総裁記者会見(2020年9月23日)要旨
Full text
§1Question
本日の懇談会で寄せられました意見や要望等に対する所感をお伺いさせてください。また、関西経済の景気の現状と先行きに対する所見をお伺いできればと思います。宜しくお願いします。
§2Haruhiko Kuroda
本日の懇談会は、新型コロナウイルス感染症の影響が続く中で、例年とは異なりオンライン形式での開催となりましたが、関西経済界を代表する方々から、わが国および関西の経済・金融の現状と課題についてのお話、あるいは日本銀行の金融政策運営に関する率直なご意見、ご要望を数多く頂き、大変有意義な意見交換ができたと思います。この場をお借りして、改めて御礼申し上げます。席上で伺ったお話やご意見、ご要望について、私なりに三点に整理しながら、印象・感想を申し上げたいと思います。第一に、新型コロナウイルス感染症の影響を受けたインバウンド需要の減少と関西経済への影響です。これまで関西経済を支えてきたインバウンド需要は、足許で、大きく落ち込んだ状況が続いています。懇談会では、最悪期は脱しつつあるが、飲食、宿泊、旅行といったサービス業を中心に、夏場の外出自粛ムードも相俟って、依然として厳しい状況が続いているとの意見が多く聞かれました。「ワクチンや特効薬が開発途上にある中で感染症の影響が長期化することも覚悟している」との指摘、あるいは「クールジャパンを支える関西の食文化が毀損しかねない」との懸念も聞かれており、今後の情勢に注意が必要です。第二に、企業の資金繰りについてです。懇談会では、日本銀行の施策が効果を発揮しているとの評価も頂き、心強く感じました。
§3Haruhiko Kuroda
もっとも、当面の運転資金はひとまずめどがついたものの、先行き感染症が長期化した場合には、倒産や廃業が増加する可能性があるとの懸念や、資金繰り支援策の延長など必要な対策を迅速に講じてほしいとの要望も多数聞かれました。日本銀行としては、今後とも、企業金融や倒産等の動向を注視し、必要があれば、躊躇なく追加措置を講じていきたいと考えています。また、金融機関の方からは、こうしたときだからこそスタートアップ企業や事業承継を含めて必要な資金が幅広く行き渡るよう後押ししていきたいとの心強い声も聞かれました。こうした取組みは、日本銀行としても、サポートしていきたいと思います。最後に、足許急速に進展しているデジタル化社会への対応の重要性です。参加者の方々からは、「新たな日常」への対応のために官民によるデジタル化の取組みが重要との指摘がありました。また、日本銀行に対しては、今後到来するデジタル化社会を見据え、決済システムの高度化について、中央銀行デジタル通貨を含め、様々な観点から検討を進めてほしいとの要望を頂きました。日本銀行としては、様々な環境変化に的確に対応できるよう、しっかりと準備しておくことが重要であると考えています。その一環として、中央銀行デジタル通貨に求められる機能や特性が技術的に実現可能かどうかを検証するため、段階的、計画的に実証実験を進めていく方針であることも紹介した次第です。
§4Haruhiko Kuroda
関西経済の現状と先行きですが、確かに関西経済は、新型コロナウイルス感染症の影響から依然として厳しい状況が続いていますが、個人消費や生産・輸出を中心に、持ち直しの動きもみられています。全国と比較すると、当地はIT関連企業のウエイトが高いことから、世界的なテレワーク拡大や巣ごもり需要の恩恵を受けていますが、インバウンドへの依存度が高かったことから、その需要減の影響も大きく受けています。一方、関西経済は、こうした、いわば逆境をプラスに変えていく力も備えているのではないかと思います。例えば、IT関連、ライフサイエンス、インバウンド、といったこれまでの強みを活かして、コロナ禍で生じた新しい需要を取り込むことが考えられます。第一に、IT関連は、新しい生活様式へのシフトが進む中で、新たな需要が創出されている分野であり、今後成長が期待される、いわゆる「5G」も含めて、当地の企業が強みを持つ分野でもあります。従って、関西経済が成長を続けていくための一つの柱になると期待しています。第二に、ライフサイエンスについても、当地は製薬・医療メーカーが集中しており、様々な産学連携が行われるなど大きな強みを有しています。新型コロナウイルスのワクチンや特効薬に関する研究を進めている大学・企業も多く、現在各国で研究が進んでいるワクチンの製造を受託している企業も複数あります。
§5Haruhiko Kuroda
加えて、2025年に予定されている大阪・関西万博は、ライフサイエンスを大きなテーマとしており、関西経済にふさわしいイベントになる可能性を秘めていると考えています。第三に、インバウンドについては、現在、当地では需要がほぼ皆減しているようですが、あるアンケート調査では、日本が「新型コロナウイルス感染症終息後に行きたい国」の第一位に選ばれるなど、その魅力は失われていません。とりわけ関西は、歴史・食・文化などの面で、訪日客にとって魅力的な地域です。感染症が収束した際には、こうした当地の魅力が、インバウンド需要を再び喚起するのではないかと期待しています。ただ、当面は、感染症を巡る動きや、これが経済・金融に与える影響について、不確実性の高い状況が続くと思います。日本銀行としては、今後とも、大阪、京都、神戸の各支店を通じて、関西の経済・金融の動向を引き続き丹念に調査し、政策運営に活かしていきたいと考えています。
