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Bank of JapanPress conferenceSep 1, 2021Masazumi Wakatabe, Deputy Governor

若田部副総裁記者会見(2021年9月1日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

まず、本日の金融経済懇談会ではどのような意見交換をされましたでしょうか。副総裁の感想などもありましたらお願い致します。また、コロナ禍が続いていますが、広島県経済の現状に対する認識や先行きの展望について、よろしくお願い致します。

§2Masazumi Wakatabe

まず、広島県では、先月の豪雨により数多くの方が被災されたと伺っています。心よりお見舞い申し上げます。本日の懇談会では、広島県の行政や金融・経済界を代表する方々から、当地の金融経済情勢や地域経済が直面する課題などについて、大変貴重なお話を伺いました。また、日本銀行の金融政策運営に関する率直なご意見、ご要望もお伺いし、大変有意義な意見交換ができたと考えています。ご多忙の中、本日ご出席頂いた皆さまに、本席をお借りして、改めて御礼申し上げます。懇談会での話題は多岐にわたるものでしたので、本席で全てを網羅することはできませんが、席上で伺ったお話を私なりに整理して申し上げたいと思います。足許の広島県の景気についてですが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大や、半導体不足などの供給制約による生産活動への影響など、下押し圧力が高まっているものの、全体としてはひと頃より改善しているとの見方が多く聞かれました。先行きについては、全体としては改善見通しではあるものの、コロナ禍での世界的な需給の崩れを背景とする調達制約や原材料価格上昇に対して懸念が高まっているほか、感染症の帰趨やその影響についても不透明感が強く、見通しが立てにくい状況にあるとの認識が多く示されました。やや具体的には、業種や品目でみるとばらつきが大きいとの見方が聞かれました。

§3Masazumi Wakatabe

例えば、製造業では、自動車関連業界などでは供給制約の影響が尾を引いている状況にある一方で、半導体製造装置関連や産業用機械などでは海外需要を中心に高操業を続けているとのお話でした。また、非製造業では、飲食・宿泊関係や観光関連のサービス業において、感染症の影響から、売り上げへの下押し圧力がなお強い状態にあるとの声が多かったです。ただ、こうした中でも、行政や金融界、経済界においては、様々な形での支援策を講じておられ、地元企業への資金繰り支援や、販路拡大、事業再構築、雇用維持への取り組みを強化しているとのお話を伺いました。金融界の方からは、感染症の影響で厳しい状況におかれている地元企業に対して積極的に資金繰り支援を行っているが、足許では、業況が改善して返済を始める先と、なお厳しい業況のもとで返済条件を変更する先に分かれてきているとのお話も聞かれました。このほか、脱炭素化への対応について色々なお話を伺えたのも、大変良かったと思います。広島県においても、産学官金が連携した実証研究などの取り組みが始まっており、エネルギー多消費産業が多く、国際的なサプライチェーンからの要請も強い当地において、非常に関心が高まっていることが窺われました。ものづくりの技術を活かせるチャンスだと思って、生産性の向上や地域経済の発展につながるよう取り組んでいきたいとの前向きなお話を伺い、大変心強く感じたところです。

§4Masazumi Wakatabe

日本銀行に対しては、金融政策運営にあたっては、中小企業の実態に十分配慮して、ソフトランディングを心掛けてほしいとの意見がありました。また、金融界の方からは、7月に骨子素案を公表した「気候変動対応を支援するための資金供給」について、有効に活用していきたいと考えているので制度設計について引き続き対話をお願いしたいとのお話もありました。私どもとしては、本日頂きましたご意見等も踏まえつつ、広島支店を通じ、広島県の金融経済情勢を丹念に調査し、広島県経済を支えておられる関係者のご努力が、大きな成果につながっていくようサポートしてまいりたいと思います。続きまして、広島県経済の現状に対する認識や先行き展望について付言させて頂きますと、先ほど申し上げたように、新型コロナウイルス感染症と供給制約の影響で下押し圧力が続いていますが、なおその中でも緩やかな持ち直し基調にあり、この点は、先ほどご紹介させて頂きました地元の方々の見方と概ね同様であると考えています。長い目でみての課題については、私からは講演で、人口減少や少子高齢化ということが課題ではありますが、それが少し過大評価されているのではないかというお話を致しました。これについては、国際比較でみたとき、あるいは広島県の状況でみたときに、人口減少が必ずしも経済の縮小につながっていないということを申し上げました。

