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Bank of JapanPress conferenceAug 27, 2020Hitoshi Suzuki, Board Member

鈴木審議委員記者会見(2020年8月27日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

懇談会で旭川などからの参加者から寄せられた意見にどのようなものがありましたでしょうか。そして、それに対するご感想やご意見を頂ければと思います。また、旭川・道北経済の現状や先行き、課題について、どのようにお考えでいらっしゃいますか。

§2Hitoshi Suzuki

本日の金融経済懇談会は、初めてのオンライン形式での開催でしたが、旭川の行政、経済界、金融界を代表する方々から、当地の経済・金融の現状と課題についてのお話や、日本銀行の金融政策運営に関する貴重なご意見を頂き、大変有意義な意見交換が出来ました。この場を借りて、改めて御礼申し上げたいと思います。懇談会の場では、多岐にわたるお話を伺いましたので、全てをご紹介することはできませんが、私なりに席上で伺ったことを整理して、印象・感想を申し上げたいと思います。まず、旭川・道北地域の経済情勢について、新型コロナウイルス感染症の影響により、厳しい状況にあり、その影響は、当地主力の食や観光分野をはじめ広範に及んでいるとの見方が示されました。こうした中、地元自治体や経済団体からは、企業の資金繰りや消費喚起の面などにおける、様々な支援を進めているとの話をお伺いしました。また、本行や政府・自治体による資金繰り支援の各種措置のもと、金融機関が取引先の支援に積極的に取り組んでおり、足許の企業の資金繰りは総じて安定しているとの評価が聞かれました。ただし、今後、厳しい経済情勢が長く続いた場合には、経営が困難化する可能性があるとの懸念も伺われました。こうした場合には、金融機関は、一層リスクを取って地元企業の支援に当たっていく必要があり、金融政策運営においては、こうした点にも配慮してほしいとの要望がありました。

§3Hitoshi Suzuki

やや長い目でみて、感染症収束後を見据え、当地の観光資源の魅力を高めていくことが必要との声も聞かれました。私どもとしては、こうしたお話も踏まえつつ、旭川・道北地域の金融経済情勢について、今後も旭川事務所ならびに札幌支店を通じてきめ細かいモニタリングを続け、中央銀行の立場から経済の持続的成長の実現や金融システムの安定の確保を図りながら、旭川・道北地域の経済を支える関係者のご努力がより大きな成果へとつながっていくようサポートしてまいりたいと考えています。二点目の旭川・道北地域の景気については、「新型コロナウイルス感染症の影響が引き続きみられるもとで、厳しい状態にある」とみています。この地域が高い競争力を誇る「食」や「観光」の分野では、国内での外出自粛や厳しい入国制限の影響により、外食などの業務用需要や国内外からの観光客が大きく減少しました。緊急事態宣言解除後、個人消費や観光に持ち直しの動きもみられますが、この地域の観光を牽引してきた外国人観光客はきわめて少ない状況が続くなど、全体としては依然として厳しい状況にあります。先行きについては、経済活動の再開が進むにつれて、旭川・道北地域の経済は徐々に持ち直しに向かうとみていますが、感染症の経済への影響は大きな下振れリスクであり、留意が必要であると認識しています。

§4Hitoshi Suzuki

旭川・道北地域の経済について、やや長い目でみますと、人口減少や少子高齢化に伴う域内需要の縮小、人手不足という課題があると認識しています。これらの課題に対しては、官民の関係者の皆様により、道外・海外需要の取込みや省力化といった生産性向上に向け、既に幅広い取組みが進められています。例えば、食関連分野での海外販路開拓支援やICTを活用して省力化を図るスマート農業、観光分野での集客力強化に向けた滞在型・体験型の観光コンテンツ拡充等が挙げられます。こうした取組みが奏功し、当地経済が一層発展していくことが期待されます。

§5Question

午前中の講演等でも新型コロナウイルスの影響を踏まえて、日銀が色々と対応してきたことについての評価と課題を挙げられていたと思いますが、ずばり追加の政策対応の必要性について今どのように考えていらっしゃいますか。かなりメニューは揃えて今それを稼働させている状況かと思いますが、まだ足らざる部分があるのかなどについて、お考えを伺えればと思います。それと裏腹ですけれども、午前中の講演要旨を見ますと、かなり副作用の強まりへの警戒感も示されていたかと思います。既に、日銀のコロナオペは、副作用を緩和するよう、金融機関にかなり配慮したような形で行っているところかと思いますが、金融機関の副作用対策を追加で用意する必要があると考えているか、についても考えをお聞かせください。

