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Bank of JapanPress conferenceSep 2, 2020Masazumi Wakatabe, Deputy Governor

若田部副総裁記者会見(2020年9月2日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

二点質問させて頂きます。一点目は懇談会で寄せられた話に対する印象と感想をお聞かせください。二点目は、佐賀県経済の現状と先行き、課題についての見解をお願いします。

§2Masazumi Wakatabe

本日の懇談会では、当地を代表する行政や経済、金融界の方々から金融経済情勢や地域経済が直面する課題などについて貴重なお話を伺いました。また、日本銀行の金融政策運営についても、有意義な意見交換ができたと感じています。改めて、ご多忙の中、本日ご出席頂いた皆様に、感謝を申し上げます。懇談会の内容は大変盛りだくさんでありまして、全てをこの場で紹介できませんが、席上聞かれたお話をいくつか整理して申し上げたいと思います。まず、現在の当地における景気ですが、新型コロナウイルス感染症の影響から、下げ止まりの動きも一部にはみられるものの、依然として厳しい状態が続いているとの見方が多く聞かれました。企業の資金繰りについては、地元独自の迅速な対応の結果もあって、ひとまず一服しているとの見方が多かったものの、先行きの不透明感や支払い能力への波及を懸念する声が聞かれたところです。こうした中でも、現状について、感染防止に注意しながら社会経済活動をしっかり行っていく「支え愛活動」局面ととらえる前向きなお話も聞かれました。ピンチをチャンスに変える発想で、ウィズ・コロナ、アフター・コロナでの生活様式の変化も見据えて、企業のビジネスモデル変革や事業継承などの構造問題に、地域一丸となって対応していくとの力強いメッセージも頂き、大変心強く感じたところです。

§3Masazumi Wakatabe

日本銀行に関しては、先行きの不確実性が大きい中、地域経済や金融市場の動向にも配慮しながら、政府と連携して適時適切な政策運営をお願いしたいとのお話がありました。また、当地経済において、地域金融機関の役割はますます高まっており、地域金融機関へのサポートや収益への目配りをお願いしたいとのお話もありました。私どもとしては、本日頂きましたご意見等も踏まえて、中央銀行の立場から、物価安定のもとでの経済の持続的成長を実現していくことや、金融システムの安定性を確保することを通じて、当地関係者の努力がより大きな実りへとつながっていくようサポートしてまいりたいと考えています。次に佐賀県経済の現状と先行きですが、こちらにつきましては、金融経済懇談会における挨拶の冒頭でも述べさせて頂きましたように、まず、佐賀県では昨年8月および本年7月の豪雨によりまして、多くの方が被災されたと伺いました。心からお見舞い申し上げます。現状、当地経済は、全国と概ね同様に、新型コロナウイルス感染症の影響から、持ち直しの兆しはみられるものの、全体としては弱い動きが続いていると認識しています。当面は、感染症の影響が持続するもとで、消費や生産の短期的な落ち込みにとどまらず、企業収益や雇用・所得環境の悪化を通じて、企業の設備投資や家計の消費マインドが低下するリスクに留意する必要があります。

§4Masazumi Wakatabe

私どもとしても、当地の金融経済情勢を丹念に分析しながら、当地の金融・経済の健全な発展をサポートしてまいりたいと考えています。先行きの展望では、こちらも金融経済懇談会で述べた点ではございますが、佐賀県でも、人口減少や高齢化といった構造問題に直面しています。もっとも、こうしたもとでも経済成長は可能と考えています。その際、将来の成長に向けて、当地では様々な取り組みが実践されているのも心強いことです。例えば、豊かな自然資源と福岡という一大消費地に隣接する地の利を活かして、官民一体となって第一次産業の振興と販路の拡大に注力されています。また、当地は日本初の反射炉を生み出すなど、わが国の産業近代化の先駆者であり、現在でもその進取の気風を継承した製造業が集積しています。加えて、近年ではAIやIoT・ROBOTICS等の最先端技術を用いた事業を展開する企業も増加しています。このように、多種多様な産業の集積は、今後の当地経済の成長の大きな原動力となると考えています。更に、豊富な観光資源も大きな強みです。足許では、感染症への対応として、オープンエアで楽しむ長期滞在型旅行なども提案されており、こうした取り組みは、ウィズ・コロナ時代の新たな観光の創出につながると考えます。

