原田審議委員記者会見(2019年12月5日)要旨
Full text
§1Question
午前中の懇談会で地元の参加者の方々からはどのような意見が出て、原田委員はどのようなお話をされたのでしょうか。また、大分県の金融経済情勢についてどのようにご覧になっているか、お聞かせください。
§2Yutaka Harada
まず、大分県の金融経済懇談会での意見交換の様子ですが、本日の懇談会では、大分県の行政や経済界、金融界を代表する方々から、地域経済の現状や課題のほか、日本銀行の金融政策運営に関して色々なご意見を賜りました。極めて有意義な意見交換ができたと認識しています。まずはこの場を借りて、ご出席頂いた方々に御礼申し上げたいと思います。本日の懇談会ではご意見が多岐にわたったため、全てを網羅してご紹介することはできませんが、私なりに席上で聞かれた話題等を整理して申し上げたいと思います。まず、当地の経済は全体として悪い状況にはないと伺いました。直近ではラグビーワールドカップが当地でも開催され、国内外の観光客により大変盛り上がったとの声が聞かれました。こうした盛り上がりを一過性のものとしないために、引き続き観光振興に取組んでいるとのお話がありました。一方、ラグビー効果で見え難くなっている韓国人観光客の大幅な減少や消費増税による消費の落ち込みが、今後顕在化してくるのではないかとの懸念も聞かれました。こうした中、当地の課題としては、人口減少やそれに伴う人手不足を挙げる声が多く聞かれました。これに対し、地域の商工会議所や商工会などでは、行政や関係機関と連携し、地域企業の支援に注力されていると伺いました。また、各種補助金を活用した設備投資などを通じて、生産性向上に取組まれている事例もご紹介頂きました。
§3Yutaka Harada
金融界の方からは、低金利環境が続き、金融機関経営として厳しい環境にあるとのお話を伺いました。こうした状況が続くと、地域金融機関が幅広く手掛けている地域企業のサポートが困難になるとのご意見もありました。私どもは、中央銀行の立場から物価安定のもとでの経済の持続的成長を実現していくことや、金融システムの安定性を確保することを通じて、当地関係者のご努力がより大きな成果へとつながっていくようサポートしてまいりたいと思っています。次に、大分県の金融経済情勢についてですが、大分県の景気は「基調としては緩やかに回復している」とみています。すなわち、個人消費は、全体として底堅さを増しているほか、設備投資についても、持ち直しつつあります。雇用・所得面でも、労働需給は引き締まった状況が続いており、雇用者所得は、振れを伴いつつも、基調としては緩やかに増加しています。先行きも、大分県の景気は、海外経済の影響を受ける可能性があるものの、前向きな循環がみられつつある家計部門を中心に、緩やかな回復の動きを続けるとみています。
§4Question
挨拶要旨を拝読しますと、低金利に伴う現在の金融機関の経営問題については、貸出以上に預金が集まっているという構造問題であって、日銀の金融緩和による副作用ではないと位置付けているようにも読めるのですが、原田委員は、金融緩和による金融機関経営への影響という副作用は存在しないと考えておられるのでしょうか。また、これに関連して、追加緩和を行う場合、金融機関経営にも配慮した副作用対策が必要という議論もあるわけですが、原田委員は、銀行部門の効率化を進めるためにも、追加緩和を行う際には副作用を軽減するような対応は必要ないとお考えなのでしょうか。
§5Yutaka Harada
まず、金融機関の困難は日本銀行の金融政策によるものであるかということだと思いますけれども、金融機関というのはお金を集めて相対的に安全な運用をするところですが、集まったお金を十分に運用する機会がないのですから、それが主要な問題であると申し上げたわけです。低金利は全く影響していないと言っているわけではありません。それから、なぜ低金利かということについて、日本銀行が低金利にしているから低金利なのだというご理解の方ももちろん多いと思いますが、私が挨拶要旨で書いていますように、現在の低金利は、名目の低金利で、過去にデフレを脱却できなかった結果としてデフレが続いており、その結果低金利になっているということです。ですから、結果として、名目の低金利になっていることが、金融機関の経営に影響を与えていることは事実だと思います。しかし、では名目の低金利という問題を克服すれば、金融機関の問題は全て解決するかというとそうではなくて、需要と供給の問題で、供給が過多だから経営が苦しいという問題は克服できないと申し上げています。次に、追加緩和についても今述べたことと同じだと思います。金融機関を取り巻くそういう経済構造があることが金融機関経営の問題の主因です。金融緩和の副作用は小さいと思いますが、全くないと申し上げているつもりもありません。
