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Bank of JapanPress conferenceJun 6, 2024Toyoaki Nakamura, Board Member

中村審議委員記者会見(2024年6月6日)

Original in Japanese

Full text

§1Question

本日の金融経済懇談会でどのような議論が行われたのか教えてください。

§2Toyoaki Nakamura

今日はですね、相当活発な意見交換ができまして、いろいろとお話を頂戴致しました。当地の行政、経済界や金融界を代表する方々から、地域経済が直面する課題、それから日銀の金融政策運営に対するご意見などもございました。大変有益かつ示唆に富む意見交換がお互いにできまして、懇談会にご出席を頂いた方々にも感謝を申し上げたいと思います。全てを紹介しますと、相当な時間、意見交換しましたので、席上聞かれた話を整理して申し上げます。まず、当地の景気ですけれども、「持ち直している」というご意見が聞かれました。参加者の皆さまからは、「次世代半導体工場の建設による波及効果、デジタル関連産業の集積が期待される」、「インバウンドを含めた観光客の回復などで関連業種に好影響がみられる」、「北海道の「稼ぐ力」を上げていくため、産学官金の連携を強化する」、というような明るい話題が聞かれました。一方で、「賃上げ分の販売価格への転嫁が十分に進んでおらず、為替円安の影響も含めて原材料や燃料価格の上昇が企業や家計に影響を及ぼしている」、「多くの産業で人手不足の深刻化が事業のボトルネックになっている」といった声も聞かれました。

§3Toyoaki Nakamura

特に、中小企業、とりわけ小規模事業者では景況感が厳しいという先も多くて、「大企業などに比べて賃上げが進んでいない」とか、「賃上げに向けた原資が確保できず、身を削りながら賃上げを行っている」といった声や、「全国に先んじて人口減少・流出、それから少子高齢化が進むもとで、人財確保が困難で将来的な事業継続に懸念がある」と、こういった強い不安も聞かれたところでございます。また、金融機関からは、持続的な賃上げが容易でないという地元企業も少なくないという意見もございましたが、半導体工場やデータセンターの建設、宇宙産業の具体化などの進展がみられる中、これらに関する投資や脱炭素化に向けた取組みに関する資金需要を積極的に取り込んでいきたい、というお話も聞かれました。最後に、日本銀行に対しては、経済はまだ回復途上にあり、今後も地域経済や中小企業などの厳しい実態をよく把握し、その影響にも十分配慮しながら、金融政策運営を行ってほしいと、こういったご意見を頂戴したところでございます。私どもとしては、本日伺ったお話を踏まえて、中央銀行の立場から、金融システムの安定を確保するとともに、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現するために適切な金融政策を運営し、当地経済の持続的な成長を引き続きサポートしてまいりたいというふうに考えております。

§4Question

北海道経済の現状をどのように評価なさっているか、お願い致します。

§5Toyoaki Nakamura

北海道経済については、一部に弱めの動きがみられるというのがありますが、やはり「持ち直している」というような業況感でございました。まず、企業活動をみると、生産面では、横ばい圏内ながら、海外需要の弱さなどによって半導体関連や自動車関連などの一部に弱めの動きがみられているということと、一方で、設備投資は持ち直しているというものでございます。人手不足や需要増加への対応を背景に、設備投資ニーズは強く、3月短観での 24年度の設備投資計画は前年度を上回る計画となっている。そして札幌新幹線延伸工事、それから札幌市中心部の再開発、先端半導体工場とその関連工事、GX絡みの再エネ関連施設の整備などの大規模プロジェクトも具体的に動き出しています。特に、現在進められている先端半導体の工場建設によって、高付加価値関連産業の集積が進んで、世界から優秀人財が集まり、今後、北海道が世界に輸出を拡大する地域に成長していくのだろうと期待をしております。インバウンド需要も含めた個人消費の動向をみますと、物価上昇の影響を受けつつも堅調に推移しています。円安効果などもあってインバウンドを中心とした観光客の回復も続いています。財消費については、日常的な消費では、生活防衛的な動きが広がっていますが、富裕層やインバウンド客に牽引される高額品は好調が持続しています。

