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Bank of JapanSpeechFeb 6, 2025Naoki Tamura, Board Member

【挨拶】「わが国の経済・物価情勢と金融政策」(長野県金融経済懇談会)

Original in Japanese

Full text

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日本銀行政策委員会審議委員田村直樹わが国の経済・物価情勢と金融政策── 長野県金融経済懇談会における挨拶要旨 ──日本銀行2025年2月6日 11.はじめに日本銀行の田村でございます。本日は、長野県の行政および金融・経済界を代表する皆様との懇談の機会を賜り、誠にありがとうございます。また、日頃より、日本銀行松本支店および長野事務所の業務運営にご協力頂いておりますことに、厚く御礼を申し上げます。本日は、まず私から、わが国の経済・物価情勢や日本銀行の金融政策運営などについて説明させて頂き、その後、皆様から長野県の実情に即したお話や日本銀行に対するご意見などを承りたく存じます。

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2.経済・物価情勢(1)経済情勢はじめに、わが国の経済情勢についてお話しします。わが国の景気は、一部に弱めの動きもみられますが、全体としてみれば、緩やかに回復していると判断しています。先行きは、1月の展望レポートで示している実質GDP成長率をみると、政策委員の中央値で、2024年度が+0.5%、2025年度が+1.1%、2026年度が+1.0%となっています(図表1)。2024年度の成長率が低くなっていますが、これは一部自動車メーカーの生産・出荷停止等の特殊要因から2024年1~3月期がマイナス成長となったことの影響によるもので、2024年度の各四半期の前期比成長率でみるとしっかりとした成長を見込んでいます。その後も、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まっていき、潜在成長率を上回る成長を続けると予想しています。 2こうした先行きを見通すうえで、私が特に注目している賃金の動向についてお話ししたいと思います。所得から支出への前向きの循環メカニズムが続いていくかどうかを見極めるうえで、今まさに行われている春季労使交渉がどのような着地となるかが重要なポイントです(図表2)。大企業では、労使交渉を待たずに、「去年並みの高い賃上げを行う」との声が既に幾つも聞図表1日本銀行の経済見通し

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(注)見通しは、政策委員見通しの中央値(2025/1月展望レポート)。2024年度以降の実質GDPの見通しの水準は、2023年度実績をベースに見通しの成長率を乗じて算出。(出所)内閣府、日本銀行4905005105205305405505605705801314151617181920212223242526(季節調整済年率換算、兆円)年度24年度+0.5%25年度+1.1%26年度+1.0%図表2 春季労使交渉の結果 (注)1.物価上昇率は、消費者物価指数(除く生鮮食品、消費税率引き上げの影響を除く)。2.ベアおよび定昇分の実績は、 2014年までは中央労働委員会、 2015年以降は連合の公表値(対象は賃上げ分が明確に分かる組合)。(出所)日本労働組合総連合会、中央労働委員会、総務省-2-10123456919599030711151923定昇分(実績)ベア(実績)物価上昇率(前年比、%)年

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3かれています。中小企業については「厳しい」との声も引き続きありますが、「人手不足の状況下、賃上げを行わざるを得ない」との声も多く聞かれています。こうした中で、企業の賃金設定行動にパラダイムシフトが起こりつつあると感じています。従来は、「収益を上げて、その還元として賃上げを行う」というのがよくみられた企業行動でした。もっとも、原材料価格が上がれば、それを所与として経営を考えなければならないのと同様に、人を確保できる水準の賃金を設定せざるを得ないという状況がまずあり、それを所与として経営を考える、具体的には、価格転嫁や効率化、事業や企業の再編を含めたビジネスモデル変革などを、考えなければならない時代に入ってきていると感じています(図表3)。賃金が毎年、上昇していくことを織り込んで中期経営計画を策定したという企業経営者の声が聞かれますが、これは、長らく続いてきた「賃金は上がらない」という考えが根本的に変化していることを示すものだと考えられます。こうした点を踏まえれば、私としては、今年の春季労使交渉では、2%の「物価安定の目標」と整合的な、しっかりとした賃上げが期待できると考えています。図表3 賃上げを巡る企業の動向賃上げの実施状況(中小企業)人件費の価格転嫁率(中小企業)