§6Yutaka Harada
その面において、効率的な政策であれば、そういう対応をとるということは十分合理的なのではないかと考えています。
§7Question
まず、今日にも政府が閣議決定する経済対策についてです。規模は大きいし、成長分野への投資もあるようですけれど、主力は公共工事ということです。人手不足で目詰まりの問題もあると思いますけれど、今回の経済対策にどれほど経済を押し上げる実質的な効果があるとお考えでしょうか。また、それに付随して、財政と金融のポリシー・ミックスという観点から、政府のこの度の財政支出に伴って日銀の金融政策として何かしらのアクションが必要になるとお考えでしょうか。
§8Yutaka Harada
まず、政府の経済対策に対して、どれほどの実質効果があるのかということを、私は申し上げる立場にはないと思いますが、経済対策にはそれなりの効果が当然あると思います。そして、現在の金融緩和政策との相乗効果によって、政府の経済対策の効果も高まりますし、日本銀行の行っている金融緩和政策の効果も高まると考えています。次に、政府の対策に対して、日本銀行の金融政策についてあえて何かするということはあるのか、ということだと思いますが、現在のイールドカーブ・コントロールのもとで金利を維持していること自体によって相乗効果が得られますので、特に追加的なことを考えなくても大丈夫だと思っています。念のためですが、追加的な政策を考えなくていいと申し上げたのは、他の条件が変わらないもとで、政府が財政を拡大するということだけであれば、現在の政策を続けているだけでいいのではないか、特に何かする必要はないと考えていると申し上げたということです。
§9Question
挨拶要旨の中で、銀行が人と資本を放出すれば経済全体にプラスになると指摘されていらっしゃいました。これまでも、預金が集まりすぎるという銀行の構造的な問題をよく指摘されていらっしゃいましたけれども、これまで以上に率直な直言と思われます。任期中に思ってこられたことの総括でもあると思うのですけれども、こういうちょっと踏み込んだ言い方をされている思いをもう少し補足して頂けますでしょうか。
§10Yutaka Harada
全体として、今回の金懇が最後ですからそれなりの思いはあるかもしれませんが、この部分について思いがあるということではありません。似たようなことは他でも書いています。預金が集まりすぎているということは、当然、預金を集めていることに関連している店舗や人員を減らすことになります。人と資本を放出するというのと、あるところで減らすというのはほぼ同義語です。
§11Question
挨拶要旨で、金融緩和のおかげで経済が好転していると強調されていたと思いますが、要旨の中にもあった通り、目標に掲げている2%というのは遠い状況で、政府サイドからは失業率とか改善が進んでいるのに2%にこだわる必要はないという趣旨の発言も相次いでいると思います。原田委員は、物価目標は未達でも金融政策の本質的な目標は達成できているとお考えでしょうか。また、国債の買い入れペースについて、80 兆円という目標を掲げたまま 20 兆円とだいぶ目標から乖離していると思いますが、この買い入れの量というのは、その歴史的な使命を終えた状況なのかというのと、現実と乖離した 80 兆円という目標を掲げている理由があれば教えて頂きたいと思います。最後に、 5年間の在任期間で様々な緩和策を導入されていると思いますが、目標の2%はちょっとまだ遠い中で、更に金融緩和の有効性というのが弱まっているのか、それとももっと緩和すれば物価は上がるのか、お考えを教えて頂けますでしょうか。
§12Yutaka Harada
まず、経済が好転しているのだから2%にこだわる必要はないのかというご質問です。これは、2%にこだわったからこそ、長期的に金融緩和を続け、その結果として経済が好転しているということだと思います。もし、 2%にこだわらなければ、失業率がある程度下がったところで金融緩和政策をやめて、その結果またデフレになるとか、あるいは失業率が悪化するということが起きたと思います。これはまさに2%にこだわったがゆえの成果と考えています。それから、国債の買い入れ目標と現実が乖離しているというご質問です。これはイールドカーブ・コントロールを採用した時点で、量がある程度縮小し得ると考えていたわけですが、なぜ量の目標を残していたのかということになります。イールドカーブ・コントロールでは、金利で目標を示しているわけですが、景気が悪くなると金利が下がりますし、景気が良くなると金利は上がります。景気が悪くなったときに名目の金利が下がったことによって、十分な金融緩和をしていると、そういう誤った政策をとらないためにも、量は必要であると考えていました。かつ、実際に量が、目途としてですけれども、政策目標となっているということは、その考えを政策委員が合意しているからだと思います。
