中村審議委員記者会見(2022年2月9日)要旨
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§1Question
まず、山梨県内の経済状況についてどうみていらっしゃいますでしょうか。続いて、本日の懇談会について、出席者の方からはどういった声が聞かれましたでしょうか。
§2Toyoaki Nakamura
まず本日の懇談会の雰囲気は、コロナの影響が大変というのはありますが、悲壮感ばかりというようなことではなく、比較的明るい雰囲気だったように感じました。山梨県の景気については、新年入り後、感染症の急拡大を受けて飲食店や宿泊施設で予約のキャンセルがみられるなど、サービス消費を中心に影響をかなり受けていることは、事実として重く受け止めました。一方、財消費は総じて底堅い状況で、生産面でも製造業は受注残高が多いというように、当地でウエイトの大きい半導体関連や電子部品、工作機械などを含めて、製造業を中心に回復が継続していると思います。より長い目でみると、実は山梨県は全国を上回るペースで人口減少が進んでおり、趨勢的に需要が下押しされるという環境や、人手不足による供給制約という問題への対応が重要な課題になっていました。しかし、山梨県には、こうした逆風を乗り越えて、着実な経済成長を実現するうえでの大きな強みがあります。具体的には、生産用機械や電気機械、電子部品等の分野で高い技術力を有する企業の集積があります。それから東京圏に隣接する高い利便性、富士山などの豊かな自然やワイナリーなどの魅力溢れる観光コンテンツもあります。県のリーダーシップのもとでの水素・燃料電池、医療機器などの次世代産業の育成支援、将来の成長の担い手となることが期待されるスタートアップや成長を目指す中小企業の存在があります。
§3Toyoaki Nakamura
そして、昨年8月に山梨県・静岡県間で全面開通した中部横断自動車道等の交通インフラの整備が挙げられます。今後も山梨県経済が、こうした強みを活かしながら、産官学の連携強化を通じて、持続的な成長を遂げていかれることを期待しています。それから二点目の出席者からのご意見ですが、山梨県の行政や経済界、金融界を代表する方々とお話しさせて頂きました。山梨県経済の現状と課題に関する貴重なお話や、行政の支援策などのお話を頂き、大変有意義な意見交換ができたと感じています。全てをご紹介することはできませんが、整理してお話ししたいと思います。まず、山梨県の景気は、半導体関連分野などの製造業の堅調さなどから、全体としては持ち直し基調にあるものの、足許の感染拡大を受けて、サービス消費を中心に厳しさが残っているというお話を伺いました。また、各種部品の供給制約や原材料価格の上昇による企業収益への影響への懸念の声も多く聞かれました。また、人手不足が深刻であるというお話もありました。こうした厳しい情勢の中で、行政では、制度融資や各種補助金等による地元企業への支援策を積極的に講じているというお話も伺いました。経済界でも、足許の感染症対策に加えて、デジタル化の推進や企業間の連携強化なども、このコロナの中で進み、ウィズコロナやポストコロナの成長の実現に向けた取り組みを講じているというお話も伺い、非常に心強く感じた次第です。
§4Toyoaki Nakamura
私どもとしましては、こうしたご意見なども踏まえながら、甲府支店を通じて、山梨県の金融経済情勢を丹念に調査して、山梨県経済を支えておられる関係者のご努力が更なる成果につながっていくように、中央銀行の立場からサポートしていきたいと考えています。
§5Question
インフレ対応で海外の主要な中央銀行が金融緩和からの転換に乗り出している中で、市場では日銀も政策修正に動くのではないかといった思惑が拡がっています。中村委員は、現時点でのご自身の経済・物価見通しやリスクを踏まえて、市場のそうした思惑をどのようにみておられるのか、また、どのような情勢になれば、委員として政策修正や金融正常化といった議論が可能になるとお考えなのか、ご見解をお願いします。
§6Toyoaki Nakamura
FRBやECB、英国のBOEといった海外中銀、特にBOEは2 回金利を上げ、米国も 3月には上げるのではないかという方向で、ECBのラガルド総裁も否定されなかったので、環境的にいうと、米国や欧州の金利は上昇する条件が整いつつあるような状況かと思います。輸入原材料、コモディティの価格は、世界共通に使われているものなので同じように上がっていますが、日本と欧米で状況が大きく違うことのひとつは、日本では残念ながら消費者物価が上がっていないことで、直近で 0.5%くらいの上昇です。米国の 7%や、欧州の 5%とかなり違うのは、おそらく輸入原材料のコストアップを、企業が川上から川下の過程の中で吸収しているということだろうと思いますが、ここのところが、まだ日本は需要がそれほど強くないのかもしれないという気がします。私が更に違うと考えているのは、賃金が上がっていないことです。生活必需品はかなり物価が上がっていると思いますが、消費者の可処分所得は増えないので、生活必需品を買えば、値上がりした分、その他のモノを買う余裕が減っていき、他の需要が落ちていきます。結局、日本全体の需要を平均すると、一方では上がるものの、一方では上がらないということになって、なかなか消費者物価が上昇していかないのだろうと思います。