§5Masazumi Wakatabe

そのうえで、中長期的な課題としてどのように対応するかという点では、住民の暮らしやすさといった地域の魅力を向上させることが重要ではないか、そのためには産学官金による積極的な投資と、各種の技術・制度・政策イノベーションが欠かせないというお話をさせて頂きました。この点、講演でも紹介しましたが、当地においては、まさに産学官金の連携による地域活性化への取り組みが活発であるように見受けられます。例えば、都市機能の充実・強化に向けて、広島市中心部をはじめ、呉市や福山市などでも再開発事業が実施されています。また、ICT技術を活用した次世代交通網にかかる取り組みも複数の地域で進んでいます。産学官金が参画するこれらの事業は、居住者や移住希望者が住みやすいと感じるまちづくりにつながるとみられます。また、ものづくり、農業、保育現場など様々な分野でAIやIoTなどのデジタル技術を活用するため、民間企業や団体、大学などが連携して実証実験などに取り組んでいます。行政もそうした取り組みを後押ししており、官民を挙げて生産性向上や技術革新を推進しています。このほか、二つの世界文化遺産など、日本有数の観光資源にも恵まれています。

§6Masazumi Wakatabe

昨年来、感染症の影響により観光地への人出や宿泊客数は低水準で推移していますが、個人旅行に着目した観光地域づくりや、アフターコロナを展望した観光需要創出を目指す取り組みが始まっていると聞いています。先ほども現地の方から伺ったように、社会的要請が高まっている気候変動問題への対応についても、産学官金が連携して取り組むべき重要課題と考えられます。当地で進んでいる産学官金が一致団結した各種の取り組みが実を結び、広島県経済がますます発展することを期待しています。繰り返しになりますが、私どもとしては、広島支店を通じて情報収集や意見交換を行い、地域活性化に向けた様々な取り組みに少しでも貢献できるように努めてまいりたいと考えます。

§7Question

今ほど、新型コロナウイルスの広島県経済界への影響をお伺いしましたけれども、併せて、7月と 8月には広島県、中国地方を中心に大雨の被害ということも出ています。こうした大雨被害が経済界へ与えている影響、災害の大規模化のリスクというところ、経済としてどのようにみて取られているか、影響を教えて頂ければと思います。また、日銀も金融政策として資金繰り支援などを積極的に続けていらっしゃると思いますが、長期化するコロナの影響から広島県が脱却そして成長していくために重要なことは何か、今日の懇談会を通じて感じたことがあれば教えてください。そうした意見を受けて、日銀広島支店と協力されて、どのように広島経済界を発展させていくかというところ、お考えがあれば教えてください。

§8Masazumi Wakatabe

7月、8月の豪雨については、過去に例のない降水量となり、人的被害に加え、家屋の損壊、浸水、交通インフラの制約など、住民の方々の生活にも多大なる影響が発生したと伺っています。また、経済界においても、施設や設備などに被害を受けられている企業が少なからずあると伺いました。これまでに伺った限りでは、今回の豪雨により、当地の経済活動全体に重大な影響を及ぼすには至っていないと認識していますが、企業活動に何らかの制約が生じた先は少なくないと思われます。被災した企業や住民の方々においては、復旧に向けて追加的な費用負担が発生するとみられ、そうしたことが企業業績などにも影響を及ぼすものと予想されます。この点、既に行政、経済界、金融機関では相談窓口の設置や災害復旧融資の創設など、様々な支援策を打ち出しており、そうした取り組みが経済への影響緩和につながることを期待しています。この間、日本銀行広島支店においても、中国財務局と連名で、金融機関等に対して、被災者への金融上の措置を要請致しました。引き続き、広島支店を通じて、今回の豪雨による地域経済への影響をしっかりと把握してまいりたいと思います。