§13Yutaka Harada
それから、量が減り得るということについては、政策委員の中でも合意があったと思いますが、その理由として、段々と、どうしても国債を持っていたいという人から買い入れることになりますので、より少ない量で金利に対してより大きな効果があるということになります。これについても政策委員の中である程度減り得るということについて合意があったと思います。なぜ量の目標が残っているのかというと、それは以上述べた通りです。最後に、私の任期の5年間で、なかなか2%になっていないということについては、私としても大変残念なことです。緩和を続けて、景気が改善して、その結果、需給ギャップのプラス幅が拡大して物価上昇圧力がかかる、また、足許の物価がわずかでも上昇することによって、物価上昇期待も高まって、需給ギャップのプラス幅の拡大と予想物価上昇率の上昇が相俟って、物価が上がっていくと考えています。しかし、この5年間、残念ながら世界経済が順調にうまくいったわけでもありませんし、消費増税もありましたし、様々なショックによって、一方的に需給ギャップが物価上昇圧力をかけて、かつ足許の物価も順調に上がって、予想物価上昇率も上がるという状況にはなりませんでした。それは私としても残念で、目標を達成できそうにないことは申し訳なく思っています。
§14Yutaka Harada
ただ、現在の政策を続けていくことによって、徐々に物価が上がって2%に向かっていくことは十分に可能だと考えています。
§15Question
足許では長期の国債、超長期の国債の金利は、一時期よりは上昇しているかと思うのですが、特に 20年以上、30年物とか 40年物の金利は、例えば 1年前の水準と比べるとまだ低い状況にあります。総裁も、超長期の金利のところについてはあまり下がりすぎると良くないという発言もされています。しかし、実際、オペの買い入れの計画をみると、もう超長期のところの減額余地はあまりないように思えるのですが、例えば今後金利が上がってこないようであれば、手持ちの超長期の国債を売るとか、ゼロでも買わないようにするといった可能性は実際あるのでしょうか。また、2%という目標があったからこそ、失業率とかここまでの景気の拡大があったと話されていますが、その2%というのが、ある意味絶対に達成しなければならないというよりは、そういう大きな先のゴールがあるから実益が出てきたというようにも聞こえました。例えば、先日IMFのゲオルギエバ氏が来日されたときに、ある程度物価上昇に幅を持たせてもいいのではないかといった話もされていましたが、そういったことも今後検討されうると原田委員はお考えなのでしょうか。
§16Yutaka Harada
最初の、買い入れをどうするかということですが、将来、どのように買い入れを行うかについて、私から何か申し上げるのは不適当ですので申し上げません。イールドカーブが全体として現在のイールドカーブよりも緩和的であれば望ましいですし、そうでなくても、現在のイールドカーブ・コントロールよりも緩和効果を低めるようなことがないよう、様々なことを考慮しつつ買い入れを決めていくということだと思います。それから、あまりにも長期のところがマイナスになるのは望ましくないのではないかということについては、私もそういう認識を持っています。次に、 2%の目標があったからできたというのは、長期の大きなゴールではないかと言われたのですが、長期の大きなゴールではなくて、実際にそこまでやっていくことによって緩和を継続できたと思います。もし2%の目標がなければ途中でやめるということになり、その結果、失業率が殆ど2%になるといったことは実現できなかったと思いますので、大きな先のゴールであるとは考えていません。最後に、幅を持たせるということです。なぜ2%の物価上昇率が必要かということについては、私もすでに説明しましたし、政策委員の多くも似たようなことを述べていますけれども、まず、2%がグローバルスタンダードであるということです。グローバルスタンダードであるがゆえに、結果的に為替が安定していることも重要だと思います。
§17Yutaka Harada