§7Toyoaki Nakamura
ただ、これからは、徐々に転嫁が進んでいきますので、その過程で賃金が持続的に上がるようになってくれば、欧米の状況と似た形になってくるのだろうと思います。賃金が上昇しないと、物価は一回上がったとしても持続的に上がるというところまで行きませんので、日本はなかなか政策修正まで至る条件に届いていないと思います。今は賃金が持続的に上がるような状況になるまで、粘り強く金融緩和を続けていきます。その中で、経済政策や企業の投資が増えてくることによって、賃金が上がってくるだろうと思います。そこまですぐにはいきませんので、日本銀行としても 2022年、2023年の物価上昇率は 1.1%くらいとみているということです。先ほど申し上げた通り、人件費が上がらないと、需要の上限が決まってしまいますので、なかなか持続的な賃金上昇につながりません。全ての企業が、現在求められている 3%を平均して上げていくということは、各企業にとってみると状況が違いますので、現実的ではないと思います。しかし、成長著しい企業や、業績が堅調でその先も堅調といった企業は、人的な投資を強化していかないと、経営を支える重要なリソースが集まりませんので、持続可能な経済成長や事業成長が実現できません。ですから、そうした面では、まずはリーディングビジネスが引っ張り、そこから徐々に拡がっていくことを期待しています。
§8Toyoaki Nakamura
30年くらい日本国内での投資は低調でしたが、デジタルや気候変動を中心に、いよいよ国内での投資が拡大してくるはずです。そうしないと、おそらく企業は世界で生きていけなくなりますので、待ったなしでやるだろうと期待しています。そうした投資が始まるとの期待のもとに、そうした動きが拡がっていけば、政策の変更ができるようになるだろうと思いますが、今はまだそこまでいっていません。この段階で金利を上げる、賃金が上がる前に金利を上げるということは、賃上げの原資を金利で食ってしまい、その分賃上げができなくなることになりますので、順番が違うと思います。欧米は先に賃金が上がっていますので、その分金利を上げて、スパイラル状に上がっていくことを止めようとされていると思います。そうした日本経済が早く来てほしいと思いますが、これは各企業の努力次第と思います。
§9Question
午前中の講演でも家計資産のお話をされていました。昨年8月の会見では、夏休み頃に出てくるとされていたペントアップ需要が、年末年始か春休み頃になるというふうに見解を変えていたかと思います。オミクロン株の拡大などもあり、今どのようにお考えなのかお聞かせください。
§10Toyoaki Nakamura
かなり前に昨年の夏のペントアップ需要を期待していましたが、第 5波でダメになりました。次に今年の 1~3月でそろそろ感染が収束し始めるのではないかと思っていましたが、年末にオミクロン株が怪しいと思っていたところ、年が明けてからオミクロン株の拡大が一気に始まって、この 1~3月も、ペントアップ需要は難しいと思っています。ペントアップ需要は、感染が収束していけば当然起きると思います。本日の資料にもある通り、過去の家計における金融資産の現預金の増加トレンドは、大体毎年20 兆円ずつ積み上がっていましたが、2020年、2021年で、そのトレンドよりも 44 兆円上回って残高が増えています。これは強制貯蓄に類するものと思っており、米国では取崩しが始まっていますが、日本ではまだ始まっていないのは、国民性もあるのかもしれません。日本は平均年齢が非常に高く、65 歳以上が国民の 29%も占める超高齢社会ですので、健康に対する懸念というのは非常に強いのだろうと思います。これから飲み薬が認可され、岸田首相が一日 100 万回のワクチン接種という目標を掲げられましたが、第5 波のときのように急速にワクチン接種が進んでいくということになると、気持ちも前向きになってくるだろうと思います。私個人としては、5月の連休ぐらいにペントアップ需要が出てくるのではないかという期待を持っています。
§11Toyoaki Nakamura
ですので、私も 5月に国内旅行の予約を入れていますが、おそらく皆さんも旅行されるのではないかと期待しています。そうすると、家計の金融資産約 2,000 兆円のうちの 1,072 兆円が現預金で、その中で使われずに貯まっている 44 兆円が少しずつ取り崩されていくだろうと思います。私は、個人消費のペントアップ需要は必ず起きるだろうと考えています。5月の次は夏ですが、上期にペントアップ需要として日本経済を押し上げてくれないかと期待しています。
