← Back
Bank of JapanMinutesMay 7, 2026

金融政策決定会合議事要旨(3月18、19日開催分)

Original in Japanese

Full text

§1

2026.5.7日本銀行 政策委員会金融政策決定会合議事要旨(2026年3月18、19日開催分) 本議事要旨は、日本銀行法第 20 条第 1 項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2026年4月27、28日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。 公表時間5月7日(木) 8 時50分 本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合(引用は含まれません)は、予め日本銀行政策委員会室までご相談ください。引用・転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。 1

§2

(開催要領)1 .開催日時:2026年3月18日(14:00 ~15:53)3月19日( 9:00 ~11:39)2.場所:日本銀行本店3 .出席委員:議長植田和男(総裁)氷見野良三(副総裁)内田眞一(〃)(注)野口旭(審議委員)中川順子(〃)高田創(〃)田村直樹(〃)小枝淳子(〃)増一行(〃)(注)内田委員は、電話会議により出席。4 .政府からの出席者:財務省前田努大臣官房総括審議官内閣府林幸宏内閣府審議官(18日)水田豊大臣官房審議官(経済財政運営担当)(19日 9:00~9:44)城内実経済財政政策担当大臣(19日 9:45~11:39)(執行部からの報告者)理事清水誠一理事神山一成理事諏訪園健司理事中村康治企画局長奥野聡雄企画局政策企画課長井出穣治金融機構局長鈴木公一郎金融市場局長峯岸誠調査統計局長川本卓司調査統計局経済調査課長須合智広国際局長近田健(事務局)政策委員会室長福田英司政策委員会室企画役三浦幸大企画局企画役西野孝佑企画局企画役福島駿介 2

§3

Ⅰ .金融経済情勢に関する執行部からの報告の概要1 .最近の金融市場調節の運営実績金融市場調節については、前回会合(1月22、23日)で決定された金融市場調節方針(注)に従って運営し、無担保コールレート(オーバーナイト物)は、0.727 ~0.736% のレンジで推移した。この間、長期国債の買入れについては、2025年6月の会合で決定された減額計画に沿って、月間 2.9 兆円程度の買入れを行った。2 .金融・為替市場動向短期金融市場では、翌日物金利のうち、無担保コールレートは0.75% 程度で推移した。G C レポレートは、無担保コールレート並みの水準で推移した。ターム物金利をみると、短国レート( 3 か月物)は、概ね横ばいとなった。わが国の株価( T O P I X )は、衆議院選挙後に上昇したあと、中東情勢の影響を受けて下落し、期間を通じてみれば、概ね横ばいとなった。長期金利(10年物国債金利)は、中東情勢によるインフレ圧力・景気悪化懸念の双方が意識されるもとで、概ね横ばいとなった。国債市場の流動性指標をみると、総じてみれば、改善方向の動きが継続している。為替相場をみると、円の対ドル相場、円の対ユーロ相場は、振れを伴いつつ、期間を通じてみれば、概ね横ばいとなった。

§4

3 .海外金融経済情勢海外経済は、各国の通商政策等の影響を受けて一部に弱めの動きもみられるが、総じてみれば緩やかに成長している。米国経済は、一部に弱めの動きもみられるが、総じてみれば堅調な成長を維持している。欧州経済は、一部に弱さを残しつつも、内需を中心に底堅さがみられている。中国経済は、不動産市場などで調整圧力が続く中、関税引き上げの影響や政策効果の逓減などを受けて、減速している。中国以外の新興国・資源国経済は、総じてみれば緩やかに改善している。先行きの海外経済は、中東情勢が徐々に落ち着いていくとの想定のもと、各国の通商政策等の影響が下押し圧力として残る中でも、グローバルなAI関連需要にも支えられて成長経路に復していくと考えられる。先行きの見通しを巡っては、当面、中東情勢の今後の展開

§5

(注)「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.75%程度で推移するよう促す。」 3

§6

と、それが国際金融市場や世界経済に与える影響について注意が必要なほか、引き続き各国の通商政策の影響やA I 関連のグローバルな需要動向などについて、不確実性が高い。海外の金融市場をみると、3月入り後、中東情勢の緊迫化を受けて、市場センチメントが大きく悪化している。米国の株価は、A I 関連を巡る懸念や中東情勢を受けたリスクオフの動きもあり、下落した。欧州の株価は、中東情勢の影響を受けて下落した。米国の長期金利は、軟調な経済指標を受けて低下した後、中東情勢を受けたインフレ圧力が意識されて上昇した。欧州の長期金利は、米国の長期金利に連れた動きとなった。この間、新興国通貨は、中東情勢の緊迫化に伴うドル高の中、下落した。原油価格は、事実上のホルムズ海峡封鎖等を背景に、大きく上昇した。4 .国内金融経済情勢( 1 )実体経済わが国の景気は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している。先行きについては、各国の通商政策等の影響を受けつつも、海外経済が成長経路に復していくもとで、政府の経済対策や緩和的な金融環境などにも支えられて、所得から支出への前向きな循環メカニズムが徐々に強まることから、緩やかな成長を続けると考えられる。ただし、中東情勢の緊迫化を受けて、国際金融資本市場では不安定な動きがみられるほか、原油価格も大幅に上昇しており、今後の動向には注意が必要である。

