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日本銀行記者会見2011年2月23日山口廣秀, 副総裁

山口副総裁記者会見(2011年2月23日)要旨

全文

§1Question

本日の金融経済懇談会では、どのような意見交換が行われたのでしょうか。

§2Hirohide Yamaguchi

本日の懇談会では、三村青森県知事、鹿内青森市長をはじめとして、当地の各界を代表される方々が出席され、地域の金融経済の現状あるいは金融政策運営に関して、貴重なお話、率直なご意見などを数多くいただきました。私にとっては極めて有意義な意見交換の場だったと受け止めています。懇談会の場で出たご意見やご要望は、広範多岐に亘っています。すべてをここでご紹介するわけにはいきませんが、私なりに席上で聞かれた話を整理すると、大きく4点ありました。1点目は、当地の景気については、「厳しさが残っている」とのお話を伺いました。こうした中で、経営基盤が脆弱な中小零細企業が多く、雇用情勢回復の重石になっていること、農林水産業のウェイトが高いゆえにグローバルな気候変動のリスクに晒されていることなど、当地特有の課題を伺いました。2点目は、産業、金融、行政が一体となって、当地経済の活性化や発展に向けていろいろな取組みが行われているというお話を承りました。例えば、行政や金融の面では、青森県による雇用対策事業や制度融資特別支援枠の創設によって、2009年度以降、延べ1万人以上の雇用が創出されたというお話を伺いました。また、産業面では、農家個人の共同創業をサポートするような農商工連携型中小企業組合設立支援事業において、全国でも有数の実績を誇っているとのお話がありました。

§3Hirohide Yamaguchi

3点目は、東北新幹線全線開業への期待が非常に大きいことを伺いました。特に、当地ならではの魅力的な人材や歴史、文化、農林水産物などの宝を活用した観光産業への期待だけではなく、産業関連事業者にとっても、事業拡大や新事業への挑戦といった絶好のビジネスチャンスであるとのお話も承りました。4点目は、私ども日本銀行に対するご意見、ご要望がありました。1つは、適切な金融政策運営を引き続き行って貰いたいということです。特に、地域経済の実情を理解したうえで政策運営を図ることが、企業の成長、産業の振興の観点から重要であるというご意見を伺いました。もう1つは、私どもが行っている成長基盤強化を支援するための資金供給について、その継続を求めるご意見を承りました。以上が本日聞かれたお話を整理したものです。私どもとしては、青森支店を通じて、青森県内の金融経済情勢について肌理細かなモニタリングを継続するとともに、地元経済の持続的成長の実現、金融システムの安定確保など、青森県経済を支える関係者のご努力がより大きな成果へと繋がっていくように、しっかりとサポートして参りたいと考えています。

§4Question

青森県の金融経済情勢についてどのようにご認識されていますでしょうか。

§5Hirohide Yamaguchi

足許の青森県の経済は、これまで県内経済の持ち直しの動きをリードしてきた電気機械などを中心とする生産の増加について、新興国での在庫調整の動きが続いていることなどもあって、このところそのテンポは緩やかになっているようです。このあたりを、懇談会では「当地経済の厳しさ」として指摘されていたと受け止めました。もっとも、生産が緩やかながらも増加してきた影響が雇用や所得の面にも及んでいます。有効求人倍率が緩やかながら上昇傾向にあることはその表れだと思っています。また、大型小売店販売額について前年を上回る月が増えてきていることも、その証左と言ってよいと思います。このように、先行きを展望するうえで、明るい材料もみられているというのが当地経済の現状であると思っています。このほか、本日の懇談会では、当地の産業、金融、行政が一体となって青森県の強みを生かした地域経済の活性化に積極的に取り組まれているお話も伺い、心強く感じたところです。今後とも、こうした取組みなどを通じて、青森県経済がますます発展を遂げていくことを期待しています。

