← Back
Bank of JapanReportOct 30, 2012

経済・物価情勢の展望(2012年10月(基本的見解))基本的見解

Original in Japanese

Full text

§1

12012年10月30日日本銀行経済・物価情勢の展望(2012年10月)【基本的見解】11.はじめに今回の展望レポート(経済・物価情勢の展望(2012年10月))では、2014年度までの日本経済の見通しを示す。以下では、まず、わが国経済の先行きを左右する国際金融資本市場と海外経済の動向を記述し、その後、わが国の金融環境を評価する。それらを踏まえて、相対的に蓋然性が高いと判断される経済・物価の見通し(中心的な見通し)を記述した後、それに対する上振れ要因・下振れ要因を検討する。最後に、金融政策運営の基本的な考え方を整理する。2.国際金融資本市場および海外経済国際金融資本市場をみると、欧州債務問題を巡る懸念は、春先以降、ギリシャの再選挙やスペインの金融システム問題を巡る不透明感の高まりから、EU・IMFの支援を既に受けているギリシャ、ポルトガル、アイルランドにとどまらず、スペインやイタリアにも再び拡がった。この結果、国際金融資本市場は全体として神経質な動きとなり、例えば、スペイン国債の10年物利回りは、 7月下旬には7%台半ばまで上昇した。こうした状況に対して、欧州当局は様々な施策を講じてきた。すなわち、7月には、スペインの金融機関に対する資本注入のための金融支援策が取り纏められた。

§2

9月上旬に、ECBは、欧州安定メカニズム(ESM)などに支援を要請し、必要な財政再建や経済構造改革を進める国を対象に、残存1~3年の国債を予め上限を設けることなく買入れる新たなプログラム(OMT

§3

110月30日開催の政策委員会・金融政策決定会合で決定されたものである。

§4

2s)を導入した。9月中旬には、欧州委員会が、 ESMによる銀行への直接資本注入を可能とする枠組みの構築に向けて、域内の銀行監督権限をECBに一元化することを提案し、10月中旬のEU首脳会議ではその年内法制化が合意された。これらの施策もあって、欧州債務問題を背景とする投資家のリスク回避姿勢は、一頃に比べるとやや後退している。もっとも、ギリシャの財政・経済構造改革の進展や、スペインのESMへの支援要請の有無、銀行監督の一元化に向けた取り組み等を巡って不透明感の強い状況はなお続いており、今後の市場の展開には十分注意していく必要がある。昨年後半以降の海外経済をみると、欧州債務問題の悪影響が貿易や企業マインドのルートを通じて世界的に拡がっており、最近は、多くの国や地域で、製造業部門を中心に減速の度合いが強まっている。地域別にみると、米国経済は、個人消費が緩やかに増加し住宅市場で持ち直しの兆しもみられるなど、全体としては緩やかな回復基調を続けているが、海外経済やいわゆる「財政の崖(fiscal cliff)」を巡る先行き不透明感の高まりから企業マインドが慎重化するもとで、設備投資や生産の増勢が鈍化している。欧州経済は、緩やかに後退している。

§5

ユーロ圏周縁国において財政、金融システム、実体経済の間の負の相乗作用が働くもとで、債務問題の悪影響が域内の貿易取引の減尐や企業マインドの悪化を通じて周縁国からコア国へと波及している。中国経済についてみると、ウエイトの高い欧州向けの輸出が落ち込んでいるうえ、不動産投機抑制策の影響等から民間不動産投資が減速している。こうした内外需要を反映して、素材産業など幅広い分野で在庫の積み上がりが解消しておらず、在庫調整局面が長引いていることから、成長ペースの減速の度合いもやや強まっている。欧州や中国の最終需要の弱さの影響もあって、NIEs・ASEAN経済も、輸出や製造業の設備投資といった企業部門を中心に、持ち直しの動きが緩やかになっ

§6

3ている2。海外経済の先行きに関する中心的な見通しとしては、当面減速した状態が続くとみられるが、国際金融資本市場が総じて落ち着いて推移するとの想定のもと、減速した状態から次第に脱し、緩やかな回復に転じていくと考えられる3。地域別にみると、米国経済は、緊縮的な財政政策の影響を受けつつも、緩和的な金融環境などを背景に、見通し期間を通じて緩やかな回復を続けると考えられる。欧州経済は、域外輸出の増加からユーロ圏コア国が成長率を徐々に高めていくものの、周縁国では緊縮財政が続くことから、全体でみても見通し期間を通じて回復の勢いに乏しい状態が続く可能性が高い。中国経済は、当面減速した状態が続くとみられるものの、金融・財政両面での景気刺激策の効果が顕在化し、在庫調整が進展していくにつれて、成長率は徐々に高まっていくと考えられる。この間、NIEs・ASEAN経済は、個人消費を中心に内需が堅調さを維持する中で、輸出が次第に増勢に転じていくことにより、持ち直しの動きがはっきりしていくと見込まれる。3.わが国の金融環境わが国の金融環境をみると、日本銀行が強力な金融緩和を間断なく推進する中、緩和した状態が続いている。すなわち、企業の資金調達コストは、銀行の新規貸出約定平均金利が短期・長期とも1%と、2000年代前半の量

