中村審議委員記者会見(2023年8月31日)
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§1Question
本日の懇談会の内容とですね、出席者の皆さまからどういった話があったのかということと、最後に、岐阜県内の経済情勢についてどうみておられるのか、この二点についてお教え頂けますでしょうか。
§2Toyoaki Nakamura
まず、懇談会ですけれども、当地の経済界や金融界を代表する方々が多くお越し頂きまして、地域経済が直面する貴重なお話を伺うことができました。また、日本銀行の金融政策運営に対するご意見も多く頂きました。大変に有益かつ示唆に富む意見交換もできまして、懇談会にご出席頂いた方々に改めて感謝を申し上げたいと思います。コロナ禍が終わり、ようやく仕切りもなくですね、皆さんとフランクにお話しすることができました。全てを申し上げるというのも時間の関係でできませんので、整理して申し上げますと、当地の景気については、総じてみれば持ち直しということで、回復とかですね、そういったお話も伺えました。コロナ禍からの回復や海外需要にけん引されて、様々な産業で業況が持ち直しているとか、高山地域ですとインバウンドを中心とした観光需要の回復の動きがみられるとか、スタートアップ支援が強化されつつある、それから、海外進出に積極的な中小企業が多く、ジェトロを活用した海外販路の開拓に取り組んでいるといったお話もございました。岐阜市中心の市街地の再開発も進んでいるとか、東海環状自動車道の整備といった当地の強みを一層高める、そういったインフラの整備が進んでいるというようなお話もありまして、明るい話題が結構あったと思います。
§3Toyoaki Nakamura
それから、一方では、原材料や燃料価格の上昇が収益の下押し要因になっているというようなお話もございましたし、消費の抑制につながっているというような声もございました。それから、人手不足が事業のボトルネックになっているというようなお話も非常に多く聞かれました。特に、中小企業では価格転嫁が難しいという先が多くて、賃上げ余力が十分ではないという声も想像通り聞かれました。こうした中で、デジタル活用による企業の生産性向上の支援ですとか、企業と求職者を結び付ける取り組みといったことなどで、積極的なサポートが行われているというようなお話もございました。また、日銀に対しては、地域経済の実情などに目を配りながら、適切な政策運営を行ってほしいといったご意見でございました。私どもと致しましては、中央銀行の立場から物価安定のもとでの経済の再開、それからコロナ禍からの回復を一時的な事象に終わらせずに、経済の持続的な成長を実現していくということですとか、金融システムの安定性を確保することを通じて、当地関係者のご努力がより大きな実りにつながるというような方向にいくようにサポートしてまいりたいなというふうに考えております。岐阜での景況感と言いますと、両方[の見方]がある、ただ総じてみると持ち直し、回復の方向かなというようなことでございました。
§4Toyoaki Nakamura
物価の上昇ですとか、エネルギーコストの上昇というのが、やはり企業業績には下押しの影響が出ているというようなお話でございました。ただ、総じてみると持ち直し、そんな感じでした。
§5Question
7月の金融政策決定会合の時のお話でお伺いしたいんですけれども、一点目がYCCの柔軟化について、中村委員は企業の稼ぐ力が高まってきたら、それが確認できるまではということで反対されたと思うんですけれども、これは中村委員としてはYCCの柔軟化という 7月の決定内容が引き締めの一手だったというご認識で反対されたのかどうかというのをまずお伺いさせてください。二点目が、企業の稼ぐ力が高まったことを確認するってなかなか難しいと思うんですけれども、次に日銀がマイナス金利の解除にいけるとすれば、どういったことが確認できれば次の政策修正ができるのか、この二点を教えて頂けますか。よろしくお願いします。
§6Toyoaki Nakamura
柔軟化自体に私は反対したわけではなくて、それは[金融政策決定会合結果の公表資料の]脚注に書いてあった通りなんですけれども、出口戦略の一環ではないというふうなことで、方法論としては先々のリスクを考慮して対処するためのツールということで考えられたものでありまして、柔軟化の方法自体は私としても反対するものではなくて賛成を致しました。ただ、市場参加者がわれわれの意図に反して上限を1%に引き上げたとかですね、ということで市場が意図に反して動いて混乱をしてしまうと、ようやく中小企業の方もこのインフレ、コストアップの中で賃上げもし、それから設備投資もしようという意欲が生まれてくる中で、その前向きな気持ちを削いでしまうっていうのは全く誰も希望しているものではないので、タイミングとしては今じゃないんじゃないかということを考えまして、私としては 7月のタイミングでの柔軟化の発表は反対を致しました。説明に対して市場がなかなかわれわれの考えていることをご理解頂けないということをかなり懸念したということでありまして、少しずつ、市場環境としては中小企業の業績ですとか賃上げの状況が、これから法人季報ですとか毎勤統計なんかでみえてきますので、そういったところでよく確認してみたいと思いますが、今はこの柔軟化での影響が大きく市場混乱をきたしてはいないかなという感じは、今しております。