§12Question
二点お伺いしたいのですが、企業経営に携わっていらっしゃった経験から、今の為替水準をどのようにご覧になっていますでしょうか。いわゆる円安が原材料の輸入価格を更に押し上げる悪い円安論というものもありますが、中村委員のお考えをお聞かせください。二点目は、オミクロン株の感染拡大で、午前の挨拶でも、中村委員は中国経済について警戒すべきというお話でしたけれども、日本経済にとっても、生産等への供給制約の影響がこれまでの想定以上に長引くのではないかという気もしますが、いかがでしょうか。
§13Toyoaki Nakamura
まず為替ですが、水準がどうということではありませんが、私が民間企業で経営していたときの感覚からすると、かなり安定している気がしています。2020年、2021年から足許にかけて、一番円高のときで103 円くらい、今が115 円くらいで、レンジでいうと13%程度で2年間動いており、過去と比べると、かなり安定したレベルで推移している気がします。為替の影響については、輸入企業もありますし、輸出企業もありますので、片方では円安でマイナス、片方ではプラスになるということです。日本全体で考えると、経常収支が41年間黒字で、対外資産と対外負債をみると、民間企業を中心に、圧倒的に対外資産が多いわけです。10年くらい前には 70~90 円台の歴史的な円高で、私も政府に何とかしてほしいと言った記憶がありますが、あのようなときは資産価格が下がっていってしまうので、経済活動からすると、デフレ圧力が強まってしまいます。どちらが良いのかといえば、日本経済の形からすると、今のように103 円から 115 円くらいのレンジの中での安定した動きであれば、日本にとってみると、トータルでみればプラスなのではないかと考えています。輸入物価が上がると、それを使った商品は当然ながら価格が上がると思います。
§14Toyoaki Nakamura
先ほど申し上げたように、家計が他のモノの支出を抑えますと、結局他のモノの需要が下がることになるので、需要が下がってしまう方の供給側にとってみると、供給能力が余ってしまいます。そうすると余った分の供給先を探すことになりますが、この前提では、当然ながら需要があるのは国内ではなく海外になりますので、輸出先を探すといった海外市場を新たに開拓するという行為を普通の企業は行うことになります。TPP11やRCEPが既に発効していますので、それらを活用して、どのように自分たちの供給能力を満たすかということを事業活動として行うことになりますし、そうした活動が増えてくるはずです。従って、私は安定的に為替が推移することが良いと思います。円高でも円安でも、乱高下を続けていると、事業としての意思決定ができません。一生懸命開拓したら、急に円高になったということではダメになってしまいます。ですから、為替相場は、同じ水準である必要はありませんが、とにかく安定的に動くことが重要で、今の為替水準は安定的にレンジの中で動いており、これは事業としては意思決定しやすいはずですので、今後、海外市場の開拓に力を入れていくことになるのではないかと思います。それから二点目のオミクロン株と中国経済、供給制約についてですが、供給制約はそう簡単になくならないと思います。
§15Toyoaki Nakamura
中国も徐々にゼロコロナは難しいといったことを考えているようだといった記事も拝見していますが、やはりある程度共存しながらやっていくことになるのだろうと思います。BA.2といったオミクロン株の派生が出ているとか、第7 波があるかもしれないという話もありますので、そうした点からすると、アジアでの供給制約がまた出るかもしれないとの危惧は持っています。ワクチンや飲み薬という形で対応策が徐々に強化されていくでしょうから、いずれ供給制約も解決される部分もあると思いますが、半導体では、そう簡単に供給制約が解消することはあり得ないと思います。2022年は、半導体の供給制約は続くだろうという気がします。自動車側の供給制約を解消すると、他の事業に影響が出ますので、企業は世界の中で供給制約と戦いながら事業活動をしていくのだろうというのが、2022年の動きではないかと思います。
§16Question
先ほどのお話の中で、もう少し詳しく伺いたいのですが、賃上げのところで、まさにこれから春闘が本格化するところだと思うのですが、オミクロンの拡大ですとか、物価上昇というところで、まさに人への投資というところも重要となっている中で、この局面での賃上げが実現できるかどうかは、日本企業のこれからにとって重要かと思います。大企業と中小企業、あるいは今日山梨とやりましたけれども、都心と地方でも状況が違うかなと思うのですが、これを踏まえたうえで、実現できるかどうかの重要性、どのようにとらえていらっしゃるのか、改めて伺わせてください。
