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Bank of JapanPress conferenceNov 5, 2019Haruhiko Kuroda, Governor

総裁記者会見(2019年11月5日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

先程の懇談会で、経済団体のトップの方たちのご発言を踏まえて、東海経済についての評価を教えて頂けますでしょうか。

§2Haruhiko Kuroda

本日の懇談会では、この東海地区の経済界、金融界を代表する方々から、経済の現状、直面する課題などについて、率直かつ貴重なお話を伺い、そのうえで日本銀行の金融政策運営に関するご意見・ご要望も頂きました。大変有意義な意見交換ができたと思っておりまして、この場をお借りして改めて御礼申し上げたいと思います。東海地区の経済全体については、一方で慎重な見方が多かったと思いますが、他方で、企業の設備投資や家計の消費など足許の内需はかなり底堅いということでした。ただ米中貿易摩擦をはじめとして、懸念事項が山積しているというお話を伺いました。この東海地区は、輸出製造業の比重が高いわけですので、海外経済減速の影響を、注視する必要があるということであろうと思いました。それから、自動車業界における100年に一度の大変革をはじめとする、様々な構造変化に対して、中長期的な観点から、着実な取組みを続けられているというお話を伺いました。企業経営者の皆さまがこうした環境変化に対して、しっかりとした意識を持たれて、強力なリーダーシップを発揮されていることが、この東海経済の力強さにつながっていると改めて感じました。

§3Haruhiko Kuroda

最後に、日本銀行の金融政策運営については、東海地方独特ということでもないと思いますが、経済情勢に応じた機動的な政策運営を期待しているということでありましたので、私どももこうしたご意見を参考にしながら、引き続き適切な金融政策運営に努めていきたいと思っています。なお、東海地方の経済の現状については、一部に弱めの動きがみられますが、内需は堅調であり、全体としては、拡大を続けていると判断しています。振り返ってみますと、私どもの名古屋支店が、東海地区の景気判断を拡大に引き上げてから丸 2年経ちます。最初の 1年は、機械設備や労働力の不足といった供給制約をいかに克服するかが課題だったわけですが、その後の1年は、海外経済の減速が続く中で、需要をいかに獲得していくかが課題になっていると感じました。東海地区の企業はこれまでのところ、非常に高い市場分析力とそれに裏打ちされた機動力を発揮して、海外経済減速によるマイナスの影響をしっかりと打ち返すことができていると感じています。企業と家計とに分けてみますと、企業部門はやはり米中貿易摩擦の影響を受けて、企業マインドが若干慎重化しているようですけれども、この東海地区の企業は、高水準の企業収益を背景に、中長期的な視点に立って設備投資を着々と実施しておられ、非常に心強く感じた次第です。

§4Haruhiko Kuroda

家計部門については、全国以上に労働需給が引き締まった形で、雇用者所得が改善しているという状況が続いており、個人消費や住宅投資は増加傾向にあるということです。この東海経済についての評価としては、海外経済を中心とする下振れリスクに留意する必要がありますが、基調としては、企業部門と家計部門の双方において、所得から支出への前向きの循環が続いており、今後も続いていくと感じています。

§5Question

低金利の状況が長く続いている中で、金融機関は収益改善のために様々な取組みをされていらっしゃいます。総裁が東海地方の金融機関に何を期待されているのかについて教えて頂けますでしょうか。

§6Haruhiko Kuroda

全国的に、特に首都圏などを除きますと、人口や企業数が減少するという構造要因が、金融機関収益の下押し圧力になっているという状況がみられます。こうした中では、地域の金融機関は、販路拡大や事業承継など地元企業の課題解決を通じた金融サービスを提供する力を強める、あるいは経費構造を見直すといった経営効率の改善など、色々な形で収益力向上に向けた取組みを加速していくことが重要と考えています。この点、当地の金融機関は非常に充実した資本と、潤沢な流動性を確保しており、貸出などの金融仲介活動に大変積極的に取り組まれています。本日の懇談会でも、顧客目線を徹底した営業力を強化するもとで、海外進出あるいはビジネスマッチングなどの事業支援、あるいは事業承継支援などに注力する一方で、業務の合理化にも取り組まれていると伺いました。特にこの地域は、巨大なサプライチェーンを擁する地域であり、色々な段階での企業の後継者問題への対応が急務であり、サプライチェーンを維持・強化していくうえでは、地域密着型の金融支援が欠かせないと思われます。そういう意味で、金融機関におかれては、様々な取組みを通じて今後も、地域経済の支援を継続して頂きたいと思いますし、十分その力はあると感じました。