§7Toyoaki Nakamura
次のマイナス金利を変えていく条件ですかね、それでいうと、経済が回復をするということだと思います。名目GDPでいうと 2019年度を超えまして良くなっているんですけど、まだ実質GDPでいくと良くなってないとか、2019年度を超えていないということ。それから需給のギャップが、まだ今GDPでいうとマイナスになっているということは、物価[上昇]の中身がディマンド・プル型にまだなっていない。今の物価の上昇が輸入コストプッシュ・インフレの状況からディマンド・プル型へまだいってない状況なので、需給ギャップがマイナスということになるんだろうと思いますけれども、そういった点ですとか、持続的に賃金がちゃんと上がり続けるという、物価に負けない賃金上昇というのが見通せるとかですね、そういうような状況を確認する、そういう方向に着実に歩んでいるなという状況変化っていうのが大事であると思っています。ですので、デジタルにこれっていうよりも、状況の変化をみながら確認をしていくということだろうと思います。
§8Question
先ほどYCCの柔軟化に関してですね、柔軟化自体は反対ではないということをおっしゃっていて、市場も懸念されていた混乱もしてないとは思うんですけれども、今後ですね、決定会合で、この現行のYCCの運用については反対されるつもりなのか、それとも、その時々の状況によるとは思うんですけれども、今の考えをよろしくお願いします。
§9Toyoaki Nakamura
端的に言えば、環境の変化次第というか、それを示す情報次第だなと僕は思っていますけども、YCC自体は非伝統的な政策ですし、異例の金融ですとか経済の環境が続いたっていうことが原因になっているわけで、持続的に回復が続いていけば、本来ならいらない政策だとは思うんですけども、残念ながらまだ経済の環境が 15年間デフレだったところから、ここにおられる皆さん方もなかなかデフレマインドから脱しにくいムードがまだ残っているかなというように思うんですけれども、それがなくなっていけば、YCC自体は当然いらないものだろうというふうに思います。ただ、今はまだちょっとその時ではないなというふうに私は思っていますけども、やはり状況の変化次第というふうに考えています。
§10Question
先ほどYCCの柔軟化の件についてですね、市場の混乱をきたしているわけではないというふうにおっしゃられましたけれども、柔軟化から 1 か月が経過して、その効果とか、心配された稼ぐ力の低下とか、そういったものに対して、今どのようにYCC柔軟化が効果を発揮しているか、稼ぐ力の低下につながっていないかをどのように評価しているかということを教えて頂きたいというのが一点目です。で、柔軟化を受けてですね、なかなか情報発信として、マイナス金利解除しばらくないんじゃないかとか、そういうこともあって為替水準円安が進行していますが、中村委員はこの円安の影響についてですね、どのようにお考えか。こちら二点お願いします。
§11Toyoaki Nakamura
YCCの柔軟化については、今のところ大きな市場の混乱は起きていないかなというふうに思っています。このYCCの柔軟化によっての効果といえば、市場の機能が再び悪化をしてしまう、低下をしてしまうというようなことは今避けられているんではないかなというふうに思います。市場の社債の起債なんかにも大きな影響は出ていないかなというふうに思っています。企業の稼ぐ力がどうかということについては、まだ法人季報が出ていないんで、ちょっと分かりませんけど、大手の企業自身は、決算発表の内容なんかをみますと、これまでに構造改革をしてきた成果が業績に表れているなというふうに思います。これは、デフレ期にやった構造改革っていうのは、コストカットの構造改革が主だったので、固定費を減らすっていうことで、事業のポートフォリオを変えてこなかったっていうのが一般的でした。従って、利益は出るようになった、当時はなったけれども、稼ぐ力が増えなかったということで、97年度の名目GDPを超えるのに19年も当時かかっていましたが、そこからの構造の変化をやってきた成果でですね、今回のコロナショックでいうと、3年で、要するに 22年度で 19年度の名目GDPを超えています。
§12Toyoaki Nakamura
