布野審議委員記者会見(2019年10月3日)要旨
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§1Question
本日の金融経済懇談会で、地元の経済界の方々からどのような意見・要望があったのか、また、それについて布野委員自身はどのように受け止められたかについて教えてください。
§2Yukitoshi Funo
本日の金融経済懇談会では、島根県の金融経済界を代表する方々から、地域経済の現状や課題、産業振興に向けた取組みなど多岐にわたるお話を頂きました。また、日本銀行の金融政策運営についてもご意見を頂き、大変有意義な話合いができたと思っています。この場をお借りして、ご出席頂いた皆様方に厚く御礼申し上げたいと思います。本日の懇談会では、色々なお話をお伺いしたわけですけれども、その中からいくつか選んでお話したいと思います。当地では、全国に先駆けて少子高齢化や人口減少に直面しており、これに伴う需要の減少や、人手不足を中長期的な重要課題として捉えているというお話がございました。こうした状況に対して、当県では、行政と民間が連携してUIターンを増やす取組みが行われているほか、それぞれの企業でも、設備投資や業務プロセスの見直しにより労働生産性の向上を図られているといった話をお伺いし、大変心強く思った次第です。また、観光面では、魅力的な観光資源を活かしてインバウンド客も含めた誘客増加を図っているほか、インドなど海外との間で文化・経済両面の交流を積極的に行っているというお話も伺いました。こうした前向きな取組みが、島根県経済の持続的な発展につながることを期待しています。金融政策運営につきましても、緩和的な金融環境が設備投資や住宅投資を下支えしているとのご意見を頂きました。
§3Yukitoshi Funo
一方、金融機関の方々からは、低金利環境の長期化による収益面への影響を懸念しているとのご意見も頂いたところです。日本銀行としては、こうしたご意見を踏まえつつ、松江支店を通じて、引き続き情報収集と分析を丹念に行うとともに、金融政策や情報発信を通じて島根県経済の発展に尽くしていきたいと思っています。
§4Question
島根県では、全国に先駆けて地方銀行と他業種との業務提携が進んでいます。こちらに対する受け止めとそれを踏まえたうえでの島根県経済の評価について布野委員のご意見をお聞かせください。
§5Yukitoshi Funo
個別金融機関の施策については、コメントを差し控えさせて頂きたいと思います。そのうえで、一般論にはなりますが、地域の人口や企業数が減少する中で、地域金融機関の間の競争が激化しており、このことは地域金融機関の収益性を低下させる構造的要因となっています。このため、地域金融機関にとって、収益性と経営効率性を向上させていくことが大きな課題であると思っています。こうした課題を克服するために、業務提携などの施策もひとつの選択肢になるかと思います。その場合、自らの営業基盤や収益力の展望などを踏まえたうえで、自らの収益力向上につながるかどうか、金融仲介機能の適切な発揮を通じて、顧客や地域経済にプラスの影響をもたらすことができるかどうかといった観点から、そうした施策の意義を見極めていくことが重要であると考えています。ご質問のあった島根県経済の現状につきましては、米中貿易摩擦や中国経済減速などの影響から鉄鋼、電子部品・デバイス等の生産面の弱さがみられているものの、個人消費や設備投資といった内需が下支えするもとで、全体としては緩やかな回復が続いていると認識しています。もっとも、中小・零細企業では回復感に乏しいとの声も聞かれています。また、海外経済減速の長期化が企業のマインド、設備投資などに与える影響や、消費税率引き上げが個人消費に与える影響も含めて、注意深くみていく必要があると思っています。
§6Yukitoshi Funo
そうしたもとで、地域金融機関の経営上の取組みが地域経済に貢献していくことを期待しています。
§7Question
本日の講演では、海外経済の下振れリスクについて強調されているという印象があるのですけれども、今月の決定会合で、追加緩和をするという蓋然性についてどのようにお考えでしょうか。また、緩和の手段として、あらゆる可能性が存在するというようにおっしゃっていましたけれども、具体的に日頃からいわれている 4 つの手段以外に何か手段がありうるのかどうか、そこもよろしくお願いします。
§8Yukitoshi Funo
