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日本銀行記者会見2011年5月20日白川方明, 総裁

総裁定例記者会見(2011年5月20日)要旨

全文

§1Question

本日の決定会合の結果について、ポイントをご説明下さい。

§2Masaaki Shirakawa

本日の決定会合では、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」というこれまでの金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。こうした決定の背景となる経済・物価情勢についてご説明します。まず、景気の現状については、先月と同様、「震災の影響により、生産面を中心に下押し圧力の強い状態にある」と判断しました。今回の震災の影響で、資本設備の毀損、サプライチェーンにおける障害、電力不足の問題などが生じており、こうした供給面の制約を背景に、生産活動は大きく低下しています。海外経済は高成長を続けていますが、供給面の制約の結果、輸出も大幅に減少しており、とりわけ、サプライチェーンの毀損の影響が大きい自動車関連の減少幅が大きくなっています。また、こうした供給制約による要因と重なりあう部分もありますが、震災後の企業や家計のマインド悪化もあって、個人消費などの国内民間需要も弱い動きとなっています。これらの点は、昨日公表された1~3月期のGDP成長率が、前期比年率-3.7%と、2年振りの大幅なマイナスとなったことにも表れています。この間、金融環境をみると、コールレートがきわめて低い水準で推移する中で、企業の資金調達コストは、低下傾向が続いています。企業からみた金融機関の貸出態度は、改善傾向が続いています。CP市場では、良好な発行環境が続いています。

§3Masaaki Shirakawa

社債市場では、震災後、発行を見送る動きが一時みられましたが、このところ徐々に発行が再開され始めています。こうした中、企業の資金繰りをみると、総じてみれば、改善した状態にありますが、震災後、中小企業を中心に一部で資金繰りが厳しくなったとする先がみられています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、下落幅が縮小を続け、概ねゼロ%となっています。特に、高校授業料の無償化等の影響を除いてみると、前年比が小幅のプラスとなっています。先行きの見通しは、前回決定会合後に公表した4月の展望レポートで示した中心的な見通しから変わっていません。すなわち、わが国経済は、当面、生産面を中心に下押し圧力が強い状態が続いた後、供給面での制約が和らぎ、生産活動が回復していくにつれ、海外経済の改善を背景とする輸出の増加や、資本ストックの復元に向けた需要の顕現化などから、2011年度後半以降、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。物価面では、消費者物価の前年比は、小幅のプラスに転じていくとみられます。いつも申し上げているように、本年8月に消費者物価指数の基準改定が予定されており、前年比計数が下方改定される可能性が高いことは認識しています。以上を踏まえると、日本経済は、やや長い目でみれば、物価安定のもとでの持続的な成長経路に復していくと考えられます。次に、リスク要因についてご説明します。

§4Masaaki Shirakawa

景気面では、震災がわが国経済に及ぼす影響について、供給面での制約が解消する時期や、毀損した資本ストックの復元の時期と規模などに、大きな不確実性があります。海外経済については、旺盛な内需や海外からの資本流入を受けて、新興国・資源国の経済が上振れる可能性があります。これらの国の多くでは、金融引き締めの動きが続いていますが、景気の過熱感やインフレ懸念が十分に沈静化されていません。一方、米欧経済をみると、米国については、バランスシート調整が経済に与える影響には、引き続き注意が必要です。欧州については、周縁国の国債利回りの対ドイツ国債とのスプレッドが既往最高水準で高止まるなど、不安定な動きを続けており、ソブリンリスク問題の帰趨を引き続き注視していく必要があります。この間、国際商品市況の上昇については、その背景にある新興国・資源国の高成長が輸出の増加につながる一方、交易条件の悪化に伴う実質購買力の低下が国内民間需要を下押しする面もあります。このように、様々な上振れ、下振れの可能性がありますが、当面は、震災の影響を中心に、下振れリスクを意識する必要があります。物価面では、国際商品市況の一段の上昇により、わが国の物価が上振れる可能性がある一方で、中長期的な予想物価上昇率の低下などによる下振れリスクもあるとみています。

