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Bank of JapanPress conferenceOct 12, 2023Asahi Noguchi, Board Member

野口審議委員記者会見(2023年10月12日)

Original in Japanese

Full text

§1Question

二点お伺いします。一点目は、午前中の懇談会で出席者の方から出た意見をいくつかご紹介頂きたいのと、また、それに対する受け止めをお願いします。二点目は、新潟県経済についてです。新潟県経済の強みや課題を踏まえた現状と、今後の見通しをどうみていらっしゃいますでしょうか。以上二点、お願いします。

§2Asahi Noguchi

まず第一問に対する答えですが、本日の懇談会では、新潟県の行政や経済、金融の各界を代表する方々から、地域経済の現状や課題に関する貴重なお話や、日本銀行の金融政策運営に関するご意見等を数多く頂きました。大変有意義な意見交換ができましたことについて、この場を借りて、懇談会にご出席頂いた方々や関係者の皆さまに深く御礼を申し上げます。本日の懇談会での話題の全てを網羅することはできませんが、席上で聞かれたご意見等を整理して申し上げます。まず新潟県の景気についてです。当地経済は、感染症の影響が和らぐもとで持ち直しているといった趣旨の話が聞かれました。人流が回復する中で売上が増加しているとの声や、原材料価格などの高騰を背景に省力化・合理化や省エネルギーへの投資が積極化しているとの声が聞かれました。そのうえで、景気の下押しリスクとして、既往の資源高を背景とする原材料価格の上昇に留意が必要であるとの声が多く聞かれました。原材料価格の上昇については、徐々に販売価格に転嫁できているとの声もありましたが、中小企業を中心に価格転嫁が難しく、収益の圧迫要因になっているとの指摘がございました。これに関して、適正な価格での取引を行うことができる環境整備を進めることが重要とのご意見が聞かれたほか、新潟県では原材料価格の上昇による負担を軽減するための取り組みを行っているとのお話を伺いました。

§3Asahi Noguchi

当地の課題としては、少子高齢化や人口減少などを背景とした人材不足や県内市場の縮小を挙げる声が多く聞かれました。当地の景気が持ち直している中で、人手不足への対応は喫緊の課題です。しかしながら、こうした課題をチャンスとしてとらえ、賃上げを含む人的投資やデジタル化を始めとする省力化投資などによって、当地の労働生産性が向上し、それを県外・海外からの需要に結びつけていくことが重要です。実際、デジタル人材の育成や創業支援など、産学官金が連携して、様々な取り組みが行われていることを伺い、とても力強く感じられるところです。金融機関の方々からは、実質無利子・無担保融資の返済が本格化する中、よりきめ細かく取引先の経営状況を把握し、サポートしていきたいとの声が聞かれました。また、取引先の様々な経営課題を解決すべく、本業支援をはじめとした、コンサルティングサービスの充実に努めているといったお話も伺いました。日本銀行の金融政策運営に関しては、政策の効果と副作用を比較衡量しながら、経済・物価・金融情勢に応じた適切な判断をお願いしたいとのご意見を頂きました。また、多角的レビューの観点では、1990年代後半以降に日本銀行が講じてきた金融緩和等の影響については、低金利環境の長期化により、金融機関収益が減少するなど、副作用について指摘する声が聞かれました。

§4Asahi Noguchi

他方で、金融機関の非金利ビジネスの増強や新たな事業領域への進出、更には経営統合などを含めた大胆な経営効率化が進展したといった声が聞かれました。また、企業における借入コストの低下や、消費者の購買意欲の醸成が浸透したことは意義があったとのご評価も頂きました。日本銀行としては、今後も、新潟支店を通じて、当地の経済・金融情勢に関するきめ細かいモニタリングを続けるとともに、当地経済の持続的な成長に向けた取り組みや金融システムの安定性の確保を後押ししていきたいと考えています。次に、新潟県経済の現状および先行き見通しという二番目の問いに対するお答えです。当地経済では、地域のイベントも感染症の影響で中止ないし規模縮小を余儀なくされてきましたが、感染症禍からの正常化が進み、今年は本格開催の実現により以前の賑わいを取り戻し、本来の魅力を発揮しています。こうしたもとで、新潟県の景気は生産面を中心に海外経済の減速の影響がみられますが、内需を中心に緩やかに持ち直しているとみています。企業の好調な売上動向や先行きの需要増加の見通しを背景に設備投資も増加しているほか、雇用・所得環境が改善する中、堅調なペントアップ需要に支えられて個人消費は回復しています。