§7

輸出は、基調としては横ばい圏内の動きを続けている。先行きは、グローバルな A I 関連需要の堅調さは情報関連や資本財を中心に押し上げ要因となるものの、中東情勢の緊迫化は中東向けの自動車輸出の減少につながるほか、供給面でのボトルネックの発生や不確実性の高まりを通じて製造業の生産・貿易活動にマイナスに作用することから、暫くの間、横ばい圏内の動きを続けると考えられる。鉱工業生産は、やや長い目でみれば、横ばい圏内の動きを続けている。先行きは、グローバルな A I 関連需要の堅調さや経済対策にも支えられた国内需要の底堅さが押し上げ要因となるものの、中東情勢の緊迫化に伴う素材産業の生産調整や不確実性の高まりが下押し要因として作用することから、全体としては横ばい圏内の動きを続けると見込まれる。企業収益は、製造業において関税による下押しの影響がみられるが、

§8

4

§9

全体としては高水準を維持している。こうしたもとで、設備投資は緩やかな増加傾向にある。先行きの設備投資は、受注残高解消の動きや人手不足対応の省力化投資に支えられて増加傾向を維持するものの、原油価格上昇による企業収益の減速や建設コストの上昇が徐々に下押し圧力として働いてくると考えられる。個人消費は、物価上昇の影響を受けつつも、雇用・所得環境の改善を背景に底堅く推移している。消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、10 ~12月は横ばいとなったが、 1月の10~12月対比は、飲食料品等の非耐久財を中心に増加している。企業からの聞き取り調査や業界統計、高頻度データに基づくと、2月以降の個人消費は、前月からは若干減少しているとみられる。消費者マインドは、食料品価格の上昇率低下や政府によるエネルギー負担緩和策を背景に、実質賃金がプラス転化し、物価見通しも明確に低下する中で、このところはっきりと改善している。先行きの個人消費は、当面は、雇用者所得の増加に加え、政府による物価高対策にも支えられて底堅い動きを続けるが、今春以降、エネルギー価格上昇による下押し圧力が強まってくると予想される。雇用・所得環境は、緩やかに改善している。就業者数は、自営業者の減少が下押しとなり、前年比ゼロ % となっている。一人当たり名目賃金は、振れを伴いつつも、着実な上昇を続けている。

§10

先行きの雇用者所得は、振れを伴いつつも、当面、現状程度のペースで着実な増加を続けると見込まれる。物価面について、商品市況をみると、原油価格は、中東情勢の緊迫化を背景に、足もとで大幅に上昇している。銅価格もはっきりと上昇している。この間、食料の市況価格は緩やかな低下傾向にある。国内企業物価の前年比は、既往の原油価格下落や米などの食料品価格上昇ペースの鈍化を主因に低下傾向にあり、足もとでは 2% 程度となっている。企業向けサービス価格(除く国際運輸)の前年比は、人件費上昇等を背景に高めの伸びを続けているが、前年度にみられた値上げの一巡などから上昇率が低下傾向にあり、足もとでは2% 台半ばとなっている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、賃金上昇の販売価格への転嫁の動きが続くもとで、米などの食料品価格上昇の影響もあって 2% を上回って推移してきたが、足もとでは、政府によるエネルギー負担緩和策の効果などから、2% 程度まで低下している。予想物価上昇率は、緩やかに上昇している。先行きの消費者物価の前年比は、米などの食料品価格上昇の影響が減衰していくもとで、政府によるエネルギー負担緩和策を受けたエネルギー価格の下落が下押し要

§11

5

§12

因となることから、目先はいったん 2% を下回る水準までプラス幅を縮小するが、その後は、原油価格高騰の影響から再びプラス幅を拡大していくとみられる。( 2 )金融環境わが国の金融環境は、緩和した状態にある。実質金利は、マイナスで推移している。企業の資金調達コストは、上昇している。資金需要面をみると、経済活動の回復や企業買収の動きなどを背景に、緩やかに増加している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP ・社債市場では、良好な発行環境となっている。こうした中、銀行貸出残高の前年比は、 5% 程度となっている。C P ・社債計の発行残高の前年比は、7% 台前半となっている。企業の資金繰りは、良好である。企業倒産は、横ばい圏内で推移している。この間、マネーストックの前年比は、1% 台後半となっている。Ⅱ .金融経済情勢に関する委員会の検討の概要1 .経済・物価情勢国際金融資本市場について、委員は、3月入り後、中東情勢の緊迫化を受けて、市場センチメントが大きく悪化しているとの見方を共有した。何人かの委員は、原油価格が大きく上昇するもとで、主要国の株価が下落するなど、金融市場のボラティリティが高まっているとの認識を示した。

§13

このうちのある委員は、リスクセンチメントが慎重化するもとでも、いわゆる「質への逃避」の動きが抑制されているようにみえるのは、世界的なインフレ懸念の高まりなどが国債金利の形成に影響している面もあると指摘した。海外経済について、委員は、各国の通商政策等の影響を受けて一部に弱めの動きもみられるが、総じてみれば緩やかに成長しているとの認識を共有した。先行きについて、中東情勢が徐々に落ち着いていくとの想定のもと、各国の通商政策等の影響が下押し圧力として残る中でも、グローバルな A I 関連需要にも支えられて成長経路に復していくとの見方で一致した。複数の委員は、海外経済の今後の展開は、中東情勢から生じ得る負のショックを、I T 需要や各国の財政政策等がどの程度相殺するかに依存すると指摘したうえで、最近の世界的なIT 需要の強さや各国の拡張的なマクロ経済政策を考慮すると、少なくとも現時点における中心的な見通しとしては、世界経済の大幅な減速