§7

2 NIEsは韓国、台湾、香港、シンガポールを、ASEANは代表的にはタイ、インドネシア、マレーシア、フィリピンの4か国を指す。3 IMFが 10月に発表した世界経済の成長見通し(各国・地域の実質成長率見通しを購買力平価ベースで集計したもの)をみると、2012年3.3%、2013年3.6%、2014年4.1%と、いずれの年も7月時点から 0.2~0.3%ポイント下方修正されているものの、見通し期間終期にかけて、過去の長期平均を上回るペースへと緩やかに加速する見通しとなっている。ちなみに、1980年から2011年までの32年間の平均成長率は+3.4%である。

§8

4的緩和期をも下回る水準となるなど、低水準で推移している。CP・社債市場の発行環境についても、業績悪化等から一部の銘柄でスプレッドが拡大しているものの、投資家の需要が引き続き底堅い中で、総じてみれば良好な状態が続いている。企業からみた貸出態度や企業の資金繰りを表わす各種のアベイラビリティー判断指標は、2000年以降の平均を上回る水準となっている。資金需要は、復興関連や企業買収関連を中心に、回復傾向にある。企業の国内での資金調達残高をみると、銀行貸出の前年比は、このところプラス幅が幾分拡大している。社債残高の前年比は、電力債を中心にマイナスとなっている一方、CP残高の前年比は、振れを均してみれば小幅のプラスで推移している。以上のように、わが国の金融環境は、東日本大震災や欧州債務問題といった強い逆風の時期を含めて、緩和した状態が維持されている。先行きについても、こうした緩和的な金融環境は、国内民間需要の自律回復への動きを後押ししていくと考えられる。もっとも、金融資本市場の国際的な連関が高まっていることを踏まえると、国際金融資本市場の今後の動向次第では、その影響がわが国の金融システムや金融環境に及ぶ可能性には、引き続き注意する必要がある4。

§9

4.わが国の経済・物価の中心的な見通し(1)経済情勢前述の海外経済の動向と内外の金融情勢を踏まえたうえで、わが国経済の先行きについて、相対的に蓋然性が高いと判断される見通し(中心的な見通し)を検討する。なお、今回の中心的な見通しでは、消費税関連法案の成立を受けて5、消費税率が現行の5%から 2014年4月に8%、2015年

§10

4 わが国の金融システムの安定性に関する評価について、詳しくは「金融システムレポート」(日本銀行2012年10月)を参照。5 「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」が8月に成立した。

§11

510月に10%に引き上げられることを前提としている。わが国の経済をみると、本年前半の成長率は、復興関連需要が公的需要、民間需要の両面で増加するもとで、国内需要が堅調に推移したことから、年率3%程度となった。もっとも、その後は、海外経済の減速した状態が強まっていることを反映して、輸出や鉱工業生産が減尐し、内需にもその影響が一部及び始めていることから、景気は弱含みとなっている。わが国経済の先行きを展望すると、当面横ばい圏内の動きにとどまるとみられるが、国内需要が全体としてみれば底堅さを維持し、海外経済が減速した状態から次第に脱していくにつれて、緩やかな回復経路に復していくと考えられる。この間、企業による内外の潜在需要の掘り起こしや政府による成長戦略の実行など成長力強化への取り組みの成果が徐々にあがり、企業や家計の中長期的な成長期待が見通し期間終盤にかけて緩やかながら高まっていくもとで、景気回復の持続性も増していくと想定している。以下やや詳しく述べると、2012年度下期から 2013年度にかけての景気展開については、輸出や鉱工業生産は、海外経済の減速が長引くもとで、当面弱めに推移するとみられる。こうした輸出・鉱工業生産の弱さは、製造業部門の支出活動を幾分抑制する方向に作用すると考えられる。

§12

国内需要については、防災・エネルギー関連の投資を含めた広い意味での復興関連需要などに支えられて、全体としてみれば底堅さを維持するとみられるが、エコカー補助金の終了に伴う乗用車購入の反動減が見込まれるほか、震災後のペントアップ需要も徐々に減衰していくとみられる。このため、国内需要が輸出の弱さを補うほどの増加を続けるとは考え難く、景気は当面横ばい圏内の動きにとどまるとみられる。もっとも、その後は、海外経済が減速した状態から次第に脱していくにつれて、輸出や鉱工業生産は持ち直しに転じ、経済全体で前向きの支出活動も徐々に強まっていくと予想される。2013年度の成長率は、復興関連需要による景気押し上げ効果が公

