片岡審議委員記者会見(2020年9月3日)要旨
Full text
§1Question
片岡審議委員に三点質問をさせて頂きたいと思います。一点目に、今日の会議の模様を教えてください。二点目に、今日の会議を踏まえて、沖縄県経済についてどのような見解をお持ちかをお聞かせください。三点目に、自民党総裁選に出馬表明された菅官房長官が、地方銀行について数が多過ぎるとの見解を示されていますが、この点についてのご見解もお聞かせください。
§2Goushi Kataoka
本日のオンライン形式の金融経済懇談会では、沖縄県の行政、経済・産業界を代表する方々にご参加を頂きました。沖縄県独自の緊急事態宣言が延長される厳しい情勢の中で、本日ご出席を頂いた皆様に、改めてこの場をお借りしまして御礼を申し上げたいと思います。懇談会では、県内の金融経済情勢について大変貴重なお話を伺ったほか、日本銀行の金融政策についても、大変有意義な意見交換ができたと感じています。私からは、懇談会での議論につきまして、印象に残った点を中心にお話をいたします。まず、沖縄県の経済情勢に対する見方ですが、昨年までは観光業を中心に好調であったものの、足許では、新型コロナウイルスの感染拡大の影響から、リーマンショックを超える甚大な落ち込みとなっているとの声が多く聞かれました。特に、県の主力産業である観光関連産業に大きな影響が出ているほか、他の幅広い産業にも影響が及んでいると伺いました。こうした中、中小・零細企業は、政府や金融機関からの支援をもとに、何とか息をつないでいる状況で、ぎりぎりの正念場である、とのご指摘もございました。また、コロナの影響が長期化する中で、将来の見通しが立たないことを危惧する声も多く聞かれました。見通しが立たず、需要がコロナ前に戻らないとの見方が浸透しますと、閉店や廃業が増えていってしまうのではないかと懸念する声がございました。
§3Goushi Kataoka
もっとも、感染予防対策がしっかりと行われつつ、経済振興策が着実に実行されることで、経済が段階的に底上げされていくことを期待する声もございました。沖縄県は、第三次産業の割合がかなり高く、中でも観光業が主力産業となっています。その観光業では、需要回復が喫緊の課題ですが、あわせて、生産性向上やアフターコロナを見据えた取組みが重要であるとのご意見もございました。事業者の経営体力が厳しくなっている中では容易ではないものの、観光の量から質への転換を促進させる具体的な取組みが求められるとの指摘もありました。金融機関ないしは企業からは、日本銀行の「新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ」について、助けになっているとの声が聞かれました。金融機関の方からは、コロナの影響が更に長期化すると考えられる中、これまで以上に県内企業に寄り添いながら、資金繰り支援や経営改善支援を行っていく必要があり、特別オペの期間延長や、必要に応じて新たな措置の導入を求める声が聞かれました。こうしたご意見を踏まえまして、私どもとしましては、当面、感染症の影響を注視し、必要があれば、金融政策面の対応を躊躇なく講じていく方針であるほか、那覇支店を中心に、県内経済の回復や諸課題の解決に向けた取組みに、少しでも貢献できるよう努めてまいりたい、と申し上げた次第であります。それから二点目のご質問の沖縄県の経済情勢についてです。
§4Goushi Kataoka
まず、沖縄県の経済情勢についてお話をいたします。8月12日に那覇支店が公表しました管内金融経済概況では、「足もとの県内景気は、一部に回復の動きがみられるが、新型コロナウイルス感染症の影響により、厳しい状況が続いている」との認識をお示ししています。沖縄県の特徴を踏まえてやや詳しく申し上げますと、沖縄県の産業構造は、建設業や製造業などの第2 次産業の比率が 2 割弱にとどまる一方、観光業および関連サービス業を含む第 3 次産業が8 割強を占めています。このため、国内外の人の移動が大幅に制限されている今回のコロナ禍においては、全国で最も大きなダメージを受けている地域の一つと考えられます。観光面では、ピーク時には月間100 万人を超えていた沖縄県への観光客数は、本年5月には約 4 万人にまで急減し、県内主要ホテルの客室稼働率は約 3%と過去最低となりました。また、個人消費も外出自粛の影響から大きく減少しました。こうした中、設備投資や住宅投資は弱めの動きとなっているほか、雇用・所得情勢は悪化しつつあります。6月以降は、観光需要や個人消費に幾分持ち直しの動きがみられていましたが、7月入り後の感染再拡大に伴い、再度、沖縄県緊急事態宣言が発出され、9月初旬まで 2 回にわたり期間が延長されています。こうした中、観光需要や個人消費も不透明な状況が続いています。
§5Goushi Kataoka