§5Masaaki Shirakawa

日本銀行は、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰するために、包括的な金融緩和政策を通じた強力な金融緩和の推進、金融市場の安定確保、成長基盤強化の支援という3 つの措置を通じて、中央銀行としての貢献を粘り強く続けていきます。また、先般導入した「被災地金融機関を支援するための資金供給オペレーション」の第1 回目の入札が行われ、23日に初回貸付を行う予定です。今後とも、震災の影響を始め、先行きの経済・物価動向を注意深く点検した上で、必要と判断される場合には、適切な措置を講じていく方針です。

§6Question

現在のサプライチェーンの動向や、浜岡原発の停止を含む原発問題を踏まえて、前回会合以降、供給制約の見通しがどのように変化したのかお伺いします。

§7Masaaki Shirakawa

このところ、自動車メーカーなどから、一頃の予想に比べて生産の増加が前倒しで実行できる、との見通しが出されています。また、夏場の電力供給についても、一時心配されていたほどの深刻な事態にはならない、という見方が強まってきているように思います。これらは、大変心強い変化であると受け止めています。もっとも、日本銀行の展望レポートにおいては、当初から、そうした関係者の努力や工夫をある程度織り込みながら、見通しを立てていました。従って、現時点においても、供給制約の解消に向けた動きは、概ね私どもの展望レポートの見方に沿って進んでいるとみており、秋口以降、供給面の制約が全体として和らいでいくと考えています。以上に関連して、この間の具体的な動きや、それらから感じられたことについて、少しばかり申し上げたいと思います。震災直後から、多くの企業は、被災設備の復旧とともに、代替施設での生産や代替調達先確保などに、全力を挙げて取り組んでおられます。企業間でも応援要員の派遣や同業他社の生産を一時的に肩代わりするなど、様々な努力と工夫が行われています。実際、止まっていた生産を再開する動きは、着実に拡がってきています。この面では、日本企業の高いいわゆる「現場力」が発揮されていると思います。

§8Masaaki Shirakawa

また、電力供給面での制約についても、電力会社の供給力増強の努力が続いているほか、企業も自家発電の活用、生産の平準化、生産拠点の分散化等の取り組みを進めています。夏場の電力供給面からの制約の度合いは、当初の懸念に比べれば和らぐことが期待されていますが、このことは、国民全体として節電への意識を高め、様々な工夫や努力を重ねていることの現れであると思います。ただし、電力の需給については、この夏場は今申し上げた通りですが、やや長い目でみると、楽観できる状況ではないと思っています。浜岡原発を巡る情勢等を踏まえると、各地の原子力発電所の、定期点検後の運転再開などを巡っては、不確実性がむしろ幾分増しているようにも感じられます。こうしたことが先行きの経済活動に与える影響については、日本銀行として、予断を持たずにみていく必要があると考えています。

§9Question

総裁は、国会などで、被災地の復興段階に応じた支援策の検討が必要だとの趣旨の発言をされていますが、日銀としてどのような対応を念頭に置いているのでしょうか。

§10Masaaki Shirakawa

ご質問にお答えする前に、被災地金融機関支援のための資金供給オペレーションについて一言申し上げます。復興に向けて本格的な資金需要が出てくるのは、もう少し後になると思います。しかし、早めにできることは、なるべく早くから取り組むに越したことはないという思いから、日本銀行は、既に被災地金融機関の初期対応を支援する資金供給オペレーションなどを実施しています。先行き、復興に向けた企業等の取り組みが本格化していく局面では、復興資金需要の出方に加え、それらに対する民間金融機関の取り組みや、政府等による支援の状況も踏まえつつ、中央銀行としての適切な対応を検討していく方針であるという趣旨のことを国会で申し上げました。その際、震災からの復興という課題は、わが国経済の趨勢的な成長力の低下への対応という積年の課題とも重なる面があります。これを契機に成長力強化をどのように図っていくかを検討することも大事であると考えています。こうした問題意識も念頭に置きつつ、日本銀行の支店や事務所を通じて被災地の実情を十分に把握していきたいと考えています。

§11Question

先程、電力制約の問題について総裁がおっしゃった通り、今、原発の定期検査が終わって、政府がゴーサインを出したにも拘わらず、地元の理解が得られずに原発が動いていない事例があります。九州電力がまさにそうですが、電力制約の問題は、このように全国に広がる情勢になりつつあると思います。これが、先程おっしゃっていた、秋口以降は供給面の制約が和らいでいき、その後、11年度後半から回復経路に復していく、というシナリオを後ずれさせるような要因になるかどうか、どのようにご覧になっていますか。

