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Bank of JapanPress conferenceNov 4, 2020Haruhiko Kuroda, Governor

総裁記者会見(2020年11月4日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

本日の懇談会で寄せられた意見や要望に対するご感想と、東海経済の景気の現状に対するご所見をお伺いできますでしょうか。

§2Haruhiko Kuroda

本日の懇談会は、感染症の影響が続く中で、例年とは異なりオンライン形式での開催となりましたが、当地の経済界、金融界を代表する方々から、金融経済の現状や直面する課題に関する貴重なお話を伺うとともに、日本銀行の金融政策運営に関する率直なご意見、ご要望を頂きました。大変有意義な意見交換ができたと思っています。この場をお借りして、改めて御礼申し上げたいと思います。席上、様々なご意見を頂いたので、私なりに整理して、三点ご紹介させて頂きたいと思います。第一に、経済情勢については、自動車関連を中心に持ち直しているものの、新型コロナウイルス感染症の影響により、対面型サービス消費などで、厳しい状況が続いているとの見方が示されました。また、先行きについては、世界的な感染症動向の趨勢や米中貿易摩擦の動向など、引き続き不透明感は高いとのお話も伺いました。ご意見も踏まえつつ、東海地区やわが国の金融経済情勢について、今後もきめ細かく点検してまいりたいと考えています。第二に、金融面については、当面の運転資金にめどがついた先が増え、資金需要全体としてはいったん落ち着きがみられているとのお話を伺いました。もっとも、今後の感染症の動向次第ではありまして、対面型サービスを営む中小企業などでは、先行きの資金繰りを懸念している先もみられているとの声も聞かれました。

§3Haruhiko Kuroda

こうした中、日本銀行の金融政策運営については、感染症や国内外の動向を踏まえた機動的な政策運営を期待しているとのご意見を頂きました。私どもとしては、今後とも、強力な金融緩和を続け、感染症への対応として経済・金融を下支えしていくほか、必要とあれば、追加的な措置を躊躇なく講じていく方針です。最後に、当地では、スタートアップ企業の支援を始め、中長期的な視点に立って、イノベーションを促進するための様々な取組みを進めておられるとのお話も伺いました。また、当地におけるデジタル化の取組みについても、ウィズコロナ、あるいはポストコロナのもとで、加速度的に進展する可能性があり、経済団体では、こうした取組みをしっかりと支援されていくとの心強い声も聞かれました。東海地区ではこれまでも、危機時の経験を次のイノベーションにつなげてきました。今回の危機も一つのバネにして、こうした前向きな取組みが続いていくことを期待しています。東海経済の現状については、「厳しい状態が続く中でも、持ち直している」と私どもは判断しています。もっとも、持ち直しのペースには、業種や商品・サービス毎での濃淡がみられます。すなわち、生産・輸出については、内外における経済再開が徐々に進むもとで、自動車関連を中心に、はっきりと持ち直しの動きが確認できています。また、個人消費について、持ち直しの動きがみられています。

§4Haruhiko Kuroda

もっとも、感染症への警戒感が残るもとで、飲食・宿泊等の対面型サービス消費を中心に厳しい状況が続いており、個人消費の持ち直しペースは緩やかなものにとどまっています。企業・家計別にみますと、企業部門では、収益環境が厳しい中で投資案件の選別姿勢は強まっているものの、次世代自動車開発を始めとした、将来の持続的な成長のための投資は維持されています。家計部門では、雇用・所得環境をみますと、所定外給与や賞与の減少などを主因に賃金が減少するなど、弱い動きが続いています。生産の持ち直しに伴い、雇用情勢が好転する動きもみられてきていますが、サービス業の回復が緩やかであることなどを踏まえますと、雇用環境の改善ペースは緩やかなものとなると考えられます。この間、金融部門は、高水準の貸出が続いており、引き続き、企業・家計部門の資金繰りをしっかりと支え、経済活動の持ち直しを後押ししてくれています。こうした中、倒産件数も引き続き低水準にとどまっています。先行きについては、持ち直しが続くと期待されますが、感染症の影響が続くもとで、引き続き、そのペースは緩やかなものにとどまるのではないかと考えています。

