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Bank of JapanSpeechMay 17, 2019Haruhiko Kuroda, Governor

【講演】「経済・物価見通しと金融政策運営」(内外情勢調査会)

Original in Japanese

Full text

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2019年5月17日日本銀行日本銀行総裁黒田東彦経済・物価見通しと金融政策運営―― 内外情勢調査会における講演 ―― 1 1.はじめに日本銀行の黒田でございます。本日は、内外情勢調査会でお話しする機会を頂き、ありがとうございます。日本銀行は、先月末の政策委員会・金融政策決定会合において、2021年度までの経済・物価見通しを「展望レポート」として取りまとめ、公表しました。加えて、強力な金融緩和を粘り強く続けるという政策運営方針をより明確に示すため、金融政策面でいくつかの追加的な措置を講じることを決定しました。本日は、「展望レポート」を踏まえつつ、日本銀行の経済・物価に対する見方をご説明するとともに、先日の決定を含め、現在の金融政策運営の考え方についてお話ししたいと思います。

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2.経済情勢(海外経済の動向)それでは、海外経済の動向から話を始めます。海外経済は、総じてみれば緩やかに成長していますが、このところ、減速の動きがみられています(図表1)。昨年前半までの「世界同時成長」という姿とは異なり、地域や業種間のばらつきが目立ってきました。米国経済はしっかりとした拡大を続けていますが、中国では、当局が進めてきた債務抑制政策の影響に加え、米中間の貿易摩擦問題やITセクターにおける調整が足枷となり、一頃に比べて弱めの動きが拡がっています。欧州では、昨年後半以降、EU域内の自動車排ガス規制の強化に伴い、ドイツを中心に生産が減少しているほか、最近では、トルコや中国向け輸出の下振れも経済の下押し要因となっています。こうした中、IMF (国際通貨基金)は、先月公表した最新の見通しにおいて、2019年の世界経済の成長率を+3.3%と、 1月の前回見通しからさらに幾分下方修正しました。1980年以降の長期的な平均値は+3.5%ですので、今年はそれをやや下回る成長となりそうです。 2

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(わが国経済の現状)このように、世界経済が減速するもとで、わが国の輸出や生産にも、足もと弱めの動きがみられています(図表2)。輸出は、中国向けの資本財やIT関連財を中心に年明け以降減少しており、これが、生産面の弱さや製造業における業況感の悪化に繋がっています。もっとも、これまでのところ、海外経済の弱さが、わが国の国内需要にまで、はっきりと波及しているようには窺われません。設備投資は、企業収益が総じて良好な水準を維持するもとで、増加傾向を続けています(図表3)。3月に実施した私どもの短観調査によれば、今年度の設備投資計画は、この時期としては、過去の平均を上回る高めの伸びとなりました。個人消費も、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、緩やかに増加しています。この間、相次ぐ自然災害の影響から、昨年後半にいったん減少した外国人観光客のインバウンド需要も、再びはっきりと回復してきています。このように、わが国では、現状、輸出や生産に弱さはみられるものの、企業や家計部門における、所得から支出への前向きの循環メカニズムは維持されています。こうした点を踏まえ、日本銀行では、わが国の景気は、「基調としては緩やかに拡大している」と判断しています。今回のように、海外経済の減速がわが国経済を下押しするという構図は、2015年半ばから2016年前半にかけての時期にもみられました。

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いわゆる「チャイナショック」として記憶されている方も多く、今回の局面との類似性を指摘する声も少なくありません。もっとも、よくみてみると、当時と今では、いくつか違いもあると考えています(図表4)。第1に、輸出や生産の減少幅です。チャイナショック時と異なり、今回、輸出や生産は大きく落ち込みました。今週、内閣府が発表した景気動向指数における基調判断が、2013年1月以来の「悪化」となったのも、最近の生産関連指標の下落が大きく影響しています。もちろん、この点については、ここ数年、輸出や生産が大きく増加してきたことの反動という面があることは、割り引いて考える必要があります。実際、減少したとはいえ、輸出や生産の水準は、チャイナショック時よりもなお高い水準を維持しています。第2に、内外の金融・商品市場の動