§9Masazumi Wakatabe

二点目の広島県の成長に何が必要なのかということですが、まず全体の枠組みとして、日本銀行が必ずしも特定地域を対象とせずに行っている金融政策、あるいは金融システムの安定化は、当然、回り回って広島県経済にも良い影響をもたらすだろうと思っています。そのうえで広島県が抱えている課題、あるいは広島県経済をいかに活性化するかということについては、講演の中でも多少触れさせて頂きましたが、大きく言って二つあるのではないかと思います。大前提として、確かに人口減少、少子高齢化は大変ではありますが、それにどのように適合していくのかが問われていると思いますので、そうした形での取り組みを進めていくのだと思います。そのためには、まず、政策の側、あるいは制度の面で、各種のイノベーションが必要であろうと思います。それが一点目です。二点目は、地域の魅力を増すというのは、基本的にはその地域が暮らしやすいかという点にあるので、大きく言って、まちの魅力、そして暮らしやすさ──雇用や所得、仕事の有無など──になるかと思います。その両方において、広島県の地公体、あるいは金融界、経済界の皆さまは、日々取り組んでおられることを伺い、私も大変安堵している次第ですが、基本的には広島県の成長というと、広島県が、住んでみたいと思うようなところになることが大事になると思います。

§10Question

気候変動対応と物価の関係についてお伺いします。午前の講演で、中央銀行も気候変動問題への対応を行うことは可能で、それは使命からの逸脱ではないという趣旨のお話がありました。気候変動対応を進めていくと、長期的には、景気や物価の安定につながるということはイメージしやすいのですが、例えば、短期的に物価を下押ししたり、持ち上げたりという、そういう力が一時的に働くようなことはないのでしょうか。もし仮に、今の状態で短期的に下押し圧力が強まるということがあれば、 2%の物価目標の実現との両立ということと、やや矛盾する面もあると思うのですが、その辺の見方について教えてください。

§11Masazumi Wakatabe

気候変動に対して、何か政策アクションをしたとしても、すぐに効果が出るかという意味では、中長期的な対応が迫られるということだと思いますが、おっしゃったように、確かに短期的においても、気候変動の、例えば物理的リスクや移行リスクが、物価や経済に下押し圧力になることは当然あり得ると思います。私が日本銀行に来てから痛感することは、日本経済の成長率が全体として低位であることにも関わると思いますが、例えば、2018年7月の豪雨や様々な自然災害が起きると──今回の8月の豪雨についてはまだ影響が明らかでありませんが──、やはりこれは経済に少なからぬ下押し圧力をもたらしてきたということです。普通のマクロのモデルで考えても、需給ギャップの部分が、一時的に更に供給超過といいますか下押しされると、その限りにおいては物価に対して下押し圧力が働き得るということです。私も今起きている集中豪雨が気候変動によるものかどうかについて、確実に申し上げるだけの知見はありませんが、ただ、色々と起きている自然災害なり、物理的リスク、そしてこれから考えていかなくてはならない移行リスクが、需給ギャップあるいは予想インフレ率を通じて物価の安定に影響することは、十分考えられると思います。