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(注)1.左図は、日本商工会議所LOBO調査。各年度の12月時点における所定内賃金の引き上げ状況(2024年度のみ9月時点)。2. 右図は、中小企業庁の価格交渉促進月間フォローアップ調査。直近6カ月間のコスト上昇分のうち価格転嫁できた割合。(出所)日本商工会議所、中小企業庁0204060801002021222324賃金の引き上げは行わない現時点では未定業績が改善しているため賃上げを実施業績の改善がみられないが賃上げを実施年度(%)01020304010割7~9割4~6割1~3割転嫁率0割2022/9月調査2023/9月調査2024/9月調査(構成比、%) 4(2)物価情勢続いて、物価情勢についてお話しします。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、足もとは3%程度、振れの大きいエネルギーも除いた消費者物価の前年比も、2%台半ばとなっています(図表4)。季節調整済みの前月比で消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)をみると、昨年6月以降明確に加速しており、同月以降の動きを均してみると年率で3%程度のインフレが図表4 消費者物価 (出所)総務省図表5 消費者物価(前月比・年率)

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(注)消費者物価指数(除く生鮮食品、エネルギー)。(出所)総務省-2-1012345192021222324エネルギー食料品財(除く食料品)サービスCPI(除く生鮮食品)CPI(除く生鮮食品・エネルギー)(前年比、%)年0246822/122/723/123/724/124/7(季節調整済前月比、年率換算、%)月

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5継続していることになります(図表5)。こうした動きの背景には、足もとの原材料価格や運送費・光熱費等の上昇分の価格転嫁に加え、過去の上昇分の価格転嫁が十分に出来ていない業種・企業によるラグを伴った価格転嫁が続いていること、人件費の上昇分の価格転嫁が幅広く行われるようになってきていること、こうした中で、米類の価格上昇がさらに物価を押し上げていることがあると考えています。2%以上のインフレが3年近く続いているうえに、日本人にとって重要な「お米」の大幅な価格上昇が、その数値以上に消費者マインドにダメージを与え、個人消費に悪影響を与えてしまわないか懸念しています。私は、わが国で物価上昇が続いている背景には、需給ギャップがプラス、すなわち需要が潜在的な供給力を上回っており、物価に上昇圧力がかかっていることがあると考えています。この需給ギャップについては、日本銀行が推計しており――推計手法によって異なる値をとり得るほか、様々な推計誤差が含まれるため、幅を持ってみる必要がありますが――、足もとの値はゼロ近傍にあります(図表6)。では、足もとは、物価に上昇圧力も低下圧力図表6 需給ギャップ

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(注)1.需給ギャップは、日本銀行スタッフによる推計値。2.短観加重平均DI(全産業全規模)は、生産・営業用設備判断DIと雇用人員判断DIを資本・労働分配率で加重平均して算出。2003/12月調査には、調査の枠組み見直しによる不連続が生じている。(出所)日本銀行-30-20-100102030-6-4-2024600040812162024労働投入ギャップ(左目盛)資本投入ギャップ(左目盛)需給ギャップ(左目盛)短観加重平均DI(右目盛)(%)年(「過剰」-「不足」、%ポイント、逆目盛)

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6もかからないような状況でしょうか。需給ギャップを分解すると、労働投入ギャップがプラス(人手が不足)になっているのに対し、設備がフルに稼働していないことを受けて、資本投入ギャップがマイナス(設備が過剰)となっています。しかし、設備がフル稼働していないのは必ずしも需要が不足しているからではなく、人手不足によって十分に設備を稼働させられないという側面も大きいと考えられます1。なお、企業の実感を示す短観のDIでは、足もとで、労働力について「不足」と感じる企業の割合が大きく上昇する一方、設備について「過剰」と感じる企業はほとんどありません。それらを加重平均したDI2が、需給ギャップの日本銀行推計値の動きから大きく乖離しているのは、このような理由によるのではないかと考えられます。したがって、私としては、需給の逼迫度合は業種によって差はありますが、マクロ的な需給ギャップは既に実態的にはプラスの領域にあり、供給力不足が物価に上昇圧力をかけている状況にあるのではないかと思っています。