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3 きも前回と今回では異なります。原油価格は、2016年2月にかけて1バレル30 ドル弱まで大きく下落し、為替市場では、2016年入り後、 1ドル120 円台から 100 円を割り込む水準まで、急激に円高が進みました。一方、今回は、昨年秋から年末年始にかけて、原油価格や内外の金融市場が一時不安定化しましたが、その後は、いずれも落ち着きを取り戻しています。少なくとも、市場の動きが企業や家計のマインドを悪化させ、経済活動を下押すような状況にはなっていません。第3に、先ほども述べたとおり、今回は、良好な企業収益や雇用・所得環境の改善を背景に、国内需要や非製造業の業況はしっかりしています。こうした中、資本や労働の稼働率を示すマクロ的な需給ギャップは、2016年後半に長期的な平均であるゼロ%を超え、その後もはっきりとしたプラスを続けています。このように、戦後最長ともいわれる景気拡大のもとで、外的なショックに対するわが国経済の頑健性が着実に強まってきていることは、前向きに評価してよいと考えています。

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(経済の先行き)次に、わが国経済の先行きについてお話しします。「展望レポート」でも示したとおり、日本銀行では、わが国の経済は、当面、海外経済の減速の影響を受けるものの、2021年度までの見通し期間を通じて、景気の拡大基調が続くと考えています(図表5)。これを数字で表しますと、実質GDPの成長率は、政策委員の中央値でみて、2019年度が前年比+0.8%、20年度が+0.9%、21年度は+1.2%となると見込んでいます。こうした先行きの景気見通しにおいて、重要なポイントが2つあります(図表6)。第1に、今後の海外経済の動向です。足もと、海外経済には減速の動きがみられていますが、日本銀行としては、このまま一方的に悪化していくとはみていません。世界経済の牽引役である米国経済は、拡張的な財政政策などに支えられ、今後とも拡大を続けると見込まれます。中国経済については、既に景気刺激策の効果が一部で表れてきており、今後、こうした動きが拡がってくると予想しています。欧州経済も、自動車排ガス規制の強化とい 4

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った一時的な要因の影響が剥落し、減速した状態から次第に脱していくと考えられます。これらの点を踏まえると、海外経済は、当面、減速の動きが続くものの、持ち直しに転じてくると考えています。大事なことは、そのタイミングです。この点、IMFは、本年後半には、世界経済の成長率は再び高まってくると予想しています。企業に対する私どものヒアリングでも、本年後半には、グローバルなIT関連財の需要も底を打つとの見方の先が少なくありません。こうして海外経済が持ち直してくれば、わが国の輸出も、それからさほど遅れずに、緩やかな増加基調に復していくと考えられます。もちろん、このような見通しには、様々な不確実性が存在します。例えば、中国当局は、かつてリーマンショック後に行った大規模なインフラ投資が、その後の過剰設備・過剰債務の問題に繋がったとの認識から、今回は、景気刺激と債務抑制のバランスに配慮し、減税などに重点を置いた景気対策を実施しています。このため、今回の対策が、これまでと同様の即効性をもつかどうかは、今後の海外経済の持ち直しのタイミングにも大きく影響してくる可能性があります。半導体などのIT関連財の需要動向も、なお不確実性が高く、グローバルな在庫調整に想定以上に時間を要する可能性もあります。米中貿易摩擦や英国のEU離脱交渉の展開などについても、依然として最終的な着地点は不透明です。

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リスク要因をことさら取り上げ、過度に慎重になる必要はありませんが、日本銀行としては、先行きのリスクを、常時、予断なく点検していくことが大切だと考えています。先行きを見通すうえでの第2のポイントは、内需の持続性です。わが国経済の緩やかな拡大が途切れることなく続いていくためには、海外経済が持ち直すまでの間、内需が堅調を維持する必要があります。この点、個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、当面、緩やかな増加を続けるとみられます。国土強靱化策によるインフラ投資を中心に、先行き、公共投資の増加が見込まれることも、今後の景気下支えに寄与すると考えられます。鍵を握るのは、設備投資の動向です。これまでのところ、本年度の設備投資計画に、海外経済減速の影響をはっきりとみてとることはできませんし、人

