総裁記者会見(2021年9月27日)要旨
Full text
§1Question
まず、先ほどの懇談会で関西の経済4団体から資金繰りへの引き続きの支援ですとか、大阪・関西万博への後押しといった意見・要望がございました。それについての総裁の考えをお願い致します。続いて、関西の景気の現状と先行きについての総裁の所感、以上二点についてよろしくお願い致します。
§2Haruhiko Kuroda
今回も、新型コロナウイルス感染症の影響が続く中で大阪訪問が叶わなかったことは大変残念でしたが、オンライン形式で実現した本日の懇談会を通じて、関西経済界を代表する方々から、当地の経済金融の現状と課題、あるいは日本銀行の金融政策運営に関する率直なご意見・ご要望を数多く頂きまして、大変有意義な意見交換ができたと考えています。この場をお借りして、改めて御礼申し上げたいと思います。席上で伺ったお話やご意見・ご要望について、私なりに三点に整理しながら、印象、感想を申し上げたいと思います。第一が、新型コロナウイルス感染症の関西経済への影響です。懇談会では、関西経済は海外経済の回復を背景に、輸出や生産、設備投資などは堅調であり、全体としても持ち直しているものの、飲食・宿泊・観光などの対面型サービス業では依然として厳しい状況が続いているとの声が多く聞かれました。また、先行きについては、堅調な輸出に支えられて持ち直しが続くとの見方や、ワクチン接種の進展と新規感染者の抑制が景気回復につながることを期待する声が聞かれた一方で、感染力の強いデルタ株が拡大するもとで、東南アジアからの部品調達の停滞などを懸念する声も聞かれました。こうした情勢を受けて、日本銀行に対しては、資金繰り支援の継続など、企業金融の円滑確保に関するご要望を多く頂きました。
§3Haruhiko Kuroda
日本銀行としては、本年6月に「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム」を来年3月末まで延長しましたが、今後も、企業金融の動向を丁寧に点検して、しっかりと支えていく考えです。第二に、コロナ後の成長に向けたデジタル化と気候変動問題への対応についてです。懇談会では、デジタル化の重要性が指摘されるとともに、ビジネスやモノつくりの現場においてデジタル・トランスフォーメーションが進み、労働生産性の向上につながっている事例が紹介されました。また、気候変動問題については、国際競争力を維持するためにも、脱炭素化に向けたイノベーションが重要といった指摘、あるいはグリーン・トランスフォーメーションを支える蓄電池、燃料電池、水素技術といった日本の得意とするテクノロジーを成長戦略の柱にすることも必要といった指摘が聞かれました。一方で、中小企業は専門知識や人材が不足しており、支援が必要との指摘もありました。この点、日本銀行は、金融機関による多様な気候変動対応の投融資をバックファイナンスする気候変動対応オペを創設して、先週の金融政策決定会合では、その詳細を決定しました。今後、オペ先を選定し、12月下旬には、初回のオペをオファーする予定です。
§4Haruhiko Kuroda
当地金融機関の代表からは、カーボンニュートラルの実現を金融面から支援する様々な取り組みを拡げてきており、日本銀行の制度の活用を検討しつつ、持続可能な社会の実現に取り組んでいきたい、といった声が聞かれ、大変心強く感じた次第です。最後に、2025年に開催される大阪・関西万博についてです。懇談会では、関西経済はもとより日本経済が飛躍するためのスプリングボードになるといった声や、関西企業が得意とする医療・健康・新エネルギーといった次世代をリードする産業の発展の契機として重要といった声が聞かれました。また、万博会場となる夢洲を未来社会の実験場として、既に複数の実証実験が開始されているとのお話も伺いました。日本銀行としても、日本経済の成長力向上につながるイノベーションの創出、先端技術の開発ということは大変重要と考えていますので、大阪・関西万博はその大きな契機となることを期待しています。次に、関西経済の現状と先行きですが、先ほど来申し上げています通り、関西経済は全体としては持ち直していますが、夏場の新型コロナウイルス感染症の感染拡大や緊急事態宣言の影響から、消費への下押し圧力が強まっている状況にあります。すなわち、輸出や生産は、海外経済の回復やデジタル化の進展などを背景に、電子関連部品や一般機械を中心に増加基調にあります。設備投資も、企業収益の改善を受けて増加しています。