§5Question

午前の懇談会では中部の経済界からデジタル化の遅れなどに対する懸念などの声があがりました。黒田総裁は中部や東海経済が抱えている課題についてどうお考えでしょうか。

§6Haruhiko Kuroda

中部あるいは東海経済が日本の中で特にデジタル化が遅れているとはみていませんが、この点については、二つのことが非常に重要だと思います。一つは、長期的な趨勢として、デジタル化や様々なICT技術と革新によりデジタル化したサービスの利用が全世界で進んでいることです。そうした中で、日本がやや先進国の中では遅れてきたのではないかということが懸念されており、現内閣のもとで、法制を変えてデジタル庁を創設し、日本全体のデジタル化、これは行政も民間経済についても両方だと思いますが、色々と推進しようとされています。そういう意味で、中部経済圏、東海経済圏も、こうした動きに沿って進んでいかれると思っています。もう一つは、足許のコロナの状況によって、在宅勤務の必要性や大学の講義などでオンライン講義の必要性など、様々なデジタル化したサービスへの需要が増えており、そのことへの対応です。金融機関についても同じでして、決済サービスその他主要金融サービスについても、銀行の支店に来るなど対面で様々な金融サービスを受けることが難しくなっており、そうしたもとで、それぞれの企業や金融機関が努力して対応しております。これも特に東海地方で遅れているとは思いませんし、よく努力されていると思います。新型コロナウイルス感染症自体は、ワクチンや治療薬の普及ということもあろうと思いますが、様々な理由からいずれ収束すると思います。

§7Haruhiko Kuroda

しかし、デジタル化の大きな趨勢は、最初に申し上げた通り全世界的に続いていますし、日本経済全体としても、また東海・中部経済としても、それに乗り遅れないようにしていく必要があると考えています。

§8Question

午前中の懇談会の中で、東海地方の経済について、今回のコロナウイルスの危機もバネにして一段と飛躍を確信している、とおっしゃったと思うのですが、この東海地方のどのような特徴を理由に今後の一段の飛躍を確信されているのかということと、今後、アフターコロナの中で東海経済が日本経済の中でどういう役割を果たしていってほしいとお考えか、お願い致します。

§9Haruhiko Kuroda

この点については、民間経済団体の代表の方々から、様々な形で、東海地域でイノベーションを進めるための努力を色々としておられるとお聞きしました。実際、日本全体として設備投資がやや弱めになっているということは事実ですが、例えば、日本の中で自動車産業が集積しているこの東海地区についてみますと、将来を見据えた技術革新のための様々な投資が進んでおり、日本経済を引っ張っていく力を秘めていると思いました。それからもう一つ、日本には色々な産業、工業が集積した地区があり、東京を中心とした関東地区、名古屋を中心とした東海地区、大阪を中心とした関西地区、そして福岡を中心とした北九州地区、こうしたところでは非常に様々な産業が集積しています。なんといっても東海地区の特色は、自動車産業が日本で最も集積していることで、それから航空機産業も日本の中で最も集積しています。そうしたことを背景に、電子機器、機械、その他高度な製造業もこの地区には集積しています。今後とも、デジタル化や、あるいは電気自動車であれ他の産業であれ、この東海地区経済が、日本経済の進展といいますか、成長を支える基盤になるのではないかと考えています。

§10Question

アメリカ大統領選挙についてお尋ねさせてください。まさに開票が進んでいるところですけれども、開票結果が、わが国経済、世界経済、または金融市場に与える影響について、どのようにお考えでしょうか。また、勝者がすぐに決まらないという事態も想定されていますけれども、選挙後の混乱を踏まえまして、国内外の経済への影響ですとか、金融市場への影響、また、日銀がとり得る対応についても併せてお聞かせ頂ければと思います。

