鈴木審議委員記者会見(2020年12月3日)要旨
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§1Question
本日の懇談会で、出席者からはどのような意見が出されたのかを教えてください。また、福島県内の経済の現状について、今後の見通しも含めて教えてください。
§2Hitoshi Suzuki
東日本大震災とそれに伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故についてですが、来年3月で 10年を迎えようとしています。この間、避難指示区域の解除が順次進むなど、復興が進展しているところですが、今なお3 万6 千人を超える方々が避難生活を余儀なくされているなど、復興は道半ばといえると思います。また、昨年の東日本台風等からの復旧も途上にあります。この間の福島県の皆様方のご尽力に心から敬意を表したいと思います。本日の懇談会では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大等を考慮して、オンライン形式での開催となりましたが、福島県の行政、経済界、金融界を代表する方々から、当地の経済・金融の現状と課題についてのお話や日本銀行の金融政策運営に関する貴重なご意見を頂き、大変有意義な意見交換ができました。この場を借りまして、改めて御礼申し上げたいと思います。懇談会の場では、多岐にわたるお話を伺いましたので、全てをご紹介することはできませんが、私なりに席上で伺ったことを整理して、印象・感想を申し上げたいと思います。まず、福島県の経済情勢は、新型コロナウイルス感染症の影響から厳しい状況にあり、観光業や飲食業をはじめとするサービス業のみならず、製造業や農業に至るまで、多岐にわたる産業に悪影響が及んでいるとのお話を多く頂きました。
§3Hitoshi Suzuki
この点について、行政や経済団体、ならびに金融機関の皆さまからは、各種の支援や資金繰り支援などを通じて、今後とも企業や家計を強力にサポートしていきたいとのお話があり、大変心強く感じました。これに関連して、金融界の方々からは、日本銀行の「新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ」が、地元企業の資金繰り支援の一助となっているといったお話がありました。また、先般公表しました「地域金融強化のための特別当座預金制度」については、将来にわたって地域経済をしっかりと支えるための、日本銀行から地域金融機関への応援と受け止めているとの前向きな声を頂きました。今後、福島県の復興を加速させるためには、福島イノベーション・コースト構想を具体化するとともに、再生可能エネルギーやロボット・ドローン等の新たな産業を育成・集積する取組みが必要といった話が聞かれました。加えて、ウィズコロナ、アフターコロナのもとでは、これまでの経営形態を変革させていくこと、特に、デジタル化を促進させていくことが重要であるといったご意見を伺いました。この点、都市部から地方への移住促進に向けた流れが強まることを想定し、行政や経済団体が連携してサテライトオフィスやテレワークなどハード・ソフト両面の整備に取り組んでいきたいといったお話を伺いました。「アフターコロナは地方の時代」といった力強い声も聞かれ、大変心強く感じたところであります。
§4Hitoshi Suzuki
私どもとしましては、こうしたお話も踏まえつつ、福島県の金融経済情勢について、今後も福島支店を通じてきめ細かいモニタリングを続け、中央銀行の立場から経済の持続的成長の実現や金融システムの安定性の確保を図りながら、福島県経済を支える関係者のご努力がより大きな成果へとつながっていくようサポートしてまいりたいと考えております。二点目の福島県経済の現状と見通しですが、福島県の景気は、「新型コロナウイルス感染症の影響を主因に厳しい状態にあるが、徐々に持ち直しつつある」とみています。すなわち、県内総生産の4 分の 1 を占める製造業では、感染症による下押しの影響はあるものの、ペントアップ需要もあって自動車関連の受注が回復しているほか、県内でウエイトが高いハイテク関連産業では5G基地局やデータセンタ向けの製品の引き合いが強まっており、全体として持ち直しの動きがみられています。また、設備投資には弱めの動きがみられますが、東日本大震災や東日本台風等の復興・復旧関連工事が増加しており、雇用や景気を下支えしています。外食や旅行などの対面型サービス業など、業種によってばらつきが大きい状況にはありますが、 Go To キャンペーンなど需要刺激策の効果もあって、個人消費も全体としては持ち直しつつあります。