§14

6

§15

とそれに伴う物価の下振れは生じないと考えられるとの見解を示した。米国経済について、委員は、一部に弱めの動きもみられるが、総じてみれば堅調な成長を維持しているとの認識で一致した。複数の委員は、企業活動や物価に関する大きな懸念材料であった関税の影響は、引き続き限定的であるとの認識を示した。何人かの委員は、A Iブームの拡大は、国内の雇用環境や競合するソフトウェア関連企業の事業環境に不確実性をもたらす面があるものの、最近のA I 関連投資の大幅な増加は米国経済の牽引役となっているとの見方を示した。ある委員は、足もと、米国の物価や労働市場について大きな状況変化を示す指標は出ていないと指摘したうえで、こうした一進一退の状況が続いた場合には、ごく緩やかな利下げプロセスが続くと予想されると述べた。この間、一人の委員は、米国におけるA I 関連投資の特徴に関し、プライベート・クレジット市場が積極的に利用されているほか、証券化商品の組成等を通じて幅広い投資家にリスクが移転されており、リスクの所在がみえにくくなっているため、金融面の動きは丁寧にみていく必要があると指摘した。欧州経済について、委員は、一部に弱さを残しつつも、内需を中心に底堅さがみられているとの認識を共有した。

§16

中国経済について、委員は、不動産市場などで調整圧力が続く中、関税引き上げの影響や政策効果の逓減などを受けて、減速しているとの見方を共有した。中国以外の新興国・資源国経済について、委員は、総じてみれば緩やかに改善しているとの認識を共有した。以上のような海外の金融経済情勢を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。わが国の景気について、委員は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復しているとの見方を共有した。多くの委員は、中東情勢緊迫化の影響を含まないここ数か月のデータについては、企業部門・家計部門ともに、所得から支出の前向きな循環メカニズムが維持されていることを示すものであり、1月展望レポートの見通しに概ね沿ったものであるとの認識を示した。このうちのある委員は、昨年10 ~12月の実質 G D P統計の個人消費や設備投資、法人企業統計の企業収益や設備投資などは、足もとの国内経済の堅調さを示すものであったと付け加えた。一方、別の一人の委員は、わが国経済は、底堅さを維持しているものの、ガソリン価格の上昇など、中東情勢の緊迫化による

§17

7

§18

経済的悪影響が既に表れ始めており、予断を許さない局面にあると指摘した。景気の先行きについて、委員は、各国の通商政策等の影響を受けつつも、海外経済が成長経路に復していくもとで、政府の経済対策や緩和的な金融環境などにも支えられて、所得から支出への前向きな循環メカニズムが徐々に強まることから、緩やかな成長を続けると考えられるとの認識で一致した。そのうえで、委員は、中東情勢の緊迫化を受けて、国際金融資本市場では不安定な動きがみられるほか、原油価格も大幅に上昇しており、今後の動向には注意が必要であるとの認識についても、併せて共有した。多くの委員は、中東情勢がわが国経済に及ぼす影響は、現在のような状況がどの程度、どのような形で続くかに大きく依存するが、今後の展開は不透明であり、現時点で先行きの中心的な見通しを修正するだけの情報は十分に揃っていないとの認識を示した。この点に関し、ある委員は、中東情勢とそれに端を発した原油価格の上昇は、リスクシナリオとして意識すべきであり、市場や経済に及ぼす影響を丹念に点検していく必要があると指摘した。そのうえで、この委員は、現時点では、政府の政策に対する期待等から国内の過剰な反応は抑えられているほか、今後の展開次第の面もあることから、今回、経済・物価のメインシナリオを変更する必要はないとの見解を示した。

§19

この間、一人の委員は、近年のわが国の潜在成長率は、T F P の底堅さに支えられていると指摘したうえで、先行きについては、労働時間の上昇余地がどの程度あるか、また、情勢が変化する中で投資が適切に行われるかも論点になるとの認識を示した。輸出や鉱工業生産について、委員は、基調としては横ばい圏内の動きを続けているとの認識を共有した。ある委員は、サービス輸出に関連し、インバウンド需要は、円安を背景に全体として依然好調であり、懸念されていた中国人観光客減少の影響は限定的なものにとどまっているとの見方を示した。中東情勢緊迫化の輸出面への影響について、一人の委員は、中東向け輸出のウエイトは、財・サービスともにそれほど大きくないが、アジア・欧州等を介した間接的な影響も生じ得ると指摘した。そのうえで、この委員は、N I E sや A S E A N 向けが多い I T 関連輸出については、最近のメモリ価格の上昇が、わが国の交易条件を改善する方向に作用してきたが、今後、こうした状況に変化がみられないかを注視していく必要があると述べた。設備投資について、委員は、企業収益が関税政策の影響を受けつつも全体としては高水準を維持しているもとで、緩やかな増加傾向にあるとの認識を共有した。ある委員は、わが国企業は、地政学的リスク