§5Asahi Noguchi

先行きについては、当面は海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化などに支えられて、日本経済が緩やかな回復を続けるもとで、新潟県経済も回復基調を続けていくとみています。もっとも、新潟県経済をやや長い目でみると、人口減少や人手不足といった構造的な課題を克服していく必要があります。この点、当地では、金属、機械、食料品、素材、建設など、幅広い分野で高い技術力を有する産業の集積がみられます。また、当地には、県外や海外の観光客を惹きつけるであろう多様な文化や歴史、豊かな自然、おいしい食が存在します。本日の懇談では、こうした強みを活かした新潟県経済の発展に向けた取り組みの紹介や関連するご意見を数多く頂き、非常に心強く感じられました。今後、当地関係者の幅広い取り組みが功を奏し、人口減少などの課題に対応しながら、新潟県経済が一層の発展を遂げることを期待したいと思います。

§6Question

二点質問がありまして、午前中の挨拶の中で野口審議委員がおっしゃられている「大きな転換点」という言葉に関わるところなんですけれども、直近の物価上昇ですとか春闘の水準を踏まえると、YCC撤廃なども含めた政策転換への距離感も徐々に縮まりつつある印象を持っています。この距離感ですとか見極めの時期、あるいはこの「大きな転換点」とするところの、こちらのお考えについて改めてお聞かせ頂ければと思います。もう一点はですね、今、日銀が目標としている 2%の物価目標を 17 か月連続で上回っているような状況です。3%以上も 12 か月連続ということで、こちらデフレ脱却ではないかという見方もあるんですけれども、こちらの現状について野口さんご自身どのようなお考えを持ってらっしゃるか、ぜひお聞かせください。以上二点です。

§7Asahi Noguchi

まず最初の、私の午前中のご挨拶の中で「転換点」という言葉を使いましたけれども、これは大きく言えば、やはり 1990年前後にバブルがはじけて崩壊してからいわゆる長期停滞と言われる状況が長く続いておりまして、その後 2013年以降ですね、異次元金融緩和というのを始めてですね、若干、労働市場等の状況は改善しましたけれども、しかし、その中でもやはり物価と賃金が上がらないという状況が続いている。いったんはデフレに陥ってそれからデフレではない状況にはなったのだけれども、しかし、この目標の 2%というものにはなかなか安定的には届かないという状況が続いてきたという、こういう状況であったわけです。しかしようやくですね、今年、ベアが 30年ぶり[の伸び率]に上昇したということですね。これは非常に大きいというふうに考えておりまして、というのは、なぜ物価が 2%に達しないで、持続的に 2%に安定的に達するということができなかったのかということを考えますと、やはりその一つの大きな原因というのは賃金がなかなか上がらなかったということでありました。これは、異次元金融緩和を 2013年に始めて以降ですね、労働市場はかなり改善をしまして、そして賃金が下がるということはなくなったわけであります。

§8Asahi Noguchi

しかし、そうはいってもなかなか[ベアの]上昇率としては 1%にも満たない状況が続いている、こういう状況ですから、そういうことであれば物価(注)というのも当然 2%には届かないということになって当然であります。これは私が言っている物価と賃金のゼロノルムというものであります。しかし、これがようやくですね、物価がとりあえずコスト・プッシュではありますけど、世界的インフレの影響の中で物価が上がったということ、しかしこれだけでは単にコスト・プッシュであって、そういう一過性のもので終わってしまうわけでありますから、これが賃上げにつながっていくということであれば、まさにこれが「転換点」ということになります。そうやって賃金が物価以上に安定的に上昇し続けるという状況、まだ残念ながらそういった状況には至っておりませんが、少なくともこれまで 30年間上がらないできた賃金が大きく上がり始めているということは、一つ大きな進展であったということで、私はこれを「転換点」というふうに名付けたわけです。しかし、とは言いながらですね、じゃあ転換した後にすぐ目標まで達成できるかと、距離感で言えば、これはなかなか、私自身はまだそんなに簡単にはいかないであろうと。個人的な見方としてですね、そんなに簡単ではない。ようやく今年始まったばかりでありますから。