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1 例えば、旅館・ホテル業界では「人手不足で客室稼働率を抑制せざるを得ない」、タクシー業界では「ドライバー不足で自動車があっても動かせない」、製造業でも「人手不足で設備をフル稼働させられない」といった声が聞かれます。2 「短観加重平均DI」は、短観の生産・営業用設備判断DIと雇用人員判断DIを合成して作成したもので、設備と労働力について企業の感じている過不足感を示すものです。

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7物価の基調を確認するうえで重要な要素である、企業・家計の中長期的な予想物価上昇率についてもみておきたいと思います。短観における企業の物価全般の見通しは、緩やかに上昇しており、5年後の予想は2%を超える姿が続いています(図表7)。家計について、日本銀行の「生活意識に関するアンケート調査」の結果では、バイアスがあるため水準自体は割り引いてみる必要がありますが、 5年後の予想は2%を大きく超えています3。以上から、私としては、企業や家計の予想物価上昇率はしっかりと高まっており、概ね2%程度の水準に達していると考えています。図表7 予想物価上昇率企業(短観)<5年後の物価見通し>家計(生活意識に関するアンケート調査)<今後5年間の物価見通し><質的質問への回答>(注)1.企業は、全産業全規模ベース(平均値)。2. 家計の量的質問は、予想物価上昇率を数値で回答したもの(中央値)。質的質問は、「物価が上がるか・下がるか」について、5択の選択肢から回答した情報を用いて、修正カールソン・パーキン法により推計したもの。(出所)日本銀行

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3 家計の予想物価上昇率にかかるバイアスを調整するため、「少し上がる」、「かなり上がる」などの選択肢で先行きの物価感を回答するアンケート(質的質問)で得られた結果から予想物価上昇率を推計すると、緩やかに上昇しているものの足もとは1%台半ばの水準に留まっています。もっとも、「かなり上がる」と回答しているような人々の予想がさらに上振れたとしても、同じ選択肢を選ばざるを得ない、といった制約からくるバイアスなどを踏まえれば、過小評価している可能性も否定できないと考えられます。0123456141618202224(前年比、%)年0123456141618202224量的質問質的質問(前年比、%)年020406080100141618202224(%)年かなり下がる少し下がるほとんど変わらない少し上がるかなり上がる

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8話を消費者物価に戻しまして、物価の先行きについてみていきたいと思います。生鮮食品を除いた消費者物価の予想を政策委員の中央値で申し上げれば、2024年度が前年比+2.7%、2025年度が+2.4%、2026年度が+2.0%となっています(図表8)。「物価安定の目標」の実現に向けてオントラックで進んでおり、目標が実現する確度は、引き続き高まってきていると判断しています。そして、足もとみられている企業の価格転嫁の状況や、人手不足を映じた人件費の上昇とその価格転嫁の動きを踏まえると、私としては、上振れリスクが膨らんできていると考えています。図表8日本銀行の消費者物価見通し (注)1.消費者物価指数(除く生鮮食品、消費税率引き上げの影響を除く)。2.、△、▼は各政策委員の見通し(形状は各政策委員が考えるリスクバランスを示す。:リスクは概ね上下にバランスしている、△:上振れリスクが大きい、▼:下振れリスクが大きい)、赤点線は政策委員見通しの中央値(2025/1月展望レポート)。(出所)総務省、日本銀行

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3.金融政策運営ここからは、日本銀行の金融政策運営についてお話しします。日本銀行は、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することを目指して、政策運営を行っており、2024年3月の金融政策の枠組みの見直し以降、短期金利の操作を主たる政策手段と位置付けています(図表9)。そして、「物価安定の目標」の実現する確度の高まりに合わせて、金融緩和の度合いを調整 9していく方針にあり、1月の会合では短期政策金利の誘導目標を0.25%引き上げ、0.5%程度としました(図表10)。今後、消費者物価の基調的な上昇率は徐々に高まっていき、2026年度まで図表9 金融市場調節方針 図表102025年1月金融政策決定会合での決定内容