幅を持たせますと、これは達成できないだろうと思います。なぜ2%目標が必要かの2番目は、長期的に金融政策ののりしろをつくるためです。つまり、物価が2%上がれば、 2%で落ち着くように金利を上げていかなければいけないわけで、その結果、金利は上昇します。つまり、金利を上昇させるためにこそ、物価の上昇が必要だということです。具体的な数字が正しいかどうかわからないですが、実質金利が1%で、物価上昇率が2%であれば、名目金利は3%になるわけです。通常の、景気が悪くないときの金利が3%になれば、量的緩和等の様々な、いわゆる非伝統的金融政策に依らず、単純な金利操作で経済を刺激したり、抑制したりというコントロールが簡単になるということからも、 2%目標が必要であると考えています。
§18Question
挨拶要旨の中で、銀行について、数でも資金量でも上手くダウンサイジングできれば、利益を得られるようになりますというご発言があり、例えば、銀行の支店数のみならず、銀行再編の必要性にも触れられたのではないかと思うのですが、原田委員の中で、いま例えば、地方銀行ですと100 行超ありますが、望ましい地銀の数としてどのくらいをみていらっしゃるでしょうか。また、挨拶要旨を通じて、銀行の預金に焦点を当てられましたけれども、例えば大分もそうですが、銀行の役割として、例えば地域のためにということがあったりですとか、地方銀行と一言で言っても都市型地銀とあるいは僻地山村を営業基盤にしている銀行もありまして、例えば預金あるいはそういったものをダウンサイジングすれば全て収益が改善していいんだというのは、少し短絡的な議論なのかなと思いますが、銀行の役割について改めてお聞かせください。
§19Yutaka Harada
まず、銀行が全体としてダウンサイジング、それは数でも量でも減らざるを得ないということだと思いますが、それを具体的にどうするのかということについては、個々の金融機関の経営戦略の話になりますので、私からは申し上げることはありません。しかし、預金の割に貸出先がないのですから、全体として減るしかないのは、事実から導かれる当然の推測であると申し上げたいと思います。次に、銀行は利益だけのためではなく色々なことをやっているので、単にダウンサイジングすればよいということにはならないのではないかというご質問です。基本的には、銀行は資本主義と市場主義の中心にある組織だと思います。それが福祉政策をやるというのは変な話だとは思いますが、現状、事実としてそういう面があるのは確かだろうと思います。そういう地域政策や福祉政策としてやる必要性があれば、そういう政策をとっていくということは、ある程度必要なのかもしれません。現在、海外で、店舗を減らしたり、銀行の数を減らしたりした結果、銀行預金を持つことが非常に難しいという方が多数おられて、それが格差拡大をもたらしているという議論があります。そういったところでは、店舗や銀行を何とか残すとか、あるいは銀行に対して小規模先への融資を義務付けるといった政策を行っているところもあります。
§20Yutaka Harada
そういう政策が、将来的に必要になるのかどうかはわかりませんが、今の段階でみれば、ゆうちょ銀行などを含めた銀行、預金を預かってくれる機関はたくさんありますので、現在少しぐらい減ったからといって、海外のように預金を持つのが大変で差別だとか格差を作るといった状況ではないと思います。
§21Question
大分県の地理的条件であるとか、観光資源などを踏まえて、県経済の強みについてどのように考えていらっしゃるのか教えて頂けますでしょうか。
§22Yutaka Harada
大分県は、これまでの自治体による積極的な活動の成果もあって、鉄鋼、石油、化学、半導体、精密機械、自動車など幅広い産業がバランス良く立地していますし、製造品出荷額は約4兆1千億円と九州第2位の規模となっています。大分県は日本全国と比べても製造業の比重の高い、ものづくりの県となっています。これに加えて、東九州自動車道の開通や、関東と結ぶ貨物フェリーの増便によって、「九州の東の玄関口」としてその存在感を高めています。また、当地は、別府や湯布院といった全国有数の温泉地を有し、国内外から観光客を惹きつけています。また最近では、ラグビーワールドカップ日本大会の開催地の 1つとして大いに盛り上がり、国内外に当地の魅力を発信するなど、大きな成功を収めたと伺いました。当地経済の更なる活性化のためには、価格競争ではなく非価格競争を行えるよう、地元企業が自らの強みをしっかりと把握したうえで、高付加価値の商品・サービスを生み出し、消費者の需要をつかむ取組みが重要です。こうした動きが広がり、企業収益増加、所得増加、消費拡大といった好循環が進んでいくことを期待したいと思います。以上