§6Question

東北新幹線の全線開業が青森県の経済に与えるインパクトについて、どうお考えでしょうか。

§7Hirohide Yamaguchi

私自身も当地に東北新幹線で参りました。東京からわずか3時間半ということで、やはり東北新幹線の意義や重みを感じました。全線開業は当地にとって約 40年の長きにわたる悲願であったと受け止めていますが、まさに待ちに待った一大イベントが達成されたものと思います。全線開業後の状況をみると、八戸・新青森間における東北新幹線の利用客数は、昨年の八戸・青森間の在来線の利用客数と比べると、2割ないし3割上回っているということです。また、県内の主要観光施設への入り込み客数も前年を大きく上回っている先が多いとのことです。これまでのところ、東北新幹線全線開業の効果は相応に表れていると受け止めています。また、先行きについても、来年度には全国規模のコンベンションが40件以上も予定されていると聞いていますし、こうしたことによる来県客数は本年度の3倍の約5万人になることが予想されているなど、当面、全線開業の効果が続くとみています。もっとも、重要なことは、こうしたことを一過性のものに終わらせてはならないということです。長期にわたってこうした効果を持続させていくことが非常に重要です。本日の懇談会の場でも、全線開業はゴールではなくスタートだというご意見を伺いました。非常に豊富な観光資源を有する当地においては、東北新幹線の全線開業は、観光産業を発展させるための重要なインフラ整備の一環です。

§8Hirohide Yamaguchi

今後はこうしたインフラを有効活用しての交流人口の増加を図るために、県外向けの観光情報発信などの一層の充実が必要ではないかと考えています。さらに、全線開業が観光産業の発展と合わせて、他地域との人やモノの交流拡大を通じたビジネスチャンスの広がりや、企業活動の活性化を後押しするきっかけにもなるのではないかと期待しています。

§9Question

景気と商品価格の高騰の関係で2点伺います。本日の講演の中で、「短期的な見通しについては、やや楽観的にみているが、中長期的には慎重にみざるを得ない」という発言がありましたが、足許の中東情勢や原油価格の上がり方、株価の落ち方等々をみていると、短期的にもショックのようなものが出始めていないかという懸念があろうかと思います。このあたりの景気に与える影響について、短期的、中長期的な視点から見解をお伺いしたいと思います。もう1点は、先般のG20 でも商品価格の高騰の問題について話し合われたと思いますが、この度、中曽理事がスタディ・グループの議長として、これから研究をリードされていくと伺っており、日本銀行として、どのようなポジションで議論をリードしていこうとしているのか、また、どういう役割や貢献を果たしていけるのかについて、お伺いしたいと思います。

§10Hirohide Yamaguchi

中東情勢、北アフリカ情勢が、このところ不透明感を強めています。そうしたもとで原油価格は上昇してきています。このことの我が国経済に与える影響ですが、原油価格の上昇がどのような要因によってもたらされていると考えるかが、大事なポイントだと思います。2009年初以来、国際商品市況は上昇基調を辿ってきました。そして昨年の秋以降、その上昇ペースがやや加速してきているわけです。その背景には、新興国・資源国の需要の拡大という要因が存在しており、こうした場合には、我が国から新興国・資源国向けの輸出の増加というかたちでプラスの効果が表れる可能性があります。一方で、昨今のように政治情勢が難しさを強めてきている中で、供給ショックによる原油価格の上昇と捉えると、先ほど申し上げたようなプラス効果が表れてこないということになります。その上、原油価格の上昇は、交易条件の悪化をもたらし、我が国の所得の海外流出を発生させることになります。これは明らかにマイナス効果です。従って原油価格、あるいはそれを含めた国際商品価格の上昇が我が国の景気に与える影響は、プラスの面もあればマイナスの面もあるということだと思っています。これら両面が実際にどういうかたちで表れてくるのかについては、今の段階では、なお予断を許さないと思っています。今後の推移を注意深くみながら点検していくべきことです。