§12Masazumi Wakatabe

そのもとで 2%の「物価安定の目標」と両立するかは、今挙げた例では下押し圧力が働いてしまうので、むしろ、経済政策についてはより拡張的に運営すべきということになるかと思います。先ほど申し上げたように、日本経済は、低成長が続いていることの裏返しですが、自然災害や経済構造の転換には直接的にコストがかかるわけで、そうした被害があったときに、それに対していかに対応するかというときも、十分な余地、資源があるのとそうでないのとは違います。ですから、そうした資源や余地を十分に持っておくという意味でも、2%の「物価安定の目標」のもとでの金融緩和とは矛盾しない状況にあると思います。基本的には、持続的な経済発展、あるいは災害に対して強靭な経済を作っていくという観点からは、日本銀行が行っている政策と気候変動対応は両立し得ると言えると思います。

§13Question

質問の趣旨ですが、自然災害そのもののリスクが物価にどう影響するかではなく、気候変動対応を進めることによって、物価にどういう影響があるかということだったのですが。

§14Masazumi Wakatabe

その点は、物理的リスクと移行リスクを減らすことにより──もちろん本当に減らすかどうかは問われますが──、物価については安定的になるとは思います。また金融システムについても安定化に資するということだと思います。ただ、その経路がどれぐらい時間がかかるかということについては、中長期的に時間がかかるものかもしれないと整理できると思います。

§15Question

景気の現状認識についてお伺いします。午前中の会議でもワクチンの普及に伴って、企業から家計へ好循環の影響が向かえば、景気持ち直しの見通しを示されていましたが、足許のワクチン普及が国民の大体 40%を超えるような中でも、やはり感染の拡大が収まらずにサービス業種中心に厳しい状況が続いています。この辺り、若田部副総裁としては、今の景気の現状というのは、下振れリスクが顕在しつつあるのか、どのようなご認識なのか教えてください。関連してもう一点ですが、こうした状況で、金融政策の対応の必要性、コロナオペの延長を今年度いっぱい決めていますが、その辺りの拡充、ないしは追加の金融緩和の必要性などについて、副総裁、今ご自身はどのように考えているのか教えてください。

§16Masazumi Wakatabe

ワクチン接種あるいは新型コロナウイルス感染症の帰趨については、今回の講演で不確実性ということを強調しましたが、まさに不確実な状況が続いていると思います。私も少し前は、ワクチン接種が進むことによって、経済は回復していくという筋道で描いていましたが、少なくともそこについては下振れリスクがあり、回復という意味では、時期的には後ずれしていくだろうと思います。これは、変異株の影響というものにより、感染が拡大してきたということはあるかと思います。現状、ワクチン接種の効果かとは思いますが、死者数などに関しては、前回のピークほどは増えてはいないようですが、感染が続くことを国民が不安に考えるならば、経済に対してはまだ下押し圧力が続くだろうということです。これまで考えていた下振れリスクの一つがまだ残っている、あるいは消えていくスピードが遅いということなので、経済について、明確に大きく下振れしていくということが現時点で顕在化しているとはみていません。ただ、ここのところは、やはり時期が後ずれすることにより、様々な問題、課題が生じてくる可能性はあるので、注意深く検討したいと思います。仮に下振れリスクが更に顕在化していく、景気が回復どころか底割れするようなことになってくると、当然、政策対応を考えなくてはならないと思います。

§17Masazumi Wakatabe

政策対応が何になるのかは、状況によってくるわけで、企業に対する資金繰り支援が望ましいと考えるのか、あるいは追加の金融緩和が望ましいと考えるのかは、経済の状況により判断せざるを得ないということだと思います。そのときには、そのための手段をきちんと用意しておくということで、私どもはいつも用意しているということです。

§18Question

今が、底割れしているというほどひどい状況ではないという理解でしょうか。

§19Masazumi Wakatabe

今の段階で、少なくとも、色々と聞く、データをみる限りでは、デフレ的な圧力が非常に強まっている、消費も急激に落ち込んでいる、設備投資も急激に落ち込んでいる、といったことではないと思います。消費は確かに足踏みをしていますが、供給制約はあっても、海外部門の好調さを受けた輸出の拡大は続いていますし、設備投資も今のところ堅実な動きが続いています。経済のエンジンという点で家計と企業をみると、企業はそこそこ底堅く推移していますし、家計は、持ち直しがまだ遅いということだと思いますが、急激に底割れしているような印象はありません。