日本銀行は、先行き「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加緩和措置を講じる方針です。そこで、するのかしないのかという点につきましては、決定会合の内容そのものですので、コメントは差し控えさせて頂きたいと思いますが、手段につきましては、短期金利の引き下げ、長期金利操作目標の引き下げ、資産買入れの拡大、マネタリーベースの拡大ペースの加速など、様々な対応があります。また、それの組み合わせとか、色々な応用であるとか、色々な形が考えられますので、私としてはそれをいわば言わんとするために、「あらゆる可能性」といった表現をさせて頂いています。そのうえで、今月の政策決定会合はそういう意味では、非常に重要な決定会合であると思っていますが、いずれにせよ経済・物価・金融情勢を踏まえて、適切に政策措置をとることが重要であると考えています。その場合、特に米中の経済がわが国経済にどのように影響するか、ということを注視していきたいと思っています。今月の政策決定会合は、10月末ですので、今暫く時間があります。その間に様々な情報が出てくると思いますので、そういった新しい情報も含めて、ぎりぎりまで点検を行って、私としては、月末の政策決定会合に臨む心構えでいます。
§9Question
先日発表された 9月の日銀短観の評価についてお伺いします。大企業製造業は 6年ぶりの低水準で、堅調であった大企業の非製造業もかなり落込んでいると思うのですが、先行きも悪化するとの見通しで、この結果をどう評価しているのかと、この結果が今後の追加緩和の判断にどう影響するのか、まずそこをよろしくお願いします。
§10Yukitoshi Funo
短観が先日発表されたわけですけれども、わが国の景気の現状につきましては、輸出・生産や企業マインド面で、海外経済の減速の影響がみられるものの、短観の結果をみましても、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、基調としては緩やかに拡大しているという判断をしています。引き続き、海外経済の減速の影響は注視していきますが、短観におきましても全産業全規模ベースの業況感は、プラスを今もって維持しています。そういう意味で、そうした見方と、私の申しました見方と概ね整合的であると考えています。引き続き、注視していくつもりです。
§11Question
今回の結果がすぐに追加緩和の判断に大きな影響を与えるというようには考えていないということですね。
§12Yukitoshi Funo
まだ、この先三週間もありますので、短観の判断のみで、ここで思考停止状態に入って、三週間飛ばして、会合に臨む考え方はございません。従って先程も申し上げましたように、引き続き、様々な集まってくる情報を真摯に受け止めながらつぶさに点検して、会合に臨みたいと考えています。
§13Question
アメリカの景気後退のリスクについてお伺いします。製造業の景況感とか、あと雇用情勢の指標が軒並み落ちていて、昨日今日とニューヨークの株式市場も結構急落していると思うのですが、アメリカの景気後退のリスクが高まっているとみているのか、その辺りの布野委員のお考えをお聞かせください。
§14Yukitoshi Funo
米国経済は、景況感が低水準であるとの情報が新たに出たということではありますが、実はこの製造業の景況感は、もともと弱めの動きをしていたものです。そういう意味で、もう一つ注目していかなくてはならないのは、やはり雇用と消費にどのような動きが出てくるかということです。こちらをみますと、現状入っている情報では、引き続き、消費者マインドに支えられて、個人消費は増加しているという状況にあると判断しています。従って、引き続き注視は続けていくものの、米国経済は現時点では先行き緩やかな拡大を続けていくと考えています。
§15Question
講演の中で何度か述べられている 2%達成のモメンタムが損なわれるような場合ということなんですけれども、布野委員からみられていて、そのモメンタムが損なわれる状況というのは、どういうような状況を想定されているのでしょうか。
§16Yukitoshi Funo
モメンタムというのは、なかなか難しい問題で、9 人の委員も色々な考え方や見方をされていると思います。私としては、物価のモメンタムは、特に、実体経済の面で物価の決まる需要と供給の形、需給ギャップがどのような状況になっているかを眼目に、モメンタムがどこにあるかということは見ていくべきだと考えています。そういう意味で、個人的には、金融市場の動き、例えば株式市場であるとか、為替の市場であるとか、こういった市場の動きにつきましては、その市場の動向がどのような経路で、どのような形で実体経済の需給に影響を与えていくかということを見据えることが重要であり、従って、その金融市場から、実体経済へ向かう経路と、その影響の程度を引き続き注視していきたいと考えています。
