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日本銀行記者会見2011年4月21日西村清彦, 副総裁

西村副総裁記者会見(2011年4月21日)要旨

全文

§1Question

地元の政財界の皆様と意見交換をされて、当地の地域経済の現状をどう評価されたか、特に当地は製造業など外需型の企業が多いわけですが、その特性を踏まえて、全国の中でどう位置付けられたか、また今後をどう展望されたかについてお伺いします。それから、本日の意見交換で印象に残った具体的な意見などがあれば、それも併せてお聞かせ下さい。

§2Kiyohiko Nishimura

まず、最初の質問である神奈川県の印象についてお話ししたいと思います。震災がありましたので、全体的な印象の話と震災の影響に関する話の 2つに分けてお話しします。全体的な印象として、特徴点は 2 つあると思います。神奈川県は、日本を代表する有数の生産拠点であるということ、それからもう 1 つは、首都圏の一部であり、大きな購買力を有しているということです。その意味で、存在感という点では、全国的にみて大きなものがあります。特徴の 1 点目についてみると、製造業において業種構造のバランスがよく取れていると思います。だからこそ、バランスがとれたかたちで、生産活動がきわめて活発である、ということになります。それから、横浜市、川崎市、相模原市という 3 つの政令指定都市を中心に人口の増加が続いている点が、神奈川県の大きな特徴だと思います。製造業の集積に関しては、裾野の広い自動車とか、一般機械や電気機械といった加工業種から、化学や鉄鋼といった素材業種まで、バランスが取れており、底が深いため、色々なショックに対する耐性が十分にあると感じています。ただ近年、県内の生産拠点が、県外に流出したり、海外に流出したりして、生産規模を縮小する動きが目立っていることは確かであり、それは 1 つの懸念材料であると思います。

§3Kiyohiko Nishimura

それに代わって、先端技術の研究施設が増えていて、産業の競争力向上を担う戦略的な拠点、いわば知的な拠点というものが増えているということが重要な点だと思います。近年の新たな企業集積については、神奈川県や各地方公共団体が積極的な役割を果たされている、ということも理解しております。特に、企業誘致策の「インベスト神奈川」――今日もこのお話が副知事からありましたけれども――が効果的に機能しているのではないかと思っています。それからもうひとつ、中小のベンチャーの方々の活動というものも、ウエイトが大きく、しかも強くて広がりがあると感じました。昨日、県内のベンチャーあるいは中小企業の経営者の方々と、意見交換をさせていただいたのですが、独自の技術やノウハウで勝負するとか、社会への貢献や環境への配慮といった、崇高な理念を掲げて積極的な経営をされている、とても元気のいいベンチャー企業があり、その裾野が広がっていると感じました。こういった方々が、色々なかたち――ビジネスマッチングというようなかたち――で広がりをもって、様々な需要を創出し、そしてその需要に対応する生産をしていくということが、少しずつですが軌道に乗りつつあるのではないかという印象を持ちました。いわば、点が線になり、線が面になっていくといったかたちで広がっていくという期待を抱かせるような意見交換でした。

§4Kiyohiko Nishimura

また、少子高齢化の進展などがありますので、企業や家計のニーズの変化をうまく捉えるということがきわめて難しいのですが、これについてはネットワークの中での情報交換がなされているということが重要です。その意味で、金融機関の役割も大きいわけですが、実際にそういった情報交換がうまく行なわれているように思いました。次に、震災の影響についてお話しします。当地は震災の影響は比較的小さかったとはいっても、人的な被害や、建物や設備に対する被害もあったわけです。ただ全体としてみるならば、震災の直接的な被害よりも、電力の制約やサプライチェーンの問題といった間接的な被害の方が大きく、特に中小企業の今後の資金繰りや設備投資を含めた将来の計画に関する不安の声に対して、きちんとした目配りをしていただきたいという議論がありました。ご質問の 2 点目ですが、意見交換の場で印象に残ったのは、震災の影響と、それに対してどういう対応を各出席者の方がなされてきたか、ということについてです。これは、産業が集積し、生産がきわめて重要な役割を果たしている当地の問題でもありますし、それと同時に日本全体の問題でもあります。特に、公務員の方々、企業の方々、一般の市民の皆さんそれぞれが、真っすぐに問題に取り組んで、そして、大変な努力と信念をもって立ち向かっておられるという、色々な事例を伺って、大変印象に残りました。

