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Bank of JapanPress conferenceMar 26, 2020Seiji Adachi, Board Member

安達審議委員就任記者会見(2020年3月26日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

新たに審議委員に就任された今の率直なお気持ちと、今後の抱負について聞かせてください。

§2Seiji Adachi

本日、辞令交付を受けまして、新しい審議委員に就任致しました安達と申します。よろしくお願い致します。昨今、新型コロナウイルス感染症の問題で、日本経済も世界経済も極めて不確実性が高い状況に陥っています。そのような状況の中で、新たに金融政策の一翼を担うことになり、非常に危機感と緊張感を持っています。この先非常に不透明感が高い状況ですので、その心づもりといいますか、危機感を持って政策に臨みたいと考えています。よろしくお願い致します。

§3Question

新型コロナウイルスの感染拡大についてです。東京など、どんどん事態が悪化している状況です。先般、日銀は 16日に金融政策決定会合を前倒しで開催しまして、ETFの買入れペースを上げること、あるいは企業の資金繰りを支援するといったような制度の導入を決めましたが、日銀は今後、どういった分野に目配りし、どういった政策対応を強化すべきだと、今お考えでしょうか。

§4Seiji Adachi

まず、今回の新型コロナウイルス感染症に関しては、日本経済・世界経済にかなり大きなショックを与えると思います。私は平成元年に社会人になりましたが、そのときのバブルの崩壊や、金融危機、ITバブルの崩壊、リーマンショック等と比べて、一番大きな違いは、いつになれば底打ちをするのかが全くみえない状況だと考えます。ですから、例えば金融政策に関しても、景気を浮揚させるという本来の政策対応に至るまでの不確実性に対してどのように対処するかというところであり、まずは景気浮揚というよりも、新型コロナウイルス感染症が今後どのようになるか分かりませんが、それに対して何とか持ちこたえることを助けるような政策をとるべきだと思います。具体的に申し上げますと、例えば先日の緊急の金融政策決定会合で決定された企業金融に対する支援です。企業、特に中小企業において資金繰りの悪化によって新型コロナウイルス感染症が原因で破綻をしてしまうことは、何としても回避しなくてはならないと思います。企業の資金繰りを何とか助けて、例えば従業員の雇用を守ったり、労働者の所得水準を維持する、――これは政府の施策も絡んできますが――その助けになる政策です。繰り返しになりますが、まずは新型コロナウイルス感染症が何とか収束を迎えるまで、経済、特に企業を中心に、資金面で持ちこたえる政策を行うべきだと考えます。

§5Seiji Adachi

ですから、先日の緊急の金融政策決定会合では、様々な施策を行いましたが、資金繰りの面では流動性の供給、資産価格の大幅な変動についてはETF 買入れ枠の大幅な拡大を行い、量の面については、――言い換えますと流動性の面だと思いますが――かなり対処していると思います。もし追加するとすれば、新型コロナウイルス感染症の日本での拡がりが予想以上に大きく、先日の金融政策決定会合で設定した枠を超えて資金を供給しなければならない事態に陥ったときということになると思います。現状は、まだそこまでの状況ではないと思いますが、日々刻々と状況が変わりますので、注意深く状況を見守るということだと考えています。

§6Question

今、足許のお話をお伺いしましたが、全体のお話ですが、現在日銀がとっている金融政策の枠組み、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」というものをずっとやってきているわけですが、これに対する評価・総括をお願いします。

§7Seiji Adachi

従来私は、量を重視する立場でした。ただ、量を、特に短期的にインパクトを持った数字で拡大していくのは、2013年4月初頭のいわゆるQQEである程度成果は出たのではないかと思います。その後、様々な紆余曲折があり、政策といいますか、インフレ率は思ったほど上がっていないのではないかという批判がありますし、私もここに来るまではそういった批判をしたこともありました。ただ、現金と現金を交換して何か意味があるのかといった議論がありましたが、国債利回りが 10年債までもマイナスになってしまうという状況――新型コロナウイルス感染症の前までは――に到達しているわけです。そういう意味では、マイナス金利政策とイールドカーブ・コントロールでの金利操作に移行したことは、それほど間違った政策ではないと考えています。