§9Asahi Noguchi

それからまだベアでいって 2.1%、まだ 2%ちょっとというところであります。これではやはり 2%物価安定目標と整合的であるとは言えません。もう少しまず上がっていかなければいけないというのが第一。それからもう一つは、これが持続的に続くのかと。本日の経営者の皆さまがたとのお話の中でも、一つは建設業界のところで、例えば国土交通省などからの支援、後押しというのもあって、賃上げというのは意外と進んでいると。しかし、これをずっと続けるのはなかなかきつい、もう今年は上げたけれどもちょっと来年はどうかなという意見も正直あるというのは私もお伺いしました。ですからそういうふうに考えますと、この勢いが更に増していくかどうか、ここはそんなに楽観はまだできないであろうと。とりあえずは来年の春闘がどうなるかというところを見極めていきたいというところであります。それが一番目の質問への答えです。それから二番目でありますが、お話があったように、確かに今もう相当長い期間2%あるいは 3%を上回っている状態ということでありますけれども、ただ重要なのはその中身ですね。

§10Asahi Noguchi

物価の上昇というのが続いているといっても、それの原因は何かというところ、ここが一番大きな問題でありまして、これははっきり言いまして、われわれの分析では基本的には為替の影響を含めた輸入価格の上昇の影響であると、それが転嫁されてきている、そういう状況がいまだに続いていると。たしかに企業物価それから輸入価格はエネルギーを除けば低下トレンドに今はいるわけでありますけれども、しかし、これまでの上昇というのは非常に大きなものでありまして、それを企業が一遍に転嫁するということはなかなか難しいわけで、細切れにこれまで去年から今年にかけて転嫁してきたわけでありますけれども、しかしこれはやはり相当時間はかかってますね。中小企業など、今日もお話出ましたけれども、転嫁と言ってもようやく 5 割くらいが進展具合いかなというところだというお話を伺いました。そういう状況からいいますとですね、まだ転嫁の動きというのは続いていて、その基本的な原因というのは輸入価格の上昇であるということを考えますと、この輸入価格というものは当然いろんな原因によって上振れしたりいったん上がった後にまた今度は下がっていくということになり、その影響が剥落しますと、またその非常に低いインフレの状態になって、2%のインフレ率を安定的・持続的に達成するということは難しくなるだろうということは容易に想像がつくはずです。

§11Asahi Noguchi

ということは、やはり 2%が持続的・安定的であるためには何が必要かというと、これはもう繰り返しお話ししているように賃上げであります。賃上げというのが物価の2%の目標プラス労働生産性上昇率、これは仮に 1%だと、これは実際どうなるか、1%というのを事前に決め打ちするわけにはいかない、事後的にしか分からない数値ではありますけども、これまで大体平均してみるとそれくらい労働生産性の上昇率がありましたので、それを前提としますと、例えば 3%くらいがめどになるかなと。そのくらいになって初めて持続的な物価 2%の目標というのが達成できるというふうになるであろうということになるわけで、一番目の答えともつながりますけど、まだそこには距離があるというのが私の印象であります。

§12Question

一点、お願いします。今回の講演の方でも、YCCは先手を打たなきゃいけない、柔軟化していかないと、なかなか対応できないというお話がありました。7月の決定会合で柔軟化をしましたが、今、長期金利の方が、アメリカの影響もあって上がりやすくなっていて、0.8[%]を付けたりとかしています。こういった状況を踏まえてですね、金融緩和ということは変わらないと思うんですけど、予防的措置の必要性っていうのを、どういうふうにお考えでしょうか。