§5Kiyohiko Nishimura

神奈川県や横浜市は、被災地に対して大変な支援をされていることや、その具体的な内容についても伺いました。また生産の場で重要な点は、エネルギーの消費量を減らしながら生産は維持するということですが、それをどのように成し遂げるかについてのお考えや、それに対する行政の役割についても議論がありました。

§6Question

神奈川県の場合、箱根、鎌倉、横浜といった、国内有数の観光地がひしめいているわけですが、特に震災後、観光産業のダメージが大きいという話をよく聞きます。県内の観光・流通の状況を、他県――特に被害の少なかった西日本――に比べてどのようにみられているのか教えてください。

§7Kiyohiko Nishimura

その点については、懇談会の場でも話題に上りました。計画停電など、震災に関係する今後の問題は、どちらかといえば「モノを作る」という、わかりやすいところに話が及びがちなのですが、実は非製造業における打撃は、最初の時点では予想ができなかったくらい大きいことが判明しつつあると思います。箱根、横浜のホテルにおけるキャンセルの実情もお聞かせいただき、これは大変重要な問題だと感じています。非製造業に関しては、少なくともこの 1か月くらい、ある部分が悪くて他のところが良いという話ではなくて、ほとんど全面的に悪いという状態に陥ってしまっており、これに対しては、十分に注意してみていかなければならないと考えています。それと同時に、足許では少し良い動きも出てきている、というお話も伺いました。具体的には、5月の連休の予約状況をみると、僅かですが、それなりに戻りつつあるということのようです。ただ、やはり、風評被害といいますか、原発事故の影響もあり、特に海外からの来客の激減というものがきわめて大きなブローとして効いているというお話もありました。そういう意味で、きちんとした事実に基づいた対外発信をして、こうした風評被害を食い止めるということが重要であるというご意見も伺いました。

§8Question

2 点お伺いします。1 つは、先程の懇談会のご挨拶で、サプライチェーンの問題の解消に相応の時間がかかるとおっしゃいました。以前、白川総裁が「サプライチェーン問題の解消は 6~7月になろう」と会見で話されていましたが、それと比べて、同じくらいなのか、それより短いのか、長いのか、副総裁のイメージをお聞かせ下さい。もう 1 つは、今回の震災が、設備投資や個人消費を下押ししているというお話がありましたが、供給面の制約が和らいでくれば、それは解消される問題なのか、あるいはそれだけでは解決されず、リスクとしてみていく必要があるのかについてお聞かせ下さい。

§9Kiyohiko Nishimura

両方とも不確実性がきわめて高い、と最初にお答えしなければならないと思います。サプライチェーンの問題について、秋口以降に供給面の制約が和らいでいくというお話をしましたが、それは電力とサプライチェーンと両方を合わせて考えて、そう申し上げたわけです。サプライチェーンに関しては、一部でそれなりに前向きの動きもあります。しかし同時に、サプライチェーンの他のところで問題が生じているということもありえますので、サプライチェーン全体に関して、この段階で何か明快なことを言うということは出来ないと思います。いずれにしても、総裁が以前申し上げた認識から、大勢としては大きな変化はない、と考えています。それから、供給面の制約と需要面の下押しについてですが、需要が供給に影響されているということもありますので、必ずしも分けて考えることはできないと思っています。このように考えれば、供給面の制約が少なくなっていくにつれて、需要面の問題もそれなりに解消していくだろうと思います。しかし、懇談会冒頭の挨拶でも申し上げましたが、風評被害などが中長期的な成長期待に影響を及ぼす可能性もありますので、全体としてどうなるかについては、今の段階では、非常に不確実性が高いとだけお答えしたいと思います。