§20

8

§21

への対応や成長分野の開拓を企図して前向きな投資スタンスを維持しているほか、先行きについても、労働需給がタイト化する中、省力化対応や D X 関連の投資も継続されるとの見方を示した。一人の委員は、A I 関連需要の広がりや高水準の企業収益、17 の戦略分野への重点投資に対する政府の後押しなどを踏まえると、今後とも、堅調な設備投資が期待されるとの認識を示した。この間、企業業績に関して、複数の委員は、米国の関税政策は一部自動車メーカーの収益を下押ししたが、同時に生じていた A I ブームの拡大が半導体関連企業の収益を大きく押し上げたことなどから、2025年度の上場企業の通期決算は過去最高水準となることが期待されると述べた。別のある委員は、短観のデータをみる限り、中小企業についても、多くの業種において、5年前と比べて税引後利益ははっきりと増加しており、近年の好業績は、規模を問わず企業全体に広がっていることが窺われるとの認識を示した。個人消費について、委員は、物価上昇の影響を受けつつも、雇用・所得環境の改善を背景に底堅く推移しているとの認識で一致した。ある委員は、米類をはじめとする食料品の値上げの動きが一巡するもとで、物価高で下押しされてきた個人消費が漸く上向き始めたことは、最近の大きな変化であるとの認識を示した。

§22

一人の委員は、ガソリン代や電気・ガス料金に関する政府の補助にも支えられ、個人消費は、賃上げ前の端境期としては堅調な動きをみせていると指摘した。そのうえで、この委員は、高校授業料無償化の拡大や小学校給食無償化の開始など、新年度入り後も政府による所得移転策が続き、これが、家計の可処分所得の増加を通じて消費にプラスに作用することが期待されると述べた。雇用・所得環境について、委員は、緩やかに改善しているとの見方を共有した。複数の委員は、政府の物価高対策などもあって消費者物価の上昇率ははっきりと低下しており、長らくマイナス圏に沈んでいた実質賃金は、足もとプラス圏に浮上していると指摘した。この間、春季労使交渉(春闘)について、大方の委員は、多くの大企業は組合側の要求に対して満額またはそれに近い水準で回答しており、本年も幅広い企業でしっかりとした賃上げが実施される可能性が高いとの見解を示した。複数の委員は、大企業の賃上げの状況はしっかりしているものの、中東情勢を踏まえ、中小・零細企業を含めた全体的な着地に向けて、今後もみていきたいと述べた。このうちのある委員は、わが国の経営者は、同業他社の動向を眺めつつ、横並びで賃上げスタンスを決める傾向が強いことから、中東情勢の不透明感が、中小企業

§23

9

§24

の賃上げの流れに影響を与えないかどうか注視していると付け加えた。この点に関し、別のある委員は、中小・零細企業は防衛的な賃上げを迫られて苦慮しているという声が昨年から聞かれているが、これらの企業の賃上げ率をみる際には、こうした構造的な要因が影響しているのか、それとも中東情勢の不透明感が影響しているのかを冷静に分析する必要があるとの見解を示した。物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、賃金上昇の販売価格への転嫁の動きが続くもとで、米などの食料品価格上昇の影響もあって 2% を上回って推移してきたが、足もとでは、政府によるエネルギー負担緩和策の効果などから、2% 程度まで低下しているとの認識で一致した。また、予想物価上昇率について、委員は、緩やかに上昇しているとの評価で一致した。複数の委員は、このところ、米を含む食料品価格は落ち着きつつあり、コストプッシュ要因の剥落により、消費者物価の伸び率はいったん低下していくとのこれまでの見通しが現実のものとなってきているとの認識を示した。ある委員は、米価格は、流通段階での需給を反映して低下し始めているものの、水準は依然として高めであると指摘し、値段の目安や相場が一度形成されると、なかなか元に戻りにくい事例のひとつであるとの見方を示した。

§25

そのうえで、この委員は、こうした食料品価格における消費者の目線の切り上がりは、基調的な物価に影響している可能性があり、今後は、食料品以外の物価への波及についても注視する必要があると述べた。一人の委員は、米を使わない加工食品の価格上昇率は依然 5% 台に高止まっていると述べたうえで、最近の食料品価格上昇の理由として、国際商品市況や米などの原材料高ではなく、人件費や物流費の上昇を指摘する声が増えているが、両者の上昇率と比較しても食料品価格の上昇は目立つと指摘した。別のある委員は、 2月の東京の消費者物価は、ガソリン暫定税率の廃止等の政策効果や、食料品価格を中心とする前年の大幅上昇の反動によって、想定通り前年比が低下したものの、個別にみると、外食・宿泊料や学習塾代など、人件費の上昇分をサービス価格に上乗せする動きが続いているとの見解を示した。物価の先行きについて、大方の委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、米などの食料品価格上昇の影響が減衰していくもとで、政府による物価高対策の効果もあり、いったん 2% を下回る水準までプラス幅を縮小したあと、足もとの原油価格上昇の影響がプラス幅を拡大する方向に作用するとの認識を共有した。また、委員は、この間、賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくメカニズム

§26

10

§27

は維持され、その後は、景気の改善が続くもとで人手不足感が強まり、中長期的な予想物価上昇率は上昇していくとの見方を共有した。そのうえで、大方の委員は、消費者物価の基調的な上昇率は、徐々に高まっていくと予想され、「展望レポート」の見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移するとの認識を共有した。なお、委員は、原油価格上昇が基調的な物価上昇率の見通しに及ぼす影響についても、留意が必要であるとの認識で一致した。ある委員は、基調的な物価上昇率が緩やかに上昇していくかどうかを確認するうえでは、期初の値上げの動きがひとつの試金石になると指摘し、賃金との関係を踏まえると、特にサービス価格の動向に着目していると述べた。一人の委員は、食料とエネルギーを除く財やサービスの価格は 1% 台半ばの上昇率となっており、いずれも 2% よりも低位で安定していると指摘した。そのうえで、食料品価格の上昇が落ち着くことが前提であるが、基調的な物価上昇率はまだ 2% の手前にあるものと思われ、急激な上昇を心配するほどの状況ではないとの認識を示した。別のある委員は、基調的なインフレ率の 2% への定着度は、まだ十分とはいえないと指摘したうえで、これまでは主に下振れリスクを意識してきたが、今後の中東情勢次第では、逆に 2% を超える可能性もあるとの見解を示した。

§28

このほか、一人の委員は、春闘における賃上げが 3年連続して「物価安定の目標」と整合的な水準になることが確認できれば、本年4月にも物価の基調は 2% に達したと判断できるとの認識を示し、次回の短観や生活意識アンケート調査、企業へのヒアリング情報等によって、企業や家計のインフレ予想や企業の価格設定行動などを点検していきたいと述べた。この間、ある委員は、賃上げの定着や予想物価上昇率の上昇などを踏まえると、基調的な物価上昇率を含め、消費者物価は既に概ね「物価安定の目標」に達する水準にあるとの認識を示した。経済・物価の見通しのリスク要因として、委員は、今後の中東情勢の展開や原油価格の動向、各国の通商政策等の影響を受けた海外の経済・物価動向、企業の賃金・価格設定行動、金融・為替市場の動向などがあり、それらのわが国経済・物価への影響については、十分注視する必要があるとの認識で一致した。そのうえで、委員は、中東情勢がわが国の経済・物価に及ぼし得る影響について議論した。経済に対する影響について、委員は、原油価格の上昇、とりわけドバイ原油の高騰は、中東産原油への依存度が高いわが国の景気の下押し要因として作用するとの認識を共有した。このうちの複数の委員は、中東情勢の緊迫化が、交易条件の悪化やそれ

§29

11

§30

に伴う企業収益の下押し、マインドの慎重化などを通じて国内の景気に与える影響に留意する必要があると付け加えた。一人の委員は、ロシアによるウクライナ侵攻により、今回と同様、資源価格が大きく上昇した 2022年頃と比較すると、当時はコロナ禍からの回復局面にあり、各種の給付金やペントアップ需要も残っていた一方、足もとでは実質賃金の低下が継続し、家計の消費性向がかなり高まっている点などが異なると指摘した。そのうえで、この委員は、今回のショックが景気の腰折れ的な状況を招くリスクが大きいとは思っていないが、前回よりも注意する必要があるとの見解を示した。複数の委員は、原油価格の高騰や物価上昇による景気下押しの程度は、原油価格上昇の程度と持続性に大きく依存すると指摘した。この点に関し、ある委員は、中東での戦闘が早期に収束したとしても、ホルムズ海峡の安全が十分に確保され、原油価格が元の水準に戻るまでにはある程度時間がかかる可能性も念頭に置く必要があると述べた。複数の委員は、仮にホルムズ海峡の事実上の封鎖が長期化した場合には、サプライチェーンへの影響を通じて、企業の生産活動に下押し圧力がかかるリスクもあると指摘した。中東情勢がわが国の物価に及ぼす影響について、委員は、短期的にはエネルギー価格等を押し上げる一方、基調的な物価上昇率については、上下両方向に作用する可能性があるとの見方で一致した。

§31

短期的な影響について、ある委員は、最近落ち着きをみせていたエネルギー価格が上昇し、消費者物価のヘッドラインが再び上昇に転じる展開が懸念されると述べた。一人の委員は、日本の輸入 L N G の多くは、中東原油価格と連動する契約となっていることから、中東原油価格の高騰は、ガソリン・プラスチックのみならず、電気・ガスなど広範囲での物価上昇につながると指摘した。基調的な物価上昇率に対する影響について、多くの委員は、景気に下押し圧力がかかり、需給ギャップが悪化すれば、基調的な物価上昇率を下押しする要因となり得る一方、原油価格の上昇が、企業や家計の中長期的な予想物価上昇率の上昇につながれば、基調的な物価上昇率の押し上げに作用するとの認識を示した。多くの委員は、ここ数年、企業の賃金・価格設定行動は積極化してきているため、今次局面の原油価格の上昇は、他の様々な財・サービスの価格に波及しやすく、また、そうした動きが予想物価上昇率を通じて、基調的な物価上昇率の押し上げにつながりやすくなっている可能性があるとの認識を示した。このうちのある委員は、2% 程度まで上昇してきたインフレ予想や企業の積極的な価格設定行動、供給力不足の状況等を踏まえると、原油価格高騰や円安が、継続的かつ大きくインフレを押し上げる懸念があると指摘した。一人の委員は、基調