§5Hitoshi Suzuki
先行きについては、全国と同様に改善基調を続けていくとみられますが、感染症の流行状況や企業・家計の行動変化など、福島県経済に与える影響を慎重にみていく必要があります。東日本大震災や東日本台風等からの復興・復旧関連需要のピークアウトの影響にも留意が必要とみています。
§6Question
地銀再編についてお伺いします。先日、日銀として経営統合などを決めた地銀に対して金利を上乗せするという制度を発表されました。本日、福島県内の地銀と信金のトップの方が出席されていますが、これについて何かご意見などがあったのかどうか教えてください。
§7Hitoshi Suzuki
冒頭の懇談会の内容でも申し上げましたが、「地域金融強化のための特別当座預金制度」について、将来にわたって地域経済をしっかり支えるための日本銀行から地域金融機関への応援と受け止めているといった前向きな、ポジティブなご評価を頂きました。更に、地域金融強化の観点とは異なりますが、4 名くらいの方々から中小企業等に対しての資金繰り支援をサポートするための新型コロナ対応特別オペについて、必要があれば延長もしてほしいといった声も頂きました。
§8Question
ポジティブな評価を受けたということですが、それは地銀、信金、それぞれ両方とも同じような受け止めということでしょうか。
§9Hitoshi Suzuki
そのとおりです。(植田支店長)若干、補足させて頂きますと、ご質問の冒頭で地域金融機関の再編に関連してとありましたが、今、鈴木から申し上げたのは、今回の「地域金融強化のための特別当座預金制度」について、地域金融機関への応援と受け止めているとの前向きな声を頂いたということです。再編そのものについてのご発言はありませんでした。
§10Question
ETFの購入についてお伺いしたいのですが、午前中のお話の中で、持続力・柔軟性を高める必要があるというようなお話があったかと思います。既にETFの購入はかなり柔軟に行われていると思いますが、これを更に柔軟にする必要性はあるのでしょうか。また、それはどのような方法を想定されていますか。
§11Hitoshi Suzuki
ETFの買入れは、株式市場のリスク・プレミアムに働きかけることを通じて、金融市場の不安定な動きなどが、企業や家計のコンフィデンスの悪化につながることを防止することによって、経済・物価にプラスの影響を及ぼしていくことを目的としています。今回のコロナ禍においても感染症の影響で、2月下旬以降、いったん市場は大きく不安定化したわけですが、日本銀行によるETFの買入れは、市場の不安定な動きを緩和する一定の効果があったと認識しています。ETFの買入れを適切に行うために、様々な工夫は今までも行ってきました。例えば、個別銘柄の株価に偏った影響ができるだけ生じないように、幅広い銘柄から構成されるTO PIXに連動するETFの買入れウエイトを高めてきました。あるいは、コーポレートガバナンスの面でも、スチュワードシップコードの受入れを表明した投資信託委託会社により適切に議決権が行使される扱いとなっています。また、ETFの買入れの持続性を高める観点から、市場の状況に応じた柔軟な買入れを行っているというところです。こうしたもとで、ETFの買入れは、これまで大きな役割を果たしてきており、引き続き必要な施策であると考えています。
§12Hitoshi Suzuki
そのうえで、本日の挨拶でも述べたところでありますが、感染症の影響もあって、金融緩和の更なる長期化が展望される中、資産価格のリスク・プレミアムへの適切な働きかけが真に必要なタイミングでの買入れが困難になることがないよう、政策の持続力・柔軟性を高める工夫の余地を引き続き探っていく必要があると考えています。申し上げるまでもなく、国債等には期日がありますが、ETFには期日がありませんので、そうしたことを考えたうえで、持続力・柔軟性ということについて様々な工夫が必要であろうと考えています。
§13Question
先ほど懇談の場でもあったというお話でしたが、「特別プログラム」について、必要に応じて延長ということは総裁・副総裁など他のボードメンバーの方もおっしゃっていると思いますが、こちらについての委員の考え方を改めて伺います。より具体的には、今コロナの第 3 波とも言われる中で、必要性がどれぐらい高まってきているとお考えになっているかを教えてください。もう一つは、地域金融機関向けの特別付利の制度についてですが、収益力向上に加えて、再編ということも条件に掲げています。改めて委員は、金融界ご出身のお立場から見て、地銀のやはり再編の必要性みたいなもの、数が多すぎるという声もありますが、再編を更に促していく必要性があるとお考えなのかどうかについてもお聞かせください。