§17Question
今日の講演の中のご発言で、モメンタムが損なわれることが予見される場合に、それを未然に防ぐことが必要であるというご発言があったかと思うのですけれども、これの趣旨として、追加緩和として予防的であるとか、先制攻撃的であるとか、そういった予防的な緩和が重要であるというご認識なのか。そのご発言の背景について伺えますでしょうか。
§18Yukitoshi Funo
先程申し上げたことと、やや繰り返しになる面もありますが、私は、あくまでも様々な動きが、実体経済の需給ギャップにどのような形で影響を与えていくかということを見据えることが眼目だとは思っていますが、それが結果として現れる段階ではなく、その影響についての見方というのは、ある程度予見をするということが重要であると思っています。いわば、結果が出てからでは遅いという意味で、予見というように、重視する項目の一つだと思っています。そういう意味では、予防的な政策措置というものも、考え方に取り込みながら、結論を出していかなくてはいけないと思っています。
§19Question
金利動向について、二つ質問があります。一つは、長期金利についてですが、1日の長期金利は、1日に急上昇しました。足許は再び低下していますが、この背景をどうみていらっしゃるのか、また、金融政策への影響についても、併せてお聞かせください。もう一つは、超長期金利についてですが、日銀は常々超長期金利が低下し過ぎることに懸念を示していますが、下がり過ぎた場合の対応策はあるのかどうなのか、それについても併せてお願いします。
§20Yukitoshi Funo
まず、長期金利が上がって下がったということですけれども、これについては、何が影響しているかということを個別に取り出して議論することはなかなか難しいのですが、基本的に現段階で、これを動かしているフォースというのは、海外発のフォースであると思っています。もちろん海外の金融政策が変わったということも背景にありますし、それに加えて、米中の交渉の動き、更にその動きを想定する様々な見方といったものが、目下、影響を加えているとみています。次に、超長期金利についてですが、超長期金利は当然のことながら、下がり過ぎるのは基本的に色々な意味で、マインドも冷やしますし、良くないことだと認識していますが、具体的にどのような政策をとるかについては、差し控えさせて頂きたいと思います。
§21Question
海外経済なんですけれども、従前は持ち直しの時期について、本年の後半から来年にかけてということだったのですけれども、今、持ち直しの時期について後ずれが懸念されていますけれども、布野審議委員は、この海外経済の持ち直しのタイミングについて、底入れのタイミングとしていつ頃だと思われますでしょうか。
§22Yukitoshi Funo
持ち直しというのは、過去 1年ぐらい振り返りますと、既に現時点で、経済の成長加速への戻りが起こる想定をしていたので、後ずれしているのは事実だと思っています。そのうえで、いつ反転するかということについては、やはり現時点では見通せていないと考えています。では、何が戻りのターニングポイントになるかということについては、やはり米中の通商交渉がどのような形で進展してくるかというのがトリガーの一つだとみていますので、私としては米中通商交渉の動きを注視しています。
§23Question
山陰の金融機関の店舗戦略についてお伺いします。今、山陰の金融機関では店舗の統廃合を進めていまして、各行の中期計画でもかなりのボリューム感で店舗の統廃合を進めるということなのですけれども、ともかく当地は、高齢者が多いですし、しかも、過疎化が進んでいる町村では金融機関の店舗が一つしかないといったところもあって、そのような典型的な例として、昨年、鳥取銀行が鳥取県の日南町支店を移転したことに対して、地元の町長が反発をしまして、鳥取銀行に預けている町の預金を全額解約するというような事例もあったのですけれども、事程左様に、この地方ではまだまだ金融機関の店舗の重要性は利用者にとって非常に根強いものがあるということです。しかしながら、その一方で、銀行側としては、来店者も減っているし、店舗の必要性は相対的に低下しています。店舗の統廃合については、個々の金融機関の経営判断の問題なのですけれども、当地の地域の実情からすると、まだまだ金融機関の店舗の重要性は失われていないと認識しています。そのうえで、山陰の金融機関が進めている店舗の統廃合について、日本銀行としてどのように評価をしていらっしゃるのか。やはりこれだけ収益環境は厳しいですし、ダメージも負っています。