§32

12

§33

物価が上振れる可能性がある理由として、2022年に比べて需給ギャップも労働需給もタイト化していること、今回のショックがウクライナ、米に続く 3 度目のショックであるため、国民が「一時的な物価上昇に過ぎない」と受け止めない可能性があることなどを付け加えた。別のある委員は、今日のような原油価格上昇に伴う物価上昇局面でも、政府の価格転嫁・賃金上昇に向けた施策による慣性が働きやすく、物価上昇期待を強め、二次的な物価上昇を生じさせやすいとの見解を示した。この間、別の一人の委員は、中東情勢の緊迫が長期化する場合、わが国の経済・物価に対する直接的なインパクトは、米価格高騰時よりはるかに大きいが、2022年の輸入物価上昇時との大小は現時点では判断しがたいと述べた。そのうえで、この委員は、ショックの波及や二次的な影響については、物価についても成長についても、当時よりは注意すべき度合いが高いとの見方を示した。このほか、ある委員は、欧州など多くの国では、2022年に物価上昇をルックスルーして批判を受けた教訓から、今日、利上げ観測が浮上しており、これが円安圧力が生じやすい状況につながっているとの認識を示した。2 .金融面の動向わが国の金融環境について、委員は、緩和した状態にあるとの認識で一致した。

§34

複数の委員は、経済活動に影響を及ぼす度合いが大きい短中期ゾーンの実質金利は、前回の決定会合以降、名目金利が概ね横ばいとなる中、引き続きはっきりとしたマイナスで推移していると指摘した。ある委員は、経済活動の回復や企業買収の積極化などから、銀行貸出は堅調に推移しているが、そうした動きの背景として、実質金利の低さも挙げられるとの見解を示した。そのうえで、この委員は、企業の総資産利益率(R O A)は貸出金利を大きく上回っているほか、不動産を中心とした資産市場における収益期待も高く、家計向けの住宅ローン分野も含め、金融環境は緩和的な状況が続いているとの認識を示した。Ⅲ .金融政策運営に関する委員会の検討の概要以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、金融政策運営に関する議論を行った。次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、大方の委員は、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.75% 程度で推移するよう促す」という方針を維持することが適当であるとの見解を共有した。何人かの委員は、足もとの国内経済は堅調であるが、中東

§35

13

§36

情勢の緊迫化の影響から、原油高の進展に伴うインフレの再燃が懸念されており、まずは今後の帰趨を含めた状況の見極めが必要であるとの認識を示した。複数の委員は、足もと中東情勢の不確実性が高まり、市場のセンチメントが大幅に悪化している状況の中、今回は政策金利を維持することが適当との見解を示した。ある委員は、仮に紛争が短期間で収束したとしても、ホルムズ海峡の通行再開にはある程度時間を要すると考えられ、景気減速懸念も少なくないことから、現時点での利上げは見送った方がよいと述べた。一方、一人の委員は、「物価安定の目標」は概ね達成されており、海外発の物価上昇の二次的波及から国内物価の上振れリスクが高いとして、今次会合で、政策金利を1.0% 程度に引き上げることが望ましいとの見解を示した。そのうえで、この委員は、海外中銀の利上げ観測が高まる一方、わが国の実質政策金利は世界最低水準であると指摘したうえで、為替市場も内外の実質金利差に着目するだけに、早めに大幅なマイナスの実質政策金利の調整を行う必要があると述べた。委員は、日本銀行によるこれまでの利上げの影響についても、議論した。

§37

何人かの委員は、これまでの利上げに伴い短期プライムレートなどは段階的に引き上げられているものの、企業の資金需要は緩やかな増加を続けており、金融機関の貸出態度や企業の資金繰りも総じて良好な水準を維持しているなど、緩和的な金融環境は維持されているとの認識を示した。このうちのある委員は、国内投資への影響という点でも、金利上昇を理由に投資を取りやめるという例は殆どみられず、その多くは人手不足や資材価格上昇が原因であるとの見解を示した。複数の委員は、最近の企業倒産について、その多くは従来からの業況不芳や人手不足を理由とするものであり、金利上昇を直接の理由とするケースはごく僅かであるとの認識を示した。一人の委員は、企業からのヒアリング情報によれば、0.75% までの利上げの影響で、金融緩和度合いが大きく縮小し、景気刺激効果が弱まった気配はみられないと指摘した。別の一人の委員は、家計についても、住宅ローンの需要動向に大きな変化はみられないほか、生活意識アンケート調査をみても、暮らし向き D I の悪化の要因は、主に物価上昇であり、金利上昇の影響はあまりみられないとの認識を示した。

§38

先行きの金融政策運営について、委員は、現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると、経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことが適当との認識で一致した。そのうえで、2% の「物価安定の目標」のもとで、その持続

§39

14

§40

的・安定的な実現という観点から、経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営していくとの考え方を共有した。今後の利上げのタイミングについて、多くの委員は、これまでと同様、経済・物価情勢や基調的な物価上昇率に関する見通しの確度やリスクを確認しながら、毎回の決定会合において、適切に判断していくことが望ましいとの認識を示した。このうちのある委員は、中東情勢の影響のほか、賃金、物価、金融環境などを確認しながら利上げのタイミングを判断していくことになるとしたうえで、具体的には、次回会合以降、賃上げや期初の値上げの広がりなどを見極めつつ、前回の利上げ以降もなお金融環境が緩和的であることを仔細に確認していくことが適当であるとの見解を示した。一人の委員は、中東情勢は物価上昇と経済の下押しにつながり得るものの、現在の金融環境のもとでは、物価の上昇基調は維持されると見込まれるほか、人手不足を受けた賃上げの継続や企業の投資意欲の高さ等を踏まえると、今後も間を長く空けずに金融緩和の度合いの調整を検討することになるとの認識を示した。別のある委員は、基調的な物価上昇率が 2% を超えて上昇し続けることは避けなければならず、経済環境や中小企業の賃上げスタンスが大きく崩れる兆しがみられなければ、躊躇なく利上げに進むことが必要であるとの見方を示した。