§13

6的需要中心に徐々に減衰していくものの、海外経済の持ち直しが次第に明確になるにつれて、企業収益や雇用者所得の増加を伴いながら国内民間需要がしっかりとした伸びとなるため、潜在成長率をはっきりと上回ると考えられる6。2013年度下期には、消費税率引き上げ前の駆け込み需要が相応の規模で発生すると予想されるため、一時的にかなり高めの成長となると考えられる7。2014年度については、海外経済が過去の長期平均を上回る成長を実現するほか、企業収益の改善や成長期待の高まりを背景に低金利の持つ景気刺激効果も強まっていき、これが国内民間需要を下支えするとみられることなどから、消費税率引き上げに伴う変動を除いた基調でみれば、潜在成長率を幾分上回る成長経路をたどると考えられる。ただし、年度の成長率は、上期を中心に消費税率引き上げ前の駆け込み需要の反動が出ることから、小幅のプラスにとどまる可能性が高い。なお、わが国経済が横ばい圏内を脱し、回復に向かう時期については、前述のとおり海外経済の減速した状態が強まっていることなどを受けて、従来の想定よりも後ずれする見込みである。今回の見通しでは、こうした

§14

6 わが国の潜在成長率を、一定の手法で推計すると、見通し期間の終期にかけて徐々に上昇していくが、期間平均では「0%台半ば」と計算される。ただし、潜在成長率は、推計手法や今後蓄積されていくデータにも左右される性格のものであるため、相当幅をもってみる必要がある。潜在成長率の推計方法について詳しくは、2010年10月の展望レポート(経済・物価情勢の展望(2010年10月))のBOX4を参照。7 消費税率の引き上げは、経済に対して、主として税率の引き上げ前後の駆け込み需要の発生とその反動(異時点間の代替効果)を通じて、影響を及ぼすと考えられる。物価上昇に伴う実質所得の低下を通じた影響も考えられるが、やや長い目でみて家計はわが国の厳しい財政事情を踏まえ、将来の消費税率引き上げをある程度織り込んで行動しているとみられることを勘案すると、その影響は所得の減尐から機械的に計算されるほどには大きくならないと予想される。以上を踏まえて、今回の消費税率引き上げが実質GDPに及ぼす影響について定量的に試算すると、2013年度の成長率を0.3%ポイント程度押し上げる一方、2014年度の成長率を 0.7%ポイント程度押し下げると見込まれる。

§15

なお、今回の引き上げにおいては、自動車や住宅に関する激変緩和措置の取扱いなどの詳細が現時点で固まっていないこともあり、経済への影響は不確実性が大きく、上記の試算も相当な幅をもってみる必要がある。

§16

7回復時期の後ずれを織り込んだことにより、2012年度の成長率は、7月の中間評価時点の見通しと比べると、下振れしている。2013年度の見通しについても、消費税率引き上げ前の駆け込み需要の影響を除いて考えると、幾分下振れとなる。以上の見通しについて、企業・家計の部門別にやや詳しく述べると、以下の通りである。企業部門について、輸出は、欧州向けや中国向けを中心に、当面弱めに推移するとみられるが、中国での景気刺激策の効果発現などから、海外経済が次第に減速局面から脱していくにつれて、緩やかに持ち直しに転じていくと考えられる。この間、国内需要は、広い意味での復興関連需要と緩和的な金融環境に支えられ、全体としてみれば底堅さを維持すると考えられる。すなわち、公共投資は増加を続けるとみられるほか、企業の業務継続・防災意識の高まりや、再生可能エネルギー関連への経営資源投入の動きなどを背景に、防災・エネルギー関連といった循環的な要素に左右され難い設備投資は、堅調に推移すると見込まれる。このように国内需要が全体としてみれば底堅さを維持するもとで、前述のとおり海外需要が次第に回復していくため、企業収益の改善基調は徐々に明確化していくと予想される。

§17

こうしたもとで、設備投資は、当面、製造業を中心に輸出・鉱工業生産の弱さから幾分弱めの動きとなると予想されるものの、全体としてみれば、見通し期間を通じて緩やかな増加基調を維持するとみられる。次に、家計部門について、雇用・所得環境をみると、労働需給は、底堅い内需に支えられ総じてみれば改善基調を続けるとみられるものの、当面は、輸出・鉱工業生産の弱さが、所定外労働時間や新規求人の減尐等を通じて、労働需給を緩和させる方向に働くと考えられる。また、一人当たり賃金についても、震災の影響を受けた前年度の厳しい企業業績が、今冬の特別給与の下押し要因になるとみられる。このため、雇用者所得は、当面、

