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Bank of JapanPress conferenceApr 1, 2021Asahi Noguchi, Board Member

野口審議委員就任記者会見(2021年4月1日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

今日、審議委員に就任された今の率直なお気持ちと抱負をお聞かせください。

§2Asahi Noguchi

本日、辞令交付を受けまして、新たに審議委員に就任致しました、野口と申します。よろしくお願い致します。私自身はこれまで、大学という場、これは世間からみれば特殊といいますか、狭い場所だと思いますが、アカデミズムの場に一貫して 33年間おりました。私自身、経済学を教えたり、あるいは研究して、特に、1990年代末頃、ちょうど日本経済がデフレに陥った頃から、日本のマクロ経済政策、もちろん金融政策も含むマクロ経済政策について非常に関心を持って研究を続けてきました。そして、日本の金融政策についても、その頃から学者・研究者としての立場から発言を続けてきました。ただし、それはあくまでも、外野席というか、外側から行ってきたわけです。日本銀行の経済政策は、1990年代末と現在ではかなり大きく違っています。私自身の立場も、かつては非常に批判的にみていましたが、現在はむしろ日本銀行の政策を基本的には評価する立場に変わっています。そうはいっても、私自身は一貫して、外野席という気楽な立場からものを言ってきたにすぎなかったわけです。しかし、本日からは、日本銀行の政策、日本の金融政策に多少なりとも実際に影響を及ぼし得る立場になったわけです。その重責をしっかり自覚し、自分自身が学者、あるいは研究者として培ってきた知見・知識を少しでも役立てることができるように、この貴重な機会を活かすように努力をしていきたいと思います。

§3Question

今の日銀の政策を評価されているという発言もあったと思いますが、日銀の掲げる 2%の「物価安定の目標」は、今のところ達成されていない状況が続いています。3月の金融政策決定会合では、緩和の更なる長期化を見据えて、政策の点検を踏まえて修正が行われました。現在の金融政策の枠組みという部分について、もう少し具体的に、どう評価されているのかをお聞かせください。加えて、2%の「物価安定の目標」の達成が、今の政策を続けることで可能かどうかについてのお考えをお願いします。

§4Asahi Noguchi

基本的に私が現在の政策を評価しているということの意味は、かつてはデフレというか、物価が下落する状態が恒常的に続いていたわけですが、現在の政策によって基本的にはそのデフレ、物価が下がるような状況は少なくとも解消されています。それに伴って、雇用や名目GDPも上向きになっていますし、雇用もかなり改善し、失業率も相当低くなりました。今はコロナで少し状況が変わりましたが、その意味では、現在の日本銀行の政策というのは非常に意味があったと考えています。しかし、残念ながら、2%の目標がなかなか達成できなかったというのも事実です。これは、当初想定していなかった様々な問題があったのだろうと思います。更に、現在ではコロナ禍によって、少なくともそれ以前まではかなりじわじわと改善していた状況が、いったん大きく落ち込んでいるという状況にあるのも事実です。そうはいっても、トレンドとして、時間がかかっても日本経済が正常な成長軌道に回復しつつあったということは、やはり確かだと思います。それをまた再びその軌道に戻すためには、まずコロナ禍に対応します。これはもちろん日本銀行だけではなく、政府の役割も大きいわけですが、そのうえで、もう一度、本来の目標である 2%目標に向けて、政策を更に進めていくことが大事だと考えています。

§5Question

3月の決定会合では、必要な場合には、長短金利を引き下げる可能性が示されました。機動的な対応を可能にするために、金融機関への副作用を軽減するための「貸出促進付利制度」などの導入も決まりました。日銀はこれまでも、必要があれば、追加の金融緩和措置を講じるとしていますが、特にマイナス金利の深掘りや、長期金利の現状からの引き下げについて、その必要性と、行う局面はどういう場合が考えられるのか、お考えをお聞かせください。

§6Asahi Noguchi

経済は、非常に様々な不確実性が伴います。今回のコロナのような事態も誰も予想できませんでした。しかし、こういうことは今後も起きるわけです。現状で、マイナス金利の深掘りを行うとか、新たな非常に強い金融緩和措置を行うかは、今後、私は日本銀行の中の議論を踏まえたうえで、改めて考え直してみたいと思います。しかし、政策のオプションを何かあったときのために増やしておくということは非常に重要であったと思います。その意味では、今回の措置も、私は評価に値するものであったのではないかと思います。ただ、それを実際に使うかは、あくまでも今後、非常に大きな様々なマイナスのショックがあって、そういった措置が必要であるかどうかを改めて判断するということになると思います。

§7Question

コロナの影響についてお伺いします。今日 3 府県にまん延防止等重点措置が適用されることになる一方で、今日発表された日銀短観では回復基調にあるようなことも報告されました。今日からというところでみると、足許まだ第 4 波の懸念が大きくなっていますが、今の経済の現状をどのようにみられているか、そしてこれからの日銀の金融政策としてどのようなサポートをしていくべきか、今のお考えをお聞かせください。