§13Asahi Noguchi

今のところ 0.8[%]で、むしろ足もとでは若干下がり気味だということで、まだその距離は、1%という厳密な上限よりは、少し余裕はあるというふうにみておりますので、何かを慌てて、何かをやる必要は今のところなさそうだなというふうに個人的に考えております。それよりも重要な問題としてですね、もし、今お話ししましたように、最近、足もとでずっと 0.8%でですね、7月[のYCC柔軟化]以降に上がってきておりますけど、これは、圧倒的にアメリカの長期金利が上昇してきたと。これはアメリカの方では予想以上に経済が強いと、インフレもなかなか下がり切らないという状況で、いわゆる higher for longer、つまり、金融引き締めの状況が相当長引くであろう、こういうものの見方の織り込みが進みまして、それで、長期金利の方が、つい最近まで上がってきたということであるわけであります。

§14Asahi Noguchi

それに影響を受けて、日本の方でも、かなりそれに歩調を合わせる形で上がってきたわけですが、しかし、これは今後どうなるかというのはもう少し見極めが必要だな、これ以上、相当アメリカの長期金利の上昇ペースが速いですし、一方的に更に進むということも、それは可能性もゼロとは言いませんが、そうじゃない可能性もあるわけで、その辺を見極めていくというのが今の段階であって、何か今、慌ててまた更に再度調整が必要とは、とりあえず私は現在のところはみておりません。

§15Question

イールドカーブ・コントロールの運用柔軟化など、日銀の今後の金融政策を踏まえて、新潟県の経済にどういった、新潟県に限らず地域経済にどういった影響が考えられるのか、どういうことが地方として必要なのか、その辺を伺えますでしょうか。

§16Asahi Noguchi

多分、新潟だけに限らないと思うんですけど、私も実際、対面で金融[経済]懇談会に出席したのが 4 回目になると、いろんな地方に伺っておるわけですが、大体、日本で起きていることは地方でも起きていると。最近の例であれば、人手不足、賃上げをどうするか、それから中小企業の価格転嫁と、こういう話題が常に出てくるわけであります。そういったところではですね、やはり、特に、価格転嫁とか賃上げ、中小企業が厳しいという声はですね、どの地域でも聞かれるわけでありますが、しかし、その中でもですね、これまでと違う動きが、かなりポジティブな動きも逆に出てきている。これまでは賃金も物価も上がらなかったし、金利も上がらなかったと。今、もちろん政策金利はまだ上げてはいないわけですが、長期金利はやや上がっている、物価や賃金も上がり始めている。そうなりますと、経営者の方々としても、これまでは動かなかった、あまり動く必要がなかったと、しかし今後は価格戦略も含めてですね、あるいは賃金をどうするか、そういう問題を含めて考えて動いていかないといけない時代になったと。それは、私は非常にポジティブな変化であると。そういうお話も新潟の中でたくさん聞かれたということであります。

§17Question

午前の挨拶の中で、物価高のもとで家計が消費を抑制する傾向が出てきているということに言及されて、まずは、実質賃金のプラス転換に持っていくことが必要だとお話しされまして、毎勤統計でいうと、足もとまで 17 か月連続で実質賃金マイナスが続いているんですけれども、野口委員としては、実質賃金のプラス転換はいつぐらいに実現できそうか、どういうふうにお考えでしょうか。