§20Question

物価で二点お伺いしたいのですが、午前の講演では、コストプッシュによる物価上昇について警戒感を示されている感じなのですが、副総裁は、先行きはエネルギーや資源価格の動向によって、物価が上振れする可能性も相応にあり得ると考えておられるのでしょうか。また、コストプッシュであっても、適合的にインフレ予想の引き上げを促す面はあると思うのですが、物価安定目標の実現という観点において、コストプッシュインフレ、これをどのようにとらえておられるのか、ご見解をお願い致します。

§21Masazumi Wakatabe

講演でも申し上げたのですが、持続的にインフレが起きるためには、コストプッシュ要因ではいかないだろうというのが私の趣旨です。1960年代後半から、よく言われる大インフレが起きましたが、あのときも、例えば「石油ショックが起きてインフレがひどくなった」との認識の人が多かったです。もっとも、大インフレそのものは、1960年代後半の国内におけるマクロ経済政策の拡張的運営によって起きたもので、それにより短期のみならず中長期の予想インフレ率も上がったということでした。ですから、今、足許で多少コストプッシュ的なことが起きているとしても、それがより広範に日本経済に拡がっていくためには、それこそ講演の冒頭で前向きな循環、良い循環という言い方をしたように、家計や企業に滞留、待機している資金が支出されていくという動きがないといけないと思います。コストプッシュだけでインフレが起きるとはみていないので、やはり日本国内の要因をきちんとみなくてはならない、というのが、私が申し上げたかったことです。もっとも、適合的期待を通じて予想インフレ率が上振れる可能性はないかと言われれば、そうかもしれないですが、その場合、みなくてはならないのは、短期の予想インフレ率というよりは、むしろ、中長期の予想インフレ率です。

§22Masazumi Wakatabe

この部分は米国経済をみるところでも争点になっていますが、中長期の部分はかなり 2%前後でアンカーされているということであるならば、仮に、コストプッシュで、適合的期待によって短期の予想インフレ率が上がったとしても、それがそのまま持続的なインフレ率につながってくることはないだろうとみています。もちろん、経済は色々なことが起こり得るので、例えば、石油ショックのようなことで、大幅に予想インフレ率が上がるようなことがあれば別ですが、そのようなことが今起きているとはみていない、とお考えください。

§23Question

まず、午前の挨拶でも、気候変動対応とそれから中央銀行のマンデートについてご発言がありましたけれども、今年は、日本銀行は地域金融機関向けの「特別当座預金制度」も始めるなど、日銀がカバーする領域というのが非常に広くなっているのですけれども、若田部副総裁として、現状の日銀のカバー範囲が広過ぎるというふうにお考えでしょうか。また、午前の挨拶でもありましたけれど、喫緊の課題は、やはり物価目標の達成ということでありまして、ただ、今、日銀の金融政策の重心はコロナ対応にあるわけなのですけれども、副総裁は、政策の重心がコロナ対応から物価 2%目標の達成に向けた政策対応に移るタイミングについて、現時点でいつ頃というふうに考えていらっしゃいますでしょうか。