§8Question

追加の措置について、現状はそういう状況ではないということでしたが、マイナス金利については金融機関の収益を圧迫するとか、ETFの買入れについては市場の価格形成や日銀の財務に対するマイナスの影響といった副作用の面があると思います。現在の金融政策の副作用については、どのようにお考えでしょうか。

§9Seiji Adachi

副作用について、全く無視してどんどん緩和をせよという状況ではなくなってきているという部分もあるかと思います。効果と副作用の両方を比べてどちらが大きいかということです。特に今は、もしかしたら危機的な局面を迎えるという状況ですので、もし今後例えば新型コロナウイルス感染症のインパクトで更に経済が危機的な状況に陥った場合には、金利を動かすよりも流動性を供給していくことが重要だと思います。そこは危機の状況でどれぐらいの追加が必要かということを、その時その時に判断すべきではないかと思います。現状、 ETF買入れは、今回12 兆円の枠としており、まだまだ買入れ枠はあります。また、これまでの金融政策に関しても、長期国債について残高が年間 80兆円増加するように買い入れるとしていて、現状はそれを下回る額にとどまっていますので、流動性の供給という面では、まだ余裕があると感じています。ただ感染の危機の程度によって日々変動しますので、非常に注意深くみていく必要があると思っています。

§10Question

マイナス金利政策について、先程も間違った政策ではないのではないかというお話がありましたが、一方で、やはり効果と副作用みたいなところでだいぶ議論があるところだと思います。今後仮に深掘りみたいなものが必要になるときというのは、例えばどういうシチュエーションになったら、マイナス金利政策を更に強化する必要があるとお考えになるかについてお伺いします。また、2%の物価目標というところについてですが、今こういう状況なので中長期的な話になろうかとは思いますが、日銀が目指す 2%の物価目標というものをいつ頃までに達成したいかということと、どのような手段をもって達成するような道筋を描いていらっしゃるのか、現時点の考え方をお願いします。

§11Seiji Adachi

まずマイナス金利に関しては、基本的にはいわゆる「リバーサル・レート」のような議論があります。実際、日本経済もしくは金融機関、更にブレイクダウンしますと個別の金融機関で、各々「リバーサル・レート」は変わってくるとは思いますが、私が知る限りでは、例えば今具体的に何%だという話をあまりみたことがない状況です。今の-0.1%というところで考えますと、まだまだ追加で緩和する、いわゆるマイナス金利を深掘りする余地はあると思います。ただ、マイナス金利の深掘りを行う局面というのは、新型コロナウイルス感染症の話が収束し、この問題を離れていよいよ日本経済が再び浮上するといった際の政策になると思います。ですので、新型コロナウイルス感染症の対策で、例えば量の部分もどれぐらい使っているのかとか、どれぐらい余地があるのか、3 次元でやるという話を今はしていますので、その 3 次元の各々の政策についてどれぐらいの余裕があるのかをみながら、その都度決めていくしかないと思います。新型コロナウイルス感染症の問題がありますので、当然短期的にはかなり物価のモメンタムが失われる可能性があります。

§12Seiji Adachi

ただ、逆に言いますと、新型コロナウイルス感染症の問題が収束した後は、今自粛等で抑圧されている需要が出てくる可能性もあることを考えますと、この段階で例えば何%深掘れるかや、どれぐらい追加緩和余地があるのかという議論はまだできないと考えているのが正直なところです。

§13Question

2%目標の達成時期と手段についても簡単にお願いします。

§14Seiji Adachi

それについても、新型コロナウイルス感染症の問題で日本経済が非常に落ちていくところからの再出発ということになると思いますので、今の段階では申し上げることができないと感じています。ただ、希望としては、私はこれから5年間任期があるわけなので、その間に何とかして出口というのが理想的ですが、何ともお答えできないところです。申し訳ございません。