§18Asahi Noguchi

これは、なかなか、予想っていうのは難しいですが、方向性としては、われわれは必ず成し遂げなければいけない、やはり使命であるというふうに考えておりまして、目標というのが、物価は 2%でありますから、それに整合的な賃金上昇というのは、仮に労働生産性の上昇率が 1%とすれば 3%くらいは欲しい。そうするとやはりまず二つのことが必要になるわけでありまして、一つは、今はコスト・プッシュでインフレ率が高止まりしておりますけれども、理想より高い、まだ 3%を超える状況であります。しかしこれは、おそらくはですけれども、価格転嫁は、時間が経てばやがては剥落し、一巡してその影響はだんだんと減衰してくる。これはそれを待つしかないわけでありますが、そういう状況をまず待っていくということがひとつあります。その間により重要なのは、先ほどからお話している、賃上げのモメンタムがむしろより強まっていって、今 2%のベアを超えていく、少しでも 3%に近づいていく形で進展していくということが重要でありまして、それがいつ実現できるかというのは、なかなかですね、これはなるべく早く実現してほしいとしか言いようがないですけども、とにかくこれをいつか必ず成し遂げなければいけないというふうに考えています。

§19Question

マイナス金利についてお伺いします。政策委員の方々の間でもマイナス金利解除について様々なご意見があると思いますけれども、改めて野口委員はどのようにお考えでしょうか。あともう一つ、賃上げのところで今もお話しあったと思うんですけれども、具体的にどういった情報、どういった指標をみていくべきとお考えでしょうか。

§20Asahi Noguchi

まず、最初にマイナス金利の問題についてでありますけれども、これは、実際にマイナス金利を解除するということになりますと、これは相当、実際に 2%の目標というのがかなり確実になっているという状況がまず大前提であります。しかしその前におそらく、私の午前中の話の中でもお話ししましたけれども、2%の目標が確実になるということであればそれは政策金利も引き上げていくということになりますから、当然YCCというのも現状のままでは維持できないという状況になりますので、まずそれが生じます。その後に、じゃあどうするかということは現状ではなかなか難しい。マイナス金利を解除していくということが仮にですね、そのまま政策金利を引き上げていくということになれば、これはやはりその前に、われわれオーバーシュート・コミットメントをしておりますので、ある程度量の方を調整というのを済ませておかないといけない。

§21Asahi Noguchi

つまり、いわゆるテーパリングをして、QTいわゆる量的引き締めということは、もう少し先になると思いますが、少なくとも量的緩和を停止するという局面になってくるわけでありますから、その状態になって、そういう状態に持っていく必要がありますから、結局、結論としてなかなかはっきりと申し上げるのは難しいのでありますけれども、YCCという長期金利の問題、それからバランスシートの調整の問題、テーパリングやQTといった、それから政策金利の調整の問題、マイナス金利の解除を含めてですね、その三つの領域の問題をどういう順序で、どういうタイミングでやっていくかというのはまさに出口の問題でありまして、現状で、それは経済状況に対応して順序も決めていくということでありますので、マイナス金利[解除]がいつになるのかというのを、現状でお話しすることはちょっと難しいと思っております。それから二番目の賃上げの問題でありますけれども、まずは日本の場合、春闘というのが 1年に 1 回しかない。特に正規雇用の賃金水準という、ベースアップという問題を考える場合には春闘というのが一番大きな注目点になるということは言うまでもないわけでありますけれども、それだけではありません。

§22Asahi Noguchi

特に非正規の場合は労働需給の状況というのが直接的に、例えば労働市場の逼迫度が上がれば、やはりてき面に賃金、例えばアルバイトの時給などが上がっていくという状況がありますので、そういうものも当然みながらですね、労働市場の状況と、それから非正規を含めた賃上げ状況、それから正規に関しては春闘、こういうものを睨みながらですね、全体として賃上げの水準が結局どのくらいなのかということを見極めていくということになると思います。

§23Question

改めて、YCCの件なんですけれども、午前の講演でですね、インフレ期待が上昇し始めるような段階では、金融緩和の継続のためにもある程度の柔軟化が必要だと、こういうふうにおっしゃられてまして、そういうことを踏まえて、野口委員は足もとのインフレ期待をどのようにお考えになられていて、その観点からも、今YCCの更なる修正とか、そういったものは必要ないか、そういうお考えでいいのか、確認も含めてよろしくお願いします。

