも生産拠点としての強い基盤を持っており、これをどのように維持していくか、そのためのインフラの再投資をどのように進めていくか、といった話がありました。今後のことを考えた前向きな対応が県の方でもなされているほか、各経済団体が連携しつつ取り組みを進めており、全体としてみれば静岡県は力強く成長しているという印象を受けました。
§4Question
今回のお話をお伺いして、前回の秋田、その前の前橋と比較しても、低金利の副作用に関して櫻井審議委員がさらに懸念されているような感じがします。単に日銀が金利を修正するというか、金利を上げれば済む問題ではないと思うのですけれど、景気の下振れが大きい中で、金利上げではなくて、日銀としてはその副作用を緩和する手段として何が考えられるのか、お伺いします。
§5Makoto Sakurai
まず、過去2回と比べて大きく変わった点というのは、やはり足もとの景気の状況がかなり微妙な段階になってきているということだと思います。それから、やはりこういう状況を踏まえて、今後もう少し長く金融緩和を続けなければならないということで、フォワード・ガイダンスをこの間の4月の通り、長くしました。これがある意味、時間との積分値でいえば、やはり緩和措置としては強めているというように考えられますが、そのような状況に今あるということです。そして、この4月に出ましたFSR――金融システムレポート――でも指摘していますが、やはり地方の金融機関の経営の状況というものはトレンドとして厳しくなってきています。そうした中で金融緩和がフォワード・ガイダンスの通り長くなるということですから、そこはこれまで以上にやはり慎重にウォッチをしていかないといけないと思います。金融緩和の手段としてどういうことが考えられるのかという点については、現段階ではやはりきちっとウォッチしていくということがまず大事です。10月には消費税率の引き上げもありますから、そのタイミングで経済の状況がどのようになっているのか、特に日本よりも海外の経済状況がどのような展開になっているのか、まず慎重に考えなければならないということだと思います。その上で、必要があれば色々な手段を考えていくことになるのだろうと思います。
§6Makoto Sakurai
これは、既存の枠の中にとらわれないで、色々なことを工夫していくということも含めて、既存のものも含めて、その時点で考えていくということだろうと思います。
§7Question
2点あります。まず4月の決定会合で展望レポートが出された後、ゴールデンウィークの最後の方に、米中貿易摩擦が激化して今に至るという状況かと思います。現時点で、先行き不透明ではあると思うのですけれども、日銀として、あの時に出された経済であったり、物価の先行きのシナリオを見直す可能性、見直す必要性がどのくらいあるとお考えなのか、というところをまず1点お聞かせください。もう1つはそれに絡んで、足もとで、今株安、金利低下ということで、いわゆるリスクオフというものが進んでいると思いますけれども、これが実体経済にどのような影響を及ぼしうるのかとか、日銀の金融政策の追加緩和といった話も含め、政策対応にどのようなことが今後考えうるのかというところについても、現時点のお考えをお聞かせください。
§8Makoto Sakurai
1点目については、前回の展望レポートを出した後、5月の初めから、米中間の貿易問題に少し新たな展開が出てきており、不確実性が高まったということがやはり一番大きいと思います。その点を除きますと、あとはやはり、指標をどのようにきちんとみていくかということに尽きるのではないかと思います。そういう意味では、指標がもう少し時間をみないと分からないというのが率直なところです。既に展望レポートでも指摘したことではありますけれども、やはり中国の景気対策の執行段階が進んでいますので、今後の展開やどのような効果が現れてくるのか、今後みていかないといけないと思います。一番大きな点は、なんといっても冒頭に申し上げた通り、不確実性がやはりある程度高まっているということは事実であろうというように考えているということです。それから、2点目のご質問の、足もとの株安、リスクオフということですけれども、株価はかなり短期的にも変動致しますし、色々なニュースに反応するということもありますので、トレンドとしてどのようになっていくか、という点は中々読みにくいと思います。現に、最近でいえば、昨年の11月から年明けにかけても色々な動きがありましたし、その後またそれが収まるということで、色々な動きがありますから、その辺をもう少しある程度慎重にみていくということだと思います。
§9Makoto Sakurai
また、幾分株安は進んだとはいえるかもしれませんが、例えば為替レートなどはほとんど動いていないということもありますし、その辺も含めて全体に丁寧に指標を慎重にみていくということに尽きるのではないか、と考えています。
§10Question
副作用のところをウォッチしていくことに尽きるのかもしれないのですが、国債の金利が低下してきていて、昨日なども10年物金利がマイナス0.1%を付けました。イールドカーブの形状をみると、YCCを導入した時くらいまでフラット化しており、これはやはり副作用とも関連はあると思います。今の時点で櫻井審議委員は、どの程度フラット化、イールドのフラット化が副作用を増長することについて、どの程度懸念されているのか教えてください。
