← 戻る
日本銀行記者会見2011年6月2日

中村審議委員記者会見(2011年6月2日)要旨

全文

§1Question

本日の金融経済懇談会では、地元経済界の方々とどのような意見交換がなされたのか、また奈良県経済の現状についてどのような認識を持たれたのかお伺いします。

§2

本日の懇談では、奈良県経済について、震災の影響を指摘する声が尐なからず聞かれました。例えば、主要産業の観光に関し、昨年の平城遷都1300年祭の成功により上昇ムードが盛り上がったものの、震災の影響を受けて海外からのインバウンド観光の落ち込みが顕著であるといった厳しい声が聞かれました。また、製造業や建設業等において、サプライチェーンの寸断等を背景に、資材調達面で影響を受けていることや、消費者マインドの低下を背景とした消費財関連産業の厳しさを指摘する声も聞かれました。さらに、最近の為替相場動向に関する発言もありました。こうした状況下、中小企業を中心に、雇用、収益環境等が厳しさを増しており、企業マインドの下振れを懸念する声も尐なからず聞かれました。こうした中、県経済景気動向のフロー面での議論のほかに、「奈良県経済をより構造的に分析・把握することが重要である」という主旨の発言もありました。もっとも、そうした中にあって、大阪・京都といった大都市へのアクセスが大変便利で、大都市圏近傍にありながらも自然環境にとても恵まれた、奈良県特有の魅力を活かした医療・介護関係産業などにおける最近の動きを、県経済活性化のヒントの一例として挙げる発言や、豊富な観光資源をさらにアピールしてアジアなど新興国からの観光客をもっと取り込んでいきたいといった前向きな声も、尐なからず聞かれたところです。

§3

現在、当県では、県政の指針となる長期ビジョン「やまと 21 世紀ビジョン」の下、産業、雇用、交通、観光の振興に官民挙げて取り組まれていると聞いています。また、産・官・学が連携した研究開発拠点として「関西文化学術研究都市」の整備が進められているとも伺っています。このほか、観光に関しては、昨年の平城遷都1300年祭の成功に続き、「記紀・万葉プロジェクト」の下、奈良県の存在価値を内外に示すとともに、奈良県への観光客誘致も引き続き積極的に促進する取り組みが行なわれていると伺っています。こうした当地の皆様のご努力が、今後、より大きな実りへと繋がっていくよう、日本銀行としても、日本経済がデフレから脱却し、物価安定の下での持続的成長経路に復帰するために、包括的な金融緩和政策を通じた強力な金融緩和の推進、金融市場の安定確保、成長基盤強化の支援という 3つの措置を通じて、中央銀行としての貢献を粘り強く続けていく所存です。奈良県の経済は、大阪など近隣の大都市部に比べ、ペースは緩やかながらも、一般機械や電気機械を中心に持ち直しの動きがみられていましたが、震災後には、サプライチェーンの障害に伴う影響や、海外からのインバウンド観光の冷え込みといった影響もみられています。当地の産業構成は、第二次産業が 3 割弱、卸・小売が2 割弱、サービスが1 割強となっており、全国の産業構成とさほど変わりありません。

§4

このうち、製造業は、大手メーカーの工場を中心とした電気機械や一般機械のウエイトが高いほか、地場産業として、プラスチック・ゴム、繊維、木材・家具のウエイトが高いという特徴があります。このほか、伝統産業では、茶筌や墨、皮革製品が全国トップシェアを誇るほか、そうめん、金魚の養殖も有名です。観光については、昨年の平城遷都 1300年祭への来場者数は、64 万人にも上る海外からの旅行客を含め、約2,140 万人、メイン会場の平城京跡には198日間で 363 万人、各種イベントを実施していた県内各地には1,777万人と、いずれも事前予想を大幅に上回るなど、大成功であったと伺っています。しかし、足許では、震災の影響を受けて海外からのツアーが中止となるなど、厳しい状況となっているようです。この間、家計部門をみると、雇用・所得環境については、 4月の有効求人倍率が依然として 0.52 倍にとどまるなど、厳しい状況が続いています。個人消費は、こうした厳しい雇用・所得環境の中、震災の影響もあって、乗用車販売などで弱めの動きが続いています。また、住宅投資についても、振れを均してみれば、総じて弱めの動きが続いています。この間、公共投資も、県下地公体の財政状況が厳しい中、総じて減尐しています。

§5Question

2 点お伺いします。1 点目は米国経済に対する認識です。昨日のADPの雇用レポートを始め、冴えない指標が最近相次いでいます。一部で腰折れ懸念も浮上し、 QE3も必要ではないかとの観測が浮上しているようですが、最近の一連の経済指標を踏まえ、米国経済に対する認識をお聞かせ下さい。2 点目は為替相場についてです。米国での弱い経済指標を受けて若干円高が進んでいますが、一方では商品市況の上昇を反映して日本の物価は上がり気味で、それに対しては円高が望ましいとの意見もあるかと思います。こうした環境下で 80 円台前半を行ったり来たりしている最近の為替相場について、今後の日本経済の復興を目指す上で望ましい水準なのかどうか、認識をお聞かせ下さい。