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5 手不足が続く非製造業では、省力化投資を中心に、昨年以上に積極的な投資を計画する先も多いようです。しかしながら、例年、この時期の投資計画は腰だめ的な性格が強く、仮にこの先、海外経済の持ち直しに予想以上に時間を要するような状況となれば、製造業を中心に、企業の投資スタンスが慎重化していく可能性があることには留意が必要です。先ほど述べたように、良好な企業収益などを背景に、わが国経済の頑健性は一頃よりも増しているとみていますが、海外経済や市場の動向次第では、企業や家計のマインドに影響を及ぼす可能性もあるため、日本銀行としても、今後の展開を十分注視していきたいと考えています。

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3.物価情勢(物価の現状)続いて、物価情勢についてお話しします。わが国の消費者物価は、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べると、弱めの動きが続いています(図表7)。もっとも、プラスの需給ギャップ、すなわち経済の活動水準の高まりを起点として、賃金や物価が緩やかに上昇するという基本的なメカニズムは作動しています。例えば、今年の春闘では、春先こそ、大企業を中心に昨年を下回る滑り出しとなりましたが、その後は、人手不足の強まりなどから中小企業で高めのベアが実現し、最終的には、全体としても昨年並みの水準となりました。パート労働者の時給も、前年比2%台の高めの伸びが続いています。こうした動きは、原材料価格の上昇とともに、企業からみればコストの増加に繋がります。このため、企業は、ゆっくりではありますが、これを自社の製品やサービスの価格に反映させる動きを進めています(図表8)。短観の販売価格判断DIをみますと、この1年余りにわたって、販売価格が「上昇している」と答えた企業の割合が「下落している」と答えた企業の割合を上回る状態が続いています。これは、バブル期以来、約30年振りの出来事です。企業間で取引されるサービスの価格も、人手不足に伴う物流費の増加などを 6

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背景に着実に上昇しています。消費者の目からみても、最近では、食料品などを中心に小売価格を引き上げる動きが拡がっています。もちろん、食料品や日用品の価格上昇は、それだけみれば、家計にとって喜ばしいことではありません。大事なことは、家計がこうした値上げを許容できるほど、雇用・所得環境が改善することです。日本銀行の金融政策も、企業収益の増加と賃金の上昇を伴いながら、物価上昇率が緩やかに高まっていくという好循環を作り出していくことを目指しています。こうした好循環をさらに押し進めるためにも、賃金の上昇に向けた労使双方の前向きな取り組みが一層拡大していくことを強く期待しています。

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(物価の先行き)次に、物価の先行きに話を移したいと思います。先日の「展望レポート」では、2019年度の消費者物価の前年比は、政策委員の中央値でみて+1.1%、2020年度は+1.4%と見込んでいます。見通し期間最後の2021年度は+1.6%と予想しています(図表9)。このように、わが国の物価の上昇ペースは、引き続き、緩やかなものにとどまるとみています。これについては様々な理由がありますが、その一つが、長期にわたる低成長やデフレの経験などから、賃金・物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行が根強く残っており、その転換に時間を要すると考えられることです。こうした過去の経験や、それに基づく人々の慎重なマインドは、主に2つの経路を通じて、わが国の物価を上がりにくくします。第1に、マクロ的な需給ギャップが改善しても、理論面から期待されるほど、企業の賃金・価格設定スタンスが積極化してこない可能性です。デフレ下での厳しい雇用調整の経験などから、今なお、労使ともに賃上げよりも雇用の安定を優先する傾向が根強く、人手不足の割に賃金の上昇ペースが鈍いことも、こうした状況の一例です。第2に、予想物価上昇率の高まりに時間がかかるということです。オーソドックスな考え方によれば、現実の物価が上昇すれば、人々が予想する将来の物価上昇率も高まり、予想物価上昇率が高ま 7

