中川審議委員記者会見(2022年3月3日)要旨
Full text
§1Question
まず、本日の懇談会でどのようなことを話し合われたのかお聞かせください。次に、京都経済の現在の動向についてお聞かせ頂けますでしょうか。
§2Junko Nakagawa
まず本日の懇談会ですが、皆さま非常にご多忙の中、京都府の行政、経済、そして金融界を代表する方々にご出席頂き、当地の経済や金融の現状や課題、日本銀行の金融政策運営に関して貴重なご意見を伺う機会となりました。大変有意義な意見交換ができましたことを、この場をお借りして改めて感謝申し上げます。懇談会では、多岐にわたるお話を伺いましたので、全てをご紹介するのは難しいのですが、私なりに整理して、印象と感想を申し上げたいと思います。まず、当地の景気に関しましては──これは二つ目のご質問への回答にもなりますが──、年明け早々頃までは、回復を感じていた方が多かったようです。もっとも、その後、オミクロン株の感染拡大によって下押し圧力が強まっているという見方が多くありました。足許のウクライナ情勢を踏まえた先行きの不透明感についての声もあり、当然、原材料価格の上昇を販売価格に転嫁することの難しさ、そして輸入価格の上昇が消費者に与える影響、それから半導体不足を含めたサプライチェーンの混乱による企業経営への影響、これらを懸念する意見が聞かれました。また、新型コロナウイルス感染症を受けた借入の返済に関して不安を持つ企業が相応にみられるという意見もありました。こうした中で、行政、経済団体、金融機関が連携し、地元企業への資金繰り支援や事業再構築支援、今後の成長に向けた支援などを強化しているというお話も伺いました。
§3Junko Nakagawa
先行きに関しては、ポストコロナの社会的な変化といったものに対応していくために、中小企業においても、DX化やカーボンニュートラル等を踏まえた成長戦略などを描いて、産官学そして金融の「オール京都」で取り組んでいきたいというご意見もありました。こうした点は、厳しい環境下ではありますが、大変心強く思った次第です。また、日本銀行の政策に関しては、原材料価格の上昇、円安に伴う物価上昇、それから今後の金融政策のあり方に関するご質問やご意見を伺いました。また、今後も各都道府県で開催する金融経済懇談会などを通じて、対話やコミュニケーションをしっかりとってもらいたいというご要望も頂きました。私どもとしましては、今後とも京都支店を通じて情報収集、意見交換を行い、当地の金融・経済の発展をサポートしてまいりたいと思った次第です。
§4Question
先ほどおっしゃって頂いた懇談の内容と重なる部分もあるのですが、日本銀行の金融政策についての意見があったということでしたけれども、具体的にどのような要望や意見があったかということをお伺いしたいと思います。そして、ウクライナ情勢に絡んで、出席された方から各国のロシアへの制裁の影響も含めて具体的にどういった意見や質問があったかを教えて頂けますでしょうか。
§5Junko Nakagawa
金融政策に関しては、現状の政策に関して私からご説明しました。それに対して、政府の支援制度のサポートによる融資やプロパー融資を活用している顧客の現状を踏まえて、ポストコロナに向けた返済に関してどのように考えていくべきなのかというご質問とともに、引き続き日本銀行にもサポートしてもらいたいというご要望と、それからいわゆる「ゼロゼロ融資」の返済期を迎える中で、それに対する不安の声もあるというご意見を賜ったということに尽きると思います。非常に貴重な生のお声ですので真摯に伺ったところです。それから、ウクライナ情勢に関しましては、私なりの見方をご説明しました。これに対し、この情勢を踏まえて金融政策に何か変更があるのか、という金融政策に関連付けたご質問等もありましたが、これに関しては注視していくとお答えした次第です。ウクライナ情勢に関しては、後ほど他の方からもご質問があるかと思いますので、少しお時間を頂いて現時点の私なりの整理をお伝えしたいと思います。先に結論を申し上げますと、ご想像に難くないと思いますが、日々、刻々と状況が変わっていますので、その状況を注視するしかないというお答えにならざるを得ない状況です。また、制裁の範囲についても、ご承知の通り、地域によって多少の差があることと、まだ確定していない部分もあることから、こちらに関しても同様に注視するしかない状況です。
§6Junko Nakagawa
そのうえで、影響に関しては当然いくつかの波及経路が想定されますので、この先の影響をみていくうえで参考にしていこうと思っている点についてご説明したいと思います。まずロシア・ウクライナといいますと、原油、天然ガス、小麦辺りを皆さんも思い浮かべられると思いますが、資源や穀物の価格上昇です。それから、当然のことながら貿易活動、物流、それに関わる金融というモノの流れ、お金の流れに変化が生じることになります。そして、それらは世界経済および需給環境、物価動向、ひいては各国の金融政策運営や国際金融市場にも影響を与え得るということです。この辺は既にご案内のことかと思いますが、少しまとめさせて頂くと、経路については、まず貿易面では、わが国との直接的な貿易量の輸出入全体に占めるロシアとウクライナの割合は、通関ベースでみると、現時点においては然程大きくない数字となっています。従って、この視点のみでは直接的な影響は限定されているように見受けられます。ただし、この視点と申し上げたのは、当然のことながら、日本企業は現地生産・現地販売をしているところもあり、また海外の日本企業同士の取引等も相応にあります。この波及経路による影響は、非常に短時間では見極めにくいでしょうし、他の波及経路による影響と時間差を伴う可能性があると思います。