§5Haruhiko Kuroda
一方、消費は、持ち直しが一服しているほか、昨年まで関西経済を支えてきたインバウンド消費が大幅に減少した状態が続いています。先行きの関西経済については、海外経済の回復を背景に、全体として持ち直し基調を続けていくとみていますが、半導体の不足や東南アジアにおける感染症拡大が供給制約を強めるリスクのほか、国際商品市況が企業収益を下押しするリスクなどについても留意が必要です。また、今後の感染動向が消費に与える影響についても、引き続き注視が必要だと思います。更にやや長い目でみますと、世界的に加速するデジタル化、脱炭素化の動き、あるいは、2025年に開催される大阪・関西万博が、関西経済の更なる成長の原動力になり得ると考えています。第一に、デジタル化については、電子関連部材を中心に、関西の企業が強みを持つ分野です。足許では、データセンターや5G関連の需要が増加しているほか、将来の需要に応えるための能増投資や研究開発投資も積極的に行われています。第二に、脱炭素化については、世界的な自動車のEV化の動きを受けて、当地の関連部材メーカーの輸出が増加しつつあります。エネルギー面でも、当地が高いシェアを有する水素の本格利用に向けた取り組みが進められています。また、当地でも、温室効果ガスの排出量が大きい重化学工業などで、新たな製造手法の検討が始められています。関連する研究開発投資も増加しています。
§6Haruhiko Kuroda
第三に、大阪・関西万博は、主要テーマであるライフサイエンスに加えて、デジタル化や脱炭素化に関する社会的実証実験が予定されるなど、各分野でイノベーションが加速する大きな契機になることが期待されています。また、万博開催に合わせた都市再開発や交通インフラ整備、高級ホテルの建設などは、当地の都市機能や観光インフラの高度化につながると考えています。従って、こうした様々な取り組みが、関西経済の発展につながっていくだろうと期待しています。
§7Question
関西経済の中で、良い面、悪い面、おっしゃって頂いたのですが、特に中小企業をイメージしたときに、一つは、原材料価格の高騰で価格転嫁できていない中小企業があり、調査で触れられておりましたけれども、中小企業・製造業企業の 9 割以上が価格転嫁できてなく、それがかなり厳しい状況を続けています。その中で、総裁がおっしゃったように、やや長い目で見れば挽回生産や在庫復元の動きなどに支えられて増加基調は続いていかれるだろうというふうに思うのですが、このスパンというのはどれくらいをみておられるのか、もしお考えがあるようでしたら教えてください。また、リスケジュールがたくさん出てきていまして、今後の倒産などが心配されるところですが、金融面からの支援というところで、総裁のお考えをお聞かせ頂ければと思います。
§8Haruhiko Kuroda
確かに、私が懇談会で申し上げたように、企業の価格転嫁、特に中小企業を含めたところの生産者段階にある企業物価は上がっていても、その先がなかなか上がらないという価格転嫁の問題があることはよく承知しています。懇談会で申し上げた通り、足許では、国内企業物価が 5%を超える伸びになっており、これはモノもそうですが、企業のサービス価格も、同様に上昇しています。従って、生産者段階のモノ・サービスの価格は上昇していますが、その先がなかなか上がりません。ただ、一定のフォーミュラに従ってコストを転嫁する慣行が定着している素材産業、特にエネルギー関係では、既に速やかに価格を上げています。他方、最終需要に近い加工業種、消費関連業種では、ここに中小企業が多いのですが、コストの増加をマージンの縮小によって吸収する傾向が強く、なかなかコスト転嫁を理由とする値上げの動きがこれまでのところ拡がっていません。こうした企業の慎重な価格設定の背景には、以前から申し上げている通り、過去のデフレの経験から物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行が経済主体に定着していること、いわゆる適合的期待形成の強さが挙げられています。これがどのくらいのタイムスパンで克服され、価格転嫁がスムーズに行われていくかについては、二つの要素があると思います。