§12Masaaki Shirakawa

先程申し上げた通り、私どもが当初一番懸念していた夏場の電力不足については、全体として一頃懸念した程ではなくなりつつあります。これはポジティブなニュースです。一方、少し長い目でみた場合に、ご質問の、他の原発への影響をどう考えるかが1つの大きな論点です。この点については、先程、不確実性が従来に比べると増しているように感じられる、と申し上げました。ただ、これが今後どういう展開を辿っていくかについては、日本銀行は専門家ではありませんし、色々な要素に依存すると思いますので、日本銀行としてはこれを1つの不確実性、リスク要因として認識しながら、経済の状況を点検していくということだと思います。

§13Question

2 点伺います。1 つ目は、本日、東京電力が、午後 3 時半だと思うのですが、決算を発表して、おそらく1 兆円以上の大きな赤字を発表していると思います。東京電力の財務基盤の問題の観点から、今後の電力の安定供給に懸念が出てきているとの見方も拡がっているのですが、この点について総裁の見解をお伺いします。2 つ目は、先週、枝野官房長官が東京電力の賠償スキームについて、金融機関の東京電力に対する債権放棄が前提であるという認識を示されて、色々と議論になっています。この点について総裁のご見解をお伺いします。

§14Masaaki Shirakawa

東京電力という一企業の決算内容についてコメントすることは適切ではないと思いますので、ここでは、今回の東京電力の賠償支援の枠組みについて、中央銀行の立場からどのようにみているのかという観点からお答えすることにしたいと思います。今般、政府の関係閣僚会合において決定された賠償支援の枠組みは、公表文にもある通り、被害者への迅速かつ適切な賠償の支払いと電力の安定供給の確保を図りつつ、金融市場の安定を確保しようとするものであると理解しています。私は、原発問題の専門家ではもちろんありませんので、あくまでも中央銀行総裁として金融市場の安定という観点から申し上げると、東京電力の社債の発行残高は約 5 兆円と大きく、また、社債市場におけるプライシングのベンチマーク機能を果たしてきているという面もあります。また、多くの金融機関が東京電力に対して貸付けを行っているほか、東京電力の株式や社債は幅広く保有されています。こうした状況を踏まえると、賠償支援の枠組みの如何が金融市場に与える影響は非常に大きいと考えています。この点、今回公表された賠償支援の枠組みによって、株式や社債の扱いを含め、基本的な方向性が示されたことは意義のある前進であったと受け止めています。もちろん、今般発表された内容は、あくまでも骨格の段階であり、今後、具体的な肉付けがなされていくものと承知しています。

§15Masaaki Shirakawa

その際、先程の 3つの目的の 1 つである金融市場の安定確保は、最終的に、被害者への迅速かつ適切な損害賠償の支払いや電力の安定供給の確保という目的を達成していく上でも重要であり、この点も十分念頭に置いて具体化されていくことを希望しています。次のご質問ですが、私は、官房長官のご発言をその場で聞いているわけではありませんので、官房長官の発言自体についてコメントすることは差し控えたいと思います。債権放棄についてどう考えるのかということですが、今般決定された賠償支援の枠組みでは、東京電力が全てのステークホルダーに協力を求めることが前提とされています。ただし、金融機関の具体的な対応については、金融機関と東京電力との間で決まってくるものと理解しており、私の立場から具体的なコメントを申し上げることは差し控えたいと思います。その上で一般論として申し上げると、先程の話とも重なりますが、この賠償支援の枠組みでは、被害者への迅速かつ適切な損害賠償の支払いや電力の安定供給の確保がその目的として掲げられています。それを実現するためにも、金融市場の安定を図りつつ、直接の当事者である金融機関と東京電力の話し合いを通じて、安定的な資金供給が維持されるということは重要だと思っています。今後、こうした点を意識しながら、関係者間で適切な対応が採られていくことを期待しています。

§16Question

新興国経済と最近の国際商品市況の関係について伺います。インフレ懸念等から、新興国では金融引き締め政策をやっています。インフレ懸念が減速すること自体は望ましいと思うのですが、先行きをみた場合、世界経済を引っ張ってきた新興国経済が減速することによって世界経済の回復が影響を受けるのでしょうか。また、最近、国際商品市況の一部で相場上昇に一服感があると思うのですが、その背景は新興国経済の減速なのか、金融引き締めの影響なのか、国際商品市況価格の最近の動きの背景と新興国の関係について教えてください。