§6Toyoaki Nakamura

24年度の春闘では、北海道においても積極的な賃上げの動きが確認されており、雇用・所得情勢は緩やかではありますが、改善をしています。ただし、人財係留目的の防衛的賃上げも多く、持続性に懸念もあるという状況だと思います。こうした動きの中で、今後の北海道経済については、企業活動の活発化やインフラ整備、高付加価値関連、産業の集積と自然や食との相乗効果等によって、所得から支出への前向きな循環が強まるということが期待されていまして、持ち直しの動きが強まると期待をしているところであります。もっとも、物価上昇などの影響を受けた個人消費の動向、人手不足による供給制約、海外経済の動向と当地の生産・輸出の回復ペースなど、先行きの不確実性には注意が必要だというふうに認識をしております。

§7Question

先ほどご紹介頂いた今日の懇談でも、なかなか賃上げのしづらさということを企業が訴えているというご見解でした。また、こういう中でも、これから個人消費が低迷してしまうと、2025年度以降、2%の物価に届かない可能性もあるということでした。そうなると、年内もう一度日銀は利上げするのではないかという市場の見方もありますが、中村委員ご自身はこうした利上げのタイミングは早過ぎるという認識でいらっしゃるのでしょうか。

§8Toyoaki Nakamura

やはり賃上げのしづらさというのは中小企業においては、かなりまだまだ続いているなというのが私の見方でございまして、個人消費の低迷というのもなかなか[改善が]進まないなと。それは私の挨拶文にも記載致しましたけれども、人口動態の問題があって、なかなか賃上げの恩恵を受ける世代の数、世帯の数が減少していて、1990年度のときと同じぐらいの賃上げ率が今年度出たと発表されているという事実もございますが、この影響を受ける世代、世帯の数は確実に減っていて、生産年齢人口の数が、1990年から比べますと、9 割に減少していて、私を含めて 65 歳以上の高齢者が 2.4 倍に増えているという状況でありますので、社会負担も勤労世帯には重くのしかかるという人口動態の問題もありますので、これを今、改革をしようということで、政府それから企業の皆さまが努力をされているわけで、その期待感はあるんですけれども、賃上げ、それから企業の改革努力というのが、なかなか個人の可処分所得に反映が遅れると、やはり縮み志向が 30年間続きましたので、この 2年間程度の賃上げ率でこのマインドが払拭されて一気に変わるということは、なかなか難しいだろうということを考えております。悪い方向をみれば、個人消費が一巡という可能性もあるんではないかというふうにみております。

§9Toyoaki Nakamura

従いまして、利上げは早過ぎるのかというと、私は今のタイミングではちょっと早いだろうなという気がしますけれども、これから経済のデータがいろいろ出てくる。この前出ました法人季報でいいますと、営業利益がかなり増えました。一人当たりの営業利益を重視しているんですけども、これをみますと、年度で、全体では前年比 15%増えています。それから資本金が 1,000 万円以上 1 億円未満の中小企業は 13%増えましたし、中堅は 11%増えましたので、これは好調な数字にはみえます。ただ、よくみますと中小の場合は、コロナ前の 18年度で、19年度もコロナ禍前なんですけども 20年の1~3月はもうちょっと影響が出ていましたので、フルで影響がなかった年という面で 2018年度をみますと、そこに対しては 1%の増加なんですね、一人当たりの中小企業の営業利益が。しかしながら、中堅と大企業は2 割から3 割増えていますので、中小企業の一人当たりの営業利益、「稼ぐ力」がまだ弱い。設備投資が前年比で合計 7%増えましたけども、中小企業は前年度に比べて 3%減っておりますので、来年度以降、持続的な生産性の向上という点でいうとまだ課題が残るというふうに思いますので、次の法人季報ですとか、それから各社へのヒアリングなどを通じて、この設備投資の動きをもうちょっとモニタリングしていきたいなというふうに考えております。

§10Question

朝の講演文を拝見しまして、消費が価格上昇分で縮むということを懸念されているようなんですけれども、この背景には円安で物価高につながったということがあると思います。この為替に関して、消費に影響するという文脈もあり、金融政策で対応すべきことなのかどうかといったところはどういったお考えでしょうか。