§41

別の一人の委員は、中立金利までまだまだ距離がある状況でビハインドザカーブに陥ると、急激かつ大幅な金融引き締めを余儀なくされ、わが国経済に大きなショックを与えてしまうことになると指摘したうえで、中東情勢の進展や短観、支店長会議での報告、企業ヒアリング等を踏まえ、利上げ幅を含め、利上げについて検討したいと述べた。委員は、中東情勢を踏まえた金融政策運営の考え方についても議論を行った。多くの委員は、中東情勢の緊迫化に伴う供給ショックが一時的なものであれば、その影響はルックスルーすることが基本的な対応となる一方、そうしたショックが長期化し、物価全般への二次的波及が懸念される場合には、予想物価上昇率や基調的な物価上昇率への影響を見極めたうえで対応していく必要があるとの認識を示した。このうちのある委員は、原油高によるコストプッシュは、物価上昇を伴う経済低迷、すなわち1970年代的なスタグフレーションをもたらし得るが、一過性のインフレに対しては、むやみに動かずにコストプッシュ要因の剥落を待つことが基本であるとの見解を示した。この点に関連し、ロシアによるウクライナ侵攻時の対応について、多くの委員は、欧米では、当時の物価上昇を一過性のものと判断してルックスルーしたことがその後の物価高騰を招いたとされており、そうした教訓が、足もと、欧州等で利上げ観測が高まっていることの背景にある

§42

15

§43

との認識を示した。このうちのある委員は、当時、欧米の政策金利は中立金利を大幅に下回っていたため、いったん物価が大きく上昇し始めると、急速な利上げを余儀なくされたが、現状では概ね中立領域にあるため、前回のような大幅な利上げが必要となる可能性は低いと指摘した。そのうえで、この委員は、現在、わが国の政策金利は中立領域より下に位置しているため、欧米の教訓を踏まえると、物価の上振れリスクに特に注意が必要であるとの見解を示した。別のある委員は、過度な円安進行によりコストプッシュがさらに深刻化する場合、あるいは、二次的波及の本格化により賃金が上振れする場合には、金融引き締めが必要になる可能性もあるが、わが国の場合、基調的な物価上昇率はなお 2% を下回っていることや、交易条件の悪化に伴う企業収益の悪化が来年の賃金を下押しする可能性もあることなどを踏まえると、基調的な物価上昇率が 2% を超えて加速するリスクは低いと指摘した。こうした議論を経て、一人の委員は、仮に中東情勢の緊迫が長期化する場合には、従来の想定に沿って利上げ・緩和度合いの調整を緩やかに進めていくことを中心的な選択肢としつつ、二次的波及に伴う物価上振れリスクに対応するため、従来の想定よりも利上げを加速させ、金融環境を中立ないし引き締めに持っていく必要性がないかにも注意を払っていくことが適当であるとの見解を示した。

§44

別の一人の委員は、円安のパススルーの強まりに加え、過去と比べて企業の賃金・価格設定行動は積極化しており、物価が上がらないノルムが残っていた 2022年頃と比べても、海外要因による二次的波及、基調的物価上昇が生じやすく、意図せざるビハインドザカーブが生じるリスクがあると指摘した。そのうえで、この委員は、時間軸上、原油価格上昇による不確実性から将来的には景気下押しはあるとしても、当面は二次的波及やインフレ期待の上昇に伴う物価上振れを重視した対応が必要であるとの見解を示した。ある委員は、金融政策によってまずは物価を安定させ、それによって、景気の下振れリスクを最小限に抑えることが、「物価の安定を通じて国民経済の健全な発展に資する」という理念に沿った行動であるとの認識を示した。このほか、委員は、金融政策運営に関する情報発信の拡充についても議論した。何人かの委員は、政府の物価高対策や原油価格上昇の影響などにより、このところ、消費者物価が短期的に振れやすくなっていることから、金融政策を運営するうえで重要な基調的な物価上昇率を捕捉するためのさらなる工夫が必要であるとの認識を示した。そのうえで、これらの委員は、消費者物価指数のコア指標を拡充し、一時的な制度要因の影響を除いた消費者物価を試算して公表するなど、対外的にもより丁寧な説明を行っていくことが望ましいとの見解を示

§45

16 した。Ⅳ .政府からの出席者の発言内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。⚫ 日本経済は、米国の通商政策の影響が残るものの、緩やかに回復している。⚫ 中東情勢が経済に与える影響や金融市場の動向を高い緊張感を持って注視する必要がある。⚫ 政府は足元の中東情勢を受けて、緊急的激変緩和措置や備蓄石油の放出を行っており、引き続き、経済・物価動向に応じ、経済財政運営に万全を期す。⚫ 日本銀行には、内外の経済情勢等を十分に注視しつつ、日本銀行法、政府・日本銀行の共同声明の趣旨に沿って政府と緊密に連携し、2% の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向け、適切な金融政策運営を期待する。また、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。⚫ 経済の先行きについては、中東情勢を受けたエネルギー価格の高騰等が経済の下押しリスクとなり得る点を懸念している。また、金融市場の動向も高い緊張感を持って注視する必要がある。⚫ 日本銀行には、政府との緊密な連携のもと、中東情勢がわが国経済に与える影響を含め、内外の経済情勢等を十分に注視し、市場とのコミュニケーションを図りつつ、2% の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する。 17