先行きについても、感染症の収束を見通すことが依然として困難である中、不透明感の強い状況が続くとみられます。最後に、三点目のご質問の件ですが、個別の要人の方のご発言についてコメントすることは差し控えたいと思います。そのうえで、一般論として申し上げますと、地域の人口や企業数が減少する中で、地域金融機関間の競争が激化しています。このことは地域金融機関の収益性を低下させる構造的な要因となっています。このため、地域金融機関にとっても、収益性と経営効率性を向上させていくことが大きな課題であるという認識をしています。こうした課題を克服するためには、金融機関の間の統合や連携も選択肢の一つになり得ると思います。その場合、自らの営業基盤や収益力の展望などを踏まえたうえで、連合や連携が自らの収益力向上につながるかどうか、金融仲介機能の適切な発揮を通じて、顧客や地域経済にプラスの影響をもたらすかどうか、こういった観点から、その意義を見極めていくことが重要だと考えています。
§6Question
二点あるのですが、一点目は、講演の中で、政策金利を物価目標と具体的に関連付けて、物価が目標と乖離した場合に追加緩和を約束するという形でのガイダンスの強化について、片岡委員のご意見というふうにあったところです。既に何年も物価が 2%の目標から乖離し続けている中で、より有効性を高めるガイダンスにするために、例えばどこまでの乖離を容認するか、より具体的な条件を付ける可能性があるのか、ガイダンス強化のイメージについてもう少しお考えをお聞かせ頂きたいというのが一点目です。二点目ですが、先日FEDがポリシーレビューを公表しまして、より雇用に重点を置いた政策運営をするということと、アベレージ・インフレーション・ターゲットという概念を導入するということです。かなり思い切ったレビューなのかなと思ったのですが、これについてのご所見と、日銀及び他の中央銀行の政策運営に与える影響について、お考えをお聞かせください。
§7Goushi Kataoka
一点目については、私自身は従来からコミットメントの一つの案として、金融緩和と物価安定の目標と実際の物価との乖離の二つをある程度紐づけるような形で、追加緩和等を行っていくようなガイダンスとしてはどうかと申し上げているわけです。足許はじりじりと物価上昇率がゼロ近傍に近づいてきているような状況で、講演の中でもコロナ禍において物価下落の圧力がより強まるのではないかという懸念を申し上げました。けれども、現状、今私が申し上げたようなコミットメントは、ボードメンバーの中では採用されていない状況ですので、まずはやってみるということが重要なのではないかと私個人は考えています。二点目については、FRBの平均インフレ目標、メイクアップ戦略という話だと思います。こうした話については、まずグローバル金融危機後に先進国のおかれている状況が、変化においては重要になってきているのではないかと思います。つまり、自然利子率が趨勢的に低下する中で、政策金利が金利下限制約に達しやすくなっている中で、金融政策の有効性と信認をどのように高めるかという話が共通の課題になっているということです。今般、FRBがインフレ目標について、時間を通じて平均して 2%を目指すことにしたという話は、今申し上げた課題を踏まえて行われていた金融政策の枠組みレビューの結果だという認識を持っています。
§8Goushi Kataoka
このもとで、インフレ率が継続的に 2%を下回った場合には、当面の間、2%を適度に上回るインフレ率を目指すことが適当とされているということです。この点、わが国も同じ課題に直面しているというのはご案内の通りですが、日本銀行もその課題の克服のために様々な取組みをしているということです。特に、2016年9月には、それまでの政策の経験等を踏まえたうえで、「総括的な検証」を行い、現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みを導入しました。この枠組みの中では、消費者物価指数の上昇率の実績値が安定的に 2%の「物価安定の目標」を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続するという、オーバーシュート型コミットメントが柱の一つになっており、物価上昇率が景気の変動などをならしてみて、平均的に 2%になることを目指しています。
§9Question
二点お伺いします。一点目が先ほど沖縄の地域について、コロナのダメージ、大きなダメージを受けた地域の一つというふうなお考えがありましたが、沖縄の産業構造自体が、第三次産業が主力というところもあるのですけれども、こうした外的要因に左右されやすいという産業構造についてどのようにお考えなのかもう少し具体的にお伺いできればと考えております。もう一点は、現政権下で進められてきた大胆な金融緩和の一環で超低金利政策がとられていることから、地銀の収益環境が厳しさを増しているとの指摘もありますが、この現政権下での金融緩和政策についてどういうふうにお考えなのか、地銀に与えた影響等々もお聞かせ願えればと思います。
§10Goushi Kataoka