§18

8横ばい圏内で推移する可能性が高い。こうした中にあっても、個人消費は、雇用者所得の影響を受け難い高齢者消費を中心に、潜在需要を掘り起こす企業の取り組みなどにも支えられ、総じてみれば底堅く推移すると予想される。ただし、当面は、エコカー補助金の押し上げ効果が剥落するうえ、これまでの高い伸びを支えてきた震災後のペントアップ需要も減衰していくため、消費の増勢は本年前半に比べれば鈍化するとみられる。その後は、前述のとおり海外経済の改善を反映して輸出や鉱工業生産も持ち直しに転じてくるため、雇用・所得環境はラグを伴いつつも改善基調が次第に明確になり、このことが個人消費を下支えしていくとみられる。この間、住宅投資については、復興需要や低金利などを背景に、見通し期間を通じて、緩やかに増加していく可能性が高い。(2)物価情勢日本銀行は、中長期的に持続可能な物価の安定と整合的と判断する物価上昇率を、「中長期的な物価安定の目途」として数値で示している。具体的に「中長期的な物価安定の目途」については、消費者物価の前年比上昇率で2%以下のプラスの領域にあると判断しており、当面は1%を目途としている。こうした「中長期的な物価安定の目途」を踏まえつつ、物価の動向を点検する。

§19

消費者物価(除く生鮮食品、以下同じ)の前年比の推移をやや長い目で振り返ると、2009年8月に過去最大の下落幅(-2.4%)となった後、労働や設備の稼働状況、すなわちマクロ的な需給バランスが緩やかな改善傾向を続ける中、2009年末頃から下落幅は着実に縮小を続けており、最近では概ねゼロ%となっている。このように、消費者物価の上昇率とマクロ的な需給バランスの間には、やや長い目でみれば、緩やかな正の相関関係が存在する。先行きの物価を巡る環境を展望すると、マクロ的な需給バランスは、前

§20

9述の景気展開を反映して、当面横ばい圏内で推移するものの、その後は、消費税率引き上げの影響による振れを伴いつつも、緩やかな改善基調を続けると考えられる。中長期的な予想物価上昇率については、市場参加者やエコノミストの見方は振れを均してみれば概ね1%程度で安定的に推移しているほか、家計の見方にも大きな変化はみられず、見通し期間においても安定的に推移すると想定できる。国際商品市況については、このところ地政学リスクの高まりや天候要因などから原油や穀物の価格が強含んでいるものの、当面は、海外経済の減速を反映して、均してみれば横ばい圏内で推移すると想定される。その後は、新興国の経済成長に伴う食料・エネルギーの需要拡大などを背景に、基調的には緩やかな上昇傾向をたどると想定される。以上の環境を前提に、消費税率引き上げの直接的な影響を除いて物価情勢の先行きを展望すると8、国内企業物価は、当面、国際商品市況が弱含みで推移することを反映して、前年比で下落するものの、2013年度以降は、国際商品市況の緩やかな上昇や、マクロ的な需給バランスの改善を反映して、緩やかな上昇基調に復していくと見込まれる。消費者物価の前年比は、当面ゼロ%近傍で推移した後、マクロ的な需給バランスの改善などを反映して、徐々に緩やかな上昇に転じ、2014年度には当面の「中長期的な物価安定の目途」である1%に着実に近づいていくとみられる。

§21

今回の消費者物価の見通しを、7月の中間評価時点と比較すると、景気の見通しが下方修正されていることを反映して、マクロ的な需給バランスの改善が遅れるうえ、原油価格下振れの影響もあって、2012年度、2013年度ともに幾分下振れしている。マクロ的な需給バランスの改善にこれまで時間を要してきた背景には、

§22

8 消費税率の引き上げが物価に及ぼす影響について、税率の引き上げ分が現行の課税品目すべてにフル転嫁されると仮定して試算すると、2014年度の国内企業物価は2.9%ポイント、同年度の消費者物価は2.0%ポイント押し上げられる。