§15Question

これだけ大規模な量的・質的緩和をやってからもう 7年が経過するのですが、依然として 2%目標が遠い状況にあるわけです。安達委員は、これだけ大規模な緩和を長く続けているのに 2%に程遠いという現状は、なぜこうなっているのかという理由についてどのようにお考えでしょうか。

§16Seiji Adachi

これはなかなか難しい問題です。私の仮説としては、これまでの長いデフレの中で、失業率は確かに非常に低い水準まで下がっているわけですが、失業者にカウントされない方――無業者というのでしょうか――がまだまだスラックとして残っている可能性があることが一つのポイントではないかと思います。ですので、例えば計算上の失業率が 2%台前半であるのに対して、インフレ率はなかなか上がってこないということは、おそらく事前に様々な方が予測していた話とは全く違う世界に入っているということもあると思います。また、平板な話ですが、このところ技術進歩が甚だしく、昨今言われているAIなどの労働代替的なものが、様々に作用しているところがあります。ですので、なかなか上がってきていないことは事実ですが、少なくとも新型コロナウイルス感染症の問題が生じるまでは、私の感覚ではじりじりと上がってきていたというところなので、追加緩和云々というよりも我慢比べの時期であったのではないかと思います。

§17Question

マイナス金利深掘りの話ですが、コロナが収束して再浮上してからの政策になるというお話がありました。今世界的にFRBなりBOEなりコロナ対応で緊急利下げをやっているところがありますが、日本の場合はマイナス金利の深掘りという金利の操作、利下げはすべきではないというのはどういう理由でしょうか。

§18Seiji Adachi

マイナス金利政策を行いましたが、そのときの効果を考えますと、その後の経済の状況は、例えば設備投資が意外と回復してきたとか、住宅投資が結構堅調だったということで、わずか-0.1%ポイントの利下げに過ぎないわけですが、長い金利までイールドカーブ全体を下げる効果があったと考えています。それにより、イールドカーブ全体の低下で典型的な景気刺激効果がもたらされたと考えています。今の日本においてはどちらかというと、やはり資金繰りですとか、特に信用リスクだと思いますが、そういうものが問題だと考えています。ですので、どちらかというと、先日の緊急の金融政策決定会合でありましたように、流動性の供給を手当てする、ある程度枠を作って手当てする方が、より効果が大きいと思います。FRBやBOEの政策決定プロセスを存じ上げませんが、やはり流動性を供給するためにある程度金利を下げないと、政策金利自体がコントロールできないという状況になりますので、それも含めて行ったものと考えています。ですので、FRBも今無制限という名前を付けて行っていますが、主たる政策対応は流動性の供給だと理解しています。

§19Question

今ECBやFRBもそうですが、金融政策の枠組みを、物価目標のあり方も含めて、見直そうというレビューをしようという動きがありますが、日銀について、物価目標 2%のあり方も含めて、レビューする必要性についてはどうお考えでしょうか。

§20Seiji Adachi

2%のインフレ目標が適当なのか適当でないのかという議論はあると思いますが、今のところ例えば主要先進国は、概ね 2%を目標にしています。その状況のもとで、日本銀行だけが先んじて、例えば 1%目標にしてしまった場合には、中長期的な円高リスクをもたらす可能性があると考えます。ですので、2%のインフレ目標が絶対的な尺度かといわれると、先進国の中央銀行の議論に合わせて検討していく余地はあると思いますが、早めに行ってしまうと無用な円高リスクをもたらしたり、マーケットに対して非常に大きなノイズをもたらしますので、特にこういう局面では、無用な混乱は基本的には避けた方が良いのではないかと思います。中長期的な課題ではあるかもしれません。

§21Question

財政出動についてお伺いします。今、アメリカは2 兆ドルの経済対策をやり、政府も経済対策を検討していますが、どのような経済対策が求められていて、どれぐらいの規模感の財政出動が今は必要なのかについて教えて頂けますか。