§11Toyoaki Nakamura

円安というのがやはり、かなり大きな問題になってきていると思います。まず前提として私の基本的な理解ですけれども、為替は経済のファンダメンタルズに沿って動くということが望ましいと思います。金融政策っていうのは基本的にいうと為替相場を直接のコントロール対象としているのではない。しかしながら、昨今の輸入物価の水準そのものが、海外で水準が高くなっていますので、経済と物価に影響を及ぼす重要な要因の一つになってきたという事実があると思います。それから金融政策は引き締めると国内需要を抑制する効果を持っているということも事実であります。そのうえで全体感を申し上げますと、急速かつ一方的な円安は、先行きの不確実性を高めてコストカットによる縮み志向を強めるというふうに思いますので、千載一遇のチャンスをつかみかけている日本経済にとっては、望ましくないというふうに思います。為替相場が経済に及ぼす影響というのは業種それから企業の規模によってまちまちでありますし、そこに勤める従業者への影響もまちまちであると思います。それから消費者物価上昇の影響を受ける家計にとってみると、やはり負担が増える、従ってマイナスの影響が大きいというふうに思われます。もう一つは購買力のもとになる賃金上昇率が米欧のように高くないという問題も日本にはございます。

§12Toyoaki Nakamura

こういった中で、今掴みかけている千載一遇のチャンスを逃してしまうような悪影響が想定されて、金利だけでもう調整するんだということに経済全体がなってしまえばですね、私としては、日本経済はそんなに強くないと思っておりますので、需要抑制による相応のマイナスが日本に出るというこの影響も考慮しなければなりませんので、軽々に金融政策で対応できるというものでもないかなというふうに思います。一方で、高付加価値の製品の輸出が今後増加していきますので、そうしますと日本の国際競争力が向上していくということを考えると、日本の構造転換がようやく進み始め、大いにこの効果を期待できるような年が来るのではないかなという変化も期待しているところであります。現時点においては、私の状況認識というのはそういうものだと考えております。

§13Question

午前の講演でですね、所得から支出の前向きな循環メカニズムが強まるには、実質賃金のプラス転換が重要だと、そういうご指摘をされまして、今後やっぱり金融政策運営にとって重要なポイントだと思うんですけども、中村委員はやはりこの実質賃金がプラスに転換する、そういったプラスに転換する、そして、その持続性が高まるような状況というものが次のアクションですね、金融政策を考えるうえで重要なポイントというふうにお考えなのかどうか、そういうことが一点。それでもう一点なんですが、長期金利が先般 1%くらいまで上昇しまして、その背景に日銀の国債買入れの不透明性などを指摘する声もあるのですが、この国債買入れについて、総裁は減額の方向性を示しておられますけれども、委員はその減額についてどのようにお考えか、そのタイミングも含めて教えてください。

§14Toyoaki Nakamura

金融政策の変更に実質賃金のプラスの確率が高まることが重要と考えているかどうかということですかね。確かに実質賃金がプラスになっていかないと、個人消費が高まらないので、経済活動そのものを考えますと、強い経済の状況になっているというふうには思えないと思いますので、そういう点で言うと、実質賃金のプラスの確度が高まらなければいけないというふうに思います。実質賃金だけではなくて、私は、先ほど申し上げたような人口動態の問題を考えますと、生産年齢人口が減少していて、65 歳以上の高齢者の割合がきわめて増えてきているという中でいうと、この講演の統計値でも出しましたけれど、家計の年齢階層別に分けますと、50 ~54歳の世帯主の家計の消費が一番割合でいうと高くて、そこから年を取るに従って落ちてくるということで。世代でみると、65 歳以上の家計でみると、50~54 歳の世帯に対して 3 割減るというような、当然ながら家計の世帯人数が大きく減りますのでそういうことになるわけでありますが、いまや日本の平均年齢が 49.5 歳ですから、かなり高齢化した構成になっているということですので、実質賃金のプラスだけではなくて、実質の可処分所得もしっかりと上昇していかないと、多分個人消費が力強く増えていかないだろうなというふうに思います。