§23

10循環的な要因と構造的な要因の双方が作用していると考えられる。循環的な要因としては、リーマン・ショックによる景気の落ち込みがきわめて大きかったため、マクロ的な需給バランスは現在なお改善途上にあることが挙げられる。このため、先行き潜在成長率を上回る成長が続くもとでも、マクロ的な需給バランスが概ねバランスした状態に達し、マクロの需給面から物価を押し上げる力がある程度明確になってくるのは、見通し期間の後半以降になると予想される。また、構造的な要因としては、経済成長率が趨勢的に低下してきたことが挙げられる。すなわち、急速な尐子高齢化やグローバル化の進展に対して、成長力を強化する取り組みや社会保障制度の持続可能性を高める見直しが十分に進まなかったことが、企業や家計の中長期的な成長期待に悪影響を及ぼし、支出行動が慎重化している。このような慢性的な需要不足により、需給バランスの改善がなかなか進んでいないことが、物価の下落要因として作用してきたと考えられる。先行きは、成長力強化への取り組みの成果が徐々にあがり、家計や企業の成長期待も緩やかながら高まっていくもとで、こうした物価の下落圧力は次第に弱まっていくと想定している。5.上振れ要因・下振れ要因(1)経済情勢以上は、現時点で相対的に蓋然性が高いと判断される見通し(中心的な見通し)である。

§24

こうした見通しに対する上振れまたは下振れ要因としては、以下のような点に注意する必要がある。第1に、国際金融資本市場と海外経済の動向である。欧州債務問題については、欧州当局が様々な施策を講じてきたこともあり、金融システム面の不安から国際金融資本市場が動揺し世界経済が大きく下振れるテイル・リスクはやや後退したが、この問題の解決にはなお多くの課題が残されている。ECBによる大量の流動性供給や新たな国債買入れプログラムの導

§25

11入により市場の安定が保たれている間に、各国の財政・金融システム・経済構造改革や、欧州の財政・金融両面での統合が想定以上に進展すれば、市場からの信認が強化され、世界経済の上振れ要因となる可能性がある。一方、それらの取り組みに対する懸念が再燃した場合には、国際金融資本市場における緊張が再び高まることを通じて、世界経済ひいてはわが国経済の下振れ要因となり得る。以上の国際金融資本市場を通じるルートのほかにも、海外経済にはなお様々なリスクがあり、とりわけ、大きな落ち込みは回避できたとしても、減速がさらに長期化するリスクには注意が必要である。米欧等の先進国については、2000年代半ばにかけての信用バブルの発生とその後の崩壊により過剰債務を抱えた経済主体は、債務を適正水準に戻すまで、慎重な投資・支出スタンスを維持する可能性が高い。こうしたもとで、上振れ方向のショックが発生しても経済が加速し難い一方で、下振れ方向のショックに対しては脆弱な状況が続くと考えられる。新興国については、先進国よりも潜在的な成長力は高いものの、貿易や金融市場のルートなどを通じて、先進国のバランスシート調整の影響を受けるとみられるほか、中国をはじめこれまで高成長を続けてきた幾つかの国では、持続可能な成長経路への移行に向けて、様々な構造問題に直面していることにも留意する必要がある。

§26

地域別にリスク要因を詳しくみると、米国経済では、住宅市場に持ち直しの動きがみられる中、家計のバランスシート調整は、徐々に進捗してきているとはいえ、なお根強く残っている。そうしたもとで、欧州債務問題の悪影響に加えて、「財政の崖」の問題など財政政策の不確実性も意識されていることが、景気の抑制要因として強く働くリスクがある。一方、「財政の崖」の問題の解決により、財政政策の不確実性が軽減した場合には、企業や家計のマインドの改善等を通じて、景気が上振れる可能性がある。欧州経済については、ドイツなどコア国の景気が輸出主導で上振れる可能

§27

12性がある一方、周縁国における債務問題の悪影響がコア国へと一段と波及し、景気後退が想定以上に長引くリスクもある。新興国・資源国については、持続的な成長経路に移行するタイミングや中長期的な潜在成長率を巡って、なお不透明感が強い。とくに、中国経済については、欧州向けの輸出比率が高いなど、欧州債務問題の影響を受けやすい状況にあるだけに、過剰設備を抱える素材業種を中心に、需給バランスの改善に時間がかかるリスクがある。また、金融・財政両面での景気刺激策を受けて、インフラ投資など内需の一部には改善の兆しもみられるが、これらの政策効果の大きさを巡ってはなお不確実性が大きい。長い目でみると、中国経済は、輸出・固定資産投資中心の経済構造から消費に軸足を移しつつ、過剰設備の問題を克服することを通じて、従来の高度成長から持続可能な安定成長への移行を順調に進められるかどうか注視していく必要がある。また、日中両国は国際的なサプライチェーンを含め相互依存関係が強いだけに、最近の両国間の関係は日中双方に影響を与える可能性があり、この点、わが国経済について言えば、貿易や投資活動、来日観光客数などへの影響を通じた下押しリスクにも注視する必要がある。第2に、企業や家計の中長期的な成長期待に関する不確実性がある。