§10Question

サプライチェーン関連の質問ですが、日本経済に影響の大きい自動車産業について、生産水準が通常の水準に戻る目処は、ご挨拶の中にあった秋口以降とみるべきなのでしょうか。自動車を中心とした輸出への影響、すなわち、貿易収支や経常収支への今後の影響、そうした面でのリスクについて、ご見解をお願いします。

§11Kiyohiko Nishimura

これだけ大規模に、かつ、見えにくいかたちでサプライチェーンの問題が生じたということは、おそらく初めてだと思います。サプライチェーン・マネジメントの考えが生まれて、普及・一般化したのは、おおよそこの7~8年から 10年くらいのことだったわけです。今回のサプライチェーンの問題における本当の影響を、現段階で定量的に、かつ時間を区切ったかたちできちんと把握することはきわめて難しいと思います。サプライチェーンの問題は、あるところにボトルネックがあり、そのボトルネックさえ解消すればスムーズに流れるかというと、実はそうではありません。サプライチェーンというのはネットワークになっているので、ネットワークの中で違う部分が次にボトルネックになったりすることもあるからです。そういうボトルネックを今一つ一つ確認して調整しているという状況ですので、そうした意味で、おおよそサプライチェーンに関してある種の回復を期待できるのが 6月から 7月だろうという総裁の先日の説明は依然として妥当なものだと思います。ただ、全ての産業について明確にきちんとそういうことが申し上げられるかというと、必ずしもそうではないわけです。

§12Kiyohiko Nishimura

特に自動車のように複雑で、3~3.5 万点という部品があり、その部品の一つ一つが様々なカスタマイゼーション・エレクトロニクスを土台としているような場合には、自動車産業がどうだという明快なお答えはできないだろうと思います。ただ、概していえることは、1 つは、不確実性は依然として高く先行きの見通しは難しいということ。もう 1 つは、サプライチェーンの点と線が上手くつながり始めると、比較的早く終わる可能性もあるということです。そういう意味で 6、7月頃からサプライチェーンの回復が起こるとするならば、そして電力の問題も夏場を過ぎて相応に落ち着きをみせるとするならば、全体として、秋口から回復する蓋然性は高いだろうと思います。輸出への影響は、これも様々な問題が絡んでくるので必ずしも明快にはお答えできません。日本のメーカーと日本の現地子会社との関係、現地の会社と日本のサプライヤーとの関係といったものが複雑に絡んできます。そうした意味で単純には申し上げられませんが、概していえば、サプライチェーンにある程度回復の目処が立ち始める頃には、輸出に関しても、ある程度の回復の目処が見えてくると考えるのが自然だと思います。ただし、1 つ注意しなければならないのは、サプライチェーンの再構築という場合、全く同じものを作り直すというわけではなく、再構築の中で、様々な合理化・複線化の動きが出てくるということです。

§13Kiyohiko Nishimura

特に、再構築までの時間が延びれば延びるほどそうした動きが出てきます。その点を踏まえると、日本の輸出が違ったかたちになって現れてくるという可能性もあり得ると思います。

§14Question

ただいまおっしゃった、合理化・複線化までの時間が延びる場合の影響についてですが、それは、グローバルなサプライチェーンから、日本メーカーが外されるリスクが高まるということですか。

§15Kiyohiko Nishimura

リスクというのは常にありますので、それを否定するわけではありませんが、しかし、グローバル・サプライヤーの中でも日本の特にオンリーワンの製品を作っている企業は技術力の高さもあり、仮に代替品が現れたとしても、その代替品の耐久性・信頼性に問題がある場合には、その脅威は相対的に小さいと思います。ただし、日本のサプライヤーが新しく自社のサプライチェーンを作る、もしくは、世界的なサプライチェーンの中での自社の位置を再確認する、というような場合には、以前と全く同じようなかたちで作ったり再確認したりすることはありませんので、その意味でサプライチェーンに変化が生じます。その変化が、日本の輸出構造に変化をもたらす――製品別にみた場合の輸出構造が変化する――ことは十分にあり得ると思います。