§9Haruhiko Kuroda
一つは、新型コロナウイルス感染症の流行が収束していくペース次第では、消費需要が高まっていき、更にペントアップ需要まで含めると、かなり急速に消費需要が高まっていくことが期待されますが、そのタイミングがどうなるのかということです。これは感染症のピークアウトがどのようなタイミングで起こるかにかかっているわけですが、現在政府が目標としている、10、11月に、希望する全国民が二回のワクチン接種を終えるというような状況になれば、当然のことながら、新規感染も減りますし、ワクチンは特に重症化を防ぐ効果がありますので、医療の逼迫ということもなくなるので、政府の緊急事態宣言やまん延防止等重点措置もおいおい解除されていくというようなことも予想されます。そうした中で消費が、特に対面型サービスを中心に回復してくることが期待され、先ほど申し上げたようなことから言えば、早ければ年内、遅くとも来年早々には感染症がピークアウトして、人々の外出や外食、宿泊などが拡がっていき、より消費段階の価格への転嫁も容易になってくるということだと思います。もう一つは、特に生産者段階の物価は、国内要因というよりも国際的な、商品市況が物凄く上昇する、あるいは東南アジアの新型コロナウイルス感染症の拡大などによる部品の供給が停滞するなどによって影響を受けている部分がありますが、これは一時的なものであると思います。
§10Haruhiko Kuroda
国際商品市況も、やや落ち着いてきつつありますが、落ち着いてくると思いますし、供給不足から部品等の価格が上がるということも収束していくと思いますので、その面からも、大幅な価格の転嫁をしなければならないということがなくなってくると思います。そういう意味では、両方とも、希望的に言えば年内に収束して、年内にそのような状況になってくるということになろうかと思いますが、感染症の状況や、先ほど申し上げた供給制約やその他商品市況の価格の沈静化のタイミング次第では、来年の初めの方にずれ込むかもしれません。ただ、非常に困難な状況は、基本的には非常に長く続くというよりも、一時的なものだと思います。他方で、企業の価格設定スタンス自身が、はっきりいえば予想物価上昇率自体が例えば 2%に上昇していくのは、これまでの経験からいってもそう簡単ではありません。需給ギャップもプラスになり、様々な要因から物価も上昇し、そして予想物価上昇率も上昇していくという形になっていかなければなりません。企業物価が上がっているのに消費者物価が上がらないという、価格転嫁が十分にできていないという今の状況はかなり緩和されると思いますが、消費者物価自体が 2%に向けて上昇していくのはかなり緩やかなものになると考えています。
§11Question
先週の記者会見でも質問があった内容で申し訳ないのですが、総裁の在任期間が 29日で歴代最長となります。29日で一萬田総裁の在任日数を超えることになるのですが、一萬田総裁は終戦直後よりインフレ抑制に努めて、影響力の大きさから法王と呼ばれている方ですが、その方の在任日数を超えることについて、総裁個人の思い、また感想があればお聞きできればと思います。
§12Haruhiko Kuroda
私自身は、日本銀行の総裁を拝命してから 8年半程度になります。この間、物価の安定と金融システムの安定という、日本銀行法に書かれている使命を果たすべく様々な施策に取り組んでまいりました。今後とも、わが国の中央銀行総裁として、日本経済の持続的な成長に貢献するよう、最大限の努力を続けてまいる所存ということに尽きると思います。
§13Question
今のご質問に関連してなのですが、8年半、かなり長い期間だと思うのですが、これまでに成し遂げられたこと、もしくは、残り任期1年半で残された課題、これは日銀の金融政策だけではなくて、広く日本経済にとって、成し遂げるべき課題だと思われる点はいかがでしょうか。
§14Haruhiko Kuroda