§28

中心的な見通しでは、成長力強化への取り組みが徐々に実を結び、企業や家計の中長期的な成長期待も見通し期間終盤にかけて緩やかながら上昇していくと想定しているが、今後の展開によっては上下双方向に変化する可能性がある。例えば、グローバル需要の取り込みや内外における立地の最適化が企業の重要な課題であることを踏まえると、今後も海外での生産や業務の拡大が見込まれるが、それに代わる新たな国内生産活動が生まれてこない場合は、企業や家計の中長期的な成長期待が低下する可能性がある。電力需給を巡る問題についても、電力需要期において、天候要因等によっては、生産活動への制約となる可能性があるが、こうした短期的な影響だ

§29

13けでなく、中長期的な成長期待の下振れにつながり得るという点に注意が必要である。他方、グローバル需要の開拓、高齢層のニーズや多様化した内需の掘り起こし、エネルギー関連の技術やビジネスモデルの革新など、様々な分野において、日本経済の成長力強化に向けた取り組みの成果が大きく実を結べば、中長期的な成長期待が上振れることも考えられる。第3に、消費税率引き上げの影響に関する不確実性がある。今回の中心的な見通しでは、内外の過去の事例も参考に、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動の規模を見積もっているが、これは前述した成長期待の動向や消費税以外の制度変更によって変化し得る。また、消費税率の引き上げにより、人々の財政や社会保障制度に関する将来不安が軽減されれば、経済にプラス方向に作用する可能性もある一方、実質購買力の低下により、人々の節約志向が一段と強まる場合には、消費が想定以上に下押しされる可能性もある。第4に、わが国の財政の持続可能性を巡る様々な問題がある。すなわち、財政の持続可能性に対する信認が低下するような場合には、人々の税負担等に関する将来不安の強まりから、経済の下振れにつながるおそれがある。他方、中長期的な財政再建の道筋が明らかになり、また、社会保障制度の維持可能性が高まれば、人々の将来不安は軽減され、経済に好影響が及ぶと考えられる。

§30

なお、金融市場のグローバル化が進展している現状を踏まえると、多くの先進国で公的債務残高への懸念が生じている中で、わが国の財政運営に対する市場の監視も厳しくなってきているとみられる。そうしたもとで、財政再建に向けた取り組みが徐々に進みつつあるとはいえ、これが不十分であると市場参加者の多くが評価した場合は、長期金利の上昇を招き、金融機関の経営ひいては日本経済全体に悪影響が及ぶと考えられる。

§31

14(2)物価情勢物価情勢の先行きについても、上下両方向の不確実性がある。まず、景気について、前述のような上振れ、下振れ要因が顕現化した場合、物価にも相応の影響が及ぶとみられる。また、物価に固有の要因としては、第1に、マクロ的な需給バランスに対する物価の感応度に不確実性がある。近年、経済のグローバル化の進展や規制緩和などを背景に企業間の価格競争が激化するもとで、マクロ的な需給バランスに対する物価の感応度が低くなっているという傾向が、多くの先進国でみられている。わが国においても、2000年代中頃には、マクロ的な需給バランスの改善にもかかわらず、物価の上昇率がなかなか高まらない局面がみられた。一方、最近では、中国からの安値輸入品の増加が目立っていないほか、企業が製品やサービスの差別化の動きを強めているなど、需給バランスに対する物価の感応度を回復させる方向に働く要因も見受けられる。中心的な見通しでは、こうした最近の変化も踏まえ、消費者物価の前年比は、マクロ的な需給バランスの改善を反映して緩やかに上昇していくと想定しているが、物価の需給バランスに対する感応度については、大きな不確実性があるだけに、企業が景気の改善に伴い、想定通り価格を引き上げていくかどうか十分な注意が必要である。第2に、企業や家計の中長期的な予想物価上昇率の動向が挙げられる。

§32

前述のとおり、企業や家計の中長期的な予想物価上昇率はこれまでのところ概ね安定的に推移しているが、企業や家計が足もとや過去の物価の動きなどから物価はなかなか上昇しないという予想を強めた場合、実際の物価にも、賃金とともに下方圧力がかかる可能性などが考えられる。他方、成長力強化への取り組みが進み、潜在需要が顕在化するかたちで企業の中長期的な成長期待が想定以上に高まっていけば、企業や家計の中長期的な予想物価上昇率が高まり、物価は上振れる可能性がある。