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れば、それに伴って現実の物価も上昇するというように、現実と予想の相互フィードバックが作動することが想定されています。もし、企業や家計が、先々、賃金・物価がなかなか上がらないと予想すれば、こうしたフィードバックはスムーズに働かなくなります。この点に関し、最近の研究では、人々の予想物価上昇率は、現実の物価だけでなく、個々人の長年にわたる経験に依存する面があるとの指摘もなされています。人生の多くをデフレのもとで過ごした世代が増えるにつれて、平均的な予想物価上昇率が上がりにくくなる可能性もあるということです。もっとも、現状を過度に悲観する必要はありません。マクロ的な需給ギャップの改善により、生鮮食品を除いた消費者物価の前年比が、1年以上にわたって1%近い水準を維持していることは、日本経済にとって大きな変化です。ベースアップが6年連続で実施されるなど、デフレ下の慣行や考え方も次第に薄れつつあります(図表 10)。こうした中、予想物価上昇率も、全体としてはなお横ばい圏内で推移していますが、最近では、家計を中心に幾分上昇する動きがみられています。ここ数年の賃金や物価の上昇が、人々の新たな経験として積み重なることで、先行き、予想物価上昇率の押し上げに寄与していくことも考えられます。

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このように、プラスの需給ギャップを起点に現実の物価が上昇し、それが予想物価上昇率の高まりに繋がるという、「物価安定の目標」に向けたモメンタムは引き続き維持されています。日本銀行としては、時間はなおかかるものの、わが国の消費者物価の前年比は、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えています。

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4.日本銀行の金融政策運営続いて、日本銀行の金融政策運営についてご説明します。現在、日本銀行は、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という政策枠組みを採用しており、そのもとで、短期政策金利を「▲0.1%」、10年物国債金利の操作目標を「ゼロ%程度」と定め、これと整合的なイールドカーブの形成を促すよう、市場において国債の買入れを実施しています(図表 11)。これにより、長短 8

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の市場金利は低水準で安定し、企業向け貸出金利や社債の発行金利も、きわめて低い水準で推移しています。日本銀行では、こうした「イールドカーブ・コントロール」を軸とする強力な金融緩和によって、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現することを目指しています。もっとも、先月末の金融政策決定会合では、海外経済の動向をはじめ、わが国の経済・物価の先行きを巡る不確実性は大きく、「物価安定の目標」の実現にはなお時間がかかるとの認識が、政策委員の間で改めて共有されました。こうした認識のもと、日本銀行は、「物価安定の目標」の実現に向けて、現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくとの政策運営方針に変わりがないことを、より明確に示すことが重要と判断しました(図表 12)。このため、金融政策決定会合では、昨年7月に導入した「政策金利のフォワードガイダンス」を明確化することとしました。フォワードガイダンスとは、金融政策に対する市場の信認や期待を高めるために、将来の政策金利に関する運営方針をあらかじめ約束するものです。具体的には、既存のガイダンスに一部変更を加え、「海外経済の動向や消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、少なくとも2020年春頃まで、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する」という方針を明らかにしました。

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見直しのポイントは、現在の金利水準を維持するとしている「当分の間」の意味を明確にするため、「少なくとも 2020年春頃まで」という具体的な時期を新たに加えたことです。これは、海外経済やグローバルなITサイクルの持ち直しが展望できる時期が本年後半以降になると想定されることや、消費税率引き上げの影響を見極めるには、増税後ある程度の期間を要すると考えられることを踏まえたものです。そのうえで、現在のフォワードガイダンスは、「経済・物価の不確実性を踏まえて判断する」としている点で、経済・物価情勢に応じ、その時までに得られたデータや情報を用いて判断する仕組みであることを改めて強調しておきたいと思います。先行き、少なくとも2020年春頃までは、現在のきわめて低い長短金利が適当であるような経済・物価情勢が続くと想定していますが、今後の情勢次第では、この期間を超えて、現在の低金