§15Toyoaki Nakamura

家計の貯蓄率も 2020年ですかね、11%くらいまで上がり、そこが低下をしてきて、ついに 23年は 0.1%に貯蓄率が低下しました。米国も同じような動きをしたんですけども、2022年から23年にかけては、もう既に貯蓄率が上方に修正されました。日本も立ち直る時期はちょっと遅いので、そろそろ貯蓄率のプラスサイドに、元へ戻っていくという状況を考えますと、実質賃金だけではなくて、実質の可処分所得も増えていかないといけないだろうというふうに思っておりますので、金融政策の変更にとって[実質賃金は]非常に重要な指標だと思いますが、それだけでもないと私は考えています。[国債]買入れオペについてどうなのかということでありますが、 3月の政策決定会合でそれまでと概ね同程度の金額ということで継続をしてきておりますし、現在は、具体的な日々の買入れ額については、国債市場の需給動向を踏まえて現場で機動的に対応するという調節を行っております。今後、経済の回復状況に応じて、出口に向けて、時間をかけて減額を進めていくということが私も適当だろうというふうに思いますけれども、今は需給動向に応じて調節をして、金融市場の状況や企業活動を含む経済情勢をモニタリングしているというような段階だと思います。

§16Toyoaki Nakamura

4月の鉱工業生産をみますと、前月に対して 0.1%低下を致しましたし、6月にまた検査不正が起きまして下押しするかもしれないというような事象が出てきていまして、まだ経済がそれほど強い状況に至ってはいないというふうに思っています。持続的な生産性向上の点では課題が残っていますので、次の[法人]季報やヒアリングを通じて、経済が改善していくのかというのをみながらということで、私自身はニュートラルです。

§17Question

今の国債買入れのところで、確認ということでお伺いできればと思います。ただ今ですね、ご回答の中では、経済の改善をみつつ国債買入れの扱いについても考えていく、というふうなご回答だったかと思います。一方でですね、基本的に、経済・物価情勢を踏まえた政策対応というのは短期金利の変更によって行うというふうなご説明を、総裁などはされているというふうに思います。委員はですね、国債買入れの扱いについてもですね、経済情勢というのを踏まえて判断していくべきものだというふうに考えていらっしゃるのか、改めてこちら確認できればと思います。

§18Toyoaki Nakamura

国債の買いオペを例えば減らすというときには、金利の変化というのは大きくなるので、それに対して、経済があまり強くないときにショックは起こすべきではないという考えでおりますが、今、非常に、法人季報をみますと、1~3月は、私の想定ぐらいの改善をしていましたし、コロナ前の前年度、平時のときに比べて中小は良くないんだろうなと思っていた通りでありましたので、経済そのものは、それほどまだ、アメリカのように強い経済情勢ではないというふうに思いますので、買入れのオペレーションでどういう影響が生じるのかというのを考えながら、慎重に考えていくことが必要ではないかなというふうに思っています。そういう関係で申し上げましたので、経済情勢といったデータをよくみながら考えていきたいなと思っております。

§19Question

シンプルにお聞きしたいんですけど、お話を聞いていると、追加の利上げも買入れの減額も、6月の金融政策決定会合で決定するにはまだちょっと早いのではないかというご意見でよろしいですか。

§20Toyoaki Nakamura

来週ありますので、そういう話題も出るかなというふうに思いますけれども、利上げは早いと思いますね。それから買いオペの変化をどうするかという問題も、現実に私自身が真剣にそこまでは考えている状況では実はありません。ですが、時間をかけて考えると、国債をずっと買い入れるということは、まだ異常な経済・金融の状況にあるということでもありますので、そこの評価・判断をどうするかということです。今日の北海道のお話ですと、やはりまだそんなに強くないと、結構大変ですというようなお話の方が多かったような気がしますが、先を考えると明るい未来が待っているかもしれないというようなお話の状況だったような気がします。ですので、今、北海道もつかみかけている絶好のチャンスをですね、失わないようにしないといけない。日本も同様にそのチャンスを失わないようにしなきゃいけない。30年ぶりにきたような、ようやくつかみかけていますので、慎重に影響を考えながら、方向を決めていくということだと思いますので、どちらともまだ言える状況ではないなと思っています。以上