§11Hirohide Yamaguchi

私どもは1月に展望レポートの中間レビューを行いましたが、今の段階でそこで考えていた景気のシナリオについて見直さなければならない状況であるとは考えていません。2点目は、 G20 で国際商品市況の上昇について議論があり、今後それについてしっかり勉強していくためのスタディ・グループの設置が決まり、その議長として日本銀行の中曽理事が任命されたわけですが、それに関連して日本銀行としてどのような貢献がありうるかというご質問と思います。1点目のご質問でお答えしたことと重なりますが、国際商品市況上昇の背景ないし原因をどう捉えるかということがまずあります。先ほど申し上げたように、新興国・資源国の景気の拡大に伴う需要の増加なのか、あるいは供給面のショック的なものなのか、さらには先ほどは申し上げませんでしたが、先進国の金融緩和に伴って投資資金が国際商品市場に流入している結果であるのか、その原因を見定めることについては、これから十分に検討していかなければならないという認識がまずあります。それに加えて、国際商品市況の上昇が、先進国そして新興国・資源国の経済に対してどういうインパクトを与えるのか、このあたりについても十分に勉強する必要があると思います。さらに言えば、そうした勉強の結果として国際商品市況の上昇に対して、各国政策当局がどのような対応を取るべきかについての検討も必要になるだろうと思います。

§12Hirohide Yamaguchi

そうした問題意識は、グローバルにも共有されているということだと思います。G20 のもとにスタディ・グループを立ち上げ、その議長に中曽理事が任命されたということですが、日本銀行としても、今申し上げたような国際商品市況に関連した検討については、非常に重要なテーマだと認識しています。相応の成果が得られるように努力していくことが、日本銀行の仕事および貢献だと思っています。

§13Question

今のことに関連して、国際商品市況の上昇の背景の1つに考えられることとして、先進国の金融緩和を挙げられていましたが、それが原因であることがより明確になった場合には、日本銀行の金融政策に対してどのような影響が出てくるのでしょうか。また、昨日アメリカの格付け会社のムーディーズが日本の国債の先行き見通しをネガティブに引き下げましたが、この理由等に関するご認識を伺いたいと思います。

§14Hirohide Yamaguchi

まず、昨今の国際商品市況の上昇について、先進国の金融緩和の影響があるのではないか、仮にそう受け止めていく場合には、日本銀行の金融政策に何らか影響が及ぶのかというご質問であったと思います。言うまでもなく、各国の金融政策は、各国の金融経済情勢を踏まえて、各国が独自に判断していくものです。従って、日本銀行の立場で言えば、我が国の経済の状況、金融環境を踏まえて政策を行っていくことが基本的な対応ですし、そのことは今後とも変わらないと思っています。ただ、先進国の金融緩和による資金が、投資資金として国際商品市場に流れ込むことによって国際商品市況の上昇を招いていると理解する場合には、我々自身も、その点を念頭において、日本経済の先行きを考え、物価の状況を展望しながら、政策運営を図っていかなければならないと思っています。先進国の金融緩和が、何らかのかたちでグローバルな影響を持つようになっていることについて、十分な理解をしたうえで、政策対応を図っていくということだと思っています。ただいずれにしても、日本の経済の状況、金融の状況を踏まえたうえで、適切と考える金融政策を行っていくことに尽きると思っています。それから、ムーディーズによる国債の格付け見通しの引き下げについての受け止め方ですが、既に、別の格付け会社が日本国債についての格下げを実施しています。

§15Hirohide Yamaguchi

その後の国債金利に与えるインパクトをみると、これまでのところ、特段大きな影響を持ったようにはみえません。昨日のムーディーズの発表も、その結果として、国債金利に対して大きなインパクトを与えたようには受け止めていません。ただ、そうは言っても、日本の財政状況が非常に厳しいところにきているのは間違いありません。従って、我々としては、今置かれている財政のポジションを少しでも早く改善するよう、取るべき手立てを講じていく必要があると改めて感じています。