§24Asahi Noguchi

まず最初に、先ほど、YCCの質問がございましたけれども、今、確かに 0.8[%]まで一時上がりましたけれども、これは、私は、必ずしも日本のインフレ期待が上がったから上がったというものではなくて、やはりアメリカの長期金利の上昇の影響が非常に大きかったというふうに考えています。ですから、もし日本のインフレ期待がどんどん上がっていって、それで、長期金利もそれにつれて上がっていくということになればですね、これは本格的にYCCを見直さなきゃいけないという局面になるんであろうと思いますけれども、現状ではそうではなくて、アメリカの金利上昇の影響の方がはるかに強いというふうに考えております。インフレ期待に関しては、確かに相当上がってきてはおります。ただですね、全体としてみるとまだ弱いですね。まだ 2%に安定的に達するか、特に長いところの、5年先[といった中長期]のインフレ期待というのをみますとですね、企業の方はそれなりにインフレ期待も上がってきておりまして、これは販売価格も上げていこうというですね、そういう見通しが出てきているということを意味しているとは考えておりますけれども。家計も足もとではもちろんかなりのインフレになっておりますので、足もとではインフレの意識が強まっているんですけれども、もう少し長い目でみるとそれほど上がってきていない。

§25Asahi Noguchi

更に、エコノミスト、専門家の方はですね、これも徐々には上がってきているんですけど、いまだに非常に低いと、せいぜい 1%超えて、1.5[%]にもいかないというようなですね、そういうような状態でありますので、そういうふうに考えますと、まだ本格的に日本のインフレ 2%目標が達成されているということが、インフレ期待まで織り込まれているかというと、まだそこまでいっていないというふうに考えております。

§26Asahi Noguchi

リスクバランスに関するご認識について伺いたいのですが、物価や経済は上振れするリスクと下振れするリスク、どちらを重視した政策運営が重要とお考えでしょうか。あと、最近の中東情勢の悪化というのもこれも新たなリスクになり得るのでしょうか。

§27Asahi Noguchi

今、正直言いまして、われわれ自身、想定以上のインフレというのが続いていると。今年度に関してもですね、相当引き上げざるを得ないような、われわれの見通しよりも上振れてきた、今後もある程度その上振れというのが続く可能性はそれなりに認識しております。これはインフレだけではなくて、経済成長に関しても、これは先日IMFで予想の値が出ましたけども、[今年は]2%というような非常に強い値になっておりまして、ですから、成長率に関してもインフレに関しても上振れしてきているという状況であろうかと思います。ただですね、問題はじゃあ上振れをしているので、われわれの政策変更がどんどん前倒しになるのかどうかというところは、これは私違うんではないかというふうに思います。それはなぜかといいますと、今、日本においては他の各国とは状況が違う。何が違うかというと、各国の場合はもう相当に賃金も物価も上がって、アメリカが典型ですけれども、それをとにかく抑えつけなきゃいけないという状況がずっと長く、去年、一昨年ぐらいから続いてきているわけであります。しかし、日本の方はですね、確かに物価は上振れはしておりますけれども、まだ賃金の上昇もようやく今年少し上がったという状況でありまして、上がりすぎて困るという状況とは相当ほど遠いわけでありますね。

§28Asahi Noguchi

アメリカなどの場合には、賃金がかなり上がりすぎてしまって、それが物価に反映されて、粘着性の高い物価の高止まりが続いているということでありますが、日本の状況とは大きく違うわけでありまして、日本の場合であればですね、もっと賃金も高くなってほしいという、こういう状況でありますから、ということはですね、何か大きなショックがあれば、またこれが下振れしてしまうというリスクの方がはるかに大きい。上振れしちゃってですね、それを抑え込むのに苦労するというリスクは逆に言えばはるかに小さいということでありますから、そういう下振れリスクのウエイトというのが日本の場合は、はるかに大きいわけであります。ですから現状で考えますと、確かにわれわれの予想以上に上振れが続いているということは事実でありますけれども、政策の面で考えればですね、下振れリスクの方を意識してやるということが今まだ必要な段階であるというふうに私自身は考えております。(注)会見では「賃金」と発言しましたが、正しくは「物価」です。以上