§22Seiji Adachi

外からの立場であれば色々話ができますが、政策サイドに立ちましたので、特に財政政策に関しては管轄ではないため、発言は控えたいと思います。ただ、とるべき政策は、既に報道されている所得の補償や、更に踏み込めば一時的な免税措置も良いのかもしれませんが、そこは政府が適切に対応してくれると考えています。

§23Question

先程マイナス金利の深掘りは今のこの新型コロナの問題が一段落した後の、いわば通常のモードに戻ったときの選択肢というような趣旨のご発言がありました。おそらくマイナス金利の深掘りをするケースがあるとすれば、一つは多分、円高圧力がかなり強まったようなケースが想定されると思いますが、このマイナス金利の深掘りという選択肢は、円高を防ぐ手段として有効なのかどうか、その辺りはどうお考えでしょうか。つまり、マイナス金利を深掘りすると、むしろリスクオフムードが強まってしまい、却って円高になるというようなことをおっしゃる論者もいますが、安達さんはどのようにお考えでしょうか。

§24Seiji Adachi

為替レートの変動というのは、日々はもちろんですが、月次や四半期でも、予測するのはかなり難しいものです。例えば、金融政策をこう行ったから何かの法則によって円高、円安になるということは一概には言えないことだと思います。マイナス金利政策を導入した当時、多くの方が金利が下がるということで円安を想定されたと思いますが、実際のマーケットは一時円高になりました。その理由については、様々な方が様々なご指摘をされていると思いますが、それをもって今回マイナス金利政策を深掘りすると、逆に円高になるかどうかは、全く予測ができないと思います。ですので、為替というよりもマクロ経済全体に与える影響、──これはもちろん金融機関の貸出等の姿勢がどう変わるかということを踏まえてということですが──そういう形で検討していかなければならないと思います。量についても、例えばETFの枠も拡大しました。3 次元の政策は検討に値すると思いますので、その中のあくまでも一つだと考えています。

§25Question

インフレ期待を押し上げるために、量の拡大という手段はどれぐらい効果がありますか。また、もうだいぶ前ですが、外債の購入が日銀の政策手段の一つと民間にいらっしゃったとき、おっしゃっていたように記憶しているのですが、今でもそういうお考えでしょうか。

§26Seiji Adachi

外債の購入に関しては、今の政策の区切りからいえば、やはり為替介入との区別がつきにくいのだろうと思います。どちらかというと日本銀行が云々というよりも、もし検討するとすればですが、政策のパッケージとして検討すべきことだと思いますので、現状では追加緩和の手段としては考えていません。それから、量の拡大でインフレ期待をもたらすということは、外にいるときには割と主張していましたが、私が主張していたロジックは、いわゆるレジームを変えるという話です。つまり量の拡大という政策に打って出ることによって世の中の期待が、日本銀行が本気だということで、デフレマインドがインフレマインドに変わるというのが主な効果だと考えています。そういう意味では、2013年4月からのQQEは、少なくとも1年もしくは 1年半の間、ある程度の効果はもたらしたと思います。ただ、問題は、レジーム転換はなかなか連続して起こすことが難しいということです。今後他の政策委員や日本銀行のスタッフとも色々議論し、もしくは協力を仰ぎたいと思っていますが、その効果は今のレジームがどうなっているかに依存してくると思います。つまり、世の中がデフレマインドで大きく落ち込んでいるときであれば、もしかすると効果が出る可能性もあります。

§27Seiji Adachi

そうではなく、例えばコロナショックで一時的にインフレ率が落ちても、それは一時的な現象であって、――少なくとも今デフレではない、インフレ率は一応プラスを保っていますので――がむしゃらに量を求めて期待インフレ率が上がるのかと言われると、そこはもっと精緻に分析をしていく必要があると思いますので、今後の課題にしていきたいと思っています。以上