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短期金利左記以外2010年10月~ 0~0.1%程度(無担保コールレート<O/N物>) ―2013年4月~ ― マネタリーベース:年間約60~70兆円の増加2014年10月~ ― マネタリーベース:年間約80兆円の増加2016年9月~イールドカーブ・コントロール▲0.1% (日本銀行当座預金のうち政策金利残高への適用金利) 10年物国債金利:ゼロ%程度2024年3月~ 0~0.1%程度(無担保コールレート<O/N物>) ―2024年7月~ 0.25%程度(無担保コールレート<O/N物>) ―2025年1月~ 0.5%程度(無担保コールレート<O/N物>) ―政策委員見通しの中央値(対前年度比、括弧内は24/10月からの変化)2024年度 2025年度 2026年度実質GDP 0.5(▲0.1)1.1( ― )1.0( ― )消費者物価(除く生鮮食品)2.7(+0.2)2.4(+0.5)2.0(+0.1)(参考)除く生鮮食品・エネルギー2.2(+0.2)2.1(+0.2)2.1( ― )経済・物価は、これまで示してきた見通しに概ね沿って推移、先行き、見通しが実現していく確度は高まってきている短期金利(無担保コールO/N物):「0.5%程度」に引き上げ(従来は「0.25%程度」) 実質金利は大幅なマイナスが続き、緩和的な金融環境は維持 → 経済活動をしっかりとサポート 見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整2%の「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現という観点から、金融緩和の度合いを調整 昨年に続きしっかりとした賃上げを実施するとの声 賃金の上昇が続くもと、基調的な物価上昇率は2%に向けて徐々に上昇 為替円安等に伴う輸入物価の上振れもあって、2025年度も物価見通しは2%台半ば 様々な不確実性は意識されているものの、国際金融資本市場は全体として落ち着いた状況賃金物価海外

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10の展望レポートの見通し期間の後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移するというのが日本銀行としての見通しです。さらに、私としては、様々な不確実性はあるものの、企業の賃金・価格設定行動の変化、人手不足を背景とした供給力不足の状況、概ね2%程度に達している企業・家計の予想物価上昇率を踏まえれば、中小企業まで含めた賃上げの実績を確認できる2025年度後半には、「物価安定の目標」が実現したと判断できる状況に至るとみています。この場合、2025年度後半には、政策金利である短期金利は経済・物価に対して中立的な水準、すなわち名目の中立金利まで上昇していることが必要と考えています。先ほど申し上げた通り、物価上振れリスクがある中、短期金利が経済・物価に対して中立的な水準を下回っていると、物価をさらに押し上げてしまうからです。この中立金利について、私は、最低でも1%程度だろうとみており、したがって2025年度後半には少なくとも1%程度まで短期金利を引き上げておくことが、物価上振れリスクを抑え、物価安定の目標を持続的・安定的に達成するうえで、必要だと考えています。ただし、長きに亘ってほとんど金利がない世界が続いてきたわが国においては、経済主体が金利にどのように反応するか、予断を持たずに注意深くみていく必要があります。

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したがって、2025年度後半の1%の水準を念頭に置きながら、「物価安定の目標」の実現する確度の高まりに応じて、適時かつ段階的に短期金利を引き上げつつ、経済・物価の反応を丁寧に確認し、適切な短期金利の水準を探っていく必要があると考えています。以上のような考えのもと、次の利上げ、政策金利を0.75%まで引き上げるタイミングについても、適切に判断してまいりたいと考えています。私としては、政策金利を0.75%に引き上げたとしても、引き続き実質金利は大幅にマイナスであり、経済を引き締める水準にはまだ距離があると考えています。例えて言えば、アクセルを強く踏み込んだ状態から、少しだけアクセルを緩めることによって、必要な場合に、急ブレーキを避けつつ減速することができるようにしておくことが必要な局面であるということです。