§6

まず米国経済についてです。米国経済は回復を続けていますが、足許は、成長テンポにやや減速感がみられます。既往の原油価格の上昇を受け、家計の実質的な購買力が下押しされる中、小売売上高や自動車販売の増勢は鈍化しています。また、生産面をみると、日本の震災に伴うサプライチェーン障害の影響から、自動車が一時的に減産を余儀なくされる中、全体の増加ペースも足許鈍化しています。急ピッチで上昇してきた原油価格が 5月入り後、反落しているほか、サプライチェーン障害の影響も一時的であることを踏まえると、足許の減速要因はいずれ剥落し、米国の成長ペースは下期に向けて持ち直していくとみられます。緩和的な金融環境の持続や新興国向けを中心とする輸出の増加などが、米国経済の回復を支えていくと考えられます。もっとも、米国経済の先行き見通しに関しては、不確実性は依然高く、雇用環境をみると雇用者数の増加が続いているものの、過去の景気回復局面に比べ改善テンポは緩やかです。失業率もまだ高水準で推移しています。原油価格をはじめとする国際商品市況の動向は不透明であり、再び上昇することになれば、原油の純輸入国である米国の所得形成力を弱め、民間部門の支出を下押しするリスクがあります。また、かねてから指摘されているように「家計のバランスシート問題」が、景気回復の重石となって作用し続けていることも気懸りです。

§7

昨年いったん下げ止まったかにみえた住宅価格は再び軟化しており、家計債務の過剰感はなかなか払拭されないと思います。家計の住宅購入需要も弱い動きが続いており、住宅投資の回復は当面期待しがたいように思われます。住宅市場の調整圧力は、実体経済と金融面の双方に対して、引き続き下振れリスクとなるのではないかと懸念されます。次に、為替についてですが、為替の水準については、コメントすることを差し控えさせて頂きます。ただ、為替の円高の問題はマイナス面もありますが、一方で商品市況が高騰している場合などにはプラスの面があるわけですから、両面からみていく必要があると思います。いずれにしても最終的には経済の実態を表すということが望ましく、やはり乱高下は好ましくないので、できる限り安定して推移することが望ましいと思っています。

§8Question

成長基盤強化の貸出制度が先日の入札で 3 兆円の枠がほぼ埋まるかたちになったかと思います。そこで、この制度のこれまでの効果をどのように評価されているのか、また、今後さらに増額や震災向けの工夫といったものが必要になってくるのか、あるいは制度の役割は終わっているのか、その辺の見解をお聞かせ下さい。

§9

日本銀行では、成長基盤強化を支援するための資金供給の第4 回目として、6月8日に 126 先に対して総額 8,296 億円の貸付けを実施する予定です。今回の資金供給では、地域金融機関向けが一段と増加しており、業態や地域の面でさらに拡がりがみられます。また、個別投融資については、引き続き、日本銀行が例示した 18 分野のほか、地場産業への取り組みなどもみられます。このほか、各金融機関が取組方針において設定した投融資枠の合計額は8.4 兆円になります。また、本資金供給の上限である3 兆円を大幅に上回っているほか、個別投融資の平均期間も6.6年と、本資金供給の貸付期間の上限である 4年を上回っています。このように、幅広い金融機関が、自らの顧客基盤や地域性などの特性に応じて、成長基盤強化のための多種多様な金融面からの取り組みを活発化させており、本資金供給は、狙いとした「呼び水」効果を発揮していると思っています。本資金供給については、今回の貸付けの実施により、貸付総額の上限である3 兆円にほぼ達することになります。今後の取扱いについては、成長基盤強化の重要性の観点や、本行からの融資額を積み上げることではなく、民間金融機関による取り組みを後押しするという本措置の狙い等を踏まえつつ、金融機関等による取り組み状況を見極めたうえで、慎重に検討していきたいと思っています。

§10Question

午前中の挨拶では、震災により、経済の先行きは不透明感が強く、上振れ下振れ両方向でリスクがあるものの、生産面や消費者マインドなど、足許、多尐改善しているものも見受けられるとのことでした。一方、前回の政策決定会合では下振れリスクに注視するとおっしゃっていたと思います。特に、ここ数週間で公表されたデータによって確認できた部分があるかどうか教えて下さい。

§11

まだ、指標が多く揃っているわけではありませんが、生産面では、自動車を中心とするサプライチェーンの回復について、各社の情報からみると、当初の想定よりも早まっているように思います。また、消費についても、小売などはかなり戻っているように感じられます。一方で、観光をはじめとするサービスについては、回復はまだまだ弱い状況です。また、下振れリスクとして、原発問題などの不透明な部分が大きいことから、改善している部分はあるものの、全体として明るさが強くなったとはまだ言えない状況にあると思っています。