§5Masazumi Wakatabe

これも、挨拶で述べましたが、佐賀の歴史を紐解くと、松浦党のアジア貿易、伊万里焼などの南蛮貿易、長崎御番といった、海外との関りが深い歴史を有しています。また、佐賀藩の名君、鍋島閑叟に代表されますように、海外からの知識をどん欲に摂取し実践すべく、教育・科学技術の振興に力を入れてこられました。こうした、人々の進取の精神によって、佐賀県が益々発展することを期待します。

§6Question

午前の講演では、ウィズ・コロナ時代の金融政策のあり方について、検討を深めていくべきだと仰っていました。具体的にはどういったところが課題になるのでしょうか。お考えをお願いします。

§7Masazumi Wakatabe

懇談会でも申し上げたことですが、金融政策の見直しは、中央銀行によっては定期的に行うところもありますが、実際は不断に検討しているということだと思います。同じところにとどまるためには動き続けなければならないということです。物価の安定、あるいは金融システムの安定という目標はいつも同じであっても、それを達成するためにその時々で何が最適なのかをいつも考えなければならないということです。2019年6月の青森県の金融経済懇談会でも紹介しましたが、そこでは主に学者の意見という形で、海外での様々な金融政策の検討の話をしました。もちろん、その背景としては、講演でも述べましたが、これまでの低成長・低インフレ・低金利といった、いわゆる「日本化」と呼ばれる現象があり、名目金利が下限に到達しやすくなったということが挙げられます。加えて、今回のコロナショックで人々の雇用と所得が突然蒸発するということが起きましたので、そうしたことを踏まえて、これまでの「日本化」といわれる経緯に加えて、今回の危機に対してどう対応するか、というところがポイントになってくるだろうということです。

§8Masazumi Wakatabe

この辺りは、具体的にどうかということを申し上げるのはなかなか難しいと思いますが、私自身の考えでは、物価の安定も金融システムの安定も、これは国民経済の健全な発展に資することが必要ですので、例えば、海外での検討事例も踏まえて言えば、雇用と所得にもう少し重点を置いたような金融政策の運営が望ましいという声もあるかもしれません。また、実際、今回FRBが行った金融政策のレビューを受けてのステートメントの改訂は二つ柱があり、一つの柱は彼らがマンデートとして掲げている雇用の最大化をもっと強く意識するということです。これまでの失業率からのディビエーション、つまり乖離だけではなくて、失業率のショートフォール、不足というのを問題にするのだということで、「失業率を下げていくのだ」、「雇用を増やすのだ」という決意を非常に強くしたところです。純粋に理論的な観点からすると、例えば、所得そのものにターゲットを置くような名目GDP水準目標とか、色々なこともあります。ただ、こちらはアカデミックな議論としてあるということを紹介したまでで、日本と単純な比較をすることはできないですが、実際のところ、今起きている状況というのは世界共通で、雇用と所得に影響がある、そしてそのもとで、物価の安定に対して脅威があるということですので、海外での事例は非常に参考になるのではないかと思います。

§9Question

先ほど「政府と連携して」という意見が現地の要望からもあったということでしたが、安倍首相が先週辞意を表明されて、政権がどのようになるか、これから固まっていくところだと思いますが、日本銀行の金融緩和は、アベノミクスと一緒に連想されているというか、パッケージの部分もあったと思うので、首相が変わることがどのように影響するか、日銀が政策を見直すような機会になるのかどうか、という点をどうお考えか教えて頂けますでしょうか。

§10Masazumi Wakatabe

政治情勢について私の立場からコメントするのは差し控えたいと思います。そのうえで、安倍総理につきましては、わが国と国民のために 7年8 か月にわたる激務を遂行されたことには深く感謝し、ご苦労様でしたと申し上げたいと思います。一日も早い病気のご快癒をお祈りしたいと思います。後任の方がどうなるかということとは全く関係なく、現状において望ましい政策は何かということを考えたときに、日本銀行としては、今行っている政策が、正しい適切な政策であると考えています。2013年1月には、日本銀行における金融政策決定会合で正式に物価安定の目標を 2%にすることが決められるとともに、共同声明が公表されましたが、そこで決められた 2%の「物価安定の目標」を実現するために、デフレから脱却するために金融緩和政策を行う、そして、政府の側としては、機動的な財政政策と民間投資を呼び込む成長戦略を行うなどというパッケージから出発しました。基本的には、このパッケージは、標準的な、世界でも主流の経済政策を束ねたものであり、デフレから脱却するという観点、あるいは持続的な経済成長を達成するという観点からすると、全くもって望ましいものであると私自身は考えていますし、日本銀行もそのように判断して、2013年以降の金融政策を遂行してきています。