§7Question

欧州を中心に今、財政拡大が景気や物価の押し上げにつながるのではないかという議論が、ますます盛んになっている状況かと思います。こうした議論が、日本でも当てはまるのかどうかについて、特に、日銀内でも、財政と金融政策の連携について、そういった動き、協調を求める声が、政策委員会内の一部にもあるかと思いますが、総裁のご見解を伺えればと思います。また、マーケットの一部で超長期債の増発であったり、あるいは 50年債の新規発行、こういったものを求める声が出ているかと思います。そういったものが発行されると、超長期金利に上昇圧力がかかるので、最近日銀や黒田総裁が気にされている、超長期金利の過度な低下というものも、いったん和らげる効果があるのではないかと思うのですが、こういった動きがもっと進むべきかどうかについて、総裁のご見解をお願いします。

§8Haruhiko Kuroda

欧州経済、その中で最大規模のドイツ経済が、4~6月がマイナス成長で、7~9月も殆どゼロ成長というようなことで、欧州経済が減速している状況の中で、一方でECBを中心とした、中央銀行の大幅な金融緩和が続いています。こうした中で、財政政策の余地のある国が、財政政策を活用することが適切かつ必要ではないかという議論が、欧州の中でもありますし、先日ワシントンでありましたIMF・世銀総会の折の各種の会議でも出ていたということは、その通りだと思います。他方、わが国の場合ですが、現在日本銀行は「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」ということで、極めて大幅な金融緩和を続けており、そのもとで、経済は潜在成長率並みと言いますか、あるときにはそれを上回る成長をして、労働市場は極めてタイトになり、賃金・物価も上昇してきています。ただ物価の上昇率はまだ 0%台半ばでして、2%の目標には遠いということで、日本銀行は現在の大幅な金融緩和を粘り強く続けていくということです。先日の金融政策決定会合でも示されました通り、物価上昇率は次第に 2%に向けて徐々に上昇していくとみていますが、依然として相当大幅な緩和を続ける必要があるということで、緩和方向への日本銀行の姿勢をより明確に示すために、政策金利に関するフォワードガイダンスを明瞭化したところです。

§9Haruhiko Kuroda

そうしたもとで、仮に政府が必要に応じて財政政策を更に活用されるということになれば、当然のことですが、財政・金融のポリシーミックスという形で、より一層、財政政策あるいは金融政策が単独で行われる場合よりも、より効果が高まるということは、その通りだと思いますし、政府が必要に応じてそういうことをされた場合には、日本銀行のイールドカーブ・コントロールのもとで、非常に財政政策の効果も高まるであろうと思っています。二番目の点は、これは市場と発行者の関係であり、私から具体的なことを申し上げるのは避けたいと思いますが、従来から私どもが申し上げているのは、景気にプラスの影響を及ぼすという意味では、短中期の金利が非常に重要です。一方で、超長期の金利があまり下がり過ぎますと、年金基金や生保の収益に影響が出て、それが消費者のマインドに悪影響を及ぼす惧れがあるので、超長期の金利はあまり下がり過ぎないようにする必要があるということです。イールドカーブがあまりフラットにならないのが好ましいということで、その点は私ども依然として同じ考えです。

§10Haruhiko Kuroda

そうしたもとで、政府が例えば 50年債を発行されるとか、あるいは現在の 20年、30年、40年という超長期債の発行を増やすということが仮にあるとすれば、超長期債の金利が過度に下がることを防ぐという意味では、意味があると思いますけれども、そもそもそういう国債の発行計画や、更にはマーケットの投資者の行動次第でもありますので、私からそれ以上申し上げるのは差し控えたいと思います。

§11Question

午前中の挨拶の中で、先日決められたフォワードガイダンスに関して下方バイアスがあることを明確化されたということですけれども、これは必要があれば追加緩和を発動されるということだと思いますが、現状の政策金利のもとでも、例えば2 か月前に 10年債が-0.295%を付けていますけれども、現状の政策の水準というか枠組みの中でも 10年債金利等がそれ以上下がっても構わないということも意味されているのかどうか、お伺いします。

§12Haruhiko Kuroda

これはあくまでも政策金利のフォワードガイダンスであり、午前中の懇談会でも申し上げたように、その趣旨は第一に、従来のフォワードガイダンスを変えて、「物価安定の目標」に向けたモメンタムと明確に関連付けたということと、もう一つは、政策金利について下方バイアスがあることを明確にすることによって、緩和方向をより意識して政策運営を行っており、必要な場合には躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じるというスタンスを政策金利のフォワードガイダンスにも反映したことです。現在の 10年債の操作目標「ゼロ%程度」というものについて、「程度」はどのくらいの幅かということについて議論になった際、 ±0.1%というのはやや狭すぎるので、その倍くらいは変動しても、「ゼロ%程度」という長期金利の操作目標の解釈としてはおかしくないということを申し上げたわけであり、その点は、現在も変わっていません。少なくとも 10年物国債の操作目標の金利水準「ゼロ%程度」というものを、もちろん変えることは金融政策としてはあり得るわけですけれども、そのことと政策金利のフォワードガイダンスとは別の話であるとお考え頂いた方がよいと思います。