§33

15第3に、輸入物価の動向である。原油については、地政学リスク等を背景に、大きく変動する可能性があるほか、穀物の価格動向についても、天候要因次第で上下両方向に不確実性がある。また、為替相場の変動も、実体経済を通じる間接的な波及経路のほか、輸入物価を通じるより直接的な経路を通じて、消費者物価に変化をもたらし得る。6.金融政策運営以上の経済・物価情勢について、「中長期的な物価安定の目途」を念頭に置いたうえで、2つの「柱」による点検を行い、先行きの金融政策運営の考え方を整理する。まず、第1の柱、すなわち先行き2014年度までの経済・物価情勢について、相対的に蓋然性が高いと判断される中心的な見通しについて点検する。前述のとおり、わが国経済は、当面横ばい圏内の動きにとどまるとみられるが、国内需要が全体としてみれば底堅さを維持し、海外経済が減速した状態から次第に脱していくにつれて、緩やかな回復経路に復していくと考えられる。消費税率引き上げの直接的な影響を除いた消費者物価の前年比は、当面ゼロ%近傍で推移した後、マクロ的な需給バランスの改善などを反映して、徐々に緩やかな上昇に転じ、2014年度には、当面の「中長期的な物価安定の目途」である1%に着実に近づいていくとみられる。

§34

こうした経済・物価見通しを総合的に評価すると、やや長い目でみれば、日本経済は、物価安定のもとでの持続的成長経路に復していくと考えられる。次に、第2の柱、すなわち、より長期的な視点も踏まえつつ、金融政策運営の観点から重視すべきリスクを点検する。景気面では、欧州債務問題に端を発するテイル・リスクはやや後退しているが、国際金融資本市場や海外経済を巡り、なお大きな不確実性があり、重要な下振れリスクである。この間、中長期的な成長期待については、成長力強化への取り組みの成果次第では、上振れ・下振れ双方向の可能性がある。また、消費税率引き上

§35

16げの経済への影響については、内外の過去の事例を踏まえると、不確実性が高い。財政の持続可能性確保へ向けた取り組みも、経済動向に大きな影響を及ぼし得る。物価面では、マクロ的な需給バランスに対する物価の感応度や中長期的な予想物価上昇率、国際商品市況の動向などを、注視する必要がある。やや長い目でみて、発生確率は必ずしも大きくないものの、発生した場合には経済・物価に大きな影響を与える可能性があるリスク要因という観点から、金融面の不均衡について点検すると、わが国の金融機関による企業・家計への総与信は、実体経済活動との対比でみて、長期的なトレンドの近傍で推移しているなど、現時点では、期待の強気化に起因した不均衡は観察されない。もっとも、政府債務残高が累増している中で、金融機関の貸出は伸び悩む一方、国債保有は顕著な増加傾向にある。このため、何らかのきっかけで、長期金利が上昇した場合、金融機関の経営、ひいては日本経済全体に大きな影響を与える可能性がある点に留意しておく必要がある。こうした観点からは、中長期的な財政の持続可能性をしっかりと確保していくとともに、金融政策の運営に対する信認を維持していくことが重要である9。

§36

先行きの金融政策運営については、前述の2つの柱による点検を踏まえ、わが国経済のデフレ脱却と物価安定のもとでの持続的成長経路への復帰に向けて、強力な金融緩和の推進と成長基盤強化および金融機関の貸出増加の支援を通じて、適切な政策運営に努めていく。すなわち、第1に、日本銀行は、当面の「中長期的な物価安定の目途」である消費者物価の前年比上昇率1%を目指して、それが見通せるようになるまで、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等の措置により、強力に金融緩和を推進していく方針である。資産買入等の基金の運営につい

§37

9 金融的な不均衡という観点から金融システムの状況を点検した結果について、詳しくは「金融システムレポート」(日本銀行2012年10月)を参照。

§38

17ては、2013年末の 91 兆円程度に向けて、着実に金融資産を積み上げていくことにより、間断なく金融緩和を進めていく。こうした強力な金融緩和の推進に当たり、日本銀行は、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、経済の持続的な成長を確保する観点から問題が生じていないかどうかを引き続き確認していく。第2に、日本銀行としては、強力な金融緩和の推進と併せて、企業や家計が緩和的な金融環境を積極的に活用して、前向きな投資・支出活動を行うよう後押ししていくとともに、わが国経済の成長基盤強化に、中央銀行の立場から引き続き取り組んでいく。わが国経済は、現在、急速な高齢化のもとで、趨勢的な成長率の低下という長期的・構造的な課題に直面している。こうした課題を克服し、新たな経済成長の基礎を築いていくためには、民間企業が付加価値の創造力を高め、外需の取り込みや内需の掘り起こしを進める必要がある。また、このような企業の前向きな活動を支えていくために、政府が規制面などにおいて環境整備に努めることや、民間金融機関が金融仲介機能を十分に発揮し、企業に対し貸出面から緩和的な金融環境の活用を促していくことが、不可欠である。さらに、政府債務が対GDP比でみて先進国中最大となっているもとで、前述のとおり、中長期的な財政の持続可能性をしっかりと確保していくことも必要である。