この点は、今年3月の点検でもかなりシミュレーション分析などを行い、定量的にも示されていますが、「量的・質的金融緩和」、特に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の効果については、それらを実施しなかった場合と比べて、経済成長率を引き上げ、消費者物価の上昇率も引き上げ、特に雇用の拡大をかなりもたらしたことが示されています。もっとも、残念ながら、2%の「物価安定の目標」はまだ達成されてないということはありますので、当然のことながら残された 1年半の任期においても、この 2%の「物価安定の目標」の実現に向けて最大限の努力をするということに尽きると思います。ただ、最新の展望レポートをご覧頂くと分かるように、展望期間の終盤の2023年度の消費者物価の上昇率も、1%程度との見込みになっていますので、2%の「物価安定の目標」を達成するのはかなり難しい状況になっているとは思います。もっとも、そのことは、これまで行ってきた「量的・質的金融緩和」あるいは「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」で様々な緩和の措置をとってきたことが間違っていたということではなく、正しかったと思います。残念ながら、経済の状況が改善した割には物価が 2%には達していないということであり、やはり引き続き、2%の「物価安定の目標」の達成に向けて、最大限の努力をしていくということに尽きると思います。
§15Question
先ほど、懇談会のやり取りで出席者の方からデジタル・トランスフォーメーションの重要性というお話が出たということなのですが、黒田総裁としても経済全体のデジタル・トランスフォーメーションを進展させていく必要があるというお話がございました。日銀としては、気候変動については新たなオペを始めるということなのですが、デジタル・トランスフォーメーションを経済全体が進展させていくために日銀として新たなオペを作っていくと、こういった方針といいますか先行きこういったことをしていくというお考えはございますか。
§16Haruhiko Kuroda
気候変動の問題については、よく言われていますように、外部性があり、市場経済に全て任せておいて適切な気候変動対応が十分できるかというとできません。従って、政府が気候変動の対応策を作り、様々な政策を打ち出していくことがどこの国でも行われています。その場合に日本銀行としても、気候変動に対応するような投資を行う企業に対する金融機関の融資についてバックファイナンスを行い、それを促進させることは意味があると思いますし、中央銀行としてのマンデートの範囲内だと思っています。DX全体については、そもそもそうした市場の外部性はそれほど大きいとは思われませんし、市場経済の中で様々なDX投資や対応が行われていますし、行われていくと思っています。もちろん、政府が何か租税特別措置といったものを考える、あるいは技術開発について特に何か考えるということはあり得るとは思いますが、中央銀行として何かDXについて特別な措置を講じることは世界をみてもないと思います。他方、気候変動については、多くの中央銀行が既に対応策を発表し、進めており、自ずと違いがあるかと思います。もちろん、緩和的な金融状況を維持し、DX投資、研究開発投資なども含めたものが全体として促進されるということはあり得るとは思います。ただ、特別の制度を中央銀行として作る必要があるとは思われないということです。
§17Question
懇談会の冒頭に、出席者の方から国際金融都市について言及がありましたけれども、大阪の国際金融都市の構想につきまして、どのような印象を持たれたかということと、日銀としてどのように支援していくのか、それと、金融特区について、大阪に金融特区をという声もありますけれども、どのようなご意見をお持ちかお願いします。
§18Haruhiko Kuroda
国際金融都市としてのインフラ、基盤は大阪も十分あると思いますし、また、東京も多分、十分あると思いますが、そのうえで、どのような政策をとっていくかということになると、まさにご指摘のような特区といった議論はあると思います。特区というのはどこの国でも、金融取引に関する租税特別措置のような話、あるいは金融規制の話ということになると思いますが、これはいずれも、政府の分担する範囲ですので、私から中央銀行として何か特に申し上げることはありません。ただ、先ほど来申し上げた通り、大阪にはそうしたインフラ・基盤も十分整っていますし、国際金融都市として発展する余地は十分あると思っています。以上