従って、構造改革っていうのは進んだなっていうふうに思うんですけれども、業績の、過去の法人季報なんかをみますと、強くなっているのは大手の企業で、一人当たりの経常利益でみると、中小は、製造、非製造ともに結構効率は改善してないっていうふうにみえています。大手はそれが改善しているっていうことで、大手の方は賃上げをする余力がまだあるっていうふうにみえますし、積極的にもう既に大手では相応に来年度の賃上げを多めにするっていう記事も確かあったと思いますけども、そういうことが言えるような企業の力は日本の大手企業の場合は出てきていると。ただ、まだ中小のところはそこまではまだいっていない、まだデータが法人季報の 22年度までなので、そのデータがみえないと中小の力が、一人当たりの経常利益が増えているかっていうところがまだみえていないんですが、本日の皆さんの金融経済懇談会でのお話の中で言うと、苦戦はしておられるというところもありましたが、頑張っておられるというところも結構あって、悪い方向にはいっていないのかなっていう感じは持ちました。ですので、稼ぐ力をどう評価しているかっていうと、悪い方向にはいっていないかもしれないと、大手は着実に改善をしているっていうことが出てるっていう感じだなと。
§13Toyoaki Nakamura
これからは中小のところのデータと、それからヒアリングですとか、それから民間の情報などもみながら、どちらの方向に行っているんだろうかっていうのをみていきたいと思っています。円安については、[円安と円高の]どっちにもメリットがあって、[円安では]輸出企業ですと当然ながらメリットがあると。それからインバウンドに関係しているところも大きなメリットがある。だけども、内需中心の企業でいうと、当然ながらネガティブな影響になる。そういうようなこともありますし、家計にとってみると、国内で消費をするということからすれば、物価の上昇につながってもいますので、ネガティブな方にいくだろうなということではありますが、為替自体は金利の差だけで動くっていう、そういう単純なものではないので、中期的に考えれば、経済のファンダメンタルズに沿って収れんをしていくっていうものでありますので、そういうことで、金融政策のターゲットには当然ならないんですけれども、物価の影響っていう点でみると大きいですね。今日のお話でもそういうお話が結構ありましたので、それはそうだと思いますので、やはり市場の為替の動向、それから物価への影響といった点をよくみてまいりたいというふうに考えています。
§14Question
今日のご挨拶を踏まえて考えますと、来年の 1-3月というタイミングで、例えば来年の春闘どうなるかとか、あるいは、中小企業含めて企業の収益、増益なのか減益なのかとか、来年の 1-3月というのは非常にデータが揃ってきて、一つ重要な時期になるんじゃないかなと思うんですけれども、中村委員は条件が好ましいものとなれば政策修正が可能となるとお考えなのか、それとも丁寧に状況を分析して、慎重に判断していくことが政策修正には必要だとおっしゃいまして、そういうことを踏まえると、来年1-3月はまだ政策修正というのは難しいんじゃないかとお考えなのでしょうか。その点をお願い致します。
§15Toyoaki Nakamura
確かに 1-3月というタイミングというと、春闘の状況は 3月ぐらいにはかなり出てきますかね。それで、中小のP/Lの状況は、1-3月のデータって1-3月には分かんないんですよね。法人季報でいうと 5月くらいになっちゃうんじゃないかと思うんですけど、データが揃うかというと、なかなか日本の公式データって出るの遅いので、そういうタイミングでもないなと。私自身は、当年度の結果がどうであるかというのも非常に大事なんですけれども、稼ぐ力そのものが付いたかどうか、従って、企業の事業の強みが活かされているのか。例えば、ドイツの中小企業なんかでいいますと、結構稼ぐ力がニッチの市場で強い。それは、技術力があって、価格決定力を持っているという企業が、全部ではないですけれどもあって、平均すると高いんですね、利益率が。それは、その時々で上がったり下がったりというよりも、結構安定している。これは強みを持っているということなので。
§16Toyoaki Nakamura
今の日本の中小企業の一人当たりの経常利益が上がるのかどうかということが、今後の持続的な賃金上昇に大きな影響を与えますので、従って、今後出てくる法人季報の途中途中のデータが出てきますから、そういうものであったり、毎勤統計での中小企業での給与の状況がどうなのかとか、それから持続的な賃上げができる事業構造に変えるには、日本型の職務給のあり方をどうやって自社に取り込んでいくかという各企業の取り組む姿勢の変化というものがないと、過去のデータだけでいっても市場の環境でまたガクッと変わることもありますので、やはり、変化に対応できる事業構造というか、稼ぐ力に変わっているかということをみていかなきゃいけない。だから、統計の公表データっていうのも大事ですし、それから企業とのヒアリングの結果で出てくる情報の把握、分析だとかというところも非常に大事なので、公式統計だけではなくて、やはりナラティブな情報を認識しながら考えていくと。それによって、ムードがどうかというのも結構大事ですのでね、ムードに流されちゃいけないというのもありますけれども、成長期待が日本に広がっていくかどうかが一番大事なんですね。
§17Toyoaki Nakamura