§14Hitoshi Suzuki
これも一部繰り返しになりますが、新型コロナ対応特別オペとCP・社債等の増額買入れからなる「特別プログラム」は、政府の施策、金融機関の取組みと相俟って、効果を発揮していると考えています。企業等の資金繰りには厳しさがみられていますが、外部資金の調達環境では緩和的な状態が維持されていると思います。こうしたもとで、銀行貸出残高、CP・社債の発行残高はいずれも高い伸びが続いています。この「特別プログラム」は、来年3月末までの時限的な措置ですが、今後の感染症の影響を踏まえて、必要と判断すれば、期限を延長することになります。そのうえで、具体的な判断のタイミングについては、今後の情勢を踏まえて適切に考えていきたいということです。ご案内のとおり、感染症については、ワクチンの接種がこれから海外で始まるといった良いニュースもありますが、専門家によれば、わが国で多くの方に行き渡るのには来年いっぱいかかるという話もありますし、本日の懇談会では、いわゆる感染症における第2 波・第 3 波と同様に、資金繰りの不安に関しても第2 波・第 3 波があるとのお話を伺いました。そうしたものが続いている、これも累積的な形で続いているということなので、そういったような延長が必要になってくるということではないのかと考えているところであります。
§15Hitoshi Suzuki
それから、「地域金融強化のための特別当座預金制度」ですが、これまで他の審議委員や昨日も雨宮副総裁が話をしており、同じようなことを申し上げることになろうかと思いますが、地域金融機関が将来にわたって地域経済をしっかりと支えて、金融仲介機能を円滑に発揮していくための経営基盤の強化に資する観点から、金融システムの安定確保のための政策として、導入したものです。新型コロナウイルス感染症の拡大が続くもとで、わが国の金融機関は、企業や家計の資金繰りを積極的に支援し、経済を支えています。もっとも、やや長い目でみると、低金利環境の長期化に加えて、人口減少や成長期待の低下などの構造要因を背景にして、金融機関の国内預貸業務の収益性は低下を続けており、特に地域金融は、そうした影響を強く受けていると思います。今後、感染症の拡大が想定以上に長期化するなど収益力の低下が継続する場合には、金融仲介機能の円滑な発揮が妨げられる可能性もあります。こうしたもとで、地域の企業や家計が活力を高めて、地域経済ひいてはわが国経済が持続的に発展していくうえでは、地域金融機関が、将来にわたって地域を支えていくための十分な資本と収益力を確保するとともに、地域が抱える課題を解決する付加価値の高い金融サービスを提供していくことが重要です。
§16Hitoshi Suzuki
以上の認識を踏まえて、日本銀行は中央銀行の立場から、こうした地域金融機関の経営基盤強化に向けた取組みを後押しするため、一定の要件を満たした地域金融機関に対して当座預金への追加的な付利を行うという制度を、3年間の時限措置として導入することが適当と判断しました。この制度が多くの金融機関に利用されて、地域における金融仲介機能の十分な発揮と金融システムの安定確保に資するものになることを期待しています。また、金融機関が多すぎるのではないかといったお話がありましたが、欧米の国と比べて、単純に多いということではないと思います。しかしながら、競争の激化とともに、過去9年、10年という期間にわたって、貸出金利鞘は低下し、そして、いわゆる預貸率という数字もどんどん悪化していくような状況の中にあります。これまでは、金利の低下による債券の評価益が益出しに使えることがあったり、経済が順調な中において与信費用の戻りがあったわけですが、そうしたことが非常に厳しくなり、そして与信費用も今後は悪化する可能性もあります。そうした中で、本日の懇談会において金融機関の代表の方々もそうですし、私どもが定期的にコミュニケーションしている金融機関も、今回、企業あるいは個人の方々の資金繰り支援、企業の存続と雇用の維持のために非常に積極的にやっておられると思います。
§17Hitoshi Suzuki