§6Hitoshi Suzuki

まず新型コロナ対策での政策対応、それから今後の政策対応の追加、あるいは副作用に対しての対策といったご質問だったと理解しています。ご案内の通り、日本銀行は、3月以降、①「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム」、②国債買入れやドルオペなどによる円貨・外貨の上限を設けない潤沢な供給、 ③ETF等の積極的な買入れの3つの柱で金融緩和を強化してきました。こうした対応は効果を発揮していると評価しています。すなわち、内外の金融資本市場は、なお神経質な状況にありますが、ひと頃の緊張は緩和しています。また、企業の資金繰りには依然ストレスが加わっていますが、外部資金の調達環境は緩和的な状態が維持されています。金融機関の貸出態度は緩和的であり、CP・社債の発行環境も一時的に拡大していた発行スプレッドが縮小するなど大変良好です。こうしたもとで、銀行貸出残高、CP・社債発行残高は、いずれも前年比で高い伸びとなっています。日本銀行としては、引き続き3つの柱により、資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めてまいります。そのうえで、当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和を行っていくということです。

§7Hitoshi Suzuki

追加策として何があるかという点ですが、元々本年7月の展望レポートは、大規模な第2 波が発生しないことを前提としておりまして、現在のものが第2 波なのかどうか定義は良く分かりませんが、現状においても、展望レポート作成時の判断から大きくずれているということはないと考えています。ただし、今後、必要がある場合には、躊躇なく対策を講じるということで、その中身というのは、「特別プログラム」の拡充、イールドカーブ・コントロールの枠組みの中における長短金利の引き下げ、あるいは、ETF等の買い入れ増額、更には、現状まだ具体的な内容はありませんが、更に新しい対策といったものも必要になることはあるかと思います。そうした中で、副作用に対しての対策ということが質問にありましたけれど、例えば、現状での資金供給においては、金融機関からの貸出を積極的に行って頂くためのインセンティブということで、必ずしも副作用への対策ではないと考えています。そして、これから更なる追加緩和がある場合には、講演の資料の中にも書いていますが、日本銀行の使命として、物価の安定と金融システムの安定という二つの目標があるわけですが、現状、企業あるいは個人の方々に対して、金融仲介機能が適切に発揮されるということが非常に重要な局面になっていますので、これまで以上に金融システムの安定ということが重要になるだろうということです。

§8Hitoshi Suzuki

従って、金融システムの安定に影響を与えることについては、細心の注意を払う必要があると考えています。

§9Question

午前中の講演で、政府の無利子・無担保融資に関連して、感染症の影響が収束した後も含めて、一般の貸出にスプレッドの下押し圧力となる可能性があるとご説明されていますが、感染症の影響が収束した後も金利に低下圧力がかかる理由を、どのように考えておられるのでしょうか。

§10Hitoshi Suzuki

これはあくまでも私の推測を述べているのですが、新型コロナウイルス感染症拡大のもとで、金融機関はかつてない規模の貸出が増えているわけですけれども、少なくとも暫く前の時点においては貸出金利がかなり低下しているというのが、数字としてあります。大手金融機関は、大企業に対する資金繰り支援の比率が上がった結果金利が下がっている面もあります。それから、政府の支援に基づく実質無利子・無担保の貸出、これは地方自治体によってそれぞれ条件が異なっていますが、表面には金利の実態がありまして、それに対してリアルタイム方式とか後払い方式とかテクニカルな点はあるようですが、顧客にとっては無利子という形になっています。その無利子の枠が全て使われた後には、いわゆるプロパー融資という形で、金融機関独自のプライシングが求められるわけですが、当然顧客からすれば同じ条件でやってほしいという要請がありますし、顧客のことを何とかサポートしようとする金融機関にとっても、そうした要望に沿いたいという気持ちがあると思います。そういった観点からしますと、午前中の資料でも触れていますように実質的な利鞘が殆どなくなっている状況の中においてなお、下押しの方の可能性が大きいのではないかという推測を申し上げた次第です。