§6Question
今、東京で吉村大阪府知事と松井大阪市長が日本記者クラブで会見をしていまして、日本の発展のためには二つの推進のロケットが必要であると。それで、「大阪都構想」についての必要性というのを東京で訴えているのですけれども、経済発展のために、そういう「大阪都」といったものは必要だというふうに感じますか。
§7Haruhiko Kuroda
私自身は、具体的にこの「大阪都構想」について、詳しく研究したことはないのですが、各地方公共団体というのは、明治、大正、昭和、平成、そして令和と、長い歴史を持っており、それぞれのそうした歴史の中で、地域社会ができ、その地域社会を運営するといいますか、公共財を供給する県や市があり、でき上がっているということだと思います。ですから、そうしたことを私個人は比較的尊重していく考えですが、他方で、特に大阪の場合は、東京都の都区部と同様に、大阪市という圧倒的な経済あるいは住民の集中があります。そうした場合、東京都がやっているように、「大阪都」という形で、都道府県と市町村の機能を両方合わせた形で地方競争を行うというのも、一つの考え方です。東京都がそうであるように、「大阪都」も、そういう意味では可能性はあるとは思います。私は、比較的、保守的なせいか、明治、大正、昭和、平成、令和と続く県と市町村の関係、そこには歴史と、文化とまで言うかは別として、そういうものがあるので、特に私自身、大阪に住んでいるわけではありませんので、あまり断定的なことは、申し上げかねると思っています。
§8Question
日銀の講じた、新型コロナ対応の企業支援の「特別プログラム」についてお伺いします。先ほどの企業経営者の方との懇談でもこの「特別プログラム」について資金繰りが助かっていると評価するような声があり、また2021年3月となっているこの期限については、「延長も」ということで要望も出されたと思います。黒田総裁自身、現時点でこの延長の必要性をどのようにお考えかということと、仮に今後の判断ということなのであれば、時間軸としてはいつにかけてその判断をしていくことになるのでしょうか。
§9Haruhiko Kuroda
先ほどの懇談会でも申し上げた通り、日本銀行は、この新型コロナ感染拡大に伴って三本柱で対応していますが、そのうちの非常に重要な一つの柱が、資金繰り支援の「特別プログラム」です。これは、CP・社債等の増額買入れと、新型コロナ対応特別オペから成る「特別プログラム」であり、感染症の影響を受けた企業等の資金繰りを支援するための措置です。このプログラムは、今のところ 2021年3月末までの時限的な措置としていますが、当然、今後の感染症の影響などを踏まえて、資金繰り支援の観点から必要と判断すれば、期限を延長するということも十分あり得ると考えています。当然のことながら、3月末ぎりぎりまで待つということではなく、それより適切な期間前に、延長するということであれば、延長を決定することになると思います。
§10Question
今日お昼に、菅新首相と会談をされていると思うのですけれども、こうした首相との会談というのは、定期的に行われてきたということは承知しています。ただ、やはり相手が変われば、その場の雰囲気であったり、テーマというものも変わってくると思うのですが、改めまして、黒田総裁として、この今回の初会談の手応えであったりですとか、今後の新政権との関係性をどのように進めていきたいとお考えになっているか、お聞かせください。
§11Haruhiko Kuroda
官邸のぶら下がり会見でも申し上げましたが、総理とは、時折、官邸にお邪魔して、経済・金融について意見交換をすることを続けてまいりました。今回、菅総理のご就任後、初めてその機会があったということです。お話したことは、いつもと特に変わりませんが、内外の経済や金融の状況についてご説明し、更に日本銀行の金融政策運営の考え方についてもご説明したということです。そのうえで、菅総理との間では、今後とも、政府と日本銀行が十分意思疎通を図って、しっかりと連携して現在の状況に対応し、適切な政策運営をしていこうということで一致しました。これは、新総理と、特にそういうことが合意できたので、大変良かったと思っています。いずれにせよ、総理と時折、経済・金融について意見交換をすること自体は、引き続き変わらずありますので、特別に今後変わっていく、金融政策についての議論が変わっていくとは考えていません。今回は、菅総理のご就任後初めてだったものですから、そうしたことを踏まえて、今後とも政府と日本銀行はしっかりと連携していくことを確認したということです。
§12Question
今の質問に関連してなのですけれども、ぶら下がりでも話題になりました、2013年の「共同声明」について、今日、例えば、変更の必要はないですねとか、改めて確認をしたようなところはあったのでしょうか。また、今日の菅首相との会談ですけれども、どちらからご提案があってとか、お声掛けがあってという部分、もし伺えたら教えてください。
§13Haruhiko Kuroda