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114.金融政策の多角的レビュー昨年12月の会合では、2023年4月以降実施してきた「金融政策の多角的レビュー」を取りまとめ、報告書を公表しました。この「多角的レビュー」は、過去25年間のわが国の経済・物価・金融情勢について振り返ったうえで、非伝統的な金融政策運営の効果と副作用を点検し、先行きの金融政策運営への含意を整理したものです。本日は、私がポイントと考える点についてご紹介するとともに、一部については私の考えも述べておきたいと思います。 (1)2013年以降の大規模な金融緩和の効果と副作用まず、日本銀行が2013年以降、採用してきた様々な非伝統的な金融政策手段の効果と副作用についてです(図表11)。「多角的レビュー」では、「当初の想定ほどではないが、大規模な金融緩和は経済・物価を押し上げた」、そして、「一定の副作用はあったものの、現時点においては、全体としてみれば、わが国経済に対してプラスの影響をもたらした」と結論づけています。図表112013年以降の大規模な金融緩和の効果と副作用

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• 金融市場や金融機関収益などの面で一定の副作用はあったものの、現時点においては、全体としてみれば、わが国経済に対してプラスの影響• ただし、今後、なお低下した状態にある国債市場の機能度の回復が進まない、あるいは副作用が遅れて顕在化するなど、マイナスの影響が大きくなる可能性には留意大規模な金融緩和の副作用等大規模な金融緩和の効果と副作用の評価金融市場の機能度国債市場の機能度にマイナスの影響金融仲介機能貸出等の利鞘は縮小も、金融仲介活動を阻害した証左はみられない経済の供給サイド(成長力等)プラス・マイナス両面で明確な結論が得られず• 大規模な金融緩和は経済・物価を押し上げ• ただし、期待への働きかけの難しさなどから、導入当初に想定していたほどの効果は発揮せず経済・物価への影響

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12これらの点について、私が金融ビジネスの現場にいた頃の経験なども踏まえて、何点かコメントしたいと思います。第一に、経済の供給サイドに対する副作用についてです。「多角的レビュー」では、現時点までのデータからの分析に基づき、「プラス・マイナス両面で明確な結論が得られず」としています。ただし、私は、大規模な金融緩和が長期化したことも一因となって、ビジネスの新陳代謝の停滞によって生産性低迷がもたらされ、供給サイドに対して大きな副作用があった可能性が高いと考えています。したがって、大規模な金融緩和が「全体としてみればプラスの影響をもたらした」と言い切ることはできないのではないかと思っています。第二に、「今後、副作用が遅れて顕在化し、マイナスの影響が大きくなる可能性には留意が必要」という点についてです。金融市場の機能度や金融仲介機能、経済の供給サイドに対する副作用など、引き続き丁寧に点検していく必要があると考えています。また、関連するテーマとして、金融緩和の長期化が問題をもたらすことはないか、例えば、過度な円安の進展、都心住宅価格の高騰などが、今後、経済や国民生活にどのような影響を与えていくかといった点も、丁寧にフォローしていく必要があると考えています。

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13(2)先行きの金融政策運営への含意「多角的レビュー」では「非伝統的な金融政策手段は、経済・物価を押し上げる効果を発揮。ただし、その定量的な効果は短期金利の操作に比べて不確実。また、大規模・長期間にわたって継続する場合には副作用をもたらしうる」として、「今後、非伝統的な金融政策手段を用いる必要が生じた場合には、その時点の経済・物価・金融情勢のもとで、ベネフィットとコストを比較衡量していくことが重要」としています(図表12)。図表12 先行きの金融政策運営への含意(1) ここで、注意が必要だと私が考えているのは、今回のレビューでは、定量分析の限界から、個別の政策ごとには効果があまり分析されていないことです。私の実感として、2013年から2年間程度の大規模緩和は、為替、株価、不動産といった資産価格のリプライシングを通じて、経済・物価にプラスの影響を与えましたが、一段の国債買入れの増額やマイナス金利の導入など、その後の追加施策の限界的な効果は極めて小さかったと感じています。将来、非伝統的金融政策を検討せざるを得なくなった場合には、こういった点を踏まえて、慎重に検討することが必要だと考えています。