§17Masaaki Shirakawa

まず1 点目ですが、新興国経済は非常に高い成長を続けています。高い成長率はそれ自体としては望ましいようにみえますが、持続可能なレベルを超えて高い成長が続くと、必ずその後は反動が来るわけです。そうした意味で、新興国の中央銀行において、金融政策の修正を通じて持続性のある成長を実現していくという基本的な方向に沿って政策効果が表れていくことは、基本的には望ましいことだと思っています。2 点目の国際商品市況上昇の背景ですが、基本的に一番大きな要因は、資源を多く消費する新興国経済が高い成長を続けている結果、需要が増大してきているということです。また、商品毎に事情は異なりますが、政治情勢等、地政学的な要因で供給面の不安や制約が出てくる――例えば原油が典型です――ということが 2 つ目の要因です。3 つ目の要因として、世界全体としての金融緩和、あるいは金融緩和の修正の遅れといったことも影響していると思います。どの要因を一番重視するかは、もちろん論者によって意見は違いますが、基本的な要因が世界経済――なかんずく新興国経済――の拡大であるという点については意見の差はないように思います。足許の国際商品市況の動きについては、新興国経済の成長率が幾分減速しているという解釈ももちろん 1 つにはあると思います。また、幾つかの商品で証拠金率の引き上げが図られました。

§18Masaaki Shirakawa

最近の商品市況の上昇は非常に大きかったわけですから、証拠金率の引き上げを機にその自然な修正が起きたという解釈もあり得ます。実際、ここ数週間の国際商品市況の上昇と下落の関係を商品毎にみてみると、直前の上昇が大きかった商品ほど下落が大きいという関係が見て取れます。これは、今申し上げた解釈を裏付けるものだと思います。いずれにしても、両方の要因がどう効いているのかという点については、今後も丹念に点検していきたいと思っています。

§19Question

先程の債権放棄の話で、関係者間で話し合って適切に対応していくことが大事であるとおっしゃっていましたが、つまり、民と民の取引のことは民間同士で、という理解でよろしいでしょうか。

§20Masaaki Shirakawa

市場経済における取引のあり方について、というご質問かと思います。直接金融であれ、間接金融であれ、その担い手が取引条件の安定性に不安を抱くようでは、円滑な金融取引の成立を確保することは難しいと思います。この点は、今回の賠償支援の枠組みに限らず、金融が関わる形で必要な政策を立案・実行していく上で、大変重要な点であると思います。

§21Question

震災後の景気下押し圧力については、基本的には供給ショックに起因するというご説明だと思います。そうした中、震災による物価への影響について日本銀行の方に伺うと、「供給と需要の双方が下方シフトしているので、物価はどうなるのか分からない」という説明をされる方が多いようです。これは、需要も供給ショック並みに大きく下がっているという認識なのでしょうか。また、秋口にかけての供給制約の解消とともに、需要もほぼ同じパスを辿って回復するとみるべきなのか、あるいは、そこはかなり時間がかかるかもしれないともう少し慎重にみるべきなのか、ご見解をお願いします。

§22Masaaki Shirakawa

現在、経済・物価の面で生じていることは、基本的には、突然の供給制約であって、そのもとで需要が低下しているということです。その意味で、大きく捉えた場合には、供給も減り、需要も減るということです。しかし、個々の財やサービスによって需給のバランスが異なっていますし、ボトルネック的な状況が生じている場合もあると思います。また、これは日本の震災と直接関係しているわけではありませんが、国際商品市況が上昇している中で、コスト面から上昇圧力がかかってくるわけです。そうしたことも考え合わせた結果、私どもの物価見通しとしては、4月の展望レポートでお示ししたように、上方修正を行った――大幅な上方修正ではなく、小幅な上方修正ですが――ということです。供給制約が解消した後の需給バランスについてですが、この場合は供給も増え、需要も増えるということです。その意味では、基調的な需給バランスがどうなっていくかは、本来の需要、つまり、世界経済の成長に牽引されて日本の景気が改善を遂げていくという基本的な判断が妥当していくのかどうかに大きくかかってくると思います。