§11Masazumi Wakatabe

従って、この外的環境がどう変化したかということについて、政治的な考察はせずに、経済の現状にとって何が望ましいのかということを考えるならば、デフレからの脱却については、デフレではない状況にはなりましたし、その過程で雇用が生み出され、色々とご批判はあっても、名目GDPが順調に成長するようになりました。コロナ前までの状況はそうでしたので、そうした状況を踏まえたうえで、なおかつコロナ後で、雇用と所得が非常に大きなダメージを負っているというところでいうならば、日本銀行としては、政府と連携・協調し、一体となって、財政・金融政策を運営していくということです。日本銀行は金融政策を運営し、政府は財政政策、成長政策、あるいは公衆衛生政策、その他の政策を行っていくというように、分業と適切な役割分担のもとで行っていくということです。従って、私自身の考えでは、現状の経済における課題というのはきわめて世界共通のものであり、それにどう対応するかというのも、企業の資金繰り、流動性の確保、あるいは政府におかれては所得の補償・補填であるというようなことを行っていくという点において、様々な転換を進めていく――デジタルトランスフォーメーションやテレワークを進めていく ――という点から考えてみて、政府と日本銀行の連携・協調を進めていくということが適切であると考えています。

§12Question

今の質問に関連してですが、今回新政権に変わる見込みですが、ポリシーミックスを進める重要性についてどのようにお考えなのか、また、今ご指摘がありました共同声明も、これは維持していくべきものだというようなお考えでよろしいでしょうか。

§13Masazumi Wakatabe

ポリシーミックスは、今やっている通りですので、少なくともこの枠組みを変えるということは考えていません。現状、多少、一服感はあっても、経済の状況は依然として予断を許さない厳しい状況が続いていますし、ここから先、新型コロナウイルス感染症の動向如何によっては下振れリスクも大いにあり得るという状況ですので、その意味では、現在行っている政府との連携・協調は最善の政策であると信じています。共同声明につきましては、もちろん政府がどう考えているかということにもよりますが、現状で私自身は共同声明の少なくともスピリットというもの、つまりデフレから脱却して持続的な経済成長を実現する、これまで「失われた 20年」といわれたような長期停滞の過ちを二度と繰り返さないというスピリットの部分は、継承されるべきであるし、継承されていくであろうと考えています。

§14Question

午前中の講演の中で、若田部副総裁は「当面はインフレ率が低下するリスクに警戒する必要がある」ということをいわれていますが、名目金利が上がらなくても、インフレ率が下がると、実質金利は上がると思うのですが、先行き実質金利が上がってきたときに、名目金利を更に下げなければならないという議論にもなるかと思います。この辺を現状でどう思っているかお伺いさせてください。

§15Masazumi Wakatabe

現状では、下振れリスクという形で申し上げていて、実質金利を考えるときにも、短期的な実質金利というよりは、中長期のインフレ予想に従ったような実質金利を考えるべきだと考えます。その限りにおいて、そこがどうなるかというのは最大の注目点の一つで、そのような形で実質金利が急上昇することがないように心がけなければならないと考えています。その場合には、いわゆる名目金利の部分をどうするかという部分については、色々と選択肢はあると思います。単純に金利そのものを操作することだけではなく、資産購入であるなど、ほかの手段を通じて、実質上、名目金利の低下に働きかけるような政策がないかということを検討するのだと思います。その限りでは、リスクは当然あって、それに対して最大限の注視をしていますが、そのときのポイントとなるのは、中長期のインフレ予想、その背後にある、例えば成長期待などであり、それに応じて名目金利がどのような水準にあるのかということを考えなければならないということになるかと思います。

§16Question

講演の中で仰っていた一時的とされる外的なショックは持続的な停滞に結びつく可能性というところですが、履歴効果に触れられていて、人々の態度とか、子供の健康状態に対してそういった効果をもたらしかねないということを言及されていますが、具体的にはどのような状況を懸念されているのでしょうか。ここをもう少し掘り下げてお考えを伺えればと思います。