§11Question

今回の懇談会ですが、異例のオンライン開催ということで、オンラインでの開催を終えられての感想と、実際に赴いての懇談会とオンラインとの違いがもしあるようでしたら教えてください。

§12Hitoshi Suzuki

今回、こういった事情がありましたので、初めてのオンラインの懇談会になりました。従来の懇談会の場合には、例えば一泊や二泊等の期間を設け、地元の様々な方々との懇談、企業の訪問を行い、その地域におけるより広範な、色々な経済全体の動きについても五感で感じ取ることができるわけです。しかし、今回初めてオンライン開催を行いましたが、想像していた以上に様々な貴重なご意見を頂いて、より旭川ならびに道北地域の経済についてよくわかりました。今後も、こうしたものだけでなく、従来どおりの金融経済懇談会を希望はしますが、当面このような形が続くのかなという印象です。

§13Question

信用コストの上昇というのが今後問題になってくる可能性があるとのご指摘がありましたが、過去の日本の不良債権処理あるいは金融システム不安時とどのような違いがあるのか、いつ頃そういったリスクが高まって、日銀が本当に意識しなければならないリスクとして顕在化し得るのか、そのタイミングのイメージがあればお願いします。また、2%の物価目標のあり方について、主要中銀の間でも議論になっていると思いますが、FRBの中では、むしろ高めの、もっと高いインフレターゲットを設定するとか、アベレージ・インフレーション・ターゲットをセットすべきという議論もあるのですが、日銀の場合は、コロナで一層物価目標の達成が難しくなって、もはやモメンタムがないという状態が長く続くのであれば、この 2%の「物価安定の目標」について考え方を変える必要があるのか、という点をどのようにお感じになっているかお伺いします。

§14Hitoshi Suzuki

一点目が信用コストの見通し、二点目が 2%の「物価安定の目標」ということだと思います。まずは一点目の信用コストですけれども、これは私の存じ上げている金融機関の経営者の方などに伺ったり、あるいは実務の方に伺ったりしても、きわめて予測が難しいということです。過去の局面においても、信用コストの予測はなかなか難しかったと考えています。規模感とすると、とりあえず足許においては、大手金融機関では、リーマン危機のときの信用コストの半分程度、欧米の金融機関も半分程度できています。これから先それがどうなるかというのが問題なわけですが、それは新型コロナウイルスの問題がどの程度長期化するのか次第です。残念ながら想定以上に長期化する場合には、信用コストが増えてくる可能性が高いと思いますし、地域金融機関の場合には、大手金融機関と比較して、今のところ表に出てきている与信費用は相対的には少なめに感じますけれども、問題が継続する場合には金額が増嵩してくると思います。それから日本銀行の物価安定の目標は 2%ということで、ご案内のとおりです。ただし、大規模な金融緩和を行ってから 7年くらいが経って、デフレではないという状態にはなったものの、残念ながら 2%からはかなり遠い状況にあるのが現実です。

§15Hitoshi Suzuki

それから、今回、新型コロナ感染症の影響がありましたので、7月の展望レポートにおける物価見通し、これも2022年度は中央値で0.7%と、1%にも至らないということで、大変残念なわけですが、そういう形でどんどん延びています。しかしながら新型コロナ感染症の影響が軽減されていくに従って経済が回復し、それにつれて物価についても再びモメンタムが生まれて、当初の想定よりは時間がかかっていますけれども、目標に向けて動いていくことが期待できることから、現時点において、特にこれについて変更する必要があるとは考えておりません。

§16Question

財政ファイナンス論についてお伺いします。日銀が国債の大量な買入れを続けていることで財政規律が緩むという指摘があります。それに対して、黒田総裁は、金融政策目的で購入しているのであれば、財政ファイナンスに当たらないというような反論をされています。鈴木審議委員は、今の大規模緩和が財政ファイナンスに当たるか当たらないか、この点についてどのようなご見解をお持ちでしょうか。