§39

このように、民間企業、金融機関、政府、日本銀行がそれぞれの役割に即して取り組みを続けていくことが、重要である。日本銀行としては、引き続き適切な金融政策運営に努めるとともに、国際金融資本市場の状況を十分注視し、わが国の金融システムの安定確保に万全を期していく方針である。以上

§40

18(参考) ▽2012~2014年度の政策委員の大勢見通し――対前年度比、%。なお、<>内は政策委員見通しの中央値。

§41

実質GDP 国内企業物価指数消費者物価指数(除く生鮮食品)2012年度+1.4~+1.6<+1.5>-1.2~-0.9<-1.1>-0.1~-0.1<-0.1>7月時点の見通し+2.2~+2.4<+2.2>-0.3~ 0.0<-0.2>+0.1~+0.3<+0.2>2013年度+1.3~+1.8<+1.6>+0.1~+0.7<+0.5>+0.2~+0.6<+0.4>7月時点の見通し+1.6~+1.8<+1.7>+0.6~+0.8<+0.6>+0.5~+0.7<+0.7>2014年度+0.2~+0.7<+0.6>+3.7~+4.4<+4.2>+2.4~+3.0<+2.8>消費税率引き上げの影響を除くケース+0.8~+1.5<+1.3>+0.4~+1.0<+0.8>(注1)「大勢見通し」は、各政策委員が最も蓋然性の高いと考える見通しの数値について、最大値と最小値を1個ずつ除いて、幅で示したものであり、その幅は、予測誤差などを踏まえた見通しの上限・下限を意味しない。(注2)各政策委員は、政策金利について市場金利に織り込まれたとみられる市場参加者の予想を参考にしつつ、上記の見通しを作成している。

§42

(注3)今回の見通しでは、消費税率が2014年4月に8%、2015年10月に 10%に引き上げられることを織り込んでいるが、国内企業物価と消費者物価の見通しについて、各政策委員は消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースの計数を作成している。(注4)消費税率引き上げの直接的な影響を含む2014年度の国内企業物価と消費者物価の見通しは、税率引き上げが現行の課税品目すべてにフル転嫁されることを前提に、物価の押し上げ寄与を機械的に計算したうえで(国内企業物価:2.9%ポイント、消費者物価:2.0%ポイント)、これを上記の政策委員の見通しに足し上げたものである。(注5)消費者物価指数の参考指数として、連鎖基準指数が公表されている。連鎖基準指数ベースでみた前年比は、見通し期間後半にかけて、通常の固定基準年指数に基づく今回の消費者物価見通しに比べて、若干低くなっている可能性がある。(注6)政策委員全員の見通しの幅は下表の通りである。――対前年度比、%。

§43

実質GDP 国内企業物価指数消費者物価指数(除く生鮮食品)2012年度+1.2~+1.7 -1.3~-0.8 -0.1~ 0.07月時点の見通し+2.1~+2.4 -0.5~ 0.0 +0.1~+0.42013年度+1.0~+1.8 -0.2~+0.8 -0.1~+0.67月時点の見通し+1.5~+1.8 +0.5~+1.0 +0.4~+0.82014年度+0.1~+0.8 +3.3~+4.5 +2.2~+3.0消費税率引き上げの影響を除くケース+0.4~+1.6 +0.2~+1.0

§44

19 ▽政策委員の見通し分布チャート

§45

(1)実質GDP(2)消費者物価指数(除く生鮮食品)(注1)上記の見通し分布は、各政策委員の示した確率分布の集計値(リスク・バランス・チャート)について、①上位10%と下位10%を控除したうえで、②下記の分類に従って色分けしたもの。なお、リスク・バランス・チャートの作成手順については、2008年4月の「経済・物価情勢の展望」BOXを参照。(注2)棒グラフ内の○は政策委員の見通しの中央値を表す。また、縦線は政策委員の大勢見通しを表す。(注3)消費者物価指数(除く生鮮食品)は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベース。

§46

-1.8-1.6-1.4-1.2-1.0-0.8-0.6-0.4-0.20.00.20.40.60.81.01.21.4-1.8-1.6-1.4-1.2-1.0-0.8-0.6-0.4-0.20.00.20.40.60.81.01.21.4200620072008200920102011201220132014(前年比、%)年度実績値(前年比、%)-4.0-3.5-3.0-2.5-2.0-1.5-1.0-0.50.00.51.01.52.02.53.03.54.0-4.0-3.5-3.0-2.5-2.0-1.5-1.0-0.50.00.51.01.52.02.53.03.54.0200620072008200920102011201220132014(前年比、%)年度実績値(前年比、%)上位40%~下位40% 上位30%~40%下位30%~40%上位20%~30%下位20%~30%上位10%~20%下位10%~20%