官邸でのぶら下がりの会見でも申し上げましたが、2013年に政府と日本銀行で発表致しました「共同声明」は、デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のために、政府と日本銀行がそれぞれの役割をしっかりと果たしながら、連携してマクロ経済政策運営に当たることを示したものです。その後も、政府と日本銀行は、この「共同声明」に沿って必要な政策を実施してきており、そのことは、わが国の経済を支えるうえで大きな役割を果たしてきたと考えています。日本銀行としては、引き続き、こうした考え方に沿って、適切に金融政策運営を行っていきたいと考えています。もう一つの質問に関しては、どちらからということではなく、いずれにせよ従来から時折、きちっと定期的な時期が決まっているわけではありませんが、総理とお会いして、経済や金融についての意見交換をするということは、いわばエスタブリッシュされた慣行であると考えていますが、菅総理就任後、初めてお会いすることができたということです。
§14Question
物価についてお伺いしますが、8月の生鮮食品除く消費者物価が、前年比-0.4%となりました。この数字というのは、日銀の想定の範囲内なのでしょうか。あるいは、予想以上にデフレ圧力が高まっているとみていらっしゃるのでしょうか。ご見解をお伺いできればと思います。
§15Haruhiko Kuroda
何が想定内で、何が想定外かは言いにくいところですが、基本的に、四半期に 1 回の展望レポート、それから、年に8 回ある金融政策決定会合で毎回、公表文を示しており、そうした展望レポート、あるいは、公表文で示されている考え方に沿って展開しているとはみています。すなわち、現下の物価の動向は欧米も似たようなことですが、一方でコロナ感染症の影響、他方で既往の原油価格の下落といった影響を受けて、マイナスになっているとみています。いずれにしても、当面マイナスが出てくると思いますが、従来から申し上げている通り、本年後半から世界経済も回復し、日本経済も徐々に回復していく中で、次第に物価上昇率もマイナスからプラスに転じて、徐々に上昇していくとみています。
§16Question
挨拶の中で、FRBの新しい戦略、平均インフレ目標について言及されて、日銀のこれまでのやってきたことと軌を一にするものとお話をされました。挨拶の中で、このFRBの新しい戦略について言及された意図について伺いたいのですけれども、足許為替マーケットでややドル安に動いていまして、そのドル安をけん制するというか、日銀とFRBで方向感、政策の方向感が一緒だということを強調されたくて仰ったのか、その辺をお聞かせください。
§17Haruhiko Kuroda
FRBの金融政策の枠組みレビュー、これはかなり時間をかけてされておられて、それが公表され世界的に議論になり、記者の方からも色々な質問が出ていましたので、前の金融政策決定会合後の記者会見でも申し上げましたし、今回の懇談会でも申し上げました。そこで、端的に申し上げますと、FRBは、「時間を通じて平均して 2%」を目指すということをかなり明快に言っておられて、「インフレ率が2%に達したうえで、当面の間、2%を適度に上回る軌道に乗るまで」政策金利を据え置くフォワードガイダンスについても、今回仰いました。ですから、平均的なインフレ目標と具体的な金利のフォワードガイダンスについても仰ったわけです。これに対して、日本銀行の場合は、「オーバーシュート型コミットメント」を採用しており、従来から、インフレ率が景気の変動などを均してみて、平均的に 2%になることを目指していますので、今回のFRBの基本的な枠組みレビューの考え方と、日本銀行のこれまでの政策面の考え方とは軌を一にしていると思っています。更に、日本銀行の政策金利のフォワードガイダンスは、「現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」というもので、これは緩和方向を意識しながら金融緩和を継続するという政策スタンスを明確にしたものです。
§18Haruhiko Kuroda
いずれにせよ、先ほどの懇談会でも申し上げた通り、日本銀行としては、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる方針に、全く変わりはありません。
§19Question
今、膨大な借金のある日本なのですけれども、コロナの支援で必要な支援というのがますます増えていっている、こうした状況で大丈夫なのかという視聴者、一般の方も不安になっている方もいらっしゃると思うのですが、これについてのご所見をお伺いできますでしょうか。
§20Haruhiko Kuroda
常に申し上げていますが、財政運営は、政府・国会の責任において行われるものです。これについて、何か特別なことを申し上げるつもりはありませんが、「共同声明」でも謳われていますように、財政運営については、政府は、経済情勢に応じて機動的に財政出動を行う一方で、中長期的な財政健全化について市場の信認を確保するということも述べておられますので、これはその通りだと思っています。なお、日本銀行による国債買入れは、金融政策運営上の必要に応じて実施しているものであり、足許では、感染症の影響を踏まえ、債券市場の安定を維持して、イールドカーブ全体を低位に安定させるために、そういうことを通じて経済を下支えし、物価の安定という日本銀行の使命を果たすために行っているものです。以上