§46

Ⅴ .採決1 .金融市場調節方針以上の議論を踏まえ、議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出された。金融市場調節方針に関する議案(議長案) 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。記無担保コールレート(オーバーナイト物)を、 0. 75%程度で推移するよう促す。 これに対して、高田委員からは、「物価安定の目標」は概ね達成されており、海外発の物価上昇の二次的波及から国内物価の上振れリスクが高いとして、以下の議案が提出された。金融市場調節方針に関する議案(高田委員案) 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。記無担保コールレート(オーバーナイト物)を、1.0%程度で推移するよう促す。 金融市場調節方針に関する議案(高田委員案)は、採決の結果、反対多数で否決された。採決の結果賛成:高田委員反対:植田委員、氷見野委員、内田委員、野口委員、中川委員、田村委員、小枝委員、増委員 18

§47

金融市場調節方針に関する議案(議長案)は、採決の結果、賛成多数で決定された。採決の結果賛成:植田委員、氷見野委員、内田委員、野口委員、中川委員、田村委員、小枝委員、増委員反対:高田委員2 .対外公表文(「当面の金融政策運営について」)以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。高田委員からは、物価の見通しについて、基調的な物価上昇率を含め、消費者物価は既に概ね「物価安定の目標」に達する水準にあるとして、田村委員からは、基調的な物価上昇率の見通しについて、2026年度入り後以降、「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移するとして、反対するとの意見が表明された。こうした検討を経て、議長からは、高田委員と田村委員が一部記述について反対する旨を脚注に記述した対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。Ⅵ .議事要旨の承認議事要旨(2026年1月22日、23日開催分)が全員一致で承認され、3月25日に公表することとされた。以上

§48

192026年3月19日日本銀行当面の金融政策運営について1.日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(賛成8反対1)(注1)。無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.75%程度で推移するよう促す。2.わが国の景気は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している。海外経済は、各国の通商政策等の影響を受けて一部に弱めの動きもみられるが、総じてみれば緩やかに成長している。輸出や鉱工業生産は、基調としては横ばい圏内の動きを続けている。企業収益は、製造業において関税による下押しの影響がみられるが、全体としては高水準を維持している。こうしたもとで、設備投資は緩やかな増加傾向にある。個人消費は、物価上昇の影響を受けつつも、雇用・所得環境の改善を背景に底堅く推移している。一方、住宅投資は減少傾向にある。この間、公共投資は横ばい圏内の動きを続けている。わが国の金融環境は、緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比をみると、賃金上昇の販売価格への転嫁の動きが続くもとで、米などの食料品価格上昇の影響もあって2%を上回って推移してきたが、足もとでは、政府によるエネルギー負担緩和策の効果などから、2%程度まで低下している。予想物価上昇率は、緩やかに上昇している。

§49

先行きのわが国経済を展望すると、各国の通商政策等の影響を受けつつも、海外経済が成長経路に復していくもとで、政府の経済対策や緩和的な金融環境などにも支えられて、所得から支出への前向きな循環メカニズムが徐々に強まることから、緩やかな成長を続けると考えられる。ただし、中東情勢の緊迫化を受けて、国際金融資本市場では不安定な動きがみられるほか、原油価格も大幅に上昇しており、今後の動向には注意が必要である。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、米などの食料品価格上昇の影響が減衰していくもとで、政府による物価高対策の効果もあり、いったん2%を下回る水準までプラス幅を縮小したあと、足もとの原油価格上昇の影響がプラス幅を拡大する方向に作用すると考えられる。この間、賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくメカニズムは維持され、その後は、景気の改善が続くもとで人手不足感が強まり、中長期的な予想物価上昇率は上昇していくと見込まれる。こうしたもとで、消費者物価の基調的な上昇率は、徐々に高まっ別紙

§50

20ていくと予想され、「展望レポート」の見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる(注2)。なお、原油価格上昇が基調的な物価上昇率の見通しに及ぼす影響についても、留意が必要である。リスク要因としては、今後の中東情勢の展開や原油価格の動向、各国の通商政策等の影響を受けた海外の経済・物価動向、企業の賃金・価格設定行動、金融・為替市場の動向などがあり、それらのわが国経済・物価への影響については、十分注視する必要がある。3.金融政策運営については、現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると、「展望レポート」で示している経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている。日本銀行は、2%の「物価安定の目標」のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営していく。以上

§51

(注1)賛成:植田委員、氷見野委員、内田委員、野口委員、中川委員、田村委員、小枝委員、増委員。反対:高田委員。高田委員は、「物価安定の目標」は概ね達成されており、海外発の物価上昇の二次的波及から国内物価の上振れリスクが高いとして、無担保コールレート(オーバーナイト物)を1.0%程度で推移するよう促すとする議案を提出し、反対多数で否決された。(注2)高田委員は、物価の見通しについて、基調的な物価上昇率を含め、消費者物価は既に概ね「物価安定の目標」に達する水準にあるとして、田村委員は、基調的な物価上昇率の見通しについて、2026年度入り後以降、「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移するとして、反対した。