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• 非伝統的な金融政策手段は、経済・物価を押し上げる効果を発揮。ただし、その定量的な効果は、伝統的な金融政策手段(短期金利の操作)に比べて不確実。非伝統的な金融政策手段を大規模かつ長期間にわたって継続する場合には、副作用をもたらしうる• 今後、非伝統的な金融政策手段を用いる必要が生じた場合には、その時点の経済・物価・金融情勢のもとで、ベネフィットとコストを比較衡量していくことが重要• 現時点においては、将来の政策運営を考えるうえで特定の手段を除外するべきではないが、今後、各手段の採用を検討する際には、留意点等を勘案し、可能な限り副作用を抑制しながら効果を発揮できるよう、制度設計していく必要非伝統的な金融政策運営の考え方 14(3)2%の「物価安定の目標」2%の「物価安定の目標」については、「多角的レビュー」では、「引き続き、この目標のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、金融政策を運営していくことが適切」と結論付けています(図表13)。その理由として、景気悪化時に実質金利を引き下げることができるようにしておくことの必要性、消費者物価指数の上方バイアス、主要先進国の多くが物価目標を2%に設定していることなどが挙げられています。図表13 先行きの金融政策運営への含意(2)

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• 引き続き、2%の「物価安定の目標」のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、金融政策を運営していくことが適切 非伝統的な金融政策手段は、短期金利操作の完全な代替手段にはなりえず、可能な限りゼロ金利制約に直面しないような政策運営が望ましい。景気悪化時に実質金利を引き下げることができるように、小幅のプラスの物価上昇率を安定して実現していくことが重要 消費者物価指数のバイアス 主要先進国の多くは物価目標を2%に設定 デフレ・低インフレ環境下では、個々の品目の価格や賃金が動きにくかったことが資源配分の歪みや企業の前向きな投資の抑制につながっていた可能性• 金融政策運営にあたっては、その時々の物価上昇率の実績だけではなく、物価変動を規定する諸要因を見極め、物価の基調を捉えていくことが重要2%の「物価安定の目標」

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15また、企業や家計へのアンケートでは、「物価・賃金(収入)がともに緩やかに上昇する状態」は、「物価・賃金(収入)がともにほとんど変動しない状態」より好ましいとの回答が多くなっています(図表14)。わが国で長く続いたデフレ・低インフレ環境下では、多くの品目の価格が動かなくなり、賃金も据え置かれる傾向が強まっていましたが、こうした状況が資源配分を歪めたり、企業の前向きな投資を抑制することにつながっていた可能性もあると考えています。これらを踏まえると、賃金上昇を伴う形で、物価が緩やかに上昇する状況を実現することが重要です。図表14 好ましい物価と賃金・収入の状態家計企業 (注)家計は「生活意識に関するアンケート調査」(2024/9月調査)。企業は「1990年代半ば以降の企業行動等に関するアンケート調査」。(出所)日本銀行そのうえで、私が大切だと考えているのは、「多角的レビュー」が指摘している「金融政策運営に当たっては、その時々の物価上昇率の実績だけではなく、物価変動を規定する諸要因を見極め、物価の基調を捉えていくことが重要である」という点です。私としては、 2.0%という数値に拘るのではなく、「緩やかな上昇」の範囲にある限り、その背後にあるメカニズムが「物価安定の目標」と整合しているかをみていくべきだと考えています。

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020406080物価と収入がともに緩やかに上昇する状態どちらの状態でも変わらない物価と収入がともにほとんど変動しない状態わからない(回答比率、%)020406080物価と賃金がともに緩やかに上昇する状態物価と賃金がともにほとんど変動しない状態どちらの状態でも変わらないわからない(回答比率、%)