§7Junko Nakagawa
また、国際商品市況では、先ほど申し上げた天然ガスの価格変動が原油以上に非常にスパイクしたものになっているのも目にとまります。天然ガス価格は、著しく上昇した後下落するなど乱高下しており、国際金融市場では、これを見て価格が下落する資産がありリスク資産からの退避がみられるなど、非常に神経質な動きとなっています。それをアセットとして持つバランスシートに対しての影響は、特に 3月決算が多い日本においても注視するべきだと思いますが、ロシアの天然ガスへの依存度が高く縁も深い欧州においては、経済活動に下押し圧力がかかるというのがもう一つの波及経路になると思います。それから、わが国では、資源と穀物の価格上昇によりエネルギーや食料品を中心に物価が押し上げられる一方で、企業収益の悪化、家計の実質所得の減少などが起こると国内の景気の下押し要因として作用するというのが懸念点と注意点になります。そしてもう一つの経路としては、先ほど申し上げたように天然ガスを中心としてロシアへの依存度が高い欧州の経済活動に下押し圧力がかかってくるということですが、欧州経済から間接的にわが国の経済に影響が及び得るというのがもう一つの波及経路と考えています。このように、多岐にわたる経路がありますので、その範囲は想定し得る限りでは相当広いものです。
§8Junko Nakagawa
ただし、足許の紛争の状況は、ご承知の通り、その帰趨自体きわめて不確実性が高いものとなっています。日本銀行としては、この問題が新型コロナウイルス感染症からの回復途上にあるわが国経済へ悪影響を及ぼす、及ぼさないという点に関して情勢を注視していくことになると思います。長くなりましたが、ご質問の京都経済については、やはり実際に影響を感じている取引先企業ないし経済団体の会員があるという声を頂いています。当然、具体的な話はこの席上ありませんでしたが、やはり注視されているというところに関しては意を同じくしたところです。
§9Question
委員は挨拶の中で、金融政策を通じて影響を及ぼせる範囲と効果を確認しつつ、持続的な成長に向けて適切なサポートを行っていくという趣旨の発言をされました。ウクライナ情勢の激化もありますが、コストプッシュ型インフレに対して金融政策で対応することの是非について、中川委員はどのようにお考えでしょうか。
§10Junko Nakagawa
状況をよく見極めて都度適切に判断したいということに尽きます。ウクライナ情勢を受けてということでしたが、刻々と状況が変わっています。コストプッシュ型と端的に言って頂いた趣旨も理解しているつもりですが、その背景はやはり様々な状況と切り離して考えられるものではありません。わが国の現状については、本日の挨拶の中でご説明しましたが、その前から色々な形で物価の変動等も起こってきた中で、まだコロナ禍からの回復期にあるという認識でもあります。こうした点を総合的に踏まえて、都度適切な判断をしたいという意味です。
§11Question
先ほど、ウクライナ情勢の経済、物価情勢への影響について、波及経路を含めて色々ご説明頂きました。物価への影響ですが、日銀ではエネルギー価格等の上昇による物価の上昇が一時的なものであるというように総裁含めて説明してきていると思うのですが、今般のウクライナ情勢の影響等を含めて一時的とは流石に言えない状況になりつつあるのではないかと感じています。エネルギー価格、資源価格上昇を受けた物価の上昇というものが本当に一時的なのかどうか中川委員のご見解をお願いします。
§12Junko Nakagawa
物価、原油価格は、過去、シクリカルに振れを伴って変動していたと私は記憶しています。例えば昨日、10年10 か月ぶりの高値であったということは、10年10 か月前には、ドルベースでは近いレベルにはあったということで、ずっと右肩上がりないしは富士山の頂上のように平らで安定して上がってきているという状態ではないという事です。また、過去には、需給バランスのみではなく地政学的な要因でも動いたことがありますが、それが長期ではなかったことが多いと私はとらえていました。この点、ロシア・ウクライナを巡る情勢は、過去に対比できるものがないと私は思っています。従って、これを除いた状態で、足許の少し前までの状況を振り返ると、繰り返しになりますが、欧米の消費者物価の上昇率は、米国では 7.5%、8%に近づくのでないかと思っている方も多くなってきています。ユーロ圏では足許 5.8%で、食品とエネルギーを除いても 2.9%程度かと思います。英国でも 5%台という状態です。これに関しては、二次波及的な要素も見受けられるという意見もあり、予想物価上昇率や賃金上昇率がインフレ目標と整合的な水準から上振れていると評価され、リスクとしても認識されている状態です。
§13Junko Nakagawa