§11Haruhiko Kuroda

米大統領選挙については、開票が今行われているところで、最終的にどういう結果になるのか分かりませんので、何とも申し上げかねるのですが、どちらの方が大統領に選出されるにせよ、米国経済は、世界最大の経済であり、また、金融資本市場に対する影響も大きいので、様々な面から日本の経済あるいは金融市場に影響を与えることは事実です。ただ、マイナス方向にだけ何か懸念する必要があるとは考えておりません。米国経済自体、先進国の中では、かなりしっかりとした足取りで回復しており、そのペースはかなり強いと思います。新型コロナウイルス感染症の拡大は欧州と同じように起こっているようですが、経済活動との両立が図られつつ、米国経済自体は、先進国の中である意味でいうと最も力強く回復している状況にあります。そうしたことが特に変わるとは思っていません。当面は、金融資本市場に対する影響、特に、為替市場に対する影響がどうかということを皆さん懸念しておられるようですが、これは先ほど懇談会でも申し上げましたけれども、ドル円レートなどをみましても、このところ比較的狭いレンジで動いており、安定してきています。もっと長い期間をみても、ここ数年、かなり安定しているということがありますので、そうしたことが続く、つまり、ファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが最も望ましいと思っています。

§12Haruhiko Kuroda

もちろん、為替市場の動向については十分注視していきたいと思いますが、日本銀行として特別に何か対応するかという点については、従来から申し上げている通り、経済・物価・金融情勢に応じて、適宜適切な政策をとることに変わりはありませんので、そうした点から、特に国際金融市場の動向には、注視していきたいと思っています。

§13Question

今朝公表されました 9月の日銀金融政策決定会合の議事要旨の中で、一人の委員の方から物価目標への道筋が見えなくなっている状況ということで、物価目標に向けた戦略について、改めて総合的に検討することが必要ではないか、といった意見が出ていたことが明らかになりました。日銀はかつて金融政策のレビューを行っていますけれども、改めてこの段階で、金融政策のレビューを行う必要性についてお考えをお聞かせください。

§14Haruhiko Kuroda

この点については従来から申し上げているように、2013年の 1月に金融政策決定会合で決定し、かつ政府との「共同声明」にも盛り込まれている通り、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現すべく、金融緩和を行うことを続けていますし、今後とも続けていきます。そういう意味で 2%の「物価安定の目標」を引き続き堅持します。これは欧米でも、殆どの中央銀行が 2%の物価安定目標を維持して金融政策を行っています。この 10年くらい、多くの中央銀行はその 2%の物価安定目標を実現していませんが、だからといって、この目標を下げるといった考えはどの中央銀行も全く持っておられませんし、むしろ金融論の経済学者の方々には、こういう時期だからこそむしろより高い目標をたてるべきという議論すらあるぐらいでして、そういう意味で、金融政策の枠組みを今変える必要があるとは、全く考えていません。そのうえで、今の時点で枠組みについてレビューを行う必要があるとも思っていません。現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとでオーバーシュート型コミットメントもしていますし、その意味ではかなり強力な金融政策の枠組みになっていますので、これを引き続き堅持して、経済・物価・金融情勢に応じて適宜適切な対応をとっていきたいと思います。

§15Question

今の質問にも関連するのですが、そうしましたら、コロナ収束後は、引き続きフォワードガイダンスとか政策反応関数などはやはり物価の動向とか先行きの見通しに応じて、そういう政策を打っていくという考えに、また戻られるということでよろしいのでしょうか。

§16Haruhiko Kuroda

現在も、そうした物価・金融情勢・経済動向など様々な要素を勘案しつつ、この「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という全体のフレームワークの中で金融政策を行っています。足許では、新型コロナウイルス感染症の経済金融に対する影響に対応するために、従来から申し上げている「3つの柱」で、企業等の資金繰りを支援するとともに、金融市場の安定維持を図っています。そこが当面、非常に重要ということはその通りであり、それに対応して、「3つの柱」の金融緩和を強化したわけです。こうした状況は、コロナが収束するまで、当面続けていく必要があると思いますが、その後も、あるいは現在からずっと続けて、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みを維持して、その中で最善の措置をとっていくことに変わりはないということです。