§11Makoto Sakurai
2016年9月にYCCを導入する前の状況というのは、やはりかなり金利が下がっており、その状況に近づいているというのは、その通りだと思います。ただ、YCCの導入後、特に昨年7月のフォワード・ガイダンスを導入した時に、10年金利の変動幅を拡大しており、現在のところ、そこの範囲内に収まっているので、しばらくは様子をみるということかと思います。長期的に考えて、やはりある程度正常なイールドカーブの形状というものはあるかと思いますから、そこは考えなければならないと思いますが、現状はこういった状況なので、当面は慎重にウォッチしていくということに尽きるのかなというように思っています。それから、副作用についてですが、もちろん、さらなる金利低下がさらに進んでしまうということになれば、当然副作用の問題についても考えなければいけないですが、現在のYCCの中での一応の変動の幅の中には入っているということなので、そこの中に入っているということであれば、特段大きな副作用のことを現時点で何か考えなければならないかというと、そこまでではないかと思います。ただし、ある程度の期間が経って、もう少し色々な形で金利が変動してもらってもいいかなという感じは持っています。
§12Question
講演の中で、追加緩和の弊害として金融システム面への副作用を挙げていました。同じく講演の中で述べられていました、日本経済の構造変化を踏まえた場合ですが、追加緩和による、経済・物価面への直接的な弊害というものも考えられるのかどうか、つまり、さらなる需要拡大とか景気刺激策による弊害というものについて、櫻井審議委員がどのようにお考えかご所見をお願いします。その関連で、櫻井審議委員が想定する追加緩和が必要となるケースというのはどのような情勢なのか、現時点でのお考えをお聞かせください。
§13Makoto Sakurai
最初の副作用の点ですけれども、確かにその副作用は現在のところ、やはりFSRなどで新たに分かってきたこととして、過去のリスクとは、相当違うリスクになってきているかなという感じがします。1つは、やはり現在の需給ギャップがプラスの状況で、私どもは、もう少し、それが物価に反映されるかと考えていました。これは講演の中でも申し上げた通りで、その中でやはり生産性の上昇とか、色々な要因が入ってきて複雑化してきているということで、その中でさらに追加緩和をやる必要があるだろうかとなると、そこは慎重に考えた方が良いのではないかと、現時点では思っています。副作用のリスクについては、今回のFSRでレッドマークが付いた項目が1つ出てきているのですけれども、例えば、資産価格だとか土地の価格が暴騰するというようなことではなくて、むしろ、そうでない形の色々なリスクがたまってきている可能性が高いです。例えば、金融機関側の方がリスクを抱えつつあるかもしれません。従って、今までとは違う観点から広く慎重に副作用の問題も考えていく必要があるのではないかと考えています。それから、追加緩和の必要性については、先ほど申し上げた通り、現時点では必要ないのではないでしょうか。
§14Makoto Sakurai
もう少しウォッチする必要があって、これで景気の状況がまた一段と新たな展開をみせたときに、そこはやはり考える段階が来るのかもしれないし、あるいは来ないかもしれない、ということかと思います。では、どういった段階において必要になるかというと、それは、はっきりとデータ・ディペンデンスで景気後退の懸念が強くなったときには、これはやはり、色々なことを考えていかないといけないと思います。その意味では、現段階では、そこまではきていないのではないか、もう少し様子をみる段階ではないかと考えています。
§15Question
最初の方の段階で、必要なら色々な手段を考えて、既存の枠組みにとらわれずということを含めて、必要なら色々な手段を考えていくという、これについて質問は、副作用対応ということだったので、副作用に対応するためということなのか、追加緩和ということも含めてなのか、その辺を少し確認させていただいてよろしいでしょうか。
§16Makoto Sakurai
これは両方ということだと思います。もちろん、副作用のことはこれまで以上に考えなくてはいけなくなってきています。これは、半年ごとにでるFSRが毎回厳しくなってきているという認識がありますから、そこは考えていかなければいけません。それからもう1つは、やはり、景気の状況をみながら、ということはやはりあるだろうと思います。その際、一番重要な問題は、どちらを取るのかというジレンマに陥ったときです。その時は、バランスを考えなければいけないと思います。大変厳しい判断を迫られるかもしれませんが、現在はその段階にはないだろうと考えています。
§17Question
本日の会合の中で、副作用に関して金融機関の関係者から発言があったでしょうか。また、当面、こういう金融緩和の情勢が続く中で、審議委員ご自身のご見解で地域の金融機関に求められる役割とかあり方をどのようにお考えでしょうか。そして、静岡経済の発展のために前向きな話が本日は多かったということでしたけれども、今後必要となってくる部分、改めてお考えがあればお聞かせください。
§18Makoto Sakurai