§16Question

ただいま、日本の輸出構造に変化が出てくるのではないかとの副総裁のお話がありました。現在も、県内のサプライヤーは競争力を高めるために、生産コストの安い県外や国外へと拠点のシフトを加速させています。今回の震災を受けて今後も加速させていくとなると、県内経済が一段と空洞化していくという懸念が出てくるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

§17Kiyohiko Nishimura

これについては、日本経済が今どういう世界経済の中にいるかということも考えなければいけないわけです。世界経済で今何が起こっているかというと、各地でインフレ懸念が生じています。賃金が高くなっていますし、賃金以外のコストも高くなっています。特にフリンジ・ベネフィットも高くなっているなど、トータルな賃金コストが高くなっています。それと同時に、流通のコスト、エネルギーのコスト等、様々なコストも高くなっているわけです。そうした中でこの震災が起こったということは、企業も自分たちを取り巻くサプライチェーンの変更を考える場合に、このグローバルな変化と、今わが国で起こっている変化とを両天秤に掛けながら、その中で企業にとって、動学的に最適な方法をみつけていく必要が出てきたということだと思います。その意味で、仮に震災がグレート・モデレーション(大いなる安定)の時期に起こったとすれば、今回のケースと随分違った様相になったのだろうと思います。

§18Question

冒頭でお話があった、観光等の個人消費への影響ですが、今のところ、震災を受けて一時的に景況感が悪化して購買意欲も冷えていますが、これは一時的なもので終わるのでしょうか、それとも暫く続くものなのでしょうか。今のところは供給ショックを契機として経済全体に影響が及んでいますが、需要もどんどん落ちていく惧れが高いのかどうかについて、お伺いします。

§19Kiyohiko Nishimura

その点については、懇談会の挨拶でも触れましたが、不確実性が高いとしか申し上げられないところがあります。まだ、福島第一原発の事故は現在進行形です。これがどのようなかたちで需要構造に影響してくるのか、特に原子力発電に対しての人々の寛容度がどう変化していくのかといったことは、長期的にみれば、当然、電力の供給能力の問題とも絡んできますし、それはいわばサービス産業がどのように付加価値を生み出していくのかという問題とも絡んできます。また、それと絡んで人々の購買・消費行動が変化する可能性もあります。これには、悪い方向だけでなく、良い方向、つまりエネルギー効率を高めながらの消費行動という方向もあるかもしれません。いずれにしても現在進行形であり、定量的な評価は難しい状況だと思います。電力を含めた供給能力の喪失によって、需要側にも大きな転換が迫られていますので、この 2 つの動きがどうなっていくかが、先行きを見通す上での重要な論点だと思います。これについては、不確実性が高いとしか、残念ながら申し上げられません。

§20Question

懇談会のご挨拶を伺って、下振れの可能性や不確実性の大きさといったことが印象に残りました。3月11日以降、需給両面において不確実性が大きく、経営者や一般の人々のマインドも影響を受けている状況にありますが、震災以前の回復メカニズムに戻るのか、それとも回復メカニズムが止まる、もしくは今後反対方向に動くのかについて、ご意見をお伺いします。

§21Kiyohiko Nishimura

回復メカニズムという点については、本日の挨拶の中でご説明したとおりです。3月14日の金融政策決定会合の時点では、震災の影響を予測して対応したわけですが、現在の状況は、ある意味ではその当時予測していた状況に近付いてきています。今後のことについては、震災の影響を受けているところ以外の外部的な環境、特に海外経済に関しては、不確実性は残っていますが、震災の前後で環境が大きく変わったわけではないと考えています。したがって、今の状況をきわめて短く申し上げると、今日お話したこの見方というものが、現時点で私が考えている最も分かりやすい説明だと考えています。当然のことですが、来週には展望レポートが公表されますので、それに向けて、各審議委員が、現状のデータやヒアリング情報をふまえて、回復メカニズムを含め検討を行い、まとめていくことになります。以上