§23Question

IMFの専務理事が不祥事で辞めることになりましたが、日本銀行が本日公表した「当面の金融政策運営について」にも書かれている通り、現在、欧州のソブリン問題が非常に微妙な時期です。悪い影響を与える懸念はないのでしょうか。

§24Masaaki Shirakawa

IMFの専務理事が、日本時間の昨日、辞任届を理事会に提出し、この後、後任の専務理事を選ぶプロセスが始まります。出来るだけ早く、適任の専務理事が就任されることを願っています。ギリシャ問題を初めとする、現在の様々なソブリンリスク問題に対して悪影響はないのか、というご質問ですが、IMFも個人ではなく組織として仕事を行っており、また、専務理事は執行の責任者ではありますが、IMFのガバナンスは理事会で決定しています。IMFも専務理事代行のもとで、悪影響が生じないようにしっかりと仕事を行っていくと思いますし、今回の辞任如何によって変わることなく、関係する当事国もしっかりとこの問題に取り組んでいく必要があると思います。

§25Question

今回、西村副総裁は、追加緩和である基金増額の提案を行わなかったと思います。これは、先程総裁がおっしゃった夏場の電力供給が少し良くなるということ、あるいは生産回復の前倒しがあるということと関係があるのか否か、何かご意見をおっしゃっていたのでしょうか。

§26Masaaki Shirakawa

西村副総裁の詳しいご意見の内容については議事要旨を見て頂きたいと思います。今回の会合で決定した経済・物価の見通しとリスク評価は先程ご説明した通りです。西村副総裁もこうした見通しとリスク評価を共有されています。そうした情勢判断を踏まえて、今回、基金増額の議案を提出されなかったと認識しています。

§27Question

2 点伺います。まず、先程の国際商品市況の話とも絡みますが、6月末で米国のQE2が終了します。それ以降、マネーの動きは変わるのでしょうか。変わるとすればどのような世界が待ち受けているのか、ご意見をお聞かせ下さい。もう1 点は、昨日までに、武田薬品と東芝が海外企業の大型M&Aを決めました。個別企業として評価する声がある一方、マクロ経済的にみた場合に日本経済の空洞化を懸念する指摘もあります。今後、日本企業による海外M&Aが続いた場合、日本経済にとってのプラス面とマイナス面としてどのようなものが考えられるのか教えて下さい。

§28Masaaki Shirakawa

まず、6月末でQE2が終わることに伴う影響についてのご質問です。ご質問では「マネー」という言葉で表現されましたが、今回のQE2の効果は、かならずしもマネーサプライに対するものではなかったと思っています。FRB自身、QE2で中央銀行のバランスシート、マネタリーベース、あるいはマネーサプライが量的に拡大すること自体が金融緩和の効果を生むものではない、と繰り返し強調しています。従って、「マネー」というターム(用語)でこの問題を議論することが良いのかどうか私自身も少し疑問を持っています。ただ、いずれにせよ、昨年秋に金融緩和策を強化していく、現在の低金利をさらに続けていくという決定をした中で踏み出したQE2をここで終了することが、将来の金利政策へ与える意味をどう考えるのかがポイントだと思います。今回のFOMCの議事要旨で、今直ちにエグジットするのではないが、エグジットを行っていく上での様々な技術的な論点についての検討結果を公表しています。まず残高を維持し、その後どこかの段階で残高を落としていくということですが、金利をどの段階で引き上げていくのかが世界の経済・金融市場に与える影響をみていく上でのポイントだと思います。2 つ目のM&Aに関するご質問ですが、昨年の夏、円高が進んでいく局面で円高のメリット・デメリットに関する色々なご質問をこの席でも頂戴しました。

§29Masaaki Shirakawa

短期的には円高は輸出を中心に景気の下押し圧力になる、しかし長い目でみると日本の交易条件の改善を通じて、あるいは海外の資産をより安く買えるということで、必ず日本経済にプラスをもたらし得るものだと、時間的長さを区別しながら円高のメリット・デメリットを考えていく必要があると申し上げました。足許、企業による大型の買収案件が進んでいる背景の幾つかの要因の1つとして、円高も存在していると思います。日本国内の貯蓄は、高齢化が進行するもとで――他の条件が同一であれば――減っていきます。それだけに国内の貯蓄を有効に使っていくことが大事です。また、日本の企業が自分の得意な分野を活かしながら、最大限どこでどのようにそれを発揮できるのかを考えた場合に、 M&Aは大事な戦略だと思います。個々の企業の動きについてコメントする立場にはありませんが、日本の企業が全体としてM&Aにしっかりと取り組んでいくことは大変望ましい動きだと思っています。過去にも、プラザ合意以降ずっと空洞化についての議論がありました。しかし、これは必ずしも「空洞化」と捉えるべきものではなく、日本の企業にとって最適な国際分業の枠組みを追求していく中で、個別企業としてはM&Aという選択肢もあり得るということだと思います。