§24Masazumi Wakatabe

まず、二点目の質問からお答えさせて頂きますと、いつ頃というようなカレンダーベースでは申し上げにくいのが、まさに不確実性の最たるところで、逆にカレンダーベースに縛られて、何かこれぐらいまでと申し上げると、予測が外れる危険性の方が高いのではないかと思います。ただ、現状で新型コロナウイルス感染症の影響が続いていることはその通りなので、例えば、先ほど来話が出ているワクチン接種が進む、あるいはもう少しワクチン接種が進んだことを前提として社会の中の枠組みが変わっていく、そして、感染症とある種共存するための手段がもう少し出てくる、というようなことが起きるのかどうかです。あるいは、例えばワクチンではなくて治療薬であったり、あるいは国民の多くの人が今関心があるのは病床数の確保ですが、例えば、実際に罹患したときに病院に行けるのか、治療を受けられるのかというような色々な課題がどう展開していくのか、ということに非常によってくると思います。その転換は、米欧などではある程度起きつつあると思っていたのですが、そこでも変異株が生じるということなので、それを追いかけている我々としても、なかなかうまい形で局面転換がなされていないという感じは致します。やはりそうした局面転換がなされていない間は、どうしてもコロナ対応というフェーズが続かざるを得ないのではないかという気は致します。

§25Masazumi Wakatabe

最初の質問で、日本銀行のカバー範囲が広過ぎるのではないかという話ですが、広くなっていると言えるのかどうかはよく分かりませんが、マンデートの観点からは、講演でも申し上げたように、物価の安定と金融システムの安定ということに沿っての対応なので、そこから外れているということはないです。ですから、それに何か別のマンデートが加わっているかという意味では、広くはなっていないということだと思います。また、つい最近、インターネットでも話題になった本ですが、服部正也さんの『ルワンダ中央銀行総裁日記』を読むと、ルワンダでということもあったと思いますが、いわゆる中央銀行としては、非常にたくさん色々なことを行っていたことがよく分かります。現状でも新興国においては色々なことを実施していますし、過去の日本銀行の歴史をみても、それこそ産業金融などを行っていたわけです。ですから、そうした時代に比べて、今の時代の日本銀行が、そんなにたくさん行っているのかな、という気はしないではないです。さはさりながら、色々な制度をローンチしているので、その部分が、実施していることが増えているかのように見えているかもしれませんが、基本は、物価の安定と金融システムの安定です。

§26Masazumi Wakatabe

ただ、日本経済がおかれている色々な課題がたくさんあるので、そうした課題に物価の安定と金融システムの安定という観点から対応するためには、色々な工夫をしなくてはならないという意味だとは思います。もっとも、それをもって広がっているというよりも、現場の感覚からすると、粛々と課題に対応しているということだと思います。

§27Question

気候変動の部分なのですが、午前中の講演の中で、政府との適切な連携・分業がきわめて重要という指摘がありました。ここの部分、もう少し具体的にお話をお伺いしたいのですが、政府としての役割としてはどういう部分であって、日銀としてできる、分業としてできる部分というのは、今進めているような資金供給の部分が想定されるのか、それよりも更に先に何かこれ以上のものも、今後、タクソノミーでの議論等が進めばできるようになってくるのか、その辺のお考えをよろしくお願い致します。

§28Masazumi Wakatabe

気候変動というのは、基本的にはグローバルな意味での市場の失敗で、この市場の失敗に対応するためにどういう手段があるかということで考えると、政府というよりは国会も含めた国会・政府ですが、新しく法律を作る、新しく法律に体現化されるような規制を設ける、あるいは政府が持っている手段でいうと税制や補助金などがあります。市場の失敗、例えば、環境問題での対応でいうと、様々な外部性、負の外部性への対応には、いわゆる教科書的な色々な対応法があり、そうしたものは、政府が行い得る手段であるということです。逆にいうと、日本銀行はその手段を持っていないので、日本銀行が持っている手段、つまり経済に対して流動性を供給する部分、そして考査・モニタリングを通じて金融システムの安定に配慮するという部分で何ができるのか、という問い立てになると思います。ですから、金融にかかる部分で日本銀行が影響を及ぼし得る手段があるというところについては、今回の手段に限らず、今後、更に色々と状況が変わってくれば対応するということはあるとは思います。もっとも、それはそれとして、税制、補助金、あるいは規制といったところに関しては、政府あるいは規制監督官庁が行うという分業関係になるかと思います。以上