§17Question

大きく三点お伺いできたらと思います。当地を牽引している自動車の需要の回復、生産の回復というのが、ペントアップ需要であるとか、あるいはヨーロッパ等の補助金の効果というのが働いていると思います。一方で、感染の再拡大の懸念が高まっていますけれども、感染の状況によっては、こういった効果というものも剥落していく懸念もあると思うのですが、自動車について、今後の生産回復に向けての懸念はどういったものを想定していらっしゃるか教えて頂きたいというのが一つです。もう一つが航空機なのですけれども、当地で自動車に次ぐ産業として期待されていた航空機産業で、スペースジェットの計画が、コロナの影響で一時的に凍結ということになり、地域経済を支える一つの柱が失われるのではないかと懸念が高まっています。これについてのご所感を賜りたいです。最後に訪日客についてです。訪日観光客というのが、非製造業を中心に、ポートフォリオの大きな一角を成してきたわけですけれども、コロナの影響が長引いて、これを見直したりとか、あるいは影響が長引くことが、大変懸念されているわけですが、訪日客の今後が、地域経済に与える影響についてどのようにご覧になっていらっしゃるのか教えて頂きたいと思います。

§18Haruhiko Kuroda

自動車については、先ほどの懇談会でも、足許の生産が、前年を少しではありますが上回っているところまできていると聞きました。そして、東海地方で誰でも知っている大きな自動車メーカーが、年内、史上最大規模の生産をしそうだ、ということも聞いています。ご指摘のようにペントアップ需要の実現という面もあると思いますが、それまでも、かなり順調に自動車産業は伸びてきていましたので、一時的にコロナの影響で大きく沈んだのが急速に回復していると、概ね元の経路に戻りつつあるのではないかと思います。補助金の問題やその他色々あるとは思いますが、基本的には、そんなに悲観する必要はないと思っています。ただ、非常に大きく落ち込んだところから急速に回復しているペースでどんどん伸びていくということはなく、元の流れに戻っていくということではないかと思います。航空機については、日本の中で、この東海地区に航空機産業が集積していることはその通りであり、今後とも、日本の産業・経済にとって非常に重要なセクターであると思っています。足許、スペースジェットの開発が中断していることはやむを得ないことと思いますが、基本的には、飛行機を使った旅行や旅客は、趨勢的に今後とも伸びていくと思いますし、あくまでも一時的な凍結であると考えています。ただ、航空機産業は、世界的に今大変な影響を受けており、その意味では、その一例だと思います。

§19Haruhiko Kuroda

しかし、その中で特にわが国の航空機産業が、非常に大きなダメージを受けることにはならないだろうと思っています。最後のインバウンド、外国人観光客については、ご承知の通り、各国とも、あるいは日本の各地とも影響を受けています。ただ、こと東海地方に限っていえば、インバウンド客の経済活動に占める割合は小さく、日本全国をみますと、例えば沖縄や北海道など、訪日観光客に依存するウエイトが高い地域は、かなり大きな影響を受けています。東海地方については、そうした地域とは異なり、非常に幅広い製造業のベースを持っておられますので、経済全体に対する影響が非常に大きいということではないと思います。もっとも、やはり観光といった点については、影響が出ていることは事実だと思います。今後のインバウンドの動向、これは世界的に同様ですが、新型コロナウイルス感染症の影響がだいぶ収束した地域でも、国際的な観光客があまり戻ってきていません。例えばアジアでいいますと、タイやバリ島、フィジーなど、観光に対する依存が非常に大きな地域の経済は、非常に影響を受けています。

§20Haruhiko Kuroda

しかしこれも、基本的にはコロナウイルス感染症が収束すると、どういう形で収束するかは、ワクチンや治療薬が出回るようになってなのか、あるいはその他の事情かは分かりませんが、いずれ収束することは間違いないと思いますので、そうした時には、コロナウイルス感染症に対する警戒も和らいできて、元のようになれば、当然のことながら、国際的な観光が戻ってくると思います。各国の消費の中身をみますと、所得が高まっていくにつれてサービス消費が増えており、その中でも旅行、特に海外旅行は非常な勢いで伸びてきたわけです。ですから、世界経済全体が戻ってくると、そしてコロナウイルス感染症に対する警戒感が様々な措置によって和らいでくると、戻ってくるとは思っています。しかし、それが急速に戻るかどうかは、確かにワクチンや治療薬の普及がどのようになるかということにもよると思いますので楽観できないと思いますが、長期的にみて、インバウンドが落ちてしまうということにはならないと思っています。以上