§17Masazumi Wakatabe

もちろんワクチンや治療薬が開発されて、あるいは新型コロナウイルス感染症がこういうものであるという、ある種、今覆っている不確実性のベールが剥がれてその正体がみえてくるということになると、おそらく人々の間では、今ある不確実性が「リスク」みたいなものになってくると思います。そのようになる可能性は当然あるわけですが、そうではなく、この不確実な状況がもう少し続くと、ある種の行動変容というのが、自発的または自生的に起こり得るということです。その一つの典型が、人々があまり密集しないようになることが長らく続いていくということが起きる、あるいは、先ほど申し上げた大きな経済の転換の中で、所得や雇用に対して非常に不安を感じるということになります。そうすると、すぐに考えられるのは、家計の場合は消費支出を引き締めて貯蓄率が上がってくること、あるいは企業の場合は内部留保を増やしてもう少しキャッシュフローを増やす形で設備投資を引き締めるということが起こり得ると思います。そうしたことが起きるとその次に何が起きるかというと、家計が支出をしない、あるいは企業が設備投資をしないということが起きると、人々が持っている例えば人的資本――人々の技能であるとか、知識であるとか、技術であるというもの――がだんだんと陳腐化していく、あるいは、そうしたものを蓄積する機会を失ってしまいます。

§18Masazumi Wakatabe

あるいは、企業が解散、廃業、倒産という憂き目に遭うと、今度は、組織資本――企業そのものに蓄えられていたノウハウや技能、知識というもの――が失われてしまうということが起きます。そうした資本を蓄積するには投資が必要であり、長い年月での蓄積が必要となるため、そうしたものが蓄積されないと、今度はそれが長期にわたって日本の成長余力を下げていくということが履歴効果としていえます。履歴効果自体は、ラリー・サマーズなどが言っていた長期停滞論とともにもう一度復活してきたり、80年代に欧州辺りで失業率が高止まりして若年層がなかなか仕事に就けない、それが人的資本を毀損するというような話がありましたが、似たような形で続いていく可能性はあると思います。日本の長期停滞で就職氷河期で就職できなかった人がキャリアアップに苦労しているというようなことをみると、そのことは非常に厳粛に受け止めなければならないだろうということです。投資に関しては、例えば今週のThe Economist誌にも出ていますが、ウルリケ・マルメンディーアというUCバークレー校の先生が言っているのは、大きな経済ショックや経済危機、例えば昔の大恐慌や大インフレが起きると――あるいはリーマン・ショックも多少そういうところがあるのですが――、先ほど申し上げたメカニズムが今度は金融資産への投資行動にも影響を及ぼすということがあり得ます。

§19Masazumi Wakatabe

そうすると、不況期や大きな経済危機のときにそうしたショックを受けた人は、投資行動が非常に慎重化するということが起きます。それが資産価格の形成に負の影響を与えることになり、それが経済にまた負の影響を循環、フィードバックしていくということが考えられます。健康に対する影響というのは、参考文献でも挙げた話として、私どもが持っているデータは 1918年~1920年にかけてのいわゆるスペイン風邪と呼ばれているパンデミックですが、そのときは若年層にものすごい影響がありました。今回の危機と全く同じように比較はできませんが、パンデミックが起きている最中に、例えば母親の胎内にいた子供は、健康上の問題を抱える可能性もあるということです。これについては日本人の学者、研究者も含めて、胎児がどのような影響を受けるかという点について、後々その人の学業成績や健康状態、ひいては所得や雇用環境に負の影響を及ぼしていくという研究があるので、そういった研究も踏まえつつ、できるだけ私ども、政府、中央銀行では、経済の影響をミニマムかつ長期間にわたらないようにするということが大事だという意味で申し上げました。

§20Question

前段の方で、海外の取り組み、雇用の最大化を重視するというFRBの取り組みを紹介されていて、日本と単純比較はできないが、海外の事例は非常に参考になるというように仰いました。これを踏まえて、日銀におかれても、そうした雇用・所得を目標であったり、ターゲットにするような政策を今後入れる検討を進めていくということなのでしょうか。

§21Masazumi Wakatabe

それを明示的に考えているという段階では全然ありません。物価の安定と金融システムの安定が日本銀行法で託された私どもの使命ですので、まずはそれが日本銀行としての達成すべき最大の目標です。ただ、なぜ物価の安定であるとか金融システムの安定を目指しているのかというと、国民経済の健全な発展に資するためですので、物価の安定や、金融システムの安定を通じて雇用や所得にも影響が出るというのは当然の話です。従って、それ自体を目標とするという議論ではなく、やはり私どもが行っている政策はそういうところにもインプリケーションがあるということをまず踏まえたうえでの議論になるかと思います。実際にその議論を進めるとか進めないということも決まっている話では全くありません。レビューというときに、今、目標の話が非常に注目されていますが、目標の話という大きなストラテジーの話と、それを実現するためのツール・政策手段の話、そして更にそのことをいかに家計、企業、公衆に伝えていくかというコミュニケーション、この三つの部分を通常レビューと呼んでいます。この三つについては日本銀行としても、まさにツールの問題、あるいはコミュニケーション、そして目標として何が望ましいのかということを不断に検討しているところです。