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利を維持する可能性が十分にあると考えています。このほか、先月末の決定会合では、現在の強力な金融緩和の継続に資する各種の措置を実施することも、同時に決定しました。具体的には、日本銀行が金融機関に貸出等を行う際の担保の範囲を拡充したり、日本銀行が保有する国債を一時的に貸し付ける制度の利用要件を緩和することなどを決定しました。日本銀行が保有するETFを市場参加者に貸し付ける制度の導入についても、検討することとしました。本日は、こうした措置について詳しくご説明しませんが、これらはいずれも、日本銀行による円滑な資金供給や市場機能の確保を通じ、今後とも、強力な金融緩和を長く続けていくことをサポートするものです。こうした措置は、フォワードガイダンスの明確化と合わせ、強力な金融緩和の継続に対する信認を高め、「物価安定の目標」の実現をより確かなものとすることに資するとともに、金融市場の安定にも繋がると考えています。日本銀行では、物価や予想物価上昇率がなかなか高まらないというわが国経済情勢を踏まえると、「物価安定の目標」を実現するためには、十分に低い金利を長く維持することにより、できるだけ長期間、需給ギャップがプラスの状態を持続させることが必要だと考えています。先ほどご紹介したいくつかの措置もそうした考え方に基づくものです。

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このように、中央銀行は、物価の安定という自らの目的を達成するために、それぞれが置かれた状況のもとで、常に最適な金融政策を模索しています。これは、日本に限ったことではありません。米国のFRBは、ここ数年、政策金利を段階的に引き上げるなどして、金融政策の正常化を進めてきましたが、本年入り後は、リーマンショック前に比べて金利水準はまだかなり低いにもかかわらず、世界経済の減速などを理由に、利上げの動きをいったん中断しています。また、最近、FRBをはじめ、海外の中央銀行では、グローバル金融危機後の金融政策をレビューし、新たな金融政策のあり方や具体的な手段を議論しようとする取り組みも進んでいます。こうした動きについては、近年、多くの先進国で、潜在成長率の低下や恒常的な資金余剰などから、景気に中立的な実質金利、

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10 すなわち自然利子率が趨勢的に低下していることや、そうしたもとで金融政策の有効性を高めることの難しさが意識されていることが、背景にあると理解しています。もちろん、米国などと日本を同じように扱うことはできません。しかしながら、低成長・低インフレにより、かつてに比べれば金融政策による対応余地が狭まる中、いかにして経済や金融の安定を確保しながら、物価安定の目標を実現していくのかという問題は、現在、多くの中央銀行が共通して抱えている根源的な課題です。日本銀行としても、引き続きそうした問題意識を持って、海外での議論の展開も適切にフォローしていく必要があると考えています。

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5.おわりにここまで、わが国の経済・物価情勢とそれを踏まえた金融政策運営の考え方についてご説明してきました。最後に一言付け加えさせて頂き、本日の講演を締め括りたいと思います。平成が幕を閉じ、令和時代がスタートしてから2週間余りが経ちました。もとより、金融政策は元号によって区分されるものではありませんが、それでも、中央銀行の視点で改めて振り返ってみますと、平成時代は、デフレとの闘いが続いた時期として特徴づけられると思います。いわゆるバブル崩壊後の景気後退が長期化する中、平成 10年を過ぎた頃には、経済を刺激しようにも、それ以上短期金利を引き下げることが困難となりました。リーマンショックや東日本大震災なども、デフレから抜け出そうとする日本経済にとっての大きな試練でした。こうした試練の中で、日本銀行は、短期金利のゼロ制約を乗り越えるために、多くの国に先駆けて、フォワードガイダンスを導入したり、多様な資産買入れを実施するなど、「非伝統的な金融政策」に挑戦してきました。6年前には、それまでよりも一段と強力な「量的・質的金融緩和」を導入し、その後も強力な金融緩和を粘り強く続けています。こうしたもとで、ここ数年、わが国の経済は大きく改善し、「物価が持続的に下落する」という意味でのデフレではない状況で、平成の終わりを迎えることがで 11