§30Question

今、空洞化についてのお話しがありました。大震災後に供給制約が発生するなかで、生産拠点を西日本にシフト、もしくは海外にシフトするという可能性が指摘されており、実は多くの企業がそのような検討を始めているという動きが表面化しつつあると思います。また、原発の補償のために電気料金も上がるかもしれないと言われています。このような中で、企業、特に製造業が海外に出ていく可能性が高まっているのではないかと一部で指摘されており、そうすると、当然ながら国内の雇用にも影響が出てきてしまいます。この場合、日本銀行がいつも心配している中長期的な成長力に影響が出かねないと思いますが、この点について総裁はどのようにお考えなのでしょうか。また、中長期的に日本銀行として何か政策を真剣にお考えになるような方向性にあるのか、お聞かせ下さい。

§31Masaaki Shirakawa

震災後の電力不足や原発の問題等を受け、国内の空洞化が進む形で国内生産拠点の海外シフトが加速しないかどうかという点については注意が必要だと考えています。先程のご質問に対する答えと多少重なりますが、日本の製造業は震災以前から、海外生産比率を趨勢的に高めてきましたが、これは、基本的には国際的な分業を高度化する動きの一環と捉えることができます。実際、海外経済が拡大する局面では、設備投資は海外・国内両方で増加する傾向があり、その過程において、国内では他国に容易に真似できない新たな技術や製品が生み出されてきました。このように、国内ならではの「ものづくり」が維持されてきたからこそ、今回の震災でも、自動車やエレクトロニクスの分野を中心に、日本が提供する部品や素材のグローバル・サプライチェーンにおける重要性が改めて確認されたと思います。日本企業には、これからも、こうした底力を発揮していくことを大いに期待したいと思います。もちろん、企業の技術革新や市場開拓の力を促すようなビジネス環境を整備していくことも、日本経済の成長力を強化するという観点から震災前においても重要な課題でした。今回の震災により、そうした根源的な問題への取り組みは一段と重要になってきていると考えています。

§32Masaaki Shirakawa

こうした日本経済のビジネスの環境自体について、中央銀行の力で何か変えていくということはできませんが、日本銀行としてできることとして、現在、日本経済が直面している問題の本質は何なのかということについて正確な情報発信をこれからも行っていきたいと思っています。

§33Question

前々回の決定会合の議事要旨の中で、東京電力債の問題があっても、社債マーケットは、新たなベンチマークをおのずから模索する機能がある、という趣旨の発言がある委員からありました。今後、東京電力の動向は予断を許さない状況ですが、仮に、社債の全面的な債権カットや、株主に対し大幅な負担を求めることがある場合、マーケットへの影響をどのようにみておられますか。金融市場への影響が大き過ぎるとして今回のスキームが立案されたとも聞いていますが、そもそも too big to fail (大き過ぎて潰せない)ということを一民間企業に適用することが適切なのかという議論もあると思います。ご見解をお願いします。

§34Masaaki Shirakawa

今回の原発の問題は色々な側面があります。賠償支援のスキームについても、賠償金の支払い、電力の安定供給、金融市場の安定という3 つの点が挙げられています。従って、中央銀行の総裁として、金融という立場だけから、この問題を全て律し切ることは難しいように思います。ただ、金融に責任を持つ立場からこの問題を考えた場合、どのような論点かあるかは、先程、多少丁寧に説明したつもりです。今、「仮に」とのご質問がありましたが、仮定の質問にお答えするのは適切ではないと思います。大切なのは、被害者への迅速かつ適切な損害賠償の支払いや、電力の安定供給の確保という目的を実現するためにも、直接の当事者である金融機関と東京電力の話し合いを通じて、安定的な資金供給が維持されるということだと思います。こうした点を意識しながら、関係者間で適切な対応がとられることを期待していることを、もう一度申し上げます。以上