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16(4)財政政策と金融政策財政政策と金融政策との関係については、日本銀行が、これまで一貫して説明してきたように、金融政策の目的は物価の安定であり、政府による財政資金の調達支援が目的の「財政ファイナンス」ではありません。一方で、多角的レビューの過程で行った意見交換等では、財政ファイナンスを目的として行ったわけではないにしても、日本銀行による国債の大量購入が、結果として、財政規律の弛緩につながったとの指摘もありました。財政は政府・国会において適切に運営されるべきものであり、2013年に政府・日本銀行が公表した「共同声明」においても、政府は「持続可能な財政構造を確立するための取り組みを着実に推進する」とされており、中長期的な財政健全化について、市場の信認をしっかりと確保することが重要であると考えています。なお、大規模な金融緩和の副作用として、国債市場の機能度が低下し、長期金利の水準や変化から、将来の経済・物価、政府の財政状態などについて市場がどのように考えているかといった情報が分かりにくくなっている点には留意が必要だと考えています。

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ここまで、「多角的レビュー」の対象である金融政策に焦点を当てた言い回しでご説明してきました。最後に強調しておきたいのは、金融政策は経済・物価に大きな影響を与えるものですが、金融政策によってすべてができる訳ではないということです。あくまで経済の主人公は企業や家計などの経済主体です。足もとの物価や賃金の上昇も、金融政策がサポートした部分はあったとしても、金融政策だけで実現できた訳ではないと考えているということは、改めて申し上げておきたいと思います。

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175.おわりに ―― 長野県経済について ――最後に、長野県経済についてお話ししたいと思います。長野県は、豊かな自然環境を活かした農業や観光業のほか、高い技術力を持つ製造業など、各地域にバランス良く産業が集積しています。当地の製造業の源流は、100年以上前に隆盛を極めた製糸業に遡ります。以来、世界を相手にしながら、時代のニーズに合わせて変化を遂げて来ました。現在では、超精密・微細加工といった独自で優位性のある技術を有し、世界中のサプライチェーンにおいて「なくてはならない存在」の企業が多数あり、長野県経済の大きな強みとなっています。足もとの長野県の景気はわが国全体の動きと同様、改善傾向にあります。これを支えているのは、個人消費の緩やかな増加と堅調な設備投資です。物価高のもとで生活防衛的な動きもみられますが、賃上げの広がりに加え、インバウンドを含めた観光需要の盛り上がりが消費を押し上げています。企業部門では、製造業・非製造業ともに設備投資が活発ですが、海外需要の回復ペースが各社の想定よりも鈍いために、業況感の改善は全国よりも遅れています。海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、今後、企業・家計の両部門で、所得から支出への前向きな循環が確かなものになると期待されます。

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そのうえで、当地経済がさらなる飛躍を遂げるためには、地域のポテンシャルを活かした形で成長力を高めていくことが鍵になると考えています。そうした観点から2点お話ししたいと思います。1点目は、海外需要の獲得に向けた積極的な動きです。製造業では、将来の需要拡大を見据えた能力増強投資や、日本酒や味噌などの優れた地元産品の海外向け情報発信などが活発に行われています。非製造業では、高原やスキー、温泉、自然景観、歴史・文化遺産などを活かし、インバウンド観光需

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18要の獲得が着々と進展しています。2点目は、持続的社会の実現に向けた動きの広がりです。デジタル技術を用いた熟練工の知見の継承や、独自の技術力を活かした脱炭素関連製品の開発に加え、人手不足に対応するための企業間の連携や人口減少下での活力維持・向上に向けた県民会議の開催など、官民を挙げた取り組みがみられます。これらが実を結び、長野県経済のさらなる飛躍に繋がることを期待しています。日本銀行松本支店は2024年に開設110周年、同じく長野事務所は2025年に開設80周年の節目を迎えます。これからも地域の第一線で中央銀行業務を遂行するとともに、関係する皆様との意見交換などを通じて、長野県経済の発展に貢献できるよう努めてまいります。なお、私自身も、スキーシーズンには毎週のように長野県にお邪魔しており、長野県の一ファンとして、長野県の発展を祈念しております。ご清聴ありがとうございました。 以上