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きました。元号が変わっても、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」という、日本銀行の使命は変わりません。今後とも、日々変化する経済・物価情勢に適切に対応しながら、そうした使命を果たすべく、わが国の中央銀行として最大限の努力を続けていきたいと考えています。ご清聴ありがとうございました。 以上 2019年5月17日日本銀行総裁黒田東彦経済・物価見通しと金融政策運営― 内外情勢調査会における講演 ―1. はじめに2. 経済情勢3. 物価情勢4. 日本銀行の金融政策運営5. おわりに

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海外経済各国・地域の成長率見通し(IMF)(注)2019年以降は、2019/4月時点の見通し。()内は、2019/1月時点の見通しからの改定幅。(出所)IMF図表112017年2018年2019年[見通し]2020年[見通し]3.33.6(-0.2) (0.0)1.81.7(-0.2) (0.0)2.31.9(-0.2) (0.1)1.31.5(-0.3) (-0.2)1.00.5(-0.1) (0.0)4.44.8(-0.1) (-0.1)6.36.1(0.1) (-0.1)5.15.2(0.0) (0.0)1.42.4(-0.6) (-0.1)世界全体 3.82.93.6先進国 2.42.2米国 2.20.8ユーロエリア 2.41.8日本 1.96.6新興国・途上国 4.84.5中国 6.81.0ASEAN55.45.2ラ米 1.2(前年比、%、%ポイント)2.経済情勢909510010511011510111213141516171819年(季節調整済、2015年=100)輸出・生産図表2(出所)財務省、日本銀行、経済産業省 2実質輸出鉱工業生産909510010511010111213141516171819年(季節調整済、2015年=100)2.経済情勢

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05001,0001,5002,0002,5003,0003,50010111213141516171819訪日客数年(季節調整済年率換算、万人)設備投資・個人消費関連図表3(注)1. 中図の消費活動指数は、除くインバウンド消費・含むアウトバウンド消費。2. 右図の訪日客数の季節調整値は日本銀行スタッフによる推計値。

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(出所)内閣府、日本銀行、日本政府観光局(JNTO)等設備投資3個人消費インバウンド需要606570758085909505070911131517民間企業設備投資(GDPベース、実質)年(季節調整済年率換算、兆円)2.経済情勢96981001021041061081100910111213141516171819消費活動指数(旅行収支調整済、実質)(季節調整済、2011年=100)年9094981021061101141181213141516171819実質輸出鉱工業生産(季節調整済、2015年=100)年-20-15-10-50510152025301213141516171819非製造業・大企業非製造業・中小企業(「良い」-「悪い」、%ポイント)年良い悪い現在と2015・16年頃との比較図表4(出所)財務省、日本銀行、経済産業省、Bloomberg輸出・生産4原油価格・円相場業況判断DI(非製造業)2.経済情勢951001051101151201251302030405060708090100110120141516171819原油(北海ブレント、左目盛)円/ドル相場(右目盛)(ドル/バレル)年(円/ドル)

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日本銀行の経済見通し(注)見通しは、日本銀行政策委員見通しの中央値。(出所)内閣府、日本銀行図表5(2019年4月展望レポート)549050051052053054055056012131415161718192021年度(季節調整済年率換算、兆円)2018年度前年度比+0.6%2019年度+0.8%2020年度+0.9%2021年度+1.2%2.経済情勢先行きのポイント図表6(注)1. 左図の世界全体は、先進国と新興国・途上国をIMF公表のGDPウェイトで加重平均したもの。2. 右図の設備投資計画は、全産業+金融機関の値。ソフトウェア投資額・研究開発投資額を含み、土地投資額は含まない。2016/12月調査以前は、研究開発投資額を含まない。2017/12月調査には、調査対象企業の見直しによる不連続が生じている。(出所)IMF、日本銀行 6海外経済の動向(IMF世界経済見通し)内需の持続性(短観の設備投資計画)2.経済情勢2019年度-202468103月調査 6月9月12月見込み実績2015年度 2016年度2017年度 2018年度(前年比、%)過去(2004~2017年度)の平均0.00.51.01.52.02.53.03.54.04.55.05.56.016上 16下 17上 17下 18上 18下 19上 19下先進国新興国・途上国世界全体(成長率、年率換算、%)