一点目は、外的環境に左右されやすい産業構造というお話だと思いますが、これは非常に難しい問題だと思います。特に、今回のコロナの騒動というのは、経済へのインパクトの特徴として、従来のリーマンショック等々の経済危機とは違い、経済の体系内で起こったショックとは違う話だと思います。例えば、株価が大きく下落し、それによって資産市場の影響が金融市場に及ぶ問題とか、実体経済に波及するとか、そうしたタイプのショックとは全く異なり、コロナという状況が供給と需要の両面から経済とは全く関係ないところで外部的に起こるという話で、ご質問の件は、とても難しい状況だと思いますし、こうしたショックを念頭に産業構造をどうしていくのかといったことを考えるのは非常に難しいといった認識を持っています。二点目については、安倍政権のもとで、大胆な金融政策が行われているわけですが、こうした金融政策は、2%の「物価安定の目標」の達成という観点において、まだ道半ばの部分はあるかと思います。けれども、デフレの状況にあった日本経済を、物価がマイナスではない状況に持っていったという意味では、非常に効果があると思います。特に物価とつながっている実体経済、特に雇用環境については、失業率もアベノミクス下において 2%台まで低下しましたし、賃金等の面においても従来の状況下とは大きく変わりました。
§11Goushi Kataoka
それから、資産市場、株価や債券の状況についても、為替についても同じですが、アベノミクス以前と比べると大きく環境が変わったというのは、皆様方ご承知の通りだと思います。こうした変化の大きな要因の一つは、私自身は、金融政策の転換によるところが大きかったのではないかとみています。
§12Question
講演で政策金利の引き下げもお話しされていて、ただ一方で、現実的に利下げ余地があんまりないのではないかというふうにもみえていて、お考えとして伺いたいのは、どの程度の利下げをすれば政策効果があるとお考えなのか、そのイメージがあれば教えてくださいというのと、あと、このコロナ禍でリスク資産の買入れとか、今の現状の枠組みで十分対応できるとお考えなのか、それも併せて教えてください。
§13Goushi Kataoka
一点目のどの程度の利下げをという話につきましては、金融政策の決定に関わることですので、この場でのコメントは差し控えたいと思います。それから、二点目なんですけれども、こちらはどう考えればいいかですか、もう一度質問をお願いしてもいいですか。
§14Question
政策金利の引き下げ以外の政策手段、リスク資産の買入れとか、現状の枠組みについて、これでコロナの対応として十分とお考えなのかを教えてください。
§15Goushi Kataoka
現状の枠組みで十分なのかというご質問であると思いますが、私自身の講演録をご覧頂いてお分かり頂ける通り、十分ではないという認識を持っています。コロナ対策オペについては、現状の環境下、当時の政策変更の環境下においては、十分だという認識を持っていますし、政策効果が上がっているという認識を持っているのは、講演録で書いた通りです。ただ、今後の展開如何によっては、更なる流動性の供給ないしは、その他様々な対応策を講じていく必要も当然ながら頭の中には考えているということです。そして、現状の枠組みで金融政策の目標としての 2%を達成できるかどうかという話ですが、展望レポートにおいても、物価上昇率が見通し期間中に 2%に到達していない現状ですので、そうした状況の中では、やはり枠組みの変更といった話を考えていく必要があると認識しています。
§16Question
今の質問の中で、今後更なる流動性の供給というお話がありましたが、このコロナ禍の間でかなりの流動性の供給をしているのですけれども、本日、日米ともに株価が非常に上がっておりまして、この流動性の供給のところが株価に与えた影響というのをどのようにご覧になっているかということをお伺いしたいのと、あともう一点確認なんですけれども、先ほどの政策金利の利下げはちょっとお話しできないということだったのですけども、基本的にはやはりマイナス金利の深掘りという理解でよろしいかどうかと、この二点をお願いします。
§17Goushi Kataoka
流動性供給と株価との関係につきましては、様々な複雑なメカニズムが背景にあるという認識を持っています。一般論として、株価の動向は、その企業ないしは経済全体のファンダメンタルズの将来像といったものを先取りするという動きがあります。ですから、株価が上昇しているということは、これは一つの側面としてみれば、日本経済の地力はそれなりにあるのだけれども、現状はこのコロナ禍という特殊要因によって押し下げられている側面が強いと投資家の方々がみている側面があるのかもしれないと考えています。次に、政策金利の話についてですが、私自身、例えば金融政策決定会合の直近のステートメントの脚注等にも書かせて頂いていますが、イールドカーブ・コントロールの枠組みの中で、短期金利それから長期金利について全体的に引き下げるといった認識を持っています。ですから、マイナス金利の深掘りのみにこだわって、フォーカスしてお話をしているわけではないことをご理解頂ければと思います。
§18Question