§13Question

総裁は従来から、追加緩和手段として、マネタリーベースの拡大ペースの加速を挙げていらっしゃいます。一方で、足許では国債買入れの減額から、マネタリーベースの伸びが鈍化しています。マネタリーベースの伸びの加速に緩和効果があるとしたら、伸びの鈍化は緩和効果を弱めると思われるのですが、仮にイールドカーブの形状が一定だった場合、マネタリーベースの伸びの加速と鈍化そのものに、効果の違いはあるのでしょうか。

§14Haruhiko Kuroda

政策金利、10年債の金利の操作目標、資産買入れプログラムの拡大、マネタリーベースの増加ペースの加速など、4 つほど挙げています。それらはいずれも緩和方向に働くわけですけれども、具体的にどの程度の緩和をもたらしているかというのは、長短金利の実質金利が、俗に言われる自然利子率をどの程度下回っているかということによって計られるわけです。従って、手段としてその 4 つを挙げていますし、その組み合わせや改善など色々なことがあり得ると思いますが、実際に経済にどの程度の緩和効果を与えているかというのは、あくまでも実質金利が自然金利をどの程度下回っているかの程度によって計っているわけです。そう申し上げたうえで、マネタリーベースの拡大ペースの加速も、そういうことを通じて、実質金利を押し下げる効果があると思いますし、それが自然利子率を更に下回ることになれば、緩和効果が追加されることになると思います。マネタリーベースについて現状、伸び率が若干下がっているのは、確かに国債買入れの額が少し減少していることによるのですが、イールドカーブ・コントロールのもとで、今の長短金利の実質金利の水準をみますと、別に上昇したり、あるいは自然利子率とのギャップが縮んだりしていません。

§15Haruhiko Kuroda

政策金利、10年債の金利の操作目標、資産買入れプログラム、そしてマネタリーベースの増加という全体の組み合わせの中で適切な緩和効果が得られていて、緩和効果が減少していないということですので、そうしたもとでマネタリーベースの増加率が若干減ったからといって、何か緩和の程度が弱まったと思っていませんし、そういう意味で何か問題があるとは思っていません。ちなみにマネタリーベースの増加というのは、色々な要因で決まります。長期国債の買入れの額だけでなく、その他のマーケットオペレーションの額にもよりますし、財政状況などにもよるので、色々な状況によって変わっていますけれども、今の時点で増加率が減ってきたから金融緩和の程度が弱くなったということにはなっていないということです。

§16Question

米中の貿易摩擦が日本の経済に与える影響についてですけれども、足許、米中の交渉は第一段階の合意に今月中にも達するという見通しがある中で、前回の金融政策決定会合で注意が必要な情勢にあると判断したとあります。この注意が必要な情勢というのは、仮に今言われている第一段階の合意というものが成立しても、その程度続くというものになるのか、それとも合意があった分、相当程度短くなるのか、その辺りの総裁のご見解をお願いします。また、資産買入れの方針についてですけれども、こちらも、足許金融市場は、昨日、ダウ平均株価が史上最高値を更新したりですとか、今日も日経平均株価が 400 円以上上昇していたりですとか、J-REITは 12年振りの高値圏にきています。こうしたマーケット環境が高値の状況にある中でも、前回の会合では買入れのペースを維持されるということでしたけれども、適切に判断されたということで維持を続けていくのか、一方でマーケットの関係者からは日銀が買うことで、なかなか値下がりせずに個人投資家ですとか、そういったところのいわゆる買い場みたいなものがなくなっているのではないかというような指摘もあります。そういった副作用についても、どのようにお考えか改めてお聞かせください。