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消費者物価図表7(注)消費税調整済み。(出所)総務省 7-3-2-10123485909500051015総合(除く生鮮食品)総合(除く生鮮食品・エネルギー)(前年比、%)年3.物価情勢-1.5-1.0-0.50.00.51.01.5111213141516171819企業向けサービス価格指数(総平均、除く国際運輸)(前年比、%)年企業の価格設定スタンス図表8(注)1. 左図の2003/12月調査には、調査の枠組み見直しによる不連続が生じている。2. 右図は消費税調整済み。(出所)日本銀行 8販売価格判断DI(短観)企業向けサービス価格-50-40-30-20-100102085909500051015全産業・大企業全産業・中小企業年(「上昇」-「下落」、%ポイント)3.物価情勢

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(2019年4月展望レポート)日本銀行の物価見通し(注)1. 見通しは、日本銀行政策委員見通しの中央値。実績は、2014年4月の消費税率引き上げの直接的影響を除いたベース。2. 消費税率引き上げの2019年度と2020年度の消費者物価への影響は、それぞれ+0.5%ポイント。教育無償化政策の影響は、それぞれ-0.3%ポイント、-0.4%ポイント(試算値)。(出所)総務省、日本銀行図表99-1.0-0.50.00.51.01.52.012131415161718192021消費者物価指数(除く生鮮食品)(前年比、%)年度2021年度+1.6%2020年度+1.4%2019年度前年度比+1.1%3.物価情勢物価を取り巻く環境図表10(注)1. 左図の所定内給与の2013年度以降は、東京都の「500人以上規模の事業所」を復元した再集計値。2016年度以降は共通事業所ベース。2. 右図のエコノミストは、コンセンサス・フォーキャスト。家計は、修正カールソン・パーキン法による。企業は、全産業全規模ベースの物価全般の見通し(平均値)。

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(出所)厚生労働省、中央労働委員会、日本労働組合総連合会、日本銀行、QUICK「QUICK月次調査(債券)」、Consensus Economics「コンセンサス・フォーキャスト」名目賃金予想物価上昇率100.00.51.01.52.02.50507091113151719市場参加者(QUICK、2年先~10年後までの8年間)エコノミスト(6~10暦年先)家計(生活意識アンケート調査、今後5年間)企業(短観、5年後)(前年比、年率平均、%)年3.物価情勢-101234588909294969800020406081012141618ベア所定内給与(一般労働者)(前年度比、%)年度

§31

(出所)Bloomberg長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)図表11114.日本銀行の金融政策運営-0.3-0.2-0.10.00.10.20.30.40.50.601234567891015203040(%)年(残存期間)直近の国債イールドカーブ短期政策金利「▲0.1%」長期金利操作目標「ゼロ%程度」-0.4-0.20.00.20.40.60.81.013141516171819長期金利(10年物国債金利)(%)年「量的・質的金融緩和」の導入「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入強力な金融緩和継続のための枠組み強化強力な金融緩和の継続(2019年4月) 海外経済の動向など経済・物価を巡る不確実性は大きい 「物価安定の目標」の実現にはなお時間がかかる強力な金融緩和の継続方針をより明確に示す強力な金融緩和の継続に資する措置の実施円滑な資金供給・資産買入れの実施①日銀適格担保の拡充、②成長支援オペの利便性向上市場機能の確保③SLF(国債を一時的に貸し付ける制度)の要件緩和、④ETF貸付制度の導入政策金利のフォワードガイダンスの明確化「2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する。

§32

」「海外経済の動向や消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、少なくとも2020年春頃まで、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する。」旧新図表12124.日本銀行の金融政策運営