§17Toyoaki Nakamura
賃上げはやはり労働生産性の向上と対で起こるものですので、大企業、中小企業や、都心部と地方部ということではなく、業績が堅調であるとか、成長を持続的に実現できている企業で更に成長を目指している、もしくはリーディング企業が自社の成長戦略の一環で、賃上げをするのだろうと思います。政府が言っておられるような平均 3%台になるかは、私には分かりませんが、上げるところはおそらく上げると思います。私は、企業が賃金を上げれば、その分を家計が消費支出に回すというほど、単純ではないと思います。やはり人間の心理を考えると、企業の業績が改善していないのに賃金を上げた場合に、もらった従業員が来年も上がると思うかというと、その企業が設備投資もしない、開発投資もしない、人材投資もしない中で賃金だけ上げたとすれば、その企業が競争力を失うかもしれない、今年もらった分は来年もらえないかもしれないので預金に預けておこうという発想におそらくなるだろうと思います。従って、賃上げをした企業が、税制上の恩恵を受けて税控除してもらったとして、それを使って設備投資やソフトウェア投資、人材投資といった将来に向けた投資も併せて行うことで、働いている従業員も、自分の将来に対する安心感が出てくるだろうと思います。これが続くことによって、国内の消費支出が増えてくると思います。
§18Toyoaki Nakamura
賃上げだけを殊更言って、また預金が増えて、銀行が国債を買って、需給ギャップがあるので財政支出するということになってはいけません。業績が伸びるところが賃金を上げるトレンドが出てくれば、一段と、徐々に賃上げが拡がり、賃上げができないところは人を奪われていってしまうことになります。これからは、その状況が分かるように、人的投資を非財務情報として有価証券報告書に書くことになるわけです。これは非常に大きなインパクトがあると思います。今までは、企業の経営者にとってみると、自社の人材投資というのはどのくらいの水準だったら良いのかというベンチマークがありませんでした。研究開発投資であれば、この業態では何%というものがあります。人的投資について、どのくらいだったら良いのか、どのような活動をすれば良いのかということを、今後は開示するようになりますので、企業経営者も自社の状況がこれで良いのか、賃上げだけではなく、人材開発投資がどうあるべきか、賃金体系がどうあるべきなのかということを他社と比べながら行っていけるようになりますので、今までのように数字だけ言っていれば良いということではなくなります。アナリストも従業員も比べられるようになりますので、人事戦略と経営戦略が紐づけられるようになります。これは今後の日本の成長もしくは成長できる企業にとって、非常にプラスの政策だろうと思います。
§19Toyoaki Nakamura
今後、そうした分析が進められて、日本の強みが分かってくると、またそこに人が動くようになります。そうすれば賃金が上がる市場になっていきますので、自然と良い循環になっていくだろうと思いますので、私はこの施策に相当期待しており、どのような開示になるか楽しみに待っているところです。
§20Question
今、コロナの関連融資などで、県内企業の倒産が抑制されていると思うのですが、その返済などが始まって、事業の再構築などもしていかなければならない状況になったときに、今後の県内企業の倒産や休廃業がどう推移していくかについて、お伺いしてもよいでしょうか。
§21Toyoaki Nakamura
確かにコロナ融資の返済が本年から始まるところもあると思います。事業を再構築するとか、新しい事業を始めるときの融資もありましたので、攻めの事業経営をやっているところがある一方で、以前から不芳先であった企業や後継者がなかなか見つからない企業もあると本日伺いました。休廃業の面でいうと、この2年間は過去のトレンドに比べても少なかったので、コロナが収束し始めて様々な支援策がなくなってくると、その段階で、通常であれば、元の休廃業のレベルにいくだろうと思います。2020年、2021年で休廃業が少なかった部分が今後出てくるというのは、自然なことだろうと思います。ただ、人手が足りない点が過去の不況期と違うところで、伸びている企業も山梨県にはかなりありますし、スタートアップを支援する制度もあり、県外から本社を県内に移す企業もあります。山梨県は、人口流入が人口流出を上回るようにもなっています。そうした面では、休廃業があったとしても、開業が増える、もしくは従来ある中小企業が成長して、事業範囲を拡大して人材を吸収していくといった、人の良い流れをサポートする形で運営されると思いますので、大きな危惧を持つよりも、自分たちの力を高める努力を続けていかれれば、山梨県は良い方向に行くと思います。以上