§12Question

財政再建について午前中の挨拶では、市場の信認が維持されている間に取り組みをしっかり進めることが重要と指摘されていますが、最近、日本国債については、格付会社が格付けを引き下げる方向で見直すとの話が聞かれるなど、マーケットにおける見方が厳しくなっていると思います。このような日本国債に対する見方も含めて、財政再建への取り組みについての考え方をお伺いします。

§13

財政再建については、米国でも争点となっているほか、欧州でもギリシャ等の財政再建問題を抱えているわけですが、わが国においてはもっと大きな問題であると認識しています。こうした中、日本国債に対しては市場の信認が維持されており、金利が低いことから、財政にとって大きな金利負担になっていませんが、ある意味では課題が先送りされているように思います。ただ、日本国債に対する信認がすぐさま無くなることは考えられませんし、今回の震災の復興財源についても、どのような形で調達されるかは分かりませんが、国債が増発された場合でも、市場で十分に消化できると思われます。しかしながら、財政問題は時が経つに従って、傷が深くなっていきますし、市場が信認を与えているうちに財政再建の道筋をつけておかないと、ある日突然、市場からバッシングを受ける可能性もありますので、金利が低いから良いとするべきではないと思います。午前中の挨拶でも申しましたが、財政問題は短時間で解決できるものではないので、個人的には、市場の信認がある間に財政再建の道筋をつける必要があるとの危機感を持っています。

§14Question

成長基盤強化を支援するための資金供給について、先程、日本銀行からの融資額の積み上げではなく、金融機関による取り組みを後押しするという話でしたが、中村審議委員としては枠の増額に対しては積極的ではないということでしょうか。

§15

やや慎重に考えたいということです。先程お答えした通り、この制度は、導入した当初から転貸資金ではなく、あくまでも基本は民間金融機関が金融仲介機能を発揮していくための呼び水です。この制度が、日本銀行がお金を出し続けなければ成り立たない制度だとすると、制度としてどこかおかしな部分があるということになるのではないかと思っています。もちろん成長基盤の強化は大事なことですから、引き続き支援していかなければならないわけですが、この制度が当初意図した形で機能しているのかを検証し、制度自体に問題があるとすれば、むしろその点を見直さなければならないということであり、そういったことを含めてトータルで考えていく必要があると思います。当初、導入した趣旨から考えても、単に枠が一杯になったから増額するということにはならないし、そういう制度ではありません。私としても、この制度の延長について全く反対ということではありませんが、日本経済を成長させるという目的に資するのかどうかという点をきちんと検証する必要があると思います。現時点で、第4 回の内容等詳細について確認できていないので良く検討してみる必要があると思いますが、一方で、枠が一杯になっているということも事実なので、時間的な余裕がないことも認識しています。

§16Question

成長基盤強化を支援するための資金供給について、日本銀行の議事要旨をみると副作用を指摘している審議委員もいらっしゃるが、中村審議委員は副作用についてどのようにお考えでしょうか。また、同じく議事要旨の中に複数の審議委員から成長基盤強化の貸出を震災の支援等と絡ませるという発言もみられますが、中村審議委員はこの点をどのようにお考えでしょうか。

§17

この制度の副作用についてですが、一部の金融機関からは金利の引き下げ競争を刺激しているとか、単に転貸のために使用されているといった指摘が聞かれています。本制度の趣旨は、基本的には民間金融機関の自主的な取り組みを支援するということであり、これを歪めているのであれば、好ましくないし、目的にも合致しません。こうした副作用については、本制度を継続するにしてもどのように排除していくのかをしっかりと考えていく必要があります。震災の問題については、既に被災地の金融機関に対する支援という形で対応策を打ち出していますが、復興復旧資金については、こうした活動が緒に付いたばかりであり、具体的にどのような形で資金需要が出てくるのかについては、今後の問題だと思います。また、現時点では、民間金融機関の対応や国の財政支援の内容が明確になっていないため、もう尐し様子をみる必要があります。このため、単純にこれを右から左に持ってくることには無理があると思っています。

§18Question

本日の国会では、内閣不信任決議案が提出されて採決されるようです。最近、市場の中でも政治の不安定さを懸念する声がよく聞かれますが、これが経済や市場に与える影響についてお聞かせ下さい。

§19

政治についてコメントするのは差し控えさせて頂きたいと思います。しかし、未だに、10 万人を超える人達が避難所生活を強いられ、東日本大震災の対応や福島原発事故の収拾が必要な時期に、国政の機能が中断するということは許されないことであり、私としては1日も早く混乱が収拾し、国会において今回の国難に取り組める体制が構築されることを期待しています。

§20Question

先程、国債増発となっても市場で消化できるということでしたが、復興財源として国債を発行することになっても、市場で問題無く消化できるということでしょうか。

§21

規模とタイミングによると思いますし、発行後の財政的な裏付けがどういう形で明示されるかということにもよると思います。資金の需給から言えば、国債が増発されても、ある程度は市場で消化する余裕があると思います。ただ、財政面での裏付け等がないままですと、市場から反発が出ることも懸念されます。以上