まず、静岡県の金融機関の皆様からどんな話があったかということについては、先ほど申し上げた通り、比較的前向きなお話が多かったという印象なのですが、勿論、現在の金融緩和のもとでの厳しい状況というご指摘はありました。特に、そのような中で、例えば、適切なリスクの管理であるとか、それから今後のビジネスのあり方であるとか、そのようなことに関しても、日本銀行から色々な示唆も頂きたいとのご指摘もありまして、そこは静岡支店も含めまして、私どもも積極的に対応させて頂きたいというように考えています。それから静岡県全体の話については、ここは、ほとんど異口同音に皆様が前向きな話をされたというのが印象的でした。人手不足の問題は、ほとんどの方がご指摘になったのですけれども、人手不足をすべてネガティブに捉えているわけではないということです。それがどういうことかといいますと、人手不足になって初めて色々な対応をするようになってきている、というようなお話がありました。それから、これは直接日本銀行との問題ではないのですけれども、政府の採られている政策に関しても、新しい設備や更新の際に色々な施策も是非充実して頂きたいとのご発言もありました。従って、全体に苦しいとは言いながら、かなり前向きなお話が多かったというのが実情だと考えます。
§19Question
講演の中で、物価上昇抑制の要因を詳細に分析されていたかと思うのですけれども、企業の前向きな行動の結果、抑制されているかもしれないということでした。そうすると現状の物価の伸び悩みというのは過度に悲観すべきではないということでよろしいのでしょうか。また、2%の物価目標については、こだわらなくてもよいというような意見も出ていますが、そのあたり目標のあり方についても検討することに意義はあると思うか、お伺いします。
§20Makoto Sakurai
まず1点目の、物価に関してそれほど悲観する必要はないのか、ということですが、やはり物価目標を掲げていますので、ある程度の時間の中で達成していくということは望ましいと思いますし、その目標を掲げていること自体が、景気の状況や企業の前向きな動きとも関連してくると思いますから、そこは必要なのではないかと思います。物価は2%に届かないという状況ですけれども、そこは色々な状況が入り込んできている、その意味では 2013年の時点と、相当現在の状況は違うのではないかというように私は考えています。特に 2017年頃から、はっきりと生産性の上昇というものが見られてきていますので、それにより吸収されてしまうことで物価が上がりにくくなっている、という状況もやはり入っているだろうと思います。これは、決して悪いことではないというように私も思っていますので、目標は目標として重要なのですけれども、悲観する必要はないのではないでしょうか。問題は、現在の状況を長く維持できるかどうか、そして一歩でも、ゆっくりでもその目標に近づいていくことができるかどうかではないか、と考えています。それから目標自体をどう考えたらよいかということですが、私は2%の目標自体はそのままで良いのではないか、と思います。
§21Makoto Sakurai
これはやはり先進国全体でみてもほぼ合意している ――デファクトとしてですが―― 状況ですので、やはりそこはある程度の協調も必要かもしれないです。従って、もしそれが変化するということであれば、世界全体の協調の結果としての目標が変わっていくとか、そういうトレンドが出てくればまた変わってくるかもしれませんが、そこに大きな変化がない限りは現在のままの状況で、そう問題ではないのではないかと考えています。
§22Question
副作用についてですが、既に地域の金融機関、地銀とか信金につきましては、経営環境がかなり悪化しているというように考えています。審議委員として、今後の地銀、あるいは地域金融機関のあり方について、今のままのビジネスモデルでよろしいのかどうかについて、お考えをお聞かせください。
§23Makoto Sakurai
FSRでもここ数回指摘しています通り、地域金融機関の厳しさというのはどんどん出てきているということは、全体のトレンドとしてはっきりしていると思っています。問題は、その中でも、ある程度の数がありますから、地域金融機関の中でもかなりのばらつきがあるということだと思います。その背景には、やはり緩和的な金融環境が非常に強い中で金利が下がってきていて、それがかなり収益にも影響してきているという側面と同時に、やはり人口の減少とか、地域における企業数の減少という、はっきりとした構造的な要因を抱えているということも間違いのないことだと思います。従って、やはり長期的にはそういった構造問題をどのように考えていくか、ということが一番大きな問題かと思います。その意味で、やはりこれまでの日本の過去の6年半の状況をみると、金融緩和なり、あるいは財政との協力関係の中で出てきた結果は、物価の上昇よりも、実体経済の改善の方にほとんど効果が集中してきているような結果になっているだろうと思います。
§24Makoto Sakurai
金融緩和が続いていますし、構造的な変化も、先ほど申し上げた通り、人手不足に対応する形でプラスの変化が出てきているのですけれども、人口が減ってきているということ自体は変わっていないように思いますので、やはりそこは色々な工夫というものが必要だろうし、また政策的に、あるいは経営政策上も色々な対応、今後の構造的な変化に対する対応策というのも含めて、皆様で考えて頂きたいというように思います。以上