§8Asahi Noguchi

コロナの状況は、誰も最初にこういうことが起きるとは予想もできなかったと、それからここまで長引く、ここまで世界的に拡大するとも誰も思わなかったわけです。ですから、この第4 波、あるいはその先があるのか、コロナワクチンがどの程度有効なのか、そういうことも含めて、これは金融政策ではいかんともしがたいわけです。従って、金融政策という点に関して、私が何かこうなるだろうというようなことは、全く言うことはできません。ただし、どのような状況であっても、それが金融システムに対して問題を起こすとか、あるいはマクロ経済全体に大きなダウンサイドリスクを起こすというようなことになれば、それは日本銀行としてはできる限りのことをして、それを食い止める手段を用いるべきではないかと考えます。

§9Question

今回、政策点検でも金融システムへの配慮、副作用というものにそういった配慮が必要だということが言及されました。委員ご自身は、今現在、金融緩和の長期化に伴う副作用、金融システムの状況をどのように考え、また追加緩和といった対応が必要な場合は、金融システムの副作用対策を新たにやる必要があるとお考えなのか、教えてください。

§10Asahi Noguchi

一般的な話をしますと、金融政策を緩和するにしても引き締めるにしても、それによってある程度マイナスの影響を被る層、あるいは業界というのは必ず出てきます。従って、それを一概に副作用という言い方をしていいのかどうかというのは分かりませんが、全体としてそういう問題があったとしても、日本銀行が物価を安定させ、そして適正な雇用や所得を達成するためには、そういう措置が必要だという局面は当然あるわけです。それはあくまでも、どちらのメリットが大きいのか、あるいは副作用といわれているものもどれだけ政策的にそれを解消するか、することができるのかということをよく勘案しながら、対応するべきものであると考えます。

§11Question

先ほど、政府の役割も大きいということで、成長軌道に戻していくということで、コロナ禍ということもありますし、中長期の経済成長ということも政府に期待されるところが大きいと思うのですが、特にどういったようなことを政府に求めていきたいというか、課題となっているという認識でしょうか。

§12Asahi Noguchi

学者のころであれば、そういうことについて自分の思うところを存分に発言できたのかもしれません。しかし、現時点で私が担うべきものは金融政策であり、政府に金融政策の立場から何かを言うということは、そういう場があれば可能性もあるかもしれませんが、今のところはそういう立場ではありませんので、お答えはしないでおきたいと思います。

§13Question

外からご覧になるのと当事者になるのとでは、やはり違うということだと思うのですが、異次元緩和から 8年余りで 2%の物価目標が達成されていない、この根本的な理由、消費増税したからだと言う人もいれば、この政策自体に問題があるのではないかという声もあります。野口様ご自身は、一番大きな原因が何だったのか、また予想インフレを押し上げるために、日銀が今作っているオーバーシュート型コミットメントの有効性についてどうお考えなのか、お願いします。

§14Asahi Noguchi

日本銀行が現在行っている政策には、基本的に意味があったと考えています。ただし、残念ながらもし思い違いがあったとすれば、なかなか時間がかかるということです。おそらくもっと簡単に、例えば最初は2年と言っていたわけですが、そういう非常に短い時間で到達できるのではないかという見通しだったと思いますが、それは残念ながら達成できませんでした。その原因は様々あると思いますが、一つ言えることは、今は世界的にみて、昔のようにマクロ経済政策を――金融政策、財政政策も含めてですが――かなり拡張的に行っても、それほどインフレにならないということで、これは長期停滞といった言い方をしている学者もいますが、そういう状況があります。失業率も、昔ならこれだけ低くなれば当然インフレになるだろうといった状況でもそうはならず、これは日本だけではなく米国でもそうです。この点は、現在のマクロ経済学あるいはマクロ経済政策の焦点の一つでもあります。こういった点に関して、私は非常に大きな問題意識を持っています。

§15Question

関連した質問ですが、低成長時代で2%物価目標を達成するためには、野口さん自身として、更なる緩和というものが必要なのかどうか、この辺りの具体的な考えについてお聞かせ頂きたいと思います。また、3月の日銀の点検の中で、ETFの買入れの柔軟化という説明がありました。市場からも日銀のリスクの増大に対する懸念の声もある中で、この資産の買入れについて、どのようなご意見をお持ちか、その点についてもお考えをお聞かせください。

§16Asahi Noguchi

最初の質問ですが、金融政策の具体策に関しては、これから日本銀行の中での議論をもう一度私の中で消化しながら考え直すべきものと思いますので、現時点ではお答えを差し控えさせて頂きたいと思います。そのうえで、ETFについてですけれども、先ほどの話とも関わるわけですが、金融政策は、特に非伝統的な金融政策、特に金利が下限になった中で、限界が様々な形で意識されてくるのは当然やむを得ないことだと思います。しかし、技術的に様々な形で、よりオプションを増やす、新しい手段を考える、柔軟化させることは、今後金融政策の手段、範囲をより拡げるためには、私は基本的に望ましいことだと考えています。ですから、ETFの買入れを柔軟にする点に関しても、私は、基本的には、方向としては、結構ではないかと考えています。