§17Haruhiko Kuroda

米中貿易摩擦については、確かに双方でどんどん関税を引き上げるとか、対象を拡大することが続いていましたが、先日、第一段階の、いわば暫定的な合意ができ、今月中の両首脳による正式合意に向けて、精力的に交渉が進んでいることは、どんどん悪化していくという状況がなくなって、改善に向けて動き出したという意味では、好ましいことであり、市場も歓迎しているわけです。もっとも、まだどういう合意がいつできるのか分かっていませんし、それができたとしても、色々な技術摩擦やセキュリティの話も含めて、米中間でまだ懸案事項が残っていますので、それらがどのように解決、改善されていくかというのもまだ分かっていません。そうしたもとで、実は、高い関税率がまだ続いています。米中貿易摩擦が改善方向に状況が変わりつつあることは好ましいことではありますが、それが具体的にどのような結果をもたらすのか、それから、幅広い懸案事項について、どのように解決されていくのかがまだ分からないわけです。その意味では、不確実性はまだ依然として残っていると思っています。ただ、良い方向に向かっている兆しが見えてきたことは好ましいことだと思います。それから、資産買入れについては、国債の買入れにつきましては、イールドカーブ・コントロールのもとで適切な買入れを行う、弾力的に行うということで、80 兆円というのはめどです。

§18Haruhiko Kuroda

イールドカーブ・コントロールが今や市場調節の目標になっていますので、それに合わせて適切な額の資産買入れを行っているということです。また、J-REITやETFの買入れにつきましては、それぞれのマーケットのリスクプレミアムの状況をみながら、弾力的に増やしたり減らしたりしていますし、特に何か大きな問題が生じているとは思っていません。このところ、為替が比較的安定しており、株価も変動はありますが、安定した状況が続いていること自体は好ましいことではあると思いますけれども、それだけで何か金融政策を今、変更するというような状況ではないと思っています。

§19Question

先程の発言について少しお伺いしたいのですが、財政政策と金融政策の関連です。国債を発行することによって、例えば財政ファイナンスをしているようにみられるとか、超長期債でも同じようなことですけれども、副作用について、総裁ご自身は、今の時点ではそんなに心配する必要はないということなのでしょうか。

§20Haruhiko Kuroda

私どもは、財政ファイナンスではありませんと、あくまでも日本銀行が金融政策運営の一環として必要に応じて市場から国債を購入しているもので、全く財政ファイナンスではないということは、従来から申し上げている通りです。ただ、その一方で、財政政策が更に積極化するというような場合でも、現在のイールドカーブ・コントロールのもとで、金利が低位で、金融緩和の状況が続くということは、財政政策・金融政策のいわばポリシーミックスとして、財政政策の効果をより大きく発揮できるようになる、あるいは金融政策としてもより効果を発揮できるようになるという意味で、ポリシーミックスという意味では、どこの国でもそういう考え方はありますし、わが国の場合はご承知のように、日本銀行法ではっきり書いてあるわけです。ですから、何ら問題ないと思いますし、副作用があるとも思いません。財政ファイナンスではないかと疑われる惧れがないかと言われると、そういうことをおっしゃる方はおられますけれども、私どもは全然そういう考えは持っていません。あくまでも日本銀行の金融政策は、「物価安定の目標」を達成・維持するという、物価の安定と、それからもちろん決済や金融システムの安定を確保するという、この2 つは日本銀行法に書いてあるわけです。その目的に従って行っているということであって、財政ファイナンスというようなことは全く考えていないということです。

§21Question

講演の中で海外経済の回復の時期について約半年ほど遅れるとおっしゃったと思うのですが、確認なのですが、そうなると回復の時期というのは来年のもう後半以降ということなのでしょうか。また、先程の財政金融のポリシーミックスの話なのですが、今の非常に低い金利を日銀が維持している中で財政の効果がより出るということなのですが、例えば追加的な措置をとるタイミングとしても、財政がより拡張されたときに金融もより緩和すると、一緒にやることによる相乗効果も、単独でそれぞれやるよりも大きなものになるということなのかその辺りをお願いします。

§22Haruhiko Kuroda

回復の時期が後ずれしているというのは、IMFの見通しなどもそうですが、IMFも四半期毎の見通しを公表しているわけではありませんので、従来の見通しでいつこうなると思っていたのがいつ頃にずれたか、というのははっきりしないわけです。私どもは従来から、2019年から 2020年にかけて回復すると言っていましたので、そこから言えば、来年の前半、来年の半ば頃までにはこうなるということであると言えると思います。ただ、四半期毎の見通しを委員の中央値として出しているわけでもありませんので、半年ぐらいずれたという感じは皆さま持っておられると思いますし、 IMFの見通しもそのようですし、私どももそうなのですが、ピンポイントでいつだと言われるとなかなかはっきり言いづらいのですが、来年の前半とか来年の半ばとか、その頃ではないか、という感じを持っています。それからポリシーミックスは、あくまでもそういうことで効果がより高くなるでしょうということであって、何か財政政策を更に活用して財政を拡張したときに一緒にやるという考えが特にあるわけではありません。それはそれで、あくまでも金融政策として必要があるときに必要に応じたことを行うということです。以上