これが、過去、四半世紀の中でいうと、日本の中でいうと成長期待というのがあまりみえず、非常に暗い過去があったわけですけれども、今少し、成長期待というものが、少しずつ、少しずつ広がってきているような気がしますので、そういったものがどうかということも確認しながらみていきたいなということでありますので、私は、必ずしも 1-3月にスティックする必要はないかなという気はしていますが、それよりも、毎回毎回の変化が、どう変わっているかということで、常に上昇、改善しているかというところを私としてはみていきたいなというふうに思っています。
§18Question
今の質問に関連して、同じような質問になってしまって大変恐縮なんですけれども、状況の変化、ムードの変化をみるとおっしゃった中で、どれくらいのスパンを考えていらっしゃるのか、1-3月期、その先に出てくるデータをみるというお話はされてたと思うんですけれども、長くて数年間、この先数年も今の金融緩和の姿勢というのは、もしかしたら続ける必要があるかもしれないとお考えかどうかをお伺いできればと思います。
§19Toyoaki Nakamura
非常に難しい質問なんですけど、確かに状況があんまり良くないのであればそういう可能性もまああるなというふうにも思いますし、今の状況を考えた時に、過去にない成長期待が生まれてきているように感じています。それはやっぱり、名目GDPが成長を続けているということがあって、その名目GDPが成長するっていうのは、企業の収益、利益が増えているっていうことになるわけで、そこが増え続ければ、当然ながら賃金は増えていくんですよね。だから本当は、名目GDPをリアルタイムに把握できればいいんですけど、これはなかなかできないので、従って企業の業績をみていきたいと。おそらく上場企業は、多分全体で平均すれば良い方向に成長を続けるっていう方向になると思います。私が経営しているのではないので分かりませんが、構造改革の成果が表れてきていますので、ここは多分いくんだろうなというふうに思います。中小企業のところのデータがやはり、これはそんなに出てこない。2 か月くらい遅れてきますので、そこもみますし、それからやっぱりヒアリングだとか、民間のメディアの情報なども把握しながら、その状況がどちらへ動いているのかなということは、やはり重要な、国内の労働市場での成長期待が生まれてるかどうかにもつながりますので、そういった指標は、大事にしてみていきたいなということです。
§20Toyoaki Nakamura
3年というと、私としては、個人的には、3年はちょっと辛いよねと思いますが、じゃあ次の時にもう大丈夫なのかっていうのもまだそこまで確信が持てるデータ一つも出てないので。一番分かりやすいのはこの前の 4-6月のGDPデフレーターが出ましたけども、あれをみると、日本のGDPデフレーターの中身を分解しますとね、かなりの部分が、ユニット・プロフィットのプラスで物価の上昇に繋がっているんですね。今までの 1-3月まではそのユニット・プロフィットの影響っていうのはマイナスだった。それは、各企業が、言われてたように、輸入コストの価格転嫁ができていない、だから自分の利益で吸収していたっていうことが如実に出てるんですけども、23年の 4月から 6月期をみると、私の資料に入れておきましたけど、図表の 6 くらいだったと思うんだけれども、そこにはようやくユニット・プロフィットの部分の影響が大きく出ています。ヨーロッパは、グリーディって言われているみたいに、ユニット・プロフィットとユニット・レーバー・コストがずいぶん増えているんですね。アメリカは、ユニット・プロフィットよりもユニット・レーバー・コストが大きいんですよ。
§21Toyoaki Nakamura
ヨーロッパは、ユニット・プロフィットとユニット・レーバー・コストのそれぞれが結構大きく押し上げてるんですが、日本はようやくユニット・プロフィットがGDPデフレーター [上昇]のかなりの部分を占めるようになって、これ久方ぶりで、これは企業の価格反映の仕方が変わってきたということを表しているんで、今度の 7-9月期のGDPデフレーターの中身が、アメリカなどのようにユニット・レーバー・コストも入ってくれば、企業の業績とともに賃金も価格転嫁され始めるのではないかと。最近は、輸入物価が今年の 4月くらいからですかね、伸びの鈍化が出てきて、CPIにもその影響が少しずつ出てきているというふうにみえて、その影響の代わりに、今度は賃金の上昇の部分が、要するにユニット・レーバー・コストの部分が価格に反映されるというふうになってくれば、いよいよコストプッシュ・インフレからディマンド・プル型のインフレに変わると、これは持続的な形になりますので。
§22Toyoaki Nakamura
そういったところを本当はずっと確認したいんですけど、出てくるのが遅いので、やはりこれは日本の国民の成長期待というのがどういうふうに高まっているのかなというナラティブな部分での把握というのも大事なので、何年というのは言えないですけど、できれば早くそういう欧米型のGDPデフレーターの中身に変わってもらえれば、われわれとしても政策を正常化するということはできるのではないかと思いますが、まだそれが続くがどうかという問題もありますので、四半世紀ずっとデフレから抜け出していないので、少し判断には時間がかかるかなというふうに思います。以上