§16Question

資源価格のことでお伺いします。先ほどの講演でも言われていたように、新興国や欧米で引き続きインフレ懸念が強まっている一方、日本の場合には輸入価格が上がってくることは理解できますが、現状でみると足許まで消費者物価指数がマイナスとなっており、日本銀行が中長期的にみている物価の安定の1%から随分離れていると思います。日本以外の諸外国におけるインフレ懸念の強まりが日本に対してどのようなインパクトがあると判断しているのでしょうか。特に、2008年にも原油価格が上昇して 142 ドル/バレルを超えた局面があり、その時の 7~9月に消費者物価指数が前年比+2%を超えた後はずっと低下してきていますが、足許の状況から、今後の日本への影響等についてどのようにみていますか。

§17Hirohide Yamaguchi

ご質問は、原油価格に絞って言えば、その上昇が日本の物価にどういう影響を与えると考えているかということだと思います。確かにご指摘の通り、2008年までの原油価格が上昇する局面において、日本の消費者物価指数も+2%台まで前年比の上昇率を高めていきました。その後、原油価格が反落する中で、日本の消費者物価指数が前年比マイナス 2.4%まで下落したことはご承知の通りです。従って、原油価格が今後とも上昇していけば、まずは輸入物価に上昇圧力が働き、それが国内の需要と供給の環境の中で、物価についてなにがしか上昇圧力が高まるというかたちで表れてくる可能性はあると思っています。ただ、今回考えておかなければならないのは、為替相場の状況です。足もとは 1 ドル 82 円台の相場になっていますが、為替相場は当時と比べれば円高方向で推移しています。そのことが原油価格上昇に伴う物価上昇圧力をある程度相殺していると思います。従って、原油価格の上昇と為替相場の状況、それから国内の需給バランスの状況、これらをトータルにみながら、今後どのようなかたちで日本の物価に影響が及んでいくのか、そのあたりを注意深くみていく必要があると思っています。

§18Question

国会情勢についてお伺いします。現在、予算関連法案の成立すら危ぶまれている状況です。予算関連法案が年度末でも成立しないという状況になった場合の仮定の話ですが、日本経済や市場に与える影響についてです。先ほどの財政再建に絡んで、政局が不安定化すれば、税と社会保障の一体改革も進まないといった状況になると思われますが、これが日本財政の信認に与える影響をどう考えるのかお聞かせ下さい。

§19Hirohide Yamaguchi

今の国会情勢について、新聞等で私なりに理解はしていますが、これが今後どのように展開するのか、そしてまたその結果として、政治的、経済的、財政的にどのような影響が及ぶのかについては、私の立場からコメントすることは差し控えたいと思います。

§20Question

午前中の講演の中で、物価の先行きに関して、消費者物価指数の基準改定もあり、デフレの脱却には紆余曲折がありそうだと仰っていましたが、この基準改定以外に「紆余曲折」の根拠となる見通しや材料があるのであれば教えていただきたいと思います。

§21Hirohide Yamaguchi

消費者物価指数の前年比のマイナス幅は縮小してきており、昨年12月については一時的な要素を取り除いて考えると、+ 0.1%まできています。こうした状況を踏まえて、今我々が頭に描いている景気展開からすると、消費者物価指数のマイナス幅縮小はさらに続くだろうとみています。そして 2012年度にかけて前年比プラスの世界に入っていくという見通しを立てているわけです。その限りにおいては、デフレ克服に向けて我が国経済が着実に歩を進めていることは、間違いないと思っています。ただ、そうは言っても、基準改定によって下方修正されるとなれば、そうした道のりが平坦なものではなく、デコボコした感じも表れてくるのではないかと思っています。そのあたりを念頭に置いたうえで、紆余曲折もありうると表現したということです。以上