§24Question
そういった状況の中で、経営のコスト削減のために、店舗の統廃合はやむを得ないのか、あるいはやはり両者の視点に立つと、頑張るところまで頑張れというスタンスを維持すべきか、そこら辺の判断・評価はどうでしょうか。
§25Yukitoshi Funo
今のご質問は、個別の金融機関の個別の施策と深く関係するところですので、個別金融機関の施策という意味ではコメントは差し控えさせて頂きますが、先程のご質問でお答えしたように、それぞれの金融機関が自らの経営判断として、収益向上につながるかであるとか、それからもう一つ重要なことは、消費者といいますか、お客様の利便性とどう折り合いをつけるかということは、まさに個別金融機関の経営問題そのものです。私の個人的な経営の考え方からしますと、企業の経営というのは、金融機関も含めて、関係する様々な従業員、お客様、そのほかに株主、そういった様々なステークホルダーの利害を調整していくプロセス、メカニズムをどのような形で発揮していくかというのが、まさに個別企業の経営判断そのものですので、その辺りをよく判断されて、進められることが必要です。先程の答えと同じですが、少し言葉を足してご説明差し上げるとそういうことです。そのうえで、最後に、1 点だけ付け加えさせて頂きますと、その時にステークホルダーの様々な方とのコミュニケーションは非常に眼目のところです。
§26Yukitoshi Funo
ですから、例えば、会社の都合ないしは経営的な、利益を上げるという観点から、例えば、統廃合が必要だと考えられた場合、これは正論だから、お客様との説明はそこそこで良いのではないかという考え方は、全てのステークホルダーの方々に関与しつつ経営していく、という姿勢では必ずしもないと思います。やはり実行するには徹底的なコミュニケーションを心掛ける、ということが非常に重要なことであると思っています。
§27Question
消費増税が島根県の経済に与える影響と今後の見通しについてご意見をお聞かせください。
§28Yukitoshi Funo
消費増税については、色々な意味で、今始まったばかりでどのような形の結果が出ているのかについては、まだ見極めるには時間が不足している段階にあると思いますが、島根県が日本全国との関係において、特別にどうかという状況では必ずしもなく、全国的な状況を映した形で島根県経済でも発現しているといいますか影響が出てくる状況にあると思っています。そのうえで申し上げますと、日本銀行の 7月の展望レポートでも書いておりますが、今回の消費税率の引き上げは、前回よりも影響も含めて小幅のものにとどまるだろうと判断をしています。従って、先程、金融政策決定会合のスケジュールについて月末と申しましたが、まさに始まってこの 1 か月で、どのような影響が出てくるかということについては、クリティカルな判断のステージにあると考えていますので、私としては注視していきたいと思っています。
§29Question
先程の件で確認を含めてさせて頂きたいのですけれども、島根県の金融の情勢の件で、「一般論として業務提携も一つの選択肢」とおっしゃったのは前向きに捉えてらっしゃるというように理解してもよろしいでしょうかということと、全国でも地方銀行の再編は進んでいるかと思うのですけれども、その中で今回の動きはどういうような位置づけといいますか、どうとらえておられるかを伺いたいです。
§30Yukitoshi Funo
先程申し上げましたように、それぞれの経営事業体で自主的に自立的に判断していくことが必要だと思っていますので、それで言い尽くしているわけですけれども、あえてご質問の趣旨を踏まえてお答えしますと、釈迦に説法になりますが、ダーウィンだったか、ようするに変化するものが生き延びる――強いものや賢いものが生き延びるのではなく、変化するものが生き延びる――という言葉に言い尽くされています。やはり、様々な状況に対処して様々な変化を検討し、模索して経営に取り組まれるという姿勢は非常に重要なものであると思います。そういう意味で、結果論としてどうかということよりも、そうした形で新しい変化に応じて対処して新しい取組みを取り組んでおられるということについて、私は一人の経済人として、尊敬したいと思っています。以上