§22Masazumi Wakatabe

ただ、雇用の目標化というようなことになると、それは現行の日本銀行法を超えた議論になってくるのではないかという気もしますので、それについては私からはコメント致しません。

§23Question

本日の金融経済懇談会の内容に戻ってしまうのですが、地域の金融機関の収益への目配りというようなお話があったと触れられていました。それにあたって、マイナス金利政策の今後の継続の行方と、地銀再編の流れについての所感を伺えればと思います。

§24Masazumi Wakatabe

マイナス金利政策については、当面、これを見直すということは全く考えていません。もっとも、これは政策委員会で決めることですので、私がどうこうするというよりも、政策委員会の中での議論で決まっていくと思います。しかし、現状でマイナス金利政策について見直すということは、少なくとも私自身は思っていません。二番目の話、地銀の収益性を巡る環境を巡っては、これから先、構造問題として色々と抱えていることにどう対応すべきかということがあり、再編というのも、一つの選択肢であることは十分承知しています。ただ、再編する、しないというのは、再編・統合という話ありきではなく、地域銀行の方々は、まさに民間の金融機関として経営されているので、そうした民間の方々のイニシアチブのもとで、地域金融機関の再編であるとか統合ということが行われるというのが望ましい形だと思っています。佐賀県について、私自身は、それが必要であるか、必要でないかということは、申し上げる立場にないので、コメントは差し控えさせて頂きますが、地域金融機関は、今、新型コロナウイルス感染症で、大変重要な存在であると、改めてその役割について脚光・注目を浴びています。しかし、それが長く持続可能な形で、その地域において金融サービスを提供するためには、これから先、様々な構造的な問題に対して取り組み、経営改善の努力を進めていかなければならないのではないかと思います。

§25Masazumi Wakatabe

そうした努力・改善というのはもう進んでいるとは思いますが、再編・統合はそうしたものの一環として、あくまで民間金融機関の主導のもとで行われていくものではないかと考えています。

§26Question

実質金利を下げるうえでは、資産の購入と利下げ、両方とも同等の効果を持ち得るのかという点と、FRBのポリシーレビューでアベレージ・インフレーション・ターゲットという概念を導入したと思うのですが、これについての評価、とりわけ日銀でもオーバーシュート型コミットメントという、ある意味類似した概念を既に導入していると思うんですけれども、これが今後、日銀やほかの中銀の政策運営議論に及ぼす影響についてお願いします。

§27Masazumi Wakatabe

まず前段の話ですけれども、ブレイクダウンしてどちらがどれくらい効くのかという話は、私からはコメントは差し控えさせて頂きます。私自身の考え方は、金融政策はパッケージで導入されているものなので、どこがどのように効いているのかというのは、なかなか分別しがたいところがあるのではないかと考えます。例えば、イールドカーブ・コントロールということを考えるときに、イールドカーブ・コントロールの根っこの部分は、今マイナス金利になっていますので、イールドカーブ・コントロールの効果とマイナス金利の効果は、どれがどれくらいなのかというのはなかなか申し上げにくいのではないかと思います。二番目のアベレージ・インフレーション・ターゲットの話ですけれども、これは、ある種、歴史的な決定であると思います。それをどこまで他国において応用可能であるかということは差し置いておき、日本銀行においても、オーバーシュート型コミットメントという形で、少なくともオーバー・ザ・サイクルという言い方で、景気循環の波はあるものの、2%を安定的に超えるまで、マネタリーベースを増やしていく形で 2%をあえて超えるということも視野に入れているということでは、アベレージ・インフレーション・ターゲティング的な要素もないともいえません。

§28Masazumi Wakatabe

その背景にあるのは、物価水準目標のようなもので、物価が一定の物価上昇率で上がっていくときに、その経路から乖離して下がってしまったところでは、もう少しインフレ率が上がってその水準・経路に戻らなければならない、という考え方が背景にあると思います。更に、例えば先ほど申し上げた名目GDPの水準目標と、理論的には同等のようなものになってくるわけで、失われた所得や雇用というものを取り戻すためには、一時的にもっと強力な財政・金融政策を導入しなければならないのではないかという議論があることは承知しています。その意味では、歴史的な決定ではありますが、これが具体的にどのようになっていくかは、今後の展開をみていかなければならないと考えます。ここから先、例えば目標はそのように定めましたが、金融政策では、やはりそれを実現するツールの問題であるとか、あるいはコミュニケーションという問題があるので、目標を変えることがどれくらいの効果を持つかということについては、慎重に検討していきたいと考えています。以上