§17Hitoshi Suzuki

ご期待に沿えるような答えになるかわかりませんが、日本銀行による国債の買入れは金融政策上の目的で行っているものでありますので、政府による財政資金の調達支援が目的である財政ファイナンスではないということだと思います。国債の更なる積極的な買入れを行うこととしたのも、債券市場の流動性が低下しているもとで、債券市場の安定を維持するとともに現在の金融市場調節方針に定める長短金利操作を実現する観点から、イールドカーブ全体を低位で安定させることを目的とするものです。このように、あくまで、金融政策運営上の必要に基づいて実施している措置です。

§18Question

黒田総裁は 6 割買っても 7 割買っても金融政策目的であれば財政ファイナンスにはならないという趣旨のことを仰っていたかと思いますが、その点についても鈴木審議委員は特に問題視されないという立場でよろしいでしょうか。

§19Hitoshi Suzuki

ご案内の通り、イールドカーブ・コントロールを導入してからは、10年物の国債金利がゼロ%程度、これを上下に20bps 程度動くというような説明等があったかと思いますが、そうした形を行うことが金融政策の──金融政策自体は細かく多岐に分かれていますけれども ──大きな柱ということになっています。それに対して、今回はこのような未曾有の危機に対し、財政の資金によって何とか企業、雇用を維持していくということを行っています。それに伴う国債の増発によって、そのままにしておけば長期金利が上昇することになるわけですが、それ(10年物国債金利)をゼロ%程度に維持するためということになりますと、結果的には従来よりも購入額は増えるということです。あくまでもイールドカーブ・コントロールに沿った購入の拡大であるということで間違いないかと思います。

§20Question

地元経済についてお伺いしたいですけれども、懇談会の挨拶では道北経済が依然として厳しい状態ということでしたが、懇談会で旭川の経済界や行政関係者から意見を聞いて、改めて道内経済の状況をどう受け止めたか教えてください。また、コロナの影響下で、道北経済の回復に地元経済界や行政がどのような取組みが必要か教えてください。

§21Hitoshi Suzuki

旭川・道北地域において特に競争力が強い食や観光に対して、国内での外出の自粛、それから厳しい入国制限により、いわゆるインバウンドが殆どいなくなってしまったわけです。業務用の需要や国内外からの観光客が大きく減ってしまったという状況の中で、これが長く続くと大変厳しい状況になると思います。先々については、経済活動の再開が進むにつれて、旭川・道北地域の経済は徐々に持ち直しに向かうとみていますけれども、感染症の経済への影響、感染症がどの程度で収束するか、これはきわめて不透明なために、大きな下振れリスクがあって留意が必要であると認識しています。それ以外は、冒頭のご質問への答えとほぼ重複するかと思います。

§22Question

午前中の講演の中でも、鈴木審議委員が、物価と金融システムの重要性、この二つをしっかりと考えるべきということを仰っていたと思うのですが、2%がかなり遠い中で、日銀が今後も金融緩和を続けていくと、自然に副作用が高まってくると思います。金利が低くなり過ぎると、「リバーサル・レート」になるかもしれません。今、鈴木審議委員の中で、この緩和を続けていく中で副作用を軽減化するために金利を上げなければいけない状況になるか、それを上げる必要性について、どのように考えていらっしゃるのでしょうか。

§23Hitoshi Suzuki

金融機関において副作用があるということは申し上げているわけですが、日本銀行の金融政策は、国民経済の健全な発展に資するということであり、金融機関の経営のために行っているわけではないことは、当然のことです。そして、大きな目標の中に、2%の「物価安定の目標」があり、それが今回の新型コロナウイルスのみならず、様々な危機に晒されることによって、結果的に時間が長くかかってしまっていて、先ほど申し上げたように、2022年度でも0.7%ということを政策委員が予測するという、残念な現状にあると思います。ただし、現時点において、2%の「物価安定の目標」、そして、それを金融システムの安定を維持しながら達成するというのは、時間はかかっていますが、可能性があるということです。そうした中で、副作用というものも、よく私の資料にもありますけれども、いったん顕在化してしまうと、なかなか簡単にそれを治せないということで手遅れになりかねない。これは、過去の日本経済の中で経験があることだと思っていますが、そういうことになってはいけないということです。従って、従来からも、効果と副作用を慎重に検討しながら、日本銀行は金融政策を行ってきたわけです。今後に関しても、更に一層その注意が必要ということではあっても、そのことだけのために利上げをするということは、全体感からして理屈が変なことになるのではないかと考えています。以上