これに対してわが国は、消費者物価の前年比は、──皆さま、分析等々、非常に分かりやすい報道に努めて頂いていますので、感謝を申し上げたいと思いますが──携帯電話通信料引き下げの影響が 1.5%程度の下押し要因になっており、それに対してエネルギー価格の上昇が今までは相応に打ち消していました。これらが打ち消し合った状態であるがゆえに、0%台半ばということであるのですが、これが足許 1月、つまりウクライナ情勢が緊迫化の度合いを高める直前ですが、本年1月の数字でみると、挨拶の中にあるかと思いますが、前年同月比の上昇率は、エネルギー価格は 17.9%、食品工業製品では 1.4%となるなど、影響がエネルギー以外の物価の方にも少し波及していることが見受けられる状態です。もちろん、携帯電話料金が剥落すると 2%に近いということは算数的には想定できるところであるものの、経済のファンダメンタルズが十分に備わっているかというところに、もう一つの大きな視点があると考えています。ですので、今申し上げた通り、数字の水準自体もそうですし、物価情勢としてわが国は欧米とは同じ状態でないという認識です。
§14Junko Nakagawa
前置きが長くなりましたが、ウクライナ情勢という見通しが立たない状況が不確定要因としてありますので、注目していくことは当然に必要ですし、それが波及していった時の特に悪い方への影響は踏まえたいと思いますが、今の時点で大きな変化、金融政策の方に変化を起こす条件としては、もう少し注視をするところと考えているということです。
§15Question
ウクライナ情勢についての関連の質問ですが、現時点では大きな金融政策の変更になるかどうかというのはまだ注視する必要があるという趣旨のご発言でしたけれども、やはり今後注視していった場合に、金融の緩和方向なのかあるいは引き締め方向なのか、どういった経路というかシナリオというかルートが想定されるとお考えでしょうか。
§16Junko Nakagawa
これもまとめてみると同じような回答になってしまうので誠に恐縮なのですが、情勢が過去に例がないものであること、そして、特に金融市場そのものにも影響が及ぶようなものに対しての制裁も見受けられること、それがこれから拡がる可能性もゼロではないという中にあっては、軽々にシナリオを立てるのは、たとえいくつかであってもなかなか難しいというのがお答えになります。ただその中で、わが国において、金融政策をどう考えるかということについては、やはり経済に十分な力が備わっているかが重要です。つまり物価2%を安定的に実現するというのは、繰り返し申し上げている通り、物価上昇率が 2%に達すればゴールということではありません。理想に聞こえるかもしれませんが、ある程度振れはあるものの継続的にそれを維持していくだけの力が生み出され、経済成長を伴って好循環が生まれているという状態を望んで今の金融緩和政策を行っているわけです。これに対して、ウクライナ情勢がそれ自体または様々な波及経路を通して水を差すような状態になるか、幸いにも企業、各関係者、そして政府等の頑張りによりある程度限定された影響にとどまるかが、大きな二つのシナリオではないかと思います。その時にわが国経済が示す指標がどのように表れているかによって、その時に一番良い方法で判断して採用していくということになると思います。
§17Junko Nakagawa
直接のクリアな回答にはなっておりませんが、ご容赦頂ければと思います。
§18Question
ウクライナの関連で、またもう一つお伺いしたいことがあります。日本はロシアの主要銀行をS WIFTから排除する制裁に米欧とともに加わりますが、それに伴う京都もしくは関西にある日本企業への影響について、本日の懇談会では経済団体の他に金融機関の関係者の方々も出席されていますけども、何か具体的なお話は出ましたでしょうか。
§19Junko Nakagawa
まず、金融情勢や金融機関に関しては、京都に限らずまだ特段変化ないし緊迫した状況にはないという認識です。ただ、変わりやすい情勢、かつタイムラグを生じるという点に鑑みれば、今の時点において、という点を強調させて頂いた上で、金融については特に緊迫した状況にないということを申し上げたいと思います。経済界では、コロナ禍から回復に向かう中で、跛行色、つまり、企業間や業種間での差異が非常に大きくなっているというご意見を伺いました。また、非常に細かい目でみると、例えば同じ対面型サービス産業であったとしても、その中でまた大きな差が出ているということもお伺いしました。こうしたもとで、先ほど申し上げたような波及経路が非常に広く、また複雑、ないしはその何重かによって波及してくるであろう今回のウクライナ情勢に関しては、もう現時点で影響が多少なりあるという声と、まだそこまでには至っていないという声があります。今、そのぐらいの形で情報をそれぞれに集められているということでした。ただ一点、共有させて頂いた方が良いと思いますのでお話しますと、お声としてあったのは、以前から気にかかって注視していた、いわゆる原材料価格の上昇や卸売物価の上昇に関しては、非常に懸念しているという事です。その理由としては、やはり、販売価格への転嫁が難しいところと、何とか頑張ればできるところとの差も開いているということです。
§20Junko Nakagawa
ここにウクライナ情勢が加わることによって、不確定要因や、金融機関にサポート頂いたり、気にかけて頂く面が増えていくと私は理解しています。以上