§17Question

先ほど、今の金融政策を基本的には評価されているというお話でしたけれども、逆に、基本的ではなくて評価できない部分をもし教えて頂けるのであればお伺いしたいと思います。

§18Asahi Noguchi

一つ言えるのは、評価できないというよりも、残念だったということです。私自身も、最初この異次元金融緩和政策に対して非常に大きな期待を持っておりましたし、それがうまくいくことを願っておりました。確かにそれは、ある程度までは日本経済の地合いを大きく変えることに貢献したと思います。しかし、残念ながら、非常に予想以上に 2%の目標の達成に時間がかかり過ぎていることも事実です。そこは、評価できないというよりも、なかなか難しいなというのが私の率直な見方です。

§19Question

ローカルな話で恐縮なのですが、北海道経済に対する所見をお伺いしたいと思います。野口さんは北海道出身ということで、北海道なのですが、今コロナで主力の観光がすごく打撃を受けていて、なかなか経済が低迷しているところもあります。あと、もともと構造上、国からの補助金に依存しがちな性格もあって、なかなか難しいところもあると思うのですが、今どういうふうにみていらっしゃるか、お話をお聞かせ頂けないでしょうか。

§20Asahi Noguchi

財政政策であれば、地域に対して選別的に手当てをすることが可能ですが、残念ながら、マクロの金融政策に関しては、特定の地域だけを優遇することは不可能です。ですから、マクロの経済政策としてできることは、日本経済全体の所得や雇用を改善していき、物価をある程度の目標とする水準に持っていくことが実現されれば、その結果として全体として地域経済も今よりは改善するだろうと、それ以上何かやろうとすると、これはもう金融政策の範疇ではなくて財政政策等の他の政策手段を用いる必要があると理解しています。

§21Question

先生はいわゆるリフレ派とされる学者の中に位置付けられるのかと思いますが、今まで先生がおっしゃっていた話を総合すると、これまでの金融緩和の方向性については基本的に賛成とおっしゃったうえで、今後の追加の金融緩和については必ずしももろ手を挙げて賛成されるわけではないのかなと思います。その辺りのスタンス、今後についてのスタンスをもう少し噛み砕いて教えて貰いたいと思います。

§22Asahi Noguchi

私自身、今までやってきた直近の政策も含めて、ある程度考えるところはあるわけですが、まさにこれから日本銀行の中に入って、様々なデータを突き合わせて、どういう議論が行われているかを確かめたうえで、今後、日本銀行が行うべき政策というのを私自身考えていく必要があると思います。それから、日本銀行がこれから何をしようとしているのかを改めてみていく必要があると思いますので、今の段階で私がこうすべきと言うことは差し控えたいと思います。申しわけございません。

§23Question

プルーデンス政策に関連してですが、大規模緩和が長期化するもとで、金融機関の収益環境がかなり厳しくなっています。現状の金融機関に対する認識や金融政策に与える影響について、お考えを教えて頂きたいと思います。

§24Asahi Noguchi

金融政策の優先すべき目的は、金融機関を健全化するということではなくて、あくまでも日本経済、マクロ経済の状況、特に物価、所得、雇用、こういうものを適正な水準に持っていき、それを維持することが目標です。当然政策の方向によって、金融機関に負担がかかることはあり得るわけです。それをできるだけ歪みのない方向に、方策によって配慮しながら、あるいは手当てしながら、基本的には日本銀行の金融政策の目標をなるべく早く達成する、達成できれば、おのずと金融機関もそれにつれて状況が改善していくだろうと期待しています。

§25Question

4月の国債の買入れ額を3月に比べて減額したということなのですが、これをどう評価されているかということを教えてください。あと、これまで金融政策等を研究されてきた中で、どういった人に感銘を受けたり、影響を受けていらっしゃったのかなど、お話を伺えればと思います。

§26Asahi Noguchi

最初のご質問については、どのような理由でそうなったのかについて、今私自身十分に把握しておりませんので、お答えを控えさせて頂きたいと思います。二番目のご質問については、国際貿易や金融政策といった経済理論の歴史について、大学院に入って最初の頃は研究しておりまして、基本的な古典と言われているものには、やはり何回も読み直す価値があると考えています。例えば、金融政策に関しては、すぐケインズやフリードマンという名前が出るわけですが、特に私が何回も読み直しているのは、ヴィクセルというスウェーデンの経済学者の本、あるいはもっと古い人でイギリスのリカードなどと同じ時代の人ですが、ヘンリー・ソーントンという学者がいて、そういう人たちの本は、実はもう二百年くらい前のものなのですが、現代の金融政策にも通じるものがあります。そういった古いものの中に、新しい知見、現代まで通じるような知見が発見できることに、私は学者として非常に感銘を受けました。以上