片岡審議委員が前回講演されたとき、あと決定会合の声明文の中でも明らかですけれども、財政との協調の必要性というのをこれまで言われてきたと思います。今回、今日の講演の中ではあまりおっしゃっていらっしゃいませんでしたけれども、それがなぜなのかということと、新政権がこれから発足することになると思いますけれども、その後の協調ということについてどういうふうに考えているかをお願いします。
§19Goushi Kataoka
一点目の財政との協調の必要性についてですが、もちろん講演には時間的な制約がありますので、お話することが色々ある中で、財政と金融の協調が必要だという話がないからといって、必要でなくなったといった認識をもっているわけでは全くありません。必要だという認識を持っているということはご理解頂ければと思います。二点目の政権のお話については、直接的に何か私から申し上げることはないわけですが、足許の経済状況という意味において一般論として申し上げますと、講演の中でも触れさせて頂きましたが、4~6月期のGDPはリーマンショックを超える未曽有の落ち込みになっていて、やはり今年に入ってから、コロナ感染症の影響で日本経済は一変してしまったわけです。こうした状況の中でやるべきことは、政権が代わったとしても、私自身、財政政策と金融政策の両輪によって総需要を刺激して、ないしは現在困っておられる方のために必要であれば流動性を供給する等の様々な対策を講じていくという方針は全く変わらないものだという認識をもっています。ですから、そういう状況の中においては、おのずとやるべき方針というのは、固まっているのではないかという認識を持っています。
§20Question
二点あります。今日の講演の中で追加緩和することによって物価目標の達成が早まり副作用を小さくすると、そういう発言をされていましたけれども、実際に金融機関への影響などを懸念する声が日銀の中にも多いと思うのですが、追加緩和をする場合なんですが、副作用対策を合わせてする必要があるかどうか。その辺に関するお考えが一点目です。二点目ですが、今年2月の会見では、現在のコロナ禍で追加緩和をすぐにやるべき状況ではないと発言されていたのですが、本日の講演での物価等への分析も踏まえて、現状は直ちに行動を起こすべき状況とお考えか、その辺ご所見をお願いします。
§21Goushi Kataoka
一点目については、追加緩和を行った場合に金融機関等々に対して、副作用を軽減する政策を同時に行うべきなのかどうかという話だと思いますが、私自身はそうした認識は今のところ持っていません。二点目ですが、前回の金融経済懇談会の際に、私自身、コロナ禍の状況を踏まえて、金融緩和を行うかどうかといったご質問に対して、現状、状況を精査する必要があると申し上げました。今回、ややトーンが変わっていますのは、当然ながらコロナ禍においてやはり経済への影響とか感染症の状況といったものが、前回の講演時と比べますと状況が大きく変わってきているという認識がありますので、そうしたことを踏まえてということだとご理解頂ければと思います。
§22Question
沖縄県経済に言及した部分で、当面は大幅に落ち込んだ景気の立て直しが喫緊の課題だというふうに講演でご指摘になっておりました。中長期的な課題についても言及されておりましたけども、景気の短期的な立て直しに必要な要件を片岡審議委員はどのようにお考えになっておりますでしょうか。
§23Goushi Kataoka
短期的な景気の下支えということにおいては、企業の方々に対しては資金繰りの支援ないしは様々な負担軽減策といったものが柱の主軸になってくると思いますし、家計の方々に対しては、定額給付金のような給付金を配るとか、ないしは減税策といった話が主軸になってくると思います。ですから、従来政府ないしは日銀が行ってきた経済対策がまず基本になってくるのではないかという認識を持っています。併せて、コロナ感染症の影響の先ができる限りみえるような形で、こちらも政府が既に取組んでおられるとは思いますが、ワクチンの開発ないしは特効薬等々の見通しですとか、そうしたものへの技術協力や研究開発といったものが重要だという認識を持っています。
§24Question
株価の関連でお伺いしたいのですけれども、本日、東京株式市場、非常に上昇して、新型コロナの感染拡大前の水準まで上がっていると思うんですけれども、これの関連で、一部の指摘で、上昇している一方で実体経済と乖離しているんではないかと、そういう指摘もあると思うんですが、こうした指摘に対する受止めという点で、お考えをお聞かせ願えますでしょうか。
§25Goushi Kataoka
株価と実体経済との関係については、名目成長率と例えば金利との関係といった話と同様で、判断が難しいところだと思います。現状、株価が上がってるからといって、それがすぐバブルにつながるとか、そうした認識は、私は微塵も持っていません。先ほど申し上げたように、株価には様々な解釈が可能ですが、私自身は、先々の経済に対する期待感をある意味表しているものではないかなという認識をしていますので、特段何か問題があるという格好をみているわけではございません。以上