欧米は貸出に対しての積極度合いが日本と違って厳しいスタンスを取っているのですが、わが国はそうではありません。ただし、先ほどのような収益環境が今後も続くことが想定される中においては、更なる経営基盤の強化が不可欠ということで、中央銀行としても、プルーデンスの政策として背中を押すという形の施策をやっていると認識しています。
§18Question
午前の講演で、イールドカーブの超長期部分のスティープ化が緩和長期化と金融システムの安定の両立には望ましいと、こういうふうに指摘されておられます。現在のイールドカーブの水準について、今後更にスティープ化が必要とお考えでしょうか。また、スティープ化のために超長期国債の買入れについて、一段の減額の必要性とか、その金融調節上の対応について、どのようにお考えでしょうか。
§19Hitoshi Suzuki
午前中の資料の中でも申し上げていることの背景になりますが、感染症の影響で企業等の資金需要が高まる中で、日本銀行からの資金供給手段としては、新型コロナ対応支援特別オペがありますが、これは貸付期間が6 か月と短期です。足もとの残高は 51 兆円程度かと思います。これに加えて、感染症拡大以前から行っている貸出増加支援オペの残高も増加しており、足もとでは約53 兆円程度かと思います。こちらは貸付期間が4年で長期でありますが、運用サイドでは一般的に長期固定金利での貸出ニーズは必ずしも高くないことから、このオペを利用した金融機関では、いわゆる「Asset Liability Management」上、金利のショートポジションが構築されることになります。そうしたポジションを活用することで、金融機関は利回りが高い超長期国債をより多く購入できる可能性があるということだと思います。このために、超長期の金利が徐々に上昇していくことは、金融機関の運用収益の改善につながり、金融システムの安定維持に有効であり得るということです。もう少し説明すると、貸付期間6 か月の新型コロナ対応特別オペ残高が 51 兆円、これは現在価値の概念を捨てると、1年物換算で半分の 25 兆円程度ということになるかと思います。
§20Hitoshi Suzuki
一方で、貸出増加支援オペの 4年の 53 兆円は 1年物換算ですと 212 兆円となりますので、こちらは貸出がごく短期であった場合に、単純に 20 で割ると 10 兆円の 20年債が購入できるということかと思います。従って、預金金融機関はあまり長い物を購入するということはないのですが、本行のイールドカーブ・コントロールのもとで 10年までは利回りがないので、そうした長いところを買う余地があるということだろうと思います。本行のイールドカーブ・コントロールは、申し上げるまでもなく、当座預金残高の政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用し、そして10年の国債金利をゼロ%程度にするということで、それを超える長い期間については具体的なターゲットは置いていないわけであります。ただし、これまで総裁の記者会見でも申し上げているとおり、超長期金利のフラット化、過度な低下があった場合には、年金保険等の運用難が国民の感情にも消極的なものを与えるということで、過度なフラット化は望ましくないと申し上げてきた経緯があります。そうしたことで金融市場局におけるオペでは、長いところも対象にしているので、そういったことに対して影響を与え得るところは、あるということだと思います。
§21Hitoshi Suzuki
現状がどうかというか、そういう長いところのレートがどうあるべきかというのは、金融政策の中では特に決めておりませんので、これは主観的な感想になりますが、イールドカーブ・コントロールを導入して半年程度経った頃と現在を比較すると、30bps 程度低いのではないかと考えています。そうした中で、今後ということでは、この1年以上の間で米国金利が低下し、国内勢にとっても日本国債のニーズが高まっている、あるいは生命保険業界では経済価値ベースでのソルベンシー規制が入ることから、超長期債のニーズがあります。一方で、海外の投資家は為替裁定取引を通じて日本国債を長期まで買っていましたが、その裁定取引のニーズ、チャンスがなくなっているので、そちらのニーズは弱いのかもしれないと思います。コロナ対応での財政資金は短期国債で支えてきましたが、その借換えがもう少し長い物になる可能性もあり、そういった様々な構造の中において、金融機関、そして生保、年金等の国民の資金の運用にもう少し金利が高い物があった方が、金融システムの安定と金融政策の長期化に望ましいのではないかと個人的な私見を申し上げたものであります。以上